生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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#45

 取り合えず、朝食はもう少し落ち着いて食べたいなと、ベルはそんなことを思っていた。

 

 

 

「どうぞ。焼きたてのパンです」

 

「ありがとうございます。朝からパンを焼くなんて、マメというか。......ところで、ダンジョンなのに窯なんてあるんですね」

 

「えっとですね。そこらにある石を組み合わせて作ったんですよ。結構簡単に作れますし。それにパン生地は昨日予め作ってたのを焼いただけですから」

 

「それでも、手間が掛かってるじゃないですか。凄いと想いますよ。それに......うん、このパンとても美味しいです」

 

「あ......えへへっ。これでもロキ・ファミリアの食事係りですからっ!」

 

「おい、スープもあるぞ! これ、昨日よりも気合い入れて作ったから! めちゃ美味いから!」

 

「ありがとうございます。......あ、もしかして昨日のスープって貴女が作ったんですか? とても美味しくて、ビックリしましたよ。僕も料理はするんですけど、あんなに美味しいスープを飲んだのは初めてですよ」

 

「そ、そんな言われると照れるなぁ......あ、良かったら、こ、今度作り方教えてやるけど......」

 

「え、本当ですか? ありがとうございます。それなら僕も秘蔵レシピを公開しちゃいますね」

 

「おい! ちょっと、待てっ! あれは私達で考えたレシピだろう! それを勝手に教えるなんて......!」

 

「例えばですね、山菜のパスタとか考えたんですけど、結構美味しいんですよ、これが」

 

『何いっ!? パスタだとうっ!?』

 

「うおうっ! すごい食いつき......」

 

「......あはははは。気にしないでくださいね」

 

 

 

 一体どういう状況なのだろうか。

 

 

 

 現在、()は登り、朝食の時間となっていた。

 場所は昨夜と同じあの広場である。

 朝食は一日の活力とも言える重要なものだ。

 近年、朝食を取れない冒険者が増加しており、それによりダンジョンで力が出せずにモンスターにやられてしまうことも増えてきているという。

 そんな問題に対し、ロキ・ファミリアとヘファイフトス・ファミリアはきちんと朝食を取るというのを徹底しているらしく、現在広場には全員が揃っていた。

 そこにはファミリアの一員ではないベルやリリルカも居るのだが、そこで少々問題が起きている。

 

 

 

「あ、あのぉ。べ、ベルさん。私、格闘戦メインで戦っているんですけど、今度戦い方をレクチャーして欲しいっていうか......」

 

「はあ。でも、僕そこまで教えられるわけじゃ......」

 

「いいえ、全然構いません! ......むしろ一緒に居てくれるだけでいいというか」

 

「くっ......魔法メインなのが、ここで仇になるなんて......!」

 

「でもでも、もしもの時の護身用の為に教えて貰いたいって言えば......」

 

「その手があったか......! サポーターの私にもチャンスが!」

 

「......ねえ、ベルさん。今度、どこか遊びに行きませんか? 私達、遊べるところ結構知ってるんですよ?」

 

「へぇ、そうなんですか? 僕、あんまり遊び場を知らなくて。それなら今度、是非」

 

「ええ! 普通に遊べるところや夜の遊び場まで、完全網羅していますので!」

 

 

 

 現在、ベルは多数の女性冒険者に囲まれ______いや、包囲されていた。

 ヒューマンやアマゾネス、ドワーフ、エルフなど様々な人種が入り乱れているが、彼女達の共通点として、皆のベルへ送る視線にはある種の熱(・・・・・)が籠っている。

 無論、その種類も色々あるのであるが、大半が同じものであった。

 

 

 

「......むうぅぅぅぅ!!!」

 

「おい、リリ助。マジで栗鼠みたいになってんぞって、まあ、仕方ねえか......」

 

「ベル、何か凄いね......」

 

「え? 団長の方が格好良いけど」

 

「穢らわしい穢らわしい穢らわしい......」

 

「まあ、当人達が納得しているのなら、問題はないだろう」

 

「ははははっ。モテモテだなあ、クラネル君は」

 

「......うるせぇな」

 

「朝から面白いものが見れたわい!」

 

『リア充死ねっ!!』

 

 

 

 その光景を眺めるベルのパーティメンバーにロキ・ファミリアの幹部達、そしてその他の男性冒険者は思い思いの言葉を投げ掛ける。

 あの戦いから、既に一夜が明けている。

 ベルとティオナの戦いは格下と格上のものとは思えない程のレベルで、見たもの全てを圧倒していた。

 そして、その戦いの結末はまさかの格下(ベル)が勝利を飾るという信じられない結末であった。

 その、本来勝てない筈の格上を格下が倒すという番狂わせに、彼女達は魅せられてしまっていたのだ。

 それ故に、ロキ・ファミリアやヘファイフトス・ファミリアの女性陣達のベルへの感情は大きく変化していた。

 アマゾネスという種族は元来強いものに惹かれるという性質があるのだが、それは冒険者となった女性(・・・・・・・・・)も比較的、同じものと言える。

 その理由としては、ステイタスの付与によって、彼女達自身そこらの男よりも強くなってしまうためである。

 いざ、付き合い始めてみたものの、一緒にダンジョンに潜った際に、逃げ惑う男の姿を見て幻滅したり、結婚してからダンジョンに潜って同じような光景を見て離婚を決意する女性も少なくない。

 相手の想像を越える駄目なところを見て無理と感じることは女性も男性も同じではあるのだが、ダンジョンが原因で別れる離婚する原因になるのは男性の方が多かったりする。

 一般的に《ダンジョン離婚》などと、それは呼ばれているが、現在ではそれは死語になりつつある。

 そんな事例もあってか、柔な男ではなく真に強い男の冒険者が目の前に現れれば魅力的に思うのは当然であった。

 しかも話してみれば、その柔らかい物腰と雰囲気に女性は更に魅せられてしまい、つい最近破局してしまった女性冒険者はかなり強く惹かれてしまっている。

 つまりは、ベル・クラネルという男性冒険者に惚れてしまった女性冒険者が彼に群がっているというのが現在の状況であった。

 その人数は軽く二十人を越えており、未だに増え続けている。

 朝っぱらから積極的にも程があるが、女性冒険者には肉食系が多いと言われているので、そこはあまり疑問はなかった。

 まあ、流石に朝から盛る(・・)のはどうかと思われるが。

「あ、飲み物が無く______」

『はい、どうぞ!』

「ああ、どうも......」

 女性陣に一斉に差し出される大量のフルーツジュースにベルは流石に目が点になってしまっていた。

 ちなみにフルーツジュースはとても美味しいのだが、こんなに飲んでしまえば胃がどうなってしまうかは言わずもがなである。

「......それはリリの役目なのにそれはリリの役目なのにそれはリリの役目なのに」

 虚ろな表情で同じ言葉を繰り返すリリルカの手には、ベルに差し出すはずであったフルーツジュースがあった。

 まあ、群れる女性陣のせいで隣に陣取ることが出来ないでいたので、渡せる可能性はほぼゼロに等しかったが。

「お、おう......リリ助。痛ましいぜ......」

 ヴェルフは流石に可哀想だと思いつつも、慰め言葉をかけようと思ったが、思いつかなったので何も言わなかった。

 まあ、言ったところでその慰めが通用するとは思えなかったが。

 取り合えず、そのフルーツジュースはヴェルフが飲むことになり、ジュースを持って虚ろな表情で同じ言葉を繰り返す少女は居なくなった。

 その代わり何も持たずとも虚ろな表情で同じ言葉を繰り返す少女は居たが。

「ていうか、流石に露骨にも程があるっていうか、ちょろ過ぎるでしょ......」

 あーやだやだと、ティオネは彼女達に少し呆れた視線を送る。

 しかし、逆に現在進行形でフィンに対してちょろインのお前が言うなと、周囲から呆れた視線を送られていた。

 ちなみにフィンは特に反応していない。

「......でも、ベル、本当に強かった」

「ちょっ、アイズさん!?」

 アイズのまるで彼女達に賛同するような言葉に、レフィーヤが即座に反応していた。

 いや、確かにあのティオナを倒したのは彼女自身凄いと思っていたし、戦いにレベル差なんて関係ないということを証明してくれたし、戦いが終わった後に気絶したティオナを抱き上げ、運んで来たときはとても優しげな表情を浮かべており、ちょっと格好いいなと思ってしまいもしたが、別にレフィーヤはベルのことは好きでも何でもない。

 むしろ嫌いであり、彼はアイズに迫る危険な男性冒険者筆頭なのだ。

 故にアイズの発言を見逃せるわけもない。

「ちっ......」

 そして、此処にもアイズの発言を聞き、舌打ちをする狼人が居た。

 彼がアイズに好意を抱いていることはほぼ周知されているのだが、それを指摘するものは僅かしかいない。

 何故なら、殺されかねないからである。

 最近、アイズの興味が噂の《光を掲げる者》へ向かっており、それがかなりベートを苛つかせている原因になっていた。

 まあ、それはアイズだけではないのだが、ベートに他のものの興味対象は全く以てどうでもいいことであった。

 自身の好きな人が、他の相手のことをよく話しているのを聞いたらそれは心中穏やかではなくなってしまうだろう。

 ベート自身、ベル・クラネルという冒険者の実力は昨夜の戦いで否応にも理解出来ていた。

 あのベートが間違いなく強い(・・)と、認めざるを得ない程に。

 それも含めて、ベートの機嫌はかなり悪くなっていた。

「......ところで、その当のティオナさんはどうしたんすかね? こんなの見たらぶちギレそうっすけど」

 恐る恐る、そう口に出したのは、ロキ・ファミリア所属のラウル・ノールドであった。

 昨日、フィンにダンジョンでの功績を褒められ、ティオネに殺られそうになった彼であったが、ベルとティオナの戦いにより、うやむやになったことでベルへの好感度は何気に高かった。

 かなり、一方的ではあったが。

 そんな彼が、この場にティオナの姿がいないことを疑問に思い、恐る恐る口に出したのだが、瞬間ティオネはかなり微妙な表情を浮かべる。

「え、いや。だって、昨日の傷は万能薬(エリクサー)で完治したんすよね......? それなら何で此処にいないのかなって......」

 何か地雷を踏んでしまったのかと焦るラウルであったが、その通りであった。

「......あー、あの娘ね。確かに傷は完治してるわよ。一番酷かった右腕の骨折も問題ないし、もうモンスターと戦っても差し支えない程にね」

 だけどあの馬鹿、そうティオネは続けると深い溜め息を吐いた(・・・・・・・)

 しかし、その表情は同時に明るくも見えた。

「え、え? どういうことっすか?」

 全く理解出来ないと、頭上に疑問符を浮かべるラウル。

 それはこの場にいる他のもの達も同じであった。

「あー、ラウル。女性には色々あるんだよ」

 だからそれ以上は言及しちゃ駄目だと、見かねたフィンがフォローに入る。

 直感で理解したのだろうか。

 益々意味が分からないとラウルは戸惑うことになった。

「......え、ティオナさん。何かあったんですか?」

 レフィーヤはまさかあの男のせいでと、怒りの炎を燃やしそうになるが、すぐにそれは鎮火することになった。

「......あの娘ね」

 ティオネは重くなっているその口をどうにか開き、しかし嬉しそうにこう言った。

 

 

 

「......恋をした(・・・・)みたいなの」

 

 

 

 

「ティオナ、大丈夫?」

 怪我人用のテント。

 そこの簡易ベッドで横たわるティオナに、ティオネはそう呼び掛けた。

 あの戦いの後、気絶したティオナは当のベルによって、ここまで運ばれていたのだ。

「......」

 しかし、その当の彼女からは全く反応がなかった。

 毛布にくるまったまま、まるで冬眠中の動物のようである。

 担ぎ込まれ、直ぐ様万能薬を飲ませたため、既に傷は完治している。

 彼女であれば、もう歩き始め、そこらで三点倒立を決めても全くおかしくはなかった。

 それなのに、今の彼女はそんな様子を全く見せていない。

「......ベルと戦えるからって、気合い入りすぎよ。見てすぐ分かったわ」

 ティオネは軽く溜め息を吐くと、毛布から出てこないティオナへそう諭すように言った。

「まあ、あのベルの体術、あんたが動けなくなる程のものだったんでしょう? そこは初見だから仕方ないってところはあるでしょうけど、油断し過ぎ」

「......」

「それに、最後のあんたの一撃。あれはやり過ぎじゃないかしら。ベルのこと、殺す気だった(・・・・・・)でしょう?」

「......」

「でも、一撃もよく分からない防ぎ方(・・・・・・・・・・)された挙げ句に、無様に負かされて......」

 ティオネの駄目出しは続く。

 アマゾネスである彼女達は戦いにおいて一切の妥協はない。

 こうやって、相手関係なしに敗北してしまった場合、慰めや励ましではなく、来るのは駄目出しや説教であった。

 戦いに生きるアマゾネスという種族であるが故に、敗北とは本来(・・)自身の死を意味しており、それが今、ファミリアに所属しているとあれば、仲間の死も意味してしまうことにもなってしまう。

 例え、それが殺しを禁じた模擬戦形式のものだったとは言え、彼女にとって敗北に変わりはなかった。

「だから、さっさと起きな______」

 

 

 

「......気持ちよかったの」

 

 

 

「はっ......?」

 毛布から顔を半分出すティオナはぽつりとそう呟くように声を出した。

 思わずティオネは、間抜けな表情を浮かべ固まってしまう。

「......ベル君に、触れられた(攻撃された)ところがね、疼くの。熱くて熱くて、苦しいくらいに」

 目がとろんと朧気で、頬も赤く上気しているティオナ。

 息苦しそうに言う彼女に、ティオネはある既知感(・・・・・)を覚えた。

「......私、分かったの。幸せってこういうこと(・・・・・・)を言うんだなぁって」

 

 

 

______好きな人に傷つけられることが、こんなにも幸せなことだなんて。

 

 

 

 今まで生きてきた中で初めて彼女が実感出来た、自身の本性を理解するに至ったという証の言葉。

 《傷つけられたい》という彼女の底にあるもの(・・・・・・)が、溢れていた。

「......ねえ、ティオネ。私どうしよう。ベル君になら殺されてもいい______ううん。ベル君に無茶苦茶にされて死にたいなんて思えるようになっちゃった」

 今にも泣き出しそうな、しかし同時に嬉しそうな、そんな表情を浮かべ、ティオナは乞うようにそう言った。

「ティオナ......」

 どこか沈痛な面持ちのティオネ。

 困惑する妹に、自分はどう答えるべきか迷っているような、そんな表情だ。

 数瞬、考える様子を見せると、ティオネはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「それはアマゾネス()として当然の感情よ」

 

 

 

「えっ......」

 今度はティオナが間抜けな表情を浮かべることになった。

 まさか、肯定されるとは思ってもみないことだったのだ。

「私もアマゾネス()だもの。その気持ちは分かるわよ」

 彼女にはティオナの気持ちが痛いほどに(・・・・・)理解出来ていた。

 この世界で一番と言える程に好きな男がいる彼女にとって。

「私も団長になら何をされても良いと思ってるし、勿論死ねって言われたなら喜んで死ぬつもりよ。あんたはどう?」

「わ、私もベル君になら何されても良いって思ってるし、死ねって言われたらそりゃあすぐに死ぬけど......でも、出来れば______」

 

 

 

『殺されたいね(わね)』

 

 

 

 姉妹の気持ちは一つだった。

 ただ好きな男の手の中で命を終えたいという願望。

 彼女達の根底にある渇望はよく似ていた(・・・・)

 いや、一緒と言っても過言ではなかった。

「私も昔、ティオナみたいに戦ったことあるけど......」

 そう言うと、ティオネは徐に衣服を脱ぐと、その大きな胸を露出させた。

 たわっと揺れるその胸部に、ティオナは一瞬目が虚ろになるが、すぐに彼女が衣服を脱いだ理由に気付いた。

「この傷は、その時につけてもらった傷」

 ティオネは両手で胸の谷間を開くようにすると、そこには刺突痕のようなものがあった。

 まるで、槍で突かれたような(・・・・・・・・・)傷だ。

「それって......」

「そう。団長が私に()を向けてくれたの......」

 羨ましいと、ティオナは溢れそうになった。

 あのフィンが、槍を抜くようなことは滅多にない。

 それは即ち、彼が全力を出す以外に以て他なかった。

「練習用の木槍だったけど、それでも私は嬉しかったの。団長が私の為に槍を振るってくれたことが」

 ティオネは愛しげにその傷を見つめていた。

 まるで宝物のように、見つめるその姿は妹のティオナから見ても綺麗だった。

「この傷だけは絶対に消したくなかったから、必死に隠したわ。滅茶苦茶痛かったけどね」

 その時のことを思い浮かべるティオネの表情は酷く懐かしそうだった。

 羨ましい。

 そんな暖かい思い出(・・・・・・)があるなんて。

 また、ティオナは溢れそうになった。

「ほら、あんたの傷を見せなさい」

「ちょっ......」

 ティオネは半裸のまま、毛布を剥ぎ取ると、そのまま衣服も強引に剥ぎ取った。

 流石に完全健康状態の姉には敵わないのか、抵抗も意味をなさなかった。

「......なんだ、ちゃんと残してるじゃない」

「もうっ......見ないでよ......」

 晒されたティオナの胸部中央には、何かに打たれたような傷が残っている。

 それは間違いなく、ベルが最後に放った全霊の一撃、"絶紹"によるものだった。

 ティオナは、何故これを残しているのかと問うた。

 まあ、その理由は分かっているようなものであったが。

「......だって、この傷が一番暖かくて、一番気持ち良くて、一番ベル君の側に居れる(・・・・・・・・・)傷だったんだもん」

 全く同じだと、ティオネはやはり姉妹なんだということを実感した。

 人にとって一番重要な部位、心臓。

 そこに最も近いのが、愛するものからの全霊の一撃による傷であれば、まるでいつでも一緒に居れるような気さえなれた。

 当時のティオネは嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだ。

 今は落ち着いてはいるが、そんなティオネと今のティオナは瓜二つと言って良い程であった。

「......そう。なら、さっさと寝なさい。朝起きたらベルのところに行くんでしょ?」

「......分かってるよ。でも、あれなの。多分、ベル君を見たら抑えきれなくなっちゃうかも......」

「......そこはまあ、耐えるしかないわね。私もキツいけど耐えれてる(・・・・・)し」

 ティオナはこの時、姉の凄さを理解した。

 この理性の枷を破壊しかねない程の本能を、封じ込めて(・・・・・)常日頃、フィンと接しているのだ。

 自分であれば、すぐにでもベルにそれ(・・)をぶつけたいところであると、自身の甘さに気付くティオナ。

 本能に身を任せるのは獣だけだ。

 自分は女であり、人であるのだ。

 そんな醜態を惚れた男に晒すわけにはいかなかい。

「だから、頑張りなさい。ティオナ。ベルが弟っていうのは吝かではないわ」

「うっ......ティオネってば......それはフィンを私のお兄ちゃんにしてから言ってよね」

「......まあ、見てなさい。今にでも団長を私の旦那様に迎えてやるんだから」

 明日への不安を抱える妹と明日への希望を抱える姉。

 そして、決意を固める姉妹。

 その決意の先にいる男をものにする(・・・・・)のは困難を極める道になりそうである。

 しかし、そんなもの彼女達には全く関係のないことで、何時しかきっとその答えに辿り着くことになるだろう。

 どう転んだとしても、それが彼女達にとって、そういうこと(・・・・・・)なのだから。

 

 

 

 故に、ティオナ・ヒリュテとティオネ・ヒリュテは、人生最初で最後の恋をしていた。




ヒリュテ姉妹はクソM(限定対象)。
次回は割りと修羅場予定(仮)。

追記
お気に入り数9000件突破ありがとうございます。

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