朝食時、リズは昨日の夜マルフォイと決闘をするために、トロフィー室へ行ったと、ハリーとロンに伝えられた。
「決闘?マルフォイと?」
「うん」
リズは持っていたココアを危うく落としかけた。まだ温かかった。
「えっ!なんで⁉︎」
「本当に腹が立ったんだ。あいつ、リズの前では猫かぶってるからわかんないだろう」
ロンが苦々しげに言った。
「ハーマイオニーは知ってるの?随分怒ったでしょう」
「もちろん。…それで12時きっかりに、トロフィー室へ行ったんだ。なのにあいつら、フィルチに言いつけて、来なかったんだ」
「ドラコは少しずる賢いね」
「少し?少しだって?とてもの間違いだろ?」
ロンは憤慨していた。随分腹が立っているようだ。
ハリーは舌を火傷しそうなコーヒーを口に入れて、少し考え込んでいた。
「それで結局、二人はフィルチに捕まっちゃったの?」
リズがそう聞くと、ロンはさらに声をひそめた。
「いいや。実は逃げてる時に4階の右側の廊下に入っちゃってね……」
「ダメじゃない!」
「大声出すなよ、バレるだろ」
「ごめん。それで?」
「中に、3個頭のある犬がいたんだ」
リズは首を傾げた。
「え?私が記憶喪失じゃなければ、犬って頭1個しかないはずなんだけど…」
「その記憶で間違ってないよ。コーヒー取ってくれる?……ありがとう」
そこでハリーが口を開いた。
「多分その犬は、グリンゴッツの金庫にあったものを守ってたんだと思う。……覚えてるだろう?七一三番金庫のあの汚くて小さい包み。それとあの記事。
……グリンゴッツ以外で世界一安全なところといえば、ホグワーツしかない」
「確かにね。的を得てると思う」
「それで…ハーマイオニーが言ってたんだけど…」
「え?ハーマイオニー?」
「いや、実は色々あってハーマイオニーも一緒にいたんだ」
「へぇ、それで?」
「怪物犬の足の下に、仕掛け扉があったんだって。その下にその包みを隠してるんだと思う」
「仕掛け扉か。…ダンブルドア先生の言っていた意味がよくわかったね」
「本当だよ。死ぬかと思った」
ハリーは苦笑した。死にそうだったのに笑うとは、不思議なものだ。
***
ハロウィーンの朝、嬉しいことに、「妖精の魔法」のフリットウィック先生が、そろそろものを飛ばす練習をしましょうと言った。
呪文は前にブラッドリーが使っていたものだとリズは思い出した。
先生は生徒を二人ずつ組ませて練習させた。リズは隣の席のネビルと組むことになった。
ハーマイオニーはロンと組むことになってカンカンだった。ハリー達とハーマイオニーは喧嘩中で、今まで一切口をきいていなかった。
この魔法はとても難しかった。リズの羽は呪文を言うたび少し動いたが、結局浮かなかった。
「ウィンガディアム、レヴィオーサ!」
とロンの叫ぶ声と、ハーマイオニーのとんがった声が聞こえた。
「言い方がまちがってるわ。ウィン・ガー・ディアム、レヴィ・オー・サ。『ガー』を長く綺麗に言わなくちゃ」
「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ」ロンが怒鳴っている。
ハーマイオニーは袖を捲り上げて杖を振って呪文を唱えた。
「ウィンガーディアム、レヴィオーサ!」
すると杖は机を離れ、頭上一、二メートルくらいのところに浮いたではないか。
「オーッ、よくできました!」
先生が拍手をして叫んだ。
「皆さん、見てください。グレンジャーさんがやりました!」
クラスが終わったとき、ロンは最悪の機嫌だった。
「誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ。リズがなんであいつと一緒にいるのか、みんな疑問だろうさ」
廊下の人混みをかき分けながら、ロンが言った。
そのとき、誰かがハリーにぶつかり、急いで追い越して行った。ハーマイオニーだ。ーー驚いたことに、泣いている!
そのあとをすぐにリズが追っていった。(リズは凄く足が速かった)
「今の、聞こえたみたい」とハリー。
「それがどうした?」
ロンも少し気にしていたが、
「利口なあいつのことだ、リズ以外誰も自分を好いてくれないってことは、とっくに気付いてるだろうさ」
と言った。
***
「ハーマイオニー!ハーマイオニー!」
リズはトイレのドアをドンドンと叩いた。
中から声を殺して泣く声がする。
「開けてよ!どうしたの?」
「ほっといて!」
「ほっとけないよ!」
「私なんか置いてパーティーに行ってよ!」
「無理よ!」
「……」
ハーマイオニーはまた黙ってしまった。
……致し方ない、ドアを壊そう。
グリフィンドールが何点減点されるかわからないけど、友達がずっとこの狭い個室に留まってるよりマシだ。
掃除用具入れの中を覗くと、モップと箒が数本、バケツが一個、それと雑巾が二枚入っていた。
モップを一本掴んで、元の場所に戻ろうと振り向いた。
しかし、壊すまでもなかった。
大きな音がした。埃と、悲鳴が混じり合った。
目の前に大きな巨人、いやトロールが立っていた。悪臭が鼻をつく。恐ろしい光景だった。
ハーマイオニーの入っていた個室はめちゃくちゃに破壊されていた。
ゾッと血の気が引いた。ハーマイオニーは?
「ハーマイオニー⁉︎」
リズが叫ぶと、ハーマイオニーは埃だらけのまま瓦礫から這い出てきた。顔が真っ青だ。
「逃げよう!」
「え、ええ…」
返事とは裏腹に、ハーマイオニー・グレンジャーの足は一歩も動かなかった。恐怖ですくみ上がっている。
「ハーマイオニー!」
リズはハーマイオニーの手を引いて駆け出した。
ーー先生達は知っているのだろうか。此処にトロールがいることを。
ドアのところへ着いて、ドアノブをひねる。なのに、ドアが閉まっている!
「なんで⁉︎」
「リズ、伏せて!」
ハーマイオニーの鋭い声が響いた。
声に反応してしゃがむと、私の頭があったスレスレのところを、棍棒が通過していった。
「きゃあっ‼︎」
「杖を出して!早く!」
今思えば、「アロホモーラ」と唱えればよかったと思うけど、気が動転していたし、杖を出す余裕なんてなかった。
ドアの前から転がるように移動した。
だが、リズは恐怖で足がもつれて転んでしまった。
手をつないでいたハーマイオニーも転ぶ。ギプスをした方の手で受け身をとったせいで手が痛い。床に打ち付けた肋骨が痛い。
「……っっ」
転んだせいで、二人はすぐに追い詰められた。
リズはハーマイオニーを後ろにやり、深呼吸して杖を取り出した。そして屋敷で習ったある効果的な呪文を思い出した。
しかし、突然ドアが開いて、ハリーとロンが入ってきた。
「こっちに惹きつけろ!」
ハリーが叫んだ。ロンが蛇口を拾って力いっぱい壁に投げつけた。
トロールはハリーの方へと進路を変えた。
今だ!
「インペディメンタ‼︎」
トロールの動きが遅くなる。ハリーが勇敢にもトロールの首に飛びついて鼻に杖を突き刺した。
ロンは杖を構え、最初に思いついた呪文を叫んだ。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ‼︎」
突然、棍棒がトロールの手から宙に浮き、ゆっくり一回転してからボクッと嫌な音を立てて持ち主の頭の上に落ちた。
トロールはフラフラしたかと思うと、ドサッと音を立ててその場にうつ伏せに伸びてしまった。
四人は暫く放心状態のまま立ち尽くした。
「これ……死んだの?」
ハーマイオニーがやっと口を開いた。
「いや、ノックアウトされただけだと思う」
ハリーは屈みこんで、トロールの鼻から自分の杖を引っ張り出した。灰色の糊の塊のようなものがベットリとついていた。
冷静になって、リズはやっと腕と脇の痛みに気がついた。さっき転んだときに打ったものだ。
「痛たた…」
「大丈夫?リズ?」
ハリーが言った。
「全っ然大丈夫じゃないかも……なんで私ってこんなに……怪我が多いのかな……」
脂汗が出てくる。同時に痛みのせいで涙が出てきた。
「多分、リズの自己犠牲精神のせいだと思う…」
ハリーが言った。
「痛いぃ…」
「ごめんなさいリズ、私なんかのせいで…」
ハーマイオニーが泣きそうな声で言った。
急にバタンという音がして、バタバタと足音が聞こえ、四人は顔を上げた。
どんなに大騒動だったか四人は気づきもしなかったが、ものが壊れる音や、トロールの唸り声を階下の誰かが聞きつけたに違いない。
まもなくマクゴナガル先生が飛び込んできた。続いてスネイプ、最後はクィレルだった。
クィレルはトロールを一目見た瞬間、胸を押さえてトイレに座り込んでしまった。
「エピスキー」
マクゴナガル先生がすぐにリズの腕に杖を突きつけて呪文を言った。少しずつ痛みが癒えていった。
「あ、ありがとうございます」
リズが礼を言うと、マクゴナガル先生は
「一体全体あなた方はどういうつもりなんですか」
マクゴナガル先生の声は冷静だが怒りに満ちていた。
「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
スネイプはハリーに素早く鋭い視線を投げかけた。
その時暗がりから声がした。
「マクゴナガル先生、聞いてくださいーー三人とも、私を探しに来たんです」
「ミス・グレンジャー!」
「私がトロールを探しに来たんです。私…私一人でやっつけられると思いましたーーあの、本を読んでトロールについていろんなことを知っていたので」
ロンは杖を取り落とした。ハーマイオニー・グレンジャーが先生に真っ赤な嘘をついている?
「もし三人が私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。誰かを呼びに行く時間がなかったんです。二人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」
三人とも、そのとおりです、という顔を装った。
「まあ、そういうことでしたら……」
マクゴナガル先生は四人をじっと見た。
「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?ミス・プリズンリバーはあなたを助けて怪我をしたのですよ」
ハーマイオニーは項垂れた。ハリーは言葉も出なかった。規則を破るなんて、ハーマイオニーは絶対にそんなことをしない人間だ。
その彼女が規則を破ったふりをしている。三人を庇うために。
「ミス・グレンジャー、あなたには失望しました。グリフィンドールから五点減点です。怪我がないなら、グリフィンドール塔に戻った方が良いでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」
ハーマイオニーは帰って行った。
マクゴナガル先生は今度は三人の方に向き直った。
「ミス・プリズンリバー、あなたはすぐに医務室へ行きなさい。この前も言いましたが、あなたはいささか自己犠牲が過ぎます」
「……はい」
「あなた方は運が良かった。でも大人の野生トロールと対決できると一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう」
リズはすぐマダム・ポンフリーのところへ連れて行かれた。
腕も肋骨も、ヒビが入ったところに体重をかけたせいで痛みがあったみたいだ。
「まったく、医務室に来る最短記録ですよ。賞をあげたいくらいだわ」
マダム・ポンフリーが皮肉を言った。
「すみません…」
マダム・ポンフリーは包帯やガーゼを貼り終わって、
「…はい、これでいいでしょう。さっさと寮に戻りなさい」
と言ってリズを医務室から追い出した。
リズは夫人の肖像画の前に着いて、「豚の鼻」の合言葉で中に入った。
中に入ると、ハーマイオニーとハリー達が仲良く話し、食事をしていた。
リズは心の中でにんまりと微笑み、その輪に加わった。
……To be continued
肋骨骨折は洒落にならない。