オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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これで戦争遊戯編はラスト。次の話が戦争遊戯の事後処理&オッタルパート。



芽吹く桜、散るのは何か。





33話「―――【咲いて誇るる死の桜。】」

砦の三階、最奥と呼ばれるそこは無数の柱で囲まれ、上から強引に蓋をしたような形状をしていた。定期的に補充、交換されていた松明は消え、外は暗闇に包まれる。生温い風が運ぶ臭いが、足元でどれだけの戦闘があったのかを知らせてくれる。

 

一方的な蹂躙。

 

なぜ、どうやって攻撃されたのかも解らず、理解出来ず冒険者達は倒れていった。その胸に秘めたる物が何であれ、もたらされた災いは余りにも血なまぐさいものだった。

廊下を転がる手足。新鮮な色をした肉片。折れた剣や断ち切られた盾が無造作に転がる廊下は正しく戦争の爪痕を残している。

 

しかし、それを起こしたのは小さな少女。

 

多種多様な武器を使いこなし、冒険者達を圧倒し、家族を救い出した。

 

オラリオの民達はそれを畏怖し、称えた。圧倒的な戦力差を押し返すその武力、圧倒的な剣技。

 

最奥の扉が音を立て開く。

 

「・・・決着をつけに来ました」

 

妖夢の静かな決意の言葉にオラリオが湧き上がる。逃げれば勝ち、しかし、逃げずに勝つつもりなのだと。

 

「あぁ来ると思っていたぞ・・・・・・終わりにしよう」

 

キュクロが頷き、大剣が床から引き抜かれる。建物内を照らす魔石灯の光を受け、大剣が妖しく輝く。ほぼ同時にその場の者達が己が得物を抜き放つ。

 

刀、槍、剣、クナイ、大剣、弓、鎌。

 

それぞれの刃が相手を討ち取らんとその鋭さを主張する。自分を使えと持ち主に語りかける。

 

 

 

 

 

 

 

オラリオにて、実況のテンションは天元突破していた。

 

『キィィイタァァアア!ラストバトルダァァォアアアア!』

『オオオオ!レェエエエ!ガァアアア!・・・・・・ガネーシャだッ!』

『言いたいだけじゃねぇかアンタ!それはさておき見逃せない展開となってきましたぁーーー!これは・・・どう動くと思いますかガネーシャ様』

『ふむ・・・『あれ予想と違う!?まさか真面目か!?』まぁ・・・ガネーシャだな』

『予想通りッ!!・・・えー、ふむ、ふむふむ・・・え、なんで自分で言わないんですかガネーシャ様・・・え?俺の顔を立てるため?・・・くっ、嬉しい限りです!』

『ぇ・・・言ってなi』

『さぁ!これより始まるのは雌雄をかけた最!終!決!戦!団長3人VSタケミカヅチ・ファミリア!!』

『・・・(´△`)↓』

『ええ!その通りですガネーシャ様!初めは大きく開いていた人数差が此処に来てひっくり返りました!えぇ!ええそうですね、まだ戦いの行方はわかりません!

 

ね!ガネーシャ様!』

『俺が!ガネーシャだ!(ヤケクソ)』

 

そんな実況を聞き流し、アイズは画面に映る妖夢を見ていた。最近は忙しいとアイズは思う。

 

(ベルにししょー、見るものが多い)

 

ミノタウロスとの激闘、その果ての勝利。

 

その背中に刻まれたステイタスはアイズが見えた所までなんとS評価。ついこの間までベートに馬鹿にされる様なひよっこだったと言うのに。

 

(一体・・・どうすればあんなに早く強くなれるの?)

 

そして、目の前の画面に映る妖夢。その技は洗礼されており、一振り一振りが芸術のようだとアイズは思う。自らが師と呼ぶその少女は、戦場にありながら手を抜いて相手を圧倒するだけのチカラを持っていた。

 

(欲しい。)

 

アイズは思うのだ。妖夢の技、それを自分が完全に物にした時、さらなる高みえと自分は到れるのだと。だからこそ応援する。ダンジョンに行きたい気持ちを抑え、妖夢を見守る。

 

(頑張ってししょー)

 

アイズは無表情で御褒美のじゃが丸君を齧るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

風が前髪を揺らす、戦意が空間の温度を上げている。・・・どうも、俺だよ。まさに最終決戦と言ったところかな、全員がフル装備で、武器を抜いて睨みを利かせている。動けば・・・戦いが始まる。

 

「とりあえず形だけ聞いておきます。降参しますか?」

 

本当に形だけの降伏勧告。ダリルがニヤリと笑う。キュクロはその表情を更に険しく。エン・プーサも少しオロオロしているが降伏には応じない。

 

「・・・まぁ、予想通りですが。」

 

情報の共有でわかったこと。とりあえずキュクロは石化の魔法、エン・プーサは剣が飛び出る魔法。ダリルが炎を纏うスキルを持っているらしい。武器も見ればわかる。とりあえず俺がキュクロとダリルを受け持つ・・・。

とりあえずハルプと俺で突撃かな。魔力を感じないからまだ魔法は唱えていないはずだ。

 

では―――行きますっ!(『んじゃ――行くぜ!』)

 

地を同時に蹴り、距離を詰める。俺が狙うのはキュクロだ。キュクロは片方の大剣を盾にする・・・だがその行動は既に知っている。胸が地面に付くんじゃないかと思う程に前傾し横を駆け抜ける。ブレーキを掛けながらキュクロの首に向かって刃を奮った。

 

しかし、キュクロは大剣を軸にくるりと周り回避する。そしてその回転のままに大剣で薙ぎ払う。それを往なし、返す刀で足を。だがこの刀だと鎧を抜けない。硬質な金属音に弾かれるように身体を後方にのけぞらせる。大剣が顔のスレスレを通り過ぎる。仰け反った勢のままサマーソルトの要領でキュクロの顎を蹴り上げる

 

「うぐッ!!」

 

そのままポーチからナイフを三つ取り出し投げる。全部弾かれる。・・・硬いな、鎧。楼観剣使おうか?そんな事を考えながらナイフを詠唱しようとしているエン・フーサに投げつける。「ひっ!」と言いながらギリギリで回避した。

 

「・・・!」

 

キュクロが2振りの大剣を上段から振り下ろす。横方向にステップして回避、飛び散る礫を無視し肉薄。すり抜け様に切り払う。火花が散るだけで肉体にダメージは無い。やはり露出している顔か腕の関節部、膝の裏じゃないと有効打は無さそうだ。少なくともこの黒糖&砂糖じゃ。互いの斬撃がぶつかり床がひび割れ互いに後ろに跳躍した。

 

「おわっ!?よ、妖夢っどけっ!」

「ひぁわわわ!」

 

ふえあ!?痺れる・・・!・・・桜花に突き飛ばされた。何が起こってるんですかい?俺はいつの間にか桜花に嫌われてしまったのだろうか。と思っていたら、俺がさっき着地した場所からちょうど剣が飛び出してくる。流石桜花だ、自分ひとりでいっぱいいっぱいだろうに俺を助けるなんて・・・。

 

「ありがとうございます桜花!」

「なに、さっきのお返しだ・・・よっ!」

 

こちらに顔を少し向けニッ、と笑ったあと槍を使って果敢に攻めかかっていった。俺も負けてられないね!

 

「手加減など無用、来い魂魄妖夢!」

 

来いと言われたのでナイフを投げると同時に走り出す。・・・無手で、なぜなら黒糖を放り投げたからだ。「なっ」と戸惑いの声を上げるキュクロを他所に、『よっ!』とハルプが両手剣をこちらにぶん投げる。クルクルと横方向に回転しながら飛んできた両手剣を確りと見極めキャッチし自分も逆らわずに回る。そしてそのままの回転を利用しフルスイング。斬れないなら殴ればいいじゃない。昔から重戦士には打撃武器が有効だと決められているのだ。え?両手剣は打撃じゃないって?重けりゃ打撃になるんだよ、気にしてはいけない。

 

予想外の攻撃にキュクロは大剣を盾にしようとして、しかし、少しだけ動きが遅れた。――一撃目。ガギイィィン!と耳が痛くなる大きな音が鳴り響く。鎧にクリーンヒットした。

 

「うがっ・・・!」

 

少なくとも体重が180は超えるであろうキュクロが真横に吹き飛んでいく。神の恩恵様様ですね。吹き飛んだキュクロに弾幕を放ちつつ接近。

 

素早く立ち上がったキュクロが弾幕に飲み込まれる。ガン!ギン!ゴン!カンカンカン!と金属音が連続で響く。最後の3回が何処ぞのアイドルの解体音とかに聴こえたが気のせいだ。

 

「ぬぅおおおおおおおおおおお!」

 

弾幕をゴリ押しで突き破ってキュクロが突貫してくる。互いの距離が一瞬にして縮まり、肉薄する。大剣では不利と判断したか蹴りを放つキュクロ。しかし残念かな。ベートで鍛えられている俺に蹴りは愚策。しかもそんな隙だらけの蹴りなんぞ・・・・・・ベートの足元にも及ばないな。

 

「な!」

 

回避し膝の裏に両手剣を叩きつける。両手剣や片手剣は刀と違い「斬り裂く」物ではない、「叩き切る」物だ。まぁつまり切れ味は悪い、これ安物だしな。膝裏に強烈な一撃を受けてキュクロが転倒する。そのお腹を跨ぐようにして首元に両手剣を突き付ける。

 

「私の勝ちで「妖夢避けろッ!!」・・・ッ!?」

 

勝利を確信したその瞬間身体を衝撃が襲った。

普段の俺は半霊を使い上から俯瞰する事で死角を作らないように視界を確保している、だからなのか、その一撃に気が付けなかった。

 

「ぐ・・・・・・うぅ!」

 

脇腹を、地面から突き出た剣が貫いていた。痛みが動きを悪くする。そんな俺を立ち上がったキュクロが見下ろす。

 

「勝利への確信はその動きを緩慢にし、勝利と言う美酒はその思考を鈍らせる。・・・迂闊であったな。」

 

ふんっ!と言う気合いと共に俺は蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。桜花と命、それに千草に猿師の声がする。いてて、頭打った・・・。

 

「卑怯などと言うまいな?。元より我ら外道の輩、幼子相手に手を抜く事など出来まいよ。・・・剣を突き立てるのでは無く、端から貫くべきであったな。」

 

あぁ、確かに・・・・・・カッコつけるのやめときゃ良かった。さっさと意識を奪わなかったから・・・。

 

キュクロを守るように満身創痍なダリルとエン・プーサが立ちはだかる。魔法を使うつもりなのだろう。石化、そんなものを使われては確実に負ける・・・。

 

 

 

 

 

 

では―――行きますっ!(『んじゃ――行くぜ!』)

 

妖夢とハルプが飛び出していく。それを妨害しようと動くエン・プーサに桜花は予定通り一直線に突っ込んだ。一切の手加減無しに全力の一突き。当たりどころが良ければミノタウロスすら一撃で屠る。レベル3と言えど耐久のステイタスが低いエン・プーサでは耐えきれないほどの一撃だ。

 

放たれた突きを横目で確認し、慌てながらもしゃがみこみ回避。鎌ごと回転しながら立ち上がる。本当にやりにくい相手だ。と桜花は内心愚痴る。

 

「わわわっ!な、なんで・・・・・・あっ!(さっきの人だ・・・どうしよう、不本意とはいえ色々言っちゃったし、絶対に怒ってますよあの目は、うぅ、怖い、でもヘカテー様の為にも頑張らなきゃいけない。けど怖いなぁ、早く二人の元に逃げたい・・・!」

 

(・・・いや、声に出てるんだが・・・。って違う、コイツのペースに呑まれるな!)

 

桜花は連続で突きを繰り出し、相手に合流を許さないように少し位置を調整する。

 

「はうぅ・・・こ、こうなったら魔法を・・・【地は震えふひっ!!】な!ナイフが飛んでくる!?どうしよう逃げられないよぉ・・・こ、こうなったら!私は強い・・・私は強い・・・・・・・・・」

 

(ナイスだ妖夢!魔法の詠唱を止めたぞ!・・・はぁ?・・・何なんだよコイツは。私は強いって・・・あぁ、なるほど、自己暗示の類か。戦いにおいては重要だがやり過ぎて慢心になるのは危険だから程々に)

 

「スーパーガーール!」

 

(って何か妖夢が昔言ってたネタがっ!?何をやっているんだ妖夢はっ!?)

 

思わずツッコミを入れようと妖夢の方を向く桜花、しかしそこには真面目に戦っている妖夢の姿が。

 

(・・・あれ?普通に戦ってるぞ?聞き間違えか・・・?)

 

「うふふ・・・うふふふふ?嫌ね、私とヤッテいる最中なのに、他の女の方を向くの?つれない殿方は嫌いよ?私」

 

(・・・・・・・・・へ?)

 

唖然とする桜花。蠱惑的な雰囲気でポーズをとる何か。その場に流れる不思議か空気。戦闘とは何だったか、こんなピンク色な背景がありそうな物だっただろうか?

 

「【千刃】!」

「おわっ!よ、妖夢っどけっ!」

 

(俺としたことが・・・!あんな物に引っかかる何て!)

 

飛び出してくる剣を内心泣きそうになりながら回避する。団長なのに女の誘惑に動揺してあまつさえ魔法を使わせてしまうなんてと桜花は自分を叱咤する。

 

(俺はもうダメかもしれない。色んな意味で。しかもぶつかってきた妖夢を守る為とはいえ突き飛ばした・・・。)

 

「ありがとうございます桜花!」

「なに、さっきのお返しだ・・・よっ!」

 

 

妖夢の感謝と純粋な尊敬の目線に耐えきれず、桜花はさっさとエン・プーサとの戦闘を再開させる。

 

「どうだ。少し・・・ゲームでもしないか?」

「あらら?私との運動じゃあ物足りなかったかしら?それとも新しい趣向を試してみたいのね・・・?」

 

互いに一歩も譲らず激しく切り結ぶ。弾かれると同時にそう提案する桜花にエン・プーサは首をかしげた。

 

「お前の魔法で俺を貫けたらお前の勝ち。俺の魔法でお前が貫かれたら俺の勝ち。・・・・・・悪くないだろう?」

 

そう言うとエン・プーサが、うふふと笑う。

 

「悪くない・・・?いいえ悪いわ?」

 

そう言ってエン・プーサは片足を持ち上げる。魔法を放つ気であることは明白。

 

(・・・やっぱり乗らないよな・・・魔法の詠唱時間稼ぎは出来ないか・・・多少の消耗を視野に入れて部屋に入る前から魔法を使っておくべきだったか・・・。)

 

桜花は片手を上げ、千草に合図する。千草が弓を構え出番を待っているのだ。

 

(まぁ・・・それだって予想通りだ)

 

「だって・・・・・・悪者ですもの、私達。都合のいい事しか受け付けないわ?」

 

足を振り下ろすほんの少し前に桜花が上げた手を振り下ろす。不思議そうに首を傾げるエン・プーサ。

 

「【穿て、必中の一矢。】――「!?」」

 

確かにその耳に届く細く高い声。放たれるのは弓神を模した回避困難な一撃。そして、それを放つのは千草。

 

「【弓神一矢(ユミガミノイチ)】ッ!!」

 

真っ直ぐに凄まじい速度で放たれたそれはエン・プーサに迫る。しかし、驚きのままに叩きつけた足から魔力が地面に浸透し、大量の剣が地面から飛び出す。それは宛ら防壁のようだ。しかし、まるで意思を持っているかのように矢は剣を回避(・・)しエン・プーサの肩に突き刺さる。千草が持つスキル『千里眼』によって壁を作られた所で見えなくなる訳では無い、そして、【弓神一矢(ユミガミノイチ)】、あの魔法は矢の威力と速度を上げつつ矢の起動を操作する事が出来るようになる魔法だ。弓が一番得意な千草うってつけの魔法だ。

 

「いっ・・・・・・・・・!?」

 

よろめくエン・プーサ。勿論そこがチャンスである事がわからないほど桜花は馬鹿じゃない。その隙に魔法を唱える。

 

「【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】」

 

魔法とは形勢を逆転させる切り札だ。隙が大きいだけに得られるメリットも大きい。

 

「【武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)】!」

 

素早く詠唱を行う。桜花がこうやって詠唱するのは妖夢と昔からやっていた事だ。どれだけ早く、どれだけ噛まずに言えるかで勝負をし、途中で参加した千草が常に勝ってきた、アイツだけ超短文詠唱だからな・・・。

雷を身に纏う。神経や筋肉が電気により活性化し、身体が動かしやすくなる。肉体へのダメージも存在するがスキルで押さえ込む。

 

剣が飛来する。桜花から数m付近まで近付いた瞬間バチッと言う音に続いて桜花が回避する。

 

バチバチ、バチバチと何かが弾けるような音を上げながら隙間などほとんど無いであろう剣の沸き立つそこを駆け抜ける。電気を周囲に流す事で自分に近付いた剣を察知し、回避しているのだ。

 

「くっ・・・!当たりなさい!」

 

天井や床から剣が沸き立つ様に飛び出す中を雷を纏った桜花と千草の放つ矢が突き進む。傍から見れば無謀な突進。見るものが見れば確信を持った追撃。

 

「なら・・・これで!」

 

千草の矢は魔力に反応し、回避行動を取るのだと予測したエン・プーサは自らの手で鎌を振るい、矢を切り落とそうと振り下ろす。それは確かに正確で矢を打落す事が出来たように思えたが、矢はエン・プーサの太股に突き刺さっていた。

 

「いっ・・・つぅ・・・!・・・!?!?」

 

痛みに耐えかね視線を外した為に桜花の攻撃に対応出来ず肩を貫かれ、蹴り飛ばされ吹き飛ぶエン・プーサ。転がりながら体勢を立て直し鎌を地面に突き刺しブレーキとして停止。肩を押さえつつ、キュクロに馬乗りになっている妖夢の方に視線を少し向けた。

 

「ごめんなさい、ビリビリは私には合わなさそうだわっ!」

 

と鎌と足を地面に叩きつける。剣が地中を移動し妖夢に向かっている事に雷の機動から桜花は気がつき叫ぶ。

 

「妖夢避けろ!!」

 

しかし、叫び声よりも早く飛び出した剣が妖夢の脇腹をを貫く。そして立ち上がったキュクロが妖夢を蹴り飛ばす。

 

「くっそ!」「「妖夢殿!?」」「妖夢ちゃん!」

 

 

 

 

 

俺だ!砂糖を使ってダリルと戦闘中。槍が物凄い速度で突っ込んでくる。槍の攻撃は刀や剣と違い、線ではなく点だ。まぁ簡単に言うと防ぎにくい。でもまぁ知ってる攻撃は通用しないぜ。

 

『ほっ、よっ、みょん!』

 

武器がぶつかる度に火花を散らす。そしてどんどん熱くなるダリル。誰だよこいつに変な二つ名付けたヤツ、修造に変えるべきそうすべき。

 

槍をしゃがんで回避し、弾幕を放てば右手に持った剣で撃ち落とされる。そして爆音。ドドド!って感じの小さな爆発が連続で起きている感じだ。理由は俺の後でウキウキしてる猿師、爆薬を丸薬の大きさに固めた物の様で、本来はニン=ジツで引火させる見たいだが、今回の敵は勝手に燃えてるので楽そうだ。でも、その、俺も若干巻き込まれていると言うか・・・その・・・でも楽しそうだし仕方ないか。

 

「チィッ!!クソが!やりズレぇ!」

 

ヤケクソになって来ているダリルを俺が正面から相手取り、命が弓を使って矢を放つ。それを迎撃しようとしたダリルだが、目の前で爆発した爆薬に視界を奪われ、矢が耳を削いでいった。

 

「があぁぁア!」

 

痛みに悶えたダリルを置いて、俺は本体の要求した両手剣を『よっ!』と放り投げる。本体が黒糖を高く放り投げる。それと同時に俺はダリルの元に走り出し、一閃。槍で防がれるが砂糖を滑らせるように動かし裏に回り込む。すると勿論ダリルは背を取られないようにこちらを向くわけで。

 

「あがっ!?」

 

と後頭部に黒糖の柄の部分が直撃する。惜しい!即死コースだったのに!・・・いや危なかった!?

 

向かってくる黒糖を掴みとり黒糖と砂糖を持ってジャンプ斬りだ!弍刀ハ壱刀ニシテ弍刀ニ有ラズ(にとうはいっとうにしてにとうにあらず)のスキルが発動したのか、ステイタスの上昇を感じる。

 

「ぐおっ!?」

 

ぶつかりあった衝撃で火花と火の粉を散らしながらザザー!っと滑るように押されて行く。そして、それを見た猿師が飛び蹴りをダリルの横っ腹に決め、ダリルが呻きよろめく、そこに更に追撃をしようとしたが

 

「クッソガアアアァァアア!」

 

と更に熱くなった。熱い、暑い。やめて欲しいなアイツだけでこの部屋の温度が10度以上熱くなってるよ。まぁ、怒りたい気持ちもわかるよ?ほぼ完封されてんもんな、俺だって何も出来ずに10割削られたら台を叩くぞ。バン!バン!

 

「その顔うっぜえぇんだよォ!!燃やし尽くしてやる!」

 

な、なんですとぉ!この超絶美少女ハルプ君になんと言う暴言!許せん!・・・う、うん恥ずかしいし辞めよう。てか何だよあれ、剣と槍に火の粉が集中したと思ったら何かすっごい燃えてる!これは便乗せねば!

 

『いいねぇ!炎対決だっ!どっちが熱いか勝負だな♪』

 

ニコニコと笑いながら朧・焦屍剣と火炎斬りを同時に使用する。レベルも上がり、耐久ステイタスも上がったから結構耐えられる。めっちゃ熱いけど。

 

「な・・・うそだろ?・・・は、はは。何でも有りってか・・・最高におもしれぇ!!塗り潰してやらァ、俺の炎がなァ!」

 

剣戟の音があちこちで響く中、俺達は炎のゴウッ!て音が。

 

『焼け死ぬんじゃないぞ?俺達はお前達を殺しちゃダメなんだ。タケとの約束でな。だから加減するけど・・・・・・死ぬなよ?』

 

大事な事なので二回言いました。死なれると困る、主に俺のお尻が。約束を破るとお尻ペンペンが待っているのだ、言っておくがヤラシイ物じゃない。そんな生易しいものではないんだ・・・思い出すだけで痛くなってくるが・・・。

 

「ハッ!たりめぇだ!」

 

一気に熱量が上昇する。そして一気に接近してきた。お互いの炎がぶつかり合い、火の粉と火花を激しく散らす。互いの熱が重なる事で最強に見える、だって命の矢が熱で弱くなってダリルの皮膚に弾かれたぞ。

 

度重なる斬撃、互いにしっかりと足を固定し、全力で切り結ぶ。時間にして10秒。斬撃にして数十。互いの武器が全力でぶつかりあった。でも、少し俺は詰が甘かった。相手はスキルで、神の恩恵で炎を出している。武器に対する負担も少ない。それに比べ俺はどうか?武器そのものを強引に加熱させている、つまりは脆くなっている訳で・・・。

 

『だよな・・・!』

 

レベル3が織り成す全力の剣舞に耐えきれず、黒糖と砂糖が弾ける。やっぱり砂糖逹は熱に弱いか・・・!

 

ダリルの追撃に備えようとした時、ダリルがバックステップでキュクロに合流した。本体がだいぶ痛い一撃を貰ったらしい。取り敢えず本体に戻ろうか、死角があるとエン・プーサの魔法が厄介だからね。

 

俺は楼観剣と白楼剣を魔法で作り出し、妖夢に渡し、半霊に戻る。意識も妖夢に戻した。

 

 

 

 

 

 

妖夢は痛む脇腹を楼観剣を持った手で押さえ、キュクロを睨む。

 

「お前達は強い、互いを信頼しているのは勿論だが、個々の技量が飛び抜けている。」

 

だからこそ、とキュクロは繋げた。

 

「勝って示さなくてはならないのだ、我が主に。」

 

大剣を自分の左右に突き刺し、失った眼を片手で覆う。

剣が山となりキュクロの背後にそびえ立つ。左右と背後からの攻撃を防ぐ気のようだ。

 

「主に忠義を示すために、お前達を供物として捧げん!」

 

何が起ころうとしているのか、その場にいた皆がわかった。魔法を使う気なんだと。桜花の一声に千草の魔法により強化された矢が放たれる。それに合わせ命も矢を放つ。

 

「させねぇよ。」

 

劫炎が立ち上がる。矢がすべて消え去った。再び全身に炎を纏ったダリルが立ち塞がる。そして詠唱が始まった。

 

「【矗立(ちくりつ)する巨人、硬直する人々。終わりの時が来た。赦し(ゆるし)を請え、眼に映る己を見つめろ】」

 

「貫きなさい、串刺しにして高々と持ち上げるのっ」

 

剣が乱立する。誰かを狙うのではなくランダムに適当に、至るところから剣が飛び出して接近を許さない。

 

(不味い、不味い、不味い!ここまで来て・・・!やっと助けたのに?あんなに斬ったのに?こんな所で負けちゃうのか・・・?)

 

【魔化石眼】(キュクロ・キュベレイ)ッ!!」

 

(嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!)

 

――否定する。魂は奮起する。負けてなるものか、終わってなるものかと。

 

――否定する、己の敗北の『可能性』を。家族の終わりの『可能性』を。

 

――ゆらり。身体が不意に動いた。口が何かを紡ぐ。それは言いなれない物で、彼女彼からしたら異音に違いない。されど、親しみ懐かしみ、暖かくも冷たい響き。

 

(タケとの約束を破ってしまうかも知れない・・・・・・けど、ここで何かしなかったら何もかも・・・また!失う!!!)

 

楼観剣を逆手に持ち、地に突き刺した。目を閉じる。そうすることが酷く自然に感じた。

 

「――ッ!!【亡骸溢れる黄泉の国――】」

 

――肯定せよ、自身の勝利を。確定せよ、勝利の『可能性』よ。

 

ステイタスが下がる。足から石化していく。千草が再び石化した。命が既に首まで石化してきている。桜花すら腰周りまで石化が進んでいた。

 

「―――【咲いて誇るる死の桜。】」

 

魔力と霊力が楼観剣を起点に嵐のように吹き荒れる。石化されているが故に、その場に踏みとどまれる。キュクロ達がまるで壁に押されるかのように下がっていく。ダリルの炎がかき消される。

 

石化が進行していく。命が完全に石化した。桜花が口元まで石化し、目を見開いて妖夢を見ている。妖夢の腰まで石化が進行する。

 

「―――【数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。】」

 

大量の魔力が、霊力が一挙に収束していく。するとどうだろう、まだ魔法を唱え終えていないというのに楼観剣を抜き、キュクロ達を指し示す。

 

「あ――ガアアアアァァアァアア!?!?」

「ぐぅ――がはっ!?ぐうぉああ・・・ゴフッ!」

「きゃぁぁあああ!!」

 

突然叫び声を上げ全身の血管を浮き上がらせながらのたうち回るキュクロ達。血を吐き、地を這い、もがく。

 

(雑音がうるさい・・・。ノイズが走る・・・!魔力も霊力も足りない・・・視界がぼやける・・・)

 

「【嘆き嘆いた冥の姫。】」

 

キュクロ達の体から桜の木の枝が飛び出してきた。果たしてそれは何処から生えたのか、肉か、血管か、心臓か脳か。赤々と血を滴らせ、生命を求め枝葉を伸ばす。人がまるで盆栽のように変化していく。

 

しかし、枝の動きが止まる。妖夢が完全に石化したのだ。しかし、悲劇はここからが本番だった。

 

――ノイズ――――が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ここは――?何処だ?また、アイツの所か?

 

しかし、そこは日本の庭園の様な場所。けして何も無いただの空間ではない。初めて見るのに、懐かしい。

 

――?違うのか・・・。

 

「ゆゆこさま〜!」

「あら〜妖夢っ!可愛いわねぇ・・・食べちゃいたい!」

「幽々子様、お戯れを。」

「わかってるわよ妖忌、そんなに怒らないの」

 

――!?!?これは!?・・・・・・妖夢の・・・過去?

 

視界が加速する。そして再び屋敷に。

 

「そうなの、強くなりたいみたいだから。」

「そう・・・・・・。可愛い子には旅をさせろ、と言いたいのね?」

「そうよ、何か良いところ知らないかしら」

「そうね―――――」

 

視界が加速する。何も無い空間に到達する。

 

「やぁ君か。どうしたんだい?」

 

駄神がおどける様に笑う。まるでわかっていたように。

 

――え、・・・?

 

「・・・ん?混乱してるのかな?大変だねぇ、まあ俺ほどの神様になれば余裕だけどね」

 

胸を張り、自嘲気味に答えた。

 

「・・・・・・ごめんよ、助けるのが遅れたみたいだ。それと、もう君達の勝ちみたいだよ。そろそろ体に戻ってあげるといい。君、の・・・家族が心配しているよ?」

 

そして心配層に、割れ物を扱う様に優しく語り、笑う。それは何かが壊れるのを酷く恐れているようで・・・。

 

―あ、あぁ、そうだな。わかったありがとう・・・。

 

腑に落ちない、疑問が増えるばかりで解消されない。確かな頭痛を感じながら俺は、肉体に戻された。

 









はい!・・・伏線をいくつか作って戦争遊戯は終わりですね。西行妖については次回に少し解説があります。そしてお待ちかね次回はオッタル&ベートが登場!オッタル視点も有り!この小説のヒロインの1人であるオッタルさん出ますよ!(謎のオッタル推し)

そして2人の団長のステイタスも公開します

名前 ダリル・レッドフィールド

二つ名【爆裂劫炎(ボンバー・フレイム・ボンバー)】

ステイタス
力B
耐久D
敏捷A
器用C
魔力G

使用武器
左:槍
右:剣

発展アビリティ
【狩人】【火耐性】

スキル

紅焔憤怒
・戦意や怒りで感情が昂ると発動。
・火の粉を纏う。
・感情の度合いで効果が上昇。

戦闘傾倒

・戦闘になると敏捷が上昇する。
・理性を失いやすくなる。


エン・プーサ
【魔鉄淫獣】

【ステイタス】
レベル3
力C
耐久H
敏捷C
器用A
魔力A

使用武器
大鎌


【発展アビリティ】
魔道、吸魔

スキル

魔法浸透
・持続的使用前提
・物に魔力を馴染ませる。
・魔力に馴染んだ物体は杖の変わりになり、魔法の制御を助ける。

魔法

『千刃』(ブレイド)

【地を震わせる怒り、打ち据える鉄。貫け剣(つるぎ)よ、突き刺せ剣(けん)よ。】

・短文詠唱
・使用者の一定範囲に魔力をばらまく
・剣を出現させる。


さて、彼らはほんとに使い捨て位の感覚で作りましたが・・・何時か再び会える日はあるのかな? あ、あとこの人もですよね!


黒ひげのような男と言われている彼。

レベル2
力G
耐久C
敏捷F
器用D
魔力i

発展アビリティ【狩人】

スキル

「絶対的平和空間」(ハッピー×3)
・シリアスを破壊する事で発動。
・シリアスを破壊した時、ほぼ全ての攻撃によるダメージを無効化、若しくは大幅に軽減する。
・スキルが発動している際は致命傷を受けない。

【備考】
エロス・ファミリアの最初の3人の内の1人。1人はキュクロ、最後の一人は桜花に槍で瞬殺された人。根は真面目で良い人。スキルの都合上おふざけが必要で、話し方は黒ひげを参考にした。

「拙者」「ござる(ごザル)」が被っているというだけで闘争心に火がつき猿師と戦い、毒物で不意を突かれ敗北。以降は一人称を「某」に変えた。


名前すらないモブだと言うのにこの待遇よ・・・名前とか募集してみようかしら?絶対に『ティーチ』になりそうだ、やめておこう。いやむしろもうティーチで良いんじゃないかな?

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