あの入学式事件からしばらくたったある日、僕は校舎の外でうろうろしていた。何時も昼御飯を食べるのに使っている生徒会室が開いていなかったので、たまには外で食べようと思ってのことだ。「教室で食べる」という選択肢は初めから頭の中にない。
だがあまりいい場所が見つからず、テニスコートの近くまで来てしまった。諦めて引き返そうとすると、何やら言い争いのような声が聞こえた。何事かと思って目を凝らすと、奉仕部メンバーと戸塚君、材木座君、葉山君率いるリア充軍団もいた。
・・・・・・ああ、なるほど。思ったより早かったな、このイベント。
さて、僕はこのイベントに介入すべきだろうか。
考えろ。
何故だか分からないが僕には1万9850周全ての記憶がある。これについてはいずれ決着を着けなければならないが、まだ焦るような段階じゃないだろう。最近、「予想出来ない事態」が少ないが起きている。多い少ないは問題ではない、「起きている」ことが重要なのだ。もしそれがこの青春から抜け出せる可能性を示すものだというのなら、それが「知る筈のない記憶」だろうと何だろうと最大限に活用して、道を開かなくてはならない。
なら、ここで僕が取るべき行動は。
そんなの、決まってる。
「やあ、久し振りだね。」
僕は、この青春から抜け出す一歩を踏み出した。
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あれは僕が青春を何周した頃だったろうか。
確か、4785周目だった筈だ。
自分という第3者を完成された世界に投げ込み、しっちゃかめっちゃかに掻き回そうとしていた僕に、平塚先生はこう言った。
「君はこの世界の第3者などではないよ、久留米。」
「『完成された世界』なんてものは存在しないんだ。『閉じた世界』なら無いことは無いが、君の言う世界には程遠い。」
「もし『完成された世界』なんてものがあるとするならば、それはこの世界そのものだろうな。」
「『風が吹けば桶屋が儲かる』なんて言葉があるように、この世界で起きた全ての出来事はどこかで繋がっている。・・・・そして、それは人間も同じだ。」
「だから自分が『イレギュラー』だからといって、自分がこの世界においての『第3者』だなんて思ってはいけない。私が結婚できないだろう?」
そう言って、平塚先生は快活に笑った。
後にも先にも、今巻き込まれている事態を自分から誰かに伝えて、しかも諭されたのは、あの周だけだ。
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「せ、生徒会さん!?」
最初に声を上げたのは由比ヶ浜さんだった。突然な僕の介入に固まっていた皆が復活していく。
・・・・それより、『生徒会さん』・・・?
「おい、誰だよあのイケメン。お前知ってんの?」
「はぁ!?なんでヒッキー覚えてないの!?」
「いや、覚えてるもなにも初対面の筈じゃ・・・」
あははは、由比ヶ浜さんは覚えててくれてたみたいだけど、比企谷くんには忘れられてたみたいだね。(泣)
仕方ない、思い出させてあげよう。喚く由比ヶ浜さんを宥めている比企谷君の真正面に立つ。
「や。」
「うおぁびっくりしたぁ!!」
比企谷君は大きく仰け反るようなポーズをとるが、そんなに驚くことかなぁ。「馬鹿な・・・・俺がこの距離で気付けなかっただと・・・!」とかブツブツ言ってるけど無視無視。
「で、その後大丈夫?」
「は?いや、大丈夫って・・・?」
「だから、念のため病院に行ったんだろ?それから体に何か異常は無かったかい?」
「へ?何で病院に行ったこと知って・・・・って、ああ!!!アンタはあの時の!」
「思い出して貰えたようで嬉しいよ。」
ホッと一息吐いていると、雪ノ下さんが比企谷君に耳打ちした。
「ねぇ、貴方一体久留米先輩に何をしたの?場合によっては奉仕部の予算、減らされるわよ。早く謝りなさい。」
「いや、何もしてねぇっつの。車に轢かれそうになったとこを助けてもらっただけだ。まあ、自転車はパァになったんだけどな。・・・つかなんでお前あの先輩の名前知ってんの。」
「知ってるもなにも、久留米先輩は生徒会副会長じゃない・・・」
「副会長!?・・・ああ、それで由比ヶ浜が『生徒会さん』って言ったのか。つか、由比ヶ浜よく知ってたな。ちょっと見直したわ。」
「ほえっ!?え、えと、そーだよ!私だって結構色々知ってるんだからね!」
「おう、凄い凄い。」
「ふっふーん!」
「それじゃあ、そんな凄い由比ヶ浜さんに問題だ。・・・・この学校の生徒会長は誰?」
「うえっ!?え、えーっと・・・・久留米先輩が副会長だから・・・福岡先輩?」
由比ヶ浜さん・・・・なんかもう色々と残念だよ・・・・ただ、久留米が福岡県の地名だって知ってたのは評価ポイント。よって助け船を出してあげよう。
「まぁまぁ比企谷君、僕の顔に免じて、そろそろ勘弁してあげてくれないかな?」
「う・・・は、はい。」
「・・ねぇ比企谷君、どうして貴方久留米先輩にはそんなに固い姿勢なの?」
「し、仕方ねぇだろ。苦手なんだよあの人。・・・それに、助けて貰った恩があるから雑に扱う事も出来ねぇし。」
「貴方のその言葉で十分雑に扱っていると思うのだけれど・・・」
比企谷君と雪ノ下さんが小声で何か喋っていたが、僕にはよく聞こえなかった。そう、聞こえなかったんだ。苦手とかそんなの全然全く聞こえなかった。大丈夫、僕は大丈夫。
「それと由比ヶ浜さん、うちの学校の生徒会長は城廻めぐりっていうんだ。ちゃんと覚えててあげてね、泣いちゃうから。」
「は、はい!・・・・・泣いちゃう?」
皆で和気あいあい(たぶん)とやっていると、後ろから不機嫌な声が聞こえた。
「ねー、アンタなんなの?急に割り込んできてさー。何様のつもり?」
「お、おい優美子、一応先輩なんだし敬語を・・・」
一応ってなんですか。一応ってなんですか葉山君。あと、敬語にしたら怖さが倍増すると思うんだよね。
『ねぇ、アンタなんなんですか?急に割り込んできて何様のつもりですか?』
ほら、更に怖くなったでしょ?
「ちょっと、何無視してんの?」
「おっと、そこにいるのは葉山君に三浦さん。それに戸塚君と材木座君もやあ!」
「お疲れ様です、久留米先輩。」
「・・・ふん。」
「え、えっと、こんにちは・・・・?」
「るふぅ!?わ、我が名は剣g「知ってる人もいるみたいだけど、僕の名前は久留米征一。これからよろしくね。」
あれ、材木座君が膝をついてる・・・?何かしたかな?
(おい、久留米先輩すげぇな。あの材木座を初対面で即ぶった斬ったぞ。)
(あの清々しい程の切り方は是非とも参考にしたいところね・・・・)
また何やら2人で話してるみたいだけど、今度は本当に聞こえない。ま、別に気にしなくていいか、材木座君だし。
「ところで、君たちは何か揉めてたみたいだね。比企谷君、言ってごらん?」
「え、あーその、俺たちと戸塚の練習組と葉山たちの遊びたい組でテニスコートの取り合いを・・・」
「うん、ありがとう。まぁ知ってたんだけどね。」
「じゃあなんで説明させたんだよ・・・・」
比企谷君がぶつくさ言ってるけど気にしない。
「それについて僕に提案があります!」
悪いな葉山君三浦さん、本来は君達が言う筈だったこのアイデア、僕が言わせて貰う!
「部外者同士、男女混合ダブルスで試合をして、勝った方がコートの使用権を得るってのはどうかな?」
僕はそう言って、彼らに挑戦的な笑みを向けた。
明日テストだ。わーい。