厨二なボーダー隊員   作:龍流

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ワートリアニメ最高ですね!!
アニメ期間にこのエピソードをぶつけられたことに、心から感謝します


厨二なボーダー隊員
『如月 龍神①』


「超過自己暗示……俺に……サイドエフェクト?」

 

 聞き間違えか、もしくは冗談かと思った。

 副作用(サイドエフェクト)。それは、高いトリオン量を持つ者のみに発現する、特別な力。トリオン能力を持つ限られた人間の中でも、さらに一握りの選ばれた人間しか手にすることができない能力を指す。

 例えば、迅悠一の『未来視』。

 例えば、影浦雅人の『感情受信体質』。

 人間の能力の延長線上にある、脳や感覚器官に影響を及ぼす特別なスキルの総称だ。

 龍神は深く息を吸って、それを否定した。

 

「なにを馬鹿な」

「そうかね。きみのトリオンは、迅と同程度だろう。トリオン量だけをみれば、きみにサイドエフェクトが発現しても何ら不思議はない」

 

 城戸の指摘は正しい。

 龍神のトリオン量は、平均よりも多い。二宮や出水のような飛び抜けた量ではないが、数値に換算してみてみると影浦や遊真、村上。そして今、目の前に立っている迅と同じ『7』に相当する。

 

「っ……それは」

 

 わかっている。

 龍神だってわかっているのだ。

 迅だけならともかく、堅物で知られているあの城戸が、冗談を言うわけがない。それでも、龍神は一縷の望みをかけて縋るように迅を見た。

 

「……強化聴覚。菊地原の副作用は、本人もボーダーで診断されるまで、それがサイドエフェクトだと気づけなかった」

「……迅、さん?」

「鋼の強化睡眠記憶だってそうだ。小さい頃から『自分はみんなと何か違う』っていう自覚があっても、それがサイドエフェクトだと判明するまでは、特別な能力を認識できないことの方が多い。まあ、おれや天羽みたいに()()()()()()()()副作用は、さすがにそうはいかないけど」

 

 淡々と。本当にただ客観的な事実だけを並べ立てるように、迅は言う。

 冷えた声音は染み入るように耳の中に入っていて、その冷たさが否応なくこれが現実であることを意識させて。それでも龍神は、声を張り上げて反論する。

 

「だが、俺は自分のサイドエフェクトの力を自覚したことなんて一度も……」

「そりゃそうだろ。さっきも言ったけど、お前のサイドエフェクト、菊池原みたいに自分じゃ気付きにくいタイプだし。くまちゃんを斬ろうとして腕が止まる……さっきみたいな『きっかけ』がないと、サイドエフェクトの影響なんてわからないよ」

「そんな都合のいい話があるわけ……」

「らしくないな、龍神」

 

 だが、遮られる。

 

「サイドエフェクトだぞ。()()()()だ。お前なら、喜ぶと思ってたんだけど」

 

 何故かはっとして、言葉に詰まった。

 

「どうしてそんなに、自分がサイドエフェクトを持っていることを否定したがるんだ?」

 

 反論の隙を、矛盾を突くような問いで埋められる。

 

「……質問しているのは、俺の方だ。迅さん」

「そうだな。悪かったよ。でも、さっき言った通りだ」

 

 駄々を捏ねる子どもに言い聞かせるように、迅は言った。

 

「お前のサイドエフェクトは……」

「記憶封印措置で、我々が処置した。きみが入隊し、サイドエフェクトの存在が明らかになって、すぐのことだ」

 

 迅の言葉尻を奪う形で、城戸が言葉を繋いだ。

 

「だから、サイドエフェクトについてきみが覚えていないのは当然だ」

「信じられない」

「当然だ。きみの脳からは、自身の副作用の記憶と、それに関連する出来事の記憶が消えているのだから」

「……それに関連する、出来事?」

 

 机の上で手を組んだ城戸は、龍神の視線を無視するように目を閉じた。

 

「事の経緯を、順を追って説明しようか。我々がきみの『超過自己暗示』を記憶封印という形で処置したのは、自覚的にその力を使用するのが、きみにとっても危険だったからだ」

 

 声音にも、視線にも。一切の迷いはなく、

 

「話は、きみがボーダーに入隊した直後にまで遡る」

 

 城戸は、龍神の知らない『如月龍神』という隊員の記録を、語り始めた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 太刀川慶は、眠っていた。

 微睡みの中で、その声が聞こえた。

 

「なんだ? きみは?」

 

 気持ちよく寝ていたところだというのに、唯我がまた騒いでいる。

 

「その隊服、C級隊員か。きみはここがどこか分かっているのか? ボーダーのトップチーム! 頂点に輝く最強部隊! 太刀川隊の作戦室だぞ! きみのようなC級隊員が来る場所では……」

「うっせぇぞ! 唯我!」

「ぐぼおぁー!?」

 

 続けて響いたのは、何かが吹っ飛ぶような音。おそらく、出水が小煩い唯我に飛び蹴りでもかましたのだろう。

 

「いっ……いたい! ひどい! 何をするんですか!? 出水先輩!?」

「お前が新入りをいびってるからだろーが」

「そうそう。イジメはよくないぞ~」 

 

 剣呑な唯我の声音を、国近のゆるゆるとした声が中和する。

 

「で、お前はウチに何の用なんだ?」

「アレ? この子、出水くんの知り合いじゃなかったの?」

「違うよ、柚宇さん。ていうか、柚宇さんの知り合いじゃないわけ?」

「知らな~い」

「ほら見てください! やはり部外者じゃないですか!」

 

 来客だろうか? 珍しい。

 

「いや、でも太刀川さんの知り合いってパターンもあるのか……」

「こんなヤツが太刀川さんの知り合いなわけがないでしょう!」

「まあまあ。とりあえず中に入れてあげよう。話はそれからだよ。どうぞ~」

 

 誰かが入ってくる気配がする。

 

「あー、やっぱりお客さん来る前に一回片付けておけばよかったねー、唯我くん」

「お前がはやく片付けないからこうなるんだぞー、唯我」

「片付けるのはボクだけなんですかっ!?」

 

 たしかに。

 そろそろ片付けないと、また忍田に怒られてしまうかもしれない。

 

「太刀川さん! ほら起きて! 太刀川さん!」

「太刀川さん途中で寝落ちしちゃったからなー」

 

 うるさい。

 

「うっ……むっ……うぅん」

「あ、起きた」

「起きたな」

「起きましたね」

 

 大きく口を開けて、不足している空気を吸い込む。

 

「ふぁあ……ねっむ」

 

 欠伸と一緒に言葉を吐き出す。

 

「おはよー、太刀川さん」

「はよっす、太刀川さん」

「おはようございます! 太刀川さん!」

「国近、出水、唯我……お前ら元気だな……やっぱアレだわ。徹夜でゲームは十代までだわ。二十になるとキッツいわ」

「太刀川さんが昨日の夜、テンション上がり過ぎだったんですよ」

「ばか。俺はかわいい後輩に付き合って、頑張ってテンションを上げたんだ。……やべぇ、まだ眠いな。ちょっとコレはダメだ。俺はもう一眠りする。しばらくしたら起こせ」

 

 そう言って、もう一度布団に潜り込もうとする首筋を、

 

「だーめ」

 

 国近にがっちりと掴まれた。

 

「お客さんが来てるんだよ」

「ああ? 客?」

 

 仕方がないので、その来客とやらを見やる。

 

「ん……? お前は……」

 

 少年は震えていた。

 

「ようやく……ようやく、会うことができた……」

 

 腰を下げ、膝をつき、その少年はそのまま頭すら着きかねない勢いで、太刀川に向かって頭を下げた。

 

「お願いします! 太刀川さん! いや、師匠! どうか、どうかこの俺を、貴方の弟子にしてほしい!」

 

 国近も、出水も、唯我も、目を見張って驚いた。

 

「で、弟子入り志望!? 面白い子が来たね……」

「太刀川さんに弟子かぁ……つーか、もう師匠って言っちゃってるし」

「いきなり来て、弟子にしてくれなんて、コイツは何様ですか!?」

 

 床に手を付いたまま、少年は顔を上げる。

 

「失礼なのは、重々承知しています。ですが、ですがどうか! 考えて頂けないでしょうか!」

 

 そして再び、頭を下げる。

 いたって神妙な態度に、出水、国近、唯我の3人は困ったように顔を見合わせた。そして結局、全員がこちらの顔色を伺う。

 

「どうするの、太刀川さん?」

「引き受けるんですか? 太刀川さん」

「自分は反対です! 太刀川さん!」

 

 ただ一人。太刀川だけは、動揺もせず、口も開かず、静かに少年を見詰めていた。

 

「やだ。めんどくさい」

 

 ばっさりと、切り捨てる。

 それはもう、旋空弧月のように。

 

「……へ?」

 

 めんどくさいので、布団にくるまったまま、顔だけ出した状態で、少年を見下ろして言った。

 

「ていうか、お前誰だっけ?」

 

 少年は、まるで胸を撃ち抜かれたかのように顔を伏せ、目を見開き、そして、

 

「ふ……」

「ふ?」

「ふざけるなぁ!」

「うぬおぉ!?」

 

 足首に組み付いてきた。

 太刀川の体は、布団に全身をくるんだ状態である。そのバランスは机の上に立てたちくわのように繊細であり、足首に組みつかれてしまえば、そのバランスが崩れるのは自明の理だった。

 当然、倒れる。布団でぐるぐる巻きになっているので、手をつけない。故に、頭を強打する。

 

「ふぼぁ!?」

 

 痛い。

 

「あんなに! あんなにかっこよく俺のことを救っておいて! 俺のことを覚えていないだと!? ふざけるのも大概にしろっ! このっ……この、ヒゲ!」

「ああ!? ヒゲは関係ないだろ!?」

「決めたぞ! 俺は決めた!」

「なにを!?」

「あなたが俺を弟子と認めてくれるまで……俺はあなたから離れない!」

「ふざけんな! 離れろ! ていうか、弟子入り志望なら敬語使え!」

「わかりました! 離れません!」

「あーっ! くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「太刀川さん。太刀川さん、太刀川さんってば〜」

 

 耳元で囁くような声に、意識の覚醒を促される。

 

「ん……国近」

「ほら。起こしてって言ってた時間になったよ。なにか用事あるんでしょ?」

「おお。サンキュな」

 

 太刀川は緊急脱出用のベッドから起き上がって、大きく伸びをした。軽く肩を回して、身体をほぐす。

 欠伸は、出なかった。

 

「ん、よく寝たな」

「なんか夢みてた?」

「おお。よくわかったな」

 

 本当に、随分と懐かしい夢だった。

 目をこする太刀川を見て、くすくすと国近は笑う。

 

「寝言言ってたよ」

「げ……なんて言ってた、俺?」

「ふふふ~。教えない~」

「なんだよ……」

 

 いたずらっぽい口調からは隊長を敬う心が微塵も感じられなかったが、太刀川隊のオペレーターはいつもこんな調子である。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「はいは~い。でも太刀川さん、何の用事なの? また個人戦?」

「あー、そうだな」

 

 個人戦といえば、個人戦かもしれない。

 トリガーを起動し、太刀川の姿が変わる。ゆったりとした室内用の私服から、黒のロングコートに。

 

「ちょっと、宿命の対決をしてくる」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「そもそも、警戒区域に無断で侵入したきみは、ボーダーに入隊することなく、記憶封印措置を施され、普通の生活に戻るはずだった」

 

 近界民に関連する情報を秘匿するために、もしくは近界民を目撃したトラウマを緩和するために、ボーダーは一般市民に対して記憶封印措置を施すことがある。

 

「しかし、例外は存在する。救出対象が優れたトリオン能力を持っている場合は、隊員としてスカウトを行う。そして、もう一つ……」

「例えば、おれがその素性を()()()()()()して、将来ボーダーに有益な隊員になると判断した時。そういうケースの時は、もっと積極的にボーダーに引き入れる」

 

 近い将来、組織にとって役立つ人間を見つけて加入させる。なるほど。たしかにそれは、迅悠一にしかできないことだった。

 

「龍神。お前は前者でもあったし、後者でもあった。優れたトリオン能力を持っていたし、ボーダーにとってプラスの存在になってくれる未来も視えた」

「……だが、俺が助けられたのは、迅さんではなく太刀川だ! 三雲や緑川のように迅さんが直接俺を救ってくれたのならともかく……それでは筋が通らない!」

「うん、そう。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、おれには視えてたからね」

「は……?」

「だから、前提がちょっと遅いんだよ、龍神」

 

 まるで簡単な手品の種を明かすように、迅は手のひらを開いた。

 

「おれは、太刀川さんが助けたお前を視て、ボーダーに引き入れたんじゃない。街を歩いているお前を偶然見かけて……『警戒区域に無断で侵入して、トリオン兵に襲われる未来』が、最初から視えていたんだ」

 

 龍神が命の危険に晒されることも、最初から織り込み済みだった。

 迅は、そう言っていた。

 

「だからさ。トリオン兵に襲われて、太刀川さんに助けてもらって……それがきっかけでボーダーに入るお前の未来を視て、思ったんだ」

 

 にっ、と。迅は笑う。

 

 

 

「ああ、これは使えるって」

 

 

 

 背筋が凍る。

 喉が乾く。

 絞りだそうとした声は、結局そのまま飲み込んだ。

 助けているつもりでいた。

 力になっているつもりでいた。

 龍神は、迅悠一という人間を、今の今まで心の底から信頼していた。未来視という特別な力を一人で背負う迅に憧れに近い共感を抱き、良き理解者であるつもりでいた。

 

 けれど……あるいは、その感情すらも。最初から最後まで、より良い未来のために利用されていたとしたら? 

 

 吐きそうだ。

 

 腹の底から湧き出てくる感情は、理解や共感とは真逆のもので。

 

 気持ち悪い。

 

 最初から最後まで、手のひらの上で思うがままに踊らされているかのような。何もかもを自由に操られているかのような。

 拭いようのない、生理的嫌悪。

 一度自覚したそれが、泥のように心にまとわりついた。

 

「……実際に、迅の言葉通り。きみの入隊でボーダーの未来は大きく変わった」

「お前という存在がいてくれることで、色々な隊員に良い変化があった。本来はもっと大きな被害が出るはずだった大規模侵攻も、おれが視た中で最小限の被害で抑えられた」

 

 最初から、迅悠一には全て視えていた。

 視えていたから、その通りに……理想の未来に辿り着けるように、動かされていたのか。

 違う。

 違う。

 それは、違う。

 龍神がボーダーに入隊したのは、自分の意志だ。自分自身で決めたことだ。それは決して、最初から決められていたから……そのようになることが、決まっていたからではない。

 龍神が自分で、決めたことだ。

 

「ありがとう。龍神。お前がいてくれたおかげで……」

「関係ない! 俺は、俺が目指すもののために、ボーダーに入隊した! そのために積み重ねてきた研鑽も! 積み上げてきた交友も! 全て俺自身がそう在りたいと願った結果だ!」

「うん。そうだよ」

 

 意外なほどあっさりと。

 迅は龍神の言葉を首肯した。

 

「それは、本当にその通りだ。今、ここに在る結果はお前の努力と……お前の『サイドエフェクト』があったからだ」

 

 肯定されたことで、龍神の中のそれは揺らいだ。

 

「サイドエフェクトが、あったから?」

「ああ。自分でも不思議に思わなかったか? トリガーの習得の早さ。特にほら、戦闘中に『必殺技を叫ぶ』なんて馬鹿なことをして、どうして集中できるのか、とかさ」

 

 一つ、また一つ。

 

「自分の成長が早すぎる、っていうのは……まあ、自分自身じゃわからないよな。でも、木虎と同期で入ってきて、ものすごいスピードで成長していったお前の実力とセンスは、ボーダーの中でも明らかに異常だったんだよ。それが、努力の一言では片付けられないくらいに。おれが渡した『ガイスト』だってそうだ。普通なら、あんなに早く使いこなせるようになるわけがない」

 

 これまでの全てを、その理由を、丁寧に迅悠一は埋めていく。

 

「アフトクラトルの……あのおじいちゃんなんかは、気付いていたみたいだけど」

 

 一つずつ、確実に。潰していく。

 

「断言するよ。お前の強さは、そのサイドエフェクト……『超過自己暗示』があったからだ」

 

 積み上げてきたものが、砕かれる音がした。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 如月龍神は、とてもめんどくさい後輩だった。

 この場合の『めんどくさい』とは、諦めが悪いことを意味する。

 

「太刀川さん! 俺を弟子にしてくださいっ!」

「断る」

 

 次の日も、

 

「太刀川さん! 技を教えてくださいっ!」

「帰れ」

 

 また次の日も、

 

「太刀川さん! 今日は何を教えてくれるんですか!」

「餅の焼き方なら教えてやるよ」

「ありがとうございます!」

「いやこっちくんな」

 

 そのまた次の日も、

 

「太刀川さん! おはようございます!」

「普通にあいさつしてくるのやめろ」

「今日の修行は?」

「……お前さぁ、レポートって書ける?」

 

「ちょっとちょっとダメですよ太刀川さん!」

 

 太刀川に弟子入りを願う龍神は毎日のように……というか実際に、毎日太刀川隊の作戦室を訪れ、入り浸るようになっていった。如月龍神という少年は、一度弟子入りを断った程度で諦めるような性格ではなく、その無駄にしぶとい性質を、太刀川は日が経つにつれて、理解はしたくはなかったが把握できるようになった。

 

「お前さぁ、なんでそんなに俺の弟子になりたがるわけ?」

「太刀川さんに助けてもらったからです!」

「いや、それは最初も聞いたけどさ。ボーダー隊員はトリオン兵から人を助けて当然なんだよ。だから、お前を助けたのはなんていうか、こう……ボーダー隊員としての義務? みたいなもんであってだな。つまり、そう、なんだ……あー、要するにアレだ、俺に対して過剰に恩義を感じる必要はないんだぞ」

「太刀川さん……恩義なんて言葉使えたんですね。流石です」

「ぶっとばすぞお前」

 

 すっかり当たり前のように作戦室に上がり込むようになった龍神は、焼きあがった餅に器用にのりを巻き付けて頬張り、よく噛んで飲み込んでから笑った。

 

「俺が太刀川さんの弟子になりたいのは、助けてもらった恩を返したいからではありません」

「え、なにそうなの?」

「はい。俺が太刀川さんの弟子になりたいのは……あの時、俺を助けてくれた太刀川さんが、かっこよかったからです」

 

 馬鹿みたいにきらきらした目で、こちらを見ながら。

 あなたに憧れている、と正面から言われるのは、太刀川にとってもはじめての経験だった。

 

 

「俺は、太刀川さんみたいにかっこいいボーダー隊員になりたいんです!」

 

 

 目の前の少年を、太刀川はあらためて見詰める。

 諦めは悪く、根性がある。

 明らかに筋が良く、この数日の間にもポイントを着実に伸ばしている。

 正直、興味が引かれないと言えば嘘だった。

 

「……お前、俺の大好物知ってるか?」

「は? 餅では?」

「ちげぇよバァカ。いや、餅は好きだけどな? それは好物。今してるのは、大好物の話だ」

 

 迅悠一が『風刃』を持つようになって、個人戦に張り合いがなくなって。小南や風間と戦り合っていても、心のどこかで感じる乾きは満たされなくて。

 

 けれど、

 

 

「俺の大好物はな。気合いの乗った熱い勝負だ」

 

 

 もしも、

 

「お前は、俺みたいになるんじゃない。()()()()()ようになれ」

 

 コイツが成長して、自分以上に強くなったとしたら? 

 

「それは……つまり」

「ああ。弟子にしてやるよ」

 

 その一言を聞いた瞬間の、龍神の表情。

 喜色満面、という表現が相応しい、燃えるような深い笑みは、太刀川に確信を抱かせるには充分だった。

 

「ただし、俺より強くなること。それが、お前の師匠になる条件だ」

 

 コイツは、強くなる。

 間違いなく、強くなる。

 俺よりも強くなるかもしれない……いや、強くしなければならない。

 ああ、これかもしれない、と。太刀川は思った。

 今の自分に、足りないもの。迅がいなくなったボーダー本部で、できることは……

 

 自分と、気合いの乗った熱い勝負ができる隊員を、最後まで育て上げることだ。

 

 失ってしまった熱は取り戻せない。太刀川はもう、昔のように迅と刃を交えることはできない。過去は取り戻せない。

 だが、未来に賭けることはできる。

 少なくとも、目の前で眩しいほどに輝いている情熱は、今の自分にはないもので、

 

「っ……はい! よろしくお願いします! 師匠!」

「おう。よろしくな、バカ弟子」

「はい! 師匠!」

「……恥ずかしいから、師匠って呼ぶのはやめろ。あと、お前が俺の弟子ってことは太刀川隊のヤツ以外には秘密な」

「わかりました、師匠!」

「わかってないだろバカ」

 

 太刀川慶は、この日。たしかに如月龍神を弟子として迎え入れた。

 いつか自分を倒してくれるかもしれない『好敵手(ライバル)』として。

 

 

 龍神の副作用(サイドエフェクト)が明らかになったのは、その数日後のことだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「よう。如月」

 

 扉を開け、無遠慮に押し入る。

 今にも泣き出しそうな……情けない面構えの『かつての弟子』に向かって、太刀川慶は言い放った。

 

「おもしろそうな話してるな」




黒トリガー争奪戦で、
「やれやれ……面倒だな。俺も予知能力が欲しい」
「そんないいことばっかじゃないぞ、サイドエフェクトも」
って迅が言ってたのは、わりとそれなりの実感があったりしたわけで

アニメ期間中になるべく更新続けられるようにがんばります


次回『太刀川 慶①』
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