生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
いや、風というには
『グオァァァ!!?』
ヘルハウンドの群れ。
その先陣を行く一頭は、断末魔の絶叫をあげると、身体中から大量の血飛沫をあげ、爆裂する。
《鎌鼬》。
極東の民間伝承で存在する怪物で、何の前触れもなく風が吹き、気づいた時には鋭利な刃物で付けられたかのような傷がついている。
しかし、それによる痛みはなく、かつ出血もしないというらしい。
場所によっては、鎌鼬は三種の怪物であり、一体目が人を倒し、二体目が刃で斬りつけ、三体目が傷の治療をしている。
故に痛みはなく、出血もないと、そう言われている。
しかし、それなら今吹いたのは、鎌鼬と言えるのだろうか。
鎌鼬であれば、それは傷がつくにしろ、出血はありない。
それが起きているということは、それよりももっと質の悪い存在であるのだろうか。
ここはダンジョンの中層第16階層であるのだが、本来そこは風が吹くような場所ではない。
この階層の性質上、風が自然的に吹くことはありえないのである。
《
かつて、その二つ名で呼ばれた冒険者がいた。
「退きなさい!」
斬風というべきか、それは多数いるヘルハウンドの群れを容赦なく斬り刻み、殺していく。
今度は絶叫の暇もなく、である。
「......撃ち抜く!」
更にその背後から、高速の矢が飛来する。
一本ではない。
確認出来るヘルハウンドの群れの数ちょうどの矢が、頭部を正確に撃ち抜いていく。
貫通し、頭蓋が砕け散ると、その頭部が何かが蒸発する音を立てながら、溶解していく。
弓を射った女性は《
彼女は薬品を作り出すことに関してはオラリオ最高峰とされる薬師である。 そんな彼女がモンスターに対し使用したのは、希少金属《アダマンタイト》以外全てを溶かし尽くす《レギア》という劇薬であり、それを
「爆ぜなさいっ!」
通路を抜けると、大広間へと出た。
瞬間、何かの溶液が入った瓶が投げ入れられ、爆炎と爆風がその部屋を包み込んだ。
最早何のモンスターが居たのからすらも分からない。
死骸も残らず消滅してしまったからだ。
それを投げ入れたのは《
彼女は
今使用されたのは、
「......え、えぇぇ」
そんな光景を、後ろからヘスティアはドン引きと言った表情で見ていた。
目の前で起きている乙女の大量虐殺劇を見て、血の気が引いていた彼女ではあったが、余りにも早い速度でモンスター達が消えていくので、そんな感情も消え始めていた。
人間の恐ろしさというものを神が改めて知った瞬間であった。
「はははははっ! いやぁ、殺気立ってるなぁ、彼女達! 流石、ベルだなぁ! はははははっ!」
ヘスティアの横ではチロリアンハットを被った軽薄そうな優男______ヘルメスが笑っていた。
目の前の惨状をヘスティアとは対称的に、"最高に面白い"光景と認識している彼は、周囲をドン引きさせるもう一つの要因にもなっていた。
「俺らとは次元が違い過ぎる......」
「私達が入る隙すらありませんね......」
「というか、入ったら、死んじゃいそう......」
桜花、命、千草の三人は圧倒的畏怖の感情を抱き、その光景を見ていた。
レベル差もあるが、それだけではこれ程までに彼女達の動きは研ぎ澄まされない。
彼女達は一切無駄なことをせずに目の前の敵を滅していっている。
つまりはそれ程に、彼女達はベル・クラネルという冒険者のことを心配し、大事に思っているのだろう。
現に今のパーティを組む際に、真っ先に《銀腕の薬師》と《万能者》は手を挙げ、参戦すると言った。
しかし、彼女達は互いに忌々しいものでも見たかのような顔をして睨みあっていたが。
更にヘルメスが助っ人として連れてきた謎のエルフの女性も、話を聞いた途端、タケミカヅチ・ファミリアの面々に恐ろしいまでの殺気を向け、次の瞬間にはパーティ入りを許諾していた。
ちなみにであるが、その面々が揃った瞬間、この場にはありえない程の悪寒が走ったという。
主にヘスティアとタケミカヅチ・ファミリアの面々がそれの被害者である。
やっぱり女性は怖いなぁと、ヘルメスは笑っていたが。
「......ヘルメス。ありがとう、力を貸してくれて」
「気にしないでくれよ。僕らは神友だろう? なら、助けるのは当然のことさ」
ヘルメスはいつもにこにこと笑っている。
何を考えているか、読み取ることの出来ないその表情は、いつもヘスティアを困らせるベルのものとそっくりであった。
考えれば、ヘルメスが
ヘスティアはヘルメスに感謝の念をひたすら送ることしか出来なかった。
故に、常日頃ヘルメスから感じている胡散臭さを彼女は今この時だけは心の奥底にしまって置くことにしたのだ。
『失せなさい(失せて)!』
只、目の前の怒れる乙女達の蹂躙はやはり恐ろしいものであったが。
ピキリッ。
そう、ベルの耳にその音は届いた。
明らかにそれは亀裂音であり、勿論ベルの持つ武器、《クニークルス》から聞こえたものであった。
「はあっ!!!」
ティオナの《大双刃》と斬り結んだ瞬間に、ベルは直ぐ様《クニークルス》での交戦を避け、後方へと下がった。
しかし、彼女は第一級冒険者である。
すぐに踏み込むと、ベルとの距離を詰め、斬りかかってきたのだ。
「ちょっと! 一回、落ち着いてくださ______」
「おらーっ!!」
どうやら彼女の耳には届かないらしい。
既に彼女はベルを倒すことしか頭に無くなっているのだろう、その瞳はベルしか見ていなかった。
熱烈な視線にベルは苦笑するしかない。
「(でも、これは間違いなく......)」
あの時。
ガレスの攻撃を受け止めた際の付けが今回ってきたのだろう。
逆にあの攻撃に対し、よく耐えたものだとベルは感心していたのだが、やはり限界は来ていたらしい。
買ってまだ一週間も経っていないのにと、ベルは少し泣きそうになってしまっていた。
しかし、そんなことをしている暇もなく、ベルは目の前に殺到するティオナの《大双刃》を避け続ける。
無論、当たればどうなるかなど言わずもがなである。
《クニークルス》は既に破損寸前。
それで迎え撃てば、《クニークルス》は無惨に砕け散ってしまうだろう。
故に、ベルは
《大双刃》の横振りをしゃがみこむことで回避すると、ベルはそのまま足払いを実行し、軸となっている右足を払い抜く。
「......甘いっ!」
そんな行動お見通しだと、ティオナは足払いを
流石に甘過ぎたかと、ベルは内心反省していた。
相手はLv:5の冒険者。
この程度の攻撃が通るようなら、ダンジョンの下層では生き延びることは出来ないだろう。
「......っと!」
ティオナの縦振りの一撃が振り下ろされ、ベルはそれを危なげなく横へ回避した。
地面が砕け散る音がし、ベルは先程まで自分が居たところを見ると、そこは巨人が何かを踏み抜いたかのように陥没していた。
パワーファイターというのは前のミノタウロスの群れを殲滅させた際に分かってはいたことだが、改めてティオナの力を理解出来た。
「......流石の
「うぅ......何か全然嬉しくない!」
凄い力持ちなんですねと言われて嬉しいと思う女性は、果たして何れ程いるのだろうか。
その中でも異性、更に自分の意中の相手にそれを言われてしまえば、どんな気持ちになるかは言うまでもないだろう。
今のティオナの心中は酷く複雑であった。
まあ、今回に関してベルは一欠片の悪意もないのではあるが。
純度100%の称賛である。
「でも、これは......」
不味い、そう漏れそうになるベル。
フィンの掲げたルールによれば、武器は一つというのがあった。
これにより、必然的に砕けかけている《クニークルス》を使い続けるしかない。
せめて、予備の
無論、ヴェルフから受け取った
更にもう一つ、
ベルが全力を出すには
しかし、ルールにより、
まあ、今、ベルがティオナを殺すようなことはないのではあるが。
「......純粋な筋力じゃ勝ち目は無い。なら_______」
ベルは、しゃがみこんだまま、右足で思い切り地面を蹴り、
「......っ! 速い!」
ティオナがそう気付いた時には既にベルは彼女の懐に迫っていた。
それはLv:5の冒険者であろうと例外ではない。
「......先ずは一撃」
ベルの右手には《クニークルス》は握られていない。
掌底。
それを彼女の左肩へ打ち込んだ。
「ぐっ......!」
内部浸透する打撃だ。
例え、ステイタスに差があろうとも少しはダメージは通るだろう。
故に、ベルはこの
ベルの一撃を受け、一瞬ふらつくティオナ。
距離を空けてしまえば、攻撃範囲の広い《大双刃》が厄介になってしまう。
ベルはティオナと密接するように、そのまま前へ踏み込む。
「続いて、弐撃」
再度、ベルの掌底が今度はティオナの右肩を打ち抜いた。
ズシリと、ティオナの肩内部に重い衝撃が浸透する。
それはティオナの想像を越える
「結び、
続く第三の一撃は彼女の腹部へと突き刺さった。
踏み込みの動作から流れるようにして放たれたベルの掌底。
一見、そこまで鋭くは見えないベルの一撃であったが、
「終いに、
ベルの掌底は、ティオナの胸部中央へと炸裂した。
「がはっ......!?」
おおよそ、女性があげるべき声ではない声をあげ、ティオナは十数M程
彼女の身体はそのまま周囲の観客目掛けて突っ込もうとするが。
「おっと。......大丈夫か?」
それを受け止めたのは、ガレスであった。
完全に酔いが覚めたのだろうか。
その表情は仲間を純粋に心配していた。
かなりの衝撃で吹き飛ばされたティオナ、それを受け止める方もかなりの衝撃を受けるはずなのだが、ガレスは1MM足りともその場から動いていなかった。
「っつつ......! 大丈、夫っ!!」
ティオナは受け止めてくれたガレスを振り払うと、地面を蹴り、ベルの元へ速攻をかける。
しかし、その動きを見るにまだベルの攻撃の余波が残っているらしく、足運び等に違和感があった。
「......流石、Lv:5冒険者です。
ベルは笑っていた。
どうしてこうなってしまったのかという、感情は一切消えてしまっている。
あるのは戦闘を楽しむこと、それだけであった。
右腕を前へ突き出し、くの字に曲げると上へ向け、左腕は自身の顔を守るように横に構える。
「......でも、次は立たせません」
今の自分にとって、最速最強の一撃を叩き込む。
「嘘、でしょ......?」
レフィーヤは目の前のこの光景に驚きを隠せないでいた。
いや、驚きを隠せないでいたのは彼女だけではなかったのだが。
Lv:5冒険者であるティオナとLv:2冒険者であるベルの戦い。
本来それは、ティオナの只圧倒的な蹂躙に他ならないものになるはずであったのだが。
「何で、ティオナさんを圧してるの......?」
二人の戦い、それは自身の肉体を武器とした肉体戦と化していた。
ティオナは途中、《大双刃》では戦いの邪魔になると放り投げ、格闘に移項した。
アマゾネスは戦闘に特化した種族であり、勿論格闘戦にも優れている。
それはティオナも例外ではなく、格闘戦のみで言えばファミリア内でも五本の指に入る程だ。
そんなティオナがだ。
一方的に攻撃を喰らっているのだ。
ベルは最速で打撃を入れつつ、攻撃を全て回避するということをやってのけており、その証拠にベルとティオナ、傷があるのは後者だけであった。
端から見れば、それは間違いなくティオナが圧されていることを示していた。
ベルのステイタスとティオナのステイタス、それはレベル差から圧倒的な差があるというのは誰にでも分かることだ。
しかし、そんなステイタス差をものともせず、ベルはティオナを翻弄してるのだ。
レフィーヤの頭は追い付かない。
「かなり
「そうね。それにティオナの動きも......」
「あの馬鹿ゾネス......」
アイズ、ティオネ、ベートの三人は彼らの戦いを見て、心中何かを察していた。
共通しているのは、三人とも表情が少し重いものであったということだ。
ティオナとベル。
両者が戦う場合、もし応援するとしたら間違いなく仲間であるティオナなのは間違いない。
あのベートですら、ティオナの方につくだろう。
まあ、それに関しては他にも理由はあったりするのだが。
もう一度言うが、この戦いはそもそも成り立つはずがないものである。
レベルが一つ違うだけ、ステイタスには大きな差が出来てしまう。
それはレベルが高くなればなるほど、顕著になる。
基本的にLv:1がLv:2の冒険者に勝つことは出来ないのが常識なのだ。
それが、どうだろうか。
レベル差が"3"もある両者ではあるが、そこに力の差は果たして生まれているだろうか。
「凄いです! 凄いです! 流石、リリのベル様です!」
「はっ! 馬鹿だなぁ、リリ助。旦那ならこのくらい当然だろうが! てか、旦那が負けるところなんざ、想像出来ねえわ!」
一方、リリルカとヴェルフであったが、その表情は喜色に溢れていた。
それも当たり前ではあった。
そんな存在がこんなところで負けるわけもないと当然のように思っていた。
そして、ベルならLv:5の冒険者であろうと倒してみせると。
二人には
「ガハハハハッ!! あの時に既に確信してはいたが、それを遥かに越えていったわ! ベルめ、
それを見たガレスは笑う。
それは
ガレスだけではない。
同じくそれを喜ぶものもいた。
「レベル差なんて関係無しか......まあ、それが
フィン・ディムナ。
彼はこの中でもっともベルに近い存在である。
いや、ベルがフィンに近い存在なのかもしれないが。
だからこそ、理解出来る何かがあるのだろう。
フィンは笑みを堪えられなかった。
「おい、フィン。あれは......」
「ああ、そうだね。少なくともあれは魔力ではないね」
まあ、そんなことリヴェリアが分からないはずもないよねと、フィンは続けた。
都市最強の魔法使いと呼ばれているのがリヴェリアである。
こと魔法という分野において、彼女を越える力を持つものはいないし、知識においてもそれは同じだ。
故に今、ベルが行っている技術を魔力由来のものではないと、彼女は一番に理解出来ていた。
「あの体術、
あのティオナを、Lv:2の冒険者が当て身を入れただけで、あんなに吹き飛ばせるわけがない。
とすれば、それは膂力によるものではなく、技術によるものになる。
そして、ティオナの攻撃がベルに一切当たらないという有り様。
これは彼女が手加減をしているというわけではない。
本当に当たらないのだ。
無論、彼女は本気で戦っている。
自身が好意を寄せる相手には傷付いて欲しくないと思うものは殆どだろう。
それはティオナとて例外ではない。
だが、好きな相手だからこそ、本気で行くのがティオナだ。
その本気の攻撃が一切通じない。
それはレベル差から見れば異常のなにものでもなかった。
ガレスの言う通り、未来が見えているのではないかと疑ってしまうだろう。
しかし、この場において、ベルのその力の真意を知るものは誰一人としていなかった。
深淵の叡智を持つとされるフィンでさえ。
「そろそろ決着も着きそうだ。......ああ、うん。ティオナ
態とらしくそう言うフィンを、リヴェリアは溜め息を吐くと睨み付けた。
怖い怖いと、全く思ってなさそうなことを言いながらフィンは笑っている。
昔から何も変わらないな、そう思いつつ、視線をベル達へ戻すリヴェリア。
彼曰く、戦いは既に終息へと向かっているらしい。
そんなこと言われなくとも分かっている。
この勝負は_______
リヴェリアは母親のような表情で彼らを見つめていた。
どうして。
「はあっ!!!」
どうして。
「......当たりませんよ」
どうして。
「っ......! このっ......!」
「おっと______そこ、がら空きですよ?」
どうして、当たらない。
いや、当てられない。
彼女の思考はそれに全てを埋め尽くされていた。
「ぐっ......!!」
ベルの右腕鉄槌打ちが炸裂し、崩れるようにその場に片膝をつくティオナ。
寸でのところで右腕を差し込み、それを防御したものの、ダメージは大きく既に右腕は使い物にならなかった。
「大丈夫ですか? ティオナ。もう止めますか?」
ベルはティオナを見下ろすようにして、そう言った。
ロキ・ファミリア内において高レベル同士の模擬戦のルールの一つとして、やり過ぎないことというものがある。
それは互いに全力を出した結果、周囲に甚大な被害を催す可能性を加味してのことだった。
しかし、それさえ守れる範囲であれば全力を出してもいいことになる。
オラリオでも最高峰のファミリアであるロキ・ファミリアは、団員の面でも凄いが金銭の面でも凄い。
故に、高等回復薬である
現在のこの戦闘は、周囲に甚大な被害を及ぼすレベルではない格闘戦であったため、特に戦闘を止められることはなく続けられている。
今回の遠征においても万能薬は勿論持ってきてあり、それを使う場面もなかったため、ストックも余りがあった。
「ま、だっ......! いけるっ!!」
そう言って立ち上がろうとするティオナ。
しかし、それはすぐに崩れ落ちてしまう。
「な、んで......?」
身体に力が入らず、足がそれ以上上がらない。
不自然に身体が言うことを聞かないのである。
「簡単なことです。"点穴"を行っただけですよ」
「点、穴......?」
「ええ。先程からティオナの身体の"経穴"の内、身体駆動に関するものを突かせてもらいました。流石にLv:5。中々効果の発動までに時間がかかってしまいましたが。見る限り、その状態を保つのもやっとと言ったところでしょうか」
聞き慣れない単語を聞いて、ティオナは疑問符を浮かべる______余裕もない。
全身を襲う麻痺の感覚に、ティオナはベルの話を聞くのもままならなくなってきている。
「純粋な格闘戦になれば、防衛戦に徹すれば負けることはないと思いますが、それでも勝つことは出来ません。だから、このような方法を取らざるを得ませんでした。本当は
ベルはそう言って、首に手を当てるとそのまま横に、音を鳴らした。
骨の音がその場に響く。
「さあ、ティオナ。また同じ質問です。______もう止めますか?」
はっきりとベルはそう告げた。
既にベルの目に戦意は見えない。
いや、興味を失っているのかもしれない。
優しげな表情を浮かべるベルであったが、その実、何れ程の感情を伏せているのか。
それはベルしか分からない。
「......ま、だっ」
「無理ですよ。立てません。そう言う風に打ち込みましたから」
ティオナはその言葉を無視して、必死に立ち上がろうと、全身に力を込める。
「や、れっ______」
「だから、無理だと______」
「______るっっっ!!!」
瞬間、ティオナの咆哮と共に、
「......っ!?」
「はあぁぁぁぁっ!!!」
ティオナは
それに対し、咄嗟にベルは両腕を交差させ防御体勢を取るも、完全にその体勢に移項することが出来ない。
本来より遥かに
瞬間、ベルの脳内を
ザザザザッと、ベルの身体はその場から十数M程、地面を引き摺りながら後退する。
まるで巨大な獣に引き裂かれたような痕がそこには残っており、その拳が何れ程の威力なのかを想像させた。
「............っ」
だが、ベルはその一撃で吹き飛ばされてはいなかった。
決して倒れず、先物いた場所から遥か後方に立っている。
「う、そっ......?」
あの拳を喰らい、立っていること違いまずおかしい。
いや、あれを喰らって
ティオナの放った拳は
「......素晴らしいです」
ベルの表情はよく見えない。
うっすら見える口許が、微かに三日月のように開いている。
笑っている。
そう、彼は笑っていた。
「久し振りです。死を覚悟したのは。......はははっ」
遂には笑みが零れ、その感情を隠しきれなくなる。
相対しているティオナにしか分からない程のものではあったが、ベルからは喜色の感情が溢れていた。
「......最高の一撃でした。これ程のものはそう見れるものではないです。本当に素晴らしいです。だから______返礼をさせて貰いますね」
ティオナ。
そう名前を呼ぶと、次の瞬間には彼女の目の前にベルは現れた。
いや、最初からいたと錯覚させる程に、感知が不可能な速さであった。
「《
そして、今度こそ、ティオナは動かなくなった。
死んでないよ(真顔)
ちなみにベルはYAMA育ちなんで、仕方ないよネ。