厨二なボーダー隊員   作:龍流

10 / 132
もしもボーダー隊員がTSしたら そのよん

「何度でも言ってやる……わたしは前から、お前が気に入らなかったんだ!」

 

 眼前を割く一閃は、受け止めずに躱し。しかしその回避すらまるで予想通りだと言うように、拳銃から飛び出した弾丸が数発、追い縋ってくる。展開したシールドで防御。弾をはじく硬質な音が、やけに耳に響いた。

 

 いや……本当に耳に響いているのは、彼女の声か。

 

「いつもいつも、へらへらと! 何の覚悟も持たないお前の戦いを、わたしは絶対に認めないっ!」

 

 それなりの距離を取ったつもりだったが、敵の踏み込みは予想以上に速い。

 

「……くっ!」

 

 横薙ぎに振るった弧月は、あっさりと空を切る。

 大きく上体を沈み込ませ、左足を踏み込み。斬撃をくぐり抜けるように接近する彼女が斬り上げるように放った再びの一閃は、龍神の腕を容易く奪い去った。

 

「ちぃ……」

 

 再びの後退。今度はグラスホッパーを起動し、大きく飛んだ龍神を見て彼女は口元を歪める。

 

 

 

「逃がすか」

 

 

 

 女子高生が浮かべるにはあまりにも凶悪なその表情を見て、龍神は改めて思う。

 

 

 ―――どうしてこうなった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 時間はそこまで巻き戻らず、数分前。

 

「こんなヤツと関わるな」

 

 米屋(カチューシャガール)と龍神が話しているところに、唐突に現れた三輪(美少女)。彼女は心底不快だという気持ちを隠そうともせず、こちらを睨んできた。龍神が知っている彼と変わらず、濃厚な敵意が剥き出しに叩き付けられる。

 故に、そんな彼女のきつい言動に対して龍神が最初に感じたのは、違和感や動揺ではなく……「テメェなんだやんのかこの野郎」という種別の苛立ちだった。いい加減、風間から始まった性別逆転現象のインパクトには、もう慣れた。元々、仲がいい米屋(カチューシャガール)と普通に会話ができたので、気が緩んでいたのかもしれない。だからこそ、彼女……三輪(美少女)に対して、龍神は元の世界と同じ調子で反論してしまった。

 

「ほう。随分な言いようだな、三輪。俺に何か言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ?」

「……べつに。お前に言うことなど何もない。行くぞ、陽子」

 

 葉子ではない陽子(カチューシャガール)に声をかけ、立ち去ろうとする三輪。マフラーに顔をうずめ、視線を伏せたまま歩き出そうと踵を返した彼女の手を、

 

「待て」

 

 龍神は掴んだ。

 セーラー服の袖口から覗く華奢な手のひら。その感触に少し怯みつつも、龍神は語気を強めた。

 

「話は終わっていないぞ」

「っ……離せ! わたしに触れるな!」

 

 強引に手を振りほどいて、三輪が叫ぶ。マフラーがなびいて、視界の端を踊った。きっと鋭くなった目元は、まるで何日も眠っていないかのように黒く縁どられている。よくよく見れば、彼女は全体的にどこかやつれた様子だった。

 まるで、自分がよく知っている"一時期の三輪秀次"のような彼女の様子に。龍神の中で言葉にできない苛立ちがさらに加速する。

 

「寝てないのか?」

「……お前には関係ない」

「関係ないが、それを気遣うかどうかは俺の勝手だ。出合い頭に暴言を吐いてくる相手でも、急に倒れられたら寝覚めが悪いからな」

 

 龍神の言葉が予想外だったのか。今までとは少し違う様子で三輪が怯む。2人の応酬をニヤニヤと眺めていた米屋が、楽し気に口を挟んだ。

 

「ひゅーひゅー。龍神くんやっさしぃ~」

「うるさいぞ米屋」

「黙ってろ陽子」

「あ、はい。すいません」

 

 すっと後ろに下がる米屋を押し退けて、三輪が前に出る。

 

「そこまで聞きたいなら、はっきり言ってやる。如月……わたしは、お前が嫌いだ」

「そうか」

「っ……いつもヘラヘラしながら戦っているお前が嫌いだ」

「そうか」

「そうやって、玉狛支部の連中のように……自分は近界民に理解があると気取っている、お前のスタンスが嫌いだ!」

「そうか」

「……そういえば、あの近界民の"少女"のことも、お前は庇っていたな。ふん……身の上に同情でもしたか? それとも、アイツに惚れたとか?」

 

 きっと、会話のペースを握りたかったのだろう。あげつらうように、馬鹿にするように三輪は笑ってみせたが、龍神はその挑発に対しても無反応だった。

 というか、

 

 ―――近界民の少女……あぁ、やっぱり少女かぁ……

 

 と、一周回ってどこか諦めにも似た感情を抱いていた。そして、少なくとも龍神は目の前の三輪に真摯に応えようとしていた。そのため、龍神は特に何も考えず、素直に答えた。

 

「いや、よくわからん」

 

 だって、女の子になった遊真とか知らないし。

 しかし、龍神の適当極まる返事(勘違い)に、三輪はとうとうブチ切れた。

 

 

「っ……ぅ……いい加減にしろ!」

 

 

 容赦なく胸元を掴み、龍神を引き寄せる三輪。彼女の身長は160と少しといったところだろうか。JKにキレられながら胸倉を掴まれるという貴重な経験に、龍神は思わずまた深いため息を吐いた。

 

「さっきからなんなんだお前は!? わたしを呼び止めたかと思えば、生返事ばかり返して何か反論するわけでもない! 馬鹿にしているのか? おちょくっているのか!?」

「面と向かって嫌いだ、と言われても生返事を返すしかないだろう。お前は「俺もお前が嫌いだ」とでも言ってほしかったのか? だが生憎、お前が俺を嫌っても、俺はお前のことを嫌いにはならない。いや、単純な好悪で言うのなら、俺はお前の(ストイックなところとか、きちんと隊長を務めているところとか、拳銃と弧月の戦闘スタイルの)ことが」

 

 胸倉を掴みながら、上目遣いにこちらを見上げる彼女に向けて、龍神ははっきりと告げた。

 

 

 

「むしろ好きだ」

 

 

 

 隣で、米屋が飲んでいたジュースを思い切り噴き出した。

 

 




こんかいのとうじょうじんぶつ


『如月龍神』
鈍感無意識ハーレム系主人公の才能が開花しつつある……かもしれない。


『みわ』
最新刊で普通校組の女子制服が紺のセーラー服であることが判明したために、マフラー+セーラーという最強装備を手に入れた女。多分そろそろあざとすぎて死ぬ。

「よねや」
親友枠。負けヒロイン……と、思うじゃん?

「くが」
白くてもさもさしてる小動物系常識知らず少女。黒くてかわいいマスコット、本体の体が死にかけているとかいう重い過去、相手のウソを見抜く「キミ、つまんないウソつくね」という決めセリフ付きのサイドエフェクト、戦闘時のクレバーな一面、自転車の練習をして川に落ちる……と、コイツも大概要素の塊。今回は登場しない。

「しのださん」
多分出す機会がないから一応書いておくが、強くて美人でかっこいい日本刀使いの司令官とか普通に人気出るに決まっている。どや顔で「わたしが出る」とかかっこいいに決まっている。若いころはやんちゃで城戸司令の車をぶった斬ってたとかかわいいに決まっている。今回もこれからも多分登場しない。

「さわむらさん」
本部オペレーターの冴えないお兄さん。多分しのださんのケツを追っかけてる。がんばれ。今回もこれからも多分登場しないけどがんばれ。





来年もよろしくお願いします。よいお年を!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。