オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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シリアス?シリアル?んなことよりモンハンクロス楽しいです!

あぁ^~エリアル双剣でぴょんぴょんするんじゃぁ^~って感じです。


3話「家族ですから」

いてぇー、やっぱり可笑しいよあの武神、なんだよそれ、縮地?縮地ですか?・・・俺に使うかそれ、初心者に使う技じゃないよねそれ・・・。

 

 

どうも、俺です。タケの所に住み着いてから早1ヶ月、毎日の様に修行という名のサンドバッグとして投げられたり吹き飛ばされたりしてます。・・・タケが言うには上達が速すぎて、こうでもしなくちゃ負けてしまう。とか何とか言ってるけど・・・勝てる気しねぇよ・・・。二ヶ月後くらいには「ふっ、残像だ」とかしてくるだろ絶対。

 

と、こうして少しテンションが下がっている訳だが・・・。一応タケに馴れたら年長者として皆の面倒を見てくれ、と言われているから色々とやる事はある。この1ヶ月でだいぶ体の動かし方もわかってきたし、家事にも馴れた。今日は俺達が食事当番だからこの後昼食を作らなくてはならない。

 

日頃の感謝としてタケの味噌汁にこの前はカラシを仕掛けたが、隠し味として捉えられたらしく、少し量を減らした方がいいと真顔でアドバイスを貰ったばかりのため、どうにか一泡吹かせてやれないかと日々模索している。今日はわさびを入れておこう。

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

全員が食卓につき、手を合わせ食材に感謝する。今日の献立はみんなで釣りに行った川魚の塩焼き、味噌汁にお米、それと漬けてあったナスなどの野菜の漬物だ。・・・我ながらとても美味しそうに作れたと思う。

 

「うん!この塩焼きはうまいなぁ!上手になったじゃないか妖夢」

 

タケがご機嫌に塩焼きを褒める、作った物を褒めて貰うのは意外と嬉しいものだ。しかし、本命は味噌汁。早く飲めー早く飲めー、と念を送りながら自分の無事な味噌汁を飲む、ちなみにこの味噌汁も俺作だ。千草や命が作った物でタケが苦しみ始めたらきっとあのふたりはあたふたするだろうからな。・・・とはいえ色々と手伝ってもらったけどな。

 

「有難うございますタケ、あの、その味噌汁も飲んでみてください」

 

「おう、わかった」

 

わさびの入れ過ぎで若干色が変わってるけど大丈夫だろう。タケは気づかない、確信している。

 

「ズズズー・・・ブホォッ!」

 

タケは味噌汁を口に含み、少し固まった後吹き出した。しかし、この程度で終わると思うなよタケ!貴様の優しさに漬け込む!

 

「ま、不味かったですか?私・・・頑張って作ったのに・・・」

 

・・・嘘はついていない、頑張って作ったぞ俺は、千草や命にバレないようにな!。

 

「ゴホッゴホッ・・・い、いや・・・大丈夫・・・美味い・・・ズズズー・・・グゥ・・・く。」

 

タケは優しいなぁー、だがその優しさは身を滅ぼすぜ?・・・うんうん!楽しんだ楽しんだ!・・・少しやり過ぎたと思う。反省もするしもうやることは無いだろう。しかし!後悔はしていなーい!ざまぁwww!

 

「ふふふ、いい気味です」

 

あ・・・。

 

「・・・・・・・・・妖夢・・・」

 

声に出ちまった・・・

 

「・・・は、はい?」

 

ゴゴゴゴゴとタケの背後が凄いことになっている・・・あっ、終わったな。と確信した瞬間である。

 

「俺は優しいからな、基礎トレーニング3倍で許してやる。異論はあるか?」

 

「ありません、すみませんでした・・・。」

 

 

 

トレーニングの内容はこうだ。

 

まずはランニングで足腰を鍛える、普段は20キロだから今回は60キロ・・・うん。

 

そして刀を素振り、普段は300回だから・・・900回・・・。でき・・・る。

 

そして組手・・・普段が三十分だから・・・きゅ、90分・・・。・・・こんなのできるか?うん。出来るな、出来るはずだこの半人半霊ボディなら出来る。きっと。多分。恐らく。

 

んな事を考えているとタケが話しかけてくる。

 

「妖夢、ちなみに言っておくが、組手の相手は俺だけじゃないぞ?」

 

は?・・・3倍って・・・タケも増えるの?

 

「タケが・・・増える?」

 

俺の言葉にガクッっとなったタケは気を取り直し説明する。

 

「はぁ、俺は増えない。・・・フツヌシが手伝ってくれる、3倍じゃなくて2倍だがまぁいいだろう。」

 

うん、それでいいです。フツヌシ・・・経津主か?なんだっけ?ほら、タケと一緒になんかやった神様だよね、わからんけど。

 

「ん、来たみたいだな」

 

タケが俺の若干上あたりを見ている、つまりは俺の後ろの方から来ているという事だ。俺は振り返り―何かにぶつかった。

 

「うわっ!なんですかこれは?」

 

ったく、なんでこんなところに壁があんだよ。

 

ポンポンと叩いてみるがなにやら暖かく、まるで人のお腹のようだ。

 

「ハッハッハ!お主がようむか?」

 

タケよりも身長が高く、肩幅等も大きいいかにもな大男が立っていた。

 

あれ?これ呼ばわりしちゃったけど・・・怒ってない?な、ならいいか。この壁がフツヌシなんだろうなきっと。

 

「魂魄妖夢です、よろしくお願いします。壁さん」

 

おいいいいいい!いやなんでだ!なんで壁さんなんだよ!?そこはフツヌシだろうが!フツヌシさんですよね?ってなるんじゃねぇんかい!

 

「だっはっは!これは参ったなぁ!壁さんだなんて初めて呼ばれた!コイツは強くなるぞ!俺の直感が囁いている」

 

豪快に笑うフツヌシは俺の事を褒めている。

 

いや、今の所褒める場所あった?無いよね?・・・神様ってやっぱり変わってんだな。タケは・・・変わっている所は特に・・・あ、天然ジゴロがあったか。

 

俺はタケをジーっとジト目でみるがタケは頭に?を浮かべるだけだ。

 

はぁ、こんな奴に命の心は既に奪われかけてるのか・・・。とりあえず、まずはランニングだ、さっさと終わらせて風呂を焚かなくてはいけない。

 

「では行ってきます」

 

 

 

 

妖夢の銀髪が見えなくなるまで見送る。

 

「ふう、行ったか・・・ははっ」

 

タケミカヅチは昼の事を思い出して笑う。

 

「む?どうしたタケミカヅチ。いきなり笑いだしおって気持ち悪い」

 

「いや、妖夢は何時も礼儀正しくてな、ずっと俺達に遠慮していたんだ。そんな妖夢がこんな悪戯をしてくれる様になった・・・俺は妖夢がだんだんと打ち解けて来ているのが嬉しいんだ」

 

この1ヶ月、妖夢は一切文句を言わず修行をし、家事を覚え、周辺の地理などを確認していた。外見に似合わない大人の様な立ち振る舞いはタケミカヅチに妖夢の過去を心配させていたのだ。

 

「真面目で真っ直ぐ、嘘が苦手で直ぐに口から出てしまう、そういう子供っぽいところも有るんだけどな。」

 

思い出すように空を見るタケミカヅチ。命から聞いた話だと両親の名前を覚えてないらしい、あのお婆さんの所にも一宿しかしていないらしい。一体妖夢はどのようにして生きてきたのだろうか?礼儀作法はしっかりしているし教養もある。剣の上達だって誰よりも早い。あのお婆さんは妖夢の事を「妖怪のお嬢ちゃん」と呼んだ。確かに妖怪として長年一人で生きていれば親の事を忘れたりは有るだろう、しかし妖夢は「多分・・・12?歳くらいです?」と言うのだからわからない。そういった諸々の事情を友でもあるフツヌシに話す。

 

「ほぉー。難儀じゃなー。・・・記憶を抜き取られたか、元々無いか・・・。それとも頭でもぶつけたか・・・ではないか?」

 

フツヌシはそんな仮説をたてる、そのどれもがタケミカヅチも一度は考えた物だ。しかしありえないと否定する。

 

「それはないだろう、わざわざ記憶を抜き取るなら全て抜き取るだろう、元々無いならばそれで悩んだりしないだろう、頭をぶつけた程度で記憶を失う程妖怪は弱くないぞ」

 

「むぅー?そうかぁ?」

 

どこか腑に落ちない、といったふうに顎に手をあて悩むフツヌシ。タケミカヅチはそれを横目で見ながら、考察する。それは妖夢の強さについてだ。

 

妖夢は武器を使った戦闘が上手い、これは武神である俺からするととても嬉しいことだが、妖怪としては異質だ、妖怪から見ると武器や武芸は弱者たる人間が強者たる妖怪に勝つために使う下賎な物だ。それを好んで使うなど、妖怪からしたら「私は弱いです」と言っているようなもの。こういった事が更に俺を悩ませる原因になっている。そう、まるで妖夢は人間の様に過ごしている。命達に合わせているわけではなく心から人間だと信じて生きている。

 

「人間の様に生きる妖怪は少なくは無い。だが人間として生きる妖怪は見た事がないのぅ。・・・まぁ変に深読みしても意味は無いっ!共に過ごせばわかる!全く、武神タケミカズチともあろう者が、なよなよしおってからに情けない。最も胸を張らんかい!」

 

俺の考えを読んだかのようにフツヌシがそう励ましてくる。

 

「そうだな、胸を張れ、か」

 

 

 

 

ブンッ、ブンッ!と空を斬る音が辺りに響く。

 

・・・826・・・827・・・828・・・。

 

そんな素振りを続ける妖夢を影から眺める者が二人いた。

 

「妖夢殿・・・大丈夫でしょうか」

 

一人は命だ。

 

「多分・・・大丈夫じゃないよ・・・」

 

そしてもうひとりは千草。2人は基礎トレーニング3倍の刑を受けた妖夢を心配してこうして様子を見に来ていた。その手にも妖夢と同じ刃の潰れた練習用の刀が握られている事から彼女達の今日の修行は終わったのだろう。

 

・・・829・・・830・・・831・・・。

 

妖夢はまるで人形の様に無表情で刀を振るっている。その表情は無理をしている様にも、していないようにもみえる。

 

「確か、この後妖夢殿は・・・」

 

命が眉を八の時にしながら心配そうな声で千草に確認をとる。

 

「うん、・・・タケミカヅチ様と、フツヌシ様に稽古を・・・」

 

うわぁ、と2人は同じような表情を浮かべる。妖夢の方を見るとその無表情は何やら考え事をしている様にも見える。

 

832・・・833・・・834・・・835・・・836・・・。

 

素振りの時に考え事をするのは命や千草にも心当たりがある、と言うか素振りの時は何か考えていないと、辛いだけで辞めたくなってしまう。それに考え事と言うのはあっという間に時間がすぎてくれる。

 

命は素振りの時は両親の事を考えてしまうし、何故か最近はタケミカヅチのことが脳裏に浮かぶ事もある。きっと恩を感じているからだと命は考えている。

 

千草もそれは同じで、両親のことを考えるし、頼りがいのある桜花の事も考える。

そうなれば妖夢が何を考えているか、それを想像するのは2人にはある程度容易で、仲間意識のようなものも芽生える。

 

「きっと、両親の事を考えているんでしょうね、妖夢殿も。」

 

「・・・うん」

 

・・・837・・・838・・・・・・っ!

 

その時、妖夢に今までにない動きが。

 

「「!」」

 

突如として右足を後ろに引き、刀を肩より上に上げ、切っ先を前に向けそこで止まる。そしてゆっくりと目を瞑る。

 

2人は幼いながらにその変化を敏感に察知する。先程まで機械的に振り下ろすだけだった妖夢が、鋭く尖った殺気をあたりに振りまき始めたのだ。

 

2人はその殺気に当てられ動けなくなる、それは口も例外ではなく、言葉を発する事も出来ない。何処ともわからないが全身から冷や汗が出始め、目を離すことが出来ない。

 

妖夢が動く、カッ!と目を開き、踏み込みと同時に振るわれた刀は空気を切り裂き、周囲の土を巻き上げる。命と千草は理解ができなかった。何故なら刀が3本に見えたのだ、人の目でギリギリ追えるか追えないかの一瞬で。

 

・・・841・・・842・・・843。

 

ブツブツと小さく妖夢の声がいくつか数を飛ばしているのがわかった、しかし、2人はそれに気を回す余裕など無い、今見た光景が何なのか、それを理解しようとして失敗していたのだ。

 

「な・・・、何が」

 

「わか、んない」

 

 

 

 

 

 

「・・・898・・・899・・・ハァ、900!」

 

つ、疲れた〜!なんだこれ!くっそ疲れるじゃねぇか!もう腕がプルプル所かブルブルいいそうだぜこれ。

 

刀振りながら、妖夢の「剣術を扱う程度の能力」がちゃんと俺にも適用されているのか考えていたんだ。でも、よく考えるとこの能力ってよくわからないんだよな、ただ単に剣術を使ってるからこうなってるならわかるんだけど・・・。

 

その、なんか試しにやったら・・・燕返し・・・出来ちゃったんだよね・・・。

 

い、いやほら出来るなんて思わないだろ?普通なら。なんとなーくFateの佐々木さんを思い浮かべて構え方真似して振ってみたら・・・出来ちゃったんだよね。流石に本物よりも遅かったけど出来た事に変わりは無い。

 

なんだっけ?なんとかゼルリッチとかいう現象起こしてしまった・・・。あれだね、俺って他の平行世界にも居るのね・・・知らなかった。

 

という訳なんだが、きっと原作の妖夢では決して出来ないであろう事を出来てしまったわけだが(佐々木小次郎を知らないから出来ないだけかもしれない)どうせこれもあの駄神の拡大解釈に違いない。unlimited blade worksの剣術版みたいな事になってるんだろこれ。・・・劣化版じゃねぇか…

 

まだわからない事だらけだが、オラリオに行くのは恐らく5年ほど後だ、それまでにある程度理解を深めておかなくては・・・。この後は神様ボコして(勝てる気がしない)神の恩恵もらってやる!

 

・・・ゾロとかの技も出来るのかな・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

痛ぇーー・・・、畜生、なんだあの2人、いや2神。ボッコボコにされたから仕返しにって燕返しをフツヌシにぶっ放したのに・・・いくら刀が短くて本家より回避しやすいからって・・・初見だよ?なんで避けるの?サーヴァントなの?カッコつけて「秘剣―――燕返しっ!!!!!」とかやったのに、oh…。タケの奴ぅ、避けられて驚いてる俺の腹にガチの蹴り打ち込んで来やがった。見えてたのに避けきれなかったぜぇ。

 

何故かあの後タケが無表情だったのは少し気になるな・・・顔色も悪かったし。

 

 

 

 

まぁ、そんな事より、この怪我をどうにかしないとな・・・、右の肋骨が幾つか折れちまった。

 

猿ー!猿ー!猿はおらんかー?

 

「ん?どうしたでごザルか?」

 

おお、やっぱり猿だな、えーと、何だったか・・・猿飛・・・猿師だったよね?

 

「猿師さん、治療をお願いしたいのですが」

 

俺は右の肋骨を抑えながら猿師にそう聞く。すると猿師は突如パァと顔を輝かせ。

 

「やっと!やっと!やっと名前を覚えてくれたでごザルか!顔の印象が強過ぎて名前が出て来ないと言われて来たこの拙者の!!」

 

と狂喜乱舞し始めた。・・・おい、早くしろよ。

 

「・・・はっ!拙者とした事が、感動の余り理性を失いかけたでごザル。さて・・・どれどれ見せて欲しいのでごザルよ」

 

俺は言われた通りに上の服をたくしあげる。大きな痣ができ、腫れている。

 

「ふむふむ、折れているでごザルな・・・。修行でごザルか?」

 

「はい、少しやりすぎまして。」

 

こうしてよく俺の怪我を見てくれるのは猿飛猿師、レベル2の【薬師】というスキルを持っている42歳、妻子ありの意外と凄い人だ。23歳の時にレベル2になり、【薬師】を発現、そこからは薬師として研究開発に没頭、数々の薬を作り出して来た。頼れるお医者さんって所だ。子供達からも「お猿さんみたいで怖くない」と評判がいい。本人はその度に泣いてるけどな。俺もこうして怪我した時は何時も頼っている、信頼出来る人だ。

 

「うーん、これは・・・癒しの丸薬では変な形に治ってしまう可能性があるでごザルから、固定して自然に治すかポーションを使うべきでごザルな。触ってみてもいいでごザルか?」

 

俺が頷いたのを見て、猿師は俺の肋骨付近を触り始める。眉間にシワがよっているところを見るときっと折れた肋骨何かが肺に刺さってしまっているのかも知れない。

 

「仕方ないでごザルな。・・・丸薬を飲むしか無いでごザル。それからしばらくの間は絶対安静でござるよ?」

 

そう言ってポーションと癒しの丸薬を俺に手渡した猿師はタケに話があると席をたった。俺はその場でポーションを飲み干し丸薬を噛み砕くだいた。・・・早く風呂の準備をしなくては。

 

 

 

 

 

「タケミカヅチ様」

 

閉じられた襖の向こうから俺を呼ぶ声がする、その声には聞き覚えがあった。猿飛猿師、だいぶ昔から此処に居る医者だ。

 

「何か用か?」

 

わかっている、そんな事聞かなくたって襖の向こうから聞こえてくる声には確かな怒りが含まれている。きっと妖夢の事だろう。

 

「・・・何故、あの様な子供にあれほどの一撃を加えたのですか」

 

その声は怒りに震えていた、普段の自分のキャラを見失うほどに。

 

「・・・はぁ・・・、後で謝らなきゃな。」

 

自分でも驚いている、明確な殺気を飛ばされ、見たことも無い現象を見せられ、挙句の果てに友が危うく殺される所だった。神威こそ使わなかったが肉体が許す限りの本気の一撃だったはずだ。・・・子供だと思って完全に油断していた俺が悪かった。

 

「・・・妖夢には先にファルナをさずけてもいいかもしれん。」

 

 

「・・・それについては私も考えておりました。・・・妖怪である以上人間より遥かに頑丈ですが、それでもあれは苦しいかと。」

 

「・・・どうすれば治る?」

 

「それについては心配する必要はないでごザル、ポーションと丸薬を渡しておいたでごザルからな。」

 

急にケロッとキャラを戻すのはきっと俺を気遣っての事だろう。

 

「そうか・・・恩に着る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、廊下を歩いていると妖夢を見つけた。

 

「妖夢」

 

風呂上りなのだろう、しっとりと濡れた髪で夜風を浴びている妖夢に俺は話しかける。

 

「ん?タケですか?」

 

大きな満月を背景に振り向いた妖夢はそれだけで完成された絵のようだ。月の光で銀色に輝く髪は風に揺られ、青い大きな瞳はまるで見た者を吸い込んでしまうのではないかと錯覚する。

 

「・・・ああ」

 

謝らなくては。嫌われてしまっただろう、俺は酷い事をしたのだ、猿飛の話では肋骨が3本砕けていたらしい。痛かったに違いない、妖怪だからといって痛覚がない訳では無い。

 

「すまん!」

 

俺は謝罪する、これは土下座と言う、最後の手段であり、最高の謝罪。

 

「ふぇ!?なななな!なんで土下座してるんですか?!」

 

驚く妖夢、しかし俺は顔を上げない、いや、上げることが出来ない。最悪このまま斬られても文句は言わない、俺はそれほど悪いことをしたのだ。

 

「お前に痛い思いをさせてしまった。・・・たかがワサビくらいで・・・大人げない・・・悪かった!許してくれとは言わん!だが・・・」

 

俺が言い終わる前に妖夢が言葉を重ねる。

 

「なんだ・・・そんな事ですか・・・。いいですよ、気にしてません。」

 

冷たい否定の言葉が、批難の言葉が降り掛かると思っていた。しかし実際には余りにあっさりとした暖かい許しの言葉。

 

「たかが1発蹴飛ばされた位がなんですか、『家族なら』その位たまにはあるかもしれません。」

 

な、ち、違うんだ、違うんだ妖夢、家族なら家族に向かってあんな蹴りは打ち込まない。・・・しかし否定の言葉が声に出ない。

 

「私たちは家族なんですよね?なら私は許します。家族なら言い合いだって喧嘩だって物の取り合いだってきっとするでしょう、でも、家族なら最後はきっと手を取り合って仲良く出来るはずです。」

 

違うんだ、世の中の家族はそんなに綺麗じゃない。

 

「本で読みました、例え血が繋がってなくても家族にはなれるんだって。えへへ、俺達がお前の家族だって言ってくれた時は嬉しかったです。」

 

違うんだ、妖夢の言う「家族」は決して殺す気で蹴りを打ち込んだりしない・・・、俺は、あの時確かに持てる技術をその一撃に込めていた。・・・当たる直前で妖夢が回避を試みなければ恐らくあそこで・・・妖夢は死んでいた。

 

「そんな顔しないでください、大丈夫です今までが違うなら私達で作ればいいんですよ。そうですねぇ・・・タケがお父さんで、命がお母さん、桜花が長男で、私が長女、千草は妹です。どうです?」

 

それは余りに甘く魅力的な誘い。しかしこんな俺に・・・と思う気持ちは無くならない。

 

「これから・・・作る、か・・・出来るだろうか・・・こんな俺に。」

 

「できますよ!皆タケを信頼してます。」

 

 

俺を励まそうとしているのだろう、妖夢は笑顔を浮かべそう言い切る。

 

「そう・・・だな」

 

そうだ、その通りだ、この子達に家族はいない、なら俺がなればいい。父親のかわりに俺がなればいい。形だけの家族ではなく、真の意味で家族に。喜怒哀楽を共に分かち苦楽を共にする。そんなファミリアを俺が作ればいい。

 

「そうだな!妖夢、もう一度謝らせてくれ、悪かった!この罪は必ず償ってみせる!例えどんな無理難題であろうとも、必ずやり遂げてみせる!」

 

「アハハ、またお願いを聞いてくれるんですか?」

 

「ああ!もちろんだ!」

 

「わかりました、約束ですね!」

 

「そうだな!」

 

「よし、明日は唐辛子を入れとこ・・・」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「はて、何のことでしょうか?」


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