オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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次回からは前の様な感じです。
この話は二週間前くらいに書き終わってましたが、これでいいのか不安。

久しぶりに描いた挿絵どぞ(本編とは一切関係がありません)。挿絵というか練習のやつ?


【挿絵表示】












76話「『ただいま!!お父さん!』」

雷と共に現れたのは桜花殿だった。

 

「行くぞっ!!」

 

桜花殿は瞬時に周囲を確認し、状況を判断。後に即行動に移した。

雷を身に纏うと私の目では追えないほどに加速し、瞬時にハルプ殿を斬り裂いた。

 

しかし、斬撃はハルプ殿には効かな───い?

 

『うぐぁっ!?き、君は、魂魄の・・・いや、違うな、君は違う。そうか、強引に使っているのかっ。腕が使えなくなっても知らないぞ君っ!』

「かまわんッ!!」

 

桜花殿の斬撃が増える(・・・)。回避困難な無数の攻撃に、ハルプ殿は劣勢となっていく。斬撃が当たる度に、白い光が飛んでいく。ハルプ殿の忠告の一切を無視して斬撃を重ねる。

 

妖夢殿の時と同じで、効いている。

 

「───────援護します。来い、楼観剣!!」

 

突如響くやや低い落ち着いた女性の声。そちらを振り向けば、長い銀髪を靡かせた眼帯の女性。青い目が私たちを一瞬捉え、ニコリと微笑む。

 

「雨ですか、なら──攻式一の型 車軸の雨」

 

空の模様を確認し、両手で楼観剣を構えた女性は楼観剣に水を纏わせる。そして───突撃していた(・・)。先の桜花殿よりも速く加速した。

 

『何!?』

「そんな技もあるのかっ!」

 

ハルプ殿の胸元を貫き、吹き飛ばす。桜花殿がニヤリと笑って後方に下がり、刀を構えた。両手で、さっきと同じような構えだ。

 

「攻式一の型 車軸の雨・・・・・・だったか。よし」

『うぐ・・・・・・全く酷いものだね、なんの名乗りも無しにコレとは』

「名乗る名も無いでしょう?なら、斬ります」

『蛮族め』

「生憎お化けは嫌いですから」

 

女性とハルプ殿が武器を構えて牽制し合うなか、桜花殿は水を刀に纏おうとして断念し、雷を纏って突撃した。

女性は水を操るような剣技で、水の壁を作ったりして戦況を変えていく。

 

「千草殿、我らも参戦・・・・・を!?」

「桜花が女の人を連れて、桜花が桜花が・・・・・・ブツブツ」

「ま、不味い・・・・・・」

 

千草殿が錯乱しているので元に戻してもらおうと桜花殿を見るが、女性と完璧な連携で立ち回っている。見る者にはわかる動きだ。以心伝心、一蓮托生。お互いを完全に信用しているからこそ出来る動きだった。

 

千草殿ならもっと分かるだろう。目がいいし、その、桜花殿を見てきましたから。

 

「ブツブツ・・・・・・ブツブツ・・・・・・」

「ち、千草殿御免!」

「あうっ!?」

 

千草殿に峰打ちを決め沈ませる。後ろから弓矢を射られてはたまらない。

今は色恋沙汰に現を抜かしいている時では・・・・・・っ!?そ、そう言えばタケミカヅチ様はどちらに!?

 

「早く帰らねば!!助太刀します!!」

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ僕達はあの子が戻ってくる前に、もう1度探索に出かけよう」

「いいの?ご飯取りに行ってるって・・・」

「事態は急を要する、食事は後でもいいだろう」

「そ、そうですねっ!」

「俺はいい」

「無理なだけでしょ?」

「うるせぇ」

 

アイツらが皆海に出掛けていく。俺は泳げない、だから島に残る。

 

・・・・・・行ったか。

 

「もういいぞ」

『うん』

 

透明化(・・・)していたハルプが姿を現した。傍から見ても落ち込んでいるのがよく分かる。

ったく、馬鹿な奴だ。やめとけって言ったのによ。

 

「・・・・・・気は済んだか?」

『うん・・・ありがと』

「はっ、ざまあみろ。」

 

なにがみんなの気持ちが知りたいだ、信用されてるわけねぇだろ。

 

「俺達はな、他のお前を知ってんだ。お前は外見以外、ソイツと違う。それだけで冒険者って奴らは怖いんだよ。俺らからすればお前は、知人に化ける怪物でしかねぇ。・・・・・・よく覚えとけ」

『ごめん、なさい』

 

そう言って座り込む。

・・・・・・はぁ、なんだかなぁ。

 

「で?おい、どうすれば帰れるんだ?」

『・・・・・・本当に帰っちゃう?』

「当然だろ」

『うぅ、そうだよね。』

「むしろ何で帰らないと思ったんだお前は」

『だって嬉しかったし・・・・・・』

 

嬉しかったし、じゃねぇんだよ。

 

「俺達は帰らないといけねぇんだ。理由はそれぞれ違うだろうが、みんな理由がある。それをテメェの感情で決めつけんな」

『うん、分かったよ。みんなが戻ってきたら帰してあげる』

「おう」

『だから・・・・・・その、もう少しだけ、みんなと一緒にいてもいい?』

「・・・・・・おう、それなら文句は言われねぇだろうよ」

 

はぁ、これだからガキは嫌いなんだ。

 

「次は海か!!」

「そのようですね!」

「桜花が、桜花が・・・・・・」

「千草殿!?どうか抑えて・・・・・・!!」

 

!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一撃が大地を揺らす。

 

「─────っ」

 

だがそれは決定打になり得ない。どれだけの攻撃力で殴りかかろうと、それは自らに牙を向くだけだ。

タケミカヅチはハルプの攻撃を受け流し、戦闘を行っていた。

 

「──────シッ!!」

 

タケミカヅチの斬撃。流れるような動作から放たれる完璧な一撃だ。あまりに美しい太刀筋は基本的でありながら、ハルプの能力による束縛から外れて見せる。

 

つまり、ハルプは避けることが出来ない。

 

可能性を知覚し、目視し、操作する。それこそがハルプの能力。世界の増減とも言える規格外を斬り捨てる。

ハルプが三手先を読むのなら、タケミカヅチの全力の剣技は三十手先を行く。

 

『───────!!!』

「この程度」

 

声にならない叫び声が周囲の空気を弾き、衝撃波として放つ。

タケミカヅチはそこに合わせ、発勁を打ち込んだ。達人の域をはるかに超える神は音速に届いた衝撃波を簡単に打ち消す。

 

力と力がぶつかり合い、ソニックブームが周囲を蹂躙する。

 

「はあぁ!!」

『ぬぅあっ!』

 

タケミカヅチは今、「権能」を使っていた。

 

神々は地上で権能を振るう事を許されていない。いや、自らで制限をかけた。人のように振る舞いたい、そう思ったから。

 

しかし今のタケミカヅチは「人」では無い。紛れもない神である。

─────だが、それ以前に1人の父でもあった。

 

「─────────!!!」

『──────────!!』

 

タケミカヅチが解放した権能、それは「全てを斬る」剣神としてのそれだ。

 

タケミカヅチはハルプの能力を斬りながら(・・・・・)戦っている。そうしない限り、彼の攻撃が届くことは無く時間稼ぎにしか・・・・・・否、時間稼ぎにもならないからだ。

 

『──!?』

「無駄だ。諦めろ・・・・・・!!」

 

タケミカヅチが刀を振るう。そうすれば可能性は斬られた。

 

「お前が俺の可能性をどれだけ下げたとしても、関係はない」

『ナ、何でだよ!?』

 

歩ける可能性、進める可能性、動ける可能性。全てを弄られ最低まで下げられてなおタケミカヅチは歩き、進み、動く。

 

「簡単な話だ────斬り落とした。」

 

仮に、歩けない可能性を99%にされた時、タケミカヅチが歩ける可能性は1%。では、99%を切り落としたらどうなるだろうか。

残るのは1%。つまるところ────100%、確実に歩けるのだ。

 

「子はいつか親を超える。だが、それは今では無い。」

『うグッ!』

 

深々と体を斬られ、ハルプがよろけながら後退する。タケミカヅチの全てを斬るという権能は、魂に対しても例外では無い。

魂も────いや、死という概念ですら斬ろうと思えば彼は斬るだろう。

 

「今のお前は何だ。武士でなければ剣士ですら無い!」

 

ハルプの能力はいわゆるチートだが、タケミカヅチのチートはその上を行く。

 

「技は無く、あるのは本能任せの暴力のみだ」

 

完璧なフェイントから、刹那の間に斬撃が飛ぶ。数にして二十。正面から放ったというのに、全方位から斬撃は迫る。

 

『クソがァ!!!』

 

とは言え、タケミカヅチとて無傷ではない。ハルプの攻撃のすべてを防ぐ事はしていなかった。戦闘に支障が出ない場所への攻撃は無視して、少しでも多くダメージを与えようと刀を振るっていたからだ。

 

防御を捨てた攻めの型。先手必勝を地で行くその戦い方は、怪物に対しては有効とは言えない。

如実に現れる耐久力の差がタケミカヅチに傷を負わせていく。

 

「ぐっ・・・・・・!!」

『そこだぁあ!!』

 

ハルプの叩きつけが地面ごとタケミカヅチを吹き飛ばす。

吹き飛ばされ、地面を滑るタケミカヅチ。それを追って跳躍し、全力の振り下ろしが放たれる。

 

「ぉぉおお!!」

『っにぃ!?』

 

地に足がつかない状況での受け流し。困難を極めるその行為を武神は成す。受け流した勢いのままに立ち上がり、刀を振るう。

 

幾度と無く斬撃が煌めく。

 

「お前の能力は通用しない。俺は俺だ。ありとあらゆる世界があろうとも、この俺は変わらない。お前の父である俺は、変わってなどやらん!」

 

彼の身体能力は人間レベルまで下げられている。なぜその状態で戦っているのかといえば、それは父親だから。父親としての姿で勝ちたいのだ。この勝負の勝ち、それは妖夢の生還まで戦うことだ。いつ帰ってくるかなど、分からない。しかし、魂を斬れば正気に戻りかけることも分かっている、故に攻める。

 

「どれだけの俺が居て、その全てがお前に負けたとしても・・・・・・俺は負けない。故に効かん!」

 

どれだけたくさんの負ける可能性(負けた可能性)があろうとも、自分(・・)は負けない。

屁理屈でも嘘っぱちでも無い。単なる意地。単なる気合い。

他の可能性が無いのなら、今こそが全て。自分が負けなければ負けない。それだけの話し。

 

『がハッ!!ぐぇッ?!グぁっ!?!』

 

暴走し能力が強化されてなおハルプは劣勢であった。瞬時に手足が寸断され、首が飛ぶ。

残る魂で身体を再構成し、立ち上がる。が、繰り返される。

 

「────どうした、立て」

 

タケミカヅチが介錯をするかのように、膝をついたハルプの横に立つ。すると

 

「タケミカヅチ様!!」

 

突如上から声が降り注ぐ。そして体にかかる液体。見る見るうちに体の怪我は無くなり、体力も戻って来た。

 

「猿師!?何をしている!早く春姫を」

「春姫殿はモンスターに連れ去られたでごザル!!」

「なっ!?」

「ご心配召されるな!信じ難い事ではごザルが、彼奴等には理性と知識がある模様でごザル!!まずはハルプ殿を元に戻すことを優先しましょうぞっ!!」

 

そう言って猿師は屋根から飛び降り、タケミカヅチの隣に着地する。どうやら猿師は既にゼノス達と遭遇したらしく、会話の後に信用する事にしたようだ。猿師の珍しい言葉遣いに「ふっ」と笑い、ハルプを見る。

黒々とした罅は未だ痛々しく、赤く点滅する目は確かにタケミカヅチを捉えていた。

 

「どうやら、本当らしいな」

「なぜ信用を?とてもではござらんが、信用には値しない情報でごザルよ?」

「ハルプが動かないなら、恐らくタダの怪物では無いのだろうよ。さて、待たせたな妖夢。行くぞ!!」

『うるせぇバーか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬撃が世界を断つ。私は元の世界に戻ろうとしていた。

 

「【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】・・・・・・楼観剣。」

 

武器を作り直し、戦いのために準備を整える。

 

「【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】・・・・・・白楼剣。」

 

いざ元の世界・・・・・・いや、元の世界・・・・・・ではないですけど、あの子のいる世界に戻ろうとして、あの方に出会いました。

 

「今なら帰ってこれるわよ?」

 

「いえ紫様。私はあの子を助けます」

 

「あなたがあの世界で邪魔者だとしても?」

 

「・・・・・・はい。除け者だろうと構いません」

 

「あなたの努力全てが間違っているかもしれないわよ?」

 

「それでもです」

 

「そう、なら頑張りなさい。幽々子もあなたを応援しているわ」

 

「はい・・・・・・頑張ります。」

 

 

白く染まる視界の中で、そんな会話を一瞬交わす。

遠くに景色が見えてきた。もうすぐです、今行きますよ。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!」

『あぁぁああああああ!!!』

「まだ、だぁあ!!」

『いイ加減にっ!!吹き飛べぇえええ!!!』

 

斬撃の痕から私は飛び出した。目に入る光景はタケとハルプの一騎打ち。

その近くでは猿師さんが倒れた団員たちを助け起こしています。

 

「てめぇら生きてるか!?」

「『「!?」』」

 

空間が歪み、ダリルさんがリーナさんとクルメさんを抱いて現れ、その後からオッタルさんがアリッサを抱いて飛び出してきました。クルメさんが青ざめています、余程酷い世界だったのでしょう。

 

桜花たちは?と思っていると、同じ場所から桜花達が現れます。

少し負傷が目立ちますがまだ、誰も死んでないようです。

・・・・・・よかった。

 

「タケ!!今行きます!!」

「その声、妖夢かっ!」

『あぁ!?』

 

あの子が私の方を睨みます。その視線の強さに、少したじろぐ。でも、その程度で止まっていてはきっと何も出来ない。

私も睨み返して刀を抜きます。

 

「はぁ」

 

あの子は一つ、勘違いしている。だから、それを分からせてあげるんです。じゃないと、きっと消えてしまう。だから私が助けます。今までずっと助けてくれたから、そのお返しに。

 

「きっと、私が話を聞けと言っても聞かないのでしょう?なら嫌でも聴けるようにしてあげましょう」

『何ぃ?!テメェぶち殺すゾ!!』

 

あの能力に対する対処法は三つ───一つ、知覚されるよりも早く動くこと。知覚されればきっと干渉される。だから、それよりも速く動けばいい。二つ・・・・・・能力を使わせないこと。

知覚されずに動くことは困難を極めます、なので能力を使わないように挑発しましょう。

 

「ハルプ!?おい何がどうなって!」

 

皆が私を見ています、出来れば何も言わないで欲しいです。ベートさんがやって来ましたが、周囲の状況を見て、冷静になったのか何かを堪えるような表情をして踏みとどまった。

内心でホッと溜息をつき、続ける。

 

「出来ますかねぇ?だって、能力に頼ってるヘナチョコじゃあないですかぁ。クスクス」

『て、テメェえ!!』

 

ハルプと高速で剣戟を交わし、煽る。

 

「悔しかったら人間形態になって刀で戦えばいいんですよーだ!バーカバーカ!」

 

わ、我ながら相手を煽るのは苦手ですが、理性が欠けてる今なら効くはず───!!

 

『イイぜ、乗ってやる!!』

 

ハルプが元の姿に戻りました。恐らくは無意識のうちにやったのでしょう。しかし、罅は依然そこにあり、消えかけていることに違いはないのでしょう。

 

それにしてもさすがあの子です、こんな幼稚な挑発に乗るなんて。

 

「皆さん武器を構えて、決着をつけます!」

「「「「「おう!」」」」」

 

こちらの戦力は多いですが、ハルプに有効打を与えられる人は少ないです。

先の戦いを見る限り、私、タケ、桜花が確定していますが・・・・・・ん?え?誰ですかあの銀髪の女の人?

って、今そんなことを言っている場合では無かったです。

 

「タケ、桜花、行きますよ!!」

「任せろ」

「ふっ、なぁにあと数時間は戦えるぞ!」

 

タケ、無理しすぎです。ですが、下手を撃てばそうなることは確実。短期決戦で行きましょう。

 

『準備は出来タかよ?』

「はい」

 

返事をするのが早いか否か、私は地面を蹴って正面から斬りかかる。桜花とタケがそれぞれ真横に跳んでから前進、ハルプは私の攻撃を刀で弾くと、蹴りを打ち込んでくる。

 

「っ!」

 

蹴りを身体を捻って回避し、肘で顎を打つ。しかし打撃は距離を離すための手段でしかない。

桜花が到着し一閃。大量の火花が散る。

 

防がれた。

 

桜花が目を見開き、伏せる。ハルプの反撃が髪を掠めて風を巻き起こした。

たたらを踏んだ桜花をタケが押して助け、そのまま攻撃する。私もそれに合わせて斬撃を打ち込む。

 

『グぎっ!?』

 

──!?

 

タケの攻撃がハルプの防御を無視して腕を吹き飛ばす。今更気が付きましたが、神威が凄いです。

 

「ぉおおおお!!」

 

無数の斬撃がハルプを切り裂きます。ですが、一撃で吹き飛ばせる魂の量が少ない。強制的に魂を成仏させる白楼剣の方がやはり適している。

 

『っざけんなァ!!!!』

 

ハルプが叫ぶ。両手に楼観剣を召喚し、突貫してくる。構えも振りも無茶苦茶です。持っている武器が楼観剣で無ければ容易く受け流し斬りかかれるのですが。

 

「無駄だと言っているだろ!」

 

えぇ!?

 

た、タケが楼観剣を・・・・・・う、受け流した?タダの刀で?え、えぇ・・・・・・?

 

っとと、そんな気を取られている場合ではありません!タケはもう何してもいいや位の気持ちでいろと記憶が言っています。

 

「俺が抑える!お前達で斬れ!!」

「応!!」

「は、はい!」

『ぐぬぬぅうううう!!』

 

冷静さを失っているハルプは未だに技らしきものを使わない。

チャンスは今しかない!

 

連撃、連撃、連撃。

 

斬撃、斬撃、斬撃。

 

雷撃、神撃、剣撃。

 

「「「はぁああああ!!!」」」

『────!?』

 

肺の中の空気が無くなるまで斬り続ける。肺の中の空気が無くなってもなお、斬り続ける。無呼吸で斬る。

 

「はぁ、はぁ、んく・・・・・・どうですか」

「はぁ、キツイが、まだ、行ける」

「俺・・・・・・も、まだ、行け・・・・・・る・・・・・・」

 

ドサり、と桜花が倒れました。恐らくは魔力枯渇でしょう。みんなを助けるために魔法を使い続けたようですから。銀髪の女性がササッと桜花を助け、避難させる。・・・・・・ほんと誰なんですかアレ。

 

「2人だけだが、行けるか?妖夢」

「はい。大丈夫です」

『まだ!まだだ・・・・・・!』

 

私たちが戦意を新たに武器を構えれば、目に光を取り戻しかけたハルプがぬるりと幽鬼のように立ち上がります。まだまだ戦えそうですね。

 

「死者と、生者の、違いだな」

「体力の差、ですか」

 

呼吸を整える時間は無さそうです。少し不味いかも・・・・・・とその時

 

「妖夢、魔法をよこせ」

 

スタっと私の横に降り立ったのはべートさんだ。そして理解しました。べートさんのブーツは魔法を吸収してその効果を得る事が出来る特別なもの。そして、私の白楼剣と楼観剣は魔法で作り出したもの。

 

「なるほど!分かりました。どうぞ受け取って下さい」

「おう。俺がアイツをブチのめす。お前らは息整えてろ」

 

ニヤリとハルプを見据えて笑うべートさん、それに応えるように、ハルプも微笑む。

 

「何時ぶりだ?こうして向かい合って武器構えんのは」

 

まだ妖夢がレベル2だった時、2人は・・・・・・厳密には3人は戦っていた。

状況は異なるが・・・・・・再戦だった。

 

あの時、妖夢達は自分が負けたと思った。

あの時、べートはこれが勝ちだとは思わなかった。

 

べートがスゥっと目を細め、懐かしむように言う。

 

「あの日以来、お前を忘れたことはねぇ。その糞ガキ面を思い出さねぇ日は無かった。まさかダチになるなんざ思ってもいなかったがよ・・・・・・お前をぶちのめす日が待ち遠しかったんだ。」

 

ようやく来たぜ、その日がよ。そういったべートさんの闘士が燃え上がる。目に見えると錯覚するくらいには。

 

力強く地を蹴った。互いの間を瞬時に埋め尽くし、蹴りを放った。強制成仏の力を持った蹴りはハルプにダメージを与えるに足りる物だろう。

 

「ダチだ何だと散々騒ぎ立てやがって・・・・・・!いざと言う時には頼りもしねぇ!このザコがッ!テメェの小せぇ背中で全部背負えると思ってんじゃねぇぞ!!だから暴走なんてすんだよバカが!」

 

捲し立てるように言葉と連打がハルプに降り掛かる。技術を失ったハルプではその殆どを防げない。

 

『まだだァ!!う"っ!?』

「ザコが!」

 

2本の刀を回避して、膝蹴りからのサマーソルト、背中から落ちるハルプにかかと落とし。地面に叩きつけられ、跳ね上がった身体を蹴りあげ、ローキックで吹き飛ばす。

建物の残骸にめり込んだハルプに全速力での前蹴り。ハルプが建物を突き破って吹き飛んだ。

 

『うっ・・・・・・おえぇ・・・・・・!ク、ソが!』

 

白い光がボロボロとこぼれ、その目が怒りに燃えた。

 

「おいおい、どうしたんだ?レベル2の方が強かったじゃねぇか!ははははは、弱くなったなァ!」

『んだとぉ!?俺は強くなったんだ、家族を救う為に!!友達を助けるために!』

「はっ!今テメェが刀をどんな奴らに向けてんのか、分かってんのか?」

『うるさい!』

 

ハルプの攻撃の合間を縫うようにべートさんの打撃が打ち込まれていく。ハルプが何度も半霊に戻り、復活を繰り返す。

 

「オラァ!!」

 

べートさんの蹴りがハルプの頭を消し飛ばす。

 

「妖夢、準備は良いか」

「はい、もちろんです」

「行くぞ!」

 

タケと共に前進する。ハルプの首が元通りに再生し、楼観剣でべートさんを攻撃している。べートさんはギリギリで躱しながら、反撃を試みている。

 

「────桜花閃々!!」

 

加速しつつ足元を斬り払う。が、回避される。やはり私と同じスキルは持っているようです。

自分が使用した剣技は本能レベルで理解しているようですね。

 

『くそ、くそくそ!なんで邪魔するんだよ!!ふざけんなよ!』

「!」

 

ハルプの声が安定した・・・・・・?いや、正気にはまだ至っていないはず。

 

「父だからだ」

「ダチだからだ!」

 

固まった私とは別で2人は苛烈な攻めでハルプを攻撃する。必死な表情でそれを防ぎ、タケの蹴りで後ろに転がる。

すると立ち上がったハルプの顔は一変していた。

 

『いやだ、戦いたくなんかないんだ。お願いだ、どっか行ってくれよ』

 

ハルプがオロオロと目を揺らしながら、少し後ろに下がる。しかし

 

『うぐっ!?』

 

と呻きながら頭を押さえる。表面がポロポロと床に落ち、光になって消える。もはや体の殆どは底が見えない黒い何かが露出していた。

 

「不味いです」

『もう─────嫌なのに、くく、ははは・・・・・・』

 

ハルプが可笑しくてたまらないと言った風に笑い出す。

 

・・・・・・。

 

一瞬で決めるしか無いようです。予想以上に、時間が無い。

 

「一瞬で決めます」

「あぁ、止めなければ不味そうだ」

「任せとけ」

 

打てば響く。その言葉のように間髪入れずに返事が来る。

ハルプを助けたいという強い想い。それが2人を動かすのでしょう。

見ればべートさんのブーツは至る所に傷が入り、出血している箇所も多い。やっぱりあの子は愛されているのですね。

 

ならば、なお更に。

この自体を引き起こした私が止めなくては。

 

「──────手出しは無用です。」

 

「私」はこの人達とは無縁だ。

けれど『私』はこの人たちの家族。

 

「なっ?!」

「おいガキ!何言って」

 

だから「私」は『彼ら』を斬ろう。これは私にしか出来ない事なのだから。私がやらねばならないことなのだから。

 

「私は斬る。斬らねばならぬ。斬れぬものなど無い。斬れない等は有り得ない。斬れぬなら────死ね!」

 

過剰なまでに自己暗示を重ね、神経を集中する。世界が伸びるような感覚と共に、詠唱を開始する。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】───」

 

自らの腹を捌く覚悟を持って、自らを死の淵に置いて刀を研ぎ澄ます。

 

「【男は卑小、刀は平凡。】」

 

今詠うこの法は、弱者が強者を穿つ逆転の術。

 

『【此度、修羅は顕現す】』

 

ハルプが詠唱を開始した。どうやらあの子も私と同じ考えのようだ。

 

「【才は無く、そして師もいない。】」

『【修羅、一刀にて山、切り崩し】』

 

私とは真逆、恵まれずに育ち、決して折れなかった1人の剣士の運命・・・・・・それを詠唱にしたもの。

自分に出来ないことを可能とする魔法は、きっと叶えてくれるだろう。

 

「【頂き睨む弱者は落ちる】」

『【頂きは地へと落ちる】』

 

思い出せ、かの技の名を。そして斬れ、我が半身を蝕む邪なる霊を。

我らが血族に伝わる魔を払う霊刀よ。迷い断つ剣よ。

 

「【その身、その心、修羅と化して】」

『【時過ぎし時、男、泥のように眠る】』

 

私は迷った───────故に力を貸すがいい!

 

『一刀修羅ァア!!』

 

発動し加速する。私に向かって一直線に。勝利を確信した笑みだった。

 

あの子は強い、あの子は私よりもきっと凄い人物だろう。

 

だが、私は────その上を行ってみせる!!いや、行きたい!!

 

 

願って口にする。

 

 

「───【我が身に羅刹の()を刻む】!!」

『!?』

「一刀──────」

 

あの子がブレーキを掛ける、もう遅い。

 

「羅刹ッ!!!!」

 

世界が止まる。

 

一刀修羅の強化倍率を数百倍にまではね上げる。全てを一瞬にかける無謀な技。ですが神の恩恵を受けた者が使えば・・・・・・!

 

私が地をける。あの子は無反応・・・・・・いや、違う。動いていない。

単純に私が速すぎた。速度が上がったのに加え私の身体能力も引き上げられている。それによって普通に感じているのだろう。今はきっと、私は光に近い。

 

「未来永劫斬!!!」

 

技に込める想い、これから先も共に居たいからとこの技を選んだ。

斬って斬って、斬る。自分の身体中から血が噴き出す。

 

あの子への対処法、三つ目──それはトライ&エラー。

あの能力は1%以下から99%以上までを自由に操れるという物、但し、0%と100%にはならない。

 

だから速く無数に無限に、その小さな数字を引くまで攻撃をし続ければいい!

 

あの子の罅をなぞるように全てを斬り裂く。ありとあらゆる、私の覚えうる全ての技を叩き込む。

 

「はぁああああああああああああああああ!!」

 

私の体感で1分ほど。現実の時間では恐らく───1秒未満。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!!!」

 

最後の一撃を放ち、ハルプの胸を撃ち抜いた。

 

凄まじい脱力感が私をおそう。血も足りなければ、霊力も魔力もなにも足りない。意識が薄れそうになるのを気合いで耐えて、あの子に向き直る。

 

『な・・・・・・?』

 

あの子の罅が私に斬られて白くなっている。私はゆっくりと白楼剣を鞘に─────納刀する。

 

『俺の・・・・・・負け?』

 

ふらりと倒れそうになるハルプを抱きしめる。

 

弾けるような音と、白い光。眩い光景に皆が思わず顔を隠す。

私はそれを受け入れて目を瞑った。

 

 

 

 

何も無い白い世界。そんな世界に、一人の少女が見えた。こちらに必死な顔をして手を伸ばしている。

 

ハルプ()、聞こえますか?」

意識が鮮明になっていく。それにつれて自分が何をしてしまったのか、少しずつ思い出していた。俺が家族にしたことを思うと最悪感が湧いてくる。俺は差し出された手を取れない。

 

「私はあなたが好きです。だから、また一緒に暮らしましょう」

 

聞きなれた可愛らしい声は俺に届いている。

 

「私は───────あなたと家族になりたいんです」

 

妖夢が少し緊張した様にそう言った。

 

無理だろそんなの。俺は否定する。

俺は妖夢を憎んだんだ。当たり散らしたんだ。妖夢に家族を奪われたってな。何度殺そうとしたか俺でもわからない。一方的なものだった。

 

「私はきっとあなたを悲しませたと思います。だから、謝ります。予想ですが、私に取られてヤキモチを焼いた・・・・・・なんて感じじゃないですか?だって、私ですから。きっとそんな事のはずです」

 

・・・・・・。

 

「あなたは私です。二つの体を共有する、運命共同体ですっ」

 

強風に耐えるように、少しづつこちらに近づいてくる。多分、俺が嫌がると風が強くなるんだろう。

 

「ええっと、その、言葉選びが下手でごめんなさい。要するにですねっ、全部勘違いなんですよハルプ!私たちの些細なすれ違いなんです!」

 

・・・・・・勘違い?

 

「私はあなたの家族を奪ってなんていません。あなたは奪われてなんかいません。というか、奪えません。私はあなたの家族からすれば異物も良いところですよっ!全然お話できなくて、相当頑張って漸くマシな感じになりましたが・・・・・・未だにギクシャクするんです!早く帰ってきてくれないと皆さんが可哀想です!

あなたが誰に何を吹き込まれたのか分かりませんが、そんなの嘘です!!私は家族を奪えないです、そこまで器用なこと出来ません!」

 

風が止む。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、そうか、駄神か。アレの差金だったのか。いや、うん、確かに少し考えればそうかも・・・・・・。能力でやられてたのかも知れないな。そう考えると・・・・・・いや、結局やったのは俺だ。

 

「えっとあと言うべきことは・・・・・・。えっとあなたは私に罪悪感を感じているようですが」

 

何でわかるんだよ?

 

「そりゃあ、同じ体です。分かりますよ。この間までは分かりませんでしたけどね」

 

あぁ、共有してんのか、分かった。・・・・・・確かに流れ込んでくるな。変な気持ちだ。そうか、繋がってるからすんなりと信じられるんだな。

 

「〔家族なら言い合いだって喧嘩だって物の取り合いだってきっとするでしょう、でも、家族なら最後はきっと手を取り合って仲良く出来るはずです。〕・・・・・・覚えてますか?あなたが私を通してタケに言った言葉です」

 

やめろよ、恥ずかしい。あの時はきっと、なんか焦ってたんだ。

 

「そのあと、あなたは言いました。血が繋がっていなくても家族にはなれるって。私達は血は繋がっていません。あなたには血も流れていません。ですが、魂が繋がっています。これって凄い事ですよねっ!」

 

・・・・・・。

 

「だから、その・・・・・・。私はあなたの事を家族だと思っています。記憶が無くなって、右も左も何も分からなくって・・・・・・そんな私の頭の中に響いてきたあなたの言葉は、声は、私を常に勇気づけてくれました。あなたの言葉にしたがって、あなたと一緒に生活して、とても楽しかった、です。嬉しかっ、たです!」

 

おい、なんで泣いてるんだよ。不安になるだろうが。

 

「私は記憶を取り戻してしまいましたが、それでも、あなたの声が無くては不安になります。まだ、分からないことだらけです。文字だって少し不安がありますし、この世界の常識を私は即座に思い出したりは出来ません。出来ないことがいっぱいです。きっと、あなたが居ないと、私は生きていけません。死んでしまいます」

 

そんな大げさな・・・・・・妖夢なら生きていけるだろ。俺なんか邪魔なだけだよ。散々邪魔をして、みんなを傷つけて、迷惑かけて、ほんと、どうしようも無い奴なんだよ。俺なんかいたら、死んじゃうぜ?

 

「嫌です。離れたくないんです。それに、あなただって私が居ないと死んじゃいますよ?」

 

なんでさ。

気がつけば妖夢は俺の目の前まで来ていた。

 

「だってあなたは私の半霊ですから、私から遠ざかれば死んじゃいますよ」

 

そうか・・・・・・いいだろ?俺がいなくなれば「ダメですっ!」何でだよ?

 

「半人半霊はどちらかが欠けたら死んじゃいます。だから居なくならないでください!置いていったら泣きますからね」

 

う・・・・・・マジで?

 

「はい。そうです!泣きます!」

 

・・・・・・嘘ついてない?

 

「ついてません!・・・・・・付いてないですよね?」

 

俺に聞くなよ。でもそうか。嘘ついてないか。・・・・・・なんか、アレだな。・・・・・・この感じ、久しぶりかも。

 

「・・・・・・そうですね、とても、久しぶりです。とても温かいあなたの声です」

 

やめい、恥ずかしい。泣くぞ

 

「えへへ、皆待ってますよ?」

 

えっい、いや、俺はほら・・・・・・合わせる顔がないし?

 

「ふふん、いい方法を知っていますよ私は!」

 

デデーンじゃないが、それはどんな?

 

「半霊形態でふよふよすれば顔は見られません!!」

 

物理的な意味!?

 

「霊的ですっ!ドヤァ」

 

妖夢お前・・・・・・。

 

「だから」

 

だから?

 

「居なくならないでください。私とあなたで半人半霊、運命共同体の2人で一つです。だから、共有しましょう。嫌なことも辛いことも何もかも、全部半分こですっ!他のみんなが欲しがったら少しおすそ分けしてあげて、それで一緒に過ごして・・・・・・!」

 

いい考えだな。うん、いい考えだよ・・・・・・でもさ、俺は、間違えたんだよ。何もかも。間違えたんだ。

初めから俺は・・・・・・此処にいちゃいけなかったんだ。

 

「えっ、そんなこと・・・・・・」

 

無いって言えるか?

 

「そんなことは・・・・・・」

 

ほら、言えないだろ?

 

「なら、皆さんに聞けばいいんです!」

 

みんなに?

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

2人の詠唱が交わる刹那、誰もが妖夢の敗北を幻視した。同じ魔法、けれどハルプの方が僅かに早かったからだ。しかし、結果はどうか。

 

「は、速い・・・・・・!」

「何も見えなかったぞッ?!」

 

オッタルとべートですら、「速く動いていた」と言う事実しか分らない程だ。

 

 

妖夢が崩れ落ちるハルプの体を抱きとめる。地面に座り込み、抱きしめる。

涙がボロボロと溢れ出し、ハルプの頬を濡らしていく。

誰も、妖夢を目で追えなかった。気が付けばこの状況であったのだから。

 

ハルプの体からは白い光が一つ、また一つと空へ飛んでいく。

 

「私は、今までのように・・・・・・一緒に笑って、鍛錬して、ご飯を食べて、探検して、遊んで・・・・・・ずっと一緒がいいんです。私には居場所がありません。貴方が居ないと、ここには居られないんですっ。」

 

光を失ったハルプの赤い瞳に、小さな光が灯る。

驚いたように目を見開いていく、ワナワナと震えながら、小さな手が妖夢の頬を撫でる。一刀羅刹で噴き出した血が、綺麗に拭われる。

 

「だからっ・・・お願いです。一緒に・・・・・・!」

 

少しすればハルプの表情は柔らかくなり、目から涙が零れた。

 

『ダメだろ、俺が、ここにいる、のは』

 

2人の表情は同じように曇る。

妖夢は皆を見渡した。その場にいた皆はその視線に視線を返す。妖夢は息を飲む、2人が最も恐れた質問をしようとしているから。

 

 

 

「私が、私たちが、半人半霊がオラリオに居るのは、間違っているでしょうか?」

 

 

 

妖夢はそう切り出した。不安げに目が揺れ、服を力を込めて握りしめる。ハルプが目を閉じ、衝撃に備えた。

確かに、彼女達が起こした事件は凄まじく、街に不利益をもたらす事も多々あっただろう。

 

だが、ここは迷宮都市。ありとあらゆるものが行き交う世界の中心である。何があっても、誰がいても、間違ってなんかいない。タケミカヅチはそう思う。だから口にした。

 

「間違いなんかじゃない。お前達がいなかったら俺達はきっと此処まで強くなれなかった。・・・・・・いや、違うか。此処まで幸せにはなれなかったよ」

 

タケミカヅチが微笑む。妖夢がホッとしたようにハルプのお腹に顔を埋め、ハルプが片腕で顔を隠した。鼻をすするような音が聞こえる。

 

「ハルプ、聞きましたか?私達は、居ていいんですよ?」

『うん・・・・・・うん、聞いたよ・・・・・・聞いたっ!』

 

嗚咽混じりに行き場を失っていた2人の少女は泣いた。この一言でどれだけ救われただろうか。

 

「なら、お願いです───私も、家族に入れてください」

 

妖夢がハルプにそういった。聞き取りにくい掠れたような囁き声で。

ハルプは泣きながら、口元だけをニヤリと笑らわせた。

 

『おい、おい。俺は、大黒、柱じゃないぜ?』

 

妖夢が顔を綻ばせる。そして少しの緊張と共に、再びタケミカヅチを振り返る。

 

「いい、ですか?」

 

涙に濡れたその顔は、酷く儚げで美しい。その一言にはハルプと妖夢の二人分の万の意味が込められている。

タケミカヅチに視線が集まった。タケミカヅチは深い溜息をつき、切り出した。

たった一言、呟く。ニッと男前に笑いながら。

 

 

 

 

「おかえり。待ってたぞ」

 

 

 

 

家族の帰還を喜ぶ、父の声。

 

「お前達。ほら、言うことがあるだろ?」

 

安心したような声音で、いつものように笑う。そして両手を広げた。

妖夢とハルプの顔がパァと輝いた。

 

「ほら、行きますよハルプ!」

『うぅ、わかってるってっ』

 

 

妖夢に助け起こされるようにしてハルプが立ちがり、手を繋ぎながら走って、タケミカヅチ抱き着いた。

 

「『ただいま!!お父さん!』」

『あとごめんなさい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!こ、ここはどこでしょうか?(わたくし)はモンスターに出会って・・・・・・」

「お?起きたか、待っててくれ、今は話に行ける様な雰囲気じゃあない」

「ウム、シバシ待テ」

「は、はい。」

 

暗がりで顔は見えないが、状況的には自分を助けてくれた冒険者だろう。そう決まりをつけ、春姫は例を言う。

 

「助けてくださりありがとうございますっ!」

「おう気にすんな!」

「ウム」

 

振り向く蜥蜴人と石竜の顔。

 

「コンッ!?」

 

春姫は気絶した。

 

「・・・・・・おいおい」

 

 









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