教科書を纏め、制服とその他衣服をトランクに詰め込む。もちろん、ブラッドリーに貰ったお金も一緒に。
ブーツとスニーカーを詰め込んでいるとき、ノック音のあとに、セリアが入ってきた。
「もう準備してるの?まだ朝よ?」
「頭が冴えて仕方ないの。明日からホグワーツだもの。しばらくは二人とお別れだけど、ハロウィーンとクリスマスの休暇は帰るから」
「私も入学式前日ははしゃいでたなぁ」
セリアは懐かしそうに言い、リズはそれに笑って応じる。
「半年前が夢のよう。文字通り生まれ変わったみたい」
ーー半年前、死にかけていたなんて。本当、嘘みたい。
リズはその言葉を飲み込んだ。
しかし頭の中は、苦い言葉で支配されていた。
ーー私は運が良かった。でも、他の兄弟たちは、どうだっただろう。
母も、兄弟たちも、皆どこかに逝ってしまった。私を置いて。
私を守って、あるいは見捨てて。……私だけ助かっても、良かったのか。
ーその答えは、今もなお出ていない。
「リズ、切符はここに置いておくからね」
「へっ?あ、はい!」
セリアはドアを開けっ放しにして出て行った。
机の上を見る。
『九と四分の三番線から、十一時発』
という堅苦しい文字の切符が置いてあった。
どうしてこうも魔法界は、常識を逸脱した、試すようなことをしてくるのだろう。
リズはそっと苦笑した。
その答えは、魔法界だから、としか言えないのだ。
***
翌朝は、興奮と緊張で7時半に目が覚めた。
起きだしてすぐ寝巻きから普段着に着替えると、うきうきして今でも飛び上がりそうなった。(実際1メートルほど飛び上がった)
下の階には屋敷しもべはいたが、セリアやブラッドリーは居らず、閑散としていた。
早起きしたはいいものの、まだ出るには早すぎる時間だったので、また暇になった。
荷物は昨日のうちに一階に運んでしまったし、エンヴァは外に出てしまっている。昨日の夜出て行ったから、そろそろ戻ってくるだろう。
セリアの話では、学校の制服は汽車の中で着替えればいいらしい。
魔法使いのマントなんて着ていたら駅でどんな顔をされるか、わかったものじゃないな……杖を指揮棒のように振り回しながら、リズは考えた。
数分すると、天窓からエンヴァが鼠を咥えてリズの隣に降りてきた。
鼠を受け取りながら、リズは尋ねた。
「どこにいってたの?」
『大きな塔の方へ行ってたわ』
「へぇ、楽しかった?」
『もちろん』
エンヴァは嬉しそうにリズの指先を甘噛みして籠の中に収まった。
「おはよう」
いきなり空から声がした。
見ると、階段からブラッドリーが降りてきていた。
寝起きながら、ぴしっとマントを着ている。
こういうところは、セリアと正反対だなとリズは思った。
「おはよう、先生」
リズが声を返すと、ブラッドリーは少し黙ってから、
「……よく眠れた?」
と尋ねた。
「うん。君は?」
「まあ、眠れたかな。仕事で疲れてたから」
「闇祓いだっけ?大変?」
「大変。でも仕事は好きだから、大丈夫だよ」
ブラッドリーは、そう言ってリズの隣に腰掛けた。
「セリアは?」
「まだ寝てると思う。朝は弱いんだ。先に朝食を食べよう」
食堂の方へ行くと、既に屋敷しもべがせっせと朝食の準備をしていた。
お皿や料理があちらこちらに浮かんで、テーブルに並べられていく。
(衝突して割れたものは、先生が直した)
「先生、ジャムとって」
「はい」
「ありがとう」
「ナイフを取ってくれるかい」
「うん、はい」
朝食を食べていると、しばらくしてセリアが勢いよく食堂に入ってきた。
「おはよう!」
「おはようセリア、遅かったね」
「二度寝しちゃった」
セリアはえへへと笑ってリズの正面に座った。
朝食を食べ終わってからすぐ、一行はキングズ・クロス駅に向かった。
今度は電車ではなく、ブラッドリーの運転する車だった。
リズは後部座席に座っていたが、慣れない革の香りにむせて、何度もくしゃみと咳を繰り返した。
キングズ・クロス駅についたのは、10時45分を少し過ぎた頃だった。
ブラッドリーとセリアはリズの荷物をカートに入れるのを手伝って、9と10のプラットホームまで連れて行った。
しかし、当然ながら九と四分の三番線なんてあるわけがない。
リズは困惑しながら、
「どうするの?」
と尋ねた。
「心配しないで。9番と10番の間の柵に向かって、歩くの。立ち止まっちゃダメよ。大丈夫、私たちも一緒に入るから」
セリアは、リズの肩を抱いて一緒に歩きはじめた。
目の前には頑丈そうな柵が。
ぶつかったらさぞ痛いだろう。
体を強張らせながら、リズは歩き続けた。
壁が目の前に来た時、思わず目をつぶった。しかし、痛くない。
恐る恐る目を開くと、紅色の蒸気機関車が、乗客でごった返すプラットホームに停車していた。
ホームの上には、
【ホグワーツ行特急11時発】と書いてある。
振り返ると、改札口のあったところに9と4分の3と書いた鉄のアーチが見えた。
リズは興奮と歓喜とでよくわからない気持ちになりながらも、二人の方を向いた。
「見送れないのは残念だけど、私たちは仕事があるから、もう行くわ。新学期はすごく楽しいよ。頑張ってね!」
「うん、またね先生、セリア。手紙を書くよ!」
「頑張れ、リズ」
珍しくブラッドリーは少し笑った。
そのうち二人は、ごった返した人波にのまれて見えなくなってしまい、リズは少し心細くなりながら空いているコンパートメントを探した。
リズは空いているコンパートメントを最後尾の方に見つけ、素早くエンヴァを中に押し込んだが、列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げることができなかった。
「あ!リズ」
「ハリー、久しぶり…」
振り向くと、カートに白いフクロウやトランクを乗せたハリーが立っていた。
リズは肩で息をしながら、挨拶する。
「君と同じ席でもいい?他のところは空いてなくて…」
「構わないわよ。でも私、今ちょっと困ってるの。一緒にトランクを押し上げてくれない?上がらなくて」
「いいよ」
ハリーと二人で押すと、トランクはやっと押しあがった。
しかし、二人とも息がゼイゼイしていて、なにも言えなかった。
「手伝おうか?」
ハリーは話しかけてきた人物を覚えていた。
さっき改札口で会った、赤毛の双子のどちらかだ。
「うん。お願い」
「おいフレッド!こっちに来て手伝えよ!」
双子のお陰で、二人の荷物はやっと客室の隅に収まった。
「ありがとう」
言いながら、ハリーは目にかぶさった汗びっしょりの髪を掻き上げた。
リズは適当な紐で髪を縛り、同じようにありがとう、と言った。
双子はハリーの髪の間から見えた傷跡を見て、
「それ、なんだい?」と尋ねた。
「驚いたな。君は……?」
「彼だ。君、違うかい?」
「何が?」
「ハリー・ポッターさ」
双子が同時に言った。
「ああ、そのこと。うん、そうだよ。僕は、ハリー・ポッターだ」
双子がポカンとハリーを見つめているので、ハリーは顔が赤らんだ。
その時、ありがたいことに、開け放された汽車の窓から声が流れ込んできた。
「フレッド?ジョージ?何処にいるの?」
「ママ、今いくよ」
もう一度ハリーを見つめると、双子は列車から飛び降りた。
二人はお互い正面に座った。
「元気だった?」リズは早速尋ねた。
「あんまり。ずっとあのマグルのとこにいたからね」
「そんなに嫌いなの?」
「うん。君のとこの家族は?見送りに来ないの?」
「プラットホームまでは送ってくれたんだけど、仕事が忙しいみたい、すぐ別れちゃった」
「そう。リズは元気だった?」
「ええ。元気だった。おかげさまで」
「よかった。ところで、あの誕生日のプレゼント、ありがとう。あれ、暗いところで本を読むのにいいね」
「よかった。でも、あんなものしかなくてごめん」
「そんなことない。僕嬉しいんだ。友達から誕生日プレゼントを貰うなんて初めてだったから!」
リズは顔を赤くなるのを感じた。
照れているのだ。
「私もハリーが友達になってくれて嬉しい。私、ずっと家にいたから、友達いなかったの」
そういったところで、甲高い笛がなった。
ホグワーツへ、汽車が滑り出したのだ。
……To be continued
双子は結構好きです。