厨二なボーダー隊員   作:龍流

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なかなか本編が進められず、かといってエイプリルネタをいつまでも放置していてもアレなので、番外編更新。


もしもボーダー隊員がTSしたら その弐

 如月龍神は、カツカレーを凝視していた。

 ボーダーの食堂で提供されるカツカレーは、その値段の安さに見合わないライスのボリューム、コストパフォーマンスの良さもさることながら、なにより揚げたてサクサクのカツのうまさで知られている。龍神の目の前で湯気をたてているトンカツも香ばしい匂いをホカホカと立ち上らせており、カレー特有のスパイスの香りと相まって、強烈に食欲を煽ってくる。昼食を抜いていた故に、龍神の胃袋は強烈にそれを欲していた。

 

「どうした? 食べないのか?」

 

 だが、手をつけられない。

 目の前の席に座り、頬をリスのように膨らませながらカツカレーを頬張っているクールロリ美少女が気になって、龍神は自分のカツカレーに手をつける気にまったくなれなかった。

 

 落ち着け。

 

 龍神は心の中で素数を数えながら、大きく深呼吸した。パニックに陥った時、大切なのは落ち着いて自分が置かれている状況を整理することである。まずは、これまでの経緯を思い返してみよう。

 第一に、龍神は居眠りをしてしまった。

 第二に、龍神の部屋に人が訪ねてきた。

 第三に、それはクールロリな年上美少女だった。

 第四に、彼女の名前は『風間』というらしい。

 第五に、今、龍神は彼女にカツカレーを奢られている。

 

 ダメだ。意味わかんねぇ。

 

 龍神は状況整理を放り投げた。

 

「如月、冷めるぞ」

「……」

「おい、如月」

 

 そもそも、だ。

 目の前でカツカレーを食っている美少女は、本当に自分が知っている風間なのだろうか?

 確かに龍神が知っている風間蒼也は、カツカレーが大好きで年がら年中カツカレーを食っている。一度だけ、修と一緒にパスタを食べているところを見たことがあるが、本当にそれだけである。風間の主食はカツカレーといっても過言ではない、というか、実際に風間隊オペレーターの三上は「風間さんってカツカレーしか食べないんだよ~」と、冗談めかして語っていた。イメージカラーは青のくせに、彼は体が黄ばみそうなくらいカツカレーを愛している。戦隊ポジションでいえば確実にブルーの立ち位置のくせに、食べ物だけでコメディリリーフの黄色ポジションに落ち着きそうなほどにカレーとスプーンを携えている。それほどまでに、風間蒼也という男は常日頃からカツカレーを食していた。

 つまり、今目の前にいる美少女はただ単にカツカレーが好きなだけの、偶然名字が『風間』な美少女かもしれないのだ。決して、決して『風間蒼也』と同一人物というわけでは……

 

「……いい加減にしろ、如月」

 

 ずいっと。

 机に乗り出した風間(仮)は机の上に身を乗り出し、肌と肌が触れ合いそうな勢いで龍神に顔を近づけた。あまりの近さに、龍神は思わずのけぞって顔をそむける。

 

「最初からそうだったが、今日のお前は本当におかしいぞ? どうしてカツカレーに手をつけようとしない? カツカレーが嫌いになったのか? わたしが奢ったカツカレーを食べられないとでもいうのか?」

「い、いや、断じてそういうわけでは……」

 

 あんたが気になってカツカレーが喉を通りません、なんて言えるわけもなく。龍神は適当に言葉を重ねてお茶を濁した。

 

「……そうか。なら、いい」

 

 納得したように、風間(仮)は体を引いて、

 

 

 

 

「あーん」

 

 

 

 

 龍神の皿からスプーンを奪い取り、そのまま口に向かって突き出してきた。

 

「……は?」

「見て分からんか? 『あーん』だ」

 

 それは見れば分かる。大抵の男なら一度は夢見るシチュエーション。女の子にお箸やスプーンを持ってもらい、食べさせてもらうアレである。

 

「どうした如月? まさか、わたしの『あーん』が受けつけられないというわけではないだろう?」

「……そういう問題ではない。どうして、風間さんが俺に『あーん』する必要があるんだ?」

「愚問だな。お前にカツカレーを食べさせるために決まっているだろう」

 

 真顔で言い切る風間(仮)。見た目がクールロリなせいで騙されそうになるが、その独特な押しの強さは紛れもなく風間蒼也そのものであった。

 突き出されるスプーンにはご丁寧にホカホカのカツまで乗っており、カツカレーはカレーとカツを一緒に食べるべきだという彼女の熱い拘りを感じさせる。

 

「さあ、食べろ」

「いや……その、ここは人目があるだろう? こんなことをしていると、あらぬ誤解を招く可能性も……」

「わたしは一向に気にしない。言いたいヤツには言わせておけ」

「……」

「食え」

 

 万事休すか。

 全てを諦め、龍神が『あーん』を受け入れようとしたその時、

 

 

 

 

「……なにやってるんですか、風間さん」

 

 

 不意に響いた声は、またしても女性のものだった。龍神が慌てて振り返ると……いつからそこにいたのか。実に分かりやすい不機嫌な表情で、1人の少女が立っていた。

 白のブラウスに、風間隊のイメージカラーである青のカーディガン。ちょうど肩にかかるくらいの茶髪は、耳元をすっぽりと覆い隠してしている。かわいらしい猫目は普通にしていれば愛嬌があっただろうが、彼女は目を細めて龍神を睨みつけていたので印象としては逆効果だった。

 

「あのさ。ウチの風間さんと食堂の真ん中でいちゃいちゃしないでくれる? 見ててすごくウザイんだけど」

「やめろ菊池原。如月はわたしが誘ったんだ」

「え」

 

 さらり、と。本当にさらりと少女の名前を口にした風間(仮)。龍神は、凍り付いた体を強引に動かして少女をまじまじと見た。

 

「なに見てるの? ボクの顔に何かついてる? キモチワルイから、こっち見るのやめてくれない?」

 

 カーディガンの袖先からちらりと覗く指先で髪をいじりつつ、容赦なく毒を吐いてくる少女。人を小馬鹿にしたこの言動と、思わずぶん殴りたくなる生意気な雰囲気を龍神はよく知っている。知っているがしかし、認めたくはなかった。

 

「菊池原……?」

「そうに決まってるじゃん。頭おかしくなったの?」

 

 龍神は椅子から飛びあがるように立ち上がり、全力疾走でその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 おかしい、おかしい、おかしい……

 これはおかしい。本当におかしい。両腕を振りあげ、大きく広く脚を動かすお手本のようなフォームで廊下を駆け抜けながら、如月龍神は考える。

 風間がクールロリになっていただけでなく、菊池原まで毒舌ボクっ娘になっていた……などと。こんな事態を、一体誰が予想できようか? 予想できるわけがないだろいい加減にしろ、と龍神は叫びたかった。しかも、両方とも特徴を残したまま微妙にかわいいのが、また絶妙に腹がたつ。

 

「くそっ……どうなっているんだ」

 

 まさか、開発部が妙な悪知恵を働かせて、風間と菊池原の性別をトランスフォーメーションさせたのだろうか?

 ……いや、ありえない。他の人間ならともかく、風間がそんな悪ふざけに協力するわけがない。万が一、百歩、ではなく万歩譲って風間が馬鹿な企画に手を貸したとしても、菊池原までそれに便乗することは絶対にありえない。本当に有り得ないのだ。

 

 ならば、考えられる可能性は、たったひとつ。この世界では、龍神が知っている人物の性別が、反転している……?

 

「そんなバカなっ!」

 

 居眠りしている間に、別の世界線に迷い込んでしまったのか。それとも、パラレルワールドに異世界転生してしまったのか。

 普段から馬鹿だのバカだのと言われている厨二馬鹿でも、さすがにこの現実は受け入れられなかった。現実を受け入れることを脳が拒否しているために、ただただ足を動かして走り続けるしかなかった。だからこそ、前方の注意を怠っていた龍神が、廊下の曲がり角で人とぶつかるのは必然だった。

 

「ぬお!?」

「きゃっ!」

 

 そこそこのスピードで疾駆していた龍神はそれなりの勢いで曲がり角から出てきた人影と正面衝突……する前にギリギリで身をよじり、もんどりうって廊下に倒れこんだ。顔面をヘッドバットするような衝撃に悶えていると、悲鳴をあげた相手が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「……あ、ああ。大丈夫だ、すまない。怪我はないか?」

「あ、あたしは大丈夫ですけど……って、あれ!? 如月先輩?」

「……ん?」

 

 ヒリヒリする顔面をさすりながら、龍神はこちらを見下ろしている少女が『赤いジャージ』を着ていることをようやく認識した。

 

「なんだぁ、如月先輩かぁ! すっごい勢いで飛び出してきたから、びっくりしちゃいましたよ! あ、でも惜しかったですね! あたしが食パンくわえてぶつかってたら、まさに運命の相手って感じだったのに! アハハ!」

 

 

 嵐山隊のトレードマークである赤いジャージの胸元を、やや緩めた状態で着こなし、濃い茶色の髪をサイドテールにまとめている彼女は、ニコニコと龍神に話しかけてくる。微妙にかわいいと言えるレベルの顔の造作に、女性にしてはやや締まりが足りないだらしのない笑顔。かわいくないとは言わないが、なんというか全体的な雰囲気が『クラスに1人はいる、笑いのネタにしてもいい、いじられ愛され系女子』を醸し出していた。

 

「さ、佐鳥……?」

「はいはーい! ボーダーの顔! 嵐山隊が誇る美少女ツインスナイパー! 佐鳥とはあたしのことですよー!」

 

 

 ご丁寧にウインクとピースまでつけて、キメポーズを取る三枚目女子。自称佐鳥。

 ぶちり、と。

 龍神の脳のキャパシティーは、限界を迎えた。

 

「……」

 

 どん、ばたり。

 

「ああ!? 如月先輩!? どうしたんですか先輩!? せんぱーい!?」

 

 龍神は意識を手放した。

 




こんかいのとうじょうじんぶつ


『如月龍神』
めずらしく混乱している。

『かざま』
年上系クールロリ。大人の魅力と子どもっぽい愛らしさを兼ね備えつつ、「わたしのチームに来い」とボクっ娘後輩を勧誘したり、先走るそばかすワンコ系女子に「なら、勝手に突っ込んで死ね」と、Sっ気溢れる助言を授けることができるスーパーちびっ子隊長。カツカレーが大好きというギャップ萌えまで完備。しかも、メガネ三つ編みの地味な主人公の前に「お前の力を見せてみろ」的なムーブで立ちはだかることも可能。あまりにもあざとさがカメレオンできていないため、仮に人気投票を行った場合、ロリコン枠と先輩大好き枠の読者から熱い支持を受けられると思われる。
余談ではあるが、最近のジャンプは、鬼滅の蜜璃さんやしのぶさん、ぼくべんの真冬先生やあしゅみー先輩など、お姉さん系年上ヒロインが熱い。

『きくちはら』
・茶髪のセミロング
・ボクっ娘
・萌え袖カーディガン
・特殊能力持ち
・能力使用時に髪型をチェンジ
等々、隊長以上にあざとさを盛り込んだ怪物。なんだコイツ。

『うたがわ』
カメレオン。

『さとり』
多分、CV東〇奈央。

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