魔法使いになった猫   作:雪兎 銀杏

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急展開というやつです。


20.黒いローブの男

 

 ハリーとマルフォイは警戒を怠らず歩みを進めた。

 天文台の塔まで来たが、フィルチはもちろんリズの姿はなかった。

 猫の毛ひとつ落ちていない。

 2人はリズが走り去った方角へと向かった。

 

「いないな…」

 

 随分遠くまで来た。

 外に出てしまったのだろうか?

 ハリーは、ふと窓の外を見やった。

 

「待って、マルフォイ、あれはなんだ?」

「……?」

 

 ハリーが指差した先……窓の外、禁じられた森の近くに、黒いローブを被った男が立っていた。

 後ろ姿だから誰かはわからない。

 

「うっ…」

「ポッター…⁉︎」

 

 ハリーは突然、頭が割れるような痛みを感じた。

 

 

 傷が、突然痛み出したのだ。

 

 

 思わず傷を抑えてしゃがみこむが、痛みは治る気配を見せない。

 

「…ポッター、おい、どうしたんだ!」

 

 マルフォイが呼びかける声が聞こえる。

 それがなんだか遠く聞こえた。

 

「……!ポッター、あいつ、こっちを見てないか…?」

 

 歯を食いしばってもう一度外を見やる。

 ローブの男が、こちらを見上げているような気がした。

 

「なんだかヤバい気がする…」

「マルフォイ、逃げるぞ!」

 

 痛みに耐えながら、ハリーはリズを探して走り出した。

 あの黒いローブを着た男は誰なのだろう?

 もしかして、スネイプか?

 スネイプは禁じられた森で一体なにをしているんだ…?

 

 

 

 **************

 

 

 ーーリズside

 

 

 

(……完全に)

 

 迷った。

 視界が低いだけでこんなに違って見えるものなのか……。

 

 ここはどこだろう。

 二階というのはわかるのだが、グリフィンドール塔がどこかわからない。

 天文台の塔まで戻った方がいいだろうか…?

 

 いや、そもそもここがどこかわからないから、天文台がどこかもわからないのだった。

 

(一番の問題は、人間にどう戻るかだけど…)

 

 ハリー達の様子も気になるし、それは後回しだ。

 

(……?)

 

 人の気配を感じた。先生だろうか?

 廊下の角から見やると、先生でも生徒でもない、黒いローブの男が立っていた。

 それを見た瞬間、突然、ぞわ、と全身の毛が逆立つような気がした。

 

(…あれは、ヤバイものだ)

 

 近付いちゃいけないものだ。駄目だ、あれは。

 人間としての理性も、猫としての本能も叫ぶ。

 

 逃げろ、と。

 

 リズは駆け出した。

 絶対に振り向いちゃいけない。

 なにをされるかわからない!

 

 足音が後ろからついてくる。

 気付かれてしまったのだろうか。

 

 唐突に、赤い閃光がこちらに飛んで来た。

 

(……ッ⁉︎)

 あの男が放ったものだ。ギリギリで避けた。

 でも、もう一度飛んで来たら避けられる自信はない。

 あれは偶々避けられただけ。

 

(速く速く、もっと速く逃げないと…!)

 

 そんなリズの思いを無視して、再び、後ろから、赤い閃光が飛んでくるのが見えた。

 

 

 

 *******

 

 

 

 遠くから響いた爆発音に、ハリーとマルフォイは思わず顔を見合わせた。

 

「どこの音だ⁉︎」

「わからない。二階だと思うが…」

 

 ホグワーツ城は広いし、音がよく反響する。

 どこで音が鳴っているかを特定するのは、難しいのだ。

 

 幸い、同じ階にいた二人は長い時間がかからずに見つけることができた。

 

「「……っ!」」

 

 土煙に思わず咳き込みそうになる。

 二階の廊下は、床が抉れ、煙が舞っていた。

 

 なにが起こったのかはわからない。

 しかし、ハリーの傷の痛みはピークに達していた。

 ここにあのローブの男がいたのだろうか?

 

「……あ」

 

 土煙に紛れて、白い猫が倒れているのが見えた。

 リズだ!

 マルフォイは素早くリズの身体を拾い上げる。

 

「怪我はしてないみたいだ…」

「…よかった」

「すぐに先生が来るぞ。行くぞポッター」

「待て、マルフォイ……あそこ」

 

 ハリーは、以前リズの言っていた黒い髪の少年が、去って行くのを見てしまった。

 

 

 

 **************

 

 

 

 グリフィンドール塔へ舞い戻った二人は、リズをどうやって人間に戻すことができるかわからなかった。

 

 下手な魔法をかけて新たな怪我をさせたらダメだろう。

 

 魔法を解くよりも、リズが眼を覚ます方が早かった。

 

「リズ、大丈夫…?」

「にゃあん」

 

 YES、ということだろうか。

 リズは何故か頭をブンブンと振ったあと、念じるように眼を閉じた。

 

 リズはぐるりと回転するように人間の姿に戻った。

 

「ごめん。ありがとう。助けに来てくれて」

「リズ、君、動物もどきだったのかい?」

「変身術で自力で人間に戻れるなんて、聞いたことないぞ」

「……えーっと、ごめん。自分でもよくわからないの」

 

 案の定質問責めにされたリズは、困ったように頭を掻いた。

 

「でも、皆には黙っていてくれると嬉しい」

「わかった。でもひとつだけ答えて」

「なに?」

「あそこでなにがあったんだい?」

 

 あそこ…勿論、あの二階の廊下だろう。

 

「黒いローブの男に襲われたのよ」

「「え…っ⁉︎」」

「誰かはわからない。でも……」

 

 リズは黙り込む。

 そして意を決して言った。

 

「血の匂いがしたわ」

「血の匂い…?」

「猫の鼻って人の何倍もいいの。だからすぐにわかったわ。でも、あれは人間の血じゃない…多分」

「……あの男、一体なにをしていたんだ…」

 

 三人は黙り込む。

 マルフォイはスリザリン寮に戻らなければならないが、危険な人物が出歩く廊下に飛び出して行く勇気はなかった。

 

「ドラコ、朝一番にスリザリンの寮に戻りなよ。皆が起きる前に」

「……わかった」

「あの人について勘繰るのは危険だと思う。気をつけて」

 

 リズはそう言って女子寮への階段を上がろうとした。

 

「リズ!」

「!なに、ハリー」

 

 階段の途中で、リズはハリーに呼び止められた。

 

「君はまた、あの男の子とやらに助けてもらったのかい?」

「……気付いてたの?」

「気付くっていうか…僕、あの廊下でその男の子の後ろ姿を見たんだよ」

 

 ハリーが見た以上、あの男の子はリズの妄想じゃない。

 ちゃんと存在している。そして、事あるごとにリズを守っていることになる。

 

「…男の子に教えてもらったの。人間への戻り方」

「…やっぱり」

「あの人はローブの男から私を守ってくれた。何故かはわからないけど…」

 

 リズは難しい顔で腕を組む。

 

「疑問だらけだけど、仕方ないわ。とりあえず、おやすみ」

「ああ、おやすみ。…あ、そうだリズ!」

 

 女子寮に入ろうとする足を止め、リズは振り向く。

 

「なに?」

「その赤いペンダント、よく似合ってる」

 

 リズは一瞬きょとんとして赤いペンダントを見やり、それから少しはにかんだ。

 

「ありがとう。これ、大切なものなの」

 

 リズが女子寮へ入ってから、ハリーも男子寮へ戻った。

 皆が眠る中にそっと部屋に入り込み、天蓋のベッドに横になる。

 

(…疲れた)

 

 すぐに睡魔が襲ってきて、ハリーは泥のように眠った。

 

 

 

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