生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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ヒロインどうしよう...


#2

「と、言っても。じゃが丸くん一個じゃ、足りないな...」

 既にお昼過ぎ、ベルが食べたのは、じゃが丸くん一個だけ。

 健全な男子としては、全くもってエネルギー源として足りない。

 もっとたくさん食べたいのである。

「本当なら作るところなんだけど...」

 ベルは貧乏だ。

 きちんとお金は節制している。

 故に、なるべく安く済ませるために食事は自炊で、殆ど家で取る。

 先程みたいな場合を除いてだが。

「ま、我慢すればいいか」

 一食くらいなら取らなくても大丈夫だろうし、それにこの角を換金してからでも良いだろう。

 きっと良い値段になるはずだ。

 そうすれば、今晩は外食してもいいかもしれない。

 少しベルの期待は膨らんだ。

「しかし、大きいな...」

 歩きながら、ベルは空を見上げた。

 最初から向かう場所は見えていた。

 摩天楼(バベル)

 ダンジョンの真上にそびえ立っているギルド保有の超高層施設。

 50階立てであり、見上げる首が少し痛い。

「......!?」

 瞬間、ベルの背筋に寒気が発した。

 

 

 誰かに見られている(・・・・・・・・・)

 

 

 この恐ろしい感覚は何なのだろうか。

 思わず、腰に差していた短剣を抜きかける程に。

 すると、先程と同じく、突然その感覚は消えた。

 スッと軽くなった感覚。  先程までは、まるで巨大な岩の塊を背負っているようだったのに、今はまるでない。

「...取り敢えず、行こう」

 早くその場から離れたかった。

 ベルは早歩きで、バベルの中へ入っていった。

 

 

 

 

 

「やっぱり、人多いなぁ」

 ベルは入ってすぐ、エレベーターを利用し、目的の場所に直行した。

 ヘファイストス・ファミリアの店が立ち並ぶ階層だ。

「確か四階分はヘファイストス・ファミリアの店だけなんだよね」

 流石、大規模ファミリア。

 複数階層を独占しているのはそれ相応の力があるからだろう。

「そう言えば、ヘファイストス様って、どんな神様なんだろう?」

 ベルは筋骨隆々で髭を生やした鋭い眼光のお爺さんを想像した。

「滅茶苦茶強そうだ...」

 検討違いなことを考えつつも、店のある通りを歩いていく。

「やっぱり、すごい値段だなぁ...」

 改めてベルはそう思った。

 ヘファイストスと刻まれた数々の武器や防具。

 どれも0が多すぎる。

「うわぁ...」

 ベルが思わずそう声をあげてしまったのは、ある武器を見たからだった。

「これが、神造兵装...」

 この通りにある店の中でも、一際格の違う店があった。

 その店にあるのは、鍛冶神ヘファイストスが直々に造り出した、正しく"神の武装"と言えるものだ。

 値段も数える気になれない程だ。

「すごいな...」

 ベルは昔からある特技を持っていた。

 それは、武器の鑑定だった。

 ベルは見ただけで、その武器の価値や性能をとても大雑把にだが、理解出来る。

 例えば、すごい切れ味が良いとか、これはすごい人物が作ったとか、そんな漠然としたものだが。

 見たところ値段も相応のものになっているようだ。

 かと言って、手が出せる代物ではないが。

「...でも」

 ベルの何か(・・)には触れなかった。

 確かにすごいとは思うが、心惹かれるわけではなかった。

「...せめて、このナイフくらい違和感を感じないのが良いんだけど」

 ベルは自身の持つナイフに触れた。

 別段このナイフは鑑定して、良い切れ味だとか、頑丈だとか、そういう理由で選んだのではなく、ただ安かったというのと、手に馴染んだという理由で選んだのものだ。

 恐らく根っ子から貧乏症なのだろう。

 安物の方が安心して、使えるというのもあるのかもしれない。

 身の丈にあった武器だからこそ、違和感を感じずに使える、そうベルは思っていた。

 着ている防具___最早、ただの服だが、これも安物だ。

 違和感は感じない、つまりそういうことなんだろう。

「...ここにある武器じゃ満足しないのかしら?」

 すると、そう言いながら店内から女性が出てくる。

 ベルが目を向けた先に居たのは、右目に黒い眼帯を着けた赤髪の美女いや、この人物こそが______

「ヘファイストス様...」

「あれ、私の顔を知っているのね」

 ヘファイストスは驚いたようにそう言った。

「いえ、そういうわけじゃないんですけど...」

 一目で彼女がヘファイストスだと分かったのは、彼の能力の産物のお陰だ。

 昔から、彼には色々なものが見えていた(・・・・・・・・・・・)

 まあ、女性だったとは思ってもいなかったことなので、驚いてしまったのだ。

「へぇ...まあ、いいけど。それより、さっきの質問なんだけど...」

 ヘファイストスは、適当に流すと、ジッとベルを見つめた。

「...ああ、違いますよ。ただ僕の手じゃ届かないものばかりだったので。こういう武器も持ってはみたいんですけどね」

 ハハハと笑いながらベルは嘘をついた。

 神の造り出した武器に満足出来ないなど、逆にどういう武器なら満足出来るのかという話になってしまう。

 それはあまりにも失礼だからだ。

「流れるように嘘をつけるのね、君は」

 少しムッとしたようにヘファイストスは睨んできた。

「へっ...?」

「...知らないみたいね。神に人のつく嘘は通じないのよ」

 ヘファイストスはそう言うと、徐に近くにあった剣を掴み、差し出してくる。

「あの...これは?」

「ちょっと、振ってみなさい。一応鍛冶の神様やってるからね。悔しいのよ」

 ヘファイストスはニヤリと笑って、こちらを見る。

「はぁ...まあ、いいですけど...」

 ベルはそう言うと、ヘファイストスから剣を受けとる。

 刃渡り60c程の剣で、刀身にはヒエログリフが刻まれていた。

「......ふっ! ......はっ!」

 なるほど、これは素晴らしい剣だ、ベルは確信した。

 軽く振っただけだが、これは一握りの高位冒険者が使うような代物で、自身のような、冒険者でもない者が使う武器ではない。

 見た瞬間に相当の業物だと直感したが、それでも、これだと感じはしなかった。

「次はこっち」

 すると、ヘファイストスは今度はナイフを差し出してくる。

 これも同じく最上の大業物だ。

 その後も次々と武器を試させられたベル。

 十本目の剣を振り終えた時に、徐にヘファイストスは告げた。

「...やっぱり。君って見たところ獲物は短剣やナイフをみたいだけれど、剣や刀も使えるでしょう?」

 顎に手を当てながら、ヘファイストスはそう言った。

「...えぇ、まあ。でも僕はナイフや短剣の方が好きなので」

「"弱くなる"のに?」

 そう言われた瞬間に、ベルの動きは止まる。

「...図星みたいね。まあ、君が何を思ってそんなことしてるかは私は知らないけど、何れ死ぬよ?」

 何れ死ぬ。

 そんな事、当たり前のことだ。

 人は生きていれば、何処かのタイミングで絶対に死ぬ。

 それは神すら覆せない決定事項だ。

 "死は決まっている"のだ。

「...そうですね。でもそんなの当たり前ですよ。僕達はあなたみたいな超越存在(デウス・デア)ではないので、生きていれば必ず死にます。だから、僕がその時、何の武器を使って死のうが、結果は変わりませんよ」

 "武器の良し悪しはベルにとって関係のない"ことだ。

 故に何も変わりはしない(・・・・・・・・・)のだ。

「ふうん。随分な考えをお持ちようで...でもね、私達鍛冶師はね、そうさせないためにいるのよ? 寿命とか、そういうのを除いても、死なせないためにいるの」

 だから、そう続けると、ベルの額を小突いて、こう言った。

君は死なせない(・・・・・・・)。使い手の命を守る、それが鍛冶師の役目だからね」

 そう言って、微笑を浮かべるヘファイストスは、とても綺麗だったとベルは素直に思った。

 そして、それと同時に彼女に対して、罪悪感が生じた。

「...そうですね。すみません。あなたの気持ちを考えていませんでした」

 意図を掴めていなかった。

 彼女は()であるのだ。

 親が()を心配するのは当然で、目の前でこんなことを言えば、それは説教になっても仕方のないことだった。

「いや、いいよ。謝らなくて。多分君が言いたいことと、私が言いたいことで齟齬がある(・・・・・)と思うしね」

 片手をヒラヒラと振ると、ヘファイストスはそう言い放った。

「...すみません」

「だから、謝らなくていいって...」

 お節介が過ぎたかしら、とヘファイストスは小さな声で呟いた。

「そうだ。君、ここに来たってことは、何か用があるんだろ?」

 ヘファイストスにそう言われ、ベルはここに来た目的を思い出した。

「実はこれを買い取って欲しいと思いまして...」

 腰に巻いているポーチから、ミノタウロスの角を出し、ヘファイストスに見せた。

「へぇ、ミノタウロスの角ねぇ。まあ、分かってはいたけど、見た目に反して結構強いのね」

 角を受け取ると、感心したようにそう言った。

「...それって暗に、貶されてますよね!?」

 地味に傷付く、ベルは少し凹んだ。

 というより、男は弱そうとか、見た目に反してとか、そういう風に言われるのはかなりキツイものがあるのだ。

 特に女性にそれを言われるのは。

「あ、そうだ。君の名前、聞いてなかった」

 しかし、ヘファイストスはそれを無視して、そう言った。

 酷い、とベルは思ったが、神は理不尽であり、気分屋であるということを思いだし我慢した。

「ベル・クラネルと言います」

「私はヘファイストス。知ってるとは思うけど、ここを仕切っている者よ」

 よろしくと両者は握手を交わした。

 鍛冶師である彼女の手はとても柔らかく女性らしい手で、鍛冶をしている手とは感じないと、ベルは思った。

「そうね。12000ヴァリスで買い取るけど? もしくはこれで武器や防具を造ってもいいわよ」

 勿論、料金は発生するけどと釘を刺される。

「いえ、今回は買い取りでお願いします」

「了解。ちょっと待っててね」

 するとヘファイストスは店の中へ入っていった。

 恐らく換金の準備をするのだろう。

「でも、話しやすい神様で良かったなぁ」

 想像していたのとは、真逆で、とても美人だったのは嬉しい誤算だった。

 やはり、美少女や美人は男にとって、とても嬉しいものであると再確認した。

 

 中々に良い出会いをした。

 ベル・クラネルはとても満足していた。

 

 

 

 

 

 

「何で、ヘファイストス様が直々に対応してるんだ?」

 

「あの小僧何者だよ?」

 

「高位冒険者には見えねぇけど...」

 

 

 周りでは少しだけ騒ぎになっていたようだったが、ベルは知らない。


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