11月に入って、ハリーはクィディッチの練習に励んだ。土曜日はいよいよハリーの初試合だ。
ハーマイオニーは、野生トロールから助けてもらって以来、規則を破ることに少し寛大になった。
リズは傷がすっかり癒え、暫くは医務室の世話になることはなかった。
金曜日の中休み、四人は凍えるような寒さの中庭で、ハーマイオニーの作った青い火の入った空き瓶を背中で囲いながら、話していた。
リズはエンヴァと話しながら手紙を読んでいた。
「最近寒いわね。エンヴァはあのふくろう小屋にいて大丈夫なの?」
『寒くないわ。だってこんな体でしょう?ヒトみたいにね、ハゲタカみたいな体してるわけじゃないのよ』
「そう。じゃあ夏は暑いの?」
『そうね。今よりは』
”親愛なるリズ
うちの薔薇が咲いたわよ。ハロウィーンは大変だったらしいわね?聞いたわよ。
兄さんの驚く顔を見せてやりたかった!ホグワーツに行こうとしてたんだから!
クリスマスは帰ってくるでしょう?待ってるわね!
貴女の姉、セリア・プリズンリバー”
”親愛なるリズ
野生トロールに襲われたって?大丈夫だったかい?箒の授業でも怪我をしたって?
なんで言わなかったんだい?そういうことはすぐ報告するように。
ブラッドリー・プリズンリバー”
手紙を読みながら背中を火に当てて暖まっていると、スネイプがやってきた。片足を引きずっていることに、リズは気がついた。
四人はくっ付いて火を隠した。幸い、火は見つからなかった。
「ポッター、そこに持っているのは何かね?」
ハリーはハーマイオニーから紹介してもらった、【クィディッチ今昔】を差し出した。
「図書館の本は郊外に持ち出してはならん。よこしなさい。グリフィンドール五点減点」
スネイプが行ってしまうと、すぐにハリーが「規則をでっち上げたんだ」と怒って言った。
「だけど、あの脚はどうしたんだろう?」
「知るもんか、でも物凄く痛いといいよな」とロンも悔しがった。
その夜、リズは妙な夢を見た。
『明日だ、明日……明日さえ……』
という恐ろしい声と、
『止めて。止めないと、危ないわ……気をつけて。くれぐれも…』
という少女の声が、延々と続く夢だ。
どういうことだろう…。
***
世が明け、晴れ渡った寒い朝がきた。
試合の朝なのにハリーが何も食べようとしないので、リズはハリーの口の中にトーストを突っ込まなければならなかった。
11時には学校中がクィディッチ競技場の観客席につめかけていた。
グリフィンドール対スリザリン。試合は初めて見るが、とても興奮した。こんな面白いものは初めてだった。
しかしリズの頭の中には、昨日の夢のことが張り付いて離れなかった。
夢の忠告通りになった。
ハリーの箒がいうことをきいていない!振り落とされそうになっている!
リズは先生達の観客席を見た。鋭い視力が一人の口が不自然に動いているのを見た。
「スネイプだ!」「スネイプだわ!」
リズとハーマイオニーが同時に叫んだ。
「いや、なんで見えるの?」
ロンが尋ねる。
「いいから!行こう!」
「いや、二人だと目立つわ。私が行く!」
ハーマイオニーは行ってしまった。
「フィニート・インカーターテム!呪文よ終われ!」
試しにリズが呪文を叫んでみたが、駄目だ、効かない。
しかし5分ほどするとハリーの箒はコントロールを取り戻し、ハリーはスニッチを……掴んだのではなく、飲み込んだ。
試合はグリフィンドールの勝ちだ!
***
試合の後、四人はハグリッドの小屋で濃い紅茶を淹れてもらっていた。
「スネイプだったんだよ」とロンが説明した。
「ハーマイオニーもリズも見たんだ。ハリーの箒にブツブツ呪いをかけていた」
「ハリーから目を離さずにね」
「バカな」
ハグリッドは叫んだ。
「なんでスネイプ先生がそんなことをする必要があるんだ?」
四人は互いに顔を見合わせた。
「実は僕ら、スネイプについて知っていることがあるんだ。きっとあいつ、ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何かは知らないけど、あの犬が守っているものをスネイプが取ろうとしたんだと思うんだ」
ハグリッドはティーポットを落とした。
「レパロ」
リズは素早く呪文を唱えてティーポットを直した。中の紅茶はなくなっていた。
「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だーー去年パブで会ったギリシャ人から買ったんだ。俺がダンブルドアに貸した。守るため…」
「「「「何を?」」」」
四人は身を乗り出した。
「これ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは…」
ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「でもスネイプが…」
「お前さんらは間違ってる!俺が断言する!」
ハグリッドも譲らない。
「俺はハリーの箒があんな動きをしたのかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。四人ともよく聞け。危険なんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」
「ニコラス・フラメル?」
リズは聞き逃さない。
「てことは、【賢者の石】が関係してるんだね?」
「……」
ハグリッドは口を噤んでしまった。
***
「賢者の石って?」
小屋を出てからすぐ、ロンがリズに尋ねた。
「簡単にいうと、永遠の命を手に入れることのできる石だよ」
「永遠の命?」
「うん。賢者の石から命の水っていう不老不死になる妙薬を作り出すことができるの」
「そりゃ沢山奪おうとする人がいるだろうな」
「……てことは、あの包みの中身が、賢者の石ってこと?」
「……そう推測せざるをえないね、今のところ」
「なんにせよ、クリスマスまでたっぷりあるわ。それまでに、賢者の石と、ニコラス・フラメルについて調べましょ」
「ニコラス・フラメルについて、リズは何処で知ったのよ?」
「…どこでだったかな…。咄嗟に思い出したのよ」
リズはニコラス・フラメルなんて名前、見たことがなかった。
見たことがない筈だった。
***
結局、ニコラス・フラメルについて詳しいことが何もわからないまま、クリスマス休暇が訪れた。
「うーん、片っ端から図書館の本を読んで見たけど、うちの図書館には遠く及ばないなぁ、ここは」
「リズの家って図書館があるの?」
汽車のなかで、ハーマイオニーはリズに尋ねた。
ハリーとロンは休暇は帰らないが、二人は帰るのだ。
「うん。私家の外にはあまり出ないから…あー、えっと療養してたからなんだけど(嘘)…通い詰めてたんだ」
「それにしてはリズって足速いわよね…」
「……」
ノーコメント。
「良かったら遊びに来て。楽しいよ」
「そうね。考えておくわ」
そう言ったところで、いきなりエンヴァが汽車の窓から入ってきた。
「エンヴァ。よく見つけられたね…」
手紙が咥えられている。ブラッドリーとセリア
からだった。
”親愛なるリズ
駅で待っています。
ブラッドリー・プリズンリバー”
「短いなあ」
もう一枚はセリアからだった。
”親愛なるリズ
1学期は楽しかったみたいね。良かったわ。
汽車を降りたら9と4分の3番線のプレートの下で待ってるわ。
セリア・プリズンリバー”
「指示が明確ね」
「あ、読んでたの」
「えぇ」
それからリズはハーマイオニーとカードゲームをしたり、クィディッチについて話したりした。
「リズは箒に乗るのが得意なのよね。来年、応募してみたら?」
「私の体格だとシーカーが適任だから、ハリーはやめないだろうし、無理かな」
「確かに。それに…それ以外だとすぐ医務室送りになりそう」
「それってどういう意味…?」
ハーマイオニーはクスクスと笑った。
「逆にハーマイオニーは箒があんまり得意じゃないのよね」
「残念ながらね。はぁ…」
「ネビルよりマシでしょう。結局あの後の箒の時間に怪我しちゃったし。もう、私が肋骨折った意味あったのかな…」
「あれ以降はあんな高くは飛ばなくなったし」
そのうち汽車は田園風景を抜け、駅で緩やかに停車した。
「手紙を出すわ!」
「ええ!」
ハーマイオニーと別れ、リズは9と4分の3番線のプレートの下へ重いトランクを引き摺り歩いて行った。
「先生!セリア!」
「やあリズ。久しぶり。今日は休みが取れたんだ」
「今日はご馳走なのよ、リズ!」
「なぜ?」
「クリスマスだもの!イギリスはドアにヤドリギをかけて、クリスマスプディングを食べるのよ」
「クリスマスプディングはホグワーツでも出たよ」
「ホグワーツは伝統を重んじる学校だもの。ねぇねぇ、グリフィンドールの寮はどんな感じだったの?」
そんな感じで、セリアはしばらくリズを質問攻めにした。
「休み中、ハーマイオニーを家に呼んでもいい?」
「ん?友達かい?まあ、いいよ。偶には客間も使わないとね…」
「やった!」
館についたら、本当にご馳走の準備がされていた。
クリスマスプディング、七面鳥、チョコレートケーキ、他にも沢山。
リズの部屋は変わっていなかった。
相変わらず広くて、薔薇の絨毯が敷いてある。
埃一つ落ちておらず、ベッドもふわふわだった。
沢山食べて眠くなり、リズは普段着のまま枕に顔を埋めた。
***
その夜、リズは夢を見た。
また、女の子の声がする。
リズの目の前には鏡があって、その鏡の中には白い猫が映っている。
不思議なことに、その白猫は尾が二本に別れていた。
(変な猫…)
その猫が、どこかで聞き覚えのある、あの女の子の声で言った。
「忘れないで。危ない目に遭ったら、私のことを思い出して」
にゃー