翌日、早く起きたリズは一瞬戸惑った。
いつもの天蓋ベッドじゃない。
ここは何処だっけ?
「あぁ、そっか。クリスマス休暇か…」
そうだ、休暇中だった。ここはホグワーツではないのだ。
そう思って苦笑してしまう。
それほどリズにとって、ホグワーツでの生活は充実したものだった。
ここ数ヶ月で、随分と人間らしい感情を手に入れた気がする。
ずっと前からここにいたような気さえするのだから、不思議なものだ。
昨日普段着のまま寝た筈なのに、いつの間にかネグリジェになっていた。
何故いつもいつの間にか着替えさせられているのだろう。
リズは窓の外を見た。
嬉しいことに、雪が降っていた!
リズはすぐにネグリジェを脱いで、暖かいコートや、ブーツを取り出して、庭に出た。
「わぁ…」
あたり一面雪が積もっている。薔薇を見れなかったのは残念だが、これが見られるのなら悪くはない。
リズは園芸用のスコップを倉庫から持ってきて、雪だるまを作ることにした。
雪玉を三つ重ねて、頭にバケツを被せる。そこら変の葉っぱで顔を作った。
雪玉を三つ作る時点でびしょ濡れになり、大変だったが、作り終えると楽しかった。
「…昔もこうやってセリアと遊んだよね。楽しかった」
「そうだね!」
雪玉を転がしながら、夢中になって答える。
あぁ、楽しかった。毎日雪だるまを作って、中に入ってココアを飲んだ。暖炉の火でマシュマロを焼いて、それを食べたっけ。
楽しかったなぁ。
ーーあれ?今の誰?
それに昔?昔って、どういうことだ?
周りを見渡す。
声はもう聞こえなかったし、リズ以外誰もいなかった。
(……それになんで私、雪だるまなんて知ってるんだろう…?)
どうして雪を見てすぐ、作ろうと思ったのだろう。
ーー1回だって、私は作ったことなどなかったのに。
「さ、寒いせいだよね。中入ろう」
足や肩についた雪を落とし、中に入る。
ドアを閉めた途端、じんわりと温かさが指先から伝わった。見ると、さっきまでついていなかったのに、暖炉が赤々と燃えていた。
セリアがつけたのだろう。
コートを屋敷しもべに預けて、食堂に入ると、既にセリアがいた。やはり、先生はいないようだ。
「おはよう、リズ。あら、遊んできたの?」
「うん」
「いいわねぇ、子供は。朝から元気で。良いことよ。私、朝は貧血で元気が出なくてねぇ」
随分おばさんくさいことを言う。
またまだ若いだろうに。
「あれ、先生は?」
「仕事だって。もう出かけたわ。忙しいみたい。兄さんは優秀だから、引っ張りだこらしいわ。ふふ」
「へぇ、そうなんだ」
気がつくと、テーブルに食事が並べられていた。昨日が豪華だったためか、今日の食事は質素に見える。
スープにパンケーキが数枚、テーブルの真ん中には蜂蜜入りの紅茶ポッドが置いてある。
「リズ、今日はどうするの?」
「図書館で宿題かな。暇だし」
勿論嘘である。本当はニコラス・フラメルについて調べるつもりだ。
ハーマイオニーを招待する前に、見つけられることなら見つけておきたい。
ホグワーツの図書室よりも広いここの図書館ならば、おそらく何か資料があることだろう。
「そう。私は仕事あるから、何かあったら屋敷しもべに言ってね。寒いから暖かくしなさいね。図書館は広くて寒いから」
「わかった」
返事をしてから、席を立つ。同時に、セリアは姿現しで消えていた。
気が早いことだ。
リズは図書館へ行く前に、羊皮紙と羽根ペン、インクを部屋から持ってきた。
寒いとのことだったから、一応コートも。
途中屋敷しもべに運ぶのを手伝いましょうかと言われたが、断った。
ブラッドリーに何か報告されたら、それこそ怒られる気がする。
別館に移動し、図書館に続く重い扉を開ける。
ーーなるほど、セリアの言う通りである。かなり寒い。
リズはすぐコートを着込み、暖炉の近くに椅子と机を並べ、早速探索を開始した。
ーー1時間後
なんの成果もなし。というか、非効率すぎた。
賢者の石のけの字も出てきやしない。
学校の外では魔法は使えないし、この広い図書館で、どうやって本を絞るか、考えていなかった。
「屋敷しもべは知らないだろうしなぁ…」
さっきの決意表明が早速崩れそうだ。うごごご。
ーーふと、頭の隅に、【地下室】のことがよぎった。
ここに来た最初の頃、セリアが、地下室には図書館に入りきらない本を保管している、と言っていた。鍵もかかっていたし、妙に頑丈な扉だったので印象に残っている。
「…あの中にないかな…?」
「アロホモーラ」、と唱えれば空くかもしれないが、魔法を使ったら退学になってしまう。
賢者の石のためにそこまではできない。
そういえば、私はニコラス・フラメルについていつ、どこで知ったのだろう。
どこかで本を読んだのだろうか。ーーよく思い出せない。
(……ニコラス・フラメル…賢者の石……)
私が知っているのは、ニコラス・フラメルが賢者の石の力を使って不老不死であるということ、賢者の石から不老不死になる『命の水』を創れるということだ。
仮に、あの茶色い包みの中身が、賢者の石だとしよう。
グリンゴッツの713金庫の侵入者は、賢者の石を狙っていた。
ニコラス・フラメルは賢者の石が狙われていることを知って、ホグワーツに預けたのかもしれない。
それでホグワーツに、フラッフィーみたいな罠が仕掛けられているんだろうか。
結局一日費やしたけれど、ニコラス・フラメルについて詳しいことはわからなかった。
賢者の石についても同様だ。
熱中しているうち、夕方になっていた。
「…リズ」
「えっ!はい?」
声を掛けられ、振り向くと、ブラッドリーが立っていた。
「夕飯の時間だよ」
「もうそんな時間⁉︎」
昼食を食べ忘れてしまったようだ。今更になってお腹が空いてきた。
「随分熱中してたみたいだね」
「うん。勉強とか調べ物とか、楽しいから」
「ーー」
ブラッドリーは、一瞬何かを言いたげに口を開いたが、何故かすぐ口を噤んでしまった。
「今日は久しぶりにセリアが食事を作ったから、いつもと味が違うかもしれないな」
「そうなの?」
「セリアの料理は不味くないんだが、時々大外れがあるから困る」
「あはは、確かにそんな感じするかも」
セリアの料理は、大したハズレもなく美味しい料理だった。
少し味付けが違かったが、それが新鮮だった。
そして、寝る前にリズはハーマイオニーに手紙を送った。
”ハーマイオニーへ
元気ですか?
こちらでもニコラス・フラメルについては調べていますが、詳しいことはよくわかっていません。残念ながら。
ハーマイオニーはどうですか?
p.s.ハーマイオニー、今度私の家に遊びに来ませんか?歓迎します。
リズ・プリズンリバーより”
……To be continued