オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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テスト期間だー、辛いよー(´・ω・`)

30話だよー、記念に何かー、と思ったけどー、特に何も無いよー(´・ω・`)






30話『家族はいるのか』

淡い光を放つ遠見の鏡に、少女は映っていた。ただ少女が映っていたのならまだ理解が出来る。しかし、神々は、いや、オラリオの人々は目を摩った。それが現実であると信じ難かったから。

 

 

 

光が視界を覆う。

 

「くっ・・・!」

 

やばい・・・!もっと早く妨害するべきだったか!?

 

火、氷、雷、ありとあらゆる魔法が飛来する。球状だったりビーム砲みたいなものも多い。魔法が大砲の一斉射撃の様に降り掛かる。

 

「反射下界斬!」

 

幾つかの軽い魔法を反射したものの反射下界斬によって生まれた反射板はすぐ様耐えきれずに崩壊する。やばいよやばいよ、リアルガチだよ。・・・うぅ俺です。半霊で攻撃しようとした瞬間魔法の攻撃来ました。

 

なん・・・とか躱して・・・るよ?!のわぁ!?キュクロが来る!

 

「ぬぅん!」

「うぐっ!」

 

キュクロの攻撃を何とか防ぎ、しかし吹き飛ばされ地面を転がる。何らかの魔法のせいか・・・地面が凍っててちべたい。俺はすぐ様立ち上がり、結跏趺斬を放ちながら後退する。

 

・・・・・・・・・仕方がない。強行突破だな。その方が注目も集められるだろ・・・!とりあえず門を吹き飛ばす!

 

「月牙ァ――――」

 

最上段に構えた黒糖に霊力が集まる。砦に焚かれた松明意外に殆ど明かりのないこの場所で、霊力のほのかな光がよく目立つ。

 

「!?総員頭を伏せろ!!」

 

キュクロが危険を察知したのか撤退を命じる。こんなに早く撤退を判断できるのは素直に尊敬するが、・・・避けてくれよ、当たると死ぬぞ。

 

「――天衝ッ!!」

 

巨大な霊力の斬撃が地面をゴゴゴと破壊しながら門へと迫る。キュクロは横に大きく飛び込む事でそれを回避した。

 

そして、着弾。門は1発で半壊。・・・あるぇえ?割と硬いな・・・んじゃもう1回!

 

「む・・・もう1度です・・・!月牙―――天衝ッ!」

 

2度目の月牙天衝で門が爆発するかのようにバラバラになり地面に散らばる。頭を庇って地面に伏せていた冒険者達の声が聞こえてきた。

 

「あ!有り得ない!・・・あんな短文詠唱で門を吹き飛ばしたってのか!?」

「くっそ!魔力のステイタスが高いなら有り得なくはないがたった2発だと?!」

 

おぉ、驚いてる。まぁ当然か。でもネタバレしたらもっと驚くだろうな、「これは剣技です」なんて言っても絶対に信じてもらえないわ。ちなみに霊力を隠す必要は無い。なぜなら鏡でみてる神様達は霊力とか魔力を感じ取ることはできないし、バレないのです。

 

「でも・・・」「でも?」「つおい幼女とか・・・滾るな!」「おうともよ!さいっこうだぜ!」

 

ダメだこいつら早く何とかして殺さないと。

 

「おのれぇ・・・!」

 

キュクロが立ち上がる。さきほどの衝撃から素早く行動に移せるのも賞賛に値する。変態たちはしらん。・・・が、手遅れだ。

 

「きああああああああ!」

 

甲高い悲鳴がひとつ、夜空に響く。風により雲が流され月がその顔をのぞかせた。

 

キュクロが目を見開き後ろを見る。そこには。

 

『俺―――参上!!』

 

ハルプが女冒険者の背中を切り裂き、2階から蹴落とし、他の冒険者に切り掛るシーンだ。

 

くくく、いまの土煙に乗じてハルプモードにしてやったぜ。んでもってキュクロが俺(本体)に突っ込んできたらハルプを戻し、本体で撃退、キュクロとの距離が離れたら再び半霊をハルプモードにして魔法使い達を斬る。俺だからこそ出来る酷い戦い方だ。

 

 

 

 

『とうっ!牙突壱式!』

 

気分は新撰組。女冒険者の腹のど真ん中をブチ抜き、その後にいた壁役の冒険者の肩を貫く。・・・そして横に斬払う!ステイタスに任せ思いっきり!腹が裂かれ臓物がこぼれる。耳を塞ぎたくなる悲鳴と呻きを無視して次の相手へ。

 

「壁役!何やってんださっさと防ぎな!」

 

荒々しい命令に冒険者達が従い、盾役が前に出てくる。俺は半霊化し、一瞬にして盾役の後ろへ回り込む。ふっ、新撰組の俺には盾など無意味・・・。

 

「な!?」

『終わりだ・・・!』

 

驚いてる所悪いが俺は再びハルプモードに移行し、全力で回転斬りを放つ。しっかりと霊力も込めている。つまり。斬撃によって盾役が背中を斬られ地に伏せ、斬撃の軌跡が輝き大量の弾幕を360度にぶっぱなす。弾幕が通路の壁や床を破壊しながら冒険者達を飲み込んでいく。

 

すこし、ほんの少しだけやり過ぎたかもと思ってしまった。なんでって?だって霊力を結構込めたから死にはして無いけど(死んでないといいなぁ)手足がいたるところに落ちてる。弾幕に貫かれモゲたんだろう。まぁ正直ざまぁって言いたいね。皆を攫うのがいけないんだ。てか魔法を唱えてる奴らもいたみたいで自爆していった。自爆で死んだとしても俺が殺したわけじゃないから、のーかんですよね?タケ?

 

・・・ふむ、どうやら魔法使い達は全滅したらしい。うっと、キュクロが・・・あれ、撤退した?いや、こっちに向かってくるのか?ふぅむ・・・よし、とりあえず少しでも戦力を削ろう。俺は2階から飛び降りながらクルクル回り、下にいた冒険者に斬りかかる。左肩に命中し、腕が取れる。無くなった肩を右腕で抑えながら叫ぶ冒険者に対し、俺は屈んで膝裏を斬る。

 

『そこで寝てろクズ』

 

そいつの頭を蹴っ飛ばしこちらに凄い剣幕で走ってくるキュクロに俺は両手剣をぐるりと回し、構える。これはアイズに現在進行形で教えている必殺技・・・その名も滅界、とんでもない速度で突きを放ち、不動明王が象られるとか言うすごい技だ。だが負担が大きい。が、ハルプなら何の問題もないので使います、まぁ痛みは感じるんだけどね?

 

『滅界!!!!!』

「なに!?」

 

なに?!大剣2本をクロスする事で防いだだとぉ!?まぁ・・・そうだよね、オリジナルに全く届いていないこんな俺の攻撃なんて・・・防ぐの簡単だよねそうだよね・・・はぁ。腕痛いよー、もう本体に帰る。

 

キュクロが何とか俺に到着しそうなところでポン!と半霊になり透明化する。キュクロがなに!?とか言ってるが知らん。俺は痛かったんだ。

 

 

 

ふう、半霊が帰ってきたので俺は悠々と歩きだす。崩れた門を踏み越え砦の中に入っていく。キュクロがめっちゃこっち睨んでる。ぐぬぬ、負けないぞ。とにらみ返す。こうやって巫山戯てないと怒りに身を任せそうだ。

 

するとキュクロが俺に背を向け歩きだす。そして怪我をしている冒険者達を数人担ぎ建物の中へ。

 

「・・・ほえ?戦わないんですか・・・。まぁいいです、どうせ後で斬りますし」

 

負け惜しみっぽいセリフを吐きながら中に入る。多分俺が門を跨いだからプランBとかそんなんに移動したんだろう。ん?なんか上の方からずがががが!と音がするぞ?ちょっち行ってくるかの!

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔の天遍にて。

 

「・・・・・・・・・・・・うん。・・・・・・なんでロキがあんな事言ったのかわかった気がするよ」

 

目から光が消えたヘスティアがロキを虚ろな目で見つめる。

 

「やめい気色悪い。そんな目で見るんやない、そして乳をこっちに向けるな!」

 

ロキが適当に受け流そうとしたがボインアタックは必中なので間に受ける。するとタケミカヅチが画面から目を離さずに溜息をつく。

 

「はぁ・・・ごめんな妖夢。戦いづらいだろうに・・・苦戦を強いるような事を言って済まない・・・。だがこれも妖夢のため・・・!心を鬼にするのだタケミカヅチ!」

 

「「「「「「「一体・・・どこら辺が苦戦なんだ?」」」」」」」

 

神々が孤軍奮闘、獅子奮迅、の無双の働きを見せる妖夢を苦戦していると言うタケミカヅチ(親バカ)に疑問の目線を集中させる。

 

「はぁ?わからないのか?・・・・・・おれが誰も殺さないように、と言ったから手加減してるんだ。だから苦戦している。わかったか?」

 

タケミカヅチの言葉に神々達は驚くよりも呆れが先に来た。一体どの辺がレベル3なのか。レベル4とか5とか言われた方が納得できるというものだ。

 

「言葉として理解出来ても・・・この映像を見せられると・・・理解出来ないや」

 

ヘスティアが死んだ目で画面を見る。そして、それに他の神も続く。しかし、大抵の神はその目をキラキラさせながら見ている。

 

画面には何も無い所から途端に目の赤い妖夢が現れては一瞬で手足を吹き飛ばし冒険者達を無力化していく姿が。決して高速過ぎて途端に現れているように見えるのではなく、どう考えても妖夢は2人同時に存在している。ここにいる神の大半は神会に参加していたのでハルプを知っているが、知らない神々やオラリオの民達は酷く困惑している事だろう。

 

画面から『オラオラオラオラ!オラぁ!』と言う音声と共に血が吹き上がり手足が踊るショッキングな映像が流れている。誰もが思っただろう。

 

(これ例え攻撃で死ななくても出血死で死ぬんじゃ・・・)

 

しかし、それを口に出すのは無粋というもの、家族を攫われた恨みを堪え、あえてそれで済ませているのだからこれ以上は言うまい。

 

「・・・たしか、ハルプがポーションをできるだけ用意するように、と言っておいたはずだが・・・」

 

タケミカヅチのその呟きの意味を理解したものは割と多い、つまり、「治す手段は用意したんだから頑張れ。即死してないなら治せるだろファイト」だ、やはり彼もキレてる、それがこの場にいるもの達の見解だ。

 

 

 

 

 

 

 

桜花達は1人の女性と対峙していた、名前をエン・プーサ。レベル3の冒険者だ。・・・緊張をしているのか、目がぐるぐるになっているが。

 

「うふふ・・・貴方達はナニがお希望なのでしょうか?」

 

巨大な大鎌の柄の部分を太股ではさみ、唇に人差し指をあて、頬を少し赤らめながら問いただす。やはり目がぐるぐるだ。彼女は彼女なりに二つ名に恥じぬ様に頑張っているのだろう。

 

「・・・俺達は千草を助けに来た。お前に付き合ってる暇はない!」

 

桜花が若干半目になりつつ、そう答えると何故だかエン・プーサは慌て始める・・・顔を真っ赤に染め上げアワアワと。

 

「そ、そんなぁ・・・つきあう・・・突き合うなんて・・・!」

「え、いや違うんだが・・・違わないか?」

 

何を勘違いしているのか、もう魔鉄淫獣になりきっているようで、脳内変換で変な言葉に聞こえてしまうのだろう。なんと哀れな。そんな風に桜花が捉えていると。

 

「う・・・でも私には・・・主神様がいるし・・・・・・ッ!!」

 

狼狽えながらも何らかの覚悟を決めたのか、キリッと表情が固くなる。桜花と命がそれに合わせ武器を構え直す。

 

「コホン。・・・イクわよ?その槍で私を貫いて見なさいな!」

「命!先に行け!・・・さて、ではお相手は僭越ながら俺が努めさせてもらうぞ」

「ええ♪」

 

目のぐるぐるは無くなり、しっかりと前を見据える。役がハマったという事なのだろう、桜花の槍を持つ手に力が入る。

 

「シッ!」

 

鋭い呼吸と共に槍が繰り出される。エン・プーサはそれを大鎌を回転させ大きく逸らし、自らも回転する事で遠心力を高め振り下ろす。桜花は逸らされた槍の石突を地面に打ち込み前方に飛び回避する。

 

「(・・・不味いな・・・)」

 

桜花は内心で焦る。大鎌の薙ぎ払いが迫る、胸が地につくほどに低く屈んで回避する。

 

「(鎌の形状的に防ぎづらい・・・!)」

 

迫る大鎌を槍で叩き落としながら、桜花は後退する。室内という事もあり、槍が少し扱いにくいのだ、しかしその程度で戦闘が行えなくなるほどタケミカヅチ・ファミリアはヤワではない。

 

石突きが床を叩き音を出す、繰り出される連続突きをエン・プーサは小さな切り傷を作りながらも防ぎ切る。

 

「白兵戦は得意でないと見た、・・・・・・行くぞ・・・!」

「あらあら、お盛んね。体が持たないかも」

 

互いに軽口を、槍と大鎌がぶつかり合う。槍がエン・プーサのローブを貫きひん剥く。足こそ武具に覆われているが、上半身は下着も同然だった。彼女の為に言うのなら、この格好は彼女の趣味ではなく主神の趣味だ。

 

「キャッ!・・・変態さんなのかしら?」

 

片手で胸を抑え、上目遣いで睨む。桜花が思わず目をそらしたのは仕方の無い事だ。

 

「変態さんにはお仕置きが必要ね?・・・ブツブツ」

 

ブツブツと小さな声で何やら言い始めたエン・プーサ、足元には魔法陣が。桜花はそれが魔法の詠唱だとすぐ様気がつき止めようと走るが・・・

 

千刃(ブレイド)。」

シンプルな名前がつぶやかれ、魔法は発動する。エン・プーサの足が地面に叩きつけられた瞬間剣が地面から飛び出してくる。

 

「ぐっ・・・!」

 

足や肩を切り裂かれながらも桜花は何とか直撃だけは避けてみせる。するとエン・プーサが飛び上がり鎌を天井に叩きつけた。剣が雨となって降り注ぐ。槍を使い懸命に防ぐが・・・・・・飛び上がったエン・プーサが地面に着地すると同時に剣が再び地面から飛び出す。上と下からの攻撃が桜花を襲う。

 

「ぐっ!!ちぃ!」

 

回避し続ける事は不可能でその身体に傷をつけていく。

 

「頑張って♪頑張って♪」

「畜生がぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『で!でたぁーーーー!魔鉄淫獣の千刃だーーーー!お仕置きやったーーーー!あっ・・・あの魔法はどんな魔法なんですか?!さぁあなたの出番ですよガネーシャ様!』

『俺がガネーシャだ!』

『ズコーーーー!』

 

実況がオラリオに響く。街の人々は映像に釘付けになっている。殆どの者がその手に何やら紙を握っている事から『賭け』をしているのだとわかる。戦争遊戯ほど大きな娯楽は無いのだからそれも仕方がない。

 

『えー、では私から。あの魔法は彼女が装備しているあのブーツ、もしくは鎌が刺さっている場所から一定範囲内好きな様に剣を生やし飛ばせるものらしいです、凄いですねぇ!』

『あぁ、ガネーシャだな。』

『ガネーシャが動詞になった!?』

『俺が!俺達が!ガネーシャだ!』

『もうわけわかんねぇよこの人!?俺はガネーシャ様じゃねぇよ!?』

 

そんな実況を聞きながら、桜花を写した画面を見るのは、ロキ・ファミリアの団長。フィンだ、つい先程ダンジョンから出てきたばかりだ。アイズ達がベルをギルドに届ける間、フィンはこうして映像を見ていたのだ。

 

「んー、平気そうかな?妖夢くんの話を聞く限りだと・・・何らかの魔法もあるらしいし、あのままでも十分に時間は稼げるだろうね。」

「そうだな、問題あるまい」

 

独り言に返事を返したのはリヴェリアだ。緑色の髪を靡かせ共に映像を見る。

 

「だが・・・余り余裕もなさそうだ・・・。」

「うん、そうだね」

 

ふたりが視線を移した先、幾つもある映像の中の1つ、そこには目覚めた千草が檻から出るために檻を調べている最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラァ!吹き飛べ消え去れ居なくなれ!せいっやぁっ!ていっ!はぁっ!』

 

バッサバッサとザコ敵を切り倒し、俺は奥へと進む。なんだこいつら・・・武術の一つも学んでねぇのか?何も出来ずに斬られていく盾役とか・・・。

 

「くっ!くるなぁぁ!?この化物ぉ!」

『ああん?なんだって?俺が化物?よくわかってんじゃねえか!』

「ギャアーーーーーー!」

『うるさーい。』

 

だいだい何なんだこいつらは、人の事を化物とか言いやがって。・・・ん、確かに攻撃しても防がれ躱されて、追い詰めたと思ったら消えて後ろに現れて、なおかつ理解不能な技を使って盾ごとぶち抜いてくる・・・ふむ。確かにこりゃあ化物だ。

 

「あ、あくまたん・・・」

『残念天使だよ☆』

「グボアーーーーー!」

 

おうふ、なんて悪寒のするセリフなんだ。これは悪魔ですわ。

 

「もうダメだァ・・・おしまいだァ」

『おう、そうだな終いだ』

「ぐふっ・・・」

 

何やら絶望しているようなので肯定してあげた、慰めになるかと思ってレイピアで腹と肩を貫きショートソードで足を切り飛ばしてやった。安心したように気絶している(乱視)

 

ああ〜怒りが収まらないんじゃあー。ん?女か・・・若いな、15、いや16くらいか。

 

「ひっ・・・・・・や、止めて・・・!私は主神の命令だから仕方なくやっただけなの!だからお願い助けて・・・!私は悪くないのよ!」

 

・・・あ?結局やったなら同じだろうが・・・!何自分だけ助かろうとしてやがんだコイツは。命乞いなんてしやがって。

 

「あ"あっ!・・・・・・ぐ・・・痛い、痛いよぉ・・・」

 

女の腹の真ん中にレイピアが突き刺さる。まるで自分の体じゃないかのように、自由が効かない。体が勝手に動く、・・・背中がやけに熱い、怪我はしていないはずだが。

 

「止めて・・・痛いよ・・・助けて・・・」

 

イラつき、それが体を蝕んでいく。女の苦痛の呻き声が耳にこだまする。口が、勝手に動き出す。

 

『家族はいるのか』

 

俺の言葉に一筋の光を見たのだろう。女は必死になって言葉を紡ぐ。

 

「いる!いるわ!だから止めて!私には家族が!家族が悲しむからやめ」

 

俺はショートソードを女の肩に突き刺した。よろめきながら女は壁にぶつかった。

 

「ああああああッ!?・・・ぅ・・・いだい・・・痛い・・・なん、で?」

 

『家族がいるってのに・・・・・・こんな事をしたのか?』

 

思い出せない。なにも。家族はいた。あぁそうだ、居たんだ、そう・・・・・・居たはずだ。顔も、声も、何もかも既に覚えていないけど、「家族が居た」と言う事実だけは『知っている』。

 

「う、うぅ、もう許して・・・どうして私がこんな・・・」

 

なのに・・・なんで・・・コイツは・・・。人から奪っておいて自分は助かろうとして・・・いや、違う、さっき言ってだろ、コイツはやりたくてやった訳じゃないって。

 

『ふざけるな・・・!何が許してだ!人の家族を奪っておいて・・・!』

 

意志とは関係なく、体は動き言葉が発せられる。ショートソードがさらに食いこんだ。悲鳴が響き渡る。

 

「謝るからっ!もうやめてっ!」

 

『お前は知っているか?ふと気がつけば見知らぬ土地にいる寂しさを。知っているか?気がつくと失われている自分の記憶を。恐怖を!』

 

知らないだろう、知っているわけがない。知っているはずが無い。家族の顔が思い出せないのが・・・・・・どれだけ悲しいか。

 

『知らないだろ、この恐怖を。記憶の中の家族の顔が無い恐ろしさを・・・!』

 

知らないんだ、家族の笑顔を。

 

「う・・・ああああああ!やめで!じにだぐない!!」

 

ミシミシと音を立てていた肩をショートソードが貫き後ろの壁に剣が突き刺さる。悲鳴が響き渡る。腹を貫いたからなのか、口から血が流れてくる。

 

『それなのにお前達は奪うのか・・・?また、俺達から?俺が何をした?お前達の家族を皆殺しにでもしたのかよ?・・・してないだろ』

 

震える声で俺は気持ちを吐き出す。怨みは深い、自分でも気がつかないほどには。いや、妬みなのか?羨み?

『なんで・・・・・・家族がいるのに・・・・・・俺に無いものを持ってるのに・・・・・・俺の・・・大切な家族を奪おうとするんだ・・・・・・。』

 

・・・・・・俺はほんとに何やってんだ・・・・・・、こんな奴に何いってんのさ。こんな奴はどうでもいいんだ、早く助けに行かなきゃ。タケと約束しただろ。

 

『あぁ・・・くっそっ!』

 

足を女の胸元に押し当て、レイピアとショートソードを力任せに引っこ抜く。叫ぶ力も残っていないのか呻き声が少し上がっただけだ。・・・このままなら死ぬな。・・・・・・・・・タケとの約束だ、それに八つ当たりしちまったしな。

 

『・・・・・・・・・・・・俺はお前を殺しはしない。・・・そういう約束だからだ。・・・・・・・・・ポーションをやる、だから死ぬな。お前には(・・・・)家族が居るんだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラァ!吹き飛べ消え去れ居なくなれ!せいっやぁっ!ていっ!はぁっ!』

 

バベルの塔の天遍の一室、神々が集まるそこに映像が流れていた。ハルプが駆け回りながら敵をいとも簡単に切り倒していく。廊下は呻き声を上げる五体不満足の人で埋め尽くされている。

 

「おっ、恐ろしいわ〜 。容赦ないなぁ〜」

 

ロキがこの場のすべての神物の内心を代弁する。

 

「くっ!くるなぁぁ!?この化物ぉ!」

『ああん?なんだって?俺が化物?よくわかってんじゃねえか!』

「ギャアーーーーーー!」

『うるさーい。』

 

ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す。もちろん素手で引きちぎるのではなく、様々な武器で四肢を奪ったり壁に貼り付けにしているだけである。ただ、それを行うのがどう見ても幼女な事がただひたすらに異常であった。

 

「(妖夢・・・・・・やはり、悩んでいるのか?人との付き合いに・・・)」

 

タケミカヅチが思案する途中でも進撃は止まらない。

 

「あ、あくまたん・・・」

『残念天使だよ☆』

「グボアーーーーー!」

 

人差し指を顔の横でピンと立て、首を傾けながらニッコリと笑い、斧を振り下ろすハルプ。哀れ、冒険者は両足を失った。

 

場面は進み女の冒険者が追い詰められる。

 

「ひっ・・・・・・や、止めて・・・!私は主神の命令だから仕方なくやっただけなの!お願い助けて・・・!」

 

女の必死の弁解に神々達も「いやぁあの子ついてねぇなあ」と同情気味だ。しかし、ハルプは何の躊躇も無くレイピアを腹に突き刺した。

 

「あ"あっ!・・・・・・ぐ・・・痛い、痛いよぉ・・・」

 

痛みに声を上げる女、しかし、ハルプの表情は暗い。憎々しげに女を睨む。

 

「止めて・・・痛いよ・・・助けて・・・」

 

「うわぁー・・・ハルプたんまじ激おこやな。」

「うわぁようじょつよい、そして怖い」

 

「(妖夢・・・)」

 

更に事は進み。

 

『家族はいるのか』

 

ハルプは問いかける。タケミカヅチがピクっと反応した。タケミカヅチの目が見開かれる。ハルプの語る内容がタケミカヅチの心を突き刺したのだ。

 

 

『家族がいるってのに・・・・・・こんな事をしたのか?』

『ふざけるな・・・!何が許してだ!人の家族を奪っておいて・・・!』

『お前は知っているか?ふと気がつけば見知らぬ土地にいる寂しさを。知っているか?気がつくと失われている自分の記憶を。恐怖を!』

『知らないだろ、この恐怖を。記憶の中の家族の顔が無い恐ろしさを・・・!』

『それなのにお前達は奪うのか・・・?また、俺達から?俺が何をした?お前達の家族を皆殺しにでもしたのかよ?・・・してないだろ』

『なんで・・・・・・家族がいるのに・・・・・・俺に無いものを持ってるのに・・・・・・俺の・・・大切な家族を奪おうとするんだ・・・・・・。』

『あぁ・・・くっそっ!』

『・・・・・・・・・・・・俺はお前を殺しはしない。・・・そういう約束だからだ。・・・・・・・・・ポーションをやる、だから死ぬな。お前には(・・・・)家族が居るんだろう?』

 

 

ハルプの声だけがタケミカヅチの耳にこだまする。まだ、彼女を救えていないのか、救う事は俺には出来ないのか。タケミカヅチは悔しそうに拳を握る。

 

「あぁ・・・・・・・・・すまない、妖夢・・・!俺は・・・俺が不甲斐ないばかりに・・・」

 

タケミカヅチが罪悪感に潰されそうになっていると、ヘスティア達がその背中にポンと手を載せる。ヘファイストスが口を開いた。

 

「あの子の事情は知らないけど、・・・・・・貴方が頑張らなきゃダメよ?まるで八つ当たりだけど・・・・・・そうね、なんて言えばいいのかしら、そう、人の温もりを求めてる・・・・・・そんな感じかしら。」

 

ヘファイストスが顎に手を当て、そう助言する。しかし、その内容はタケミカヅチも理解している。不器用なタケミカヅチにそんな器用なことを期待できるかは別として。

 

「ああ、わかってる・・・。わかってはいるんだ・・・」

 




最後の方の心理描写がなんか変ですかね?物足りないような・・・しかし、私の技量ではこれが限度か・・・。

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