生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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#48

 巨人ゴライアス。

 《迷宮の楽園》への道を阻む第十七階層を守護する第一の《迷宮の孤王》である。

 冒険者にとって、最初の難関であり強敵であるこのモンスターはある意味において、熟練者と初心者の境界のような役割を果たしていた。

 パーティで倒すことが出来れば一人前、一人で倒すことが出来れば晴れて上級冒険者の仲間入り。

 そういう線引きによくゴライアスは出されている。

 それでも、ゴライアスは《迷宮の孤王》。

 その力はここまでに出てきたどのモンスターよりも強い。

 戦えばミノタウロスの群れさえも一蹴する程の力。

 もし倒すことが出来れば、それは当たり前に賞賛されることであり、冒険者としても一皮剥けた存在になれるだろう。

 

 

 

 だが、今、目の前にいるゴライアスは一体何なのだろうか。

 

 

 

『■■■■■■■■■■ォォォォォォ!!!!』

 

 

 

 轟音とも呼べる咆哮は、衝撃波を生み、容赦無くリヴィラの町を抉り去っていく。

 ゴライアスは全長7M程であり、モンスターの中でも大型に分類される。

 しかし、現在町を蹂躙しているゴライアスは、その四倍以上の体躯(・・・・・・・)を誇っていた。

 大きさにして約30M。

 体皮も本来の灰褐色ではなく血を彷彿とさせる赤褐色へと変色している。

 あれは本当にゴライアスなのだろうか。

 少なくともこのような個体を確認されたことは一度もなく、情報は何一つない。

 分かるのは、これを放っておけば間違いなく《迷宮の楽園》は崩壊してしまうことだ。

「くそっ! 何だあの化け物! 矢がまるで効かねえ!」

「魔法も弾き返されるぞ......!」

 リヴィラに待機していた、総勢百人を超える冒険者達は必死に自分達の町を守ろうと立ち上がっていた。

 各々が武器を取り、一斉に攻撃を放つが巨人にびくともしない。

 というより、完全に効いていない(・・・・・・)ようであった。

「っ......! 皆、一旦退_______」

 グシャリという音ともに、巨人の剛腕が冒険者を弾き飛ばした。

 十M程、弾丸のように吹き飛んだ彼は建物の壁に衝突し、ただの肉片と化していた。

 無論、原型は留めていない。

「てんめえぇぇぇぇぇ!!!」

 そして、その仲間である冒険者の怒りは、彼が殺されることにより一瞬で沸点を超えた。

 手に持った槍に、殺意と力を込め、巨人へと吶喊する。

 そして、また。

 一人の冒険者が肉塊と化した。

「何なんだよっ!! こいつは!!?」

 突如、上空に出現したその巨人は町の中央へ着地をすると、直ぐ様に咆哮を上げ、暴れ出した。

 巨人は振りかぶった両腕を容赦無く町へと叩き込む。

 最早災害と呼べるそれは、暴嵐の如く破壊を巻き起こし、巨大な爪痕を残している。

「駄目だ!! 逃げ_______」

 

 

 

 また、命が此処に消えた。

 

 

 

 巨人による破壊の嵐は、冒険者という脆弱(・・)な存在を容赦無く消し飛ばしていく。

 この脆弱な存在の中には、Lv:3以上の冒険者が多数いた。

 Lv:4の冒険者もいた。

 それがこれ(・・)である。

 何れ程強靭な人間も、天災級の自然災害には敵わなず、それはごく自然のことである。

 それを出来るのは、それこそ同格の存在(・・・・・)だけであろうが。

 この巨人がそれに匹敵する存在であるかは、少なくとも判断は出来ないが、それでも今この場にいる冒険者達(・・・・・・・・・・・)では到底敵わない存在であるのは証明された。

 雑魚である冒険者は巨人によって、淘汰され始めている。

 この舞台(・・・・)に絶望を待つだけの邪魔者はいらない。

 しかし、これより待つのは、絶望だけなのか。

 いや、違う。

 彼らがいる(・・・・・)

 

 

 

「おいおい、何だよ......随分とぶち殺しがいがありそうな奴がいるじゃねぇかよ。なあ、おい!」

 

「......うるっさいわね。でも、確かに。そうね......あれはやりがいがあるわ」

 

「うわー。あんなでっかいゴライアス初めて見たねぇ。というか、赤いし......新種?」

 

「でも、関係ない。斬る、だけ......」

 

 

 

 そう。

 オラリオ最強格の冒険者達が此処には揃っている。

 反撃は開始された。

 

 

 

 

 

「前線はあの人達が張ってくれてる!! 俺達はひたすら後方支援だ!!」

 

『了解!!!!』

 

 

 リヴィラの町を見渡せる高台。

 そこには遠距離攻撃が可能な冒険者達が集結していた。

 ロキ・ファミリアに所属する選りすぐりの精鋭達だ。

 一軍のメンバーであり、人数は十数名程度。

 各々が魔法や弓を武器とした専門家(スペシャリスト)達である。

「アイズさん......皆さん......」

 その中に、一人、心配そうな表情を浮かべる少女がいる。

 レフィーヤ・ウィリディス。

 Lv:3でありながら、魔法攻撃による単純火力は格上であるアイズ・ヴァレンシュタインを上回る稀代の魔導師である。

 彼女は始め、アイズ達と行動を共にしていたのだが、この緊急事態が発生した後に別れ、ここにいる。

 あの場に向かったのは近接戦闘が出来るものの中でも最強クラスと呼べる四人だけである。

 それ以外のものを向かわせても彼らの戦闘の邪魔にしかならない。

 故に他のメンバーは雑魚処理(・・・・)をしている。

「よし! 狙いが定まったな。_______撃てぇっ!!」

 部隊長の一声と共に、火、氷、雷、風などの魔法攻撃、魔力付与された矢が放たれる。

 高台からの直線距離は約100M。

 十分に射程距離範囲内である。

 飛翔する撃光は、寸分違わずに巨人の背中へと直撃する。

『■■■■■■■■ォォォォォォ!!!!』

 巨大な咆哮を上げる巨人。

 しかし、それは痛みによるものではない。

 

 

 

_______________メキッ。

 

 

 

 空気が振動し、何かが割れる。

 その咆哮は音速を超えて、《迷宮の楽園》に響き渡る。

 《覇音咆哮(ルドラ)》。

 モンスターの放つ《咆哮(ハウル)》の中でも最上位に位置するものである、物理衝撃を伴った攻性咆哮(叫び)である。

 先の巨人の咆哮は正しくこれであり、三度目の発動によって、既にリヴィラは壊滅状態になっている。

 これを使えるモンスターは限られており、下層のごく一部(・・・・)のモンスターだけと言われており、そのどれしもが強力な《迷宮の孤王》であったり、強竜カドモスなどがそれに該当する。

 しかし、ここは中層の入り口。

 つまり、それが意味することとは_______

「こいつは、下層域に匹敵するモンスターいや、それ以上かもしれない......!」

 そう、部隊の中の誰かが叫んだ。

 此処にいるのは、選りすぐりの精鋭で間違いない。

 間違いではないのだが、それでも彼らには余りにも荷が重い(・・・・)

 この部隊には古参メンバーであるLv:4の魔導師や弓使いが存在する。

 ロキ・ファミリア全体で見ても二割程度がその域に達しているが、古参メンバーと比較的最近にLv:4になったものとでは同じレベルであろうが、力の差は歴然であり、力の序列も存在している。

 古参メンバーは精神、技術、経験などが段違いであり、普通のLv:4冒険者とはわけが違う。

 そんな彼等すら、下層のモンスターには大いに手こずり、苦戦する。

 天賦の才を持つあの四人(・・・・)は例外として、本来下層のモンスターを単独もしくは少数撃破できるものなど早々いないのだ。

 そんな強力な力を持つモンスターを、更に超える可能性を持つこの巨人に、古参メンバーは微かに震えた。

「もう一撃だ! もう一撃見舞いして_______」

 

 

 

『■■■■■■■■』

 

 

 

 脳内に何かが響く。

 呪詛のような魔性の音響。

 静寂であり、狂騒である、魔の響き。

 それが彼等を容赦無く蝕んでいく(・・・・・)

「......あ、ぁぁ......」

「部隊長! 皆さん! 何をしているんですか!!」

 その中で、唯一無事な(・・・・・)レフィーヤは、目を見開き、震えてしゃがみこむベテランの仲間達に声をあげた。

 彼女にとって、アイズの命(・・・・・)が何よりも大事だ。

 いくら強大なモンスターであろうと、あそこで自分達の仲間が戦っているというのに、怯えすくむとは何事なのか。

「......お、とが......」

「部隊長......? 音って何ですか!? 何も聴こえませんよ!!」

 いや、レフィーヤの様子もどこかおかしかった。

 不安の色を隠せておらず、パニックを引き起こしている。

 彼女はこの魔の響き(・・・・)に対し、ある程度の耐性を持っているようだが、それでも悪影響を与えている。

 よく見れば彼女の手も震えていた。

 今、この場に。

 まともな判断力を持っているものはいない。

 皆が、脳裏に響く魔の音に犯され、恐怖している。

 その時だった。

 

 

 

「あまり、勝手なことはするなよ、巨人」

 

 

 

 美しくも、凛々しい声が、彼等の脳裏を更に塗り潰した。

「......お前達、しっかりしろ。魔響に惑わされるな」

 彼等の背後から現れたのは、ロキ・ファミリア副団長であり、オラリオ最強の魔導師であるリヴェリア・リヨス・アールヴである。

 彼女の手には、第一等級魔導武装である《マグナ・アルヴス》が燦然と存在しており、見るだけで他を圧倒する気品(オーラ)を感じ取れた。

「ふ、副団長......すみません......」

「気にするな。此方も少し準備に手間取ってな。すまなかった。いや、それよりもだ。今はあれをどうにかしないといけないだろう」

 リヴェリアの見据える先。

 赤灰の巨人が暴虐の限りを尽くしており、リヴィアの町は最早見る影もなかった。

「これ以上、被害を広げるわけにもいかない。町は兎も角、《迷宮の楽園》自体を破壊されては不味い」

 リヴィアの町は既に過去何度もモンスターの襲撃により、破壊されているものの、その都度冒険者達は復興し、商いを続けていた。

 しかし、だ。

 この《迷宮の楽園》そのものを破壊されてしまえば、どうなるかは分からない。

 この階層は少なくとも、冒険者達にとっては比較的安全圏内であり、数少ない休める階層でもあるのだ。

 故にここが破壊されてしまうのは、後の冒険者達の活動に支障が出て来くるのは明らかであった。

「では、ならば。前提として此処を戦場と化せばいい(・・・・・・・)だけのことだ」

 一体何を、レフィーヤは思わず声に出しかけたが、それは遮られることになる。

 

 

 

「【座標認識、空間固定、時間停滞。

 

 

 時は(とお)く、空は迫り、緩み、固まり、厄災は歪み、(とこ)しえに排斥される。

 

 

_______此処より先、此の領域を我がモノとせん】

 

 

 

_______【空時簒奪領域固定(クォンタム・タイム・スコープ)》】、承認」

 

 

 

 リヴェリアの高らかな詠唱と共に、その杖は高く掲げられた。

 《マグナ・アルヴス》。

 この世界に存在する《五杖》の一角であり、頂点の内の一つでもある。

 絢爛な装飾のされた杖の先には、九つの《魔法石》が埋め込まれていた。

 本来の杖には《魔法石》は、ついて一つか二つ、多くて三つというものであるのだが、彼女のものにはその三倍もの《魔法石》が施されており、更に言えば、その《魔法石》も只の魔法石ではなく、この世界に存在する中でも最高位の魔法石であり、放つ魔法の出力を限界まで底上げする働きを持っている。

 そして、性能の面でも最強と言えるこの杖であるが、価値の面でも最強と言えた。

 ロキがある魔法大国に頼み込んで作らせたものであるため、約340,000,000ヴァリスという破格の値段を誇る。

 しかも、これはロキが値切りに値切った上、更に魔法石の価値を除いた金額であるのだ。

 魔法石の価値をプラスすれば、その値段は更に跳ね上がることになる。

 故に、だからこそ、《マグナ・アルヴス》は最強の《五杖》と呼ばれるのである。

「凄い......」

 此処にいる誰かが、思わずそう口に出していた。

 それもそのはずだ。

 彼女が行ったのは、半径1KMにも及ぶ巨大な隔離結界(・・・・)を、あの巨人を中心に展開したからである。

 この結界魔法により、これ以上、半径1KM圏内より先に(・・)被害が及ぶことはなくなることが確定した(・・・・)

『■■■■■■■■ォォォォォォ!!!』

 空間の異変に気づいた巨人は、今まで誰にも目もくれず破壊行動を行っていたのにも関わらず、初めて明確に誰かに敵意を表していた。

 無論、それを向けられたのはリヴェリアであり、彼女へ向かって、巨人はすぐ様に疾走を開始する。

「リヴェリアさんっ! 」

 今度こそ、レフィーヤは不味いと声をあげた。

 もし、あの巨人の突撃が此方に及べば間違いなく此処にいるものたちは壊滅してしまう。

 だが、リヴェリアは動じることはなかった。

 

 

 

「分かっている_______【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ」

 

 

 

 リヴェリアは杖を向けると、祈るように瞳を閉じた。

 

 

 

「森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め。

 

 

我等を囲え大いなる森光の障壁となって我等を守れ。

 

 

_______我が名はアールヴ】」

 

 

 

 瞬間、新緑の魔力が爆発し、リヴェリア達の眼前には、物理、魔法攻撃全てを遮断する結界防壁《ヴィア・シルヘイム》が出現し、巨人の侵攻を阻んでいた。

「......やはり、《因子の獣(ファクターズ・ビースト)》。《マグナ・アルヴス(これ)》を準備して正解だったようだ」

 巨人は、その防壁を破壊しようと、尚連続で突撃をしかける。

 嵐の如き一撃を、防壁は完膚なきまでに無力化しており、巨人の突撃による衝撃音が響くのみであった。

「しかし、これは......相性が悪いな(・・・・・・)。防御ならまだ良いが、攻撃となれば、効果は更に薄れそうだ(・・・・・・・)

 この階層ごと消し飛ばすわけにはいかんしな、そうリヴェリアは続けると、惚けているレフィーヤを見た。

「レフィーヤ。皆を連れ、此処から下がれ。これはただのゴライアスではない。お前達には荷が重すぎる」

「そんな! 出来るわけ_______」

「良いから下がれ。これは副団長命令だ」

 きっぱりと告げられた上位命令。

 基本的には、戦場において、上の者からの命令は絶対である。

 規律としてそれは当然のことであるからだ。

 故に、この命令には従わずを得ず、レフィーヤは退散するしかなかった。

「......わかりました。どうかご無事で......!」

 レフィーヤは、憔悴しているベテラン冒険者達を、まだ動けそうな者達と協力し、肩を貸して連れていく。

 去っていくレフィーヤ達が視界から消えるのを待つと、リヴェリアは未だ防壁と拮抗している巨人を見上げた。

「......《神性防御》。これではレフィーヤ達の攻撃が無力化されるのも当然か」

 防壁に歪みが生じる。

 崩されかかっている。

 しかし、それでも彼女は一切、その場を動かない。

 まるで、何かを待っているかのようであった。

「余程、気まぐれな女神の加護、もしくは邪悪な加護(・・・・・)とも言えるか。まあ、兎に角。やることは一つだ

 

 

 

_______ほら、出番だ。ガレス。貴様に相応しい戦場を用意したぞ」

 

 

 

「_______任せておけい。その戦場、蹂躙してくれるわ」

 

 

 

 巨人のその背後、飛び上がるようにして、現れるは、巨大な戦斧を構えた巨漢の勇士。

 響く重低音の声。

 そして。

 

 

 

「この程度の一撃で墜ちるなよな。巨神タイタン(・・・・・・)よ」

 

 

 

 豪傑による破壊の一撃が、巨人の横っ腹を振り抜いた瞬間であった。




今作のリヴェリアとガレスですが、まあ魔改造されてます。
少なくとも、ロキ・ファミリアの若手最強の四人が束になっても一蹴される程には強いですよ。

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