オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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キュクロ達はどうなってしまうんだ!


というわけで34話ですー。












34話「私たちの勝ちです。」

「あぁあああああああああああああ!!!」

 

木が、体を裂いて現れる。血肉を突き進み、その顔を外に顕にした。

血が溢れ出す、木に恵みを与えんと献身するように。肉が、骨が、血管が見える。

 

「と・・・まぁれぇええええええ!」

 

キュクロが地面をのたうち回りながら全力を眼に込める。石化すれば、止まる筈。あまりの激痛に思考がままならない中、すべてを注ぎ込む。

 

「あぁああああああああああ!!!」

 

絶叫、激痛。それが誰のものであるかも既にわからない。叫び声が反響し耳を打つ。わかるのは身体が痛いこと。死が、迫っていること。

 

足が裂けた。腕が裂けた。腹を突き破り木の枝が生えた。刀すら防ぐその鎧をいとも容易く押しのけ隙間から顔をのぞかせる。

 

妖夢の口までもう少し、もう少しで石化する。もうすぐで痛みから開放される。その一心で、瞳に魔力を込め続ける。

 

魔法陣が張られたその眼から―――枝が伸びる。

 

「ぐっおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

咆哮する。それは忠義の叫びでも戦士の雄叫びでもなかった。死に逆らう生物の慟哭。すべての魔力を使い果たし

 

 

――――――石化が完了した。

 

 

そして、爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の生臭い匂いが鼻腔をくすぐる。赤がそこには広がっていた。血の湖に倒れるのは3人の冒険者。

 

「なに・・・・・・が・・・・・・?」

 

桜花が困惑の声を洩らした。石化が解け目の前を見たら血の海。それ程に凄惨な光景が広がっていた。部屋はあちこち罅だらけ。何が起きたのか・・・それを説明するのは簡単だ。

 

まず、魔法とは詠唱が終了して初めて効果を発揮する。だからこそ長文詠唱は隙が大きく、短文詠唱は使い勝手がいい。

 

しかし、現に【西行妖】は超長文詠唱であるにも関わらず、その効果を詠唱途中(・・・・)にも発動させた。この時起きた効果が『対象からランダムで枝葉を発生させる』と言うものであった。しかし、これはあくまで前段階、本来の効果とは異なるが・・・今は置いておこう。

 

今回の詠唱は失敗(・・)した。キュクロの魔法によって石化した為に、詠唱は強制的に破棄された。では魔法の詠唱が失敗すると何が起こるだろうか。・・・それは魔法暴発(イグニス・ファトゥス)、魔法の詠唱途中の制御の失敗の際に起きる爆発現象。

 

本来ならば魔法爆発の発生は術者を中心としたものだ。本人の魔力を使い発動をさせようとしているのだから当然なのだが・・・・・・今回は違う、今回爆発した物・・・それは楼観剣と発生した桜の枝葉だ。

 

楼観剣は魔法の媒体になる、それはある種の安全装置であり、詠唱の起点。大量の魔力と霊力が1度楼観剣を通る事で西行妖はその『縁』を強くし、再現される。そして、最終的な魔力と霊力の塊は木に姿を変え、敵を内側から食いちぎった。

 

そして、失敗。魔力爆発が起きたのは楼観剣と桜の枝。つまり肉体から生えた桜の枝葉が爆発したのだ。体を内側から突き破り顔を出した木の枝が体内、体外で爆発した。枝葉は見た目と違い大量の魔力と霊力を保有していた為に、その威力は凄まじい。その威力たるや耐久のステイタスが一番高いキュクロが死にかける程、耐久が低いエン・プーサに関しては生きているのが不思議なレベルだ。

 

しかし、それ程の爆発を前に妖夢達は無傷だった、なぜなら石化していたから。哀れな事に、勝利を確信したキュクロ達を襲ったのは盛大な自爆に他ならない。もしも石化をしていなかったら結果は違ったのか・・・そんな事は無い。

 

失敗は必然であったのだ。そもそも、この魔法を使うには魔力も霊力も足りないのだから。現在のレベルでこの魔法を使うには最低二つの詠唱が必要で、最終段階まで発動させるには・・・・・・四つ以上の詠唱が必要だろう。

 

「ぁ・・・・・・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・ぃ・・・た・・・かハッ!」

 

呻き声が痛々しい程に響く、猿師が治療を施している。いや施そうとしている。

 

「・・・これは・・・丸薬ではどうにもならないですね」

 

猿師が呟く。その視線の先には体の至るところが抉れているエン・プーサの姿が。太股、腹から枝が生え、それが爆発したのだろう。太股は骨が丸出しで、腹は内蔵が殆どやられている。神の恩恵が無ければ間違いなく即死であった。

 

「ぐ・・・お・・・ぉ・・・が・・・は、・・・ぬぅ!」

 

キュクロが呻き声を上げながらうつ伏せになり立ち上がろうともがく。しかし、誰も武器を構えることは無い、無理なのだ。膝から下を失ってしまっては立ち上がる事なんてできるわけが無い。出血が多すぎるためか、半分失った顔を蒼白にし、もがく。

 

「少し大人しくしていなさい。治療はすぐに行います」

 

猿師が強めの口調でそう言った。実は彼だけが石化から逃れていたりする。猿師が危ない時に飲めと渡した薬は石化の解除薬であった。だからこそ爆発のあと素早く治療に移れたのだ。

 

「・・・・・・は!妖夢殿は!?」

 

命が妖夢を探して妖夢が居たところを見れば、そこに妖夢が倒れている。駆け寄って様態を確かめる。気絶しているだけの様だ。近くに半霊が浮かんでいる。

 

「良かった・・・気絶してるだけだね」

 

千草が凄惨な光景に顔を青ざめさせながらも妖夢を心配して駆け寄る。しかし、妖夢の顔に手を触れようとしたその時!

 

「ハッ!ここあぎゅ!?」

 

はっ!ここは!。そう言おうとして千草とおデコを激しくぶつけ悶絶する。

 

「「あいたたた・・・」」「ふふ、何をやっているのですか」

 

一瞬にしてシリアス&SAN値ピンチ状態を吹き飛ばした妖夢は、しかしシリアスに戻る。テクテクとキュクロの前まで歩いていく。

 

そして刀を首元に突きつける。

 

「私たちの勝ちです。」

 

キュクロは答える。その半分しかない顔に苦悶と恐怖の表情を浮かべながらも、どこか満足げだ。

 

「そして、・・・我々の敗、北だ・・・。忠義すら、貫けぬ自分に、勝機な、ど元、より、無かっ、たか・・・」

 

息も絶え絶えに、笑う。恐怖を押し殺して虚勢を張る。

 

「ええ、私も驚きました。もうすぐ負ける所でしたから。」

 

ニコリと笑い、キュクロの元にポーションを置く。半霊からゴロゴロとポーションが出てくる。妖夢はそのうち1本を使い魔力と体力を回復させた。

 

「自殺なんて考えないで下さいね。舌を噛み切るならポーションを口に突っ込みます。腹を切ろうものなら傷口に強引にそそぎ入れますので」

 

そう言って妖夢は立ち上がって命達の元に向かう。しかし、キュクロはその背中に声を振り絞る。

 

「自分の・・・腰、に。万能薬が、ある。自分はもう、いい。2人に、飲ませてやってくれ・・・!」

 

無事な方の腕で万能薬を取り出し目の前に置くキュクロ。妖夢は頷き半霊を使って万能薬を回収し、猿師の前に落とす。

 

「・・・・・・・・・死ぬ、事すら、許され、ぬか・・・。あぁ・・・・・・・・・ままならぬ、な・・・ぁ・・・」

 

何処か遠くを見つめ、嘆いた後にガシャンと重い金属音がキュクロの限界を周りに告げた。

 

「さ、全部終わりました!帰りましょう!」

 

おー!と3人が手を掲げる中、猿師と桜花がガクッ!となる。

 

「怪我人の手伝いとかしないのか?」

「え?・・・する必要、あったんですか?」

「・・・・・・まぁ確かに気持ちはわかるんだが・・・」

「いやぁ済まないでごザルなぁ、中庭に転がっている五体満足な冒険者は・・・あと1日は起きないでごザルな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだよ、あれ。

 

誰のものとも解らない一言が、その場のタケミカヅチ以外の内心を代弁していた。

 

「ふぅ・・・良かった。誰も死者は居ないな」

 

タケミカヅチが安心した様に息を漏らす。視線がタケミカヅチに集中する。

 

「なあタケ、あれは何だったんだい?なんで安心しているんだい?あんな濃厚な『死』の気配なんて僕は知らない。まだ死神の方がましだよ」

 

ヘスティアと思いは同じなのか大多数の神が頷く。タケミカヅチは首の後ろを解しながら言うか言わないか迷う。

 

「タケミカヅチ教えてくれ、アレは何だ?」

 

ヘルメスが何かを焦ったように真剣な表情で問いただす。タケミカヅチはどう説明すればいいかを少し考え、しっくり来たものを声に出した。

 

「あの魔法は西行妖。最後まで発動すると相手は死ぬ」

 

至極真面目な表情でそんな事を言ってのけるタケミカヅチ。誰も笑わない、誰も話さない。何故ならば感じたのだ、『あれは神をも殺しえる(・・・・)』と。枝葉が生えた瞬間に悪寒が背中をなで回し、舌が体を這うように全身が硬直しかけた。超越存在である『神』が、だ。

 

「いや〜良かった・・・、発動しなくて安心したぞ・・・魔力が足りないとはいえ妖夢の事だ、発動しても可笑しくない」

 

タケミカヅチは力が抜けたように椅子に凭れ掛かる。

 

「人殺しにする訳にはいかないからな」

 

しばらくしてタケミカヅチは立ち上がる。

 

「さて、エロス共に要求を叩きつけてやろう」

 

疲れた様なその背中を誰もが目で追い、話し掛けることは無かった。タケミカヅチが居なくなってしばらく無言であったがロキを筆頭に少しずつ会話が増える。

 

「はぁ、また妖夢たんはウチの度肝をぶち抜いていくなぁ。あの死の気配、ウチら神やからこの距離でも感知できた、多分子供達は感知してへんやろうな。」

 

「その方が良いだろう。・・・あの者達は逆に近過ぎて感知出来ないだろうな」

 

「うんそうだね。危険はあるけど・・・まだ使えないんだろう?タケの事だ、きっとしっかりと言い聞かせてくれるさ」

 

 

 

 

 

 

 

オラリオの頂上。銀色の女神フレイヤはタケミカヅチが出ていった後すぐさまその場をあとにし、ここ自分の部屋に戻ってきていた。

 

「あぁ!欲しいわ!あの娘が欲しい・・・!」

 

恍惚とした表情で自分を抱く。月に照らされる艶かしい肢体は男達の目を釘付けに来て余りある。

 

「・・・はぁ・・・オッタル」 「はっ」

 

岩男の様に待機していたオッタルがフレイヤの隣まで来て言葉を待つ。

 

「接触して。どうにか彼女を私の物にしたいの、けど・・・」

 

と従者にどんな難題を出せば困惑し迷いながらも愛おしく努力するのかを考える。そして、結局はこれが一番だろうと選択した。

 

「怪我をさせないで仲良くなって連れてくるのよ?」

「・・・はっ!」

 

オッタルが部屋を出ていく。オッタルはどうやって仲良くなろうとするのか。どんな愛しいすがたを見せてくれるのか。

 

「うふふ・・・全部、楽しみだわ・・・」

 

 

 

 

日が登り初め、人々が新たなる朝に活動を開始し始めた時。再び街中に映像が流れた。人々がその歩みを止め映像に見入る。そこにはタケミカヅチとエロス連合の姿があった。

 

 

 

 

俺は目の前に居る神達を睨む。エロス、ヘカテー、ダイチャン。すべてが戦争遊戯に参加したファミリアだ。そして、千草を攫い妖夢を辱めようとしたクズどもである。

 

さて、条件は「何でも」だった筈だ。どんなものを要求しようか・・・金、武器防具、人員。その位か?いや、まぁとりあえずコイツらは天界に吹き飛ばすとして・・・あー、でもそれで諦めがつかないから天界から手を出されるかも知れないな。

 

ふむ、人員か・・・・・・デュアル・ポーションや猿師の丸薬とかの採取が現状余り無いからな。クエストを出すのも良いがやはり自分のファミリアで取りに行けたほうがいいだろう。よし、人員は決定か。いや待て、妖夢の武器を作れる人物が必要か・・・?キュクロを・・・いや、あいつがコンバージョンするとも思えないな。

 

ん・・・長々と思考していたらどんどんアイツらの顔色が悪くなっている。ざまあみろと言っておくか。

 

・・・まだか?妖夢のヤツ遅いな。うーむ、他に奪えるものって何かあるか・・・?

 

『とーーーうっ!』

「うおっ!?」

 

ってハルプか。

 

『よしっ!タケ!アイツら殴っていいか!?いいや限界だ殴るね!』

「いや待て待て待て!!!」

 

どうどう、落ち着けハルプ。飛びかかるんじゃない。ここは互いの意見の交換を先にしてだな。

 

『フー!フーー!』

「猫かお前は」

 

思わずツッコミを入れてしまった。だが・・・ふむ。殴る、か。死なない程度に痛めつけてオラリオから追放させるか、うん、これ最高だな。

 

「決まりましたカ?・・・・・・ではどうゾ」

 

「こちらからの要求は・・・・・・まず、ファミリアの全財産をこちらに渡すこと。」

 

うぐっ!と声がする。

 

「ま!まて。まず、と言うことはまだあるのか・・・?」

 

は?何を言ってるんだコイツは・・・数なんか指定されてないだろ。

 

「数に制限を設けられていないからな。財産、と言うのはヴァリスは勿論、人員も含む、しかし人員に関しては欲しい者だけ貰う。勿論お前達のホームも財産の内に入るぞ。そもそも、「協力をしたのだから我々も罰を受ける」と言ったのはお前達だろう?本来はエロスだけで良かったんだがな」

 

エロス達の顔が蒼白になっていく。

 

「そして、エロス達はギルドからの罰金を自分で働いて返すこと。罰金以外の事は知らん、ギルドに聞け。あぁ勿論お前達の団員は残りたいものがいるならそいつと働くといい。まぁ恐らくだがダンジョンは使えなくなるだろう。がんばれよ。そして、ギルドの許しが出なかった場合は・・・オラリオからいなくなれ、永久に」

 

エロスが白くなった。燃え尽きてしまったらしい。

 

『それと!俺とタケはサッカーがしたいぞ!』

 

エロス達が「えっ?」と疑問符を頭に浮かべ・・・少しだけ希望を持ったようだ。・・・哀れな

 

『だからお前達ボールな!!』

 

あんな物を蹴ったら汚れると思うんだが・・・。まぁ、仕方ない。のびのびと成長するにはやっぱり運動は大事だからな。よし、お父さん頑張っちゃうぞ!妖夢から昔教わったファイヤートルネードを使う時が来たか・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっすおっす!妖夢だぞ。今日はパーティーをする事になっているんだ!何のパーティーかと言うと、勿論千草を取り戻せたこと、戦争遊戯に勝ったことだな!

 

・・・・・・・・・いや、うん。

 

「あっ!てめっ!俺の肉だぞそれ!」

「へへーん!早い者勝ちだもーん!あーむっ!ん〜美味しー!妖夢ちゃん料理上手だねー!」

「このバカゾネスがァァ・・・!」

「あれれ?もしかして妖夢ちゃんの手料理が食べたかった?あー、ごめん、気がきかなくて」

「よし!ぶっ殺す!!!」

 

・・・・・・あ、えっと・・・。

 

「うんまーーーーー!妖夢たんの料理うんまーーー!こっちは?!「あ、わ、私ですっ。肉じゃがです」うまあっ!千草たんのもうまいな〜!」

「はいっ♪団長あーーん」

「ティオネ、酔ってるのかい?」

「うふふ?まだお酒は出てきてませんよ?」

「・・・・・・あ、アハハ(ダレカタスケテ)」

「ガッハッハッハ!旨いな!やはりこうでなくてはいかん!酒!酒はまだか!?ぬぉおお!酒!飲まずにはいられない!」

「全くお前達は・・・今回の宴はタケミカヅチ・ファミリアの・・・ん?どうしたアイズ」

「ん、取って」

「あぁ醤油、だったか?癖になる味だな。ほら、これでいいか」

「うん」

 

・・・・・・な、なんか・・・入りづらいというか・・・なんというか・・・命も千草も桜花も苦笑いしてるし・・・。

 

「妖夢?食べなキャ、大きくなれないヨ?」

「え?あ、はいいただきます」

 

余計なお世話じゃボケ。身長とかきにしてないですぅー。全く・・・。

 

ドンドンドン

 

ん?お客さんかな?

 

「少し見てきます。」

「うん、行ってらっしゃイ」

 

はぁ、まだ増えるのか、いやいや、そんな事考えたらダメだ。美味しいって言ってもらうのはすごい嬉しいし、祝に来てくれてるんだからそりゃもう飛び跳ねたい程嬉しいけど・・・・・・戦争遊戯の後のいろんな手続きが必要で、疲れていて眠いのです。ちなみにロキ・ファミリア、ミアハ・ファミリア、ジジさんと色々な人が来ている。ヘスティアはベル君の看病に向かったらしい。

 

「今出ますー!・・・はい、どちら様・・・・・・で、すか?」

 

そこには壁・・・・・・オッタルが立っていた。

 

「みょぉおおおおおおおおぉおおおん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふむ、どうしたものか。俺はこうしてタケミカヅチ・ファミリアの前で立ち往生していた。現在は正午、とてもじゃないが酒盛りには早い。しかしだと言うのに中からは喧騒の声がチラホラと・・・・・・。やはり、危ないのではないだろうか、あの中に突撃し、制圧する自信はあるが魂魄妖夢を守り切れる気がしない。

 

しかし、フレイヤ様の命令である以上入らねばならない。とりあえずベート・ローガその他ロキ・ファミリアが居るのはわかる、飛びかかってきた場合の正当防衛は声高に主張するとしよう。

 

さて、玄関の前まで来たものの、このドアを叩いた時誰が飛び出してくるのだろうか・・・。あの命という少女であれば楽なのだがな・・・。クンクン・・・ふむ、酒の匂いはしないか。強くなるには肉体の成長は必要不可欠、あの歳で酒は早すぎる、今回は見張りとして俺が隣の席を陣取るとしようか。フレイヤ様に見初められたのだから強くなってもらわねば困るのだからな。

 

俺はドアをノックする。ふむ、タケミカヅチ様でもいいだろう、あの神とは気が合う。特に戦いの話になれば丸1日話せるだろう。

 

「今出ますー!」

 

む?この声は・・・魂魄妖夢か?・・・しかし、なぜだ?今回の宴の主役は魂魄妖夢その他タケミカヅチ・ファミリアなのではないのか?・・・いや、極東の文化を詳しくは知らないが家の主が出なくては成らないというマナーがある可能性もある。

 

「はい、どちら様・・・・・・で、すか?」

 

ガラガラと音を立て開いた引き戸、初めは正面を向いていた為に俺と解らなかったようだが、少しずつ顎を上に上げ俺と目が合った。俺は要件を伝えるために口を開こうとしたのだが・・・。

 

「みょぉおおおおおおおおぉおおおん!?」

 

と元気に腕を振り上げて仰天するものだから思わず口を噤んだ。さて、どうするか。このままでは今の叫び声で人が集まってくるだろう。何か勘違いされている可能性があるためそれを早急に解消する必要があるな。

 

「・・・魂魄妖夢。戦争遊戯、おめでとう」

 

緊張を解くには笑顔。本に書いてあったそれを試す。これで無理ならば日を改めよう。

 

「おおおおおおおお・・・・・・お?・・・・・・オッタルさんでしたか・・・はぁドキッとしちゃいました」

 

本に書いてあったことは本当だったらしい。先人は偉大だな。そして魂魄妖夢のセリフはそのまま返したい所だ。ドアを開け、挨拶をしようとしたら大声で叫ばれる俺の身にもなって欲しい。ドキリとしないはずが無い。よし、手土産を渡してそのまま中に入れてもらおう。

 

「つまらないものだが手土産を。」

 

「あっ!ありがとうございますっ!」

 

手土産に飛び付いて中身を見たくて仕方ないのだろうチラチラと俺の手にある袋を見る魂魄妖夢。はぁ、不安になってきた、例えば俺が今回の戦争遊戯の主犯のような者であった場合、何も出来ずに捕まってしまわないだろうか?そんなヘマをするならばフレイヤ様も唯では置かないはずだ。

 

「あ!どうですか?一緒にパーティーしませんか?」

 

おっと、考え事をしていたら魂魄妖夢がそう言っていた。願っても無いことである以上ニコリと頷く事にした。魂魄妖夢もニコニコと人懐っこく俺の手を取り中に案内してくれる。・・・無理をしているようにも見えるな、作り笑いでは無いが、疲労が濃い。

 

「おっ!酒や酒や!飲むデー!超飲むday!」

「おいロキ、まだ昼間だぞ?主神たるものもう少し他ファミリアの中くらいでは遠慮をだな」

「何を言うてんねん!ウチはもう2時間我慢しました〜!もうええやろ?なぁええやろ?」

 

・・・害悪を発見。・・・しかし、かのロキ様はフレイヤ様のご友神。口頭で注意するしか無いか。しかしリヴェリア・リヨス・アールヴとは気が合いそうだ。何故だろうか?まぁいい、協力を要請し酒を魂魄妖夢から遠ざけねば。

 

「ん?・・・の!のわぁあ!オッタルやん!」

「あん?・・・うおっ!?オッタル!?」

 

オッタルだ、オッタルだ、と俺を見る者達を意図的に無視し魂魄妖夢に話し掛けることを優先する。

 

「魂魄妖夢、俺はどこに座ればいい?」

「みょん?・・・んー、空いてる所なら何処でも平気ですよ?」

 

ふむ、どこでも構わない。ならば予定通りに魂魄妖夢の隣に座らせてもらうとしよう。

 

「みょん?隣ですね」

「ん?あぁ。向こう側は少し、な。」

 

俺の視線の先には牙を剥き吠えようと構える犬が。魂魄妖夢は何かを察したようで「なるほど」と手を打った。

 

賑やかな宴、しかし、その空気に馴染めないのか魂魄妖夢は静かに料理を摘むだけだ。ほかのタケミカヅチ・ファミリアの団員は既に馴染み始めており、気が合う者達と酒を煽り、料理を口に運んだ。

 

・・・・・・ふむ、あの戦いは相当に堪えたようだな。自らが持ち得ない物を持つ者が、やっと手にいれた者を奪う、そしてそれを取り戻そうと奮起し、敗れそうになり、父と仰ぐ主神の約束すら破りかける。

 

幼い体にはさぞ負担になった事だろう。思い悩み、宴に参加する気分では無いことはわかるが・・・ふむ、気の効く所を見せ、友好度を稼ぐか。騙すようで悪いが、命令なのでな。

 

「疲れているか?魂魄妖夢。」

「へ?・・・・・・まぁ、それなりには。疲れてますね」

 

他人に指摘された事で更に疲れを認識したのだろう、更に疲労の色が濃くなった。当たり前だ結果的に見れば全体の6割以上は魂魄妖夢の活躍なのだから。

 

「ならば寝るといい。」

「え!?で、ですが、皆さんにせっかく来ていただいたのに」

「あぁ、そうだな。妖夢、寝てきていいぞ。」

 

!・・・タケミカヅチ様か、驚いた、気配を消して居るとは・・・。何時頃から聞いていたのだろうか。いや、そこよりも魂魄妖夢は遠慮が過ぎる。もしもこんな下らない事で体調を崩すような事があれば笑い者というものだ。

 

「えっと・・・では、お言葉に甘えて。・・・タケ、ハルプを呼んでおきますね、あっちの形態なら眠りながらでも平気ですし」

「おう!お休み妖夢。」

「おやすみなさいタケ、それとオッタルさん」

 

そう言って奥の部屋に入っていった魂魄妖夢。

「何やなんや?」とロキ様の声がする。ふむ、状況の説明は俺がしておこう。

 

「あぁ、魂魄妖夢は『おっす!妖夢は疲れが溜まってるから俺が変わりに参加するぜ!なんて言ったって今回のMVPはこの俺!のはずだからな!』・・・」

 

ふむ、スキルの、確かハルプだったか。それにセリフを取られたな。にしたって飽きれるほどに似ているな、目の色と話し方、立ち方や態度位しか違いが無い。

 

『なぁなあ!ベートにアイズにオッタル!!俺の大!活躍は見ててくれたか!?』

 

・・・現実から目を背けていてな、見ていない。とは言えんな。現に俺が見ていたのは魂魄妖夢の方だけだ、スキルの方は見ていなかった。ぴょんぴょんと飛び跳ねベートの隣に正座し、目を輝かせながら感想を聞くハルプ。しかし何故だろうか、やはり、疲労が見える。・・・スキルにも疲労はあるのだろうか・・・?それともスキルの持ち主の疲労が反映されているのか?

 

「いや全く」

『ええ!?嘘だろベート!本気か!?俺あんなに頑張ったのに!?』

「なんでテメェらなんか見なきゃ行けねぇんだよ」

『そ、そんなぁ・・・うぅ・・・でも仕方ないよな。・・・ベートも忙しいよなぁ。・・・はぁ』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ!うるせぇな!見てたよ、少しだけだが見てた!」

『え!?本当かベート!!やったぁ!ベートぉ!』

「のわっ!?危ねぇ!?」

『さすがベート俺の友達!』

「だからてめぇと友達になった覚えはねえ!抱きつくんじゃねえ!」

『ならなろう!今すぐなろう!ちなみに抱きつくのはロキが感謝の印だって言ってた!・・・って妖夢か言ってたぞ!オラリオの常識なんだろ?郷に入っては郷に従えっていうじゃんか!なっ!ロキ?』

「ロォォキキキィィ!」

「違う!違うんや!堪忍してや!!」

 

はぁ、平和だな・・・。

 











『【西行妖】の仕組み。』
※これはあくまで魔法の【西行妖】の説明です。本来の西行妖とは異なる点が多く、オリジナル設定の塊です。

・妖夢が詠唱を開始、魔力/霊力を楼観剣へ。
・楼観剣に一定量チャージ。
・楼観剣を起点に魔力/霊力を放出。
・放出された魔力/霊力に触れると身体に種が植え付けられる(範囲内に存在するなら強制)。
・楼観剣で指し示すことにより種と楼観剣の間に魔力/霊力のラインが通り、大量の魔力/霊力が種に移動。
・種が育ち枝葉を生やす。
・育った枝が肉を押しのけ外に顔を出す。
・失敗した場合、枝と楼観剣が爆発。
・成功した場合、は木が成長し、正常に魔法が発動。

こんな感じです。描写しきれなくてすみませぬぅ。

小ネタ。
・身体の中に植え付けられた種は時間が経つと消える。
・仲間にも容赦なく植え付けられる。
・対人戦を目的としていないため人に使うと、通常なら6割以上詠唱した時点で恐らく死ぬ。理由は言わずもがな。
・1度指し示されると回避不可。指し示されなければ種は芽吹かない。
・現状、魔力/霊力が足りず最後まで詠唱が出来ない。
・数種類の魔法と数種類の詠唱を合わせなくては使えない超超長文詠唱魔法。
・西行妖・・・いったいどんな効果なんだ。

『エロス達に課せられた罰』

・ファミリアのホーム、団員を含む全ての財産を没収。内何割かはギルドに流れる?
・ハルプとタケミカヅチのボールにされる。(この際のポーション代は自腹、エロスの。)
・ギルドからの借金を神自ら働いて返す。コンバージョンを望まず、残った団員は共に働いても良い。ただし一攫千金を狙えるダンジョンの使用は禁ずる。
・借金を返済し終えた時、ギルドからの許しが無ければオラリオを永久追放。

シフシフ「やりすぎた気はしている、後悔はしていない。でもほら、ゆるゆるの優しい条件だと思うのですよ」

『四天王(3人)の怪我の箇所』

キュクロ・・・目、片腕、両足、腹から枝が生えて爆発、比較的表面部分に枝が現れた。片目から生えた枝のせいで顔の表面半分を失う。意識もなんとか保っている。

ダリル・・・腕、肩から腹にかけて沢山。足の甲。から枝が生えてきており、爆発の衝撃で悲惨な事に。意識を失った。

エン・プーサ・・・腹、太もも。深い所から枝が生えてきた為、1番爆発のダメージが大きかった。生えた本数は一番少ない。





『オッタルについて』

リヴェリアリヨスアールヴは「オカン」そしてこの小説のオッタルは「オカン」。オッタルは何かを感じ取り、協力関係を結ぼうと思ったが、寝かせた方が早いと結論付けた。・・・そのままお話してた方が好感度は上がったのでは・・・?とあの後考えたのは内緒。

『ベートについて』

妖夢が友人のベートの為にと、特別に作った肉の煮込み料理をティオナに食べられる。そして怒る。その点を弄るとキレる。本人は割と楽しみにしていた模様。

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