オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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戦闘多めの回ですよーー!7話ですよー。


7話「その首、七度は落としたつもりでしたが・・・」

「うふふ、頑張っているのね・・・あぁ、早くあの子達が欲しい・・・」

 

女神は見下ろす。オラリオの中心、雲をも貫きそびえるバベルの塔の50階から。

 

視線の先には町を走る白髪の少年。透明なその魂は女神でさえ今まで見たことが無かった。正確にはあの年齢になってもまだ透明である事を。

 

しばらく見つめていると少年は驚いた様に辺りを見渡し始める。

 

「勘がいいのかしら?・・・それとも臆病なの?」

 

ふふふ、と妖艶に笑いながら頬に手を当てる。

 

「あまり怖がらせるのもダメね、でも、安心して・・・いずれ私のものになるのだから」

 

それから女神は視線を移す。その先は神友のロキが拠点とする黄昏の館。そこでは銀髪の少女が冒険者達相手に大立ち回りを演じている。

 

「・・・初めて見た時は驚いたわ。まさか魂を侍らせる少女がいるなんて・・・うふふ、純真無垢な魂を持ち、英雄の様な巨大な魂を侍らせる・・・欲しい・・・欲しいわ・・・魂に物質を取り込むなんて・・・うふふ」

 

女神はソファに座りながら身を悶える。吐く息は次第に熱くなり2人の少年少女を想う。

 

「ああ・・・オッタル?あの子が欲しいわ・・・あの銀髪の少女。確か名前は魂魄妖夢だったかしら・・・何時でも構わないから私の前に連れてきてちょうだい?もちろんお礼はするわ・・・。怪我はさせないようにね?出来れば仲良くなりなさい」

 

後ろに岩のように立っていた大男、名前はオッタル。

 

「わかりましたフレイヤ様。必ず連れてきます。」

 

フレイヤと呼ばれた女神は微笑む。そこには愛が確かに存在した。

 

「期待してるわ、オッタル」

 

 

 

 

剣戟の音が響く。・・・どうも俺です!現在はロキ・ファミリアのレベル2の方々と訓練してます!黒いカチューシャも付けて気合十分!使用しているのは真剣です。いやーこの世界ってすげえよなーいくらポーションあるからってこれは・・・。いやまぁ既に10人くらい斬り捨てたけどさ、もしもの事を考えないのかね?あれか、普段は練習用の刃が潰れた剣を使うけど今回は俺の殴り込みだから真剣で斬っちまえって事か?

 

て言うかさ・・・。誰だよ!?!このなんか無駄にねっとりとした嫌な視線をぶつけて来るのは!?集中が切れたらどうすんだこのやろう!今12人同時に相手取ってんだよ!やめてよ!少しでも油断してら集団リンチだよ!

 

ああ!埒が明かないな、武器変えるか?でもどうやって、完全に取り囲まれたし。油断してたぜ、いや、広範囲技とか弾幕とかでどうとでもなるんだけどさ・・・それはベートにとっておきたいから使わないでおきたいんだよね。

 

前後左右から槍が突き出される。・・・ほら見ろこれだ、これ嫌なんだけど、何?耐久弾幕ですか?全く。攻めようにも盾構えられてると攻めにくい。

 

四方八方から迫る槍を捌きながら、どうにかこの現状を突破しなければと俺は考える。

 

半霊パンチを使って突破口を開くか・・・。ちなみに半霊パンチは最早初期の頃と比べるとプロボクサーのストレート位の威力はあると思う。だが所詮プロボクサーのストレートでは彼らメイン盾を突破出来ない、駄目だな。

 

取り敢えず魔法を撃とうとした奴は半霊パンチで詠唱を中断させてイグニス・ファトゥスさせてたら魔法を使って来なくなった。そこまではいいとしよう、半霊を真上に移動させ、視界を半分リンクさせて上からの目線で全体を確認しながら戦えるし。

 

何でこいつ等こんなに槍持ち出してくるの?嫌がらせなの?てか明らかに槍下手糞な奴らいるし。確かに状況や相手に合わせて武器を変えるのは一つの手だ。俺達にタケミカヅチ・ファミリアも色んな武器を教わった、具体的には刀、槍、弓等だ。他にも馬の乗り方とか素手での戦闘とかも教えてくれた。

 

とは言えそれらを使いこなせるようになるには結構な時間がかかった。初心者が、武器を持ってすぐさま熟達者にはなれないように。自分の得意な武器使わないと自分の強さが生かせなくなるだけだ。・・・フィンさん?わかっててやってるこれ?俺の落胆した態度が気に食わなかったの?いじめなの?

 

まぁいい。取り敢えず下手糞な使い方してる奴を狙ってこの包囲を抜け出すぞ!

 

「フッ!」

 

俺は左手に持っていた短剣を目の前の男に投げつける、それは見事に盾の隙間を通り男の脇腹に刺さり怯ませ、走り抜けながら刺さってる短剣を引き抜く。・・・よしここ!

 

「くそ!抜けられたぞ!」

 

俺は包囲から抜け出し少し走って振り向きざまにもう1度の短剣を投擲する、今度は二本同時に。それは盾によって防がれるが多少時間は稼げた。自分の上に居る半霊から武器を投下する、落ちてきた武器は・・・刀。・・・よし。反撃と行くか。

 

「反撃・・・開始です!」

 

 

 

 

「ゼェ・・・ゼエ・・・くっそぉ・・・こんな餓鬼にぃ・・・」

 

ドサッと重い音を立て、最後の1人が倒れる。あたりには5人の重傷者。ほかの6人は既に担架で運ばれていった後だ。

 

俺は血のついた剣を某黒の剣士の如くバツを描く様に血払いし、鞘に・・・鞘はさっき投げてしまったので半霊に直接収納する。まぁ、どうせ後で返すし、いや後で返すならちゃんと拾いに行かなきゃダメか。拾ってこよ。

 

投げた鞘はタケのすぐ近くにあり、タケが拾っておいてくれていた、流石だぜ!

 

「全く、妖夢、お前ってやつは・・・まぁいいか!どうだったオラリオ最高峰のファミリアの子供たちは」

 

なかなか出来る人達だったよ、タケが指導すればもっと強くなれるな。・・・俺が言うのもなんだけどさ、何だかタケがどんどん親バカになって来てるんだよなー。わざわざファミリア総出で見に来なくても・・・。こんな風になったのは確実に命と千草のせいだな間違いない!

 

「はい、なかなか出来る人達でした。ちゃんと武術を学べば更に強くなれると思います。・・・ところで、タケって所謂親バカですか?」

 

「ああ、そうだな。俺が教えればまだまだ強くなれそうだ・・・ん?皆妖夢を心配して来たんだそ?」

 

お、おう、否定はしないんだな・・・いや、嬉しいけどさ。

 

「否定しないんですね。いや、まぁ、その・・・嬉しいですが。」

 

いや~心配してくれる人がいるって素晴らしい事だよ。しみじみと思うね。

 

「ちょい待て!タケミカヅチ!妖夢たんの心は奪わせないで!この天然ジゴロ~!」

 

と叫びながらロキが走ってくる。いや、流石にそれは無いから。と思ってチラッとタケを見ると「奪わせない」の所で眉を顰めたのがわかった。え?なに、狙われてる?・・・いやいやいやいやまさかな!ハハハ!・・・ハハ?おーいタケさん?

 

「タケ?」

 

名前を呼んでみるとタケの表情は元に戻り「ん?どうした妖夢」と聞いてくる。「何でもないです」と返し。ロキの方に向き直る。余談だが神様の中で好きな神はタケはもちろんロキ、ヘスティアもヘファイストスも好きだ。だから自然と顔が笑顔になる。

 

「どうしたんですか?」

 

「うお!眩しい!その笑顔が!」

 

大げさなリアクションを取りながら目を細めるロキ。いや、元から細いから殆どわからなかったけど。

 

「ぐぬぬ・・・これをずっと見てるんかそこのジゴロは・・・くそう!まぁいいか!会いたかったで~!ごめんな〜」

 

何がぐぬぬだ。それよりホントに何しに来たんだこの神は・・・いや、会えるだけで嬉しいんだけどさ、有名人に会ったみたいで。スリスリするのはやめてくれくすぐったいから!

 

「やっ、やめてくださいくすぐったいですよ!あはは!」

 

「おん?ここがいいんか?ここか?それそれ!」

 

くすぐったいのを我慢しているとロキの背後からリヴェリアがやってくる。あっ(察し)

 

「いい加減にしろ」

 

ゴン!と頭に拳骨をくらうロキ。プシューと頭から煙を出して引きずられて行った。な、何がしたかったんだ・・・マジで。

 

ロキが居なくなったタイミングで命達が来た。

 

「流石です!妖夢殿!あの技は何と言う技なのですか!?」

 

命が目をキラッキラさせながら俺の両手を取りブンブン縦に振る。ちなみに新らしく技を見せる度にこうなるので最早恒例行事だ。

 

「ああ、流石は妖夢だな!」

 

っと男前にサムズアップを決めて来るのは桜花、因みに団長である。俺もサムズアップを返しておく。

(o´・ω-)b

 

「妖夢ちゃんやったね!」

 

千草がばっと抱きついて来る。いつものおどおどした雰囲気はない。かわゆいの~と頭を撫でていると、重大な事が判明した。・・・身長・・・負けてるかも・・・?

 

ガクッと項垂れる俺を見て千草は、あたふたしだし、タケ達は理由がわかったのか笑いを堪えている。いいしべつに。身長なんていらねぇし。てか今成長期だから。ここから30年40年くらいずっと成長期だから。全然悔しくないし。

 

そんなこんなでしばらくするとベートがやってくる。

 

「おいガキ、さっさとやんぞ。ガキに時間取られてる暇はねぇんだよ」

 

あれ?なんかやる気満々じゃね?まっ、戦えば良い経験値貰えそうだし、頑張るか。

 

よっしゃ!じゃあ、某騎士王の如く凛々しく行こうか!

 

「はい。べート、私は貴方に真正面からぶつかりましょう。ただ、見ての通り刃は潰れていませんので、痛くても我慢してくださいね?」

 

うんうん、なかなか凛々しいんじゃないか?・・・ん?これ挑発してるよね?

 

「言ってくれるじゃねぇか・・・ったく、フィンの野郎、何が親指が疼くだ、時間取らせやがって・・・しかたねぇ、俺も剣使ってやるよ、貸せ、なんでもいい。」

 

およ?挑発が・・・効かない?べートは何も構えず、のんびりとこちらに近づいてくる。勿論相手はレベル5、油断は出来ない。貸せってそもそもこの武器ロキ・ファミリアの物だし。・・・にしてもフィンまじ何者だよ・・・何時だろうか、初めてあった時?それとも酒場?

 

「えっーと何が良いですかね・・・ベートは肉弾戦が得意と聞き及んでますし・・・短剣の二刀流はどうです?」

 

俺がそう聞くとベートはケッ、生意気な奴だな、とか言いながら俺から武器を受け取る。

 

べートと俺は武器を構え、互いに隙を伺う。静かな緊張があたりを包む、その場に聞こえるのは円を描くように動く俺とべートの足音のみ。互いの闘気がぶつかり合い温度が上昇したかのような感覚にとらわれる。

 

それは一体誰のものだっただろうか、1滴の汗がぽたりと地面に落ち吸収された。

 

 

 

 

 

同時に地面を蹴る、そして轟音。先手を取ったのは俺だった。抜刀術、その中でも最速だと思われる一撃を叩き込んだ、・・・防ぐか、これを。

 

技の名は零閃、光の速さに届くとされた神速の抜刀。その性能を余りに発揮出来ないとはいえしかし、それは短剣をクロスさせ、ブーツを使う事でギリギリ防がれる。音速を超えるこの攻撃速度は予想外だったのかベートの顔が驚愕を表す。

 

ベートの横薙の蹴りを体を前に倒し、体勢を低くする事で躱し、再び腰の刀に手をかける。

 

「っ!」

 

咄嗟に横に転がる。空振りした筈の蹴りが驚異的なステイタスをもって帰ってくる。危なかったっ!隙を生じぬ二段構え?!

 

急いで立ち上がり、刀に手をかけ、機を伺う。べートはチッと舌打ちをして、こちらに向き直る。

 

「ったく避けてんじゃねぇよ、さっさと倒れろ・・・」

 

ふむ、ツンデレべート君のことを考えるならこのセリフはきっと「避けないでくれ、なるべく傷つけたくないから一撃で終わらせたいんだ」って感じか?・・・誰このイケメソ。てか、零閃初見で躱すとか何者よ・・・オリジナルよりも遅いとはいえ、少しは自信あったんだけどな。

 

「いくぞオラぁ!」

 

蹴りの三コンボ、ローキックからの蹴り上げ、からの踵落とし。それを刀で逸らし、ぎりぎりで往なす。往なしたところから返す刀で切り上げるが余裕を持って回避される。距離が離れた途端短剣による連撃、これは余裕を持って往なす。

 

むむむ、ただの攻撃じゃあ当たる気がせんぞ、しかし、燕返しはべートの場合ガード出来ちゃうからなぁ・・・。

 

じゃあ、何を使うか・・・ってあぶねぇ!やっぱ格闘相手は苦手だなぁ・・・近寄られると攻撃しにくいぜ・・・紅美鈴とかが相手だったら確実に負ける自信がある・・・だが、絶対にあのマシュマロは許さん!胸囲の格差社会とか言わせねえから!

 

ベートの嵐のような乱舞を懸命に防ぎ、躱し、受け流す。それでもステイタスの差は如実に現れ、蹴りを正面から受け止めた瞬間武器が砕け蹴りが腹に直撃する。

 

「グッ?!」

 

咄嗟に後ろに飛び威力を少しでも軽くする。しかし、流石はレベル5と言ったところか、たった一撃で壁まで吹き飛ばされて背中から激突する、受身こそ取れたが速く立ち上がらなきゃやられる

 

横に転がり立ち上がるとべートは既に剣を振りかぶっており、まさに絶体絶命。俺は踏み込んでスライディングでべートの股下をくぐる。

 

「どうした、さっきの技使わねぇのか?」

 

おんおん?使って欲しいのか?そんな挑発に俺が乗るわけ野郎オブクラッシャーぁぁあああ!

 

「シッ!」

 

即座に新しい刀を取り出し再び零閃、しかしベートは跳躍し、そのまま踵落しを繰り出す。んじゃもういっちょ!と零閃。また轟音が響き渡る。

 

ぶつかった時の感触が直に俺の手に伝わり、刀がもうすぐ壊れそうな事を認識する。

 

やばいな・・・、武器が耐えられないか・・・。やっぱり燕返し使っちゃうか?いやダメだ、昨日さんざんダンジョンで色々と技練習しただろ!よしそうだ、あれ使おうあれ。俺は半霊から剣を一本取り出し、構える。

 

「龍巻!」

 

これは海賊狩りと呼ばれた剣豪が使った技の一つ。回転するように斬る事で竜巻を発生させるなんかすごい技なのだ!

 

突如竜巻が発生し、ベートは様子見のために後ろに下がる、しかーし、これも計算どうり!今の内に魔法を唱えるぜ!

 

「【幽姫より賜りし―】「雑魚が!」っ!」

 

ダメっすわこれ、魔法唱えさせる気ねぇな・・・あれ?ベートって魔法吸収する靴じゃ無かったか?あれ?それともベートの魔法なのか?もしや俺の魔法バレてる?・・・動きながら魔法唱えればいいんだが・・・いや、出来るけどその間は若干戦いにくいし、そんな余裕は無い・・・てかベート龍巻突っ切って来なかった?!

 

んなアホな、レベル5ってここまで変わるのか・・・。チートや!チーターや!

 

ったく、攻撃する寸前までゆっくり歩いてる癖にいきなり速くなったりしやがって・・・こんな戦闘スタイルだったか?・・・もしかして・・・なめられてる?

 

「おいおいどうしたぁ!魔法使わねぇと勝てねぇのか?剣士さんよぉハハハ!」

 

あ、こりゃ舐められてますわ・・・でもあれやで?べート君、この身体な?まだ幼いせいで感情のコントロールとかめっちゃ難しいのだよ、今すっげェグツグツ言ってるからこれ以上はやめとけよ?折角対処しやすい技使って上げてるんだからさ・・・ん?零閃?・・・あれはーほら、ベートなら対処出来るっていうほら信頼?みたいな奴がどうのこうのしたんだよ。

 

「・・・」

 

ほら!どうすんだよ黙り込んじゃったじゃん!こうなるとコントロールほとんど効かねぇんだよ!てかむしろ体の感情に俺まで支配されかねないから!やめて!燕返しブッパウーマンされたいのかお前は!

 

「ハハハ!黙り込みやがった!そんな雑魚みてぇな技(・・・・・・・)使いやがってよぉククク」

 

(´^ω^`#)あ?やんのかこの犬っころが!こっちだってなぁ!ステイタスが低いせいで技のポテンシャル引き出せなくて悩んでんだよ!技自体は雑魚くねぇ!ぶっ殺す!・・・てあぶねぇ、・・・重症にしてやる!

 

「よく鳴く犬ですねぇ・・・!」

 

 

 

 

戦いを眺めるフィンは昨日の出来事を思い出していた。酒場での一件だ。

 

(あの一瞬、あの妖夢と言う少女の覇気を感じた時・・・親指が疼いた。)

 

それは悪い予感、レベル6のフィンが生命の恐怖を感じた瞬間だ、体は警告を表示してみせたのだ。この少女は危険だと。

 

(何とかファミリアの位置は特定できた・・・それに、彼女の過去の一端も。・・・姿形だけならそこらの女の子と判断も出来るけど・・・これは酷いなぁ。はぁ、・・・恩恵無しでレベル3を倒すってなにさ・・・)

 

ベートが妖夢を煽る。

 

「・・・」

 

ベートが挑発すると、妖夢は黙り込む。

 

「ハハハ!黙り込みやがった!そんな雑魚みてぇな技使いやがってよぉククク!」

 

ベートは更に挑発する、それはフィンが「彼女の事を知りたい」と言ったから、口では反抗してくるが、ベートはファミリアの仲間に優しい、だからなんだかんだ言って了承してくれる。

 

(気をつけるんだベート・・・彼女は油断していい相手じゃない・・・)

 

妖夢の覇気を感じたあの瞬間、確かにフィンには見えたのだ。100を越える英雄達が彼女の後ろに佇むのを。故にフィンは警戒する、あれほどの力を持つ少女は何を狙っているのか・・・それがフィンの気掛かりだった。

 

「よく鳴く犬ですねぇ・・・!」

 

何かが・・・変わる。妖夢の額に筋が浮かび、体全体で怒りを表していながらその目は氷のように冷たい。あの時よりも凄まじく濃厚な覇気を纏い、魔力では無い何かがこの場を染め上げていく。

 

「っ!これは!?」

 

ロキがフィンの隣で狼狽えるように目を開く。

 

(ロキ、貴女は知っているのか?なら早く言ってくれ、ベートに何かあってからでは遅いんだ!)

 

希望をかけてロキを見るが、目を開いたままアワアワしておりフィン目線に気が付いていない。

 

「あ、ありえへん・・・何をどうやったらこんなにつよーなるんや」

「ロキ!」

 

フィンの大声にロキはハッとし、説明を始める。

 

「あれはな・・・・・・霊力や」

「霊力?」

 

ロキの口から出てきた聞きなれない単語にフィンは聞き返す。

 

「人間なら誰しもが必ず持っている力、魂の力や、せやけど霊力は神の恩恵では強化できん。だから人間の霊力はほんの少ししか無い筈なんや」

 

ロキは説明を続ける、曰くこの世界には幾つかの力がある。神の力=神力。精神の力=魔力。魂の力=霊力。人外の力=妖力。下界において最も多いのが魔力。そこから妖力、神力、霊力、といった順番だ。そんな話をしていると神タケミカヅチがやってきて話を補完する。神々が降臨するより遠い昔には霊力を扱う巫女と言う存在がいた。その当時、極東は魔力よりも霊力が主流だったが神の恩恵で強化出来ない霊力は神の降臨と共に廃れていき、今ではほそぼそと受け継がれる程度だという。

 

(それがあの少女の強さの秘密?いや、ありえない。僕が見たものはそんなものじゃなかったはずだ。ただはっきりと感じた、僕以外は気付かなかったみたいだけど・・・これは仮説に過ぎない・・・けれどあの卓越した技術、技、駆け引き。どれをとっても僕らと変わらない、いや、それら技量だけでベートと渡り合えている。つまりは技量だけなら向こうが上。)

 

フィンは幻視した、妖夢の背後に桜吹雪と共に様々な刀剣を携えた剣豪達を。身の丈以上の長刀を、星の如く輝く聖剣を。それらを持つのは英雄。それは決して敵わないと直感的に理解出来るほど彼我の実力は乖離していた。

 

伏せていた目を上げ、戦場をみる、するとどうだろう、ベートが押されていた。だらりと刀を下げ、何の構えもせずに待つ妖夢にベートは攻め込めずにいた。

 

一気に踏みこんだ妖夢の首狙いの一撃をベートは後ろに下がりながらギリギリでガードする。その一瞬の攻防であったがフィンにはある事がわかった。遅れているのだ。ベートの反応が、刀が首に迫り、やっとガードする。そんな紙一重の攻防を繰り返す。ステイタスで強引に突っ込もうとすると一切避けずに首に刀を振るう。

 

妖夢の戦い方は一変していた。先程までは剛の剣とも柔の剣とも言える、速さと重さを重きに置いた剣術だった、しかし今はと言うと、まさに究極の柔の剣。攻撃を往なし、逸らし、受け流し、無駄を極力省いた首狙いの一振り一振り。フェイントを自然に取り込む事でベートを苦戦させている。

 

「ッチィ!見切れねぇ!」

 

よく目を凝らすとベートの首には浅く切れた後がついている。ベートはギリギリで攻撃を防ぎながら後退する、攻撃が止んだ一瞬でバックステップをとり、距離を離す。すると妖夢は再び刀をダラリと下げ、少し嬉しそうに口を開く。

 

「その首、7度は落としたつもりでしたが・・・流石ですね、ベート。」

 

「ハッ!タネはわからねぇがそれじゃあ俺の首は落ちねぇよ・・・。・・・随分と殺る気だな」

 

その返答に妖夢は花の様な笑顔を見せる。

 

「当たり前です!レベルが3つも離れているんですよ?殺す気で行かなきゃ拮抗すらできない。」

 

花の様な笑顔でそんな事を言うのだから恐ろしい。なので、と妖夢は続ける。

 

「これで終わりにしましょう。これがこの戦いで放つ最後の技。使うつもりはなかったですが、我が秘剣・・・というには実力が足りませんが・・・まぁいいですよね。貴方が馬鹿にした剣技、人間がその短き生をつぎ込んだ秘技・・・ご覧に入れましょう」

 

突如妖夢の斜め後ろの空間が歪み、尾を引いた白い球体が現れる。冒険者達にとってそれは余りにも見慣れない光景、この場の何人がこれが魂だとわかっただろうか、フィンを含め殆どの者は見慣れないそれが何なのか分からなかった。スキルか?魔法かも、と言う声が聞こえる。

 

ゆらゆらと妖夢の隣まで飛んできた半霊は、やがてゆっくりと形を変え始める。

 

そして完全に動きが止まった時、そこにはもう一人、目の赤い妖夢が立っていた。

 

今から放つは生涯を剣に捧げた(「今からブッパなすのは剣に生き)剣豪の秘剣(病に倒れた剣豪の秘剣」)

 

摩訶不思議な現象を見せられ固まる一同を無視し、妖夢達は構える。何故か重なる声は聞き取りやすい。

 

それは回避が出来ず、逃げられない(「それは防御が出来ず、防げない」)

 

謳い文句はデタラメで、聞いて呆れる程強力無比。防げず躱せないのならどうしろと言うのだろう。

 

故に必殺。躱せるものなら(「だから必殺。防げるもんなら)躱して見せよ」(防いでみろよ。」)

 

 

矛盾を求めるその顔は玩具を前にした子供のようで、見た者にある種の恐怖を植え付ける。

 

秘剣――――――|(「無明――――――」)

 

狼人の本能が警告の鐘をならす。避けろ!防げ!逃げろ!躱せ!全身の毛が逆立つ、逃げろ逃げろと騒ぎ立てる。

 

(うるせぇ・・・)

 

それを全て蹴り飛ばす。冒険者としての経験が、狼人としての誇りが、何より男としての矜持がそれを許さない。

 

(逃げれねぇなら逃げねぇよ。防げねぇなら防がねぇ!真正面から!ぶっ潰す!!)

 

―――燕返しっ!!(「―――三段突きっ!!」)

 

六本の斬撃が迫る。ベートは全力で地面を蹴る。進む方向は前。ただただ本気でひた走る。余りの脚力に地面は抉れ、ヒビ割れる。

 

「ウオォォォオオオオッ!!」

はああぁぁあああ!(「そこだあぁぁあああ!」)

 

両者の距離は瞬きの間に零となり激突する。あまりの衝撃に大地が吹き飛び土煙で視界は通らず、戦いの結果はわからない。どっちだ?この場の者達の考えは一つだけであった。

 

 

 

 

土煙は重力に惹かれ地面に戻って行く、次第に晴れていく視界の中には人影が二つ。影は動かない。

 

・・・暫しの間静寂が場を包む。観客の間を緊張が駆けずり回り冷や汗を誘う。どっちだ、どっちだ。まさか決着はつかなかったのか。憶測が飛び交う中、視界は鮮明になる。

 

立っていたのは・・・・・・赤い目の妖夢、そして・・・・・・ベートだった。

 




こんな感じでいいのかなー・・・未だに戦闘描写は本当に苦手で困る・・・皆さんにリクエストしてもらった技の数々をキチンと描写できるのだろうか・・・(´д`)

伏線を頑張って入れてみようとしているものの・・・ふむ、これでいいのか?って状態です。頑張る。

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