クィレルは何週間か後には更に青白く、更にやつれて見えたが、まだ口を割ってはいないようだった。
しかし、進級試験が近づいてきたので、四人は賢者の石のことだけを考えるわけにはいかなくなった。
イースターの休みも山のような宿題が出たし、休み時間のほとんどは図書館に入り浸ることとなった。
「難しいなぁ…」
思わず口から声が漏れる。
ドラゴンの血の12種類の利用法、杖の振り方、薬草ときのこについて、覚えることは山ほどあるのだ。
もう図書館の司書とはすっかり顔見知りだ。ずっと入り浸り本を読んでいるせいだろう。
リズが杖の振り方を復習しているとき、
「ハグリッド!なにしてるんだい?」
唐突にロンが声をあげた。
顔を上げると、背中になにかを隠しながら、バツが悪そうにモジモジとハグリッドが現れた。
「いや、ちーっと見てるだけ」
上ずった声である。
「お前さんたちはなにをしてるんだ?まさかニコラス・フラメルについて調べとるんじゃないだろうね」
「とっくに調べ終わっちゃったよ。四階の廊下には『賢ーー」
「シーッ!」
ハグリッドが慌てて得意げなロンの口を押さえた。
「ちょうどよかった。ハグリッドに聞きたいことがあったんだ。フラッフィー以外にあの石を守ってるのはなんなの?」
「シーッ!いいか、あとで小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ」
ハグリッドはもぞもぞと出て行った。
「ハグリッド、何を隠してたんだろう」
「ハグリッドのいた本棚、見てみるよ」
ハグリッドのいた本棚には、ドラゴンについての本がたくさん置かれていた。
「そういえばハグリッドって、ドラゴンが好きなんだっけ?」
「うん。前に話した時に言ってたよ」
ハグリッドがなにをあんなに隠そうとしていたのかは、すぐにわかった。
一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねた時、小屋は窒息しそうな暑さだった。カーテンは閉まり、暖炉にも炎がついている。
もう少しで夏だというのに、この暑さでは死んでしまいそうだ。
暑さを我慢して、四人はハグリッドに賢者の石の守りのことをハグリッドから聞き出した。
最初出し渋ったが、四人に畳み掛けられ、ハグリッドは誰が守りを作ったのかだけ教えてくれた。
「まあ、それくらいなら言ってかまわんじゃろう。…俺からフラッフィーを借りて…何人かの先生が魔法の罠をかけて…スプラウト先生、フリットウィック先生、マグゴナガル先生、クィレル先生、もちろんダンブルドア先生も細工したし、そうそう、スネイプ先生も」
「スネイプだって?」
「そうだ。まだあのことにこだわっておるのか?スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずがない」
四人は顔を見合わせた。
スネイプが守る方にいるならば、クィレルの呪文と、フラッフィーを出し抜く方法以外、ほかの先生がどんなやり方で守ろうとしたかは簡単にわかるはずだ。
「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくできるんだよね?誰にも話してないよね?」
ハリーが心配そうに言った。
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん」
それを聞いて四人は安堵のため息を漏らした。
少なくともダンブルドアが口を滑らせることはないだろうし、たとえハグリッドといえども、この件の重要性はわかっているだろう。
落ち着いたところで、リズは端にある暖炉を見やった。
「で、ーーあの卵はどこで手に入れたの?」
火をつけた暖炉にくべられたやかんの中にあるのは、大きな黒い卵ーードラゴンの卵だった。
「昨日、パブで賭けに勝って貰ったんだ。相手は厄介払いできて嬉しそうだったな」
「…ハグリッド、わかってる?ドラゴンって違法なんだよ」
「わかっとる」
とはいったものの、ハグリッドはドラゴンの卵を育てることをやめようとはしなかった。
ハグリッドから生まれるという知らせを聞き、四人は小屋にすっ飛んで生まれる瞬間を見守った。
しかし、ドラゴンの進化の仕方は異常だった。一週間で3倍以上の大きさになり、凶暴性も増す。
ロンは、兄弟のチャーリーにドラゴンを預けることを提案した。正直、ハグリッドもその提案を断ることは難しかったらしい。
程なくして、チャーリーから手紙がきた。しかしその間に、ロンは世話中にドラゴンに手を噛まれてしまった。
「チャーリーの手紙によると、ドラゴンを土曜日の真夜中に一番高い塔に持って行かなくちゃいけないらしいんだ。…誰がやる?」
ロンが言った。
「透明マントを使うとして…うーん。ロンと僕くらいなら隠せるんじゃないか」
ハリーの提案が、一番無難に思えた。
計画に支障が出たのは翌日だった。ロンの噛まれた腕が二倍に膨れ上がってしまったのだ。
ロンはドラゴンを逃すのに協力は難しい状況だった。
どうするべきか…リズは、覚悟を決めた。
「私がやる」
「へ?リズが?」
「やるなら私一人でやるわ。私なら、ドラゴンを暴れさせずに、安全に移動させられる」
「なんでそんな自信があるの?」
「……その、黙ってたけど私動物と話すのが得意なの。ドラゴンも例外じゃないわ」
「そうなのか⁉︎」
「透明マントを貸してもらうことになるけど」
ハリーは面食らった顔をしていたが、快く透明マントを貸すと約束してくれた。
「一人だと危険すぎるよ。僕も行く!」
「ハリー、よく考えて。リスクは分散すべきよ。二人で行ったら、見つかったときの減点が増えるじゃない。それなら私一人で行った方がいい」
「でも…」
ごねるハリーにハーマイオニーが言った。
「ハリー、別に今生の別れになるわけじゃないのよ?」
「ハーマイオニー、わかってる。でもさ…」
「ああ、わかったわ。ハリー、あなたリズが無茶をしないかが心配なのね?ここ数ヶ月怪我ばかりしてるから」
ハーマイオニーがクスクス笑って言った。思わず、ハリーは顔を赤らめる。
「た、たしかにそれは心配だけど…そんなんじゃないってば」
「ハリー、約束する。無茶はしない!」
(多分…)
リズはなんとかハリーを説得することに成功した。
ハリーは絶対に無茶をせず、無理だと思ったら引き返すことを条件に、リズが一人で行くことを認めてくれた。
**************
マルフォイがリズに話しかけてきたのは、次の日の魔法薬学の授業の後のことであった。
「リズ、ドラゴンを夜中に運ぶってのは本当かい?」
その言葉に、リズは思わず足を止めてしまった。
マルフォイは唖然とするリズに構わず続ける。
「ハグリッドの家に行く君たちを尾けたんだよ…。気付かなかったのか?」
「ま、全く」
「そうか。……なあリズ、なんで君はあいつらとつるんでるんだ?」
「なんでって…友達だから…」
「友達だから?君あいつらとつるんでから怪我してばかりじゃないか!これならスリザリンに来た方がずっとマシだったんじゃないか?」
マルフォイは腕を組んだまま足を踏みならした。
「もしこのままドラゴンを運びに行くんなら、僕はスネイプ先生に言おうと思ってる。
君たちがどこに行くつもりなのかはもう知ってるよ」
「え?そんな、なんで?」
「あのウィーズリーの手紙を盗み見たのさ。夜に天文台の塔に行くんだろ?」
リズは黙り込む。
図星だったから、というのもあるが、確かにマルフォイが自分を心配するのも仕方がない、というのもあった。
ここ数ヶ月、肋骨だのなんだの怪我が続いていたし、ハリー達にも今生の別れかというほどの剣幕で怒られたし。
「心配してくれてありがとう、ドラコ。でも私、あなたも、ハリー達も、初めてできた大切な友達なの」
「…僕は君を心配して…」
「わかってる。だからさ、ドラコ。
一緒にドラゴンを運びに行かない?」