オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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17話です!

リリの心理描写が原作のほぼパクリでござるな!マジ土下座orz!


17話「撤退してください!敵、最大推定レベル4!」

リリルカ・アーデは唖然としていた。広場でカヌゥ達と会ってしまったのは不幸だっただろう、しかしそんな事は良くあることだ。しかし、これはなんだ。魂魄妖夢と名乗ったあの冒険者は目の前でニコニコとしながらベルやリリと話していた。

 

「それでですね?タケが命に髪飾りを付けてあげたんですよ、そしたら顔が真っ赤になって・・・アハハ」

「へ、へぇ〜、とても仲が良いんですね妖夢さんのファミリアは・・・は、はは」

「あったりまえですよっ!なんて言ったって家族ですからね」

 

別に何の変哲も無い会話であるものの、問題はそれを行いながらモンスターを片手間に屠っている所だろうか。例えレベル2であったとしても上層のモンスターの攻撃が全く効かないなんて事は有り得ない、ある程度の警戒はして然るべき事なのである。

 

近づくモンスターは何故か吹き飛ばされる様に壁にめり込み、それでも生きているモンスターは額に刀が突き刺さる。他にも急に曲がり角から戦闘音が聴こえたかと思えば赤い眼をした妖夢が出てくるのだ。リリの頭は少々、いや結構混乱していた。噂は聞いた事がある、リリはベルよりも遥かに多くの情報を持っている事だろう。

 

これでもしレベルを偽っていないのだとしたら・・・リリはため息をつく、むくむくと少しづつ嫉妬の念がこみ上げてくる。ベルに続いて現れた冒険者らしからぬ妖夢、リリは混乱し始めているのだ。「私の知っている冒険者」では無いふたりを前に。そもそもあの時と違いすぎる、首をはねる直前まで行ったというのになぜ今度は守ろうとするのか。

 

「リリ?元気が無いけど、どうしたの?」

「リリは元気ですよベル様!」

 

若干ヤケクソだがリリは笑顔をベルに向ける。チラリと妖夢に顔を向ければ・・・心配そうな表情でリリを見ている。やりずらさを感じながらリリは倒されたモンスターから魔石を切り出す。妖夢が「斬奪!」とか言って目にも止まらぬ速さでモンスターを切り裂いたかと思えば魔石をモンスターから素手で引き抜き、握りつぶしたのは見てない振りした。ついでに潰してしまうのは予定してなかったのか「みょん!?」とか言っているのも無視した。

 

 

 

 

 

 

 

くっ・・・壊してしまった・・・雷電のあのカッコよく相手の脊髄みたいなの引っこ抜くのを真似しようとしたのに・・・真似し過ぎて最後までやってしまった・・・oh・・・

 

そしてベル君、そんなにキラキラした目でこっちを見るんじゃない、失敗したからね?いや、成功だけど失敗って言うか・・・ああ!もうどうでもいいや!さっさと進もう、・・・・・・あれ、俺が加勢したらリリのイベント潰れるんじゃ・・・。今の内に別れておくか?カヌゥ達を懲らしめれば良いんだよな?いや待てよ!?カヌゥ達ってミノタウロス戦の伏線だったよな!?ど、どうすれば・・・!

 

「あのー、妖夢様?妖夢様が付いていて下さるのなら11階層に向かっても宜しいのでは無いでしょうか?」

 

様?!あ、いやそこじゃねぇな。・・・11階層だとぅ?別に敵じゃないが・・・ベル君達は大丈夫なのか?エイナさん辺りに注告されてそうだが。

 

「エイナ辺りから何も言われてませんか?あなたのアドバイザーの断りもなく連れていくのは・・・」

「だいじょうぶですよ!妖夢さんが入れば百人力ですっ!」「そうですよねベル様!妖夢様がいる限り階層主も雑魚同然です!」

 

へへへ、そうかい?そうかなぁ・・・そうかもなぁ・・・。よし、仕方ないねぇ連れてってやるよ!

 

「エヘヘ、わかりました。そこまで言われては連れて行かないわけには行かないですよね」

 

ハッ!・・・の、乗せられた・・・?くっ、俺とした事が・・・!

 

「ちょろいですね(小声)」

 

ちょろいって言われた!?(半霊をリリルカの近くに配置していた)ぐぬぬ・・・まぁ、仕方ねぇな、大物が出て来たら俺が対処するから安全・・・って訳でもないがベル君達なら雑魚は対処できるはず。

 

 

 

 

 

10階層。霧に包まれており視界が悪く、葉の落ちた枯れ木が点在する荒地の様な場所だ。ダンジョンはここからが本番だろう、何せここから「大型モンスター」が出現する様になるのだ。

 

――――そして、世界の異常(イレギュラー)とは本来の歴史に干渉すれば、する程不測の事態を引き起こす物である。ベル・クラネル達は本来の歴史より早く11階層に到達する。大きな影は現れた冒険者をゆっくりと眺める。冒険者が持つ「魔石」を探して。・・・そして目に入るだろう、大きな大きなリュックサックが。モンスターはほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、原作とそれたなー少し、オークはバゼラートを手にしたベル君に戦い方を教えながら、弾幕で援護したらすぐ終わった。・・・ぐぬぬ・・・俺もファイアボルトみたいなの欲しかったなぁ。

 

「やっぱり妖夢さんは凄いですね!」

「さっすがです妖夢様!妖夢様おつよーい!!」

 

そしてこれだ、ベル君に悪気は一切無く、リリルカは可愛いから許す。結果・・・どんどん魔石がリリルカのリュックに入ってゆく。

 

「むぅ・・・良いように使われてますねぇ・・・」

「ええ?!そ!そんなことないですよっ!」

「そうですそうです!妖夢様がお強いからベル様の出番が無いだけで」

「酷いっ!?」

 

そんな会話をしている内にドスッドスッと速めの足音が複数、それにいくつかの羽音も聞こえる。

 

「・・・来ましたよ。ベル・クラネルさんは私の横に、リリルカは後ろに下がって下さい。大丈夫です、安全は保証しますよ。」

「はい・・・!」

「わかりました!」

 

リリルカの周りに半霊を配置、近づく敵に体当たりしてもらおうか、ここら辺の階層なら2、3回体当りすれば倒せるからね、オークは倒せないけど。ベル君には対空を主にやってもらう、速いうちに飛んでるやつを落さないと面倒くさいからね。俺はと言うとコイツら倒しても経験値殆ど貰えないからオーク相手に時間稼ぎだ。ちなみに敵の構成はオーク6、インプ8、バットパット15だ。・・・あれ?普通のパーティなら死んでるよね?これ。随分急いでやがるな、そんなに殺したいのか?

 

ま、どの道6体はめんどいから適当に間引くが、2匹は残しておこう。

 

「オーク6!インプ8!バットパット15です!気をつけてくださいベル様!」

 

リリルカの声が響く、状況判断は凄いな。普通ならこんなにモンスターが現れたらビビって声でないと思うがなぁ。

まぁ、こっちも指示を飛ばさなきゃな。

 

「ベル・クラネルさんとリリルカはバットパットを倒してください。超音波には気をつけてください、集中を乱されますよ!」

「「はい!」」

 

戦闘が開始される、オークやインプ達は走っているがその速度は遅い、俺から近付いて倒しに行こう。俺がヘイトを稼げばベル君達が戦いやすくなるだろう。バットパットの超音波は『集中』のアビリティを持つ俺には効果が薄い、『集中』は文字通り集中力を高めるだけだ、だけどそれ故に汎用性は凄いあるけどね。

 

「フッ・・・!」

 

タケに教えてもらった移動法に縮地が存在する、流石武神、色々と知っていた。とはいえいくらこの体が武術に高い適性を持っていたとしてと剣術以外だと熟練度の上昇は比較的緩やかだ、コツは掴んだけど縮地はまだまだ完璧とは程遠い。進むだけなら出来るんだがなぁ・・・タケ何なの?何で縦横無尽に動けるのさ・・・。いやいやそんな事を言ってる場合ではないね。

 

一瞬にして6体の内、先頭を走っていたオークに肉薄する。・・・何の技使おうかな、、うん、シンプルにこれでいいか。

足のバネを最大限に使用し真上に跳躍する。落下の速度、体重など、全てを利用した振り下ろし、そう、るろうに剣心の龍槌閃だ。

 

「龍槌閃!」

 

「オオオォォォォオォ・・・ォ・・・」

 

哀れ!オークは真っ二つ!吹き上がる血を綺麗に躱しながら他の5体も確認する、自分との距離は大体5m位だろうか。

 

「ファイアボルトおおぉぉおおおっ!」

 

唐突になんの脈絡もなくいきなりイナズマ状の火炎がダンジョン内を明るく照らし出す。流石に対人戦に強いと言われる魔法なだけはある。燃えてカスみたいになってしまったバットパットが空中から落ちてゆく。リリも懸命にクロスボウガンによってベルを援護している様だ。

 

「「キィキィキイイイィィキキィキー!!」」

 

・・・一言言わせて欲しい。ちょーうるせぇ(怒)超音波は聴こえないけど鳴き声がうるせえ。

 

「キィwwwキキwwwギャギャギャwww」

 

インプのウザさがヤバイ。何だか駄神を思い出すからやめて欲しい。一気に駆け抜け、切り裂いていく。

 

「ギウゥャ!」

 

なるほど、確かに常人では集中を乱され隊列が崩れパーティが全滅、なんてこともあるだろう。

・・・だが断る!私の集中力は53万です。

 

そんな事を考えながらオークが振りかぶった瞬間に間合いを詰め腹を掻っ捌く、魔石ってのは人型なら大抵胸の位置にあるからね、胸以外を斬ろう、お兄さんとのやくそくだぞ!・・・ちなみに桜花からのアドバイスの受け売りだ。

 

横薙に払われた天切は何の抵抗もなくオークの下っ腹を切り裂き、返す刀で逆袈裟斬りを放つ。灰になって消えていくオークを尻目に素早くバックステップを踏み、オークの攻撃を回避、回避できた事を確認した瞬間に踏み込み一閃。足を斬り飛ばし、低くなった首を切り落とす。

 

右足を軸にくるりと反転、何故か逃げようとしているオークに向かって燕返しを放つ。明らかなオーバーキルだが致し方なし。

 

敵の航空戦力は残り6体、適当に弾幕をばら撒き相手の移動を制限。そこにベル君のファイアボルトが直撃し、全てが地に落ちる。さぁ後はそこの2体だけだ。頑張ってベル君!

 

「ベル・クラネルさん、後はその2体だけですよ、頑張ってください」

「はい!」

 

ベル君は元気よく返事すると共に駆け出していく、大型モンスターは最初緊張する筈なんだがなぁ・・・ま、人の事言えないけどね。

さて、周りを見て警戒だ。グルリと辺りを見渡している時、リリルカが魔石を取り出しながら何やら考えているみたいだ。見張りは半霊でやるとして取り敢えず聞いてみるか。

 

「リリルカ?何か考え事ですか?」

「うわっ!?な、何ですか?」

 

ひ、ひでぇ・・・そ、そんなに嫌われることしたかなぁ・・・。

 

「あ、ああ・・・そうです、少し考え事をしていました。」

「考え事?」

 

何だろう、どうやって俺らを騙すか・・・なんてことでは無いと信じたいね、そう思っているとリリルカはおもむろにリュックを下ろし、中から肉団子みたいな奴を取り出す。そう、モンスターを引きつけるあれだ。

 

「これはモンスターを引き付けるためのアイテムです、これを使えば先程のように多くのモンスターが集まってくる筈です。」

 

む?じゃあさっきの大群はリリルカが呼んだのか?何の匂いもしなかったけどなぁ、半霊からもリリルカを・・・その、あまり褒められた事では無いが監視していたからね、肉団子を撒く様な行動はしてなかった筈。

 

「む?ではさっきの大群はリリルカが呼んだのですか?」

 

「いえ、違いますよ妖夢様、でも妖夢様が居るならこれを使って狩りの効率を上げるのもいいかもしれません。」

 

リリルカの表情に変化は無い、・・・まぁ騙すつもりはない筈・・・あのイベント変えちゃったしな。ま、信じてみよう。ベル君が来てからでいいか。あー・・・念のため俺が預かっとこう。何が起こるか分からない以上リリルカ達に危険が及びそうなら、これを使えば囮になれる。

 

「ではリリルカ、それを私に渡して下さい。」

「・・・そうですよね、わかりました。どうぞ」

 

ん?なんだ、何か表情が曇ったぞ・・・あ、説明不足だったか!?

 

「リリルカ!違います!リリルカを信用していない訳ではなくてですね、その・・・何かあった時モンスターの注意を惹き付けられるそれが有れば囮をやりやすい、と言いたかったんですっ!」

 

俺は大いに焦りながら、具体的には首を横に振りながら腕を振り回している。我ながらオーバーリアクションだ。だがちゃんと解ってくれたみたいだ。リリルカは目を見開き固まっている。そして、その口からは酷く小さな声が響く。

 

「貴女は・・・わかりません・・・なんで私を守ろうとするんですか・・・」

 

何故ってそりゃあ・・・。けど、本来ならリリルカの事なんか全く知らないからなぁ・・・どう答える?ベル君には「女の子だから」なんて言うチート級の言い訳があるが・・・俺無いしなぁ。

 

「理由なんてありません。貴女が知り合いだからです」

 

そうとしか言えない、と言うかそれ以外に説明なんてしようがない。果たして誰が君の生まれも人生も知っているから変えに来た、なんて言えるだろうか、どう考えてもストーカーである。

 

「そう・・・ですか・・・」

 

な、なんだこの空気、俺のせいだよね?何とか場を盛り上げねば!そう俺が焦り始めた時、ベル君の声がその場に届く、とても嬉しそうな声だ。

 

「やったよリリ!僕1人でもオークを倒せたよ!!」

 

飛び跳ねる様に駆けてくる微笑ましいその反応にリリルカはニコリと笑う、サンキューベル君!リリルカの相手は任せた、俺には荷が重いぜ。

 

その後肉団子を受け取った俺はリリルカの提案通り11階層に到着し、奥に向かおうと歩き出す。・・・その時だ、えも知れぬ悪寒を感じたのは。

 

目を見開き振り返る、視界に映ったのは・・・・・・紅一色。

咄嗟に反応し身を捻りながら零閃を放つ。結果は轟音。ただ1回の衝突で地面は罅割れる。

 

不利な体勢から放ったため押し負け後方に転がるようにして吹きとぶ、不味い・・・、こんな奴が11階層に居るなんて知らねぇが・・・リリルカ達が死ぬ・・・!

 

『逃げろ!リリルカ!ベル・クラネル!』

 

リリルカの周囲を飛んでいた半霊をハルプモードに移行させ意識を分割、ハルプを通して叫ぶ、しかし、神の悪戯なのかダンジョンの悪意なのか・・・上層に上がるための階段の方からモンスターが産まれ出てくる。先程とほぼ同数か。

 

『ちぃっ!!』

 

本体が全力で駆け出しバットパット達を撃ち落としオークを薙ぎ払う。しかし、再び悪寒。俺は直感に従い近くに居たリリルカを抱き上げ後方に跳躍、瞬間、先程までリリルカが立っていた場所が文字通り吹き飛ぶ。まだ半数以上敵が残っている、そして問題の奴は未だに速くて紅いって事しかわかっていない。

 

妖夢がベル君を守ってるから俺はリリルカを守るしか無さそうだ。ていうかどこ行きやがったあの紅いの?

 

周囲を警戒しながらゆっくりと退る、しかし奴は現れない、ビキビキという音とともにモンスター達が生まれ出る。・・・これは・・・疲労させるのが狙い?・・・モンスターが?そんな知能を持っているのか?そこまで考えて思い出す、知能を持つモンスターは確に存在している事を。

だがここに居るなんて有り得るのか?

 

近寄るモンスターを斬り飛ばしながら考える、この状況で考え事が危険である事はわかっているが例え俺がやられてもハルプモードが切れるだけなので大丈夫、本体の方で全力で警戒中だ、簡単に言うと右脳と左脳で違う事をしてる感覚に似ている。

 

「よっ!妖夢さん!?ドドドどうなってるんですか!?」

 

ベル君やリリルカが慌てふためき叫ぶ、そりゃそうだこんな状況で冷静に居られるのならとっくにレベル2とかになってるだろう。

 

「すみません!説明は後!と言うより私にもわかってません!」

 

意識を本体に移し、説明する、ハルプを囮として少し前方に進ませる。2人を守るだけなら片方だけでも事足りる・・・かも知れない。

 

紅い残像と銀の閃き。飛び散る火花と爆音。そして僅か3秒でハルプがやられる。・・・ファ!?いや、意識無しの状態だったから単純な戦闘しか出来ないけどレベル2を倒せる位の強さはあったはずなのに・・・。

 

だが十分に情報は得た、得物は大剣で、刃渡りは180、体格は4m。太刀筋は乱雑で力任せ。スピードとパワーを高水準で備えていると思われる。戦法はヒットアンドアウェイ。俺の原作知識にあんなモンスターは居ないし新種、もしくは魔石を食らった何らかのモンスター。恐らくは後者、何故ならスキル刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)で読み取った感じだとオークのそれに酷似しているから。

 

「――――グルル」

 

・・・・・・・・・つまり・・・通常の3倍はあるとみていいかもな、赤いし。いや紅いけど。速すぎクソワロタ、声が一瞬しか聞こえなかったよ。まさか飛べたりしないよね?「飛べないオークはタダの豚だぜ」とか言わないよね?推定レベル3〜4、・・・殺れないことは無い・・・が、少々枷が重すぎる。此処は撤退してもらおう、他の人達が襲われる可能性は高いが今の所狙いは普通のモンスターと同じだと思う、まぁ要するに出会ったら頑張れとしか言えないな。

 

「撤退してください!敵、最大推定レベル4!」

「よ、4!?」「な、なな、何が・・・ッ!何やってるんですかベル様!早く逃げますよ!」

 

俺が今やれる事は枷を外す事、・・・つまりはリリルカ達をここから逃がす事だ、彼らが逃げてくれれば戦いやすくなる。半霊から全力で弾幕をばら撒き彼らの進路を作り出す。

 

「さぁ!早く逃げてください!」

 

俺の大声にベル君は目を見開く、それは「妖夢さんは行かないの?」と考えているのだろう、案の定「妖夢さんは逃げないんですかっ!?」と声を張り上げる。安心して欲しいなベル君、俺はスキル構成的に長期戦になればなるほど強いんだ。まぁ時間稼ぎならいくらでも出来るさ・・・だから助けを呼んで欲しいかな。出来ればレベル5位の人。

 

「時間を―っ!?くっうぅ!稼ぎ、ますっ!助けを呼んできてっ!ください!」

 

口を開いた瞬間を狙い霞むほどの速さで大剣の突きを放つ〇ャア専用オーク、剣技掌握(マハトエアグライフング)が無ければ即死だった・・・反応できたと言うことは恐らくは初めに俺を吹き飛ばした一撃はこの突きだったのだろう。突きを天切を横から押し当てる事でギリギリ逸らしたものの左肩を掠める、そしてあろう事かそのまま慣性を無視して横に薙ぎ払って来た、吹き飛ばされる訳には行かない俺は天切を斜めに傾け逸らす、しかし圧倒的な膂力を前に逸らしきれず右の頬を薄く斬られる。

 

・・・大丈夫、これなら勝てる。

 

そんな保証は全くないがそう信じる。牽制の為に袈裟斬りを放つ、後方にスライドする様な変態機動で回避される、距離が離れた途端先ほどと同じく突きを放ってくる。これを刀を横から押し当てる事で凌ぐ、そして再び薙ぎ払い、斜めに傾け逸らしながら屈み、こちらも横薙ぎの一閃、それを跳躍して回避したオークは大剣を渾身の力を込めて振り下ろす。振り切った後で動けない俺は自分に半霊をぶつける事で真横に吹き飛び回避。すぐさま立ち上がりオークを中心に反時計回りに駆ける、そして一気に接近。オークは迎撃しようと構える、その後頭部に半霊エルボーを加え一瞬気を逸らす、そして一閃、腹部に1本の線を刻んだ、が、それだけでは倒せない様で大剣を乱雑に振り回す事で俺との距離を置こうとする、勿論あんな嵐みたいな所に突っ込む訳にも行かないので後方に退る。

 

・・・ふぅ、この間約5秒・・・何あのオーク・・・本当にオークかよ。

 

互いに武器を構え、相手を見る・・・いや、あんにゃろ何処を見て・・・ッ!まさかリリルカ!

 

奴が見ているのはリリルカだった、それがわかったのなら全力で守るしかない、オークとリリルカの距離は20m程、余り離れていないのは仕方ない、撤退するように言ってからまだ殆ど時間たってないから。

俺は縮地を全力で使ってオークとリリルカの間に入る。オークから10mほど離れた所だ。今にも走り出しそうなオークに弾幕をばら撒く。真正面から放たれた弾幕をオークは避け無い、否、避ける必要も無いんだ、傷一つついてないから。

 

オークが残像を残しながらリリルカに突進する。マジかよトランザムじゃねぇか!速い、速すぎる!刀を正面に構え攻撃を防ごうとするが、真横にスライドする様な変態機動で俺を躱しリリルカに直行する。間に合わない・・・それは駄目だ。「安全は保証します」そう言ったのだ、断言した、約束した、なら守らなきゃ。

 

その時、時間が遅くなった。自分もオークの動きも勿論遅くなる。

 

!?なんだ?・・・いや、これは・・・集中か、よし、これなら・・・間に合うかもしれない。だが、間に合ってもあの攻撃をまともに受け止めては武器がもたない・・・けど!これで!

 

「【幽姫より賜りし

、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】――」

 

オークの振り下ろしを天切で受け止め、斜め横に逸らすようにして防ぐ、しかし天切は大きくひび割れる。ひび割れた天切を横に構え放つ、妖夢のスペルカードの1つ。

 

「剣伎「桜花閃々」ッ!」

 

高速で接近し霊力を纏わせた天切で一閃、そして後ろに駆け抜ける。それはオークの大剣を弾き、よろめかせる、斬撃から僅かな間をおいて桜色の軌跡から大量の桜色の弾幕がばらまかれる。それと同時に砕ける天切。大丈夫、詠唱は終わっている。

 

「来いッ!私の剣!」

 

霊力と魔力が渦を巻くように集合し2振りの剣を作り出す。気分はfateのアーサー王の換装シーンだ。目の前に切っ先を下に向け浮かぶそれらを握りしめる。

 

オークがこちらを向く、今までその目は邪魔なゴミを見ているかのようだっだ、だが今は違う。まぁ、俺を殺さなきゃリリルカが食べにくいとわかったのだろう、大剣を構えた。それでいい・・・。リリルカに貰った肉団子を自身の真上に投げ―抜刀。真上で切り裂かれたそれは俺に降り掛かった。

 

覚悟完了。俺はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

走る、走る、走る。やっぱり私はついてない、そう思いながらけれど足は止まらない。前方の壁が罅割れ、モンスターが現れる。けれど足は止まらない。

 

「ファイアボルトオオオォォォォオォ!!!」

 

ベル・クラネル。今の私の雇い主で、冒険者。後方から轟音が鳴り響く、金属音、爆発音、風切り音。振り向いて見る。飛び散る火花と土煙、魔法の光と銀色の煌めき。そこに居るのは魂魄妖夢、ベル様の命の恩人で現在進行形で私とベル様を助けようとしてくれる謎の多い冒険者。

 

走る、走る、走る。妖夢様が戦って居るのは推定レベル4のモンスター、それに対して妖夢様はレベル2。勝てない、そう思った、けれど噂が本当ならば勝てるかも知れない、今朝とは真逆の事を考える。何故ならあのモンスターから舐める様な視線を感じるから。

 

妖夢様が負けてしまっては私が殺される。それがわかっているからこそ、可能性を信じる。・・・けれど死んでしまえと思う自分もいる。きっと死んでしまえば自分はもっといい自分になれる。

なのに足は止まらない。あぁ、なんて意地汚いんだろう、まだ生きたいと言うのか、・・・・・・全てを諦めたと言うのに・・・。希望を、見出してしそうになった、ベル様に、妖夢様に。私を助けたい、助けよう、そう言って行動してくれる人が居た、それが嬉しかった。それが暖かかった。

 

けれど.騙されてはいけない、彼らは冒険者なんだ、そう、冒険者。

手の中にあるアイテムを意識する。念のためにいくつか残しておいて正解だった・・・大丈夫、きっと1秒位は稼いでくれるだろう、・・・・・・これは裏切りじゃない、報復だ。これは叛逆じゃない、復讐だ。

 

だから転んだ。わざとらしく荒い息をしながら。そしてアイテムを投げる。

 

「きゃ!・・・はぁ―はぁ・・・ベル様、リリはもう動けません。」

「リリ!?くっ!ハァ!」

 

紫紺に輝くナイフを振り回しベルは応戦する。此処は10階層、霧に包まれている。アイテムに釣られやって来るモンスター達に囲まれているベル様はきっとこちらに気が付かない。・・・ベル様が死んでしまうかも知れない、妖夢様が死んでしまうかも知れない。何故かそんな事が頭をよぎる。――だからなんだ。

 

走る、走る、走る。

 

「くそっ!リリッ!?リリ!何処なの!返事してリリ!!」

 

暖かい何かが頬を伝う、否、伝ってなんかない。視界がぼやける、否、ぼやけてなんかない。呼吸が苦しい、否!疲れているだけだ!

邪魔な思考を振り払い走る、走る、走る。

・・・振り返らない、振り返ればきっと止まってしまうから。

 

 

 

 

なんで、なんで・・・。私は止まってしまった。あと少しなのに・・・止まってしまった。

 

目の前に居るのは1人の男、ゲドだ、私から金を奪われた冒険者。

 

「泣いてやがるのかぁ?ハハハッ!なんだよぉ!そんなにあのガキが気に入ってたのかぁ!」

 

こりゃ傑作だぜ、と笑う男、そして通路の奥から更に人が歩み出てくる。そして確信する、絶対に味方ではないと。

 

「やぁゲドの旦那ぁ・・・くくく」

 

カヌゥだ、私から金を搾取し、嗤う冒険者。汚い笑みを浮かべ私を見る。

 

殴られ蹴られ魔石も魔剣も奪われた、涙は出ない。

更に人が来る。その手に瀕死のキラーアントの子供を持って。

 

「てってめぇ!裏切ったのか!」

「裏切り?何の事やら・・・俺達は手を組んだ覚えは無いですぜぇ?なぁ?お前ら」

「糞が!」

 

横道に駆け込み逃げようとするゲド、けれど通路からはぎゃあああああと言う悲鳴だけが聞こえてきた。

 

「残念だったなぁアーデぇ・・・」

「おい!やべぇぞ、早く逃げよう」

「ああ、分かった。最後くらいしっかりと支援してくれよ?サポーター」

 

カヌゥたちが去ってゆく。

 

「・・・は、はははっ」

 

笑いが止まらない、私は最低だ。・・・暖かかった。ベル様の隣は暖かかった。なのに・・・裏切った、裏切ってしまった、ベル様は違うとわかっていたのに!

 

キラーアントに囲まれる、体は傷だらけで動こうとしない。・・・きっとベル様も妖夢様も・・・私のせいで・・・やっぱり私はいらない存在なんだ、入れば周りを不幸にしてしまう。

 

キラーアントが顎を開いた、あぁ食べられちゃうんだ・・・なんてザマなんだろう・・・本当に・・・救いようがない・・・・・・。目を閉じる。未練はある、やり残した事もある、夢も目的もあった。

名前を呼ばれたかった、誰かに頼ってもらいたかった、必要とされたかった、利用されるのは嫌だった、私は私じゃない誰かになりたかった。・・・あぁやっぱり救いようがないなぁ・・・ごめんなさいベル様、ごめんなさい。

 

「神様・・・どうして・・・リリをこんなリリにしたのですか」

 

これでやっと辛い人生が終わるんだ、それだけが唯一の・・・・・・・・・唯一の・・・救い。

キラーアントが大きく見える。・・・最後が迫っていた。

 

「・・・寂しかったなぁ・・・」

 

自分の口から転がり出た言葉に驚いた。それは本音、目を背け聞こえない振りをしていた自分の本心。慣れてしまったけど・・・ずっと寂しかった。

 

――これで――やっと―――やっと・・・リリは死んでしまうんですか?

泣き笑いを浮かべた。

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオ!!」

 

空気を揺るがす大音量で聞き慣れた声が響く。そして熱が周囲を焼き払う。緋色の焔が、ルームを染め上げた。

 

「・・・え?」

 

 

 

 

リリルカ達が逃げ始めてから4分ほどたった頃。タケミカヅチ・ファミリアのホームでタケミカヅチは猿師と縁側でお茶を飲んでいた。話す内容はもちろん自分の子供についてだ。他にもミアハ・ファミリアとの商いの話であったりととても有意義なものだ。

 

「いや〜、ウチの純鈴はいいお嫁さんになるでごザルよ〜」

「ハハハ、何を言うかと思えば。そんなこと言ったら俺のとこの命も千草も妖夢もいい嫁さんになるさ」

「そうでごザルかぁ?妖夢殿は包丁で家ごと斬ってしまいそうでごザルがなぁ!ハハハハ!」

「炊事洗濯家事全般に戦闘も出来る、ちょっと抜けてる所もあるが真面目で裏切らない。・・・フッ、我が子ながら完璧だな!しかもこれらの条件が3人ともしっかりと備わってるからな!」

「ふむ、抜けてる所もあると言っているのに完璧でごザルか・・・なるほどこれが親バカか」

 

そんなふうに親馬鹿共が娘自慢に花を咲かせていると目の前の地面から白い何かが飛び出してくる。

 

「「!?」」

 

驚く2人を他所に白い何かは形を変え、人の形をとる。

 

『タケ!不味いことになった!桜花達はどこだ!?』

 

大声を上げたのはハルプ、その表情は焦っているのがハッキリと分かった。どうやら桜花達を探しているようでタケミカヅチは詳しく聞き出そうと問いただす。

 

「ハルプか、一体何があったんだ?」

 

そしてその後に放たれる言葉に2人は唖然とする。

 

『ッ!?くそっ!悪いタケ、こっちに集中力を裂いてる余裕はない!手短に言うぞ!ダンジョン11階層に推定レベル4のモンスターが現れた!今は俺が食い止めているがどうにか援軍を呼んでもらいたい!お願いだタケ!絶対に命達をダンジョンに行かせるな!』

 

ハルプは一方的にそう叫び半霊となって地面に消えていった。タケミカヅチは額に手を当て天を仰ぐ。数時間前から共に居た猿師も同様だ。

 

「なんてこった・・・あいつらもうダンジョンだ・・・」

「と、取り敢えずは・・・ギルドに・・・・・・。いや、ロキ・ファミリアに行くでごザルな」

「そうだな、俺がそっちに行く、猿師、お前はギルドに行ってきてくれ」

「妖夢殿は何時まで持つでごザルか?」

「敵にもよるが・・・15も打ち合えばまず負けは無いだろう・・・無論、一対一ならだがな。」

「なるほど、ならば早くせねば」

 

 

 

「リリィィィィィィィィ!!」

 

火炎は絶え間なく放たれた、キラーアントを焼き付くし、紫紺のナイフと短刀を振りなおも突き進むその白炎は私の前で止まる。

 

「リリ!!大丈夫、ねえ!?僕のことわかる!?」

 

初めは誰かわからなかった、けれどすぐにわかった、綺麗な白い髪をしていたから。喉が詰まる。痛いくらいに私の肩を握りしめる、慌ててレッグホルスターから取り出したポーションが口元に寄せられる。咳き込みながらも一口飲み、質問に答える。

 

「・・・ベル、様?」

 

「そうだよっ無事だよね?」

 

こちらを安心させようとしているのか涙ぐみながら笑い聞いてくる。胸が・・・痛い。

 

「いつもみたいに待ってて?」

 

ベル様は最後にそう言い残し立ち上がる、柑橘色のポーションを飲み干し右腕を前に構える。

 

敵は30匹を超える。今でも正面からじゃきっと勝てない。・・・が、今は魔法があった。

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオ!」

 

圧倒的な数の差を、魔法の恩恵が覆す。

 

気づいた時にはベル様と私の2人だけになっていた。

 

「・・・どうやって、ここまで」

 

死んだと思っていた、私のせいで。何かが溢れそうになるのを堪える。

 

「いやぁ、モンスターに集られちゃったんだけど、ほかの冒険者が助けてくれたみたいでさ、よく見えなかったし何か罵倒された気がしたけど・・・。だからすぐにリリを追えたんだ。」

 

いやぁ、と何でもないように苦笑いするベル様に私の何かが切れた。

 

「どうして」

 

小さく呟いた言葉を正確に聴き取れなかったのかベル様は「何、リリ?」と聞き返してくる。

 

違う、他に言う事が有るのに

 

「どうしてですか?なんで見捨てようとしないんですかっ?まさか騙されていた事に気が付かなかったんですか?」

 

ええぇ?と間抜けな顔をするベル様に私は声を荒らげてしまう。違うのに、言いたい事はそんな事じゃないのに。

 

「ベル様は馬鹿なんですか!間抜けなんですか!阿呆なんですか!」

「あほっ?!ちょ、リリ落ち着いt」

「無理です!!リリは換金の際お金をちょろまかしました!分前も調子に乗って沢山もらった時だってあります!ポーション代もその他アイテムの金額も倍以上吹っかけました!」

 

止めて・・・違う、なんで、なんで「ありがとう」が出てこないの?私の声は止まらない。

 

「わかりましたか!?リリは悪いヤツなんです!嘘ばかりついて雇い主を裏切る最低なパルゥムなんです!それでも私を助けるんですかっ!」

「うん、助けるよ」

「どうしてっ!?」

 

息を切らし問い詰める、私は何を期待しているのだろう、心臓が壊れたみたいに激しく動機する。

ベル様はニコリと笑って口を開く、その口から目が、耳が離せない。

 

「女の子だから」

 

言葉に出来ない感情が体を支配する、理解出来ない感情が爆発した。

 

「ばかぁっ!ベル様の馬鹿あぁ!!またそんなことを言っ「でもね」ッ!?」

 

喚く私を無視してベル様は呟く、けして大きくない声だったにも関わらずしっかりと聞こえた。

 

「僕はリリを守りたかったんだ。リリにいなくなってほしくなかったんだ。リリが居ないと出来ない事ばっかりだからさ。・・・妖夢さんに言われなきゃ気付けなかったけどね」

 

アハハ、と照れくさそうに笑う。涙が止まらない。我慢出来ず声を出して泣いてしまう。

 

「困った事があったら言ってね?ちゃんと、助けるから」

 

ああ、私は救われ(死ね)なかった。けれど救われてしまった(受け入れてもらえた)。自分が大嫌いな自分の事を。

 

「ごめっ、ごめん・・・ごめん、なさい・・・!」

「・・・うん」

 

私は泣き続けた、・・・・・・・・・「ありがとう」そう言えなかったけれど、ちゃんと心の底から想っています。

 

きっと・・・この感情は・・・・・・・・・。




次回はいつになるやら・・・!頑張るぞい!


【紅いオーク】

紅の豚ゲフンゲフン。赤い彗星ゲフンゲフン。トランザムゲフンゲフン!な存在。
力と敏捷に全振りしたレベル4クラス。

武器は冒険者から奪った大剣。

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