オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか? 作:シフシフ
後書きに挿絵あり。
森に水音が響いていた。滝から落ちる大量の水が打ち付けられ音を立てているのだ。
しかし、その音の中に異音があった。自然のものでは無い水の音・・・水浴びをしているのだろうか。もうアイズ達は水浴びを終えた筈だったのだが。
森を抜け、水場に出るとそこには1人の女性が水浴びをしていた、砂金の如く煌びやかに光る髪、女性の冒険者としては余りに鍛えられた身体、そしてその身体は古傷が目立った。
一体どこのファミリアだろうか、背中の神の恩恵にはロックが掛けられており、そこから見定める事はできない。
まぁいい、声をかけて一緒に入らせてもらうとしよう。
「っ!そこにいるのは誰だ・・・・・」
女性は振り向かずにこちらを警戒する。よく見ればすぐ近くに斧が置いてあった。そして盾も。・・・・・なるほど、タケミカヅチ・ファミリアの・・・・・。
「ロキ・ファミリアのリヴェリア・リヨス・アールヴ・・・・・【
「・・・・・・・・・・そうか。」
「ふふっ、隣、いいか?」
「好きにするといい。だが、余りこちらは見ないでくれ」
やはり、アリッサと言う冒険者であっているらしい。【
「なぜ顔や体を隠すのか聞いてもいいか?」
体に関してはある程度わかるが。にしても、ティオナ達にも見習ってもらいたいな。
「・・・・・。身体は、まぁわかるだろう。女子にしては醜いものだ。だが顔を隠すのは・・・・・笑うなよ?」
「笑ったりしないさ」
そうは言ったが・・・・・改めて身体を見てみる。ポーションと言う便利な物がありながら古傷が残るとは・・・・・自然回復によって傷が塞がればポーションは効果が無い・・・・・つまりは自然回復するまで傷を塞がなかった、もしくは塞げなかった。塞ぐ暇が無いほどに緊迫した状況だったか?
「・・・・・物語のなかに出てくる騎士は、兜をかぶる物だろう?」
「・・・・・それだけか?」
「あ、あぁ。それだけだ。」
話が続くものだと思って尋ねれば、本当にそれで終わりらしい、チラリと横を見れば顔を赤らめている。頑丈な鎧の中身は真面目で頑固なだけの女の子、という訳か。
「かっ、顔は見るなと・・・・・!」
「ふふふ、まぁまぁ。」
べートの1件が終わり、ヘルメスがリンチにあった。何故かリューに連れてこられたベル君が土下座したが、リリのビンタにきりもみ回転して森に消えた。
なんでもアスフィに追いかけられたためヘルメスと逃げたが、はぐれて迷いに迷った挙句リューの裸を目撃、原作の流れで仲直り、そうして帰ってきたらビンタ。
ベル、逃げちゃ、ダメだよ。逃げたら確信犯だろうが。
まぁそんな事はどうでもいいんだ。今からみんなでリヴィラに向かう事になっている。リヴィラっていうのは何とここダンジョン内に存在する街の事なんだ。世界で一番低い位置にある街だな。
ただし、感想を言うならば「クソみたいな街」と言う他ない。もう昔の話だが、まだ癖で魔石ごと切り裂いていた時、何度かここに立ち寄ったが、もうほんと高い!世界一低い街のくせに物価がクソ高い!!
ほんと高いんだよ。刀が折れたから仕方なく適当な剣でも見繕って地上に戻るか、なんて思ったらさ、ただのショートソードが5、6万ヴァリスだぜ!?もうブチ切れて虚刀流でモンスターぶち殺しながら帰ったわ!!
しかも実力重視のここは小さい俺を鼻で笑ってきやがる、うがーー!!ってなって虚刀流でモンスターぶち殺しながら帰ったわっ。
さらに来る度に「おっ、あの頭のおかしい子だ」って言われんだぜ?そりゃ素手でモンスター殺しながら帰ったら頭おかしく見えるわ、てめぇらのせいだかんな!?って虚刀流でモンスター殺しながら帰ったよ。
と、嫌な思い出しかない。おかげで虚刀流の熟練度凄い上がったけどさ。
んでだ、じゃあ何しに行くんだよ、って思うだろ?ふふん、べートと遊ぶなんてことは無い。そう!親孝行の時間だーー!!いや、家族旅行の時間だ!!!
「と、言うわけなので皆で行きましょう!!良いですよね?良いですよね!」
タケと桜花に確認をとる、千草と命には水浴びの時に言ってある。ちなみにティオナも一緒に来ることになった、そしてアイズも。なんだか修学旅行みたいだ。
「あぁ、俺は構わないぞ。桜花はどうだ?」「俺も大丈夫です。」
「ホントですか!?よしっ!じゃあ行きましょーー!」
わざわざ鞄を用意して忘れ物、なんて失態は起こさない。必要な物は半霊にぶち込む、この手に限る。もう外ではティオナ達が準備を終えて待っているだろう、素早く大蜂大刀を背負い、半霊から取り出したナイフを太腿のポーチに入れる。回復アイテムの確認も忘れない。
「?妖夢、どうしてそんなに重装備なんだ?」
タケが不思議そうに聞いてくる。
「タケ達を守るためですよ?」
「リヴィラってそんなに危険な所なのか?」
「はいっ、人の足元を見てショートソードを5万ヴァリスで売りつける悪い所です!!」
ほんとは違う。この後はボルドだかウラドだか知らないが、そんな奴がベル君を教育(暴力)をしようと企み、そこにヘルメスが加わって本当に実行してしまうんだ。そうして戦いが起こり、ヘスティアがそれを止めるべく神威を発する。すると黒いゴライアスが出てくるわけだな。
で、俺のミッションは原作通りに事を進めること、らしいけど・・・・・俺は嫌だなぁ。だって黒いゴライアスだろ?クロゴラさんだぜ?俺とか言う異分子が入り込んだ世界で、イレギュラー扱いのクロゴラさんがまともな訳がないと思う。あの時は駄神に分かった、なんて言っちゃったが、ただ素直に従うだけで良いのだろうか、とも思う。
とくに、もしも強化クロゴラさんだった場合、桜花達が死ぬ可能性が高い。それはそれは高い。桜花達も原作より強くなってるけど、強くなったクロゴラが出たとしたら無理だと思う、てか俺も無理だと思う。一撃で死ぬ未来が見えるぜ。
そんな訳でどうにかしたいんだけど、全く持って方法が思いつかない、普通に主犯を殺すだけでいいのかな?それともヘルメス達が合流するのを阻止する?いや、冒険者達の争いが起きたから神威を使ったんだから、つまり争いをヘスティアが止める前に、終わらせれば良いのかな?
むむむ・・・・・まぁとりあえず戦力をタケの周りに集められた。これでタケが攫われる可能性は限りなく無くなったと思う。
ヘスティアも気になるが・・・・・とりあえずベル君に何か言っておくか。
「さ、行きましょうか!」
「おう。」
・・・・・まてよ?なんでわざわざ原作通りのメンバーで戦おうとしてるんだ?いるじゃん、べートとか。味方に引き込もうぜ!!よっしゃ、勝ったな、リヴィラ行ってくる。
「ここが・・・・・リヴィラ」
ベル達が感動してる横で俺は辺りに目を光らせる。そんな俺の様子に何人かは気がついただろうが、何か言われることはなかった。
各々が街の探索に乗り出そうという時、俺はベルの肩を叩く。
「?・・・妖夢さん?どうかしたんですか?」
きょとんとしてベルがこちらに振り向き、尋ねる。さて、どんな言葉をかけようか。・・・・・なんていう無計画。だが、仕方ない。とりあえずヘスティアが危険に晒されるかもしれないからちゃんと見ておくように言っておこう。
「ベル・クラネルさん。私や緑のローブの・・・ベル・クラネルさんは知っていると思いますが、リューは神の護衛を任されています。しかし、見ての通り今貴方の主神は一人で走っていっています。」
「え、えと・・・・・」
「・・・・・・・・・・決して、人とは善人だけでは無いです。貴方の大切な人を守りたいのならしっかりと見ていてあげてください。・・・・・・・・・・・・・・・私のように守れなくなってしまいますよ」
うぅ、人のこと言えねぇ!!言ってて恥ずかしくなったので全力でタケ達の方に走ろう!と思ったけどそれはそれで恥ずかしいのでくるりと踵を返し、堂々とタケの元に向かう。
なんだかとってもシリアスな感じだったけどそんなことは無い!
「ここが・・・・・リヴィラ」
木造の建物が立ち並ぶ、水晶が至るところから生えた街。リヴィラ。僕らはそこにやってきた。そんな美しい外観に見とれている内にみんな、好きな方へと歩いていく。僕も何か探してみよう、と歩き出す。
すると誰かに肩をつかまれる。小さな手だ、リリかと思って振り向くと、そこには少し暗い顔をした妖夢さんが。
「?・・・・・妖夢さん?どうかしたんですか?」
大丈夫ですか?と続けようとして、やめた。僕を見上げるその目が、悲しみに満ちているような気がしたから。何か、重要なことを言おうとしている、それだけははっきりと分かった。
「ベル・クラネルさん。私や緑のローブの・・・ベル・クラネルさんは知っていると思いますが、リューは神の護衛を任されています。しかし、見ての通り今貴方の主神は一人で走っていっています。」
僕が黙ったのを見て、妖夢さんは話し始める。妖夢さんがリューさんの事を知っていて驚いたけど、神様達の護衛だったんだ・・・・・神様は僕らを探しに来たって言ってたけど、多分妖夢さんは桜花さん達を探しに来たんだろう。
「え、えと・・・・・」
僕が何か言うまいか迷っていると、妖夢さんは神様の方から視線をもどし、僕をまっすぐ見つめる。その目に、僕はドキリとした、前に感じだ時と同じ、首筋に刀を添えられた様な感覚。文字通り真剣な目。
「・・・・・・・・・・決して、人とは善人だけでは無いと知ってください。貴方の大切な人を守りたいのならしっかりと見ていてあげてください。・・・・・・・・・・・・・・・私のように守れなくなってしまいますよ。」
話すことはそれだけだ、そういうように妖夢さんは踵を返し、歩き出す。その背中が寂しく見えた、その歩き方がどこが覚束無いような、そんな気がした。
――私のように守れなくなってしまいますよ―。
その言葉は妖夢さんの過去に起因する物なのだろうか、・・・・・ただ、妖夢さんの言う「私」に僕は違和感を覚えた。・・・・・前を歩いていく姿を見る限りだときっと気のせいなのだろう。
妖夢さんは神様を守るようにと言った、だから僕は神様の後に付いて行く。神様が守れなくてアイズさんに追いつけるわけがないから。
「神様?」
「ふぇあうわ!?どどど!どうしたんだい!?僕は何も高いものなんて買っていないよ!?」
「あはは、お金にも少し余裕が出来ましたし、いいと思いますよ」
「ほ、本当かい?お金を稼ぐのはベル君なんだぜ?」
「はいっ」
「・・・・・うう、僕は君みたいな子を持てて本当に嬉しいよ!!」
男は―――――――マッスルだった。
波打つ背筋、そそり立つ大胸筋。八つに割れたダイヤの如き腹筋。握られた拳は血に濡れており、その凶悪な眼は目の前の兎を睨みつける。
「きゅ・・・・・きゅう、きゅ」
風を殴るような音と共に兎が消える。その凶暴な拳にかき消されたのは誰から見ても明白であった。もっとも、その場にその男以外存在しないのだが。
「はぁ――――やっとついたか」
十八階層入口から見える広大な森と、少し顔を出した大きめな水晶を目に男は言った。その男の名は、オッタルと言った。
フレイヤ様からの「お願い」で俺はダンジョンに潜っている。理由としては何やら嫌な予感がするとの事だ。そして、見せられたクエスト用紙・・・・・そこにはベル・クラネルが行方知れずな事、救助隊を編成したいこと等の情報が書かれていた。しかし、俺が向かった時には既に救出隊は青の薬舗にはいなかった。
無駄足を踏まされた、と言うよりも、フレイヤ様のお願いに遅れるのはならないと全力でオラリオを駆けることになった。
なぜ駆けたかと言えば、俺の任せられた任務として『魂魄妖夢』の護衛があるからだ。任されたもの全てをこなせないようではオラリオ最強などと名乗ることはできない。
俺がオラリオ最強であるのは全てフレイヤ様のためだ。
いや、今はその事はおいておこう。タケミカヅチ・ファミリアを訪ねた俺だったが、そこは蛻けの殻だった、開け放たれた玄関や襖。何があったのか想像出来なくもない。勝手ではあるが中に上がり、素早く周囲を確認した。そこに武器の類が・・・・・部屋の奥に飾られていた1本の刀が無いことを見て、俺は確信した。
「タケミカヅチ様が、出たか。」
武神にして軍神、さらには戦神にして剣神。武人として憧れを抱く1柱。フレイヤ様には悪く思うが、武神の武、直に見たくなった。
ダンジョンに向かったであろう彼らを追い、俺はダンジョンに向かったのだ。
そして、今に至る。水晶の生える森を抜け、リヴィラに到着したのだ。・・・・・ここに来るのは何年ぶりだろうか?ダンジョンへの遠征も、やらなくなって久しい。まぁその分フレイヤ様に近付けると思えばなんともないが。
「・・・・・!?!?!?ぉ、【猛者】・・・・・!」
「ほ、本当だ」
畏怖の念という物は伝わりやすい。周囲からひしひしと伝わるその感情に少し呆れを持ちつつ進む。魂魄妖夢を見習って堂々としていればいいものを。魂魄妖夢は俺に勝てないとわかった上であの態度なのだから、肝が座っている。
店の前を歩いても、話しかけられることは無い。店としてどうなのかと思うが、それが自分の立ち位置なのだから仕方がない、強くなればなるほど俺の友好関係は狭まってきているからな・・・・・フレイヤ様から魂魄妖夢と仲良くなれなどの命を下された時、それはそれは戸惑ったものだ。
「そうなんですよ!で、それでリーナがっ」
「えぇ!?僕はちゃんと仕事したよっ!お菓子も食べたしご飯も食べたけど!」
「まぁまぁ落ち着いて・・・・・」「そうだよぉ・・・・・」
「そのせいで書類にうどんの汁がついてましたよ!」
「な、なんと・・・・・僕の技術を持ってしてうどんとはかくも強き・・・・・」
「いや、何言ってるんだ。」
ふむ?この声は魂魄妖夢とタケミカヅチ、あと命と千草、だったか、ほかのひとりはわからんな。接触してみよう。
「・・・・・久しぶりだな」
「だから!私のプリンまで食べr痛いっ!?なんですかこの壁!痛いじゃな・・・・・みょおおおおおおおおん!?」
一体、何度驚かれるのだろうな。俺にぶつかった魂魄妖夢は俺の腹筋をぺしぺし叩き、既視感に襲われたのだろう、少しづつ顎を上げて俺と目を合わせ、叫んだ。やはり嫌われているのだろうか?それは困るのだがな・・・・・。
「なななななしてオッタルさんがここに!?」
俺が魂魄妖夢に話しかけると大体驚かれるのはなぜ、いや、既にわかりきっていることではあるのだが。これではイマイチ仲良く慣れているのかわからんな。
「俺も一介の冒険者だ、別に不思議では無いだろう。・・・・・それにしても何をしているんだ?」
ダンジョンにいるのは予想通りだったが、なぜこんなに賑やかにリヴィラを観光しているのだろうか。よく良く見れば【大切断】などのロキ・ファミリアもいる。・・・・・ふむ、しかし、潜っていた期間を考えるに遠征は失敗したと見える。
「なるほどぉ、えっと、私達は今リヴィラと十八階層を観光しているんですが、オッタルさんはどこか良いところ知りませんか?」
「ふむ・・・・・」
正直聞かれても困る。十八階層などまともに探索したことすらない。モンスターが沸かないのであれば居座る必要すらないと無視してきたからな。まぁギルドの情報のままであれば言えるが・・・・・流石にそこはもうまわっているだろう。
「思い当たるものは無いな。ここに長居したことも無い。」
「うーん、そうですかぁ・・・・・このあとの予定は?無いのでしたら一緒にどうですか?」
む、願ってもない誘いだな。ここは素直に受けておくとしよう。あぁそうだ、笑顔も忘れてはいけないな。
「フレイヤ様からのお暇を頂いていてな。時間は存分に余っている、同行させてもらおう。」
「おー!やりましたっ!オッタルさんげっとです!」
『ポケモン!ゲットだぜ!』
「「「「ポケモン?」」」」
ポケ・・・・・なんだそれは。
そうして、街をめぐり、十八階層を探索・・・・・下見して、1日が終わろうとしていた。・・・・・のだが!
「むっふっふ。わかってないなぁー」
なんと、貸し与えられたテントにはタケミカヅチファミリアの女性団員達が集合していたのだっ(あとリリルカも)!イカれたメンバーをしょうかいするぜぃ!まずは俺!そして命!千草!リリルカ!アリッサ!リーナ!最後にクルメ!
見事に女しかいない!助けてタケミカヅチ様!
まぁんなことは置いておいて、みんなで円を描くように布団を敷いて寝っ転がっているんだ。真ん中に空いた空間にランプが置いてあってそれがみんなの顔を照らしている。・・・・・そう、これは、言わゆる女子会とかそういうやつだ。泊まりになると必ず発生する恋バナとかそういう奴を話す為の場。
正直に言おう、俺には荷が重い。反対したらリーナがニマニマしながら俺の布団に入ってきた。
「好きな男性はいるのかな?僕に教えてー!」
きゃー!とか言ってるリーナに極寒零度の視線を向けながら、俺も少し考えてみる。・・・・・ふむ、居ないな。恋愛対象は居ないわ。
「いないです。(キッパリ)」
「そ、そんなー!そんなことないでしょ!?僕は知っているよ!ベート・ローガをみる妖夢ちゃんの目は乙女のものだと!!」
「気のせいです(キッパリ)」
「ふっ、照れ隠しなんて無駄だよ妖夢ちゃん。僕には解る!」
「なんなら白楼剣使いましょうか?同じ事言うはずですが。」
「ふん!ならやってみるといい!」
「ーーー白楼剣!!・・・・・・・・・・恋愛対象は現在確認できません。古今東西何処にも居ないことを保証いたします」
「くっ・・・・・・・・・・リーナ・ディーン・・・・・敗れた、り。」
白楼剣をしまってリーナをドヤ顔で見る。
「なんなのさそのドヤ顔は・・・・・」
ショボーンとなってしまったリーナに苦笑しながらもう寝てしまおうと考えていると。
「なら!他のみんなにはいるだろぉ?僕に教えてくれよー!」
リーナが布団の中でもぞもぞ動く。やめろ、俺の布団で暴れるな。てか寝ろよ。お前のスキル眠くなるんだろ?寝ろよ!
「わ、私は、い、いませんよ?(命)」
「私だっていないよ・・・・・うん。(千草)」
「私は・・・・・居ないな、うむ(アリッサ)」
「え?居ないよ?(クルメ)」
「言えないです、でも妖夢様がいえと言うなら・・・・・(リリ)」
・・・・・・・・・・あれ?割といるやん。あれだよね、最初の2人は確定として、アリッサさん居そうな雰囲気だよね、居るのかな・・・・・まぁ普通に考えたらいてもおかしくはないんだけど。いや、年齢はわからないけど居ない方が可笑しいのでは・・・・・?
「なん・・・・・だと・・・・・?!誰一人として居ないって言うのか・・・・・!」
え?コイツ全くわかってねぇじゃん。僕にはわかるんじゃなかったんかい。
「くっ、恋愛経験零の僕には到底わからないことだけど・・・・・ホントにいない?」
と上目遣いで聞いてくるリーナ。一緒の布団に寝っ転がってるのに上目遣いとは、コヤツ、出来る・・・・・(何が)
つか恋愛経験零ですか・・・・・(呆れ)エルフだよな?この中で一番年上だよね?なんでないのさ。
「そんな疑惑の目を向けないでー。僕はね、美味しいご飯と安らかな睡眠しか興味が無いんだ。」
「ふむ、それで行き遅れたと」
「行き遅れてないし!僕らエルフの寿命は長いんだぞ!」
でもさ、俺のイメージにあるエルフって「私達エルフ以外は下等」みたいな考えの触れたら怒る潔癖症、ってイメージなんだけど・・・・・リーナは全然そんなことないよな?なんでだろうか、少し気になったので聞いてみることにしよう。
「リーナ、私の中でエルフとは高慢で他種族を認めない。というイメージがありますが・・・・・リーナはそんな事がありません。なぜですか?」
俺が聞くとリーナは少し黙り込む。・・・・・やばいな、地雷だったか?なんて思っていたがリーナはこちらを向いて俺の目を青っぽい緑の目でジッと見つめる。
「話しても面白いものじゃないと思うよー?それでも聞くのかい?」
俺がうなづくとリーナは微笑みながら話し始めた。
僕の名前はリーナ・ディーン。何処にでもいる普通のエルフ・・・・・・・・・・なんて、高等なものでは無い。まず、そうだなー、・・・・・僕には両親が居ない。母親は僕を産んで暫くして、父親はその数日後に妖怪に襲われて死んでしまった。
極東ではエルフは珍しい、だから僕の両親が移り住んだ村では結構冷たい目で見られていたらしい。僕の元主神達が言うには父も母も「エルフらしい」人達だったらしい。エルフは他の種族を見下し、壁を作る。だからこそ冷たい目で見られてしまったのだと思う。
じゃあそんな2人の忘れ形見がその村で大切に育てられるのか、と言われるとそんな事はなかった。
・・・・・僕は墓地に置かれた。
僕は世界を知らなかった。・・・・・迫害、虐待。僕が受けたのはそれだ。暴力が毎日降り掛かった。意味も分からない言葉が僕に浴びせられた。投げ渡される食べ物はカビの生えた物ばかり。きっと不味かった筈だ、でも、僕の中の食べ物はそれだから、何も思わなかった。
なぜ、どうして。そんな事を考えるだけの知識なんて持ち合わせて居なかったのだから。
忌み子、と言うものを知っているだろうか。極東では白髪の子供は鬼の子として忌み嫌われる。そして誰がやったのか、私の髪を白く染め上げた。
虐待は酷くなった。その村の周辺は土が痩せこけていて、余り作物が取れなかった。きっとそういう事もあって僕はストレス解消の為の道具だったのだろう。
そんな僕にとって、唯一の救い・・・・・いや、安息かな?だったものは眠りだった。眠ると不思議な夢を見たんだ、見た事もない美味しそうな料理、ふかふかなベット、雨風を完全に防げる立派なお家。
けれど、そんな毎日を送るうちに、転機が訪れる。村に神様が訪問したんだ。名前をクニノサギリ様とアメノサギリ様と言った。
極東の神様達は社と言うものを持っている場合が多い。社はオラリオで言うホームだ、違うとすれば一つの社に複数の神が居る所だろうか。
そして、僕の事を見た2柱は言ったんだ。
―ずいぶんと哀れな子が居るではないか―
―どうしたのだね、なぜ、そのような有様になってしまったのだ―
初め僕は彼らが何を言っているのか分からなかった。
―ふむ、なるほど、この子は保護した方がいいと思うぞ?―
―あぁ、賛成だ。社に空きはあるー
ポカンと見上げる僕の頭を撫でようと手を伸ばした。殴られると思って目をつぶった僕に神々は顔を見合わせ、眉間にシワを寄せた。
―理解したぞ哀れな子よ、人の手を恐れる捨てられた子よ。悪意しか知らぬ見識狭き子よ―
―なれば我らが隠そう、悪意から、妬みから、視線から。その心が歪まぬうちに、真実を知らぬ内に―
そう言ってもう1度手を伸ばす。
―我らが手を取るがいい。我クニノサギリ―
―我らの名を刻むがいい。我アメノサギリ―
――我らは隠す神、我らは遮る神――
―無辜の忌み子よ、その手をこちらに――
僕は目の前の光景がしんじられなくて、それでも、何故だか手を伸ばした。たぶん、変われるって何となしに思ったんだと思うけどね。
「
呻き声の様に絞り出した僕の声に、神々は微笑み、僕の手を握り込んだ。その四つの手の暖かさに初めて僕は涙を流したんだ。
―名は、なんと言う?―
名前、名前。聞かれてすぐに答えることが出来なかった。名前は知っていた、教えてもらえたのだ、村人達に。
「てめぇの名前はリーナ・ディーンだ、覚えとけよ?ハッハッハっ」
そこまで思い出してようやく口にする。
「
――リーナ・ディーン、我らがお前を守り抜こう、これは神と子との契約である。――
僕、リーナ・ディーンはその日、初めてこの世に生を受けた。
二神に連れられ歩く。体の節々がいたんだけれど、止まれば何をされるか分からないから我慢していた。そうして社に着くと、僕を出迎えたのは拳では無く笑顔だった。
「アメ様また1人見つかったんですね?」
「おう嬢ちゃん、そんな警戒しないでくれよ」
「そうそう!私達だって捨て子なんだから」
困惑した。笑顔とは僕を殴って、僕が呻く姿を馬鹿にするためのものでは無かったのか、と。嘲笑うという行為を知っていた僕は純粋な満面の笑みを初めて知ったのだ。
自己紹介を済ました僕は女性陣にお風呂に連れ込まれた。今まで麻のボロボロの衣服しか来てなかった僕は初めて服を脱がされた。怖かった、何かまた痛い事が起こるのだろうと身を縮こまらせた。
僕の身を襲ったのはアッツイお湯。まぁ多分本来ならそこまで熱くないお湯なんだろうけど、お湯なんて初めて浴びたし、体は冷えていたしね。とても熱く感じたんだよ。
そして全身を洗われて・・・・・垢だらけの傷だらけな僕の身体は綺麗になったんだ。
女性達の拘束がなくなった僕はその場から逃げ出そうとしたんだけど、疲れのせいでへたりこんでしまった、そしてそのまま湯槽に連れていかれたんだけど・・・・・熱くて熱くて、傷口もお湯がしみて痛かったし。
その後僕は疲れでそのまま気絶するように眠った。折角のふかふかの布団は意識の無いまま初体験を迎えてしまったよ。目が覚めた僕は周囲を1通り確認して、何時もの墓地前じゃない事に驚き、布団に寝ていた事に仰天し、服の肌触りの違いにひっくり返った。
何が起きたのか本当にわからなかった、身の回りの事が何もかも変化してしまったのだから。部屋を探索するうちに僕は人影を部屋の隅に見た、驚き警戒し下がったが、向こうも警戒して下がるではないか、不思議に思って首を傾げると、向こうも首をかしげた。困惑しつつも1歩足を前に踏み出すと向こうも足を1歩踏み出した。僕は悲鳴をあげて後ずさった、もちろん向こうも後ずさったよ。
今ならわかるけど、あれは部屋にあった鏡だったんだ。
僕の悲鳴に人がやってきた、僕はあぁ、またあの痛い事が起きるんだ、と半ば諦めて大人しく座り込む。けれど僕の周りにやってきた彼らは優しくこえをかけてくれたのだ。
「大丈夫!?何かあったの!?」
「おいおい平気かよ?」
「大丈夫かい?」
この日から僕は少しずつ人に心を開いていった。
そして何年か経って、僕は人が大好きになっていたのさ。
「ご飯美味しい!お布団ふかふか!!遊ぶの楽しい!!みんな優しい!!ご飯美味しい!!大好きっ!!」
うん、確かそんな事言った気がするよ、恥ずかしいね。
この頃から食い意地張ってたんだねぇ。まぁ初めて美味しいご飯を食べた時はいきなり変わった食事に体が対応出来なくて吐いちゃったけどね。
僕の好きな遊びは蹴鞠とカルタ、そして阿弥陀籤だったかな。阿弥陀籤は遊びじゃないけど遊びに使ってたんだよ。
あぁそれと、僕の地毛は明るい緑なんだけど、神様達が
――見識を広く持てリーナ、白い髪は忌み子の証などではない。そもそも、鬼に白髪の者など少なかろうよ――
――何、その白さを誇りにしろ。それはリーナ、お前が決して悪意に屈せず守り抜いた純真さなのだから――
と言ってくださったんだ、そこから僕は自分で白髪に染めてるんだよ。白、かっこいいだろう?
うーん、もう言うところはないかな?・・・・・・・・・・あ。あとね、僕の魔法は僕が一番懐いていたアメノサギリ様とクニノサギリ様が由来の魔法なんだ。僕の唯一の誇りかな?強いよー。
あと僕は霊力がそこそこあって、巫女として2人の給仕係に務めていたりしたね。
むむむ・・・・・言いたくないところは飛ばしたけど、概ねこんな感じかな。・・・・・ほらね?聞いても別に面白くなかったでしょ?
じゃあ僕のお話はここでおしまいっ!