原作と違う点が見られます。
1.はじまりにして終わり
1、はじまりにして終わり
思えば私の目に映る色は、いつも霞がかかっていたような気がする。
意識の産まれた時には母はいなかった。どこかに逝ってしまったから。
兄弟たちは、拾われたり、死んだりして、いつしか私は、ひとりになった。
空の青さなんて知らず、海の広さも、世界の色彩も知らず生きてきた。
ただ言葉として噛み締め、理解せずにきた。
後悔をした。
雪の降る林の中、私は、死にかけていた。
なんでかって?
川に落ちたからだ。
冷たくなる体。
いつも以上に霞む瞳。
薄汚れた前足は、折れているのかもう動かない。
『死にたくないか?』
だれ?
『助けてやる』
私はもうすぐ死ぬのに。
馬鹿じゃないか?
『嘘をつくな』
嘘?
そうだ。
私、まだ死にたくない。
やり残したことがある。
*****
彼女が目を覚ましたのは、落ち葉の生い茂る森の中だった。
凍てつくような寒さも、痛みも苦しさも感じない。
「あぁ…ぅう…?」
彼女は、自分でも信じられない声が出て、小さな口をあんぐりと開けて驚いた。
「…目が覚めたか」
その声は、 木の後ろから現れた、男のものだった。
「…えっ!はっ?」
手を見て、彼女は目を大きく開けて驚いた。
人間の手だ。
顔に触る。
するりと、なめらかな肌。
頭に触ると、さらさらな髪。
目、口、首、手、足…。
人間だ。
「……なんで人にしたの?」
男は無視して彼女に尋ねた。
「名前は?」
「ない」
「お前は、リズ・プリズンリバー」
「……リズ」
その名前は彼女によく馴染み、頭の中にストンと落ちていった。
「これからよろしく」
「…?」
男は、彼女の見てきたどの人間とも違う格好をしていた。
黒い髪は少し長く、くせっ毛なのか毛先の方が少し丸まっていた。
目は青く、色は白い。
しかし服が不思議だった。
深い藍色でベルベット生地で出来た、長いマントを着ているのだ。
それが似合っているのだから、それがまた不思議というものだ。
「あなたの名前は?」
リズはぶっきらぼうに尋ねた。
その声には軽蔑と不信感が込められていた。
「私はブラッドリー・プリズンリバー。呼び方は好きで構わないが、なるべく先生と呼んでくれ」
「先生…?わかった」
「それじゃあリズ、帰ろうか」
「?」
「今日から我々は家族だ。よろしくな」
「……!」
家族という存在は久しぶりだった。
さっきまで他人だったというのに、この男を家族だと思うと、逆らえなかった。
「わかった。帰ろう、先生」
リズは両手を使って立ち上がろうとしたが、慣れない人の足によろけて転んでしまった。
「痛た…」
「大丈夫か?」
ブラッドリーは懐から細く短い、古そうな杖を取り出した。
「ウィンガーディアム レビオーサ」
体が数センチほど浮かび上がる。
「うわっ‼︎」
ブラッドリーはリズの手を引っ張りながら歩き出した。
「先生、魔法が使えるの?」
「ああ」
ブラッドリーは少し笑い、がっしりとリズの腕を掴んだ。
リズがきょとんとしていると、一瞬胃がかき回されるような感覚に襲われ、いつの間にか、リズは違う場所についていた。
「き、気持ち悪ぃ…」
「姿あらわしだ。最初はキツイが、そのうち慣れるだろう」
目の前に、古く大きな館が広がっていた。
薔薇が館の周りに巻きついていて、よく手入れされた庭にもまた、赤い薔薇が咲いている。
「綺麗…」
「ここが私の館。今日から君の家でもある」
「君、金持ちなの?」
「そうかもな。父の残した屋敷なんだ。…寒いだろう、中に入ろうか」
「うん」
二枚の扉はひとりでに開いた。ーリズはもうこの程度ではおどろかなかったー中は窓から光が入ってきて明るく、右に大きな階段があるホールだった。
正面と左に廊下があって、どこからか美味しそうな香りがしていた。
「兄さん!」
「セリア。帰ったよ」
左の廊下から慌てた様子で女がかけてきた。
赤色のマントを着た、黒い髪の女だ。
女は、リズを見て酷く驚いた顔をした。
「…!この子…」
女は杖を振った。
一瞬にして、リズは音が聞こえなくなった。
(あ、魔法だ…)
と悟る。
自分の息をする音も、足音も聞こえない。
女はブラッドリーと言い争っているようだ。少なくともリズにはそう見えた。
5分くらいして、急に音が聞こえるようになった。
さっきとは大違い、にこやかな顔で、女はリズに話しかけた。
「ごめんなさいね。私はセリア。兄さんの『姉』よ。よろしくね」
「?姉なのに兄さんと呼ぶの?」
「あー…リズ、そこは深く詮索しない方がいい」
「…?わかった」
「えっと…とりあえず服かな。兄さん、なんでこんなボロボロの服着せたの?今は冬なんだから死んじゃうじゃないの。次やったら……まあいいわ。おいで」
「…だけど…その…」
「歩けないの?」
「ごめんなさい…」
セリアはリズを軽く持ち上げた。
もしかしたら先生より怪力なのかもしれない、とリズは密かに思った。
「どんな服にしようかしら。でも風呂が先ね」
「えっ⁉︎風呂⁉︎」
リズは水が苦手だ。
落ちて死にかけたし、というか本能的に嫌いだ。
猫だったからだろうか。
リズの背中に、冷や汗が伝っていった。(セリアはそんなの無視して、湯船にリズをぶちこんだ)
体の暖まったリズは、すぐに服を着させられた。
青いブラウスに黒いレースのスカート。ブラウスの胸に、細く茶色いリボンが付いている。
頭には花をあしらった、胸のリボンと同じ色の髪飾りがついていた。
リズはされるがままだった。
鏡にうつった自分は初めて見たけれど、髪がブラッドリーと違って真っ白なことが目にとまった。一筋の黒も見当たらない。
目は明るいライトブルーで、ほうが少し火照ってピンク色になっており、前のリズと違って、酷く健康そうだ。
「かわいい、リズ似合うわ」
セリアはリズに抱きついて頰ずりした。
リズは少し苦笑いするが、嫌な感じはしなかったので、放っておいた。
「兄さん、さっきダンブルドア先生がいらしたわよ。客間で待っていらっしゃるから、リズと行ってらっしゃいな」
「……わかった。おいで、リズ」
「うん」
リズはおとなしく従った。
ダンブルドアというのが誰かは分かっていなかったが、ブラッドリーの言うことには、おとなしく従うことにしたようだ。
客間は二階だった。
階段を上がってすぐの、南向きの明るい部屋だ。
テーブルの上には薔薇が差してあり、それを囲むようにソファが四つ。
しかし、そこのどれにも、だれも座っていなかった。
その老人は壁にかかった絵を眺めていた。
その老人は、ひょろりと背が高く、髪や髭はリズと同じくらい白い。
その白く長い髭が長すぎるからか、ベルトに髭が挟み込まれている。
ゆったりと長いローブの上に、床にひきずるほど長い紫のマントを羽織り、かかとの高い、留め金飾りのついたブーツを履いていた。
そして、鼻が途中で二回も折れたように曲がっている。
見た目からして相当な年寄りだ。
「久しいのうブラッドリー。元気じゃったか?」
「はい、元気でした。先生は?」
「元気じゃったよ。それはもう…」
ダンブルドアの目は、リズに向けられた。
「はじめまして…と言ったほうがいいかもしれんな、リズ。私はアルバス・ダンブルドア。本当はもうちっと長い名前じゃがの…。ホグワーツ魔法魔術学校で校長をやっておる。……レモンキャンディーはいるかな?」
「えっと、結構です、先生…」
「残念じゃのう、人間の食べる食べ物なのじゃが、これがなかなか美味しくてな…。ブラッドリー、君は?」
「結構です、先生」
ブラッドリーはリズと同じように答えた。
ダンブルドアはキャンディーの包み紙を外しながらソファに座った。
リズとブラッドリーも、向かいのソファに腰掛けた。
「ダンブルドア先生は、リズが半年後に入学する学校の校長先生なんだ。リズも、ホグワーツで7年間過ごすことになる」
「えっ⁉︎」
「私たちは魔法使い。リズもそうだ」
「まあ今日は入学許可書を渡しに来ただけじゃ。細かい買い物は入学の直前でいいじゃろう」
そう言って、ダンブルドアは少し黄ばんだ羊皮紙の封筒をテーブルに置いた。
エメラルド色のインクで、こう書かれている。
「イングランド ロンドン
薔薇の館
リズ・プリズンリバー様」
リズは封筒を手にとって裏返してみると、紋章入りの紫色の蠟で、封印がしてあった。
真ん中に大きく”H”と書かれ、その周りをライオン、鷲、穴熊、蛇が取り囲んでいる。
「そういえば…ジェームズの息子も今年入学するそうじゃ」
「……そうですか…」
「あれからもう十年もたつんじゃのう…。時とは早いものじゃ。それじゃあ、おいとまするとしようかのう。また会おう、リズ」
いつの間にか、ダンブルドア二人の前から姿を消していた。
「…………ジェームズって誰?」
「あぁ、友達だよ。私もホグワーツ出身でね、学生時代仲が良かったんだ」
「へぇ…」
「息子の名前は名前は、ハリーって言うらしい。私は会ったことないが…」
(そういえば、私、文字読める…なんでだろ…)
そんなことを考えながら、二人は客間から出た。
食堂で、セリアが食事の準備をして待っていた。
「あ、終わったの?なんだって?」
「入学許可書をもらったよ。それと、ジェームズの息子が、今年入学するそうだ」
「よかったわね…」
「8月になったら買い物に行こう」
「先生、私突然すぎてついていけない…」
「要するに魔法を学べるってことだ。良かったじゃないか」
「いや、出会って二時間もたたない人間にここまでする必要性を感じない…」
「どっちにしろそうするつもりだったよ」
「ねぇリズ!お腹空いてない?なにか食べましょう」
セリアはテーブルの上にある空の皿に向かって杖を振った。
一瞬にして、色とりどりの美味しそうな食事が現れた。
見ているだけでお腹が鳴ってしまいそうだ!
食事はすぐ済んだ。
セリアはユーモアに溢れた明るい人種だった。
食事中はずっと喋っていたし、時々来る屋敷しもべにまでパンを与えていた。
それに対し、ブラッドリーは酷く口下手なようだった。
ぼそぼそとなにか話したかと思うと、急に黙ってしまったり、ふと考え込むようにスプーンを止めてしまったり。
これほど広い屋敷なのに、屋敷にはリズを含め3人しか住んでいなかった。
リズは今までにないくらいお腹いっぱいになって、少し眠くなってきていた。
玄関のソファに体を預け、そっと目を閉じ、そのまま眠りに落ちてしまった…。
***
ブラッドリーは書斎にいた。
書斎の暖炉の上に置いてある、古い写真を見つめていた。
中には、優しそうな二人の夫婦と、まだ学生のセリアと、今よりも若い頃のブラッドリーが写っていた。
そしてもう一人、黒髪で、夫婦の膝の上に乗る幼い少女。
それは、どう見てもリズだった…。
…To be continued
猫ってかわいいですよね。
私は犬派のはずなんですが。