厨二なボーダー隊員   作:龍流

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どうかメガネに必殺技を、と厨二は願った

「ひ、必殺技ってなんですか?」

「必殺技は必殺技だ。男たるもの、こんな必殺技が欲しい、みたいな願望はあるだろう?」

「は、はあ……?」

 

 そう言われても何を言えばいいのか分からず、修は冷や汗を垂らした。

 

『たつみん、いきなり必殺技とか言われても、修くんもパッとすぐには思い付かないと思うよ』

「成る程。確かに一理あるな。具体的なものを見ないと、イメージしにくいのか……」

 

 宇佐美のフォローに、修はほっと息を吐く。

 そう、そうなのだ。いきなりどんな必殺技を使いたいのか、と問われても、すぐに答えを返せるわけがない。修だって中学生である。漫画やアニメに触れてこなかったわけではないし、小さい頃は男の子の常としてヒーローには憧れていたが、もうそんな年ではない。

 必殺技と言われても――

 

 

「旋空壱式――虎杖」

 

 

 思考は中断。

 龍神が唐突に振り下ろした『弧月』によって、修の頭は一撃でかち割られた。

 

「えっ……!?」

 

 体から力が抜け、膝をつく。『仮想戦闘ルーム』は『模擬戦』と違い『緊急脱出(ベイルアウト)』がない為、無惨に切り裂かれた修の頭部はすぐに再生した。

 

『はい、修くん1本ね~』

 

 とてもユルい宇佐美の声でそう告げられて、唖然としていた修はようやく我に返った。

 

「き、如月先輩! いきなりなにを……?」

「ふっ……具体的な必殺技のイメージが浮かばんのだろう?」

 

 黒い『弧月』の峰を肩にのせて、龍神は不敵な笑みを修に向けた。

 

「安心しろ、三雲。今からお手本として、この俺が開発した『必殺技』を全てお前に叩き込んでやる。実戦形式の練習にもなるし、俺の技を全て見れば、お前も具体的なイメージが浮かんでくるだろう」

「い、いや。それは……」

「仮想戦闘ルームは『トリオン』の消費がない。お前も遠慮はせずに、全力で反撃してこい」

「あ、あの……」

「いくぞ!」

『はい、2本目スタート』

 

 だめだ。この人は人の話を全然聞かないタイプだ。

 まともな会話を諦めた修は、突然はじまった模擬戦に対応するべく、シールドモードの『レイガスト』を構えた。

 

(如月先輩は『弧月』メインの攻撃手(アタッカー)だ。まずは『アステロイド』で牽制して距離を……)

 

 が、修がそんなことを考えているうちに、

 

「"天舞"」

 

 馬鹿は空中へと舞い上がっていた。

 

「う、上!?」

 

 『アステロイド』のキューブを右手に出現させていた修は、前方へ向けて放つつもりだったそれを咄嗟に上空へ向けた。

 その反応は残念ながら、龍神の動きと比較すれば遅すぎる。

 

「弍式――地縛」

 

 降り注ぐ連続斬撃に晒され、修は再び倒れ込んだ。

 

『残念! 修くんダウン!』

 

 ブレードが伸びた。つまり、『弧月』使いでもある程度の距離は対応される。ただ距離を取るだけじゃ駄目だ。

 起き上がりながらそう分析した修は、なんとか『レイガスト』を構えなおして、

 

「参式――姫萩」

 

 今度は一撃で、右腕をもっていかれた。準備していた『通常弾(アステロイド)』はあらぬ方向へ放たれ、拡散する。

 速すぎて、見えなかった。

 

「右腕をやられたくらいで動揺するな」

「しまっ……」

 

 呆気に取られていた修は、いつの間にか接近していた龍神に胸を袈裟斬りにされた。

 

『修くん、ダウン! 頑張って!』

「は、はい」

 

 なんとか返事を返すものの、修の心は焦燥感で一杯だった。

 三連続で瞬殺。実力差がありすぎる。

 

(まだ攻撃すらまともに撃たせてもらっていない……せめて、なんとか攻撃を当てて……)

 

「アステロイド!」

 

 キューブ状に分割された弾丸が、棒立ち状態の龍神に一直線に向かう。

 『シールド』すら展開せず、龍神は片手で『弧月』を振るった。

 

(伸びるブレード!?)

 

 咄嗟に『レイガスト』を突きだし、なんとか受け止める。衝撃で目を瞑ってしまった修は、けれどはじめてまともに攻撃を防御できたことに安堵した。

 

「……え?」

 

 が、目を見開いて前方を注視すれば、龍神の姿は忽然と消えており、

 

「死式――赤花」

 

 背後からの一太刀で、修の首は切って落とされた。

 

「がっ……あ」

『修くんダウン!』

 

 数秒の時間をかけて、修の『トリオン体』が再構成される。そしてなんとか、再び立ち上がる。

 

「さて……」

 

 『弧月』を斜めに構え、平時よりもさらにニヒルに笑う龍神は、その表情に見あった台詞を吐いた。

 

「お前はあと、何回死ぬかな?」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 結論から言えば、修はとりあえず27回死んだ。

 宇佐美が途中でストップをかけなければ、30回の大台にのっていただろう。

 

「三雲、お前弱いな」

「っ……はぁ……」

 

 椅子に倒れ込む修を、龍神はなんとも言えない表情で見下ろしていた。

 なんというか、本当に予想以上に弱かったのだ、このメガネは。 

 

「大丈夫、修くん? ほれほれ、水分補給して」

「あ、ありがとうございます」

 

 宇佐美からスポーツドリンクのボトルを受け取り、修はそれに口をつけた。同じように、宇佐美は龍神にもスポーツドリンクを渡しつつ、聞いた。

 

「たつみん、修くんはどうよ?」

「戦闘スタイルは大方把握した。現状では『レイガスト』でガードしながら『アステロイド』を撃ち込む、防御寄りの射手というところだろう。だが……」

 

 ぶっちゃけ弱い、と続けようとしたところで部屋の扉が開いた。おぼつかない足取りで、よろよろと入ってきたのは、小南桐絵だ。顔色がすごく悪い。

 

「…………負けた」

「…………なに?」

 

 何かの聞き間違いかと龍神は思ったが、小南は重ねて同じ言葉を口にした。

 

「あ、あたしが……負けた」

「な!?」

 

 驚愕で目を見開く龍神を他所に、見事なアフロヘアーになった遊真が入ってきて、得意そうに言う。

 

「勝った!」

「なん……だと?」

「か、勘違いしないでよね! あたしが負けたのは1回よ! 1回だけ!」

「だが、1回は負けたんだろう?」

「ぐっ……むぅ」

 

 腕を振り回して反論していた小南は、龍神の一言に押し黙った。しかし納得がいかないのか、また両手をぶんぶんと振って、

 

 

「なによなによ! あんただって遊真とやったら、1本か2本くらいは絶対取られるわよ! 間違いないわ!」

「ほう? こなみ先輩とたつみ先輩だと、どっちが強いの?」

「それはあたしに決まってるでしょ!」

 

 いつの間にか名前呼び、先輩呼びになっている2人は、どうやらお互いのことをなんだかんだと言いつつも認めたらしい。龍神のとなりの宇佐美も、言い合う遊真と小南をニヤニヤと楽しそうに眺めていた。

 それを止めるのも兼ねて、龍神は口を開く。

 

「まあ、俺の方が弱いだろうな」

「どのくらい?」

「お前が今やった10本勝負で、大体3対7か4対6といったところだな。新技が決まれば5本取って延長に持っていけるが……俺ですら、小南に勝つのは難しい。初戦で1本とれたのは大したものだ」

「ふむ……じゃあ、俺もまだたつみ先輩には勝てない感じか」

「ふっ……どうだろうな」

 

 そこで会話を打ち切って、龍神は振り返った。椅子の上では、修が唖然としている。この数日間、遊真の強さを間近で見てきた彼には、今の会話の内容が信じられないのだろう。

 

「空閑でも勝てないのか、と思っただろう?」

「……はい」

 

 図星だったのか、修が視線をそらす。構わずに、龍神はやや強い語調で続けた。

 

「小南や俺だけじゃないぞ。ボーダー本部には、それ以上のバケモノのような強さのヤツもいる」

「まだそんな人が……?」

 

「お前が、お前達が目指す『A級』とはそういう場所だ。改めて聞くが、それでもまだやるか?」

 

 龍神にも厳しいことを言っている自覚はあった。だが、修が『弱い』からこそ、これは確認しておく必要があることだった。

 遊真の実力は高い。修は彼と自分の『差』を既に理解している。才能の有無を如実に感じ、それでもこれからは共に戦っていかなければならない。チームだから、味方だから心強いと言えば聞こえはいいが、それを隣で目の当たりにし続けるのは、かなり辛いことだ。修が遊真に対して引け目を感じるようになっても、なんら不思議ではない。

 追いつくことが難しいのは、修自身が一番よく分かっているのだから。

 しかし、返事は存外にはやかった。

 

「やります」

 

 ほう、と龍神は内心で舌を巻いた。予想よりも修の返答は素早く、力強かった。視線も、しっかりとこちらに向いている。

 このメガネ、根性はあるようだ。

 

「ふっ……いい返事だ。では、続きといこうか、三雲」

「……はい!」

 

 

 

「とはいえ、がむしゃらに練習したところで、すぐに強くなれるわけがない」

「…………はい」

 

 数分後、2人は『仮想戦闘ルーム』には戻らず、宇佐美のいるオペレータールームにそのまま残っていた。

 椅子に腰かける修の前には、どこからか持ち出したホワイトボード。ペンを片手に持ち、龍神はメガネを装着済みである。

 

「さっき戦って、お前が感覚派ではなく、頭で考えるタイプだというのはなんとなく分かった。このままがむしゃらに10本勝負をやっても、俺がお前を斬るだけの単純作業となるのはもはや明白だ」

 

 ペンをくるくると回しながら、小気味よい音を響かせて、龍神はまず2つの『トリガー』の名前をホワイトボードに書き込んだ。

 『レイガスト』と『アステロイド』 修が主に使っている『トリガー』だ。

 

「が、センスやトリオン量の問題はさておき、それ以前にお前はまず、自分が扱う『トリガー』に関しての理解が浅い。『レイガスト』の『シールドモード』についても、B級に上がるまでは知らなかったそうだな」

「はい、そうです……」

「……やれやれ」

 

 龍神心底呆れたと言いたげに、ホワイトボードの上に書かれた『レイガスト』の文字をコンコンと叩いた。

 

「自分が命を預ける武器だぞ? その性質を隅々まで把握しないで、一体全体どうやって戦う気だ?」

「す、すいません!」

「……まったく。まずお前には『オプショントリガー』も含めて、正隊員が使用できる全ての『トリガー』の性質と特徴を教えていく。聞き漏らすなよ」

 

 溜め息を吐きながら、龍神は修の『トリガー』を手に取り、専用の電気ドライバーでホルダーを開いた。中に納められている電子盤には、4つの『チップ』がセットされている。

 この小さなチップが俗に言う『トリガー』であり、使う人間の『トリオン』をどういった形で発現させるかを決める装置である。『トリガー』は合計8種類までセットすることができ、利き手用の主(メイン)トリガーと逆の手の副(サブ)トリガー、つまり2種類を同時に扱うことができる。

 現在、修がセットしている『トリガー』は副(サブ)に『アステロイド』と『シールド』。主(メイン)に『レイガスト』と『スラスター』の計4種類だ。

 

「B級に上がりたてだから、分からんでもないが……いくらなんでもセットしている『トリガー』が4種類というのは少な過ぎやしないか?」

「……すいません。いきなり色々セットしても、扱い切れる気がしなくて……」

 

 予想通りとも言える返事に、龍神は首を振った。

 

「確かに。別に8種類全ての『枠』を無理に埋める必要はない。6種類や7種類しかセットしていない正隊員はざらにいるし、攻撃手(アタッカー)はメインのブレードと『シールド』しか扱わないことも多い」

 

 しかし、と龍神は言葉を区切って、

 

「8種類の選択肢を、自分から半分にしてしまっているのは、やはりいただけない。お前が『考えるタイプ』なら尚更だ」

「おお、たつみんがちゃんと先生してるね!」

「……茶化すなよ、宇佐美」

 

 メガネを指で上げながらそう言った龍神を、修は心底不思議そうにしげしげと眺めた。

 

「……なんだ?」

「いや、すいません。正直、ちょっと意外だなって思って……如月先輩って、なんというか……」

「もっと感覚派だと思ったでしょー?」

 

 修が言いにくかったことを、宇佐美がかわりに遠慮なく言ってのけた。

 

「たつみんはねー、何も考えていないように見えて、意外と色々と考えているのだよ。『トリガー』を組み合わせて作る『技』についてもしょっちゅう頭を悩ませて、いろんなことを試しているしね!」

「そうなんですか?」

「ふっ……当然だ。深い思慮と経験がなければ、自分の思い描く理想の動きはできない。必殺の奥義を身につける為には、がむしゃらに鍛練を積むだけでは意味がない」

「なんだか……本当に意外です」

「……三雲、お前は俺をなんだと思っていたんだ?」

 

 なにも考えていない中二病だと思っていました、とは修は口が裂けても言えなかった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 修がおそらく使わないであろう『弧月』や『スコーピオン』などの攻撃手(アタッカー)用トリガーの解説から、隠密(ステルス)トリガー『カメレオン』などの変わり種まで、龍神は1時間以上をかけてたっぷりと説明を行った。

 途中、遊真や小南も交えて『授業』とも言える体裁になったそれを終えた2人は、再び『仮想戦闘ルーム』に戻っていた。

 ここからは、再び実技の時間である。

 

「では、三雲。さっき教えたことの復習だ。まず『レイガスト』の利点を挙げてみろ」

「はい。『スコーピオン』のようにブレード部分を変形できる点と、攻撃力を下げて耐久力を上げる『シールドモード』が使えることです」

「逆に弱点はなんだ?」

「重さ……ですよね? 接近戦で振るうには、重量があるのは結構問題だと思います」

「ああ。攻撃手(アタッカー)の間で『レイガスト』に人気がないのも、それが主な理由だ」

 

 龍神はさっきまでは自分の『トリガー』にセットしていなかった『レイガスト』を起動して、何回か振ってみせた。

 

「攻撃のスピードは近接戦闘の勝敗を左右する重要なファクターだ。要は相手よりはやく、ブレードで敵を切り裂けば勝ちなわけだからな。『シールド』で守りに入っている暇があったらブレードで積極的に削りにいくのが攻撃手(アタッカー)の思考だ。副(サブ)トリガーにセットしたあれを起動してみろ」

 

 龍神に促された修は『レイガスト』を切り、左手に現れた透明のブレードを握った。

 

「『スコーピオン』って、こんなに軽いんですね」

「ああ、百聞は一見にしかず、だ。言葉では聞いていても、そこまで軽いとは思わなかっただろう?」

 

 たとえ使わない『トリガー』でも、実際に触れてみればその性質をより深く理解できる。龍神としては修が訓練生時代に『レイガスト』以外の『トリガー』を試していない、という事実が信じられなかったのだが……それについては先ほど言葉を尽くして怒りをぶつけたばかりなので、これ以上非難するのはやめておいた。

 

「でも『レイガスト』で強い攻撃手(アタッカー)の人もいるんですよね?」

「ああ。鈴鳴支部のNo.4攻撃手、村上さんがそうだな。ただ、村上さんは『レイガスト』をシールドとして使って、基本的に『弧月』で攻める。両手で同時にブレードトリガーを扱うスタイルは、お前の参考にはならんだろう。玉狛支部では、レイジさんが使っているが……」

 

 そこで、龍神は言い淀んだ。あの筋肉は『レイガスト』をブレードとしてではなく、握り込んでパンチするというよく分からん使い方をしている為、村上以上に参考にならない。そもそも修が真似をしようとしても、筋肉が足りなくて絶対に無理だろう。

 

「はっきり言って、お前には空閑のような近接戦のセンスはない。トリオン量が少なくても、攻撃手(アタッカー)ではなく射手(シューター)としてやっていくのは、悪くない選択だと俺も思う」

 

 龍神は修に『通常弾(アステロイド)』以外の『炸裂弾(メテオラ)』や『変化弾(バイパー)』についても説明したが、それらの実際の取り扱いまでは教えることができない。

 

「が、俺は攻撃手(アタッカー)だ。射手(シューター)としての立ち回りや戦術は、教えられない。そういった細かいことは、改めて烏丸から教われ。あいつは"お前のような奴"を教えるのが上手いからな」

「はい……でも、ぼくは如月先輩との実戦練習ではなにを?」

「ふっ……決まっているだろう?」

 

 『レイガスト』のブレードを限界の大きさまで変形させ、龍神はその先端を修に突きつけた。

 

 

「俺が教えられるのは『これ』だけだ。俺は今から『レイガスト』のブレードモードと、専用オプショントリガーである『スラスター』しか使わない」

「えっ……?」

「ただし、お前が使うのも『レイガスト』のブレードモードと『スラスター』だけだ。シールドモードは使うなよ。『レイガスト』のシールドは固い分、守りにばかりに入るクセがつく」

 

 射手(シューター)は普通なら、攻撃手(アタッカー)の距離に近づかれれば終わりだ。だが『レイガスト』を持つ修は、接近されてもブレードで迎撃するという選択肢がある。

 その選択肢を、きちんと『選ぶ』ことができる技術として、まずは確立させる。

 

「お前は俺と全く同じ条件で斬り合って、『レイガスト』の取り扱いを体に染み込ませろ。『レイガスト』を『楯』としてだけではなく、『刃』として使えるレベルまでな」

「……でもぼくには、空閑のようなセンスは……」

「当たり前だ」

 

 突き放すようなその発言に、修ははっとした。

 

「あいつも最初から強かったわけじゃない。あいつの強さは、親父さんとレプリカと、何年間も異世界の戦場を駆け巡って得た強さだ。それに簡単に追いつけるわけがない。追いつけると思っていたのなら、そんな自惚れた考えは捨てろ」

 

 だが、と龍神は口元を歪めて、

 

「あいつの背中に、追い縋ろうとする意志は捨てるな。斬って、斬って、斬り合えば、お前が振るう刃の一閃は、必ずお前を強くする。そして、お前だけの『技』を見つけ出せ」

「ッ……はい!」

「ふっ……いい返事だ」

 

 修と龍神は、まったく同様の大剣を構え、向き合った。

 

「では……はじめるとしようか」

 

 最初はどうなるかと思ったが、今こうして相対する先輩に、修は心の底から感謝していた。

 この人について行けば、自分に足りないものを、掴めるかもしれない。もっと、強くなれるかもしれない。そんな予感が、確かにあった。

 これからも、この先輩のアドバイスをよく聞いて――

 

「ブリッツェン・シュナイデン」

「……はい?」

「『スラスター』を使った斬撃の技名だ。悪くないだろう?」

「……何語ですか?」

「ドイツ語だ。技名は迷ったら、とりあえずドイツ語にしておけ」

 

 ――こういうアドバイスも、聞いていかなければいけないんだろうか?

 

 

◇◆◇◆

 

 

 夕焼けの空の向こうで、太陽が沈もうとしていた。

 

「…………来たか」

 

 警戒区域内の崩れかけのビル。そこから、自分が所属する組織の本部を見詰めて、迅悠一は呟いた。

 

『門(ゲート)発生、門(ゲート)発生』

 

 敵の来襲を告げる警報は、ボーダー本部基地の内部から鳴り響いている。しかし、防衛隊員は姿を現さない。

 当然である。あの黒い穴から出てくるのは、迎え撃つべき『敵』ではなく、迎え入れるべき『味方』なのだから。

 

「今頃、城戸さん達が総出でお出迎えかな?」

 

 長旅の疲れを労うべく、迅も彼らを出迎えたいところだが、それはできない。というか、する必要がない。

 迅にはみえている。

 どうせ今晩、嫌でも彼らとは対面することになるのだ。

 彼はスマートフォンを取り出して、滅多にかけない上司の番号をコールした。

 

「あ、もしもし。忍田さん?」

 

 趣味が実益を兼ねるなら、それに越したことはないというのが、迅の考えである。ましてや後輩を助ける為なら、実力派エリートはどんな労力も惜しまない。

 

 暗躍開始だ。

 




次回から黒トリ争奪戦です。
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