リズの姉であるセリアの職業が、リズは未だによくわからない。
ブラッドリーが闇祓いというのは耳に入っているが、セリアはどうなのだろう?
ブラッドリー程ではないが朝早く出かけていき、帰る時間はまちまちだ。
一日中家にいることもある。魔法薬学に関係のある仕事らしく、一日中薬草園と研究室を行き来していたりすることもある。
何かしらの薬草を調合をしているが、それは薬草だけには留まらないらしい、蛇の毒や、フグの針などを使用しているのを見たことがある。
ブラッドリーもセリアも、極秘だと言って研究内容を教えてくれないから、勝手に推測するしかないのだが。
セリアがよく薬草園の屋根を吹っ飛ばしているのを見るにーーー安全な研究内容ではないのだろう。
まあ、それはそれとして。
今日はハーマイオニーが、遊びに来る日である。
「リズ、もうすぐ時間よ」
「待ってセリア、私変じゃない?」
「大丈夫大丈夫。リズはとってもかわいいから。それよりバスに遅れるわよ」
服の確認をしてから、お気に入りのコートを着て帽子を被る。
今日はブラッシングもしっかりしたし、服も選んだ。白いセーターと青いプリーツスカート。黒いタイツとブーツ。ーーセンスが皆無なので、半分くらいセリアが選んだのだが、きっと、おかしくはない……筈だ。
しかし、先生が仕事でいないのが残念だ。ハーマイオニーに会わせて見たかったのだけど。
「地面が凍ってて滑りやすいから気をつけるのよ」
「はーい」
適当に答えて館の外に駆け出す。
猫の身体能力ならば、転んでも受け身くらい取れるだろうが、セリアもブラッドリーも、リズに対して妙に過保護だ。渡された路銀も何だか多く感じるし。
何はともあれ、楽しむとしよう。
ブラッドリーの過保護もいつものことなんだし。
近くのバス停に来ていたバスに乗り込む。
駅まではすぐなはずだ。リズは後ろから3番目の席に浅く腰掛け、雪化粧で染まった街を眺めた。
そういえば、プリズンリバー家は純血の家の割に割とマグルに理解のある家だ。よくわからないかもしれないが、例えばロンなどはバスの乗り方などわからないだろう。バスよりも便利なものが魔法界には沢山あるからだ。
確か、プリズンリバー家の前頭主が、ホグワーツにいた頃、マグル学を専攻していたとか。そのお陰か、マグルに関する歴史や習性などの本が多い。その影響もあり、ブラッドリーもセリアも、マグルに詳しい。
魔法族はマグルの世界で挙動不審なことが多いから、マグルについては理解を深めたほうがいいと思う。マグルの世界にも便利なものあるし。電子レンジとか。
『次は***駅でございます』
無機質な機械音の声が響く。
私は停車ボタンを押して、席から立った。
キキーッ
「きゃっ」
運転手の急なブレーキで前のめりに転びかける。あ、マズイ転ぶな、そう思った時、ガシッと腕を掴まれた。
「え…?」
振り向くと、私の背後に座っていた男の子が、私の腕を掴んでいた。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう」
「そう」
私はお礼を改めて言ってからバスを降りた。
その男の子も降りるところだったのか、後ろから付いて降りてきた。
駅の掲示板を見ると、雪のせいか、大分電車が遅れていた。
「立往生してたりするのかな?」
ハーマイオニーが少し心配だ。
どうしようもないし仕方ないので駅内のベンチに座った。暇つぶしに、バッグに入れておいた本を読むことにした。手がかじかんでうまくページが捲れない。そういえば、用意しておいたのに手袋を置いてきてしまった。
そんなことを考えながらふと顔を上げると、あの男の子は駅のホームに立っているのが見えた。
「寒くないのかな…」
本に目線を戻す。
暫くして、駅ホーム内に電車が入ってきた。
人混みに揉まれて、男の子の姿は見えなくなってしまった。
ハーマイオニーの姿を探す。
人が多すぎてよく見えない。リズの背が低いから尚更だ。
暫くキョロキョロと辺りを見渡していると、後ろから肩をとん、と叩かれた。
「リズ!」
「……!ハーマイオニー!」
「久しぶりね。元気だった?」
「もちろん!」
ハーマイオニーは重そうなトランクを一個と、リュックサックを一個背負っていた。
重そなトランクの方をリズが持つことにした。
「ありがとう、リズ。あの後、ニコラス・フラメルについては何かわかった?」
「それが…さっぱり。賢者の石についても、何にも」
「うーん、そう。私と一緒に探して、捗るといいけど」
「ハーマイオニーは何かわかった?」
「……パパもママも知らなかったわ。教科書にも載ってないし」
「歯医者だものね。当然か」
「あなたのお兄さんには聞いてみたの?」
「聞けるわけないじゃない。先生は闇祓いだよ?ホグワーツに関係してることを、先生が知らない筈ない。私が嗅ぎまわってるって知られたら……どうしよう」
そのとき、バス停に着いたのでリズ達は立ち止まった。
「?……先生?」
「ん?なに?」
「お兄さんのこと、【先生】って呼んでるの?」
「うん。そうだよ」
「普通名前で呼び合うものじゃない?」
「……そうなの?」
「少なくともロンはそうしてたわよ」
「へぇ」
猫のときにいた兄弟とは名前というより匂いで識別してたから、よくわからない。
どうしてブラッドリーはあの日、先生と呼んでくれ、と言ったのだろう。セリアも知らなかったから、私が知る筈ないんだけど。
「まあ、いろんな家があるし、私も一人っ子だから、よくわからないわ」
「私も他の家のことはよくわからないなぁ。……あ、バス来たよ」
バスに乗り込んだとき、ハーマイオニーが少し目を丸くして言った。
「意外だわ」
「なにが?」
「リズがバスの乗り方を知ってることよ」
「意外かな?」
「意外よ。知ってると思うけど、魔法族のマグル理解の低さは相当なものよ?ロンなんか、電話のかけ方もわからないと思うわ。マグルの世界に放り込んだら、きっと挙動不審で職務質問されちゃうわ」
「純血の家なんかに見られる特徴だね。セリアが言ってたけど、前の頭首の人がマグルに理解のある人だったみたいなの」
「へぇ、そうなの……セリアって、お姉さん?」
「うん」
「そっちは普通なのね」
「そういえば……そうだね」
館の近くのバス停で降り、暫く歩く。
プリズンリバー家の敷地は、割と郊外にあるし、無駄に広い。魔法で中も広げてある。……見た目的には十分な大きさだと思うんだが。
「ここが私の家」
「お、大きいわね」
「中はもっと大きいんだよ」
縮尺の違いに、きっとびっくりするだろう。
そう思って、扉を開けたとき、
ドォオオオオオオオオオンッ!!
という爆発音が、館内に鳴り響いた。
焦げたような煙の香りに混じって、薬品の匂いがしている。どちらにせよ、猫の鼻にはキツイ。
爆発音の時点で確定。セリアの仕業だ。
「あぁもう!ハーマイオニー、ちょっとここで待ってて!」
「え、ちょっとリズ⁉︎」
研究室の方に走る。ドアが吹っ飛んでいて、壁が壊れて空が見えていた。
「セリア⁉︎」
部屋内は瓦礫であちこち埋もれていた。
セリアの姿が見えない。どこにいる⁉︎
「……セリア!!」
「……リズ?」
声のした方を見ると、瓦礫の下にセリアが倒れていた。
どうやら怪我をしているようだ。
「ちょっと、大丈夫⁉︎」
「あー、ごめんなさいリズ。また失敗しちゃったわ☆」
「失敗しちゃったわ☆、じゃないよ!早く瓦礫から出て!治療するから!」
「うん、わかった。あ、でも……」
「でもじゃない!早く!」
「治療する前にあれ、片付けないと…」
「……あれって?」
そう呟いたとき、リズの頭の上スレスレを、なにか巨大なものが通り過ぎていった。
もう少し背が高かったら、死んでいただろう。
「え、なに、今の」
巨大なもののほうを見る。
見た瞬間、ぞわっと鳥肌がたった。
それは、物凄く巨大で、蠢く触手を持った、緑色の【植物】だった。
いや、植物のように見えるだけで、中身は生物なのかもしれない。不気味なほど巨大な、黒い穴が、体の真ん中に空いている。あれから養分を取り込むのだろうか。
触手がぐわんとこちらに伸びてくる。
薙がれる前に、リズはセリアを背負ってジャンプした。流石というべきか、猫の跳躍力で壁にジャンプして逃げた。
「ギャアアアアアアッ!なにあれ⁉︎」
「あー、あれは実験でできちゃった魔法生物よ。マンイーター」
「マンイーター⁉︎食われる!絶対食われる!」
「大丈夫大丈夫。私が杖でなんとか…………あら?」
「あ、物凄く嫌な予感がする」
「ごめん、杖落としちゃったわ」
「ちょっとぉぉおおおおおおっ!本当に死んじゃうよ⁉︎」
「どうしましょう……」
今はなんとか避けてはいるが、いずれ限界が来る。魔法を使うにも、今は杖がないし……。
なんとか、触手の当たる寸前でジャンプする。しかし、相手も相手、いつの間にか、二人は壁際に追い詰められていた。
あぁ、運の尽きだ。今度こそ、本当に死ーーーー
『プロテゴ・ホリビリス、恐ろしきものから守れ』
……To be continued
誰⁉︎Σ(゚д゚lll)