ユーノは突然現れた漆黒の少女に、様々な意味で驚かされた。
まずこの管理外世界に魔導師がいる事。いや、そこは驚くべきことではないだろう。ユーノ自身この世界に魔導師の痕跡を数多く見つけてきているので、そこは驚きが少なかったが、あの漆黒の少女が拳銃から放った弾丸、あれには驚かされた。
魔力を変化させ炎を操る魔導師は決して多くはないが、少なくも無い。
だがあの少女の放った弾丸は、ユーノの常識を遥かに超えるか力の炎の弾丸だった。
あれほどの炎を操るとなると、管理局でもエースクラスの魔導師位でなければ不可能だろう。
それに彼女の操る術式、あれは明らかにミッド式とは違う。この世界が管理外世界なのだから、独自の術式が用いられていても何ら不思議ではないのだが、彼女の術式はもっと異質な何かではないか。ユーノにはそう思えて仕方が無かった。
「大丈夫?」
なのはは出来るだけ優しげにそう訊ねると、
「え?あ、はい。大丈夫です」
はやては顔を赤らめながら慌てて答えた。
「そう。よかった」
「なのは。そう心配するでない。この娘も曲がりなりにも魔術師モドキ。危険に巻き込まれた程度で根を上げる軟弱モノではあるまい」
小さな妖精サイズのアルが偉そうに言うと、はやては驚いたように、
「妖精!? もしかして魔法少女お馴染みのマスコット妖精さんか!?」
「!? 誰がマスコットだ、小娘!! 妾の名は最強の魔導書・アル・アジフ。断じてマスコットでは無い! よく覚えておけ小娘」
「えっと、つまりアルちゃん、て事でええんか?」
「どこをどうしてそう言う結論に至るのだ汝は!?」
早速アルと仲良くしているはやてに、なのははこっそりと苦笑しながらも怪異の変化を察知し、短くアルに呼び掛ける。
「アルちゃん」
「うむ。あの青い宝石を複数取り込んでおるのだ、この程度の傷など回復して当然だの。どうするなのは?」
「なら相手が再生するスキが無いほどまで叩きのめして、あの宝石を奪い取るよ」
なのははそう宣言すると、右手に持つ黒い拳銃クトゥグアを構え、左手も同様に構える。
瞬間なのはの左手に冷気が集束し一つの形として顕現する。
その形は銀。洗礼されたフォルムの冷酷な殺意を形にした回転式拳銃・イタクァ
二丁の拳銃を構えたなのはは、怪物に向けて引き金を引いた。
クトゥグアから放たれる高熱の炎弾が、化け物の体を半ば蒸発させる暴力的な勢いで化け物を焼き、イタクァから放たれる冷気を纏った弾丸が、あり得ない方向へと曲がり、複雑な軌道を描きながら冷徹に化け物急所を打ち抜く。
なのははクトゥグア・イタクァの弾丸をすべて撃ちつくすと、素早く銃弾を補充し、再び化け物に向けて構えるが、引き金は引かなかった。
「うむ。ここまで弱らせれば十分だ」
アルの言うとおり、化け物はその身の大半をクトゥグアとイタクァの弾丸に削られ、苦しげに呻いていた。
「そうだね。でもアルちゃん、ここからどうしよう?」
「う~む。確かに、この怪異に取り込まれたあの宝石を分離させるのは中々に面倒だの。いっその事まとめて滅ぼした方が手間はかからんが…………」
流石のアルも怪異が取り込んだあの青い宝石を、瞬時に分離させるこことは出来なかった。
時間と設備を整えれば可能ではあったが、その間この怪異を数日または数週間管理しなくてはならない。可能ではあるが大変な手間がかかる。
またこの場で滅ぼした場合も、この怪異が内包した青い宝石の魔力が暴発しないように制御する必要があるが、なのはとアルならば十二分に可能だ。
「ち、ちょっと待って! まさか君たちその怪物ごとジュエルシードを破壊するつもり!?」
「? 何だ小僧。この程度の魔力を内包した怪異、妾となのはなら十分に滅ぼせる」
「そう言う事じゃない! 今、コイツごとジュエルシードを破壊したら、とんでも無い事になる!!」
「ああ? この程度の魔力を取り込んだ怪異の処分などどうとでもなる」
怪異の処分を必死に止めようと慌てるユーノだが、アルはあまりユーノの言う事を聞く気はないようだ。
というより、話の論点が微妙にずれているようになのはは思えた。
アルとなのはの価値観において自分達より強大な魔力を制御するのは日常茶飯事だ。
そもそもなのはの持つ魔銃クトゥグア・イタクァも今の形態でも強力な魔術兵装だが、その力の本質はその内にやどるモノ。
その存在は本来明人間の使役できる存在ではないが、なのはもアルも魔術を用いて制御している。
その事から分かるように、なのはもアルも自分達より魔力の多い存在の制御にはそれなりの自信がある。
そもそもなのは達が操るのは外道の力、つまり人間で無いモノの知識と技術だ。
力の大きなモノに対しての対策など取って当然のこと。
だがユーノにそれを説明してもすぐには理解できないだろう。
だからなのはは、
「えっと、なら君には何かいい案があるかな?」
と聞いてみる事にした。
「え、あ、そっちの、はやての持っているデバイス。レイジングハートなら封印できます」
「そっか。なら、はやてちゃん。お願いできる?」
今まで会話に入り込む余地も無く呆然としていたはやてだったが、突然の指名に、
「ふぇ? わ、わたしか!?」
驚いたはやてだったが、あの〝海鳴の魔法少女〟にお願いされてしまったのだ。嫌だとははやてには言えない。
「…………出来るかどうか分からんけどやってみる」
「小娘無理しなくともよいぞ。妾となのはならこの程度どうとでも出来る」
アルにはそう言われたが、なのはの期待するような視線をはやては裏切れなかった。
「ジュエルシード封印!」
はやての言葉と共にレイジングハートから白い魔力が放たれ、化け物とジュエルシードを分離させた。
「この怪物、ジュエルシードを三つも取り込んでいたのか」
ユーノは驚きながら、ジュエルシードと分離した怪物を見る。
怪物は見る影も無く弱り小さな鼠サイズまで縮んでいた。これがあの膨大な魔力を秘めていた化け物だとは信じられないほどだ。
「ふむ。これなら問題なかろう。なのは」
「うん」
なのはは頷くと、二丁の魔銃が欠片のように消え、代わりに灼熱の焔が現れ、一本の大剣を鍛え上げる。バルザイの偃月刀へと。
鍛え上げられたバルザイの偃月刀をなのはは躊躇う事無く、怪物に振り下ろす。
それだけであれだけの力を誇った怪物は完全に消滅した。
「さてこれで一件落着だが、汝ら二人はどうする?」
アルの問いにはやてもユーノも黙り込んだ。
ユーノ個人としては、ジュエルシードの回収がここまで難事になるとは想定外の事だった。
正直もはや事はユーノ個人にどうこう出来るレベルを遥かに超えている。
今のユーノにできるのは現状を管理局に通報する程度しか出来る事が無い。
一方のはやてはというと、完全に頭がパンクしていた。
いきなり怪物に襲われ、いきなり魔法少女になって、そしていきなり〝海鳴の魔法少女〟に助けられた。
考えどころか、現状を把握するだけで精一杯だ。
「ん~アルちゃん。とりあえず今日は二人とも私達の家で休んでもらって、明日きちんとお話聞いた方がいいよ」
なのはの提案にアルは、しばし考え、
「そうだな。ここで考えてもらちがあかないし、何より妾も聞きたい事がある。そうするとしよう。二人ともついてこい」
アルの言葉にはやては慌てたように、
「あ、ちょう待ってや。私の家はここや。別について行く必要は…………」
「あぁ? 汝はこの家で、一夜を明かす気か? いくらなんでも無茶だぞ」
「へ?……………………………………なぁッ!?」
アルの言葉に改めて自分の家の現状を見たはやては、思わず声を上げてしまった。
最初の怪物の襲撃で、玄関部分とリビングは全壊。他の部屋も怪物との戦闘の影響で至る所が穴凹だらけになっているうえに、所々崩れている。
正直、かろうじて倒壊してはいないが、少なくともここまで壊れた家に住むのは危険が多い。
「そ、そんなぁ~。私の家が~」
「ま、これも汝の運命だ。諦めろ」
「そないな簡単に流さんといてや!」
はやての悲痛の叫び、アルは興味なく、ユーノはどうしたものかと悩み、なのはは苦笑した。
「えっとね。そう言う訳だから。はやてちゃんはしばらく私の家に来てほしいの。さいわいはやてちゃんは一人暮らしだし、必要な荷物もそんなに多くないでしょ?もし沢山あるなら私も運ぶの手伝うよ」
「ふぇ? ええの?」
「うん」
なのはの笑顔にはやては、数秒ほど見とれたが、すぐさま正気に戻ると、
「えっと、それじゃ、しばらくお世話になります。なのは、ちゃん」
そう言いながらも、はやてはふと疑問を感じた。
(…………あれ、何でなのはちゃんは私が一人暮らししとるの知ってるやろ?)
お久しぶりです。しばらく更新できなかったですが、ようやく更新しました。
その割にはあまり話が進んでいないようにも思えますが、原作の流れを大きく逸脱する話になったと思います。
はやてさんのマイホーム半壊。それによる高町家にご招待。
この流れで行くと、闇の書事件編ではかなり話が変わりそうな気が・・・・・・