厨二なボーダー隊員   作:龍流

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みなさん、22巻は読みましたか?
最高でしたね……(語彙消失)


厨二と弓場拓磨

 ボーダーにおいて最強の隊員は誰か? 

 きっと、誰もが一度は考えたことがあるだろう。黒トリガーを除いて、あるいは第一線を退いている忍田真史を除いて。ノーマルトリガーを手に取る隊員の中で、最強の一人は誰なのか。

 個人総合1位、攻撃手ランキング1位という地位を我が物にしている太刀川慶か? 

 狙撃手というポジションの始祖、かつてA級1位チームを率いた東春秋か? 

 あるいは、全てのポジションに対応できるボーダー唯一の万能手、木崎レイジか? 

 そもそも『最強』という言葉の定義が人によって異なる以上、明確な答えは出ない。だが、A級4位草壁隊銃手……『No.1銃手』の里見一馬は語る。

 

 ────弓場さんは一言でいえば……1対1最強。

 

 弓場拓磨は、ボーダー最強の隊員に数えられる1人である。

 個人の強さを考えるにあたって、一つの指標になるのが個人ポイントの高さだ。そして、ポイントが高い隊員は『個人戦をあまりせず、チームランク戦メインで稼ぐ者』と『暇さえあればバリバリと個人戦をする者』に大別される。弓場は猛者達を相手に何千何万とランク戦を積み重ねてきた、後者のタイプであった。

 言うまでもないが、個人戦を積み重ねるということは、個人ランク戦ブースに入り浸るということであり……個人戦ランク戦ブースに入り浸るということは、まだB級に上がっていない訓練生と接触する機会が増えるということでもある。

 

 遡ること、約一年前。手頃な相手を探していた弓場が、まだ入隊したばかりの如月龍神と出会うのは、ある意味必然だった。

 

「そこのおめェー、ちょっと待ちな」

「……む?」

 

 当時の新人隊員の中でも、木虎と並んでずば抜けたセンスを見せていた龍神は、注目の的だった。趣味の欄にでかでかと『1対1』と書き込むタイプの弓場にとって、将来有望なルーキーと手合わせすることは楽しみの一つである。

 とはいえ、まだ入隊したばかりの龍神はそんな事実を知る由もない。

 

「時間はあるか? あるなら……ちょっと面貸せや」

「……ほう」

 

 少し補足しておくと、弓場の外見は一言でいえばヤンキーである。顔は強面で、髪型はリーゼントであり、おまけに語調も荒い。とてもじゃないが、好きな食べ物の欄に『パウンドケーキ』と書き込むタイプには見えなかった。

 

(驚いたな……まさかボーダーの正隊員の中に、これほどステレオタイプな『ヤンキー』が生息しているとは)

 

 龍神がそういう方向に勘違いするのも、仕方なかった。

 

「空いている、と言ったらどうするつもりだ?」

「個人戦(サシ)で勝負しろ。なかなかデキるヤツだって噂を聞いたからなァ。少し興味がある」

「ほう……なるほどな。入隊早々、頭角を現し始めたこの俺に因縁をつけ、潰してしまおうという魂胆か」

「……あァ?」

 

 少し補足しておくと、ボーダー入隊当初、弧月を握って自慢のセンスと向上心でぶいぶい言わせていた如月龍神は、今よりもほんの少し生意気だった。そして今と変わらず頭の中身がとても残念だったので「これは……組織に入ったルーキーがヤンキー気質の先輩に目をつけられる定番イベント!」と、めちゃくちゃワクワクしていた。厨二は今も昔もアホ。

 そして、弓場はそんな馬鹿を鼻で笑った。

 

「はっ……何を言うのかと思えば。こいつァ、おもしれェな」

 

 ぎろり、と。視線が光る。

 

「自分に『潰される価値』があると思ってんのか。あの木虎って嬢ちゃんといい、おめェといい、今期は聞いていた以上に小生意気なルーキーが多いみてェだ」

「ふっ……己の価値を信じることができない者に、切り拓ける未来はない。漆黒の空で静かに、けれどたしかに光り輝く、月明かりの如く……俺は自らの輝きを、正しく信じている」

「……なるほどなァ。よくわかったぜ」

 

 犬歯を剝き出しにして、弓場は笑う。

 正直、目の前のルーキーが言っていることはこれっぽちも理解できなかったが、とりあえずくそ生意気だということはよくわかった。ならば、弓場がすべきことはただ一つ。拳(銃)でタイマンを張って語り合うだけである。

 

「ブースに入れよ、ルーキー。お望み通り、叩き直してやる。10本勝負だ」

「出る杭は打たれるとは、よく言ったものだ。だが、俺は近い将来、太刀川隊に入隊する男。そう簡単に勝てるとは、思わないことだ……」

 

 斯くして、弓場拓磨と如月龍神の因縁は、ここから始まる。

 もちろんこの日は、一回も勝てずにズタボロにされた。

 

 

 

 

 

「そんなわけで、俺は弓場さんに穴だらけにされ、先輩への礼儀というものを学んだわけだ」

「いや、ダサっ!?」

「ダサくないぞ。井の中の蛙、大海を知る、とも言うだろう。俺という蛙にとって、弓場さんの存在は果てしない海そのものだったというわけだな」

「つまり、あんたは入隊したばっかで調子のってるところを弓場さんにボコボコにされて、最低限の礼儀を仕込まれた、と。やっぱダサいわ」

「ダサくないぞ」

 

 熊谷のダサい認定をさりげなく必死に否定しながら、龍神は空いているラウンジの一角を見つけた。

 

「む……弓場さん! あそこの席が空いています。どうぞ、座ってください」

 

 後輩らしい、さりげない気遣い。しかし弓場は、龍神のその言葉に青筋を浮かべ、スポーツグラスに手を当て、息を大きく吸い込み、叫んだ。

 

「如月ィ!」

 

 一喝。

 

「……ッス!」

 

 弓場に名前を呼ばれただけで、龍神の背筋は平時の三割増しですっと伸び、腰の後ろで腕を組み、表情からいつもの笑みがすっと消えて引き締まる。

 なんだこれ、と熊谷は思った。

 

「おめェーの気遣いはわかる。だがなァ……俺に椅子をすすめてる暇があんなら、身体が弱い那須を先に座らせるのが筋ってもんだろォーが。違うか?」

「……ッス!」

 

(あ……この人、いい人だ)

 

 熊谷はちょっと安心した。

 

「そもそも、俺はミーティングの時にはイスに座らねェ。しばらく顔を合わせてねェーからって、忘れてんじゃねェぞコラ」

「ッス!」

 

(え、なんで座らないの?)

 

 熊谷は疑問に思ったが、それを聞く前にさっと移動した龍神が椅子を那須に勧め、座らせる。熊谷もその隣に、ということだったので、有難く着席し、最後に龍神が座る……その前に、弓場が懐から財布を取り出した。

 

「如月ィ……お前、これで全員分の飲みもん買ってこいや」

「ッス!」

 

(うわぁ。やっぱりいい人だ)

 

 熊谷は心の中で感嘆した。あと、さっきから龍神が「ッス!」しか言っていない。

 

「ありがとうございます、弓場さん。でも、そういうことならあたしも如月と一緒に行ってきます」

「そうか? 女子をパシらせるつもりはなかったんだが、わりィな」

「いえ、大丈夫です。玲は弓場さんとちょっと待ってて」

「わかったわ」

「ほら如月、行くわよ」

「ッス!」

「……いや、あたしにその返事はいらない」

 

 弓場達から離れると、龍神は大きく伸びをして息を吐いた。さっきまで必要以上に伸びていた背筋と肩回りを、ぐりぐりと回して脱力する。

 

「ふぅ……いかんな。弓場さんと一緒にいると、ついつい背筋が伸びてしまう」

「そうね。ッス、しか言えなくなるものね」

 

 でもよかったわ、と。熊谷は苦笑する。

 

「あんたと2人きりで、ちょっと話したいことがあったから」

「……む? やはり、何かあったのか?」

「そこで『やはり』って出てくるあたり、あんたはやっぱり勘がいいわ」

 

 持って回ったような言い方に、龍神は眉根を寄せる。熊谷らしくない、と思ったからだ。

 

「どうした、大丈夫か?」

 

 龍神の知る熊谷友子は、言いたいことはハッキリ言う、こざっぱりとした性格だ。だから、伏せていた何かをそっとちらつかせるような言動に、違和感を覚えた。

 事実、自販機の前に立った熊谷は、あえて龍神の顔を見ないように気を遣っているようだった。

 

「……うん。実は、茜のことなんだけど……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……東さーん。オレら、他のチームに協力してる余裕あるんですかね……」

 

 龍神が去ったあとの東隊作戦室にて。

 恐る恐る、といった様子で文句の言葉を口にしたのは小荒井だった。タブレット端末に視線を落としていた東は、ゆっくりと顔を上げる。

 

「なんだ、不服か?」

「いや、不服ってわけじゃないですけど……オレらも前回の戦いで中位落ちしちゃいましたし、あんまり他のチームに構っている余裕はないんじゃないかな……みたいな」

「東さんが自分を頼ってきてくれる隊員に対応するのは自由でしょ。それを私達にとやかく言う権利はないわよ」

「そ、それはそうなんですけどー」

 

 人見に釘を刺されて、小荒井は唇を尖らせる。

 東はその立場上、狙撃手の合同訓練を責任者として受け持ったり、隊員の個人的な相談にのったりと、下の年齢の隊員から頼られることが多い。もちろん、小荒井はそんな東の人柄を含めて尊敬しているが、中位に落ちてしまっている現状に焦りを覚える気持ちもあった。

 

「……今期の弓場隊は、神田が抜けた穴が大きい。弓場もその穴をどう埋めるか悩んでいるようだった。チーム連携、特に前衛の帯島との連携強化を図るために、実戦形式の訓練を重ねたいらしい」

「……はい?」

「如月隊に関しては、さっきお前達の前で話した通りだ。那須隊は……日浦の件で、少し思い悩んでいることがあるらしい。今期の順位をなるべく上げたいそうだ」

「はあ?」

「どのチームも、上に行くために努力を積み重ねている。こうして俺に話が回ってくるのは、切磋琢磨する組織として非常にいい傾向だ。少し、嬉しくなった」

 

 淡々と、東は言葉を紡ぐ。どう返事をすればいいか分からず、小荒井は曖昧に言葉尻を濁した。

 

「それは、もちろんそうなんでしょうけど……」

「だが、それは俺が相談を受ける立場としてそう思っているだけであって……()()()()()()()()()話だ」

「……はい?」

 

 顔をあげた東は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、

 

「俺は解説と参加チームへの指導で席を外す。が、神田の抜けた弓場隊の動きと、那須の変化弾。そして、言うまでもなくデータが少ない如月隊。どのチームのデータも、これから先の戦いに必ず役に立つと思うぞ」

 

 もちろん東は自分を頼ってきた隊員達に、真摯に対応している。その結果として提案したのが、ランク戦シーズンの真っ最中に行う、今回の模擬戦だ。

 しかし、それはあくまで東春秋個人の対応。そこで得られた各チームのデータを『東隊がどう利用するか』は、当然自由である。つまるところ、東は自分の部下達に賢く立ち回れと言外に伝えていた。

 他のチームの貴重なデータを取るチャンスが、目の前に転がっている。なら、それを利用しない手はないだろう、と。

 

「っ……奥寺と準備してきます!」

「おう」

 

 作戦室から飛び出して行った小荒井を見送って、人見は苦笑混じりに東に言った。

 

「東さん、もしかしてそれが狙いで模擬戦の提案したんですか? ちょっといじわるですね」

「そんなことはないさ。ただ、小荒井が少し不満そうだったからな。焚き付けただけだ」

 

 加えて言うならば、

 

「あいつらも、この時期に模擬戦をするリスクくらいは承知しているよ」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「結局のところ、東さんの提案した模擬戦にのるということは……簡潔に言ってしまえば、俺達の手の内を他のチームに広く知られてしまうということだ」

 

 弓場達との打ち合わせを終えた龍神は、作戦室に戻ってミーティングを行っていた。

 

「俺達が相手チームのデータを取るように、相手チームも俺達のデータを取ってくる。当然の話だな」

「模擬戦をする、っていう隊長の提案には賛成っすけど……でも、いいんですかね? こっちの手の内晒しちゃって」

 

 腕を組みながら、甲田が言う。

 つい先ほど、自分が東にしたのと同じような質問がそのまま返ってきた。当然の疑問だとは思うので、そのまま東に言われたことを部下達に伝える。

 

「それは、俺も思った。で、東さんにはっきり言われたわけだ。「まだ隠しておくようなカードがあるのか?」とな」

「あー……」

 

 なんとも言えない表情で、早乙女が天を仰ぐ。

 

「うちだって連携の訓練を積んでこなかったわけじゃないが、予め用意していた戦術パターンは決して多くない。そもそも、その連携や戦術も、本来なら実戦を通して磨き上げていくものだ」

「俺達は、経験値と実戦訓練が絶対的に不足している、と」

 

 例えば、如月隊には甲田や早乙女が追尾弾で援護し、龍神が旋空で切り込む、というフォーメーションがある。追尾弾は斜めに曲射できるので、甲田達の練度でも龍神を誤射する心配がなく、鈴鳴第一と戦った時もこの陣形はそれなりに有効だった。

 言い方を変えれば、チーム内で考案した連携やフォーメーションが『それなりに使える』という結果。ただそれだけの事実を確認するのにも、他のチームとの実戦経験は必須なわけで。もちろん、チーム内で仮想敵を作って訓練を行えばある程度のデータは取れるが、村上や影浦といったサイドエフェクトを持つ相手のデータは、実際に戦ってみなければわからない部分が大きく、対峙してみてはじめてわかることも多々ある。

 

「今回の模擬戦は、練習試合のようなものだ。手を抜け、とは言わないが必要以上に気負う必要もない。試したいことはどんどん試していけ」

「了解っす」

「わかりました」

「オッケーです」

 

 甲田、早乙女、丙の返事を確認して、龍神は紗矢の方に向き直った。

 

「お前もだぞ、江渡上」

「お前()ってなによ? お前()って」

 

 オペレーターデスクに頬杖をついている紗矢の背筋はいつもと比べれば随分丸くなっていて、先ほど弓場の前で背筋を伸ばしてきた龍神から見ると、より一層目についた。

 

「王子さんに戦略で上をいかれて拗ねる気持ちはわかるが」

「べつに、拗ねてないし」

「あの人の戦術眼と指揮は、それこそB級の中では指折りのものだ。むしろ、早い段階で当たることができてラッキーだった」

「……べつに、聞いてないし」

「先ほどの試合は、俺の方もお前に判断を投げすぎた部分があった。だから気にするな」

「…………べつに、気にしてないし」

「本来なら自分で気持ちをまとめて反省して、振り返る時間を持ちたかったところだが、こうしてすぐに模擬戦をすることになってしまった。悪いが、切り替えて望んでくれ」

「べつに切り替えてるし!」

 

 むっがぁ!と。いつも通りの反応が戻ってきて、龍神は内心でほっと笑う。これなら大丈夫そうだ。

 

「如月くんこそ」

「む?」

「如月くんこそ、さっきの敗戦、結構堪えてるんじゃないの?」

 

 紗矢はたしかに、さっきの敗北が響いて少ししょげていたが。しかしそれは「チームメイトを心配しない」ということと、決してイコールでは繋がらない。自分が紗矢を気遣ったように、紗矢も自分を気遣っていることに気がついて、龍神は少し驚いた。驚いてから、いつものように笑った。

 

「ふっ……この俺が、あの程度の敗北で挫けると思うか?」

「……あー、はいはい。聞いた私が馬鹿だったわ」

「カゲさんの最後の新技、かっこよかったな……っ!」

「聞いてないわよ、もう」

 

 そうだ、べつに負けたことが堪えているわけじゃない。敗戦でショックを受けたわけでもない。

 ただ、胸の中にモヤモヤした感情が沈んでいるのは事実であり……龍神はそれを、表に出さないように努力した。理由は、自分でもわかっている。つい先ほど、熊谷から聞いた話の内容が原因だ。

 

 ──茜がね……那須隊を、やめるかもしれないんだ

 

 死者0名、という奇跡的な最良の未来で幕を閉じた第二次大規模侵攻は、それでも人々の心に深い爪痕を残した。破壊された家屋。連れ去られたC級隊員達。特に、子どもをボーダーに所属させている親達は、その意味をもう一度考え直すことになった。

 三門市から引っ越す。ボーダーをやめさせる。

 それは、子を持つ親としては多分当然の選択で。当然の選択だと納得できるが故に、龍神はその結果が歯痒かった。守れるものを、全力で守ったつもりでいた。けれどやはり、全てが元通りというわけにはいかなくて……その現実を突きつけられたのは、自分と仲の良いチームだった。

 

 ──でもね、あたし達が今期のランク戦で、今までの最高順位をとれば、考え直してくれるって。茜のご両親を、なんとか説得したんだ。

 

 きっと熊谷は、頭を下げたに違いない。茜も泣きついたに違いない。那須も小夜子も、必死で自分の気持ちを伝えたに違いない。

 

 ──だからこのシーズンは……今期のランク戦だけは、どんな手を使っても、絶対に負けられないんだ。

 

 そう語る熊谷の横顔は、よく見るといつもより明らかに疲れていた。

 大規模侵攻で、龍神は那須隊を全力で救った。だが、ランク戦では互いに敵同士。

 

「よし。そろそろ時間だ、行くぞ」

 

 龍神が那須隊にしてやれることは、何もなかった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 転送されたステージは、市街地B。天候設定はノーマルの晴れ。

 相談の結果、ステージ選択権はランダムに決めることになり、運は弓場隊に味方した。

 

「……江渡上」

『バッグワームで消えたのが3人。1人は弓場隊の狙撃手の外岡先輩、もう1人は日浦さんだとして……あとの1人がわからないわね』

「総員、奇襲を警戒しろ」

 

 言いながら、レーダーを見る。今回は、転送位置がそこまで悪くない。

 

「甲田と丙は合流を最優先。そのまま南下してこちらに来い。俺も早乙女を拾ってそちらへ向かう」

『中間地点にピンを立てたわ。そこを仮の集合場所にして』

『了解!』

『了解です』

『了解っす。隊長、バッグワームで消えた反応、一番近いのは隊長ですよ。要注意っす』

 

 注意喚起をしたのは丙だ。成長したものだ、と少し嬉しくなりながら龍神は頷く。

 

「ああ、わかってい……」

 

 結論から言えば、龍神は何もわかってなどいなかった。

 これまでのランク戦において、龍神が最後まで生き残るのは当然のこと。エースとして相手チームからマークされるのは当たり前であり、それをはねのけて最後まで立ち続けるのも、龍神の実力を鑑みれば必然だった。

 開戦序盤。まだ合流が完了していない敵に『仕掛ける』のはランク戦のセオリーの一つである。しかし、龍神と単身で勝負できる実力を持つ隊員はB級上位でも稀であり……戦闘開始直後のこの時間、自身が『浮いた駒』であるという自覚を、龍神は持っていなかった。

 故に……故に、である。

 たとえ模擬戦であっても、それは一切の手抜きを感じられない、完璧な奇襲だった。

 

『レーダー反応……っ!? 如月くん、上!』

 

 警告、時すでに遅く。

 龍神は、息を呑んだ。

 振り返り、見上げた先ではためくのは、自分達と同じ白の隊服。電光石火のその攻撃は、目を見開いて驚く瞬間すら許さず、

 

「っ!?」

 

 射程、22メートル。

 弓場の二丁の銃口が、龍神を完璧に捉え、火を吹いた。

 


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