オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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ハーメルンがどんどん便利になって行くが対応しきれない無能作者のシフシフです。

タイトルぅ!べ、別に告白なんかしないんだからね!!(大嘘)







80話『好きだぜ、妖夢』

ここは十八階層の街、リ・ヴィラ。

理性あるモンスター、異端児(ゼノス)が暮らす街である。

堅強な外壁に覆われ、飛来するモンスターを撃ち落とすべく巨大なバリスタが設けられている。

そんな要塞とも言える場所でベル達は

 

───────────倒れていた。

 

「もぅ・・・・・・むり、です」

「あぁ限界、だ」

「なんで・・・・・・リリ、まで・・・・・・」

 

心身ともに限界、ポーションなんてもう飲みたくない。見事な水っ腹になった3人は、傷だらけの体をどうにか起こす。

その視線の先、無数のゼノスたちがその身に纏っていた鎧を外し休息を取っている。

 

『なんだよ情けないなぁ。もっと頑張れよー』

 

ひぃひぃと言うベルの顔を覗き込むようにしながらハルプがそういう。整った顔立ち、あどけなさが残る顔が目の前に現れ、ベルはひっくり返る。最早叫ぶ体力もない。

 

『おーいー』

「や、やめて、くだ、さ」

 

ハルプがベルの肩をつかみ前後に揺らす。

 

「お願い、です」

『なら仕方ないな』

「それでいいのかよ・・・・・・」

 

頼まれたら断らないっ!とドヤ顔で宣言。グロスとフォーがやって来て三人を回収する。

 

「俺達は物かよぉ」

 

もうヘトヘトとヴェルフが泣き言をあげながらリ・ヴィラへと連れていかれたのだった。

 

 

 

 

 

 

時はほんの少し進む。ベル達がダンジョンを出て、自分のファミリアに帰った頃。

俺は1人、ガネーシャ・ファミリアへとやって来ていた。

 

というか、ガネーシャの部屋の前にもう来ていた。入口から入るのは警備がいてめんどいのでね。俺に人権はねぇ!つまりルールなんて知らねぇ!・・・・・・相手になんか言われたらルールを強要してやるぜ(ゲス)

 

コンコン、とドアをノックすると「誰だ?」と返事が返ってくる。ドアを開けて中に入る。ちなみに人型になっているぞ。

 

『よっす、俺だよガネーシャ!』

「ほう、お前は確かタケミカヅチの・・・・・・。なるほどな」

 

あれ?俺がガネーシャだ!じゃないのか。まぁそこはいいか。

 

『話が早くて助かるぜ。勝手に進めちゃってるけど、止めないのか?』

「あぁ、むしろ礼を言うぞ。まぁもう少し相談は欲しかったが」

『あはは、悪い』

 

俺が笑っているとガネーシャは真剣な顔を崩さずに尋ねてくる。

 

「お前は、異能──いや、権能を持っているらしいな」

『──────何処まで知ってる?』

「ウラノスの知るうるまでは、とだけ言っておく」

『そうかい。で、俺の権能で何がしたいって?』

「どうか──────」

 

なぜ俺の能力について・・・・・・?神なのだから俺の能力よりも万能であるはず。まぁ、地上で使うと天界行きだから使いたくないとかなら分かるけど。

・・・・・・いや、よく考えれたならなるほど。語る必要も無い。

まぁ?そんなことは知った事じゃないですよ。

 

『断る』

「ま、まだ何も・・・・・・どうしてもか?」

『うん、だめー』

 

残念ながら時間は無いのだっ。そもそも?俺はガネーシャが内通者だから挨拶をしに来ただけだ。俺は頼まれた事を断らないっと言ったな?あれは本当だ。でも他に先約があるのでダメデース。

 

「だが」

『でももう決めたことだからな』

 

ゼノスは危険じゃない。ゼノスは人類の友人である。そう認識させる、いや、そうである世界(・・・・・・・)の考え方だけを持ってくる。そうだった事にする。

 

俺が・・・・・・ほかならない俺自身が異端児の夢を叶えるには、もうそれしかないのだ。

だから、やろう。妖夢からの許可ももらっている。

 

「何時やるんだ?他に誰が知っている?」

『やること全部終わらせてからかなぁ。・・・・・・タケミカヅチ・ファミリアの主神、幹部含めた1部。ヘスティア・ファミリア全員。それが原因と結果を知る人になるかな?』

 

・・・・・・うーん、ベート達にもしらせる?でもべート許してくれないだろ多分。まぁ、いうだけ言っておこう。今はまだ早いけどな。

 

『うんまぁ、べートとかにも言っておくかな。そんなことでよろしく』

 

俺は呆れたような視線を背に受けつつ、その場をあとに・・・・・・する前に

 

『あ、神様神様、お名前教えてよ』

「俺か?俺がガネーシャだ!」

『知ってた』

「だろうな」

 

うん、やっぱりこのセリフ必要だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってきた俺は、早速妖夢に捕まった。

 

「ハルプハルプ!和菓子を買ってきたんですよ!ほら、べートと行った所です」

『おお!ホントか!いいねぇ』

 

楽しげに、はしゃぐようにして妖夢は俺の肩を掴んで飛び跳ねる。満面の笑みにこちらも嬉しくなる。なんて言うか、心がぽかぽかする。変な気持ちだな?悪い気はしないけど。

 

・・・・・・でもそんな気持ちも、長くは続かないだろう。

 

俺はもう──────長くない。

 

残念だけど、仕方ない。自業自得だしね。

・・・・・・妖夢は知ってるのかな?知ってるよなぁ。

 

複数の魂が寄り集まり形成されたのが俺だ。だけど今の俺は「俺」と言う意識を形成する欠片(コア)が一つ残っているだけに過ぎない。

魂とは消耗品だ。緩りと燃える蝋燭のように徐々になくなり、やがて消える。俺の状態は砂上の楼閣、風前の灯。

 

別れは決して遠くない内に来る。

 

別れに関しては妖夢も同じだ。正確な時期は不明だが八雲紫が迎えに来るらしい。その時まで例え俺がまだ居たとしても、憑依なんて明らかな境界が存在する以上切り離されて消滅してしまうだろう。

 

・・・・・・だから楽しむだけ楽しんで、出来るだけ頑張ろう。

 

「ハルプ、何を考えてるんですか?────もう、無粋です。ブスですっ」

『おまっ、俺に言ったらそれこそ凄まじいブーメランだろ!?同じ顔の奴にブスって・・・・・・!』

 

可愛いだろ!いい加減にしろ。我らは2人で1人、可愛さは2乗だぁ!2倍ではない!

 

「やめてくださいよー恥ずかしいですよ」

 

顔を赤くして手をひらひらする妖夢。

ふっふっふ目指せ黒龍討伐、目指せ世界最強の剣士!そして・・・・・・うーん、アイドル?それは嫌だな。

 

「ハルプ」

『なにさ?』

「最後まで一緒ですよ。絶対です。約束ですからね?」

 

桜を象った和菓子を食べながら、妖夢が笑う。それにつられて笑ってしまう。やっぱり妖夢は凄いな。俺も頑張らないと。

 

『そうだな。一緒だ』

「あ、そう言えば・・・・・・明日は私達のこちらでの誕生日でしたよね」

『おう!そうだぜ!いやぁ楽しみだなぁ』

「で、明後日って・・・・・・戦争遊戯ですよね」

『おう!ははは、なんか忙しいなぁ』

「ですね、でも」

『楽しいからいっか!』

「ですねー」

 

妖夢が俺の膝に転がってくる。猫かお前は。その頭を撫でサラサラの髪の毛の感触をたしかめながら、思い馳せる。

 

もし理想の世界になったら・・・・・・皆は喜んでくれるのかな。異端児と人間が手を取り合える様になったら、皆笑ってくれるのかな。

 

分からない。でも、俺は知っている。

 

 

──────可能性は0では無い。

 

 

希望はある。夢はある。理想はある。

 

想いはあった。羨望はあった。幻想はあった。夢想はあった。

 

なら俺が変えよう。

それが全て、あの駄神の思い通りだとしても。

そんなこと、知ったことではない。俺は俺の思うように生きる。

俺は皆のためにと思ったのだから、決して間違ってなんかないだろう。それに────

 

「────スゥ────スゥ────」

 

たとえ俺が間違ったとしても、きっと妖夢が止めてくれる。だから、俺は皆のために全てを出し切ろう。

 

『好きだぜ、妖夢』

 

そして、もしも全てを出し切って。皆の願いを叶えた後でほんの少しの力が残っていたなら。

きっと、きっと妖夢の願いも叶えてみせる。

 

「ハル、プ────」

『ごめんな。何時も、後回しでさ』

「えへへ・・・・・・」

 

俺のために一緒にいてくれる妖夢を最後にしなくてはならない。そんか自分の情けなさに、思わず笑ってしまった。きっと今、情けない顔をしてるんだろうなぁ。

でも、俺の顔は妖夢の顔なわけで?情けない顔はしないようにしないとな!

ふふ、よぉし、妖夢の寝顔を確りと目に焼き付けるとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生日当日。俺と妖夢は武錬の城から追い出された。き、嫌われたわけじゃないからな!?

誕生日パーティーをするにあたり、準備に時間がかかるからそれまで暇を潰しておけってことらしい。

 

「えっと、どうします?」

『うーん、例の件をべートに言うにしたってなぁ、誕生日に言うのも嫌だし』

「ベル・クラネルさんも戦争遊戯の会場にもう向かっていますからね」

「ダンジョンは・・・・・・帰ってくるのが遅くなりそうなのでダメ、と」

 

でもやることがないんだよなぁ。タケミカヅチ・ファミリア総出で準備するらしく、誰も暇な人はいない。ヘスティア・ファミリアも居ないとなれば・・・・・・そう

 

『べートだな』

「べートですね」

 

さて暇つぶし兼、思い出作りに行きますか!!

 

 

 

 

 

『「と、言うわけなのですよ」』

「いや揃えても無駄だからな?」

『遊んで!』「下さい!」

「分割すんな」

「『遊んで(ください)よぉ〜』」

「腕を引っ張んな!!」

『じゃ尻尾』「あ、私耳で」

「触んなっ!」

 

何だよー、折角のモフモフが・・・・・・。ダリルと違ってべートのはモフモフなんだぞー。ダリルはなんて言うか乾燥していてなー、硬いからなー。

 

「・・・・・・」

「あ?なんだいきなり黙り込んでよ」

 

うん?なんです妖夢さん。え?尻尾が?・・・・・・ゆ、揺れてる!!耐えてる!耐えてるよあれ!!実は割と喜んでるじゃんべート!!

 

『べート・・・・・・この変態っ』

「見損ないました。変態さんだったんですね」

「なんでだっ!?」

『やーいへんたーい』「へんたーい!」

 

ナイス妖夢、さすが俺達のコンビネーションだぜっ!打てば鳴るって奴だな。

べートはべートで顔を若干赤くしてる。ふふふ、案ずるなかれ、あれは恥ずかしがっているのではない。キレてるのだ。

 

『ふっ、逃げるぞ妖夢!』

「もちろんですともっ」

「逃がすかぁ!!!」

「『わーい!鬼ごっこだぁーー!』」

 

縮地使ってガッツリ逃げると諦めてしまうかもしれないので、捕まるか捕まらないか位を維持して逃げるのです!

 

『やーい!レベル6が4を捕まえられないのかよー!』

「犬さんこっちら、骨なる方へ!わんわんわんですっ」

「テメェらぁあああ!ぶっ殺す!」

『俺は死なんぞー!』「死ぬのは嫌ですー!」

 

いやぁ、ベートってやっぱりイイヤツだよなぁ。なんだかんだで遊んでくれるしっ!!

どうせ怒ってるのも周りからの視線を気にした演技だろうしな!

 

・・・・・・おや?演技の可能性が3%しかねーぞ?ガチギレですか、やばいな。妖夢に伝えておこう!

 

「ぇ」

 

逃げながら妖夢が「マジですか」って顔でこちらを見ている。yes。と頷く俺。さて捕まれば最後、あんなことやこんなことをされて死ぬ。具体的には蹴られて蹴られて蹴られる。

 

「待てこらぁ!」

「待てと言われて誰が待ちますかっ!───っ不味い!」

『くっ、頼みは断らないっ!』

「は、ハルプ!!」

『先に行けっ!!────必ず、生きて会おう!!』

「ハルプッ!────もう、失敗してますそれ」

『あはは!確かに!!』

「オラァ!!」『グボァ!?』

「あーーーー!ハルプの頭が消えた!」

『復活!逃げるぞ妖夢。俺は待った!』

「おお、その手が!」

「どういう理屈だ!!待て!」

『はいっ!』

「犬かてめぇは!」

『わん!わんわん!意味はオマエモナっ!だぜ!』

「ぶち殺す」

『きゃいーん!』

 

あはは!さすがべート楽しいぞ!

という訳で仕返しに尻尾を掴む、そしてねじる。

 

「いっでぇっ!!」

『ふっふっふっ、我が対尻尾神拳、尾捻りを受けよ』

「受けたわ今っ!!」

 

如何にも怪しい動きで手を動かす。180度を左右の手で描くようにかくんかくんとムーヴ。そしてイザ鋭角から放たれる一撃は────『痛いたいやめてべート、やめよう。もうやめておこう。ね?やめよう?』

 

「はぁ・・・・・・初めからやめろ馬鹿が」

「ホントですよ、全くハルプは」

『裏切りっ!?』

「いやお前もな?」

「えー」『えーじゃないが』

 

うわー、と妖夢がわざとらしく項垂れる。俺も真似する。・・・・・・凄まじい勢いでこの場の空気がやる気なさげな感じになる。もうこのまま寝ようぜ。って感じだ。

 

『ういーべート、ベット借りるね』

「あ、私も」

「おう。・・・・・・は?」

「わー、べートの毛落ちてますよ、クスクス」

『笑うなよ妖夢、可哀想だろ。男ってのはいつ禿げるか分からないんだぞ!ブッ!』

「笑ってるじゃないですか」

『だ、だって・・・・・・お前想像してみろよ、禿げたべート』

「そ、そんな・・・・・・失礼ですよ・・・・・・ブッふ!!や、やめてください!強引にイメージを共有しないで下さいよー!みょーん!!」

 

ふふは、や、やばい。べートが禿げたらとか、かんがえるだけで、笑いが止まらないっ。

 

「テメェら・・・・・・もういい、俺はどっか行くわ」

 

え?どっか行くの?ダンジョンに行くのもまだ先なのに?・・・・・・あ、なるほど俺たちが寝ること自体は許してくれたのか!ありがとうべート!だがな、俺達はべートとの思い出作りに来たのだ。逃がさん。

 

『えー、べートも一緒に寝よーぜ!友達と寝るの憧れてんだよ!』

「あぁ?あの狐女と寝りゃあいいだろ」

『男友達とは寝た事ないだろ?だからだよ』

「知らねぇよ・・・・・・。それに俺ァ眠くねぇんだよ今は」

『いいだろー?』

「テメェなぁ!さっきは人の事変態だなんだ言ったくせによぉ!」

『あれは巫山戯ただけだろ?』「そうですよー」

「あぁ・・・・・・コイツらホント疲れる・・・・・・」

 

はよーはよー、とべートを急かしつつ、妖夢とキャッキャと笑う。あー妖夢可愛い癒させるわ〜。ここにべートのモフモフが追加される事により至福の空間となるのです。

 

「俺は行かねえからな、ガキだけで寝てろ」

『はぁ、聞きましたか妖夢さん』

「ええ聞きました」

『どうやら我々の事を意識し過ぎて来れないらしいですよ』

「どうやらそのようで」

「・・・・・・(イライラ)」

『変態を否定してましたがこれは・・・・・・』

「・・・・・・ですね・・・・・・」

「なぁ、追い出すぞ?」

「『すみませんでしたー!』」

「変わり身速いなっ!?」

 

ははー!とダブル土下寝。おやすみべート。

 

「あ、二時間くらいしたら起こしてくださいね!」

「俺は母親か!」

『べートが母親・・・・・・アリだな』

「無しだ!!」

『ははは・・・・・・』

 

眠いぃー。なんで魂なのに眠くなるんだ。ま、いいか。寝ることは精神を癒す云々があるし。寝よう!

 

『おやすみ、べート』「おやすみなさい」

「・・・・・・おう」

 

深い眠りに落ちていく中で俺は・・・・・・久しぶりにあの夢を見た。

 

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアの1室、べートに割り当てられたそこでハルプと妖夢は眠っていた。幼くあどけない寝顔は見ていて愛らしい、思わず起こしたく無くなる程に。

 

そんな寝顔を見て癒されるロキを含めた女性陣。べートは自分の部屋が占領されている事実に何とも言えない悲しみを覚えつつ、アイズが来てるし良いかな、と限界まで前向きに考えようと努力をしていたりする。

 

「はぁ〜可愛え〜な〜!やっぱり貰わへん?ウチ貰ったらあかんかな」

「流石にダメでしょ。ねぇアイズ、正面から妖夢ちゃん達に私達勝てるの?」

「・・・・・・無理、勝てない。ししょー達が本気を出したら目で追うことも出来ない」

「マジか、そんな強くなったん?」

「あぁ、魔法を使われたら何も見えねぇ。姿が消えるとかそういうもんじゃなくてよ、速すぎて視界から消えやがる」

「無理ゲーやんかそんなん。魔法いくつ持ってんねん」

 

ロキ達が2人の異常さを再確認していた時だ、穏やかな眠りを貪っていたハルプが薄らと目を開く。未だ微睡みの中にあるハルプにロキが手をワキワキさせながら近づいていく。

 

「ウシシ・・・・・・ハルプたん起きてーな」

 

ロキがいざハルプの平たい胸に触れようというとき、その頬を涙が伝う。

 

「!?」

「あー!ロキ泣かせた!」

「ちゃ、ちゃうって!ウチや無いって!」

 

『ん・・・・・・』

 

その喧騒によってか、ハルプは覚醒する。ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。その頬に涙の跡は既に無い。ハルプの身に起こる現象のほぼ全ては、霊力による再現・・・・・・つまり幻だ。霊力となって空に溶けて消えた涙をハルプが目にすることは無い。

けれど、それをたしかに見ていた者達が居る。皆不安げにハルプを見ていた。務めて冷静であろうとしたべートも動揺を隠しきれてはいない。

 

『あ、おはよう。なんだ皆来てたのか』

 

ハルプが穏やかな声でそう言った。いつもの様な元気ハツラツといった様子ではなく、何方かと言えばお淑やかな声音だ。

 

「ぉ、おう。おはようさん」

 

ロキが不思議な緊張とともにそう言うと、ハルプは不思議そうに首を傾ける。

 

「なんだ、夢でも見てたのか?」

 

べートがそう聞けば、ハルプは少し考える様な動作をした後、顔を綻ばせる。

やや閉じられた瞳に、柔らかな微笑み。そしてゆっくりとした動作で隣にねる妖夢の頭を撫でる姿は、少女の外見である筈なのに聖母の様な雰囲気を醸し出す。

どこか神聖な雰囲気に呑まれたロキ達は無言でそれを見つめていた。

 

『夢か。そうだな、夢を見たよ。内容は何も覚えていないけど・・・・・・確かに、幸せな夢だった』

 

微笑みをそのままに、ハルプはべートを見上げる。その顔は幸せと言うには少し暗く見え、例えるならば憑き物が取れたようなそんな顔だった。

 

「そうか、よかったな。所でタケミカヅチ・ファミリアから使いが来てるぞ」

『本当に?もう準備出来たのか・・・・・・』

「何かやるのか?」

 

どこか2人に深い信頼関係を見たのか、べートとハルプの会話を邪魔しないロキ。そしてロキが話さないならと様子を見守る他の面々。

しかし、べートの質問に対する回答でその静寂は破られる事となる。

 

『誕生日なんだよ、俺と妖夢の』

 

静かな部屋に響く言葉。知らされる真実。誕生日、それは1年というサイクルの中で最も重要なイベントの一つである。特に、知り合いのものとなれば尚更だ。

 

「・・・・・・はぁ!?なんで何も言わねぇんだよ!何の準備もしてねぇぞおい!」

「そうやそうや!!言っててくれればウチもなんか準備したのに・・・・・・ええいこうなったら今からでも遅くない!行くでぇ!!」

「私もなんか買ってくるー!」

「・・・・・・じゃが丸くんっ」

「いやアイズ貴女・・・・・・ま、いいか。じゃあ私も行ってくるわね」

「待て俺も行く!!」

 

僅か数秒の出来事であった。慌ただしく何処かへ駆けていく。止める暇もなかった、とハルプが呟く。その顔は嬉しそうで、笑顔を我慢出来ないと言うかのように、笑みが深まる。

 

「持つべきものは友人知人、ですか?」

『うん、そうだな。おはよう妖夢』

「おはようございます、ハルプ」

『さて、みんな行っちゃったけど、帰るかっ!』

「はいっ」

 

何時もの元気を取り戻し、ハルプと妖夢が手を繋いで歩いてゆく。

 

 

その日、オラリオは平和であった。ギルドから「十八階層」の調査をするため、冒険者は十七階層以降に進まない様にとのお触れが新たに出され、多少のブーイングがあったことや、その調査に選ばれたのがタケミカヅチ・ファミリアであったなど、確かに世界は動いていく。

 

「ハルプ?」

『なに?』

「えっと、私もですよ?」

『?』

「あはは何でも無いですっ」

『んー?へんな妖夢』

 

 

 

 

───ハッピーエンドは覆らない。

 

遠い何処かで、名も無い誰かは北叟笑む。

 

「あぁ、よかった、本当に。───後は待つだけでいい。それまで何としても生きなくちゃね」

 

嬉しそうに、救われたように、誰かは笑った。

 

「可能性は引き当てた。遂に、遂に終わるんだ。やっと、救えるんだ・・・・・・!」

 

笑う。笑う。嗤う────────────









小ネタ。

・妖夢がすぐ寝る理由───一刀羅刹で消費した分が回復しきっていない。

・ハルプが寝る理由────妖夢に引っ張られた。

・ハッピーエンドは覆らない───予め宣言しておくぜ!ハッピーエンドだ!

・笑う誰か。───1体何神様なんだ・・・・・・?

・シフシフ───コメントと誤字報告で生きている。

・挿絵無し────犬耳ハルプを描こうとしたけど、タッチペンが破壊されたのでまた今度。


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