日が沈み、暗黒が支配する時間。今日もまた怪異がこの町・海鳴に生れ落ちる。
怪異は巨大なムカデの形となり、獲物を狙う。
獲物となったのは数人の若者。若者達は怪異に気がついてもいない。
ムカデが若者達に迫り、襲いかかろうとする寸前、はるか頭上から飛来する何かがムカデを引き裂く。
ムカデが体液をまき散らしながら雄叫びをあげ、ようやく気付いた若者たちは皆、顔を真っ青にしながら、一目散に逃げて行く。
ムカデは逃げて行く少年達には目もくれず、自らを傷つけたモノを見る。
月夜に空にたたずむ〝それ〟は漆黒の翼を広げ、ムカデを見下ろしている。
〝それ〟はゆっくりと地上に降り立つと、翼をたたみ、身の丈を超える漆黒の剣を構える。
〝それ〟の姿はまだ十も過ぎていない少女だった。
喪服にも似た漆黒のドレスに、銀色にも白にも見える長い髪。
そして怪異であるムカデに対して一切怯まぬ、強い意志を秘めた真紅の瞳。
ムカデは本能的に理解した。
目の前の少女の姿をした〝それ〟は、自分達怪異にとって天敵であると。
ムカデは一目散に傷ついた体を引きずりながら、逃げようとしたが、
「逃がさないの! バルザイの偃月刀!」
少女は叫びながら、手に持つ大剣を投擲。
大剣は凄まじい速度で回転しながら、ムカデを切り裂く。と同時に方向転換しながら少女の手に再び戻って来た。
少女は戻って来たバルザイの偃月刀を危なげも無くキャッチすると、安堵の息をこぼす。
「ふむ。ナノハ。ずいぶん手慣れてきたの」
いつの間にか少女の傍らには小さな少女が浮遊していた。
物語に出てくる妖精サイズの少女は気遣うように漆黒の少女を見る。
「うん。大丈夫。これくらいの怪異に不覚はとらないよ」
漆黒の少女・ナノハは傍らの妖精に笑みを浮かべる。
「うむ。さすが妾が選んだ主よ」
「それじゃあ、帰ろうか。アルちゃん」
ナノハはそう言うと再び翼を広げ帰路につく。
これは一つの物語。巨大な悪を打ち倒し、最愛の契約者と別れた一冊の魔導書がめぐりあった、一人の少女の物語。
さあ、始めよう。始まろう。在りえない物語を。荒唐無稽な物語を。