B級ランク戦の中身を練ってました。更新ペース戻していきます。
厨二の家庭訪問
第二次大規模侵攻から約1週間が経過した、1月28日、火曜日。唐沢克己はボーダー本部の執務室で、積み上げた書類に目を通していた。
唐沢の肩書きは、ボーダーの外務・営業部長である。
界境防衛機関と銘打たれている『ボーダー』だが、外務・営業に限って言えば、その業務内容は一般企業とさして変わらない。簡単に言ってしまえば、組織を運営するための金を集めてくるのが唐沢の仕事だ。様々な会社、組織、団体に足を運び、資金融資を取り付ける。嫌な表現になるが、スポンサーに頭を下げて回る仕事、と言った方が正確かもしれない。
とはいえ、唐沢はこの仕事が嫌いではなかった。
交渉相手から金を引き出すのは、いわば一種の心理ゲームだ。リスクとメリットを提示した上で、相手に『ボーダー』という組織のプラスな印象をどれだけ刷り込めるか。相手にボーダーへの資金提供を、如何に『得』だと思わせるか。数年前まで非合法な組織で働いていたこともあって、唐沢はそうした交渉事が得意だった。
さて。
唐沢はその立場上、調達する資金だけでなく、出ていく支出についても目を通す習慣がついている。今読んでいるのは、まさしくその支出に関する書類だった。
第二次大規模侵攻、論功行賞一覧。
「…………」
吸い慣れたタバコに火をつけながら、ページを捲る。
二級戦功。報償金30万円、350ポイント支給。
該当者、該当部隊は以下の通り。
鈴鳴第一、村上鋼。
太刀川隊、出水公平。
三輪隊、米屋陽介。
草壁隊、緑川駿。
B級1位、二宮隊。
B級7位、東隊。
B級合同部隊(荒船隊、来馬隊、柿崎隊)。
鈴鳴第一の村上鋼は、敵新型の足止めに大きく貢献。その後も、忍田本部長の直援として最後まで戦い抜いた。片腕を失い、ダメージも負っていたにも関わらず、である。流石、No.4攻撃手は伊達ではないと言ったところか。
出水公平、米屋陽介、緑川駿の3名と、東隊、二宮隊は基地へ避難するC級隊員を援護。殿として、人型近界民の足止めにも尽力している。
B級合同部隊は影浦隊と共に、人型近界民(黒トリガー)を撃破。複数部隊の連携で黒トリガーを打破する、集団戦闘の好例となった。部隊間の戦術的連携は、大規模戦闘や防衛戦では重要な要素を占める。今後の訓練においても、力を入れるべきポイントになるだろう。
面識がある隊員達の顔を思い浮かべながら、唐沢は次のページに進んだ。
一級戦功。報償金80万円、800ポイント支給。
該当者、該当部隊については以下の通り。
三輪隊、三輪秀次。
二宮隊、二宮匡貴。
東隊、東春秋。
玉狛第一、木崎レイジ。
玉狛支部、迅悠一。
A級3位、風間隊。
A級5位、嵐山隊。
B級2位、影浦隊。
玉狛支部、玉狛第一。
三輪、二宮、東。旧東隊の3名は、人型近界民(黒トリガー)撃破の立役者だ。彼らが現場で合流に成功したのは全くの偶然だったが、結果として元A級1位部隊の力を存分に見せつける形になった。風間隊と影浦隊も、黒トリガーの撃退に大きな役割を果たしており、特に影浦隊は『隊章(エンブレム)持ち』の実力を遺憾なく発揮。開戦当初の『新型』迎撃に二宮隊と共に当たったこともあり、忍田からの評価も高い。彼らの降格の原因である根付が苦い表情だったのはご愛嬌である。
玉狛支部の木崎レイジは人型にトドメを刺したことと、的確な指揮で敵増援を押さえ込んだことから、部隊とは別で個人名義の表彰になっている。迅悠一も予知のサイドエフェクトをフル活用し、全体の指揮を大いに助けた。少数精鋭の実力派揃い。ボーダー三大派閥の一角である玉狛支部は、やはり非常時に存在感を示す。
また、トリオン兵を食い止めた、という点では嵐山隊の活躍も目覚ましかったと言えよう。逃げ遅れた市民の目の前で敵を倒す場面もあったらしく、メディア人気はますます鰻登り。今後の報道でも、大きく取り上げられるはずだ。大規模侵攻後の広報活動に頭を悩ませている根付も、これにはホクホク顔だろう。
「…………ふぅ」
溜め息と一緒に、紫煙を吐き出す。
別に唐沢は、隊員達に支給しなければならない金額を想像して、憂鬱になっているわけではない。曲がりなりにも、少年少女を戦場に駆り出しているのだ。危険な仕事には、高額な手当てがついて然るべきである。
危険を省みずに戦い、三門市を守ったボーダー隊員達。唐沢が彼らに報酬として渡してやれるのは、感謝の言葉と、必死でかき集めてきた金くらいだ。誰も、ボランティアで戦うことはできない。報酬としてそれなりの金額を渡すことで、息子や娘を戦場に送り出す彼らの両親もはじめて納得できる。ボーダー隊員は三門市を守る『正義の味方』というイメージを持たれているが、残念ながら現実の正義の味方は綺麗事だけでは勤まらない。
組織、人員、設備。これらを運用していく上で、やはり『資金』は何よりも重要な基盤となる。
もちろん唐沢は、世の中の全てを金で解決できると思っているわけではない。しかし、世の中で最も多くのことを解決できるのはやはり金であると思う。まだ学生も多いボーダー隊員達に、こんな持論は口が裂けても言えないが。
それかけた思考を切り替えながら、最後のページに目を移す。
――特級戦功。
報償金150万円、1500ポイントを支給。今回の防衛戦において、最も活躍した者達だ。
該当者は4名。
S級、天羽月彦。
戦闘能力だけなら、風刃を持つ迅すら上回る、ボーダー最強筆頭。今回の戦闘でも、たった1人で西部・北西部地区の敵集団を相手取り、市街地ごと更地に変えて殲滅し尽くした。味方に向ける言葉ではないかもしれないが、彼の戦闘能力を表現するなら『化物』という言葉が最も適切であるように思える。恐らく忍田が書き加えたのであろう、『警戒区域外で戦力として運用する場合には、やはり一考の余地あり』という記述を見て、唐沢は苦笑いを浮かべた。
2人目も、実力者だ。
太刀川隊、太刀川慶。
液状化能力を持つ黒トリガーの撃破に貢献し、さらに新型撃破数も忍田を除けばトップの7体。こちらも、相変わらず安定した実力を誇っている。
ここまでは、ある意味予想通り。
天羽と太刀川はボーダー内でも広く名が知られた実力者であり、そんな彼らが大規模戦闘で結果を残すのはある意味当然だ。周囲に実力を認められているからこそ、天羽と太刀川が特級戦功を取ったことに、大きな驚きはない。
だが、残りの2人。彼らはこれまで全くの無名であった隊員であり、しかも片方はまだ『C級隊員』ときている。訓練生が特級戦功を取った前例はない。良くも悪くも、ボーダー内で話題になるだろう。もっとも、彼らは一部の正隊員の中で、既に注目の的になっているのだが……
玉狛支部、空閑遊真。
開戦当初は、嵐山隊と行動を共にし、敵新型を多数撃破。その後はキューブ化能力を持つ人型近界民を旧東隊と協力して打倒した。
彼は、つい先日までその扱いについてボーダー上層部を大いに悩ませていた『近界民(ネイバー)』である。『黒トリガー』を巡る迅悠一とA級トップチームの対決、つまりはボーダーの派閥間抗争を激化させた張本人だ。最終的に城戸派は迅の『風刃』と引き換えに、彼のボーダー入隊を認めることになり、抗争は収束。『人型近界民』だった少年はボーダー隊員『空閑遊真』として晴れてボーダーに入隊した。その後、彼に付随していた『自律型トリオン兵』からは、遠征30回分に相当する膨大な情報提供がもたらされ、そして彼自身も今回の大規模侵攻で大きな戦果を挙げた。
空閑遊真がボーダーにもたらした利益は計り知れず、三輪隊を倒したその力量も改めて証明された。昨日の敵は今日の友とはよく言ったもので、今回の結果は『近界民』をボーダーに入隊させるという玉狛の判断が正しかったことを、完全に裏付けてしまった。
影浦隊の活躍には根付が渋い顔をしていたように、空閑遊真の活躍を聞いた城戸の表情は曇っていた。当然だ。常日頃から近界民の徹底排除を掲げる彼は、味方に引き入れた『近界民』が有用であるとは認めたくない。しかし、これだけの結果を見せられては、認めざるを得ない。
「……今回は『捕虜』を確保したというし、また荒れそうだな」
呟きながら唐沢が見るのは、最後の1人。アフトクラトルの兵士を捕らえる快挙を成し遂げた少年。つい最近チームを結成したばかりの、ランキング最下位のB級隊員だ。
如月隊、如月龍神。
開戦後、那須隊と合流した彼は那須隊と協力して最初に『新型』を撃破。その後は玉狛第一、木虎藍、三雲修と合流し、2名の人型近界民と交戦。その内の1名を撃破し、捕縛することに成功した。
その後は烏丸京介と共に、黒トリガーと交戦中だった迅の援護に駆けつけ、特例として装備が認められていた『ガイスト』を起動。大いに奮戦し、黒トリガーの撃破に多大な貢献を果たした。
トリガーの使用に関する発想や応用力が高く、優れた技量を持っていることは唐沢も聞き及んではいたが、それにしても今回の戦果は異常だ。迅悠一が裏から手を回して使用許可を取った『ガイスト』も、短期間で実戦レベルにまで仕上げている。成長した、というよりも埋もれていたものが表に出てきた、という印象を受ける。
もしも、城戸がこの結果を見越して、彼にチームを組むことを強要したのだとしたら……
コンコン、と。
軽く響いたノックの音に、唐沢は顔を上げた。
「どうぞ」
「部長、失礼します」
入ってきたのは、まだ若い部下の1人。年齢等の関係もあって、唐沢は自分の下にはなるべく若い人材を回してくれるように、城戸と人事部に頼んでいる。
「唐沢部長。そろそろ城戸司令達が記者会見の会場に向かわれるみたいです」
「……ん。もうそんな時間か」
いつの間にか、時計の針は11時を少し過ぎた時刻を指していた。
煙草を口から人差し指に持ち替えて、ゆったりと煙を吐き出す。手元の書類に目を通している内に、思考に没入してしまっていたらしい。
「本当に出席しなくてもいいんですか?」
優秀だがまだ色々と青いその部下は、やや不満そうな表情でそう聞いてきた。手元の資料に再び視線を落としつつ、唐沢は答えた。
「会見には城戸司令と忍田本部長が揃って顔を出す。鬼怒田さんと林藤支部長も出席するし、全体の仕上げはもちろん根付さんだ。俺が行く必要はないよ」
大規模侵攻から約1週間が過ぎた、今日。ボーダーは正午から、主要メディアに向けた記者会見を開くことになっている。
4年半前以来の、近界民による大規模侵攻だ。これが話題にならないわけがない。すでに世間では様々な形で今回の戦闘の模様や被害が報じられ、注目を集めているが……メディア対策室長の根付栄蔵は、言うまでもなくこの手の分野のスペシャリストだ。記者に対する『仕込み』にも抜かりはないだろうし、何より今回の防衛戦には『死者0名』という実績がある。
はっきり言って、唐沢が出る幕はない。
しかし、
「……外出ですか?」
「ああ、ちょっと用事があってね」
灰皿に吸殻を押し付けて、席を立つ。
唐沢から見ても、根付の仕込みは完璧だった。死亡者0、というアピールポイントに加えて、彼はもう1枚切り札を握っている。スケープゴートに用意されたのは、ある意味で如月龍神と同じ『無名のB級隊員』だ。だが、少なくとも唐沢の中では、彼は無名の隊員ではない。
もったいないと思う。
あの少年を組織の身代わりに使うのは、自分の中ではどうにも収支が合わない。
唐沢はコートを羽織り、使い慣れた鞄を手に取った。車のキーは、ポケットの中に。今日、彼が本部に来ていないことは確認しているし、林藤から最近は玉狛支部にあまり顔を出していないと聞いている。今から出れば、彼の自宅に寄って会場に向かっても十分に間に合うだろう。
最後に、ライターと愛飲している銘柄を懐に入れて、唐沢は執務室を後にした。
◇◆◇◆
まだ大規模侵攻の爪痕が色濃く残る、警戒区域付近の市街地。
三雲修と空閑遊真は、そこで最近の日課とも言える作業を続けていた。黙々と、ひたすらに。瓦礫をどかしては掘り返す。気が遠くなるような、単純作業。
べつに修達は、わざわざ好き好んで瓦礫を掘り返しているわけではない。探しているものがあるから、こんな作業をずっと続けているのだ。
けれど、あの日いなくなったレプリカの――残骸とは呼びたくない――真っ二つにされた本体は、一向に見つかる気配がなかった。
「もういいよ、修」
ふと、正気に戻ったように。
遊真は、ぽつりとそう言った。
「だけど、空閑……」
「いいんだ。多分、レプリカの体はあいつらに持って行かれた。これだけ探して見つからないっていうのは、そういうことだろ?」
ひっくり返した瓦礫はそれなりの数になるが、修の隣で同じように作業を続ける遊真には、疲れた様子は見えない。遊真の体は生身ではなく『トリオン体』なので、当たり前と言えば当たり前だ。
そう。遊真は少しも汗をかかず、息も切らしていない。だが修から見た今の遊真は、どこか疲れているようにも見えた。
「ごめん……ぼくのせいで」
「……やれやれ。まったく、オサムは何回謝れば気が済むんだ? レプリカが連れ去られたのはオサムのせいじゃないって、おれは何度も言っただろ?」
「それは……」
「レプリカもオサムも、チカや他のC級を守るためにそのときできることを全力でやったんだ。おれはそれに文句を言う権利はないし、文句をつける気もないよ」
ポケットから取り出したレプリカの『ちび』を見詰めて、遊真は言う。
「あいつは……レプリカは、おれの頼みに応えてくれた。さすが、おれの相棒だ」
息が詰まりそうだった。
空閑遊真は、嘘を見抜くサイドエフェクトを持っている。だから遊真は決して嘘を吐かないし、自分を偽ることをしない。
だから修には分かる。
遊真は、自分が頼んだ役目をレプリカが果たしてくれたことに心から感謝している。遊真は、あの時ベストを尽くした修のことを、少しも責めていない。
けれど、だからこそ苦しい。その優しさが偽りでないと、分かってしまうから。遊真のまっすぐな思いが、修には辛かった。
「しおりちゃんたちが言うには、この『ちびレプリカ』が消えないかぎり、レプリカは死んでない。つまりあいつは、アフトクラトルでまだ生きてる」
トリオン兵のレプリカに対して、遊真は『生きている』という言葉を使う。父親の有吾が亡くなってから、数年間。遊真はレプリカと2人で『生きてきた』からだ。
「レプリカは生きてる。A級を目指す理由が、また増えたな」
修は、拳を握り締めた。
雨取麟児が近界に行くことを、自分は知っていたのに止められなかった。その真意を見抜くことができなかったからだ。だから、千佳を泣かせてしまった。
レプリカが目の前でやられるのを、自分は止められなかった。止めるだけの力がなかったからだ。だから今、遊真にこんな思いをさせている。
強くならなければならない。自分が成すべきだと思ったことを、実際に成し遂げられるだけの強さが欲しい。
過去は変えられない。
未来は変えられる。
だから、今は後ろを振り向いて、後悔している場合じゃない。
前を向いて、一歩でも前に。進むべき時だ。
「よし、じゃあ行くか。玉狛に戻って、ランク戦に向けた作戦会議だ。修が最近顔を出してないから、ボスも気にしていたぞ?」
「……そうだな」
修は、顔を上げた。
「でも、玉狛に行く前にウチに来ないか?」
「オサムの家に?」
「母さんが、ぼくの好物を作って待ってる。友達を呼ぶって、言ってあるんだ」
「ほう、オサムの好物か……いいね。それはどんな食べ物なんだ? ウマイのか?」
「……ああ、うまいぞ。母さんのクリームコロッケは絶品だ」
「ほほう、クリームコロッケか。それは食ったことないな……楽しみだ」
レイジさんに昼飯いらないって言わなきゃな、と。携帯を取り出した遊真は、顔を綻ばせた。
◆◇◆◇
カラリと揚がった衣を割ると、中に待っていたのはとろりとしたホワイトソースだった。
――クリームコロッケ。
そもそも、揚げ物をうまく揚げるのは意外と難しい。揚げすぎて外が固くなることがあれば、火がきちんと通らずに中の具材が温い、なんてこともある。揚げ油の処理や、油が跳ねたコンロ掃除の面倒臭さは、それはもう筆舌に尽くしがたい。最近はスーパーのお惣菜コーナーが充実しているので買った方が安いし、なにより手間もかからない。コツを掴んで慣れてしまえば簡単だが、そこまで至るのが大変……というのが、一般的な揚げ物料理のイメージだ。
その点、彼女の手際には一切の迷いがなかった。目をつぶっても作れるのではないかと思うほど鮮やかに、しかし豪快に。彼女は手のひらサイズのコロッケを凄まじいスピードでまとめあげ、完璧に揚げてみせた。長年、家族の為にそのメニューを作ってきた年季が、はっきりと感じ取れたのだ。
だからこそ、このクリームコロッケが美味いのは必然だった。
手作りだというそのソースは、意外にもあっさりめ。だが、決して味が薄いわけではない。むしろご飯や味噌汁によく合うような、優しい味つけだ。例えるならば、一流のレストランで出されるような品とは違う。ふと立ち寄った大衆食堂で思いがけず出会った、素朴な一品。そんなイメージだろうか。
一口、また一口と、箸を動かす手が止まらない。揚げたてサクサクの食感と、中からとろけ出るホワイトソースの風味は、出来合いのお惣菜では絶対に味わえないものだ。ご飯をかきこみ、味噌汁をすすり、ほっと一息つく。
嗚呼、なんて幸せな――
「…………如月先輩、何しているんですか?」
不意にかけられた声に、如月龍神の箸を持つ手は止まった。ついでに、全身も固まった。
いつの間に帰ってきたのだろうか? いや、違う。クリームコロッケがおいしすぎて、2人が帰ってきたことに気がつかなかっただけだ。クリームコロッケが美味すぎるのが悪い。
三雲修と空閑遊真――2人の後輩は、なんとも言えない表情でこちらを見ていた。より正確に言えば、遊真の方は「なんでたつみ先輩がオサムの家にいるの?」と、すごく不思議そうに。修の方は「どうしてこの人はぼくの家でご飯食べてるんだろう?」とすごく何か言いたそうに、こちらを見ていた。
ゴホン、と咳払いをして箸を置き、龍神は2人に向き直った。
「……まず、先に昼食をいただいていたことは謝ろう」
「……はい」
「色々と言いたいことはあるだろうが、とりあえずこれだけは言わせてほしい」
「……はい」
「……三雲」
「はい?」
「お前のお姉さんのクリームコロッケ、めちゃくちゃ美味いな!」
たっぷり10秒。
修は困ったように沈黙してから、ようやく答えた。
「……母です」
「……………………え?」
「あら修、お帰りなさい」
キッチンの奥から、修の『母』――三雲香澄が、ひょっこりと顔を出した。
風間さんの個人の論功は?という方は次回をお待ちください。一応、ちゃんと理由があります。