トップアイドル(男オリ主)は346プロダクションで日常を過ごす。 作:全てが蒼になる
「改めて、お疲れさん。三人とも」
スタッフ達との打ち上げも終わった翌日。
大きなライブの次の日はオフを入れるという恒例のスケジュールに漬け込み、俺と
「武内
「いえ……、正直なところ。天石さんがここを貸してくれと言うのは予測していました。なので、初めからこの部屋は今日は空けてありましたから」
首の後ろを掻きながら、いつもの鉄面皮で対応するのは武内P。
彼は『シンデレラプロジェクト』の裏の立役者でもあり、数多くのアイドルを担当していた敏腕プロデューサーだ。
過去には色々あったみたいだが、今もまだこうしてプロデューサー業を続けている。
今は、新規プロジェクトの新人アイドル達のマネージャーをしているらしい。
ちなみに今日借りた部屋は、CPで使っていた346プロダクション30階に位置するシンデレラプロジェクトルームだ。
「そっか。流石CPの立役者、先見性も素晴らしいな。どうもありがとう。……しかし、懐かしいなあ。あの時はどうなることかと思ってたけどさ。いやあ、皆こうして売れっ子アイドルになれて良かった良かった!!」
「はい。これも天石さんのお力添えがあってこそだと、我々も感じております」
「は? いやいやいや、俺なんて何もしてないって。……武内Pでしょ。彼女達を輝かせる力になったのは。一番近くで、一番の支えだったのは貴方だ。そこは自信を持って誇ってくださいよ。じゃなきゃ、他のプロデューサーに示しがつかないですって」
「……ならば、貴方もトップアイドルの自覚を持っていただけると助かるのですが……」
「んあ? ごめん、ちょっと声が小さくて聞こえなかったからもう一度言ってもらえるか?」
「いえ、何でもありません」
今度は困ったような顔をしながら首の後ろを掻く武内P。え、なに? 俺なんか変なこと言った?
「んー……、まあいいや。それで、ここって今誰も使ってないの?」
「いえ、私やプロデューサー達の仕事場とさせていただいてますよ。天石さん」
「ちひ……、千川さん。こんばんは」
「ちひろでいいですよ。今日はお仕事じゃありませんし」
今日は普通の笑みを浮かべているちひろさんが、話に割り込む形で近づいてきた。
「じゃあいつも通りちひろさんで。2人が一緒にいるの久し振りに見た気がするなあ」
「CPが別行動を始めてから私達もそれぞれの仕事をしていますので、仕方ないと言えば仕方ないですよ」
「ま、そうなんだろうけどさ。やっぱり寂しさは拭えないかなって。いや、悪いことは一つもないんだけどね」
「そうですね。天石さんの仰ることは理解できます。ただ、彼女達の可能性は私達だけの物ではありませんから」
「……敵わないなあ」
言われなくても解ってる。
彼女達の可能性は無限大だ。それぞれがそれぞれの場所で輝けることも。
常に皆が一緒にいなくても、それぞれの場所で輝くことができる。
それは、俺や武内P、ちひろさんがいる場所ではないところということもある。
彼らはそれがわかっていて、ちゃんとそれぞれを旅立たせてあげている。
それに比べて、俺はどうだろうか。未だに、彼女達が心配で目が離せないなんて思って、ちょくちょく様子を見たりしている。
……完全に子離れできない親状態なんだよなあ。これ。
「くすくす……、天石さんはそれでいいんじゃないですか?」
「え……?」
「天石さんはそれがいけないことのように考えているようですが、それは違います。彼女達に必要なものを貴方は充分に与えている。無理をして彼女達と距離を置くというのは、逆効果にしかなりません。貴方は貴方の出来ることをしています。自信を持って下さい」
「そうですよ。それに、彼女達の方が、貴方のことを求めていると思いますよ? 全く、鈍感さんにも程がありますよ~?」
真剣な表情で諭す武内Pといたずらな笑みを浮かべたちひろさん。
二人の言うことは嬉しいし、ただの慰めじゃないのはわかるんだけど……。
「……んー……、そっか……。隣の芝は青いって言うけど。正にそれなのかな」
「ええ、天石さん。お上手ですね、ふふ」
「私達が彼女達を支えていたように、貴方にも彼女達を伸ばすことができた。私達が一人欠けただけで上手くいかなかったこともあると思います。だからこそ、私達はそれぞれ違って、それが良いということなのでしょう」
「くくっ。口下手と言われていた武内Pがこんなにキラキラした眼で話しているなんて。変わるものだなあ?」
「……茶化さないでください。天石さん」
「あら、調子が出てきたんじゃないですか?」
「そうみたいですね。……どうもライブ後は湿っぽくて駄目だなあ。二人ともありがとうございます」
――◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
「あ、晴人先輩。二人と何話してたの?」
「加蓮か。……まあ、内緒だな」
「え~? 気になるじゃんかー」
声がかけられたと思い振り返ると、加蓮だったようだ。彼女は俺の返事に頬を膨らませながら、私は不服ですと言った態度でアピールしてきた。
「……ま、いっか。それよりさ。その、ありがとう」
「ん? いきなりどうした? 唐突に」
「私達だけじゃないのはわかってるんだけど……、ほら、指導とかいっぱいしてくれたじゃない? ライブでも言ったけど、今の私達があるのは、先輩のおかげっていうのが大きいと思っててね。だから、お礼」
「……ありがとう。でも、ここまで来れたのは、お前らの力だよ。何を不安に思ってるのか知らんが安心しろ、な?」
――◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
ぽんぽんと頭の上に手を載せながら、優しく微笑む晴人先輩。
……これだよ。いつも私達が向ける気持ちには気付かない癖に、こういう時はお見通しなんだもん。
おかげで今頃私の顔は真っ赤だろう。でも、悪い気はしない、かな。
……これなら、正直に言える、かも。
「全く。先輩はずるいよ。……よし。先輩、ちょっと相談……というか聞きたいことが、あるんだけど」
「……おう、言ってみな」
「うん。……正直に言うとね、今が、怖いの。……私さ、アイドルになる前は人生を諦めてたんだ。身体も弱くて入院ばかりだったし、そのせいで友達とかもいなくてさ。でも、プロデューサーからスカウト受けて、先輩と出会って。私でもアイドルとして夢を持っていいんだって思えるようになった。……今でも信じられないの。私がこんなキラキラした舞台に立って、夢を叶えて。それこそ、今が夢の中なんじゃないかって思えて。いつか夢から醒める時が来るんじゃないかって」
そこで一旦区切る私には、笑っているのに頬を伝う涙があった。今にも決壊しそうな笑顔を取り繕ったつもりで、必死に言葉を吐く。
「先輩……、私は怖い。皆と掴んだこの夢に、先が無いなんてことにならないか不安なの。いつかどこかで、私はあの諦めきっていた人生に戻されてしまうんじゃないかって。……ねえ、先輩。私、変かな?」
「…………いや、別に変じゃない。ただ、それは雲を掴むような話……、現実味の無い話だよ」
頭に載せていた手は、いつの間にか私を安心させるように優しく撫でるように変わっていた。
不安な時や、気分が悪くなった時に救ってくれた、暖かくて大きな手。
凄く、安心する。
「例えば、俺だってここからの帰り道に車にでも撥ねられればそれでおしまい。最悪死んでしまってアイドル活動どころか人生からドロップアウトしてしまうなんてこともあり得るだろう? つまりそういうこと。加蓮に限った話じゃないさ。……ああ、悪かった。そういう意味じゃないよな。だからそんな涙目で睨まないでくれるか。凄い罪悪感に駆られるから」
……折角安心してたのに、そんな例えはあんまりだと思う。
わかっててこういう冗談を入れてくるんだから、人が悪いなあ、もう。
「ごめんごめん。じゃあ俺も正直に言おう。……もっと自信を持てよ、加蓮。加蓮達はもう立派なアイドルだ。そんな君たちに架かるこの先に続く橋は、ちょっとどころの力じゃびくともしないさ。だから、大丈夫。信じた道を行けばいいよ」
「――うん。ありがとう、先輩」
じっと私を見つめる赤い瞳。
アルビノ、という先天的な遺伝子疾患。
私は身体が弱く入院なんてしていたが、先輩は生まれつき大きなハンデを負っていた。アイドル業界で整った容姿とアルビノが揃った幻想的と言っても過言ではない彼の姿は大きな武器となったが、日光に弱いなど、疾患としての側面もある訳で。
そんなハンデを物ともせず、トップアイドルとして君臨する先輩は私にとって、本当に尊敬する人だ。
その先輩に言われた言葉は、何の抵抗もなくすっと胸に落ちていった。
「それにな、加蓮。君は、魅力的だよ。名前の通り可憐であり、それでいて、芯の通った女性であり。また、甘え上手なところも素敵だと思う………っておい、加蓮? どうした、大丈夫か?」
「――――~~~~っ!!!!」
だから、この褒め殺しは不意打ちだった。
すっと胸に落ちるからこそ、ストレートに打ち込まれてしまった。
顔が熱いし、胸の鼓動が早鐘のように鳴っている。
先輩の顔を見ているが、段々と目の前がぐるぐるして――あ、これダメなやつだ。
「おい、加蓮!? しっかりしろって!! おい!!」
「晴人先輩、どうしたんだ……て加蓮!? 顔真っ赤だぞ!? しっかり――」
「先輩! こっちのソファーに加蓮を!! 奈緒も手伝って!!!」
そんな声を聞きながら、私の視界は暗転した。
……ああもう。本当に、嬉しいのに……ままならないなあ……。