厨二なボーダー隊員   作:龍流

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プリンス・タクティクス

 べつに、ムカついたから狙ったわけじゃない。

 ただ、あまりにも無防備だから撃っただけだ。

 重いアイビスを構えながら、絵馬ユズルは心の中で、そんな言い訳を呟いた。

 

『っしゃぁ!1点目!ナイス!』

 

 ガッツポーズが簡単に想像できる光の声に、ユズルは応えず。スコープの中で焦る敵を、淡々と品定めする。

 味方がやられて多少は動揺しているとはいえ、動きが速い龍神には避けられるだろう。香取も同様の理由で除外だ。ダメージを受けている敵の方が、狙うには都合が良い。

 回した思考の結果、ユズルが手負いの三浦雄太を狙うのは必然だった。

 アイビスの第二射が、火を吹く。

 

「ちっ!」

「うわっ!?」

 

 結果。

 シールドを容易く貫く一筋の光は、三浦の肩を掠めるだけに留まった。

 香取が咄嗟に展開したグラスホッパー。それに弾き飛ばされる形で、直撃を免れたのだ。

 

「……へぇ」

 

 思わず、ユズルは感心した。

 三浦や若村が香取をフォローし、庇うシーンなら、今までにいくらでもあった。しかし、猪突猛進なエースが、味方をフォロー。今までの香取なら、絶対に有り得なかった動きだ。

 ユズルの中で、香取への警戒レベルが一段上がる。

 

「ヨーコちゃん!ありがとう!」

「そんなこと言ってる場合あったら、さっさと射線切る!麓郎っ!狙撃手!」

「言われなくても!」

 

 狙撃の頭を抑えるべく、若村が銃口を屋上へと向けた。しかし、甘い。ユズルが姿を晒したのは、狙撃のチャンスが訪れたから……だけではない。

 味方の準備が、整ったからだ。

 

『全員、警戒。2人、寄って来てる』

 

 香取は、華の警告を聞いてレーダーを見ようとしたが、その必要はなかった。

 中央エントランスの隅。職員用の通用口のドアを、黒いブーツが蹴破り、新手が姿を現す。

 

「ふぅ……やーっと着いた」

 

 間延びするような、穏やかな声と共に。吐き出されるのは、嵐のような通常弾の連射音。

 

「ヨーコ!」

「っ……シールド!」

 

 咄嗟に展開したシールドを、雨の如く降りかかる弾丸が叩いて削る。重く腹の底から響くような銃声は、普通の突撃銃よりも出力と連射性が高いことを端的に示していた。

 影浦隊の銃手、北添尋である。

 

「くそっ……影浦隊」

 

 香取のシールドに自身のシールドを重ね、若村が即座に応射する。しかし、北添は『重銃手』とも呼ばれる、得点能力の高い優秀な銃手。狙いの正確さも、弾数も、全てにおいて若村は北添に劣っていた。

 横合いからの射撃で押し込まれる香取隊。それは、甲田を落とされ、人数差で不利を強いられる龍神にとって、大きなチャンスだった。

 

「旋空……」

 

 しかし、攻めている横から得点を攫うような、そんな行為を、

 

 

 

「見つけたぜ、龍神」

 

 

 

 影浦雅人は許さない。

 

「……っ!」

 

 頭上、直上。

 吹き抜けから自由落下の勢いを活かして飛び降りた影浦は、右手を大きく振りかぶり、着地と同時に叩きつけた。大きく、鋭く。殺傷能力を突き詰めて形成された二本のスコーピオンが地面に突き刺さる。

 濃厚な殺意が宿った初撃を、龍神は上体をよじってギリギリのところで躱した。

 

「……来たか、カゲさん」

「やっと会えたなァ、龍神! それにしても、どうしたオイ? 香取隊に随分手こずってやられてるじゃねーか」

「甲田を喰ったのはユズルだろう」

「ケッ! 狙われて簡単に落ちるヤツがわりぃんだろうが!」

 

 影浦が吠える。振るわれる腕から、スコーピオンが縦横無尽に唸る。

 右の大振りを避け、龍神は弧月を斬り返す。的確なカウンターを、しかし影浦は勝手知ったるという風に、体捌きだけであしらってみせた。打ち、はじき、また打つ。ブレードが幾重にも交差し、トリオンの火花が瞬いては散る。

 

「個人戦も悪くねぇが……ランク戦でオメーと戦りあうのを待ってたぜ」

「それは光栄、だなっ!」

 

 段々と、軽口を叩いている余裕がなくなってくる。龍神と影浦は、個人戦では常日頃から刃を交える中だ。攻撃の癖、パターン、細かな動作の『起こり』に至るまで、お互いの戦い方を知り尽くしているといっても過言ではない。荒船と同等、下手をすればそれ以上に、影浦雅人は如月龍神を知り尽くしている。

 故に、有効なのは『知られていない』攻撃だ。

 弧月による一閃……ではなく、バネのように伸ばした右脚で、龍神は影浦の胴体を蹴り上げた。足裏には、さながらスケートブーツの如く形成したスコーピオン。『感情受信体質』の副作用によって攻撃のくる場所を完璧に把握している影浦は、それを腕に沿って展開したスコーピオンで受け止めた。が、接敵からはじめて、まともに攻撃を食らって影浦の体勢が崩れる。これまでの龍神とは違う攻撃の組み立てを、防ぐことはできても避けることはできなかったからだ。

 

「ランク戦に向けて、ちったぁ多芸になってきた……ってか?」

 

 されど、その顔から好戦的な笑みは剥がれない。

 吹き飛ばされ、息がかかるほどに接近した状態から開いた間合い。本来ならブレードが届かないその距離は、まだ影浦の射程圏内だ。

 

 両手が、鈍く光る。

 

 身構えた龍神は、しかし同時に影浦の背後を取った彼女に目を向け……そして影浦は振り返ることすらせず、まるで背中に目がついているかのように、背後からの奇襲を回避してみせた。

 

「邪魔すんじゃねーよ、香取。オメーは後だ」

「邪魔するに決まってるでしょ、馬鹿なんじゃないの?」

 

 香取葉子は冷たく吐き捨てながらスコーピオンを叩きつけ、影浦もいやいやながらに応戦する。必然、龍神への圧力が消えた。

 北添、三浦、若村。落とすなら、まずはこの3人の内の誰かだ。旋空を放つべく、龍神は弧月を腰だめに構え、

 

「……まったく、プレッシャーが強いな」

 

 そして、頭上へ『二重に展開したシールド』の一枚が、アイビスに撃ち抜かれた。

 ちらりと、屋上を仰ぐ。アイビスのリロードが済んだ瞬間に、三発目。影浦隊の天才狙撃手は、敵に回ると可愛気がないことこの上ない。龍神は薄く溜め息を吐いた。

 それに、今の狙撃。どちらかと言えば、龍神を仕留めるため……というよりも「まだ自分は上にいるぞ。忘れるな」と言うために、撃ってきたように思える。事実、龍神に向けて放たれたその一発で、香取隊の動きが狙撃を警戒してより一層強張った。

 龍神としても、ユズルの意図を確かめるために『旋空弧月を打ち込む構え』を取ったわけだが……どうやら、狙撃手は居場所がバレれば移動する、というセオリーを外して、屋上からプレッシャーをかけ続ける腹積もりらしい。このまま吹き抜けで戦い続ければ、影浦隊の独壇場になるのは間違いない。仲間が生き残っていれば、ユズルを獲りに行かせるのもありなのだが……

 

『……すいません、隊長』

 

 緊急脱出した甲田から通信が入る。悔しさが滲む声には、落とされたという気持ち以外にべつの感情がのっている気がした。だが、この状況でそんな細かい点にまで言及する余裕はない。

 龍神は、短く答えた。

 

「絵馬は優秀な狙撃手だ。お前のせいじゃない。気にするな」

『っ……はい』

 

 悠長に話している暇もなく、香取を振り切った影浦が再び斬りこんでくる。

 

「邪魔なヤツが多いのはしょうがねえ。楽しもうぜ、龍神っ!」

「っ……!」

 

 香取隊も影浦隊も、全員が合流しており、さらにユズルは狙撃位置で待ち構えている。味方の大半はやられ、自分は敵陣で孤立。これはいわば、絶対絶命の窮地だ。

 

 悪くない。燃えるシチュエーションだ。

 

「……仕方ない。いいだろう」

 

 龍神は、覚悟を決めた。

 

「そこまで楽しみたいのなら……カゲさんには、俺の新たな『技』を披露しよう」

「技、だぁ……?」

 

 ぴくっと。影浦の眉尻が、釣り上がる。警戒半分、興味半分といった様子で、犬歯が剥き出しになる。

 

「おもしれーじゃねえか。みせてみろ」

「ああ、みせてやる」

 

 あくまでも不敵な言葉を返しながら、龍神は弧月を振り上げる。当然、自分を蚊帳の外に置いたようなやりとりを繰り広げられて、プライドの高い香取が黙っているわけがない。

 

「ふざけんなっ……アタシだって……!」

 

 そうして遂に、三つ巴の戦いが開幕……することはなかった。

 

「あ?」

「え?」

 

 自身の背後へと斬撃を一閃。障害物をまとめて切り捨てた龍神は即座に身を翻し、グラスホッパーを踏み込み、テレポーターまで併用して……一目散にその場から逃げ出した。

 

「悪いな、カゲさん。俺も『逃げること』を覚えたんだ」

「龍神、テメっ……!」

 

 それ以上の怒声が聞こえてくる前に、龍神はさらに幾重にも旋空弧月をはしらせて、駆け抜けた通路を自分以外が通れないほどに破砕する。

 この状況、取れる選択肢は、唯一つ。

 

 

 戦略的撤退だ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 緊急脱出の光が見えた。

 影浦を振り切り、無事に蔵内と合流した王子は、柔和な表情をほんの少し歪めた。

 

「今のは?」

『如月隊の甲田くんね。影浦隊の得点よ』

「こだっくがやられたか……あんまりおいしくない展開だね、これは」

「そうか? 中で潰しあってくれるなら、こちらにとっては有り難いと思うが」

「それは『潰しあってくれた』場合の話だよ、蔵内。如月隊はもう2人落ちてる。どう考えても一方的に『潰されている』展開だ」

 

 中でぶつかって戦力を消耗してくれるなら、ショッピングモールの外で『待ち』もアリだろう。しかし、一方的な展開で如月隊がやられているということは、イコールで獲れる点が減っていることを意味する。得点差が開き過ぎれば、後から追いつくのが厳しくなる。ましてや今回の相手は、攻撃力に秀でている影浦隊と香取隊だ。

 

「樫尾、そっちはどうだい?」

『合流は少し厳しいです。中央エントランスを抜けようとしたところで、ちょうど香取隊と如月隊が降りてきてしまって……バッグワームのおかげで、まだ気付かれてはいませんが、影浦隊も飛び込んできました。』

「まあ、カゲくんはそっちにいくだろうね」

 

 蔵内の援護で王子が離脱する際も、影浦は深追いしてこなかった。単純に龍神が目当てであったことに加え、足の遅い北添との合流を優先したのだろう。

 

『影浦隊は絵馬くんが屋上にいて、吹き抜け全体を見渡せる狙撃位置についています。香取隊と同じく、完全にモールの中で戦うつもりのようです』

「ん……なるほど。戦況はどうなってるかな? わかる範囲で構わないから、教えてくれると助かる。できれば、誰がどれくらい削られているか、もね」

『狙撃の圧力もあって、影浦隊が全員健在で優勢。香取隊は三浦先輩がやや被弾しているようですが、香取先輩を中心に持ちこたえています。言うまでもなく如月先輩が影浦隊長にはりつかれて押されていますが、まだダメージは受けずに持ちこたえています』

「ふふっ……しぶといね、たっつー」

 

 思っていたよりも詳細な報告を聞いて、王子は笑った。

 樫尾が合流前に中の戦闘に巻き込まれたのは不運だったが、プラスに考えるのであれば、これで他のチームの隊員のおおよその位置と、その状況は掴めた。問題は、ここから戦況をどう動かしていくか、だ。

 

「どうする? 樫尾をそこから逃がして、中が片付くのを待つか?」

 

 蔵内が言う。

 それも悪くはない。悪くはないが、このままいけば得点のビハインドを抱えたまま、ほぼ消耗していない影浦隊、香取隊と当たることにある。如月隊が誰か1人でも落としていれば話は違っただろうが、特に万全の態勢の影浦隊とやりあうことは避けたい。

 加えて言えば、今の王子隊は戦場から完全に蚊帳の外。いわば、チームがまるごと『浮かされている』状態だ。ショッピングモールの中と外で戦力を意図的に散らせるのも、最初から香取隊の狙いの一つであったと考えられる。

 

『退避ルートは、いつでも送れるわ。一階から上に上がって、迂回するルートなら安全に合流できると思うけど……』

『はい。ここで仕掛けても、やられるだけでしょうし、早急に合流を……あっ!』

「どうした、樫尾?」

 

 状況に動きがあったのか、樫尾の声が若干の緊張を帯びる。

 

『動きがありました。如月先輩が、離脱するようです』

「当然といえば当然だな」

 

 蔵内の言う通り、それは当然の選択だ。

 人数、地形、実力関係……全てが不利に作用している以上、龍神が『逃げ』を選ぶのは……あまり、らしくはないとはいえ、当然の選択。状況を鑑みれば、明らかに正しい判断だ。

 

「どうする? 如月がレーダーから消えたぞ」

「……そうだね」

 

 王子の頭の中で、複数の要素が絡まり、寄り集まり、まとまっていく。

 

「よし、樫尾。指示を出すからその通り動いてくれるかな? 蔵内、バッグワームを着よう。いくよ」

「了解だ」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 無人の通路を、ひたすらに走り抜ける。

 影浦には「ふざけんな!まちやがれ、この馬鹿!」と悪態を吐かれたが、待てと言われて待つのは本当の馬鹿だけだ。影浦だけならともかく、香取隊と影浦隊を揃って相手にするほど、龍神は自惚れていない。

 それにしても、他のチームには1人も脱落者がおらず、こちらだけが先に2人落ち。この状況は控えめに言っても……

 

「やれやれ……最悪の展開だな」

 

 思わず、そんな風にぼやいてしまう。そして、ぼやいてしまってから、龍神は通信回線を開きっぱなしにしていたことを思い出した。

 

『本当にすいません……隊長』

『俺達がやられちまったばっかりに……』

 

 早乙女と甲田の謝罪に、堪らず苦笑する。その声音だけでも、2人が体を小さくして猛省しているのが容易に想像できた。

 

「気にするな。さっきも言ったが、お前達は悪くない。指示を破ったわけでも、無理に攻め込んだわけでもない。反省する必要がどこにある?」

『でもっ……!』

「はじめての上位戦。しかも、四つ巴のチーム戦だ。この程度のアクシデントは、最初から織り込み済みだぞ。そうだな、江渡上?」

『厳しい状況なのは、否定しないけどね。どう? 如月くん。香取隊と影浦隊はうまく捲けた?』

「一応は、な」

 

 手のひらに浮かべたレーダーを見つつ、龍神は答えた。光点は明らかに龍神を追ってきているが、その移動速度は明らかに遅かった。おそらく、影浦隊と香取隊は互いに牽制し合いながら移動しているのだろう。香取単独で追ってこられるとかなり厄介だったが、影浦と北添が揃っている前で、チームを分散させるのは自殺行為。甲田がユズルにやられたので、感謝するつもりはこれっぽっちもないが、影浦隊の存在は戦場から離脱する龍神にとって、いいストッパーになっていた。

 とはいえ、このまま逃げ切れる保証はどこにもない。

 

「さて……ここから、どうするか」

『モールの中から、一旦出ましょう』

 

 紗矢は即答した。

 

「やはり、出るべきか?」

『出るべきよ。モールの中に、敵が揃い過ぎているもの。丙くんを拾って、モールの外へ離脱。他のチームが削り合うのを待つのが、一番ベターだわ』

「外に出ると射線が通る。甲田と早乙女が落ちている以上、撃ち合いは苦しいぞ」

『外の大通り沿いにもいくつか建物はあるし、丙くんにはエスクードがあるから、撃ち合いになっても多少は対応できる。ある程度、敵が消耗したら、モールの中に戻って仕切りなおしてもいい。どう?』

「ショッピングモールの中に潜伏しない理由は?」

『北添さんはメテオラをメインとサブに持ってる。隠れ合いになったらすぐに焼き出されるし……絵馬くんの腕なら、床を抜いて狙撃できるでしょう?』

「あいつならできるな」

 

 とにかく、ショッピングモールの中に残るのはリスクが高すぎる、外に出て機会を伺うべきだ、と。紗矢はそう言っている。

 そして、口にこそ出していないが……その離脱の方針は、言外に「タイムアップによる逃げ切り」を視野に入れろ、と訴えていた。はっきり「勝ち目がないから逃げろ」と言わないのは、先に落ちた甲田と早乙女に、無用な責任を感じさせないためだろう。いつも歯に衣着せず、ズバズバと物を言っていたくせに、最近の紗矢はこういう時の気遣いが、少し細やかになった。

 いい変化だと、龍神は思う。

 

「了解だ。このままショッピングモールの中から離脱する。指示をくれ」

『はいはい、任されたわ。じゃあ、次の角を左に曲がって、そのまま階段を上がって2階に上って』

「外に出るのに、2階に上がるのか?」

『トリオン体なら、何階から飛び降りても関係ないでしょ? 縦に広いステージなんだから、高低差を活かして逃げた方がいい。それに、外で王子隊の反応が消えたのが、少し気になるわ。待ち伏せを防ぐためにも、逆方向に逃げましょう』

「至れり尽くせりだな」

『わたしを誰だと思ってるの?』

「敏腕オペレーター様だ」

 

 形ばかりのお世辞を送りながら、階段を駆け上がる。二階に上がった龍神は、紗矢の指示通りに角を曲がり、

 

 

「っ!」

 

 そのまま、反射と反応だけで体を転がした。

 バッグワームを解いたのは、ほぼ同時だった。距離を詰めるか、シールドを張るか。思考する余裕はなく、前面にシールドを張って降り注ぐ弾丸を止める。

 

「相変わらず、反応がいいな」

 

 王子隊、射手。蔵内は表情を微塵も動かさず、淡々と言った。

 

『っ……如月くん!?』

「蔵内さんだ……待ち伏せされていた」

『…………え?』

 

 淀みなく言葉を発していた紗矢の口が、ぴたりと止まる。

 

『うそ……どうして……?』

 

 お前のせいじゃない、と。龍神はそう言いたかったが、今は目の前の敵が最優先だ。

 待ち伏せをされていた。されていたなら、されていたで構わない。倒して道を切り開けばいいだけのこと。

 蔵内だけなら、落とせる。現在の状況を鑑み、客観的に判断を下した龍神は、弧月を抜き放った。

 

「メテオラ」

 

 対して、蔵内はメインウェポンの追尾弾ではなく、斜め上に炸裂弾を発射。着弾と共に天井が爆発し、派手な音を鳴らしながら崩れ落ちる。

 落ちてくる天井の破片を被らないために、龍神はバックステップで後退したが、それは人を生き埋めにするほどの量ではない。精々、上の階に繋がる穴を空けた程度だ。

 龍神を近づけないために、天井を落とした。意図は分かるが、狙いは粗く、その思考も浅過ぎる。

 

「どこを狙って……」

 

 否、

 

「もちろん、天井を狙っている」

 

 この冷静沈着な射手が、そんな無駄弾を撃つわけがない。

 解答は、穴の中から降り注いできた追尾弾だった。弧月を振ろうとした手が止まる。そういうことか、と。呟く前に、龍神はシールドを重ねて弾丸を防御した。

 

 

 

「会いたかったよ、たっつー」

 

 

 

 蔵内が炸裂弾で開けた穴……一つ上の3階のフロアから、声の主がひらりと舞い降りる。

 先ほどの炸裂弾の狙いは、単純明快。味方と合流するための『ショートカット』だ。

 

「俺の逃走ルートが、よくわかったな……王子さん」

「いや、わかりやすかったよ? たっつーの思考はともかく『さーや』の思考は読み易いからね」

 

 王子一彰は、こともなげに笑いながらそう言った。

 

「……江渡上のことか」

「うん。彼女のオペレーターとしての能力は、とても素晴らしい。ラウンド2での高低差を活かした戦術、要所要所での情報支援。実に見事だ。だからこそ、たっつーも彼女を信頼して頼っているんだろう?」

 

 その信頼が、王子にとってはわかりやすい隙だった。

 

「彼女は、マップを三次元的に捉える能力に長けている。だから敵との接触を避けるために、たっつーに2階か3階を通らせると思ったんだ」

 

 紗矢の思考を読み、逃走方向を読んだ上で、さらに2階と3階に分かれて待ち伏せをした。ここまで相手の思考をトレースした動きは、早々できるものではない。

 

 

「発想は大胆だけど、戦術の思考そのものは堅実で真っ直ぐ。すごく簡単だったよ」

 

 

 だが、王子一彰にはできる。

 思わず、龍神は奥歯を噛み締めた。

 

「……それで?」

「うん?」

「種明かしは、それで終わりか?」

 

 瞬間、龍神は動いた。

 テレポーターを起動し、即座に間合いの内へ。踏み込み、一閃。王子の首を落とすべく、不意打ちで懐に飛び込む。

 だが、

 

「らしくないね、たっつー」

 

 それすらも、まるで予想の内だというように。

 龍神の転移する方向を完璧に読み切った王子は、いとも簡単にその斬撃を弧月で受け止めた。ぎしり、と鍔迫り合いながら、囁くように薄い唇が言葉を紡ぐ。

 

「焦っているのかな? まあ、この状況じゃ無理もない」

「……俺が突破すればいいだけだ」

「そうかな? バッグワームはもう解いたし、派手にメテオラも使った。居場所は丸分かりだ。敵はぼく達だけじゃない。香取隊と影浦隊が、すぐに追いついてくるよ」

 

 よもやそこまで、考えてのことか。

 龍神は、背筋に冷たいものを差し込まれた気がした。

 

 

「悪いね、たっつー。きみ達は、もうチェックメイトだ」

 

 

 お前は『詰み』だ、と言いながら。けれど策士は、無理にトドメを刺そうとはしない。柔和な笑みを崩さないまま、斬りあいに付き合わず王子は下がる。当然の如く、援護に回った蔵内の射撃が横合いから突き刺さる。

 このままでは攻め切れない。突破できない。焦燥感が、心の中を焼く。

 チームランク戦で対峙して、はじめて実感する。

 相手の思考と作戦を読み、持ち前の機動力でマップを駆け巡り、弱いところを叩く。弱ったチームを徹底的に突いていく。

 

 

 これが、王子隊の強さか。

 

 

「……くそっ」

 

 距離を取り、遮蔽物に身を隠して、龍神は大きく息を吐いた。

 

『……如月くん』

「言うな。反省はあとだ」

 

 はじめての上位戦。最初から、全てが上手くいくとは思っていない。予想以上に苦しい展開なのは、紛れもない事実。だが、まだ負けたわけではない。

 

 

「ふっ……ここが正念場だな」

 

 

 熱くなりかけた頭の中を、自嘲を含んだ独り言で、強引に冷やす。

 前門には、王子隊。後門には、上がり調子の香取隊と、こちらを執拗に狙ってくる影浦隊。

 

 

 さあ……突破口は、どこにある?

 




ワートリとは別のお話になりますが、先日開催されたハーメルン恋愛合同企画リンドウ杯で、鬼滅の刃書きました。『蝶の標本』という短編です。一話完結で読みやすいと思うので、よろしければぜひご一読ください。


それにしても来月のSQ……『にのまるブロマイド』楽しみですね……いやあまりにも付録があざと過ぎる、マジで
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