厨二なボーダー隊員   作:龍流

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アニメのヨーコちゃん……かわいい(発作)
超必殺技のような弧月や、ぐりぐりガンガン動くガロプラ戦や、とうとう下からの螺旋射撃だったことが判明した那須熊嵐など、アニメワールドトリガーは本当に最高ですね、ええ。
ヨーコちゃんに罵られたい……華さんに怒られたい。みなさんもそう思ったことでしょう。
23巻も発売されましたね。単行本派のみなさんは新情報の嵐に頭を破壊され、忍田瑠花のかわいさにハートを破壊され、那須隊のあまりのエモさに心がメテオラされたと思います。作者は23巻を2万回読みました。

草壁隊長とマキリッサが気になって夜しか眠れませんが、更新ペース上げていきたいと思います。


『太刀川 慶①』

「太刀川……?」

「おう」

 

 ノックもせずに入室してきた太刀川慶は、最初に龍神を、次に迅を、最後に城戸を見て、どこか納得したように頷いた。

 

「あー、はいはい。そういう感じね」

 

 そして、気怠そうな視線が龍神に戻る。

 

「ひどいツラしてるな、如月」

「なんだと……?」

 

 突然現れたライバルに突然そんなことを言われて、黙っている龍神ではない。すぐさま言い返そうとした開きかけた口を、しかし今日に限っては太刀川が手で制した。

 

「聞いたんだろ。お前のサイドエフェクトのこと」

「……どうしてそれを」

「どうしても何も、太刀川隊のメンバーは全員知ってる」

「なに……?」

「ちょっと太刀川さん。まだ説明してる途中なんだから、話をややこしくしないでくれる?」

 

 形だけは困っている風に、迅はわざとらしく肩をすくめた。

 

「知るか。そもそも、俺をここに呼んだのはお前だ」

「まあ、それはそうなんだけど……」

「どういうことだ、迅さん!」

 

 いつも通りに飄々と会話する二人が、どこまでも癪に障って。気がつけば、龍神は声を張り上げていた。

 

「なぜ太刀川をここに呼んだ!? 俺のサイドエフェクトと太刀川に、何の関係がある!?」

「ほら、もう……ややこしくなったじゃん」

「お前と城戸司令の説明がまどろっこしいだけだろ」

 

 龍神の怒声だけはいつものように聞き流して、太刀川は会議室のデスクに腰を落ち着けた。

 

「迅。如月にどこまで話したんだ?」

「サイドエフェクトのことまで」

「なるほど。じゃあ、まだ本題には入ってないわけだ」

 

 太刀川は片手で自分のトリガーを弄びながら、癖のある笑みを龍神に向けた。

 

「如月。お前は忘れてるかもしれんが、俺はお前を弟子にしてたことがある」

「……は?」

 

 困惑が、漏れ出る。

 今までで最も、間の抜けた声を出してしまった自覚が、龍神にはあった。

 

「俺が……太刀川の、弟子?」

「弟子じゃねぇよ。弟子だった、だ。そこんところ間違えるな、バカ」

「ふ……ふざけるな! そんなことがあるわけ……」

「そう思うよな。まあ、仕方ない。どうせ、これもお前は忘れてるんだから」

 

 記憶喪失ってのはつらいな、と。太刀川はまるで他人事のように煽ってみせた。

 

「……くっ」

 

 自分がサイドエフェクトを持っていたことも。

 自分が太刀川の弟子だったことも。

 そして、それら全てを記憶封印措置で忘れてしまっていることも。

 何もかも、龍神は信じられなかった。

 だが、動揺したままでは何も前に進めない。

 

「……仮に、俺がお前の『弟子だったことがある』として」

 

 わからないことがあるなら、聞くしかない。

 

「俺の記憶から、その事実を消去した理由はなんだ? そもそも、なぜ俺からサイドエフェクトの記憶を消した? 影浦さんのように、個人にとってサイドエフェクトがマイナスに働くことがあったとしても……ボーダーという組織にとっては、サイドエフェクトを所持している隊員の存在は、必ずプラスに繋がるはずだ」

 

 現状、自分が理解できる事実をまとめた上で発した、静かな問いかけ。

 それは、今の龍神にできる精一杯の抵抗だった。

 太刀川が少し意外そうな顔をする。

 

「……へえ。そういうところで回す頭は残ってんだな。少し安心したぜ」

「太刀川」

「そんなに怒らないでくださいよ、城戸さん。俺が言わなくても、城戸さんか迅が話してたでしょ?」

「じゃあ、龍神の質問には俺から答えようか」

 

 乱入してきた太刀川から、迅が会話の主導権を取り上げる。

 

「よく聞け、龍神。お前のサイドエフェクト……超過自己暗示は、自分がイメージした事柄を、極めて正確に、身体に対してリアルタイムでフィードバックするサイドエフェクトだ」

 

 想像力。言い換えて、イメージをリアルにする力。

 それは、トリオン体とトリガーの操作において、大きな意味を持つ。

 

「身体能力が大幅に向上するトリオン体は、普通の人間の体にはできないことができる」

 

 普通なら怪我をしてしまうようなビルの上から、飛び降りて着地する。あるいは逆に、地面から跳躍して、屋根の上に飛び乗る。

 ボーダー隊員なら当たり前のように行えるこの動作に、しかし最初の段階で困惑してしまう訓練生は意外と多い。

 ビルの上から飛び降りて、怪我をしない肉体。地面から屋根まで、一気に跳躍できる脚力。そんなスーパーマンのように変化した己の肉体が、イメージできないからだ。

 だから最初のうちは、トリオン体の操作の感覚に慣れることに専念する。逆に言えば、入隊後最初の模擬戦闘で高い記録を叩き出せる人間は、はじめからトリオン体を操作するセンスに優れている、ということだ。

 

「生身の肉体を動かす感覚とセンスは、そのままトリオン体の操作にも活かされる。トリオン体のスペックは一律だけど、人によって動きに差がでるのは、これが理由だ」

 

 レイジさんがよく言ってるよな、と。そこだけ迅は、普段のように笑った。

 

「……サイドエフェクトの影響でイメージする力が高い俺は、トリオン体の操作に優れている、と?」

「ざっくりまとめると、そういうこと」

 

 たしかに、迅の説明に不明瞭な部分はない。話の辻褄そのものは合っている。

 菊地原が自分の強化聴覚を「言わなければ気づけなかった、大したことのないサイドエフェクト」と言っていたように、龍神の『超過自己暗示』も、そこまで珍しい能力ではないように思える。

 

 むしろ……

 

()()()()()()()、って思っただろ」

 

 龍神の内心を見透かしたように、太刀川が言う。

 

「俺も最初はそう思ってたよ」

「……最初は?」

 

 含みある太刀川の物言いに、龍神は目を細めた。

 

「お前がさっき、くまちゃんを斬れなかったのは……お前の中で『くまちゃんを斬らない方がいい』っていう、迷いと思い込みがあったからだ」

 

 サイドエフェクトは、副作用。

 戦闘においてプラスに働くことも多いこの能力は、しかしその名の通り、決してメリットばかりではない。

 

「イメージを現実にする力。けど、それは言い換えれば……想像したことを()()()()()()()()を超えて、思い込みだけでやってしまおうとする、ってことだ」

 

 デメリットも、ある。

 人によっては、あるいはその能力によっては、日常生活に支障をきたすほどの……強烈な『副作用』を伴うことがある。

 

「サイドエフェクト『超過自己暗示』のなによりも厄介な点は……自分でその力をコントロールできない点にある」

「だから、封印した」

 

 静かに、城戸が呟く。

 

「先ほど、どうして太刀川をここに呼んだのか、と。きみはそう質問したな、如月隊員」

 

 理由は、これ以上ないほど単純だ。

 

「最初にきみのサイドエフェクトと対峙し、その危険性を上層部に報告したのが……そこにいる太刀川だからだ」

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

「太刀川さぁああん!」

 

 太刀川隊の作戦室に、今日も騒がしい挨拶が響き渡る。

 

「うるせえ」

 

 如月龍神が太刀川慶に弟子入りして、はや数日。

 龍神は太刀川の技術を目覚ましいスピードで吸収しており、その成長は留まることを知らなかった。

 

「おー、龍神くん、今日も元気だね~。どうかねどうかね~、太刀川さんだけでなく、わたしとも一戦交えるというのは」

「ふっ……おもしろい。俺は弧月だけでなくコントローラー捌きも超一流。それを見せつけてやろう」

「ふん……僕は今でも反対ですよ。こんな部外者を作戦室に招き入れるなんて、そもそも……」

「レーシングと格ゲーだったらどっちがいい?」

「格ゲーで」

「僕の話を聞けぇ!?」

「ちーっす……って、おい龍神! お前、おれより先に作戦室来るなよ~。つうか、帰り一緒に行けばいいだろうが」

「すまない。今日も太刀川さんに稽古をつけて貰えると思うと、逸る気持ちが抑えられなくてな……」

「お前今、思いっきりゲームしようとしてなかった?」

 

 太刀川隊の面々も今やすっかり龍神の独特なテンションに馴染み……学校が同じ出水とは良い友人関係を築き始め、国近とは休憩時間にゲームに興じ、唯我は適当にあしらっていた。元より、ベランダで死にかけのセミの存在感に負けるのが唯我なので、仕方ないといえば仕方ない。

 

「太刀川さん、よかったすね。ちゃんと師匠できてるじゃないですか」

「そうか? 俺は普通に教えてるだけだけどな。そこのバカが勝手に尊敬してくるだけだ」

「またまたそんなこと言って~。ほんとは弟子ができてまんざらじゃないくせに~」

「ふん……僕はどうかと思いますけどね。仮にもA級1位部隊の隊長が、こんな訓練生に時間を割くなんて……」

「でもコイツ、多分もう唯我より強いぞ」

「なっ……そんな馬鹿な!?」

「そりゃ当たり前だろ。俺が唯我より弱いやつを弟子にするわけがない。はっはっは」

「遠回しな名誉棄損だ!? そもそも僕の実力は個人ではなくチーム戦で……」

「そんなことより聞いてください太刀川さん!」

「だから遮るなぁ!?」

 

 唯我の発言はすかさず邪魔しつつ、龍神は前に出た。

 

「昨日はフリーの個人戦で弓場さんと戦ってきました!」

「おー、もう弓場と戦ったのか。あいつ、いいだろ。強くて」

「はい! 二丁拳銃から繰り出される早撃ちは凄まじいの一言で……ボコボコにやられました! なので、勝つために何かアドバイスをください!」

「撃たれる前に斬れ」

「なるほど……」

 

 すかさず懐から革のメモ帳と万年筆と取り出し、さらさらとメモする龍神。出水はそれを見て、首を振った。

 

「いやいやいや。なるほどじゃねぇだろ。太刀川さん、もうちょっと何かいいアドバイスないんすか?」

「そうは言ってもなぁ……俺の指導はいつもこんな感じだぞ?」

「マジか龍神」

「マジだぞ出水」

「お前、大丈夫か? 太刀川さんのふわふわした指導には疑問を抱いた方がいいぞ」

「ふわふわってなんだ」

「ふっ……心配は無用だ、出水。良い弟子というものは、師匠に教えを乞う時、いちいち説明を求めないもの。師匠の技術を見て覚え、師匠の背中を見てその在り方を学ぶものだ。俺が良い弟子である限り、太刀川さんは俺にとって常に最高の師匠だ」

「らしいぞ出水」

「らしいぞ、じゃないんですよ太刀川さん」

 

 太刀川はべつに、何かを人に教えることが上手いわけではない。

 むしろ、勉強などでは常に教えを乞う側で、大学のレポートも頻繫に人に手伝ってもらう始末。むしろ、効率的に戦闘の技術を教えられるわけがない。

 なのでこの数日、太刀川はひたすら龍神を斬って斬って斬りまくり、斬ったあとに「今のは動きはよかったぞ」「今のはダメだ」「もっとちゃんと動け」「さっきの技名ちょっとかっこいいな」などと、ふわふわしたアドバイスを繰り返すことによって龍神を順調に育成していた。というか、これで順調にすくすくと育っている龍神が明らかに異常だった。

 

「まあ、龍神の物覚えがいいのは、それはそれで良いことなんですけど……」

「まかせろ、出水。チーム単位での戦術を教える段階になったら、蓮か東さんにでも放り投げる」

「他力本願じゃないですか」

「東さん?」

「あー、A級一位だったヤバい人だ。最初の狙撃手でもある」

「ほう……はじまりの狙撃手……それはいいな。ぜひお会いしたい」

「ボーダーじゃ、横の繋がりを広げていくことも大事だからな。けど、龍神。お前、明日は何か検査があるんじゃなかったか?」

「む、そういえばそうだった」

「検査ぁ?」

 

 太刀川が素っ頓狂な声をあげて、ニヤニヤと笑う。

 

「如月、お前どっか悪いのか? バカのくせに風邪とかひくのか?」

「太刀川さん。それ龍神以外の人に言っちゃダメですよ」

「なんでだよ」

「多分二宮さんとかがめちゃくちゃバカにしてくるから……心の中で」

「そこは言葉に出せよ」

「いえ。俺は小学校から中学にかけて皆勤賞の健康体ですが」

「流石は俺の弟子だな、如月。俺もボーダーに入ってから風邪をひいたことはない」

「太刀川さん、さっきの自分の発言覚えてます?」

 

 馬鹿は風邪をひかない。

 

「もしかしたら龍神くん、サイドエフェクトがあるんじゃない~?」

「サイドエフェクト?」

 

 間延びした国近の声に、龍神が首を傾げる。

 

「サイドエフェクトっていうのは、アレだ。要するに特殊能力だ」

「特殊能力!」

「説明が雑なんだよなぁ……もうちょい詳しく言うと、高いトリオン能力を持っているやつが極稀に発現する……お前が好きそうな言い方をするなら、選ばれし者だけの特別な力ってやつ?」

「選ばれし者! 特別な力!」

 

 心躍るキーワードの数々に、龍神のテンションが目に見えて一段上がる。

 

「それは実に素晴らしいな……胸の高鳴りが抑えられそうにない」

「いや、そうは言っても滅多に見つかるもんじゃないからな?」

「そうだそうだ。期待はほどほどにしとけ」

 

 

 

 

 

 

「太刀川さぁあああああん!」

 

 翌日。龍神がまた勢い良く太刀川隊作戦室の扉を開いた。

 

「うるせぇ」

「ありました! ありましたよ俺にも!」

「何が?」

「サイドエフェクトが!」

 

 ソファーに寝そべっていた煎餅をかじっていた太刀川は、そのままあんぐりと口を開けて固まった。

 忙しなくボタンを叩き、スティックを倒していた国近の指の動きが止まり、画面で元気良く動いていた黄色いネズミが吹っ飛んだ。

 唯我はアホ面を晒し、言葉もなく停止した。

 ようやく聞き返したのは、出水だった。

 

「……マジで?」

「ああ! マジだっ!」

 

 それはもうとても嬉しそうに診断書を見せつけてくる龍神を見詰めて、数秒。食べかけの煎餅を口に入れ、バリバリと噛み砕いた太刀川は……ソファから勢い良く立ち上がり、叫んだ。

 

「はっはっあ! 最高だなぁ、如月!」

 

 ソファーから勢い良く起き上がった太刀川は、そのままの勢いで龍神に近づき、両手で肩を掴んだ。いつもやる気のない瞳は爛々と輝いて、喜色満面の笑みでいっぱいになっている。

 

「サイドエフェクトがあるってことは、つまり……これから先、お前はもっともっと強くなるってことだろ?」

「もちろんです! 元より、そんな力に頼らずとも俺は進化を止める気はありませんでしたが……ふっ、やはり俺は選ばれしもの、ということですね」

「ああ! いいぞいいぞ! 今のままでも充分だったが、こりゃますます楽しくなってきた!」

 

 天羽月彦然り。影浦雅人然り。そしてなによりも、迅悠一の存在が、サイドエフェクト所有者の強さを、如実に証明している。

 龍神と同じように……いや、下手をすれば龍神以上にサイドエフェクトの発現を喜んでいるように見える太刀川を見て、出水と国近は黙って顔を見合わせた。

 

「……いやぁ、おもしろいねえ、出水くん。最近の太刀川さん、すっごく楽しそうだよ」

「……そうっすね、柚宇さん。龍神も相当なバカ弟子ですけど……こりゃ太刀川さんも、相当のバカ師匠ですよ」

 

 部下達に生暖かい目で見られていることにも気付かず、浮かれる太刀川は龍神に先を促した。

 

「それでそれで? お前のサイドエフェクト、どんな能力だったんだ? 名前は?」

「あー、それがなんでも、診察される側もはじめて見る珍しいタイプらしく……しかし、名前はつけてもらいました!」

 

 自信満々で、龍神は声高に宣言する。

 

「なんでも、俺のサイドエフェクトは『強化自己暗示』というらしいです!」

「強化……じこあんじ? はっは! よくわかんねえけど、とりあえず十本やるか!」

「はい!」

 

 テーブルの上に置いてあったトリガーを手に取り、いつものように太刀川は国近に声をかけた。

 

「国近! 訓練室!」

「はいは~い」

 

 龍神も太刀川に倣ってトリガーを起動し、訓練室に移動する。

 太刀川が普段、龍神の相手をしているのは、市街地をモデルにした訓練ステージだ。ランク戦用ステージほどの広さはないが、タイマン勝負で……しかも近距離でバリバリと斬りあうには、充分過ぎるステージである。

 

「さて、と」

 

 腰から弧月を抜き放ち、太刀川はその刀身を肩にのせた。

 

「ま、サイドエフェクトがあろうがなかろうが、やることは普段と変わらん。いつも通りかかってこい」

「はいっ!」

 

 自然体で立つ太刀川とは対照的に、全身に力を漲らせた龍神は抜いた弧月を正眼で構え、叫んだ。

 

「いきますっ!」

「おう」

 

 踏み込みから、大上段の振り下ろし。勢いが鋭いそれを、太刀川は弧月の峰に手を添えて正面から受け止める。

 斬撃の打ち込みには龍神の愚直さが滲み出ていて、勢いも狙いも悪くはないが、如何せんまだ粗い。攻撃のパターンが一直線過ぎる、というか。馬鹿正直過ぎる、というか。

 

(この馬鹿にサイドエフェクトがあったのは嬉しいが……急に何かが変わるわけでもないか)

 

 一気に引き上がったテンションが、戦闘を通した冷静な思考を伴って少しずつ冷めていくのを、太刀川は感じた。とはいえ、それは龍神に対して白けたとか、期待外れだったとか、そういった心の動きではない。むしろ、これからどう鍛えていくか、という楽しみで胸はいっぱいだ。落ち着いて考える余裕が生まれた、とも言える。

 

(どうすっかなあ……今までみたいに適当に模擬戦するだけじゃ、ダメだよなぁ。とりあえずちゃんとサイドエフェクトの詳細を聞いて……こういうのって誰に聞けばいいんだ? やっぱ鬼怒田さんか?)

 

 これから先、己の弟子をどう鍛えていくか。柄にもなく頭を働かせる。

 だから、というわけではないが。

 

 

「……あ?」

 

 

 反応が、遅れた。

 龍神の体が、目の前で沈み込む。振り下ろしと横薙ぎ、それに突き。これまでは精々3パターン程度しかなかった斬撃の種類が明確に変化する。

 思考の片手間に緩く振っていたとはいえ、太刀川の弧月を体捌きだけで避け……潜り込んだ下からの一閃は、それまでとは比較にならない殺気めいた何かを孕んでおり、

 

「っ……!?」

 

 事実。弧月を握る太刀川の右腕は、龍神の弧月に両断された。

 切断された肘から先に、瞳を見開く。思考が止まる。反射だけで、体が動く。

 気付いた時には、腰からもう一振りの弧月を引き抜き、太刀川は龍神を斬り伏せていた。

 

『如月、ダウン』

『ダウン……だけど、おいおいやるな! 今、太刀川さんから片腕取ったじゃねえか!』

 

 通信を通して、国近と出水の浮ついた声が訓練室に響く。

 

『ていうか太刀川さん、ダメでしょ! 龍神は弧月一本しかないのに、左手の弧月抜いたら!』

「……おう。そうだな」

 

 信じられない面持ちで、太刀川は切断された右腕を見る。訓練モードの仕様で、綺麗な切断面はすぐに塞がり、腕は元通りに回復した。同時に、胴体を両断されて倒れ込んでいた龍神も、勢いよく立ち上がる。

 

「あーっ! くそ! 今のは倒せたと思ったのに!」

 

 何故だ? 

 

 太刀川は、悔しがって拳を握りしめる弟子を、まじまじと見詰める。

 

 何故、今。俺の右腕は斬られた? 

 

「太刀川さん! 太刀川さん! 今の一撃はどうでしたか? 倒すことは叶いませんでしたが、はじめて太刀川さんから腕をもぎ取ることに成功しましたよ!」

「……そうだな。今のはいい。かなりよかった」

「ありがとうございます!」

 

 口ではそう褒めながら、けれど頭の中に浮かぶのは疑問だけだ。

 昨日までの龍神に、あんな動きはなかった。昨日の今日で、あんな動きができるわけがない。

 

「如月、お前……俺の見てないとこで何か特別な練習でもやったか?」

「いいえ? もちろん、俺は太刀川さんの見ていないところでも、訓練に励んでいますが、特別なことは何も」

「……今の踏み込みからの、切り上げ。どうやった?」

「どうやった、と言われても……理屈なんてありませんよ。ただ単に、できると思ったからやっただけで」

「できると思ったから?」

「はい!」

 

 勢い良く頷く龍神に対して、問うべきことはいくらでもあった。

 疑問。疑念。疑うべきは、いくらでもあった。

 ただの訓練生が、攻撃手ランキング1位の男から、腕を取れるわけがない。今、目の前にいる弟子は、普段とは異なる熱を帯びていて、どこか様子がおかしくて。それを師匠である太刀川は止めるべきだった。

 

「さあ、続きをやりましょう! 太刀川さん!」

 

 止めるべき、だったのに。

 

 

 

「今日の俺なら、太刀川さんに勝てる気がします!」

 

 

 

 胸の内から溢れる熱い高揚感が、太刀川の理性を押し流した。

 

 自分に勝つ。

 

 その一言は、太刀川にとってあまりにも甘美で、あまりにも魅力的で。

 その一言を、その思い込みを、この弟子なら本当に現実にしてしまいそうな気がして。

 

「……そうだな。もっとやろう」

 

 故に。太刀川慶は、誘惑に溺れた。

 

「はい! 俺が……『太刀川さんを倒します』」

 

 そして、如月龍神の世界は変わる。




次回『CHANGE THE NEW WORLD』
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