「いてっ!リズ、もうちょっとそっち行ってくれ」
「ごめん、流石に動けないよ。足がはみ出しちゃうし」
「おいマルフォイ、お前がどっか行けば万事解決だろ。寮に戻れよ」
「はぁ?お前はこんな夜中に女子生徒を一人で歩かせるつもりなのか?」
(……どうしてこうなった…)
ドラゴンの入った箱を抱えながら、リズは頭の中でそう考えた。
あの後、マルフォイは渋りながらもドラゴンを一緒に運ぶことを約束してくれた。
ボディーガードがいればハリーも安心だろうと、ドラコと行くと報告すると、なぜかハリーはまた怒り出して僕も行くと言った。
断りきれずに二人とも、ついてきて、今に至る。
「ちょっと、二人とももうちょっと静かにして!誰かにバレたらどうするつもりなの⁉︎」
「ご、ごめんリズ」
「すまない」
二人はお互いを睨みつけながらも黙った。
リズはバレないように溜息をつく。
リスクの分散とはどこに行ったのか…。
しかし、ドラゴンの受け渡しは問題なく終わった。
ロンの兄、チャーリーの仲間たちは気のいい人達だった。
ドラゴンの牽引用の工夫された道具類で、ドラゴンをしっかり繋ぎ止め、ドラゴンは去って行った。
「さ、早いとこ戻ろう」
三人はドラゴンを見送ったあと、再び透明マントを被って下へと降りて行った。
天文台は授業以外で入るのを禁止されているため、見つかったらなにをされるかわからない。
三人は長い螺旋階段を慎重に降りていき、廊下に出ようとした。
だが、
廊下にフィルチが立っていた。
驚いて悲鳴をあげそうになるのを、リズはなんとか抑えた。
フィルチ…あの嫌味な先生には、自分たちは見えていない筈だと言い聞かせる。
心臓がドクドクと鳴る。三人は息を殺し、足音をなるべく立てないように後ずさりする。
フィルチは天文台の階段を凝視している。もしかして、足音が聞こえてしまったのか?
「……そこに誰かいるのか?」
フィルチがしわがれた声を響かせる。
ああどうしよう、どうしよう。
このまま天文台の上まで引き返す?でも足音でバレてしまうだろう。
ハリー達は顔を真っ青にして押し黙っている。もし、フィルチがこのまま上へ上がってきたら、絶対絶命だ。
そのときなぜか唐突に、リズの頭の中で何かが思い出された。
夢に出てきた白い猫。
「忘れないで。危ない目に遭ったら、私を思い出して」
聞いたことのある声だ。誰の声だっけ?
あれは…。
「「リズ⁉︎」」
二人が小さな声で名前を呼んだ。
異変は、それを聞いた直後だった。
**************
フィルチは夜の見回りに出ていた。
毎日の日課のようなものだ。
夜、出歩く子供達を捕らえ、罰を受けさせることに喜びすら感じていた。
魔法が使えないスクイブの自分の生きがいといえば猫の世話くらいのものだ。
家族からはどうせ、自分はいないことになっているのだろう。
自分が今頑張って働いているのは、あのミセス・ノリスの為だ。
フィルチは、ミセス・ノリス…あの猫のために生きているんだと、本気で思っていた。
天文台の階段からの物音に気がついたのは、完全に熟練の勘だった。
生徒がいる!
そのことに驚きつつも早く見つけてやろうと舌なめずりをした。
「…そこに誰かいるのか?」
ランプを掲げるが何も見えない。
隠れているのかもしれない。
フィルチはニタニタと笑いながら天文台への階段へ足を踏み入れようとした。
そのときだった。
「にゃおん」
猫の鳴き声がした。
フィルチの足元をしなやかで俊敏な猫がするりと通り過ぎた。
フィルチは猫の方を振り向く。
白く、青い目をした美しい猫だった。
首に、なぜか六角形の赤いペンダントをつけている。
痩せているがちゃんと食べているのだろう、野良猫には見えない凛とした存在感があった。
「……お前だったのかい?」
フィルチが少し猫に近付くと、猫はまた一声鳴いてどこかへ去っていった。
なぜ、ここに猫が?という問いは頭に浮かばなかった。
ただただ、美しいと、そう思った。
**************
「はぁ、はぁ、はぁ…」
マルフォイとハリーはは走り疲れて肩で息をした。
薄暗いグリフィンドール寮の中、響いているのは二人の荒い息遣いだけだ。
リズが目の前で猫に変身するのを、二人は呆然と見守るしかなかった。
リズは猫に変身し、フィルチを引きつけた。
その間に、二人はうまく逃げ出すことができたのだ。
「なんだったんだ、あの姿…っ⁉︎」
ハリーが困惑した声で言った。
「あれって変身術なのか…?それとも動物もどき…?どちらにせよ、あの年であそこまでできるなんて…」
困惑するハリーを無視し、マルフォイは急に青白い顔を上げ、ハリーの持っていた透明マントをひったくった。
「おいっ!なにするんだ!」
「戻るぞ、ポッター」
「なんでだよ、だって…」
「お前はアホかポッター!変身術はな、誰かに魔法を解いてもらわないと人間の姿には戻れないんだ! リズを助けに行かないと…」
はっとした二人は再び透明マントを被った。
**************
『リズ!』
誰かともわからぬ声で、リズははっと目を覚ました。
目眩が酷い。
ここはどこだ?
リズは久しぶりの低い視界に困惑しながら周りを見渡した。
ここはどこだっけ?
人間としての理性と獣としての本能が混ざり合って、一瞬我を失いかけた。
誰かに呼ばれたような気がして、戻ってこれたが…。
(……なにはともあれ、グリフィンドール塔に戻らないと…)
どうしてまた猫になることができたのだろう。
たしかに自分は猫だったけど、もう人間になったんだ。
だって、先生が人間にしてくれたんだから…。
リズは考えを振り払い、グリフィンドール塔への道を頭の中に思い浮かべた。
ここからは遠いが、走ればすぐ着く筈だ。
(2人はちゃんと逃げられたかな…?)
ちゃんと逃げられてるといいんだが…。
猫を飼うのが夢です