厨二なボーダー隊員   作:龍流

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決着

「まずいな……」

 

 『イーグレット』のライフルスコープに映る2人の姿を見ながら、奈良坂透は呟いた。思えば、あの馬鹿や迅が出張ってくる時は、いつも自分はこんな役回りな気がする。

 

『た、太刀川さんと風間さんが……一気に』

『落ち着け、章平』

 

 口ではそう言ったものの、奈良坂自身もこの状況には少なからず動揺していた。いくら黒(ブラック)トリガーとはいえ、攻撃手(アタッカー)ランク1位と2位の2人がこうも簡単にやられることを、一体誰が想像できただろうか?

 

『どうしますか、奈良坂先輩?』

『そうだな……』

 

 奈良坂はスコープから目を外し、足元を見た。そこには、チェスの駒がデザインされたエンブレムがある。いざとなれば『これ』があるとはいえ、逆に『これ』だけでどうにかなるとは思えない。援護狙撃を繰り返し続けたせいで、ある程度"仕掛けている"場所は読まれている筈だ。

 

『な、奈良坂先輩!?』

 

 古寺の叫び声で、思考は中断。奈良坂は素早く『イーグレット』を構え直した。

 

「どうした? 章平」

「じ、迅さんが!?」

「……なに?」

 

 再びライフルスコープを覗き込んだ奈良坂は、その光景に絶句した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ――数分前。

 迅達と別れた嵐山隊の戦況は、あまり芳しいものではなかった。

 米屋を一対一で仕留めた木虎だったが、そのまま罠に嵌められてしまい、彼女を庇う形でまず時枝が落ちてしまった。木虎自身も足を削られ、隊長の嵐山は三輪の『鉛弾(レッドバレット)』を受けており、2人の機動力は大幅に低下している。

 だからこそ、こんな博打めいた作戦を取る羽目になってしまったのだ。削られた足を『スコーピオン』で義足のように補って、木虎はマンションを駆け上がっていた。眼下の公園からは、絶え間なく爆撃音が聞こえてくる。嵐山がたった1人で囮になって、三輪と出水の攻撃を凌いでいるのだろう。

 

(いくら嵐山先輩でも、出水先輩の火力に真っ向勝負は分が悪すぎる……いそがなきゃ)

 

 あらかじめ射出した『スパイダー』を併用し、マンションの壁面を登っていた木虎は、ベランダでライフルを構えている『敵』の姿を捉えた。今時珍しい特徴的なリーゼントを、見間違えるはずもない。

 No.1狙撃手(スナイパー)、当真勇だ。

 

(……こっちにはまだ気づいてない。いける!)

 

 ベランダとは反対側の通路に着地し、おそらく当真が開けたのであろう開きっ放しのドアから部屋の中へ。今の木虎はレーダーから姿を消すオプショントリガー『バッグワーム』を羽織っている。気付かれずに後ろから接近し、左足の『スコーピオン』を蹴り込めばそれで終わりだ。

 案の定、ベランダから嵐山を狙っている当真は、木虎の方を振り向きもしなかった。

 

(もらった!)

 

 振りかぶった左足の『スコーピオン』は、当真の頭を真っ二つに――

 

「っ!?」

 

 ――するハズだった。

 獣の爪のように形成された『スコーピオン』が届く前に、当真勇は目の前から忽然と姿を消した。

 

「どこっ!?」

 

 木虎は思わず声を出し、周囲を見回した。頭の中には嵐山や龍神が使う『テレポーター』が思い浮かんだが、当真は間違いなく『イーグレット』と『バッグワーム』を使用していた。同時に使える『トリガー』の枠が2つまでである以上、それは絶対に有り得ない。

 そもそも、こちらを振り向きもしなかったのにどうやって接近を察知したというのか?

 ふと足元を見て、木虎はようやく当真が"何を使った"のか理解した。

 当真が狙撃位置にしていたその場所にあったのは、『冬島隊』のエンブレムと――部屋の中から持ち出したらしい壊れかけの『手鏡』だった。

 

(しまった……奇襲を読まれて)

 

 全てを悟った時にはもうすでに遅く、反対側のビルから放たれた弾丸に、木虎の頭部は一撃で貫かれた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ふぃー、あっぶねー、あっぶねー。まさか『スコーピオン』を足代わりにして上ってくるとは思わなかったぜ」

 

 つい数秒前まで自分がいたマンションから一瞬で移動した当真は、木虎を仕留めた直後であるにも関わらず、すぐさま次の目標に狙いをつけた。

 スコープの先には、出水の『メテオラ』を防ぐ為に前面に『シールド』を集中展開した嵐山。

 うしろがお留守だ。

 

「もらった」

 

 狙いをつけて、引き金を引く。狙撃手の仕事はシンプルでいい。

 木虎に引き続き、嵐山にもヘッドショットで引導を渡した当真は、その場に座り込んで一息吐いた。

 先ほどのマンションのベランダと違い、こちらはビルなので窓からの狙撃になるが、その分身は隠しやすかった。

 

「よしよし、これで嵐山隊を3人食ってやったぜ。しっかし、やっぱアレだな。ワープ直後の狙撃はそれなりにしんどいな」

 

 一筋の光が夜空へ伸びていくのを眺めつつ、当真は自慢のリーゼントを手で撫で付けた。

 木虎のアイディアは悪くなかったが、『バッグワーム』と『スコーピオン』を併用するということは『シールド』が使えない丸裸の状態だということだ。No.1狙撃手である当真からしてみれば、的にしてくれと言っているようなものである。

 無論、『バッグワーム』に『イーグレット』を構えた狙撃状態のスナイパーも基本は丸裸なのだが、当真は予め奇襲を警戒し、さらにいざという時のために『仕掛け』があった。

 

「お部屋から手鏡を拝借しておいたのはマジで正解だったなー。バックミラー様々だ。ま、結局は隊長の『ワープ』のおかげなんだけどな。サンキュー、隊長!」

 

 言い方は軽いが、それはいつものこと。当真としては感謝の気持ちを素直に述べたつもりなのだが、なぜか一回り上の隊長からは一向に返事が返ってこない。やられたわけじゃないよな、と首を傾げ、当真は再び呼び掛けた。

 

「おーい、隊長?」

『う……うっぷ……気持ちわりぃ……』

 

 ようやく、とても一回り年上とは思えない情けない返事が返ってきた。やはり、遠征帰りの船酔い状態で無理矢理連れてきたのが祟ったらしい。

 当真の所属するA級2位冬島隊の隊長、冬島慎次は乗り物に弱い。だが、特殊工作兵(トラッパー)である彼は通常のポジションでは出来ないような様々な『仕事』をこなせる為、強引に連れて来られたのだ。

 一番の年長者が強引に連れて来られた、というのもおかしな話だが、帰って早々作戦室で横になり、グロッキーだった冬島を遠征部隊総出で宥めすかして引っ張ってきたのは事実である。

 当真はやれやれと首を振って、

 

「大丈夫かー、隊長? でも『トリオン体』なんだから、吐くものもねーだろ?」

『バカやろう! それでも気持ちわるいものは気持ちわるいんだよ……うぅ。だからおれは、留守番がよかったんだ……』

「いやいや、隊長の『ワープ』のおかげでこっちはすっげー助かってるぜ! さすがは隊長だ!」

 

 欲を言えば『ワープ』以外にも色々と仕掛けて欲しかったのだが、そこは冬島の体調が万全でないのでしょうがない。むしろ当真からしてみれば、今晩はよく頑張っている方だと思う。

 だからこそ当真は、もう少しおだてて仕事をしてもらおうと思ったのだが、

 

『いや、やっぱダメだ……おれはもう限界なんだ。当真、あとは任せた……うぅぷっ……』

 

 そんなことを考えた矢先に、冬島からはギプアップ宣言がきた。しかし、まだ横になってもらうわけにはいかない。

 

「待ってくれ、隊長。最後にもう一仕事頼むぜ。さっきの木虎と嵐山さんへの狙撃でこっちの居場所が割れちまってるからな。もっかい移動をた――」

 

 言い終える前に、耳に飛び込んできたのは壁面を穿つ銃弾の音。

 屈んでいた体制から即座に『イーグレット』を構え、当真は狙撃地点と思わしき場所をスコープで確認した。

 狙撃手(スナイパー)同士の撃ち合いにおいて、先に撃った側は自分の居場所を相手に教えることになる。狙撃手用トリガーは一発の威力が大きい故に『ライトニング』を除いて連射はできない。壁面を撃ち抜けなかった時点で『アイビス』ではなく、着弾音は『ライトニング』にしては重すぎる。だからこそ当真はその一発が『イーグレット』から放たれたものだと看破し、相手が第二射を撃つ前に『反撃』という選択肢を"とってしまった"。

 それは当真勇が狙撃手として一流であったからこそとった行動であり、実際に彼を撃った狙撃手が『イーグレット』を一丁しか使っていなければ、1秒の間もなく当間の反撃で撃ち抜かれていただろう。

 ただし。

 当真がスコープ越しに見た敵スナイパーは、あろうことか二丁の『イーグレット』を同時に構えていた。

 

 ――あ、やっべ。

 

 重ね重ねになるが、当真の行動は経験と熟練した技術に基づく、反射的な行動だった。普通の狙撃手(スナイパー)との撃ち合いなら負けることはなかっただろうが、嵐山隊の狙撃手は普通ではない。

 

 ボーダー内でも……というか全世界を探しても、スナイパーライフルを二丁同時に操る大馬鹿野郎は1人しかいないだろう。

 

 当真が『イーグレット』の引き金を絞る前に、佐鳥賢の二丁目の『イーグレット』が火を吹いた。

 一射ではなく、二射で敵を仕留める。

 外れる弾は撃たないのが信条の当真には理解し難いが、確かにこういった撃ち合いでは、二発を連射する火力は有利に働くのかもしれない。

 

「それでも……オレは絶対に真似しねぇけどな」

 

 まるで先ほどの意趣返しとばかりに頭を撃ち抜かれた当真は、悔し紛れに言い捨てて。

 そのまま彼は、緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「うはっ、マジかよ。一気にうごいたな!」

 

 木虎、嵐山、当真。3人立て続けの緊急脱出(ベイルアウト)を目の当たりにして、出水公平の第一声はそれだった。

 

「当真さんもやられちまったとはいえ、冬島さんを無理に連れてきたのは正解だったな。3人も落としてくれたぜ」

 

 当真への称賛を述べた出水は「おれたちはどうする?」と、隣にいる臨時の指揮官に問いを投げた。

 三輪は当真を撃った狙撃の発射地点を見て、

 

「このまま佐鳥をやりにいくぞ。当真さんが落とされたのは痛いが、おかげでヤツの居場所は掴めた。レーダーに反応もあった。方向さえ分かれば、俺達で問題なく獲りにいける」

「りょーかい」

 

 狙撃は前線で戦う戦闘員にとっては大きな脅威だが、生身の肉体より数段早い『トリオン体』の反応速度を持ってすれば、発射の光点を確認してから『シールド』での防御も可能だ。

 それ故に、位置を知られた狙撃手のリスクはやはり大きい。結果的にやられたとはいえ、木虎と嵐山を仕留め、佐鳥の位置を釣りだした当真がもたらしたアドバンテージは三輪達にとって勝利の決め手と言っても過言ではなかった。

 だが、戦況は一ヶ所が有利なだけでは意味がない。

 

「あれは……?」

 

 北東の方角から舞い上がる2つの光。それを見上げる三輪の表情は、一転して険しくなった。

 

「おいおい……まさか……」

『残念ながら、そのまさかね。太刀川くんと風間さんがやられたわ。あちら側の攻撃手(アタッカー)は全滅よ』

 

 三輪隊オペレーター、月見蓮からの報告に、三輪と出水は一瞬言葉を失った。

 

「いやいや……マジかよ。6対2に冬島さんの『仕掛け』付きだろ!? それで勝つとか、黒(ブラック)トリガー強すぎだろ! つうか、あのバカも落ちてないのか!」

『如月くんは両腕をやられて戦闘不能みたい。迅くんもダメージは負っているけど……こっちは冬島さんもダウンしているし、迅くんを相手に狙撃手だけじゃどうしても不利だわ。奈良坂くんと章平くんは冬島さんを回収して撤収中。三輪くん達も……』

「……まだだ」

『えっ?』

「は?」

 

 三輪の呟きに、月見と出水の当惑の声が重なった。

 

「おい、三輪。まだってどういう……?」

「作戦を続行する」

「待て待て! 太刀川さん達がやられたんだぞ? おれら2人と奈良坂達でどうにかなるわけないだろ!?」

「問題ない。迅は手傷を負っている。如月も両腕がやられているなら、何もできはしない。俺達と狙撃手で連携すれば、充分に仕留められる」

「いや、ここはもう退くべきだろ」

 

 らしくない、と出水は思った。普段の三輪はもっと冷静に状況を見渡し、退くべき時には退く判断もできる人間だ。それが今夜は、妙に熱くなっている。

 

(あのバカといろいろもめたせいかぁ……?)

 

 三輪と龍神の戦闘を開始する前の会話に、思い当たる節があった。出水達が遠征から戻る前にもこの2人はやり合ったというし、それが絡んでいるせいで三輪は感情的になっているに違いない。

 ここは、この場にいない年長者に助けを求めるしかないだろう。

 

「月見さんもなんとか言ってやってよ。いくらなんでも無理だろ?」

 

 月見蓮は太刀川の戦術面の師匠であり、太刀川や三輪のような才能がある駄目男(本人達には絶対に言えないが)を成長させ、面倒をみることに長けている姉御系敏腕オペレーターである。だからこそ、出水は三輪を諌めるような返答を期待していたのだが、

 

「……月見さん?」

 

 そんな返答のかわりに、通信越しに驚いたような、息を飲むような気配がした。

 あの月見蓮が、である。

 直後、それを証明するかのように『緊急脱出(ベイルアウト)』の光が夜空に瞬いた。

 

「うお!? またかよ!?」

「今度は誰だ!?」

『三輪くん、出水くん、上空警戒!』 

 

 え、と間抜けな声を出して出水は夜空を見回し、三輪も同様に上方を仰ぎ見る。

 そして2人は、まったく同様に目を見張った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ――数分前。

 

「どこまで俺をこき使う気だ、まったく……」

 

 削られた足を引き摺り、前方を走る迅悠一になんとか追い縋りながら、如月龍神は文句を吐いた。

 太刀川と風間を連携で撃破しても、まだ『勝負』に勝ったわけではないのは理解できたが、それにしても迅の提案は無茶に思えた。

 

「まあまあ、もう一頑張り頼むよ、龍神」

 

 龍神の方を振り返りもせずに、迅は言う。

 

「……あとでぼんち揚げ1袋だ、迅さん」

「2袋やるよ」

「なら、3袋」

「この欲張りめ。1箱送りつけてやる」

「ふっ……」

 

 両腕がなく、足も思うように動かず、走りにくいことこの上なかったが、龍神は迅の気前の良い返事に応えるべく、彼の前方に『グラスホッパー』を設置した。

 1枚、2枚、3枚。

 まるで階段のように、設置距離ぎりぎりまで出現させたそのジャンプ台を駆け上がるのは、龍神ではなく迅だ。

 

「よっ……とっ!」

 

 一歩、二歩、三歩。

 ジャンプ台を連続で踏み込み、迅は一気に空中へと舞い上がった。

 

「……どうだ?」

『ダメです! まだ届きません!』

 

 できればこれで届いて欲しかったが、オペレーターからの返事はノーだ。

 

「なら……もう一踏ん張りだな」

 

 龍神は、遥か上空で上着をはためかせている迅を"見た"。瞬間、龍神の体は迅の隣まで"跳ぶ"。

 眼下の住宅街は想像よりも小さく、『テレポーター』で跳んだ距離は想定よりも長かった。要するに、予想していたよりもずっと高い。

 バランスをとれない両腕、そもそも着地に耐えられるのか分からない削られた足。そんな不安要素は頭から締め出して、龍神は声を張り上げた。

 

「細かい位置は!?」  

『視覚支援を入れます』

 

 嵐山隊オペレーター、綾辻遥は落ち着いた声と共に、龍神の視界にターゲットの詳しい位置と距離を表示してくれた。

 

『方角はそのまま! あのおっきいマンションです! やっちゃってください!』

 

 次いで、いかにも実況してます、といった雰囲気の興奮した声も届く。確かに分かりやすいのだが、お前も何かやれよ、と思わないでもない。

 だが生憎と、突っ込んでいる暇はなかった。龍神の『トリオン』はほぼ限界に近い。加えて今は空中だ。呑気に喋っていれば、そのまま落ちるだけである。

 だから龍神は、必要最小限の言葉しか言わなかった。

 

「あとは任せたぞ、迅さん」

 

 残りの『トリオン』を『戦闘体』の維持すら考えずに全てかき集め、『グラスホッパー』を限界数、限界距離まで最大展開。

 『風刃』は『黒トリガー』である為に、汎用性や防御などには欠けている面がある。が、たとえ『黒トリガー』が攻撃性能にのみ特化していたとしても、仲間と連携すれば、その程度の弱点は簡単に補える。

 

「おう、任せろ」

 

 今度は直上ではなく、斜め前方へ突進するように、迅は龍神の『グラスホッパー』を踏み込んでいった。

 

「……っぐ」

 

 ゆっくりと落下する中で、胴体に二発分の衝撃。体を撃ち抜かれたことを理解しつつも、龍神は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「……バカめ。わざわざ撃たなくても俺の『トリオン』はからっけつだ」

 

 誰も聞いていないというのにそんな捨て台詞を残し、如月龍神は『緊急脱出(ベイルアウト)』した。

 

◇◆◇◆

 

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 迅悠一はさながら空中を走るように、ひたすらに駆ける。

 ともすればボーダー本部よりも高いのではないかと思えるほどの上空から、龍神が残した『グラスホッパー』で走り抜けて、遂に迅はマンションの屋上に着地した。

 足は止めない。そのままの勢いで走り抜け、飛び降りる。

 眼下の公園には、呆気に取られた様子でこちらを見上げる、三輪と出水がいた。

 

「迅っ!?」

「マジか!?」

 

 驚きの声を上げる彼らが――特に三輪が撤退を認めずに戦闘を続行する未来が、迅には見えていた。故に、とどめは最後まで刺す必要があった。

 表情から驚愕の色は抜けきっていなかったが、三輪は即座にハンドガンを引き抜き、出水はトリオンキューブを展開した。さすがはA級、素早い反応だ。

 

「『風刃』」

 

 だが、それでも遅い。

 迅は落下しながら逆手に持ち替えた『風刃』で、背後のマンションの壁面を斬りつける。

 三輪と出水は、すでに迅の視界の内。ならば彼らの攻撃よりも、

 

「がっ……!?」

「あっ……!?」

 

 風の刃が迅いのは、当然のことだった。

 

『緊急脱出』

 

 機械音声までもがピタリと重なって、2つの光が同時に飛び上がる。

 

「よし、任務完了」

 

 地面に着地した迅は『風刃』を一振りすると、労うようにゆっくりと鞘に納めた。

 今夜の戦果はA級隊員5人。交渉材料につける『箔』としては、申し分ないだろう。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 一方その頃。

 

「嵐山さん、オレだけ生き残りましたよ!」

『ああ、よくやったな、賢』

「見ましたか? オレの必殺ツイン狙撃!」

『私も嵐山先輩も先にやられたんですから、見れるわけないじゃないですか』

「うそ!? 誰も見てないの!? 迅さんは!?」

『見てないと思いますよ。馬鹿言ってないで、はやく帰ってきてください』

「そんなっ!?」

 

 嵐山隊唯一の生き残りは二丁の『イーグレット』を取り落とし、がっくりと膝をついた。

 




《佐鳥のツイン狙撃、ボツネタ》
※当真が冬島さんにもう一回ワープをお願いするところから。



 ――言い訳をするつもりはない。だが、ワープからの狙撃をきめて自分も油断していたのだろう、と。
 胸から噴き出す『トリオン』を他人事のように眺めながら、当真はそう思った。

「あっれ…………?」

 ワープ直後に狙撃をした為、ある程度の位置が知られてしまったのは理解できる。だが、当真はビルの窓から狙撃を行い、壁に張り付いて冬島と交信していたのだ。
 どうして『狙撃』で撃ち抜かれた?
 そこまで考えた当真は、ようやく自分が張り付いていた壁も"撃ち抜かれている"ことを確認し、自身のレーダーにさっきまでは写っていなかった『反応』があるのも確認した。
 第一射で壁を、第一射で空いた穴から第二射を。
 一発ではなく、二発で自分を仕留めた。
 そんな変態染みた射撃を行う狙撃手はボーダーの中でも1人しかいない。
 こんな変態が、2人もいてたまるか。

「壁抜きとか……東さんみたいな真似しやがって、佐鳥のヤロウ」

 つうか、それなら『アイビス』使えよ。
 そんな呆れを含んだ呟きを溢す前に、当真は緊急脱出(ベイルアウト)した。


《ボツになった理由》
1.『イーグレット』をトリオン体以外に撃ち込んだ時の威力がよく分からない。
2.佐鳥が『アイビス』をセットしていないかどうか分からない。その内『アイビス』二丁でヘヴィツイン狙撃とかやるかもしれないし。
3.当真のツッコミが最もすぎる。
4.一射目で空けた穴から二射目をぶち込むとか、ちょっと佐鳥がスペシャルすぎる。
5.ちょっと佐鳥がイケメンすぎる。

以上、5つの理由からボツになったシーンでした。

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