厨二なボーダー隊員   作:龍流

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またとんでもなく素晴らしいイラストを、カンさんと八つ手さんからいただきました


【挿絵表示】


VS村上戦のイラストです。やだもう超かっこいい。ラノベのフルカラーイラストみたい……イラストは挿絵として該当シーンに挿入させていただきました。素晴らしい画と合わせて、また楽しんでもらえれば幸いです。
さらに八つ手さんからは、おまけとして龍神の設定画を頂戴しました。


【挿絵表示】


なんか『天鎖斬月』とか、やたら長い『レイガスト・イグニッショナイズ・ブリリアント・セイバー』とか見えますが、多分気のせい。気のせいです。

この場を借りて、改めてお礼を。本当にありがとうございます!


ROUND・Next
厨二と東春秋


 時は遡ること、数分前。

 如月隊作戦室にて、龍神は死んでいた。

 もう少し詳しく説明すると、風間の辛口総評を聞いて、悶えていた。

 

「くっ……ううぅ」

 

 如月龍神は、基本的に落ち込むことが少ない。メンタルが強い。妙に勘が鋭いところがあるわりに、自分のことに関しては鈍感だと言い換えてもいいだろう。もしくは、思い込みが激しいとも言う。

 なので、他人の言葉にあからさまにショックを受け、へこんでいる龍神の姿というのは、とても珍しいものだった。

 

「隊長!」

「落ち込まないでください!」

「今回の敗戦は、おれたちにも責任が……!」

 

 フォローに回る部下達の慰めの言葉も、しかし隊長の耳には届かない。

 肩を震わせながら、龍神は机に拳を叩きつけた。

 

「風間さんに……『ブレードを三本持って浮かれている暇があったら』って……馬鹿にされたっ……」

「「「いやそこかよ」」」

 

 もういい加減隊長のアホさ加減に慣れてきた三馬鹿のツッコミが、美しく重なる。

 

「ふぅ……まあ、とにかくだ。今回の敗戦には、様々な要因があった」

 

 ひとしきり身悶えて、ついでに『悔しさを滲ませて壁に拳を叩きつける』というお決まり敗戦ムーブをキメて満足したのか。龍神はあっけらかんと切り替えて言った。

 

「各々、反省点をまとめて明日のミーティングまでに意見交換できるように準備しておいてくれ。今日は解散だ。俺は少し、行くところがある」

「え? まだランク戦終わったばかりですよ?」

「どこに行くっていうんです?」

「まさか、すぐ個人ランク戦ブースに!? それなら、オレらも……」

「いいや」

 

 龍神は首を振って、丙の言葉を否定した。

 

「ちょっと『隊長の務め』を果たしてくる」

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけです」

「いやどういうわけだ?」

 

 あまりにも雑な回想パートで事情説明を終えた龍神は、やはり東の脚にしがみついたまま言った。

 

「俺はB級ランク戦で完膚なきまでに叩きのめされ、チーム戦ではじめての敗北を経験しました」

「そうだな。さっき見ていたよ」

「その敗北の苦渋は筆舌に尽くしがたく、俺の心に深い爪痕を残しました。身を焦がすような悔しさを、片時も忘れることができません」

「そうだな。さっき終わったばっかりだもんな」

「そんなわけで、俺に戦術を教えてください」

「最初に戻ったな?」

 

 如月龍神のめんどくささは、東が率いていた第一期東隊のメンバーに近しいものがある。

 常に上を見て前に進む向上心は、切れたナイフのように近界民と太刀川を殺すことしか考えていなかった昔の三輪秀次にそっくりだ。傲岸不遜で自信に満ち満ちた態度は、本人は絶対に否定するだろうが、入隊したばかりでポケットから手を出さなかった二宮匡貴によく似ている。人の話をまったく聞かずに好きなことを好きなように好きなだけやる……マイウェイをマイペースでモデルウォークするところなんて、もう完璧にあの頃の加古望と瓜二つである。

 

(……あれ? もしかしなくても、こいつ……かなり面倒くさいんじゃないか?)

 

 東春秋の冷や汗の量、増加。

 

「ちょっとまってくれよ、龍神先輩!」

「いくら龍神先輩でも、今はランク戦のシーズン中です。そんな、敵に塩を送るようなことを頼まれても、東さんだって困りますよ!」

「小荒井、奥寺」

 

 部下からの助け舟に、東はほっと息を吐いた。2人は龍神とよく個人ランク戦を行う中で、東から見てもとても仲がいい。なので、龍神の味方に回ってしまうかもしれない……と、少し危惧していたのだが、どうやら流石にこの場においては、隊長である東の肩を持ってくれるらしい。

 だが龍神は一歩も退かなかった。東の脚にすがりついているので、そもそも退きようがないのだが、そういう体の姿勢を抜きにしても退く様子がなかった。

 

「ふざけるなよ……奥寺、コアラ。お前達……俺の東さんの脚にすがりつく覚悟を甘くみているんじゃないか!?」

「っ……それは」

 

 すがりつく覚悟ってなんだ? 

 床に寝そべって東の足にしがみついたまま、やたらいい声で叫ぶ龍神。その迫力に、小荒井が気圧される。

 

「お前達が東さんの脚にすがりついて、チームに引き込んだように! 俺もチームの勝利を得るために、何時間であろうと東さんの脚にしがみつく覚悟だ! そう! これが風間さんの言っていた、俺の『隊長としての務め』だ!」

 

 しがみつく覚悟ってなんだ? 

 床に寝そべって東の足にしがみついたまま、やたらいい声で宣言する龍神。その覚悟に、奥寺がたじろぐ。

 

「いや、多分違うと思うぞ?」

 

 極めて冷静に、東が突っ込んだ。東春秋をツッコミに回らせるあたり、龍神のポテンシャルが実によく表れていると言える。もちろん、悪い意味で。

 

「あーっ! ダメっすダメっす! とにかく、今日は帰ってください! うちもどっかの誰かのチームが上位グループに食い込んだせいで中位に蹴落とされて、今は苦しい時期なんすから!」

「ふっ……安心しろ。その『どっかの誰かのチーム』は今さっき上位グループでボコボコにされてきたから、中位落ちがほぼ確定だ」

「ボロボロに負けてきたばっかなのに、よく自慢できますね!?」

 

 胸を張りそうな勢いの龍神に、奥寺がツッコむ。ただし、龍神は恥も外聞もなく床に寝そべっているので、張る胸がない。

 仮に江渡上がここにいても張る胸はなかっただろうな……と、龍神は脳内で小気味良いジョークを思いついたが、それはひっそりと胸の内に収めた。人の身体的特徴をからかうのはよくない。ダメ、絶対。

 

「俺は過去を振り返らない男。希望の未来を見据え、静かに突き進むだけだ」

「自分の状態見えてます? 物理的に這いつくばってますよ、今」

「コアラ。俺からも交換条件を出そう」

「話聞いてないっね……ていうか、交換条件? そんなもので、オレが揺らぐとでも……」

「今度、唐揚げ食べ放題の店に連れて行ってやる。無論、わざわざ宣言するまでもないことだが、俺の奢りだ」

「東さん。龍神先輩の話、少しだけ聞いてあげましょう」

 

 一瞬で揺らいだ。相変わらずとでも言うべき厨二馬鹿の無駄に高いコミュニケーション能力に、東は静かに嘆息する。

 

「いけませんよ、龍神先輩。食べ物で小荒井を釣らないでください」

「奥寺」

「無駄ですよ。オレはラーメンの奢りで東さんを売るような真似はしません」

「おっと。手が滑った」

 

 寝そべって片手で東にしがみついたまま、龍神は懐に手を伸ばし、器用に手を滑らせて一冊の本を取り落とした。床に寝そべっているのに取り落とす高低差などあろうはずもないが、とにかく取り落とした。

 その本はどぎついピンクの装丁に包まれていた。タイトルは『必勝! 年上を確実に落とす恋愛テクニック集~憧れの人を振り向かせろ~』である。

 

「……」

 

 奥寺常幸、16歳。沈黙。

 数秒のフリーズを経て、奥寺は震える声でなんとか言葉を紡いだ。

 

「……へ、へえ。おもしろい本を持っていますね、龍神先輩」

「ああ。沢村さんから「もういらないから捨てておいて」と処分を頼まれていた本だ。そういえば、捨てるのをすっかり忘れていた」

「そ、そうなんですね。龍神先輩がこんな本を読むなんて意外ですよ。オレは全然興味ありませんけど」

 

 噓である。

 この男、オペレーターであり近所のお姉さん的ポジションでもあった人見摩子に、ベタ惚れしている。そして、他人の色恋沙汰にはとりあえず首を突っ込む龍神が、それを知らないはずがなかった。

 

「え、なになに? どんな本?」

 

 そして、この淡い恋心は風間が評価するほどの名コンビである、相方の小荒井にも知られていない。というか、龍神から言えば単純に、小荒井があまりにも鈍かった。頭頂部のツノ……なんかセンサーになりそうな髪型をいつも入念にセットしているくせに、相方の恋心に気づけないほど鈍かった。あのツノはただの飾りであると、龍神は常々思っている。

 

「な、なんでもない……! こんな本、オレは興味なんて……」

「ああ、そういえば、奥寺。お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()にのっている、と。前に言っていたな?」

「っ……?」

「お前がいらなくても、この『必勝! 年上を確実に落とす恋愛テクニック集~憧れの人を振り向かせろ~』は……その()()とやらには必要なんじゃないか?」

「っ……!」

 

 もちろん、噓である。龍神は奥寺からそんな話は聞いたことがない。聞いたことがあるのは、チーム全員でホラー映画を観た時に、山場のシーンで限界に達した東が思わず隣の人見にちょっと抱きつき……ぶっちゃけめっちゃ羨ましかった、という愚痴だけである。その時はラーメンを奢って大いに慰めてやった。

 それはさておき、

 

(甘いな、奥寺……まさか俺も、こんなろくに効果も期待できない恋愛指南書一冊で、お前を落とせるとは思っていない。だが、ただの紙の束も駆け引きよっては、札束に変わる!)

 

 沢村から押しつけられた、どうせ忍田も落とせないような恋愛指南書だけでは、奥寺を攻略することはできないだろう。故に龍神は、もう一枚。新たなカードを切った。恋愛相談の秘儀……「これは友達の話なんだけど」という前置きである。発生するコンボ効果により、奥寺に『恋愛指南書を受け取る建前』を、龍神は生み出したのだ。

 小荒井を落とした時とは比較にもならない、瞬間の高度な駆け引き。奥寺はごくりと生唾を飲み込み、そして……

 

「東さん、せっかくですし、話くらいは聞いてあげてもいいんじゃないでしょうか? こうして、誠意も形にしてきてくれていることですし」

 

 奥寺、陥落。

 

「なーなー、奥寺。その恋愛相談って誰から受けたんだ?」

「ああ、佐鳥だよ」

 

(コイツ……しれっとした顔で噓つくな)

 

 奥寺のポーカーフェイスに、龍神は内心で称賛を送った。

 あろうことか、この世全ての女性を平等に愛している佐鳥賢をダシに使ってぬけぬけと。奥寺は『必勝! 年上を確実に落とす恋愛テクニック集~憧れの人を振り向かせろ~』を受け取る。が、龍神は特に佐鳥に同情しなかった。佐鳥が年上好きという噂が流れたら、間違いなくこの場所が発生源だが、まあそれはそれ。

 とにかく、これで東の前に立ちはだかる障害は突破した。

 

「では、東さん……とりあえず、一時間コースでお願いします」

「もうわかったからはやく離れろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どんなことが聞きたいんだ?」

「戦術について、です」

 

 龍神を椅子に座らせて、自身もその対面に座り、ようやく落ち着いて話せる態勢を作った東は、龍神の即答になるほど、と頷いた。

 

「戦術、か。なるほど」

「はい。風間さんに言われた通り、今の俺達に足りないものはそれだと思うので」

「しかし、単純に『戦術を教えろ』と言われても、こちらから出せるものは何もないな」

 

 さっきまでの語調から、少し引き締めた調子で、東は言う。

 

「お前のそれは、問題の要点もわかっていないのに、答えだけ聞きにきている生徒と同じだ。すぐに動こう、わからないから質問しよう、という積極的な姿勢は好ましいが……考える過程を無視してそのまま解答を提示できるほど、俺は万能じゃないし、優しくもないぞ?」

 

 それとなく話の内容を聞いていた奥寺と小荒井が、東の強い言葉にびくりと肩を竦ませた。

 しかし、龍神は少しも物怖じせずに大きく頷く。

 

「仰る通りですね。返す言葉もなく、恥ずかしい」

 

 東の言っていることは正しく筋道が通っていて、文句のつけようもない正論だった。

 言わば、今の龍神は数学の途中式を考えず、答えだけ得ようとしている状態だ。それでは何も得られない。

 

「では、先ほどの試合を振り返る形で俺から問題点とその解決法を提示して……それを東さんに添削してもらう、という方法でお願いしてもいいでしょうか?」

「……なんだ。ちゃんと考えてきているじゃないか。ああ、それでいいぞ。言ってみろ」

「ありがとうございます」

 

 大きく頷いた龍神は、懐からメガネを取り出し、身につけた。

 ……いや、メガネ必要か? と東は思ったが、いちいちツッコんでいると話が前に進まないので、そこは軽く受け流す。この厨二と喋る時に必要なのはスルースキルである。

 龍神の方はいたって真面目な様子で、やはり懐から取り出したタブレット端末を机の上に置き、東に見えるように先ほどの試合データを表示した。

 

「詰まるところ、さっきの試合の敗因は一度崩れたチームを立て直せなかったことが原因であると俺は考えます。それは実際の戦闘でもそうですし、チームの雰囲気……士気も含めて、の話です」

「……なるほど、続きを聞こうか」

 

 画面に映るのは序盤の遭遇戦。特に、香取にひっかきまわされた場面だ。

 

「これまでの試合では、うちのチームのルーキー達は試合の途中でやられることはあっても、開戦早々にやられる、ということはありませんでした」

「そうだな」

「はい。しかし、今回のランク戦では開戦早々、香取に早乙女が捕捉され、最初に脱落。その後も、甲田が絵馬に落とされ、丙は離脱を阻まれ……取った手が尽く裏目に出てしまっています」

「結果だけ見て戦術を語るのはやめておいた方がいい。さっきの試合は俺も見ていたが、お前達の動きに大きなミスはなかった。ただ、一つ指摘させてもらうなら」

「相手の戦術レベルを見誤っていた、ですか?」

「……なんだ、わかっているじゃないか」

 

 試合が終わったのはつい先ほど。しかし、龍神は龍神なりに、敗北の要点を抑えてきているらしい。東は、少し感心した。

 

「はい。香取隊が取ってきたあの新戦術は、正直予想外でした。今まではエースの香取を軸に据えた……悪く言えば香取だけに頼り切った戦い方が目立っていましたが、今回は違った。俺自身も、三浦の『幻踊』にしてやられて、腕をもっていかれました」

 

 三浦の『幻踊』で腕を切断されたことを思い返しながら、龍神は腕をさする。

 香取が隠し玉として用意した新たなトリガー『鉛弾』。それを軸にカメレオンとダミービーコンを合わせた戦術を組み立て、実戦に耐え得る形に仕上げた上で、香取隊はランク戦に挑んできた。最終的な軍配は影浦隊に上がったが、試合を終始リードしていたのは間違いなく香取隊である。

 が、そんな龍神の分析を踏まえた上で、東は言った。

 

「しかし、問題は()()()()()()()()()ことも、わかっているんだろう?」

「……はい」

 

 龍神は即答する。

 

「王子隊、ですね」

「そうだ。一応、俺は今シーズンのお前達の試合、全てに目を通している。データというには数が少なすぎるし、あくまでも俺個人の所感になるが……」

「いえ、お願いします」

「……はっきり言えば。如月隊には、まだ他のチームと戦術の読み合いができるほどの地力がない」

 

 それは、至って簡潔な問題点の指摘だった。

 

「中位グループまでなら、まだ誤魔化しが効いただろう。だが、今回の試合は香取隊だけでなく、王子隊にも読み合いで負けて、チーム全体の動きを阻害されてしまった」

「……そうですね。王子さんに捕捉されたのは誤算でした」

 

 試合中盤、甲田が落とされた後、仕切り直しができれば、試合の展開はまた違ったものになっていただろう。

 だが、実際は王子に完璧に逃走ルートを読まれ、強引に乱戦に引き込まれてしまった。その結果が、あの様である。

 

「ショッピングモールの外に出ていれば、少なくとも香取隊のダミービーコンは機能しなかった。そうでなくとも、他のチームを喰い合わせて、疲労したところを狙うチャンスがあったはずです。……もっとも、これも結果だけ見て『たられば』の話を語っているに過ぎないのですが」

「あの時、こうしていれば。ここで、違う選択をしていれば、と。結果を反省して思考を働かせるのは、決して悪いことではないさ。ただ、それに囚われすぎるのはよくないし、それだけを見ていても前には進めない」

「はい」

「香取はあからさまにお前を狙っていたし、影浦隊も含めて、如月隊が他のチームの標的になっていたのは外から見ても明らかだった。だが、今回の直接の敗因は王子隊にあった。そう言っても過言ではないと、俺は思っている」

 

 東は、テーブルの上の龍神のタブレットに手を伸ばした。

 

「これまでの戦いでお前達が勝ってこれたのは『初見殺し』の作戦があったから。加えて、お前に攻撃手として、地力の高さがあったからだ」

 

 荒船隊の戦いでは、高低差を活かして狙撃手を釣り出す戦法がうまくハマった。鈴鳴第一との勝負で村上に勝てたのは、龍神がレイガストという切り札を用意したからだ。

 

「香取隊のように、初見殺しの戦法を相手が用意してきた時。あるいは、純粋に戦術の読み合いで勝てない王子隊のようなチームと当たった場合。そして、影浦をはじめとする対等……あるいは格上の『エース』と対峙した時」

 

 淡々と。けれどはっきりとした口調で、東は言う。

 

「対抗する手段がないお前達は、今より上には、絶対に上がれない」

「……はい」

 

 珍しく視線を伏せる龍神の姿に、黙って様子を伺っていた奥寺と小荒井は思わず顔を見合わせた。

 

「ま、そう気落ちするな。相談を受けたら、それに対する解答を示すのが俺の役割だ」

「東さん……」

「如月、このあと時間はあるか? お前だけじゃなく、如月隊のチーム全員だ」

「はい? それは……まだ試合が終わってからそんなに時間も経ってないですし、集めようと思えば集められると思いますが……」

「なら、集めてくれ。昼の部が終わったばかりでキツイかもしれないが、俺が他のチームとの模擬戦を手配する」

「模擬戦ですか?」

「ああ、模擬戦だ。実は、お前と似たような相談を他のやつからも受けていてな。チーム単位で模擬戦ができる相手を探していた」

 

 東は提示する。

 如月隊が現状を打破するために必要な要素。シンプル極まりない、けれど確実な一つの答えを。

 

「如月隊というチームに不足しているもの。それは実戦経験だ。なら、単純な話……経験を重ねていくしかない」

 

 ルーキーである甲田達だけでなく。紗矢も龍神も、チーム戦の経験は素人もいいところ。それを補っていくには、経験そのものを積み上げていくのが手っ取り早い。

 

「しかし、それは同時に他のチームに手の内を晒してしまうことになります」

「そうか、まだ隠すような手札が残っているのか。それなら、さっきの試合でさっさと切るべきだったな」

「う……」

 

 痛いところを突かれて、龍神は押し黙る。

 

「想定外の状況への対処。これはランク戦の大きな意義の一つだ。実際に経験しなければ、得られない経験値だ。模擬戦を通じて、相手もお前達のことを知るだろう。が、それ以上にお前達が相手を知り、なにより己を知ることができる。俺はそう思うぞ」

「……」

「このまま順当に時間を重ねていけばお前達は多分、上に登れる。だが、ゆっくり足踏みするより、少し強引にでも、一歩でも早くよじ登りたいのが如月隊というチームだろう?」

「……はい!」

 

 それは、龍神が東隊の作戦室に来てから最も大きく、はっきりとした「はい」という返事だった。

 

 

 

 

 

「……で、集合場所に向かおうとしていたわけなんだが」

 

 龍神が解散、と言ったにも拘わらず、甲田達は作戦室で反省会を行っていた。東の提案にも乗り気であり、敗戦直後でもモチベーションは良好。すぐに全員揃っていつでも戦える準備を整えて、龍神は合同模擬戦の打ち合わせをするためにラウンジに向かったのだが……

 

「なんだ、くまか」

 

 向かう途中で廊下でばったり鉢合わせたのは、東が言っていた対戦相手である。

 

「なんだとはなによ。ご挨拶ね」

 

 龍神の呟きを律儀に拾って、長身が目立つスポーティー女子、熊谷友子が唇を尖らせる。

 東が言っていた『相談に来ていた他のチーム』とは、那須隊のことであった。てっきり、B級下位チームのどこかだと思っていたので、これは龍神としては少々予想外である。

 

「ひさしぶり、如月くん」

「ああ、那須もしばらくだな。身体の調子は大丈夫か? そちらも中位グループの昼の部だったから、連戦だろう?」

 

 熊谷の背中から、ひょっこりと顔を出したのは那須玲。今はトリオン体に換装している状態で、線の細い身体を那須隊の隊服に包んでいる。

 龍神の言葉に那須は柔らかく微笑んだ。

 

「お気遣いありがとう。今日は体調がいいから大丈夫」

「とか言って、すぐ無理するんだから」

「くまちゃん、それは言わない約束でしょう? 私たちは、今が頑張らなきゃいけない時なんだから」

 

 静かな。けれど確かな決意が滲んだ口調だった。

 

「……頑張らなきゃいけない時? なんだ、何かあったのか?」

「ああ、ううん! こっちの話!」

 

 それらしい笑顔を浮かべて、熊谷が慌てて前に出る。

 

「こっちも今シーズン、なかなか戦績が振るわなくてさ。だから、東さんにいろいろ相談してたの」

「……ふむ。そうか」

「そういえば、もう1チーム参加してくれるらしいけど、如月はどこか聞いてる?」

 

 露骨に話を逸らされた気がしたが、それ以上は追求せず。龍神は聞かれたことを答えた。

 

「いや、聞いてないな。ラウンジに行けばすぐにわかる、と東さんが言っていた」

「そうなんだ。どこだろ?」

「茶野隊あたりじゃないか?」

 

 適当に言葉を交わしながら、龍神達はラウンジに到着した。そして、到着した瞬間に理解した。

 行けばわかる。東がそう言っていた意味を。

 

「……え」

 

 その男は、

 

「……な」

 

 ラウンジの中央で、

 

「あ、あれは……」

 

 仁王立ちで待っていた。

 

 

 

 

 

「ご無沙汰じゃねェか、如月ィ」

 

 

 

 

?!

 

 

 

「ど、どうしてここに……?」

 

 黒髪のツーブロックリーゼントに、対照的な白の隊服。エッジの効いたメガネの奥から、鋭い視線が龍神を射抜く。

 今にも不運(ハードラック)(ダンス)っちまいそうなその男は、周囲の視線をものともせず、低くドスの効いた声で言葉を紡いだ。

 

「どうしてここに、だァ……? てめェー、上位でいいようにやられて、気ィ抜けてんじゃねェのか?」

「いや、そんなことは……」

 

 ボーダーの中には、好感度がカンストしている鬼奴田を例外として、如月龍神が深く尊敬し、敬語を使う人間が4人だけ存在する。

 入隊したばかりの頃にしごかれた、忍田真史。ラグビーをやっていた、唐沢克己。あらゆる意味で頭が上がらない、東春秋。

 

 そして、

 

「あァ!? シャキッとしろやコラァ!」

「ッス! おひさしぶりです! 弓場さん!」

 

 ボーダー内において『タイマン最強』として知られるトップ銃手。

 

 弓場拓磨である。




那須さんを出せなかった禁断症状と、弓場ちゃんを出したかった欲求で、作者は爆発しそうでした
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