厨二なボーダー隊員   作:龍流

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イラストを!たくさん頂きました!!

まずはこちら!かっこよく二刀を構える龍神!


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次にこちら!さらにかっこよく二刀を閃かせる龍神と、溜め息を吐く三馬鹿!


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最後に、こちら!表紙絵風だ!!


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クオリティが高い……背景とか完璧ですね
作者は嬉しさのあまりに爆発四散。緊急脱出しました
こちらのイラストは全てHITSUJIさんが書いてくださいました。この場を借りてあらためてお礼を。ありがとうございます!


ネクスト・ステージ ☆

「け、決着! 決着です!」

 

 呆気に取られた会場の空気を引き戻すように。桜子が声を張り上げる。

 

「如月隊、2点。王子隊、3点。香取隊、4点! そして……影浦隊に3得点と生存点2点が加わり、合計5得点! 激戦のROUND4! 勝利をもぎ取ったのは、影浦隊です!」

「順当な結果に落ち着いたな」

「順当な結果、ですか……?」

「ああ」

 

 さして驚いた様子もなく、風間は静かに言葉を紡ぐ。

 

「ステージ設定と新戦術を活かして、終始仕掛ける側に立っていたのは香取隊だ。香取の鉛弾やダミービーコンとカメレオンの合わせ技。三浦や若村の動きも含めて、今回の香取隊はよく作戦を練り込み、各々の練度も引きあげた上で臨んでいた」

「成長を感じましたね」

 

 香取隊の努力を知る古寺は、横から風間の発言を肯定した。

 

「だが、香取隊は要所で決めきれない場面が多くあった。序盤、香取が如月に対して一騎打ちをかけた場面もそうだが、王子に横から攫われた得点も決して軽くない。作戦や戦術がうまくはまっていただけに、どうしても『詰めの甘さ』が目立つ」

「終盤、影浦隊長に香取隊長がやられたのはギリギリでしたから、そこは仕方ないと思います。しかし風間さんの言う通り、どこかの場面でもう1点獲れていれば、影浦隊に並んで同率1位だったわけで……そういう意味でも、非常に『惜しい』結果になってしまいましたね」

 

 風間が辛口に批評し、古寺がフォローするという形。

 この2人の組み合わせで良かったな、と。桜子はひっそりと胸を撫で下ろした。

 

「王子隊は戦況を先読みしてよく対応していたが、読み切れなかったな。あそこは無理にモールの中に突入せずに、外で待つという選択肢もあった。もっとも、これは結果論だ。一概にどちらの選択が正解とは言い切れない」

「王子隊は機動戦を封じられるマップで、持ち味の追尾弾の強みも発揮できない中、よく健闘していたと思います。王子隊長がやられた場面も、香取隊の機転にしてやられた形。あそこが勝敗の分かれ目になったと言えるでしょう」

 

 

 

――――――――

 

 

 王子隊、作戦室。

 

「まったく……カトリーヌにしてやられたね」

「そうだな」

 

 王子の読みは、大まかに香取隊の戦術を押さえ、その上で戦況を動かす一要素として香取隊を利用していた。

 見誤っていたのは、香取隊の連携密度と、その練度だ。あの場面で若村が自分の防御を完全に捨てて香取をカバーするとは、思っていなかった。これは単純に、若村の実力を過小評価していた自分のミスである。

 

「すまなかったね、カシオ。蔵内。僕の見立てが甘かったよ」

「謝らないでください! 自分も、最後は何もできずに落とされてしまいましたし……」

「俺も、如月にしてやられてしまったからな。お前1人の責任じゃないさ」

 

 王子隊には、飛び抜けたエースがいるわけではない。特有の戦法や特殊な戦術があるわけでもない。それでもこれまで、B級上位チームとして戦ってきたのが王子隊である。

 

「ありがとう、2人とも」

 

 だから、王子一彰は負けても下を向くことはない。

 

「とりあえず、総評を聞きながら香取隊の戦法の見直しに入ろうか」

「はい!」

「如月隊はともかく、香取隊は上位残留確実だからな。それがいいだろう」

「そうだね。今度戦う時は、こちらがカトリーヌに一泡吹かせてあげよう」

 

 力強い眼差しは、既に次の戦いを見据えている。

 

 

 

――――――――

 

 

「総じて、今回の戦いはエースの能力とそれに伴うチームの連携が、結果にはっきりと表れた」

 

 総評が、まとめに入る。

 

「香取隊は善戦したが、如月を仕留めるには至らず。香取と如月の両エースを正面から撃破した影浦が、その地力の高さを見せつける形になった。順当な結果に落ち着いた、とはそういうことだ」

「なるほど……如月隊長も、不利な状況が続く中で、よく善戦していたと思いますが?」

 

 思わず、龍神をフォローするような発言を桜子はしてしまう。が、それに対する風間の返答は、やはり厳しいものだった。

 

「甘いな」

 

 簡潔に、一言で切って捨てる。

 

「前回のラウンドで村上を倒して、調子に乗っていたのか……上位に挑むには、早すぎたようだ」

「そ、そこまで仰いますか?」

「チームの連携。勝負所で影浦に競り勝つことができなかった実力の不足。特に連携に関しては、今回で練度の低さが浮き彫りになったな」

「なるほど……」

「もちろん、落とされた甲田達にも問題はあるだろう。が、あの3人はそれこそC級上がりたてのルーキー。奴らを引っ張っていくにしろ、個々の成長を促すにしろ、それらは全て隊長の役目。今回の如月は『隊長の責任』を果たせていなかった。ブレードを三本持って浮かれている暇があったら、己を見詰め直す時間を作るべきだったな」

 

 ズタボロであった。

 しゅん、と小さくなる桜子に救いの手を差し伸べたのは古寺だった。

 

「如月隊は今期結成したばかりのルーキーチームです。まだまだこれからでしょう」

「夜の部の結果もあるが、如月隊はおそらく中位落ち。そこからどう上がっていくか、だな」

 

 最後に、桜子はまだ触れていない影浦隊に関して風間に聞いた。

 

「あ。そういえば、影浦隊長の新技については……」

「あれか?」

 

 風間は、席を立ち上がったまま、最後に一言。

 

「あの曲芸は、まだ未完成だろう」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 影浦隊作戦室。

 

「けっ……あのチビ、全部お見通しかよ」

「でもよかったじゃん。念願の龍神くんと戦えたし、最後も一騎打ちで勝てたし。ゾエさんもうれしいよ。ね、ユズル?」

「うん、まぁ……」

 

 試合前の因縁を試合中にきれいに精算したとはいえ、そこまですっきりしたわけでもなく……かといって試合前の甲田との因縁を影浦達に喋る必要もないと思っているユズルは、適当に相槌を打った。

 しかし、影浦がなんとなく満足していないことは、長い付き合いだからわかる。

 

「カゲさんは楽しくなかったの?」

「ああ?」

 

 ガシガシと頭をかく影浦は、一騎打ちを制したにも関わらず、どこか不機嫌そうで。

 

「……めんどくせえが、さっきのヤツの報告がある。開発室行ってくるぜ」

「えー、せっかく龍神のチームに勝ったんだし、祝勝会やろうぜカゲ~」

「わーったわーった。あとでな」

 

 その背中を見送ったユズル達は、首を傾げて顔を見合わせた。

 

 

――――――――

 

 

 一方で、隊長が不機嫌なのはこちらも同じだった。

 香取隊作戦室では、案の定。香取葉子が緊急脱出用のベッドにうつ伏せに倒れ伏し、呻いている。

 

「おら、いつまでへこんでんだ葉子。さっさと反省会やるぞ!」

「……ぅぅ」

 

 もっとわかりやすく言えば、拗ねていた。

 見かねた華が、葉子の頭に手を伸ばす。そして、ゆっくりと頭を撫でた。

 

「葉子、そろそろ起きて」

「うー……」

「影浦隊には勝てなかったし、如月先輩には負けちゃったけど……でも、手応えはあったわ」

 

 染井華は慰める時でも、事実を曲げることは決してない。もっと優しい言葉をかけてほしかった葉子は、さらに頭をベッド深くに潜行させて、もっとジタバタした。

 

「そうだよ葉子ちゃん! カメレオンとダミービーコンの合わせ技もうまくいったし、この調子でがんばっていこうよ!」

 

 華が慰め(のようなものをし)ても意味がなかったのに、雄太が慰めても効果があるわけがない。現実は非情である。葉子の顔はベッドから持ち上がらなかった。

 仕方がない。

 華は、最後のカードを切ることにした。

 

「三輪先輩がきてるよ」

 

 がばぁ!と葉子がコンマ数秒の反応で顔を上げると。

 そこには仏頂面の三輪秀次が、仁王立ちしていた。そう、さながら弓場琢磨の如く。

 

「三輪……先輩。いつからそこに?」

「お前が染井に頭を撫でられているあたりからだ」

「っ……!」

 

 顔が真っ赤に染まる葉子を前にピクリとも顔色を変えず、三輪は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「今回のランク戦、悪くなかった」

「え……?」

 

 ポカン、と。

 葉子は口を開けた。

 

「作戦もうまくはまっていたし、若村との連携も及第点と言ってもいい。鉛弾の扱いも、実戦で使うのに申し分ないレベルにようやくこぎ着けたな」

 

 仏頂面の前髪男の、あまりにも珍しい褒め言葉に。葉子は柄にもなく、胸が熱くなるのを感じた。

 

「……ま、まあ、アタシの才能があればこれくらいはできて当然だし。アンタの教え方も、まあ悪くなかったっていうか……」

「だが、あの馬鹿に負けたな」

 

 ぴきーん。

 暖かくなった胸の内が、瞬間冷却された。

 

「ま、負けてないし! アタシが負けたのはか……」

「言い訳をするな」

「ぐっ……だって」

「だってもクソもあるか。喧しいぞ」

「なっ……! そもそ……」

「最後の一騎打ちは何だ? なぜあそこで仕掛けた? 影浦先輩が来る前に仕留め切れる確信があったならいい。だが、結局最初の遭遇戦で鉛弾が通用しなかった以上、あそこは距離を置いて三つ巴にするという選択肢もあった。そもそも如月との一騎打ちでお前は気を緩めすぎだ。バッグワームでレーダーに映らないのは、マンティスを振るう瞬間までだ。大体、お前は周囲の警戒がいつも甘い。あれほど言ったのに、まだわからないのか? すぐ熱くなって周りの状況が見えなくなる悪癖を直せ、とあれほど言っただろう。しかもなんだ? あの最後の鉛弾の無駄使いは? 逃げ場をふさぐなら地形を活かすべきだ。それができていない、無謀な突貫を仕掛けた時点で、お前は如月に負けていたということだ。そもそも、最初に鉛弾を使った時は……」

「……っ!?」

 

 繰り出されるマシンガンのような小言に。口を挟む暇すらなかった。というか、そもそも口を挟ませる気が三輪になかった。

 

「……だが、如月が鉛弾に即応してきたのは、俺のミスだ。ヤツの学習能力を、猿以下に見積もっていた」

「……そ、そうよ! あれがなかったら」

「鉄は熱いうちに打つに限る。訓練室に入れ、香取」

「……へ?」

 

 ベッドの上でぺたんと腰を下ろしたままの葉子の腕を取って、三輪が強引に立ち上がらせる。

 

「俺が甘かった。これからは、もっと厳しくいく」

 

 残酷な死刑宣告に葉子は親友の顔を見た。

 仏頂面の前髪男と同じく、やはりまったく表情が変化しない染井華は、そのまま一言。

 

「がんばって」

 

 

 

「もぎゃああああああああああああ!」

 

 

 

 子どものような泣き声が、香取隊作戦室に響き渡り、そしてすぐに消えた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「如月隊の快進撃もここまでか~」

「まだわかんないんだろ、中位から上がってくる可能性は全然ある。特に龍神先輩は、今回もかなり粘ってたし」

「そうだなぁ……でも、とりあえずは香取隊の対策じゃねーの?」

「カゲ先輩の新技。あれにも要注意だな。今まで以上に間合いに注意しないと」

「あれヤバかったよな! あそこ、もっかい観ようぜ!」

 

 ランク戦が終わって、その内容を振り返るのは試合に出ていた当事者達だけでない。

 東隊の作戦室では、奥寺と小荒井が、活発に議論を交わしていた。

 

「見応えのある試合でしたね」

「ああ」

 

 オペレーターの人見摩子の言葉に、小荒井と奥寺のやりとりを離れて眺めていた東は、軽く頷いた。

 

「風間さんの批評は、結構厳しいように思えましたけど」

「如月に対しての言葉か?」

「はい」

「ん……まあ、風間も考えあってのことだろう」

 

 自分にも他人にも厳しいことで知られているのが風間である。その言動は確かにきつく聞こえることが多いかもしれないが、少しでも風間の人柄を知る人間が聞けば、相手のことを想って発せられた言葉であることがわかるはずだ。

 

「如月を信じて、あえて厳しい言葉をかけているんだろうな。如月隊はここまでずっと調子よく勝ち続けていた。成長を促すために、きつめの言葉を投げるのは風間らしい。それに……」

「それに?」

「如月は、一回負けた程度で落ち込む奴ではないだろう」

「それはたしかに」

 

 ふふっと。摩子が笑う。その反応が、端的に如月龍神という人間をどう評価しているか、表していた。

 狙撃手なしの前、中衛に寄った構成。まだ経験が浅いルーキー達。考えるべきこと、取り組まなければならない課題は山積みだ。しかし龍神なら、それらの障害を乗り越えていけるだろうと、東は確信していた。

 

(がんばれよ……如月)

 

 

 

 

 

 と、東が心の中でエールを送ったそのタイミングで。

 ピンポーン、と。

 来客を知らせるインターホンが鳴った。

 

「あれ……東さん! 今日、誰か来る予定ありましたっけ?」

「いや、特になかったはずだが……」

 

 ドアが開く。

 同時に、体を転がすように飛び込んできたのは、一つの影。

 

「なっ!?」

「へっ!?」

 

 呆気に取られる小荒井と奥寺の間を駆け抜けたその男は、瞬時に東まで接近。恥も外聞もなく、がっしりとその脚を捕まえてすがりついた。

 

「頼む! 東さん! この俺に新たな戦術を叩き込み、教授してくれ!」

 

 下から見上げるように。それはもういい笑顔で。

 

「き、如月……?」

 

 如月龍神に完璧に両脚をホールドされた東春秋は、だらだらと冷汗を流した。




敗戦後の動きの違い
原作主人公→実力派エリート(元S級)に頭を下げてチーム加入を願う
本作主人公→B級の隊長(元A級1位)の脚をホールドして、戦術の教えを願う

眼鏡と厨二。どちらに常識があるのかは確定的に明らか

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