厨二なボーダー隊員   作:龍流

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轟剣。使い手と作り手と

「な、な、な……」

 

 小南桐絵は絶句していた。わなわなと指を震わせながら、画面の中で悠々と大剣を構える彼……如月龍神の姿を信じられない面持ちで凝視する。端的に言って、その驚きっぷりは、もう美少女が台無しと言っても過言ではないものだった。

 

「レイガスト……ウソでしょ……龍神のヤツ、まさかブレードトリガーを3種全部、トリガーにセットしていたってこと!?」

 

 小南の発言は、正しく観客達の驚愕を代弁していた。

 

「そういうことだろうな」

「そういうこと……って、だってレイジさん!? 普通はそんなことしないでしょ!? 普段の個人戦ならまだしも、本番のランク戦なのよ、これ!?」

「普通ならしないことを、平然とやってのけるのがアイツだ」

「そりゃもちろん、アイツが馬鹿なのは知ってたけど、でもこんな……」

「なら、お前の予想を遥かに超えて、アイツが大馬鹿者だった、ということだろう?」

「っ……ぅう」

 

 周りの人間の反応など見えていない様に、レイジの返答は至って冷静だった。思わず、身をのりだして綾辻が問う。

 

「木崎隊長は、驚かれないんですね?」

「もちろん、驚いてはいる。ただ如月がレイガストをこのランク戦に持ち込んでくる可能性は、たしかにあった。もちろん、小南がさっき言った通り『スコーピオン』を持ち出した時点で、その可能性は潰れたものだと思っていたが……まさか、ブレードを『三積み』とはな」

 

 多数のトリガーを扱う『完璧万能手』として惹かれるものでもあったのか。好奇に彩られたレイジの笑みは、間近で見るには少々珍しい。興味が煽られて、綾辻はさらに重ねて質問を投げた。

 

「木崎隊長は、如月隊長のレイガスト使用を予想されていた、と? しかし、如月隊長がレイガストを使った記録は残っていませんが?」

「ここじゃない。玉狛支部で使っていた」

「そうなのですか!?」

「ああ。もちろん、弧月に比べれば練度は劣るだろう。だが、アイツは決して短くない時間、ウチの仮想戦闘ルームでレイガストを握っている」

 

 ちらり、と。レイジは大剣を構える龍神ではなく、現在の得点が表示されているモニターを見た。既に全滅したとはいえ、現在最も多くの得点を得ているチーム。その先頭に記されている名前を。

 

「三雲にレイガストの基礎を叩き込んだのは、如月だ」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 いつもそうだ、と思った。不敵な笑みを浮かべながら、あの師匠は常に自分の予想を超えてくる。

 けれど、同時に。自分と同じトリガーを構える師の姿を見て、嬉しさにも似た感情がこみ上げてくるのも、また事実であり。そうした諸々を含めて、

 

「……敵わないな」

 

 修は、誰にも気付かれないように、小さく笑った。

 

「……大丈夫か? オサム」

 

 いや、隣に座る相棒には、気づかれていたか。

 

「ああ、大丈夫だ。作戦は大体うまくいったし、得点は稼げた。あと、ぼく達にできるのは、この勝負の結果を見守るだけだ」

 

 玉狛第二の現在の得点は4点。龍神達、如月隊が追いつくためには、まず村上を倒して1点を獲得し、生存点の2点を得るしかない。

 既に全員が脱落し、これ以上の追加得点を望めない身として、望むべきは間違いなく村上の勝利だ。

 

 だけれど、

 

「でも、なんでだろうな……」

 

 油断なく、その大きな得物を構える後ろ姿に。

 

「……もっと、うまくできたんじゃないかって。そう思ってしまうんだ」

 

 何を見せてくれるんだ、と。

 期待してしまう自分がいることを、三雲修は否定できない。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 スタイルが違う、と村上鋼は思った。

 村上は基本的にレイガストを楯として用い、攻撃は弧月で行う場合が大半だ。無論、スラスターを利用した投擲、もしくは斬撃などで攻撃に使用する場合もあるが、村上にとってレイガストというトリガーの主な役割は防御である。

 しかし、対峙する龍神は違った。

 重い刀身を背負い込むようにレイガストを構える龍神は、その構えだけで「これをブレードとして使う」と、言外に主張していた。龍神との距離は、おおよそ15メートル。弧月を振るうには遠く、『旋空』を使うには少し近すぎる間合いだ。

 

「荒船もそうだったが……ここにきて、お前も『隠し玉』とはな」

「鋼さんの驚いた表情を見れただけで、これを持ち出してきた甲斐がある」

「そうかい」

 

 相変わらず、舐めた口をきく後輩だ。

 

「それで? オレが『学習していない戦い方』をすれば勝てる……なんて思っているのなら、それこそ、その下らない考えはすぐに改めてもらう必要があるぞ」

「心配する必要はない」

 

 先ほどの発言を皮肉交じりに返しても。笑みを浮かべたまま、あくまでも強気に龍神は嘯く。

 

「やってみればすぐにわかる」

 

 なるほど、と村上は思った。

 そこまで言うのであれば、 

 

「試させてもらおうか」

 

 瞬間、空気を裂いたのはトリオンの燃焼音。

 爆発的な加速を伴って、村上は一気に前に出る。

 

「っ……!」

 

 舐めた口をきく後輩ではあるが、しかし村上はこの後輩を本当の意味で『舐めた』ことなど一度もない。最初に出会った時から如月龍神は紛れもない『馬鹿』であり……そして、何をしてくるか分からない『強敵』だった。龍神が新しいトリガーを持ち出して、この状況の打破を狙っているのであれば。戦闘のペースを取り戻される前に、まず出先を叩く。新しい『何か』をされる前に、このまま押し潰す。

 睨み合いの状態から一転。自分から均衡を崩しにきた村上に、龍神は目を見開いた。慎重な村上らしからぬ、大胆な一手。

 

 が、

 

「……天舞」

 

 馬鹿は、動じず。

 相手が自分から飛び込んでくるというのなら、それに応じるだけのこと。さながら、その落ち着きを声ではなく行動で示すように。不意を打ったにも関わらず、龍神の判断とアクションには一切の迷いがなかった。

 起動したグラスホッパーを踏み込んだ龍神は、しかし先ほどまでのように後ろには下がらない。出力を抑えたジャンプ板を利用し、全開のそれに比べれば軽い跳躍。横ではなく、縦の機動。上空への回避を行った龍神は、そうして得た位置エネルギーを反撃に繋げた。

 

「スラスター!」

 

 位置取りとタイミングを活かした、大上段の振り下ろし。加えて、スラスターを利用したインパクトの衝撃。

 咄嗟に掲げた村上のレイガストはその一撃を受け止めたが、みしりと嫌な感触が腕まで響き、踏みしめた地面の中に、濃紺のブーツが比喩でもなんでもなくめり込んだ。

 

(重いっ……!)

 

 誰よりも使い慣れてきたはずのトリガー。けれど、それがこうして敵に回ることで、改めてその特性を再認識する。

 トリオン体の『耐久力』は、トリオン量が戦闘の自由度を決めるといっても過言ではない戦闘の中で、数少ないトリオンに左右されない『ステータス』である。二宮匡貴のようにどれだけトリオン量が多かろうが、三雲修のようにどれだけトリオン量が少なかろうが、平均的な出力で形成された弧月のブレードは、両者の体に触れればその肉体を等しく切り裂く。噛み砕いて例えるなら、RPGゲームのHPが最もわかりやすいだろうか。二宮のHPは2800。修のHPは400。しかし、両者の防御力は同じ。あくまでも例えではあるが、攻撃力100の弧月で攻撃されれば等しく100のダメージを受ける。

 弧月、スコーピオン、レイガスト。ボーダーの中で規格化されたブレードトリガーは、トリオン量の差が出にくい装備である。どのブレードトリガーも最低限、トリオン体を『切断』できる攻撃力は保証されている。逆に言えば、他の部分で差別化を図ることで、それぞれのブレードトリガーは使い手にあったニーズを確立していた。弧月は生身で振るう時に近いオーソドックスな使用感と、豊富なオプショントリガーを。スコーピオンはほぼゼロに近い異様な軽さと、伸縮自由、変幻自在のトリッキーな持ち味を。そして、レイガストは……多くの攻撃手達から、ある決まり文句に近い一言と共に、ブレードトリガーとしての有用性を疑問視され続けてきた。

 

 

 重すぎる、と。

 

 

 極論ではあるが。最低限、相手の体を両断できる切れ味が保証されているのなら、軽さや扱いやすさといった別の要素が重要視されるのは当然のことである。シールドモードへの変形機能や他に類を見ない特殊なオプションである『スラスター』を盛り込んだ『レイガスト』は、技術的な見地から言えば、間違いなく野心的で革新的なブレードトリガーだった。しかし、至近距離での斬り合いを好む攻撃手達にはどうしても受け入れられず、村上やレイジ、雪丸といった、ごく少数の優れた使い手に……『楯』や『ナックルガード』、もしくはさらに特殊な改造を施される形で、受け入れられるに留まってきた。

 

 それを、コイツは。

 

(こうも……) 

 

 こんな形で『剣』として使うのか?

 

 ぐん、と。

 

 振り下した状態。正しく物理的に地面に抑えつけた村上のレイガストを器用に踏み込んで……否、踏みつけて、龍神の体が再び宙に舞う。隙だらけなその機動に、釣られるように弧月を振るった時には……もう遅かった。

 

「イグニッション・ツイン」

 

 あり得ない体勢から、あり得ない角度で、あり得ないタイミングの。物理法則を無視して振るわれる大剣に、応じる防御が間に合わない。スラスターによる加速で強引に放っているはずの斬撃は、しかし、けれど、とてつもなく受け辛い。

 防御は呼吸。タイミングが命だ。それを、こうも崩されては……!

 

「ちぃ……!」

 

 釣られた弧月を反射で掲げたのは悪手だった。半ば巻き込まれる形で斬撃を受けた刀身は、あっさりと手から離れ、吹き飛ばされる。取りに行くよりも、再生成した方が明らかに早い距離まで弧月が落下し、地面に突き刺さった。

 着地した龍神の手のひらの中で、レイガストの柄がぐるんと器用に回る。縦に長く、横に広く。素人が握れば思い通りに振り回すことが難しいその刃を、龍神は重心の移動を伴って曲芸のように思うがままに斬り上げ、斬り下げ、叩きつける。

 重く、返しにくい斬撃だ。だが、相手が『スラスター』を使ってくるのなら、こちらも使えばいいだけのこと。たとえ重くても、スラスターなら弾き返せる。

 

「スラスター……」

 

 斜めに剣を受けた状態で。叫んだ村上の、その瞬間を待ちかねていたかのように、

 

「オン!」

「イグニッション!」

 

 龍神もまた、スラスターを起動した。

 爆発的な加速力がその場で拮抗し、ベクトルを合わせられたトリオンの噴射によって、ブレードとシールドが激突、瞬くように火花が散る。衝突の強烈なインパクトによって、土の粒が宙を舞う。

 

(スラスターを……スラスターで相殺だとっ!?)

 

 睨みつけた先。対峙する不敵な笑みが、より一層その濃さを増した。

 

(なんだ……?)

 

 龍神のレイガストの取り扱いは、明らかに一朝一夕のものではない。だが、驚くべきはそこではなく。

 

(どうして……こんなにもやりづらい?)

 

 頬からこぼれ落ちていく水滴が、小雨ではなく冷や汗であることを自覚する。

 不意に、スラスターを用いた急加速を活かした斬撃が混じるとはいえ。龍神が繰り出してくる斬撃は、弧月にスコーピオンを絡めた先ほどまでの剣戟と比較すれば、明らかに遅い。あるいは、もっと速く不意を突くことに特化した遊真の攻撃ですら、自分は余裕を持って捌いていたはずだ。反撃の余地が充分にあったはずだ。

 にも関わらず。この鈍重な大剣による斬撃に対して、今。受けるだけで精一杯になってしまっている。

 

 ふと、疑問に思う。

 

 龍神が手にしているあの『剣』は、本当に自分が右腕に構える『楯』と、同じトリガーなのか、と。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「おれが『レイガスト』っていうトリガーに求めたのは、弧月やスコーピオンとは違う可能性だった」

 

 薄暗い部屋の中で。やや肥満体といって差し支えないその男性は誰ともなしにぼんやりと呟いた。

 右手にコーラを持ち、左手でポテトチップスを摘まむという、あまりにもあんまりな……いささかリラックスし過ぎではないかと突っ込みたくなる鑑賞スタイルを取っていたが、眠たげな瞳は食い入るように画面の中を凝視していた。

 

「当時は、射撃トリガーの全盛期っていう攻撃手にとっては暗黒期みたいな時代でさ。シールドの性能も今みたいに高くなかったから、近づくだけでもしんどくて」

「けっ……玄界の技術はつくづくサル並だな。矛と楯の追っかけあいみてぇなことを延々と繰り返して、ようやく出来たのがこのレベルのトリガーだっていうんだから、まったく世話ないぜ」

「そう言うなよ。お前らんとこのトリガーみたいに特製のワンオフ品じゃなくて、こっちのトリガーは量産重視の規格品なんだ。自由度も基準になるトリオン量もまるで変わってくる」

 

 つくづく人を小馬鹿にしたような言葉を吐く、けれど人ではない黒く小さな声の発生源にぼやくように返しながら、彼はコップに追加のコーラを注いだ。

 

「あぁ? オレの泥の王はともかく、ヒュースの野郎の『蝶の楯』なんかは本国に戻りゃ予備がある規格品だぜ? さすがに量産してるわけじゃねーが、替えが効かねぇ一点モノってわけじゃねぇよ」

「だとしても『トリガー角』にブーストされた豊富なトリオン前提の話をされてもねぇ……」

 

 へぇ、アレいくつか試作されてるんだ、と。また貴重な情報をうっかりこぼしてくれたことに感謝しつつ、されど口には出さず。愛すべき捕虜に向けて、彼は話を続ける。

 

「村上くんの強みは、相手の『剣』をよく見て受けられること。シールド以上の硬度を持つレイガストを構えて受けに回りながら、相手の攻撃テンポをじっくり見て、把握してから反撃に繋げることだ。簡単に言ってしまったけど、誰にでもできることじゃない」

 

 それは『強化睡眠記憶』というサイドエフェクトを有する、村上鋼だからこそ確立できた、防御重視の戦闘スタイル。鋭いカウンター、味方へのフォロー。二つの要素を高いレベルで兼ね合わせたスタイルは、No.4攻撃手として村上の地位を確立させた。

 けれど、

 

「だからこそ、そこに彼の弱点がある」

「弱点だぁ?」

「そう」

 

 一見、堅実で崩すことすら難しく思える、村上の戦い方が密かに孕む、ウィークポイント。

 

 

「敵の攻撃を受けてしまうこと」

 

 

 それは、レイガストという『楯』をメインに扱う故の弊害だった。

 受けて捌ける。受けてから対処できる。受けることで対応できる。レイガストの防御力を信頼しているからこそ、回避と防御。二つの選択肢が提示された場合、どうしても村上は避けることではなく『受けること』を選んでしまう。

 隊長を必ず守る、というスタンスに起因するのであろう彼の弱点は、しかし見方によっては『弱点』と呼べるほどのものではない。一部の特殊な攻撃……『合成弾』などを除けば、ボーダーのノーマルトリガーにレイガストを貫ける『矛』は存在しない。当然だ。それだけの信頼に足る防御力を、彼はレイガストに持たせたのだから。

 

「さっきも言ったけど……『剣』にはテンポがある」

 

 振り上げるタイミング、ブレードその物の重量、斬りつけた刃の向き。そういった諸々の要素が重なって、振るわれたブレードによる攻撃は『斬撃』となる。つまり、どんな攻撃手も振るう斬撃には一定のくせとでも呼ぶべきパターンがあるのだ。

 

「サイドエフェクトのおかげもあってか、村上くんは敵の攻撃への対応力が群を抜いて高い。一度でも戦った相手なら、攻撃のくせを十分に把握できる。だから、素早さに頼った攻撃や一定の決まりきった攻撃パターンは、村上くんには効果が薄く、刺さりにくい」

 

 だからこそ、

 

「けど、真正面からの力押しなら話はべつなんだよね」

 

 村上鋼にとって初見となる『重い剣』は、彼の絶対防御を打ち崩す必殺の刃になり得る。

 

「防御する側にとって、一撃の威力がでかい、受ける度に体勢を崩される、っていうのは相当なストレスだ。トリオン体の斬り合いで『重量』という要素は軽視されがちだけど、ハマればこうも強い」

「けど、そりゃ『受けた場合』の話だろ? 受けずに避ければ、空振った大振りの剣はとてつもなくデケェ隙になる。そこを突かれたら、タツミの野郎もしんどいんじゃねぇか?」

 

 腐っても、軍事大国の兵士だっただけのことはある。カサカサと手足を動かしながら提示されたその指摘は、実に真っ当なものだった。

 

「尤もな疑問だ。ていうか、そろそろ村上くんもそれに気付くだろうね。ほら、半歩下がったよ」

 

 元は腕利きの攻撃手であった彼は、村上の細かな変化を見逃さない。防御から回避へ。受けに回っていてはこのまま押し潰されることに気付いたのであろう村上は、レイガストを構えながらも絶妙に間合いを計り、手元から離れた弧月の再生成に入った。

 村上の腰元で物質化するトリオンを見て、そうはさせまい、と。レイガストを大きく振りかぶった龍神が、先ほどまでの焼き直しのように斬りかかる。

 

「ダメだ、避けられる」

「いいや、捕まえたよ」

 

 瞬間、剣と楯がぶつかる音が響いた。

 村上の表情が驚愕に染められたことが、モニター越しでもよく分かった。同じく、テーブルの上に座る愛すべき捕虜も、前足(?)の2本を掲げて驚きを表現する。

 

「あぁ!? どうなってやがる?」

「どうもこうも、村上くんがただ見誤っただけだよ」

 

 受けると見せかけて、避けようとしたのであろう村上のレイガストは。『先端部分が鉤爪のように形成された』龍神のレイガストに、楯の上部分をがっしりと押さえ込まれていた。

 

「レイガストの間合いをね」

 

 いや、あれは喰いついた、と言い表すべきか。

 普段の言動や、行動から勘違いされがちだが……如月龍神は直感ではなく、経験と理論を重んじる攻撃手である。村上のレイガストへの対策も、それに応じた自身のレイガストの使用法も、開発者である自分を交えて、十分以上に練ってきた。

 大振りで重い斬撃を受け続けていれば、受けている側は嫌でもその『間合い』が印象に残る。そして間合いを見極めれば、避けて反撃に繋げようと、回避に意識が向く。

 

「俺が作ったブレードは、スコーピオンほどじゃないにしろ、伸縮自在だ」

 

 最初の一手で、邪魔な弧月を奪った時点で。龍神の村上攻略は、ほぼ完成していた。繰り出す斬撃の一つ一つが、いわば全て布石。

 見誤った間合い。攻撃側に掴まれたペース。そして、防御の要となるレイガストを剥がしてしまえば。

 

 No.4攻撃手は、丸裸だ。

 

 村上がスラスターを使うよりも、龍神がスラスターを使う方が早かった。独特の加速音と共に、龍神のレイガストが村上の手から絶対の楯を奪い去る。

 

 彼は知っている。

 

 村上鋼は、知識と経験を積み重ねる攻撃手だが。如月龍神もまた、別の形でアイディアと努力を積み重ねる攻撃手であることを、

 

 

「いけ」

 

 

 レイガストの開発者……寺島雷蔵は、よく知っている。

 

 生成した弧月を、引き抜きながら下がる村上の、その頭部に向けて。

 踏み込み、一閃。

 さながら掌底の如く突き出されたスコーピオンが、突き刺さる。

 

「やったかぁ!?」

 

 雷蔵の隣で、愛すべき捕虜……エネドラが叫んだ。


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