厨二なボーダー隊員   作:龍流

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ボーイミーツガール杯という企画に、こっそり参加させて頂いておりました。2作ほど投稿してるので、よろしければそちらも是非

サンリオコラボで嵐山がキティはもう広報部隊として強すぎると思うんですよね。


『ヒーロー』

「え、もしかしてこれシリアスな話する流れ? イコさんおらん方がええパターン?」

「……」

「えーっと」

 

 如月龍神はなんとも言えない顔で押し黙り、三雲修は冷や汗をかいていた。これぞ生駒達人。これこそが生駒達人である。

 

「ほな、俺はおいとましよか」

 

 とはいえ、生駒もまったく空気が読めない男、というわけではない。龍神と修の醸し出すただならぬ雰囲気を察して、生駒は後ろへと下がった。修をカメラ目線でガン見したまま、ムーンウォークで離れていく。もちろん、生駒達人はジャクソンではないのでムーンウォークはできていない。ただの後ろ歩きである。

 

「すいません生駒先輩。如月先輩を探すのを手伝ってもらったのに……」

「ああ、それはかまへんかまへん。どうせナスカレー食べるついでやったし。でもメガネくん、一つだけええか?」

「は、はい」

 

 生駒の真剣で真摯な真顔に、修は背筋を伸ばした。

 

「メガネくんのとこに、ちっちゃいけどトリオンすごい子おるやん? 雨取ちゃんやっけ?」

「えっと、はい」

「あの子、めっちゃかわいいな!」

 

 修はとても重要なことに気がついた。

 これ違う。この人、いつも真顔なだけだ。

 

「あ、ありがとうございます」

「もらってもええ?」

「いやそれはダメです」

 

 思っていたより素早い修の切り返しに、生駒はうんうんと頷いた。

 

「じゃあ、俺はもう行くわ」

「ああ。イコさん、ちゃんと前見て歩いた方がいいぞ」

「ジャクソンかっこええやん? あ、香取ちゃんのとこのろっくんのことやないで。いや、ろっくんもイケメンやとは思うけど」

「おれは王子さんじゃないからそれはわかる。あと、前を見て歩いた方がいいぞ」

「ほな、二人とも気をつけてな」

「イコさんが気をつけた方がいいぞ。あと、前を見て歩け」

「そういえば龍神、迅とケンカしたん?」

「イコさん、前を見て……え?」

 

 それは、完全な不意打ち。

 生駒の口から出てくるとは思っていなかった名前に、龍神は息を呑んだ。

 

「……どうしてそう思うんだ?」

「いや、なんとなく。男の勘。強いて言えば、迅がなんか浮かない顔してて、お前も冴えない顔しとったから」

「勘、か。大したものだ」

「まあ、おれはべつに関係ないから。へんに首ツッコむ気もないけど」

 

 やはり真顔のまま、生駒は言った。

 

「またやろな、個人戦」

「……はい」

 

 深く頭を下げて、龍神は生駒を見送った。

 生駒は最後まで、ムーンウォークしながら心配そうにこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

「それで、どうして俺を探していたんだ?」

「最初に気がついて連絡してきたのは、千佳だったんです」

「雨取が?」

「はい」

 

 意外な名前が出てきて、龍神は驚いた。

 今日はいろいろな人と会って話をしたが、千佳と顔を合わせて話をした時間は極めて短い。その会話の内容を、龍神は思い出そうとして、

 

「ウチのバカたちももっと強くなる。勝負だな、って。千佳は、如月先輩が『俺達も』と、言わなかったのが、少し引っ掛かったみたいで……」

 

 答え合わせは、修の方からしてくれた。

 なるほど、と思う。というより、なるほどと思わされた、と言うべきか。己の発言を、自分らしくないと相手から指摘されるのもおかしな話だが、そこに納得があった時点で、自分の負けだな、と。龍神は苦笑いを浮かべた。

 

「ぼくも、如月先輩らしくないと感じました」

 

 トドメに、弟子から補足が入る。

 

「ふっ……俺らしくない、か」

「そうそう。だから、それを気にした修がおれたちに声かけて、たつみ先輩を探してたってわけ」

 

 新たに割って入ってきた声に、龍神は視線を横に向けた。

 

「……空閑」

「どうもどうも、たつみ先輩」

 

 ちびっこい白頭が、ひょっこりと顔を出す。

 空閑遊真は、修の横に並びながら、前置きもなしに核心を突いた。

 

「なんかあったんでしょ。たつみ先輩」

「昨日、那須先輩達と模擬戦をして、口論になったと聞きました」

 

 修と遊真の視線は、本当に自分のことを気遣っているようで。

 ああ、それも昨日のことか、と。今更ながらに思い出す。

 

「話しにくいことなら、話さなくても大丈夫です。でも、もし何か悩んでいることがあるなら、ぼくでよければ、話を聞かせてください」

 

 あくまでも堅物。実直なお節介をそのまま形にしたような修の言葉を聞いて、龍神はまた苦笑した。

 

「ふっ……三雲は相変わらず、面倒見の鬼だな」

「うむうむ。おれもそう思うよ」

「なっ……!」

 

 龍神は遊真と目を合わせて、頷き合って、笑い合って、

 

「そうだな」

 

 胸にずっと詰まっていたものが、ゆっくりと溶ける音がした。

 

「聞いてくれるか?」

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

「迅」

 

 呼び止められてまず最初に思ったのは、面倒だな、というダルさだった。

 

「風間さん」

 

 形だけは、にこやかに返事をする。

 もっとも、風間を相手にした会話で、愛想は何の意味もないが。

 

「如月を、除隊処分にするそうだな」

「耳が早いね。太刀川さんから聞いた?」

「寺島だ」

「ああ、なるほど」

 

 太刀川と風間の関係が線でイメージしにくかったので、言われてすっきりと腑に落ちる。雷蔵なら話すだろうな、という納得があった。本来なら話すべきではないが、風間なら誰かに口を滑らせる心配もない。

 もしかしたら雷蔵さんも、誰かに話して胸の重荷を軽くしたかったのかもしれない。迅はそう思った。龍神は、開発部の面々とも、とても仲が良かったから。

 

「単刀直入に聞くが、ヤツは死ぬのか」

 

 読み逃した。

 手元から取り落したぼんち揚が、床にあたって軽い音をたてる。

 

「図星か」

「勘弁してほしいなぁ」

 

 適当に受け答えをして会話を流そうとしていたが、こればかりは本心だった。

 

「如月をやめさせることは、明日告知するんだろう?」

「うん。如月隊の子達を呼び出して、そのあとでね」

「なるほどな」

 

 表情の変化に乏しい風間の感情は、ひどく読みにくい。

 

「俺は、お前の選択は間違っていないと思う」

「もしかして、元気づけてくれてる?」

「好きに捉えればいい。ただ」

「ただ?」

「未来というのは本来、思い通りにならないものだ。お前に今更こんなことを言っても、何の意味もないかもしれないが」

 

 それが忠告であるのか、ただの気まぐれであるのかはわからなかった。しかし、迅は風間の目を見て返事をした。

 

「いや、ありがとう。肝に銘じておくよ」

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

「……以上が、俺のサイドエフェクトと、それに関する出来事の全てだ」

 

 龍神は話した。何もかも、全て。修と遊真に話してしまった。

 城戸からは、この件について喋るなとは言われていない。だから龍神は、ボーダーで会うのは今日が最後だ、と。そう思って会っていた隊員達の誰かに、除隊処分の事実を打ち明けることもできた。

 だが、何故だろう。誰にも話す気にはなれなくて、そもそも自分から誰かにこの話をするつもりはなかったはずなのに。気がつけば、修と遊真には、昨日までの出来事を全てを話していた。

 

「如月先輩に、サイドエフェクトが……」

「こりゃびっくりだ」

 

 軽く相槌を打つ程度で、それまで黙々と聞き手に回っていた修と遊真が、ようやく口を開く。

 龍神は椅子に腰掛けたまま、頭を下げた。

 

「すまなかったな。長々と」

「いえ、そんな。ちょっと、いろいろいきなり過ぎて、飲み込めていない部分はありますけど」

 

 眼鏡の位置を直し、修は座り直して居住まいも正した。

 

「それで如月先輩、このことは……」

「さっき話に出た人間以外だと、お前達にしか喋っていない。聞いてもらうことに甘えて、俺ばかり話してしまった。本当にすまない」

「べつにいいよ。たつみ先輩、一回もウソ吐いてなかったし」

「当然だ。そもそも噓を吐く必要がない」

 

 サイドエフェクトで噓がわかる遊真を相手に、噓偽りを話す理由はない。そもそも、自分の気持ちを偽って、嘘を話すことはできない。

 そうか、と。龍神は今さらながらに納得する。自分の気持ちを正直に吐き出せる。そういう意味では、遊真は誰よりも最適な話し相手だったのかもしれない。

 思えば、龍神が玉狛支部により深く関わるようになったのは、この二人がきっかけだった。遊真が近界からやってきて、修の師匠になって、そうして新しい関わりが生まれていった。

 

 だから、

 

「今までありがとう。三雲、空閑」

 

 礼を言って、頭を下げる。それが、一つの節目だと思った。彼らに贈ることができる、龍神の精一杯の感謝だった。

 

「空閑、お前は強い。戦場で培った豊富な経験と、瞬間の判断力なら、もう十分A級でも通用するはずだ。一番近くで、三雲を支えてやってくれ」

「たつみ先輩……」

 

 次に龍神は、修に視線を向けた。

 

「三雲、お前は弱い。だが、お前のその弱さは、決して無力であることと、イコールでは結びつかない。弱いからこそ見える世界がある。できることがある。俺は、お前の弱さを信じている」

 

 三雲修は弱かった。

 強くなったか、と言えば疑問符が浮かぶ。戦えるようになった、というのも少し違う。修は元々、戦う覚悟を持っていて、心の中心に一本の芯を通していた。

 

「お前達が……玉狛第二が、A級に上がることを、信じているぞ」

 

 だから、自分がいなくても、もう大丈夫だ。

 

「……俺は明日、ボーダーをやめる。だが、離れていても、ずっと応援している。それは、忘れないでくれ」

 

 もう一度。感謝を込めて、深く長く、頭を下げる。

 それは、如月龍神のボーダー隊員としての、一つの節目であり、幕引き。

 

 終わりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? なんでですか?」

 

 聞き間違えかと思った。しかし、聞き間違えではなかった。

 

「は?」

 

 龍神は、耳を疑った。

 

「どうして、如月先輩がやめなきゃいけないんですか?」

 

 このメガネ、なにを言っているんだ? 

 

「……俺の話を聞いていなかったのか、三雲」

 

 内心、怒鳴り返したくなるほど龍神は動揺していたが、それを目の前の弟子に気づかれるのは、かなり癪だった。なので、表面上は平静を装って、また繰り返し説明する。

 

「俺のサイドエフェクトは危険で。迅さんもその危険性を未来視のサイドエフェクトで確認していて、だから」

「でもそれは、城戸司令と迅さんの都合でしょう?」

 

 今度こそ、返す言葉がなくなって。口を開けたまま、完全に固まった。

 思考が、一から十まで停止する。

 龍神は、今まで生きてきた17年間の中で、最も濃いアホ面を晒している自覚があった。

 

 サイドエフェクト。超過自己暗示。未来視。それらに関連する、全ての未来。

 

 だが、所詮それは相手の都合。

 馬鹿正直に、聞いてやる必要はない。

 

 むしろ、なぜ従っているのだ、と。

 

 つまるところ、龍神の前に素知らぬ顔で立つメガネは、そういうことを言っていた。

 

「城戸司令の命令も、迅さんの未来視も関係ありません」

 

 あろうことか。

 関係ない、と。顔だけは真面目な優等生のまま、メガネは言い切った。

 

「如月先輩は、どうしたいんですか?」

 

 わけがわからなかった。

 もう、すべて終わった。すべて終わったことを説明した。

 だから、だから龍神は、修と遊真に、お別れを言ったのだ。

 それなのに、どうしてこいつは、どうしたい、なんて。まだ自分に未来があるように、聞いてくるのだろう? 

 

「……悔いはない。俺は全力を尽くして負けた。それだけだ」

 

 声が震えてしまわないように、言葉を選ぶ。

 

 

「たつみ先輩、つまんないウソつくね」

 

 

 だが、必死で取り繕ったそれは、すぐに見抜かれた。

 遊真の、サイドエフェクトだった。

 

「……仕方ないんだ」

「ウソだ」

「迅さんは、きっと俺に関する何かの未来を視て……だから、俺が身を引くのが正しくて」

「ウソだね」

「っ……もうやりなおしなんて出来ない! 俺には力が足りなかった。だから、諦めるのが正しいんだ!」

「それもウソ」

「空閑っ!」

「ウソだよ」

 

 遊真の瞳が、心底おもしろくないものをみるように、龍神を見上げていた。

 

「たつみ先輩、そんなにつまんないウソばっかりつく人だったの?」

 

 こんな目で見られるのは、はじめてだった。

 その瞳の中に、龍神は今の自分の姿を見た気がした。

 ひどい顔だった。自信もなにもない。全てを諦めて、納得したふりをしているだけの、無気力な顔がそこにあった。

 

「如月先輩」

 

 龍神の前に、修が立つ。

 最初に会った時は、ひょろひょろした情けないメガネだと思っていた。頼りないヤツだから、自分が精一杯鍛えてやろうと思った。

 

「本当のことを、言ってください。もう一度聞きます。先輩は、どうしたいんですか?」

 

 いつの間にか、弟子はとても大きくなっていた。

 

「かっこつけないで、答えてください」

 

 答えを、求められる。

 

「違う。俺は……」

 

 ──如月くんは、いろんな人におもしろい影響を与えるね

 

 ──如月くん、迷ってるみたいだったから

 

 かっこいい自分が好きだった。

 この場所で強くなれば、かっこいい自分になれると思った。

 だから、全力で強くなる努力をしてきた。

 

「俺は、太刀川に、勝てなくて」

 

 ──甘えたい時は、甘えていいのよ。

 

 ──気張りっぱなしだと、いつか潰れちまうぞ

 

 だが、ボーダーには辛い思いをしている人間がたくさんいて。辛い思いをしていない自分がここにいるのは、もしかして場違いなんじゃないか、と。努力の隙間で、そう感じることがあった。

 みんなが優しいから、余計にそう思った。

 

「迅さんに、きっと、辛い選択をさせて」

 

 ──どうして負けたのか。その理由を考えて、次に繋げるのがあなたでしょう? 

 

 強くなれば認められると思った。

 太刀川に勝ちたい。それは、ただのエゴだったのかもしれない。それでも、強くなればただのエゴが肯定されると思った。

 戦う理由になると思った。

 

 ──アタシが『がんばってる』って言ってるんだから、がんばってるんだよ。

 

 がんばれば、みんなが認めてくれると思った。

 順序が逆だったのかもしれない。努力は、認められるために積み上げるものではないから。自分を認めるための努力を積み上げて、その成果に満足しているふりをしていただけだったのかもしれない。

 

 ──またやろな、個人戦

 

 繋がりが広がっていくのが、嬉しかった。

 認められなければ、という重圧からくる努力は、いつの間にか、切磋琢磨する楽しさに変わっていた。

 

 楽しかったのだ。

 

 自分にとってボーダーは、いつの間にかかけがえのない居場所になっていた。

 

「だから、俺は──」

 

 ボーダーに入隊して、はじめて。

 

 

 

「──俺は、ボーダーをやめたくない……」

 

 

 

 如月龍神は、人の前で泣いた。

 

「みんなと、もっと一緒にいたい」

 

 絞り出した言葉と一緒に、涙が止まらない。

 

 数え切れない思い出がある。

 木虎と広報活動に行ったのが、楽しかった。荒船と一緒に映画を観るのが楽しみだった。加古の炒飯を堤と一緒に食べに行くのは、少しこわくても、やっぱりワクワクした。

 二宮と一騎討ちをして、全身が熱くなった。学校帰りに、米屋や出水とくだらない話をしながら本部に向かう時間は、居心地がよかった。三輪とはいつも口論になっていたが、本当はもっと仲良くなりたかった。

 

 はじめて遊真と会ったあの日、何かが変わる予感がした。

 はじめて修と会ったその日、たしかに何かがはじまった。

 

 玉狛支部で食べるレイジのご飯は美味しかった。宇佐美と一緒に小南をからかって笑った。烏丸と一緒に、弟子を鍛える時間は充実していた。煙草を吹かしている林藤が、いつも優しい目でそれを見守ってくれていた。

 

 紗矢のおかげで、コーヒーだけでなく、紅茶を飲むようになった。甲田に言われて、はじめておしるこ缶を買った。早乙女と一緒にゲームをして、二人がかりなら国近を倒せるようになった。丙と一緒に加古の炒飯を食べると、ハズレに当たる確率が少し減る気がした。

 

 迅からぼんち揚を貰うと、嬉しかった。スコーピオンを教えてもらった自分が、一番弟子だと自慢に思っていた。

 太刀川に勝ちたかった。一度でもいいから、あの日憧れた剣に勝ってみたかった。

 

 

 後悔がない? 嘘だ。

 

 

 ただの強がりだ。意地っ張りだ。かっこつけだ。

 大それた理由なんてない。他のみんなのように、戦う理由なんてない。

 それでも、後悔があった。心残りがあった。まだまだたくさん、やりたいことがあった。

 

「……」

 

 泣き崩れる龍神の肩に手を置いて、修は遊真をちらりと見る。

 

「……空閑」

「それ、おれに確認する必要あるか? オサムもわかってるだろ」

 

 手を頭の後ろに組んで、遊真は口を尖らせた。

 

「今度は、一つもウソなんてない。全部ホントだよ」

 

 

 

 

 

 

 修のハンカチを鼻水まみれにして、少し落ち着いた。

 

「……実は千佳だけじゃなく、風間先輩からも連絡がありました」

「風間さんから?」

「はい。『自分の弟子の面倒は、最後まで自分でみろ』だそうです。その通りだと思います」

 

 やっぱりあの人は察しがいい。敵わないな、と。仏頂面を思い浮かべる。

 

「ぼくがA級に上がるまで、見ていてもらわないと困ります」

「……はっ」

 

 ようやく、龍神はそれを鼻で笑った。笑うことができた。

 遠慮深いようで、図々しい。冷めているようで、内に秘めているものは、誰よりも熱い。

 ああ、そうだ。

 自分が弟子にすると決めた少年は、そういうメガネだった。

 

 強くなった……わけではない。

 きっと最初から、自分よりもずっと強かったのだ。

 

「……三雲、俺はかっこ悪いか?」

「はい。間違いなく、今までで一番かっこ悪いです」

「くっ……」

「でも、うれしいです。本当のことを、言ってくれて」

 

 修は、面倒見の鬼だ。

 

「だから、今度はぼくが、如月先輩の力になります」

「だが、俺の処分はもう決まって……」

「じゃあ、なんとかします」

「なに?」

「だから、なんとかします」

 

 コイツの自信はどこからくるのだろう、と龍神は思った。

 いや、きっと自信なんてない。自信のあるなしに関係なく。自分がやると決めたことはやり通す。それが、三雲修なのだ。

 

 三雲修は折れない。

 三雲修は屈しない。

 三雲修は諦めない。

 三雲修という人間は誰かのために行動する時、最もその力を発揮する。

 

「やるぞ、空閑。手伝ってくれるか?」

「もちろんだ、隊長」

 

 人と人を繋ぐ、架け橋になる。

 

「立ってください。如月先輩」

 

 如月龍神の物語は、一度終わった。如月龍神の未来は、閉ざされた。

 けれど、三雲修は舞台によじ登って、下りたはずの幕を引き剥がして、出番を終えたはずの役者に、手を差し伸べる。

 

「行きましょう」

 

 誰よりも弱い、非力なヒーローが、未来をこじ開ける音がした。

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