オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか? 作:シフシフ
クルメさんがおもーい話によって暗くなった雰囲気を変えるために色々と盛って頑張る話。
明るい話だよ!やったね!
リーナの過去話を聞いた俺は戦慄した。
「ふむ・・・・・それは・・・・・災難だったな」
「えぇ、さすがにリリも同情してしまいます」
「リーナ殿・・・・・」
「リーナさんにそんな過去が・・・・・私の話言いづらくなっちゃった、あ、アハハ・・・・・」
「あわわ・・・・・はわわ・・・・・」
え?え?なに?え?・・・・・嘘だろぉぉおおお!?あんな飄々として眠い眠い言ってた奴が、え??なんですか!?眠くなってしまうスキルはその時の影響ですか!?食いしん坊なのはその時の反動ですか!?ヤベーよ、もう今までみたいにちょっと冷たく出来ねーよ、同情MAXだよ。お仲間だよぉ!
「ご、ごめんなさいリーナ。辛い事を思い出させて・・・・・ごめんなさい。」
必死に謝るしかねぇ!まじすみませんでした。軽い気持ちで聞いてごめんなさい!くっそ、なんで俺は学習能力がこんなにもないんだ!うがー!もっとさぁ、人のこと気にかけなきゃだめじゃないか!
「んふふー、じゃあ慰めに妖夢ちゃんを抱き枕にして寝るねー!」
いやっふーー!とか言ってるリーナ。うわー、うわー、何か強がってるように見えちまうよあの話の後だと、つかそうとしか見えねぇよ。とりあえず頭撫でておこう。タケに頭撫でられると落ち着くしな。うん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、アハハ。どうしたのさ・・・・・よ、妖夢ちゃーん、おーい・・・・・・・・・・・・・・・そんなに優しく撫でるとリーナさん怒っちゃうぞ?・・・・・・・・・・もぅ・・・・・優しいんだね・・・・・」
ん?あ、やべぇ、ボサボサだけど髪の毛サラサラやなぁーとかいい匂いするなぁとか、家族がどうのとか思ってたらいつの間にか話が進んでる。・・・・・ふぁ!?抱き枕にされる筈が俺が抱きかかえている!?何が起こっているのかわからないが俺にも訳が分からないよ!
「いい匂いだねー、食べてもいい?」
「ダメです。私は食べれません、食べるなら半霊にしてください」
『そうそ・・・え?俺食われるの!?』
「アハハ、励ましてくれてるのかなー?かっわいいー!」
『おいまて何故に俺をモフる』
むなしい一人芝居でどうにか励まそうと試みる俺氏。その甲斐あってかリーナは少し目元と頬が赤いが機嫌は良さそうだ。そのことにほっと一息付き、リーナの頭をなでる。・・・・・うーん、家族が居ない、それを聞いただけでここまで態度が変わっちまうかー、俺って単純だねぇ。
「えーーっと・・・・・わ、私は寝ちゃいますねっ!!」
「いえ、次はクルメの番です」
逃がすか。眠ろうとするクルメに待ったをかけて止める。ギギギと振り向いたクルメにニッコリと笑いかける。リーナをよしよししながらだ。
「えっと私はその話すことでもないというか、そんなに大それた事はしていないんですよはい。リーナさんのお話の後だと話しづらいというか、インパクトがありすぎて私が話す場面じゃないと思うのです、はい。」
冷や汗を垂らしながら必死に逃れようとするクルメ、しかし、俺の燕返しからは逃れられない。・・・・・あれ、俺結構乗り気だったんだな?
「どうぞ!お話してください!」
「私も聞きたいです!(わくわく)」
「僕もー!(特に理由は無いっ)」
「失礼ながら私も(この雰囲気を変える一手を・・・!)」
「ふむ・・・・・(これは私も話さなくてはならないのでは?)・・・・・無理強いは良くないと思うが(それに、なんだか可哀そうだし)・・・・・」
アリッサを除き皆がクルメの話に興味を示す。いや、アリッサも興味がないってわけじゃないだろうけど。ふむ、たぶん優しいから守ろうとしてるんだな!
「え、えぇ・・・・・わかりました・・・・・うぅ私の味方はアリッサちゃんだけなんだァ・・・・・」
「泣くな、親しくなるチャンスだろう?
・・・・・と言うよりもいつから私はお前と仲良くなっていたんだ・・・・・?(小声)」
未だに鎧を脱がないアリッサ・・・・・いや、鎧が治ったから寧ろ嬉嬉として着ていたような・・・・・?まぁそんなアリッサにクルメはガチンと音を立て抱きつき話し始める。
「私は・・・・・5年くらい前から冒険者をしていたんですが・・・・・あっ!生まれも育ちもオラリオですっ」
焦りながらわたわたと説明するクルメに皆が癒されている中、本人は必死に話を続ける。
「それで、えと、冒険者として3年目、私はレベル2になり、【料理】のアビリティを手に入れたんです。・・・・・はい。」
・・・・・ん?終わり?あー。あれだな、こっちからも質問しつつ話を進めていこうか。ふむ、まぁ冒険者としてはどうしてランクアップしたのか、って所からかな。
「クルメ、お前はどうやってランクアップしたんだ?」
と、思っていたら唯一の味方アリッサからの支援が。さすがやでアリッサはん。乗っとこ。
「えぇ!とても気になりますね!」
「うん!私も気になる!」
「失礼でなければぜひ!」
「うんうん。リーナさんも気になるz」
「ちょリーナ様寝ないで下さい!」「はっ!」
くくく、食らうがいいこの集中砲火!・・・・・ま、待てよ・・・・・?なぜクルメはあの場所で話を切った?・・・・・そう、きっと他者には言いたくないことに違いない!危なかった・・・・・また同じ過ちを繰り返すところでしたわ。
「クルメ。言いたくない事であれば無理に言う必要はありませんよ?私達だって言いたくないことの一つや二つあると思いますし」
「いえ!暗い話でもないですしお話しますっ」
わたわたと胸の前で手を振りクルメはランクアップについて話してくれる。
「私は・・・・・とある御方、そう『伝説の料理人』と名高いあの御方のサポーターとして・・・・・四十三階層に出向いた時です」
ぶフォ!!・・・・・へ?四十三階層?いやいや、その伝説の料理人の頭を疑っちまうんだが?Lv1のサポーターをどこに連れていってんだよ!?一瞬のミスで即死だぞこら!・・・・・いや、それをなせるだけの力があったのかもな。
誰もがクルメの爆弾発言に絶句する中話は続く。
「とても長い長刀を使う居合い板前。どんな奴でも揚げてやるぜと言わんばかりの火力を持つシェフ。全てをこなす最強の主婦・・・オバチャンの3人で構築された怪物料理集団・・・・・それが私の師匠です。」
・・・・・・・・・・・・・・・いや、いやいやいやいや。・・・・・え?
おかしくない?世界観がおかしくない?板前?ワザマエなの?シェフ?揚げるのに火力なの?焼くんじゃないの?200℃超えると油って引火するよね?
そしておいオバチャンっておいおま、オバチャン・・・・・オバチャンかぁ・・・・・なるほど(納得)
「そ、それで・・・・・どうしてLv2に?」
「・・・・・あれはーーーーそう―――――――」
四十三階層、そこに銀閃が煌めいた。
「致命――微塵切りッ!!!」
僅か数秒で放たれた斬撃の数は十を超え、その巨体の至るところに傷をつける。
「キャイイン!ハァハァ、グゥオオオォォオオオン!」
目を斬られたのが余程痛かったのか途轍もない巨体を持つ狼型のモンスター【ベオウルフ】はその場から悲鳴を上げ飛び退く。そして肝が潰されるのではと思うほどに恐ろしい唸り声と共に飛び出した。
「ほぅ?アレを耐えるとは・・・・・なかなかに肉質は硬いな・・・・・まぁいい。ワインにでも漬け込めば多少は柔らかくなるだろう?」
ド派手な赤い着流しに黒染めの鞘に収まる長刀。長い黒髪を束ね後ろに流す女性、そうこの人物こそ、板前だ。
板前は腰を落とし、先ほどと同じ構えをとる。そして、その板前の後ろには金髪の幼い女の子―私です、クルメです。―が。板前は引くに引けず、迎え撃つ形で対峙していたのだ。
「ふぅん!!」
再び高速の抜刀斬り。しかしそのうち命中したのは1発のみ。唸りながベオウルフは板前を中心に回り始める。
「ちぃ・・・・・学習するか、食材の分際で」
「(しょ、食材じゃないような・・・・・ふぇえ、怖い!怖いよぉ!)」
ベオウルフが恐ろしく長いその牙を見せつけ、警戒し―――一気に飛び掛かってくる!
「グゥウアアァウ!!」
バンッ!と言う音がする程に強く噛み付いてきたベオウルフをどうにか私を抱えながら回避した板前、しかし、完全に回避する事はできなかったらしく、その肩に大きな傷を負ってしまった。
「・・・・・料理は死と隣り合わせだ。この程度でくたばってしまえば料理人失格だ・・・・・」
「(いや・・・・・私の知ってる料理人じゃないよぉおおおおおおおお!)」
内心を恐怖とカオスにめちゃくちゃにされた私は内心で叫びまくるが顔は恐怖で凝り固まっていたし、そんな事に気を向ける余裕なんてこれっぽっちも無かった。
「大丈夫かい!?アタシが来たからにはもう好きにはさせないよ!!・・・・・あらやだ、凄い可愛いワンちゃんじゃない。どうしたのよこの子、あら~可愛いわぁ~」
「ワシが来たからには安心せい!とおっ!あいたっ!?・・・・・逝ったわ、今ワシの足の親指が旅に出たわ。遠い遠い方に旅に出たわい。」
「むっオバチャンにシェフ・・・・・どうしてここに?」
「あらっ、忘れるなんて酷いじゃない。貴方がクーちゃん連れてどっか行っちゃうから追いかけてきたんでしょ?それにしても可愛いわねぇこの子。雄かしら雌かしら?」
「あ~ぁ、ワシの指が・・・・・はうぅ!?・・・・・・・・・・こ、腰が天に召されてしもうた・・・・・ワシ、もう、動けない。」
「・・・・・・・・・・来なくて良かったんだがなぁ・・・・・」
圧倒的カオス、敵がいるというのに井戸端会議の如く話し始めた3人に私は全くついていけず、ポツン、と取り残されていた。
すると。
ズンズン、と肩を押される。そして生暖かく臭い息が私を包み込む。流れでる恐ろしい声。私はギギギギと錆び付いたお人形のように振り向いた。
「グルルルルルルゥ。パクッ」
「――――――ッ!!!!」
それはもうびっくりして固まってしまい、そのまま胃の中へ。中は臭くて暖かくて真っ暗でした。そしてヌメヌメしていて・・・・・・・・・・うぅ・・・・・吐きそう。
「なっクルメ!」「あら?クーちゃんが居ないわねぇ」「は!?ひへはがはふへた(入れ歯が外れた)」
私が食べられたことに気がついた板前たちは武器を抜刀し、突撃していく。
「きっさまぁぁあ!クルメを吐き出せ!私ですらまだ人は食べた事が無いと言うに!吐き出せ!今すぐに吐き出せ!」
オラオラオラオラ!と逆刃で殴りつける板前。鑑賞するオバチャン。メガネをおっことして探し続けるシェフ。
「オラオラオラオラ!ははは、ククク、ハーハッハッハっ!今の内に沢山叩いておこう!肉質が柔らかくなり美味しくなる・・・・・!ジュルり」
その後ベオウルフは私を吐き出し逃げていった。狂気に当てられ流石のモンスターも逃げたしたようだ。板前は
非常に残念そうな顔でそれを見送った後私に声をかけた。
「大丈夫か?・・・・・所で、食われた感想を教えてくれないか?もしかしたら料理のアイデアにつながるかもしれんからな」
「・・・・・き・・・・・・・・・・気持ち悪かっゴホゴホオェェェェェ」
「あらあら、大丈夫?もぅ、仕方のない子ねぇ。さっ、地上に戻りましょうか!」
「おお!あったぞワシのメガネ!・・・・・くくく、さぁベオウルフよワシの妙技を見せて・・・おや、ワシの恐ろしさに逃げ帰ったか・・・・・」
その後、その時のショックで食べ物を受け付けなくなってしまった私を3人は交互に美味しいものを持ち寄り回復させようと努めてくれた。
「安心しろ、お前を食べたりしないさ。今はな。さぁ食え、そして肉をつけろ」
と優しい言葉もかけてもらった。この言葉は今もよく覚えています!
「そんなわけで私はこうして元気に冒険者を続けているんです!」
・・・・・やべぇよぉ・・・・・どこからツッコミ入れりゃァいいんだ・・・・・突っ込みどころ満載なんてレベルじゃねぇぞ・・・・・何で料理人が戦ってんだよ「〇リコ」かよ。何で1人しかマトモに戦ってねぇんだよ・・・・・ジジイはよく四十三階層まで降りてこれたな?てか最後のセリフ絶対に食うつもりだったよ、性的に所か物理的に食らうつもりだったよ!
「もう、突っ込みどころ満載過ぎて追いつきません、思考が」
「・・・・・え、ええ。もう何が何だか・・・・・」
「Zzzzz」
「リリには理解できませんでした。どうなったらそうなるんですか」
「・・・・・それは、その、料理人、なのだろうか?」
「うんっ!料理人だよアリッサちゃん!」
「・・・・・!・・・・・そ、そうか(目から光が消えている・・・・・!)」
えっ、えっと料理人に憧れたんだよな?クルメはそういう奴らを見て憧れたんだな!?
「はい、そうですね。私の憧れです。ゴブリンを高級ステーキ以上にしてしまうあの腕前・・・・・恐るべき腕前でした・・・・・!」
は、はは。すごいな(困惑)
「そういえば妖夢ちゃ・・・妖夢さんも板前さんとだいぶ似てる気がします!」
「無いです(即答)」
「はやい!でも刀だし、居合使うし、料理上手ですよね?」
「モンスターを調理する趣味はないですよ・・・・・」
「美味の探求ですよ、間違えてはいけません」
あぁ、影響されてしまったんやなって。
そういえば話を聞く限りだと料理人冒険者なのに包丁とかそう言う武器使わないんだなぁ、なんでだろ?
「そういえば包丁などを武器として使わないんですか?料理人ならそういったものでモンスターを直接料理!みたいな事をするかと思いましたが」
「馬鹿なの?」
「へ?」
「料理人にとって調理器具とは命!魂!相棒!そんな大切なものを戦いに?んなことできるわけないじゃない!もし刃がかけたら?もし蓋に穴が開いたら?・・・・・そう、すなわち料理の失敗を意味する・・・・・ので!使いませーん!!」
キャラがぶっ飛んだぁあ!クルメ選手のキャラが場外へと飛び出したぁー!
「あ!ちなみに3人はオラリオの外に旅に出ましたよ!なんでも世界の料理を研究しに行ってくるとか」
「そ、うですか・・・・・」
「・・・・・・・・・・はいっ」
うん、まぁあれだ。さっきのようなしんみりとした空気ではなくなったな、うむ。・・・・・反応に困るのは変わらねぇよぉ・・・・・。
「みょーん。もう寝ますか?」
「僕はもうZzzzzはっ。先に寝てるねzzz」
あっはい。・・・・・本当に抱き枕にするのね。
「ジー・・・・・」
「ジー・・・・・」
ん?なんだ?何でリリルカと千草はこっちを見ているんだ?
「どうかしましたか?」
とりあえず何か用があるんだろう。そうおもってきいてみる。
「妖夢様妖夢様、私達は仲を深めるべきです。なので私もご一緒してもよろしいですかっ」
・・・・・はい?ご一緒?どこに?何しに?
「わ、私は、その、き!気絶してる時に怖い夢見ちゃって・・・・・一緒に寝たいなー・・・・・とか、思ったり・・・・・」
「リリは強行軍の疲れが出てしまって・・・・・」
あー、なるほどね。一緒に寝たいのか。・・・・・じゃないが?もう入り切らないんですが、リーナのせいでもう布団いっぱいいっぱいだよ。
「千草様、ここをこうして・・・・・こうです」
「うんわかったよリリちゃん!こうやって・・・・・こうだね!」
と、ふたりは協力して素早く俺のところに布団をくっつけた。
が。
「ぐぬぬ・・・・・どい、て、下さい千草様・・・・・!」
「そっちこそ・・・・・!」
何故か押し合いっこをしてる2人。おーい、千草、何で拮抗してるんだよw頑張れ!
ちなみにリーナが寝てるのは俺の左側だ。そして取り合っているのは右側。どうやら俺の右側で寝るのはどちらかを争っているらしい。
「な、なんで押しきれないのっ・・・・・!」
「ふふふ・・・・・!千草様を荷物と仮定することで私のスキルを発動しているのです・・・・・!」
「そんなのってありなの・・・・・?」
「女は使えるものは全て使うんです!」
「!・・・・・・・・・・ならっ!!」
「なっ!?」
リリルカの力を利用して千草が背負い投げをかます。しかもしっかりと怪我をさせないようにしてあげる千草マジ天使。
「・・・・・くっ、負けましたっ!!」
「強敵だった・・・・・でも、勝ったよ!」
そしてキラキラと眼差しを向けてくる千草に俺は苦笑しながらその日は眠りについたのだった。
血にまみれた巨狼がその顎を大きく開いた。
「ひっ―――ッ」
私は小さく声を上げることしか出来なかった。それが私に出来た最善策。強い者に危険を知らせるための、自分を助けてもらう為の行為。しかし、むなしくもその口は閉ざされた。閉じられた口に生え揃っていた牙が私の足を引きちぎり、私は激痛に白くなる視界の中胃袋に叩き落とされた。足の断面が胃酸に触れ焼けるのような音を立てる。
「ぁあ!・・・あがぁ――ぁぁあ!!!」
いきたまま食われるのか、激痛で思考がままならない中、それだけはたしかにわかった。私を【
「は・・・・・ハァぁ・・・・・!!うぁああああぁぁああああ!!!!!?!!」
そこまで思い出し、ふと横を見ればそこには女性の顔が苦痛に歪んだまま溶け始めていた。ここは、地獄だ。何よりも恐ろしい地獄に違いない。
痛みと恐怖と絶望と。震えは収まるどころかどんどん大きくなる。すると大きな慣性の動きを感じ、胃の中を転がり回る。死体が私と共に胃酸の海を転がり回り口や耳、鼻にまでそういった諸々が入り込んでくる。
「やめて・・・・・もうやめてよ・・・・・なんで、なんで殺してくれなかったの・・・・・?」
なぜ、生きたまま私を胃袋に入れたんだ。そう怒りがふつふつと湧いてくる。表面の皮膚がほとんど溶け始めていた私は死体と共に飲み込まれた1本の剣を手に持ち、思い切り胃袋に突き刺した。
「■■■■■■■■■―――――ッ!!!!」
ベオウルフが転がり回る。胃の中の私も転がり回った。それでも、刺して、刺して、刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して。刺し続けた。
「はぁぁぁぁああああああ!!!!はぁっ!!!」
外から聞こえる気迫に、まだ最後の1人は生きているのだとわかった。そして、その気迫の篭った一撃がベオウルフの腹を強打したのだと。
刀ですら歯が立たない強靭な皮膚と毛皮を持つベオウルフに、柄の部分を使った打撃を思い切り打ち込んだのだ。
そして―――――空を舞う。大量の胃液と共に吐き出され地を転がる。顔を上げ見たものは刀を支えに何とか立つボロボロで血だらけなの女性の姿。彼女が『伝説の料理人』。名前も知らないが私を助けるために尽力してくれている料理人。
「・・・・・終わったか・・・・・・・・・・あぁ・・・・・ぁぁぁああああああ!!・・・・・ぁぁ・・・・・翁、婆や・・・・・すまん・・・・・私の力が及ばぬばかりに・・・・・ぐっぅ・・・・・!!」
肩から、頭から腹から血を流し、しかし修羅の如き顔で立ち上がる。そしてこちらを見た。その顔に思わず殺されると思ってしまった。
「女子よ、生きろ。死なせはせんぞ・・・・・!お前という若き芽を守るために、我が祖父達は死に絶えたのだ・・・・・!生きろ・・・・・いいな?・・・・・生きろ!いいな!!」
「は・・・・・ぃ」
「そうだ。それでいい・・・・・。貴様を地上に連れていく。決して殺さぬし決して死なせはせん。爺と婆やの分も生きねばただでは置かんからな・・・・・!」
修羅に連れられ私は地上へと帰った。しかし、待っていたのは平和な日常ではなかった。
私が肉体に受けた傷は万能薬ですぐさま消えた。しかし心に受けた傷は全く癒せなかったのだ。
口にものを含めば吐き出し、固形物は喉を通らず、吐き続けて透明な液体が出るだけになっても吐き続けた。決してご飯が不味かった訳では無い、むしろ美味しすぎる程であった。
だが、ものを口に含むと蘇る記憶・・・・・胃袋の中で見た死の光景。私の胃の中もああなっているのではと不安になり耐えられない吐き気をもよおす。
「食え、食わねば死ぬぞ。意地でも飲み込め。」
「でも・・・・・でも・・・・・!!」
「いいか?世の中極論で言うならば食うか食われるかだ。食われれば死ぬし、食えば生きれる。だがな、その輪から外れたものは死ぬ以外の道を失う・・・・・故に食え。」
美味しいのに食べたくない。どうしても食べ物を前にすると前の出来事が脳裏にはっきりと浮かんだ。体を生暖かい液体が包み、激痛と共に溶かしているような感覚に襲われ、体の末端から冷たくなっていく。
「・・・・・・・・・・ならば・・・・・そうだな・・・・・クルメ、料理を作ってみないか?お前自身の手で。そうすれば何か変わるやもしれん」
震える手で料理を口に運ぼうといつも通りの挑戦をしていたその時、私は初めて名前で呼ばれた。そのことに驚いてそちらを見れば料理を作ってみないか、と誘っているではないか。私は全力で頭を横に振った。食べることすら出来ないというのに料理なんて作れるわけがない。
「黙れ。物は試しと言うだろう。やってみないことには何も変わらん。」
「・・・・・はぃ」
この日から私は料理をしっかりと学び始めた。そして、その深みにハマっていったのだ。食事も少しではあったけれど喉を通るようになり始め・・・・・数年もすれば人並み以下には量を食べられるようになった。
栄養失調で何度も死にかけたけど、今ではそれもいい思い出だ。そして―――私は今でも覚えている。私の料理を食べたあの人が
「―――美味しいよ、クルメ。」
少し、笑ってくれたのを。
次回!
仲間集め!集結する最高戦力。
ベートのデレ。
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