魔法使いになった猫   作:雪兎 銀杏

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汽車の中ですです。


6.道中お気をつけて

 話していると、急にコンパートメントのドアが開いて、赤毛で背の高い男の子が入ってきた。

 さっきの双子の兄弟に違いない、とリズは思った。

 

「ここ空いてる?」

 男の子は、リズの隣の席を指差して尋ねた。

「他はどこもいっぱいなんだ」

 二人が頷いたので、男の子は席に腰掛け、チラリとハリーを見た。

 その時、リズは男の子の鼻が汚れているのに気がついた。

 

「おい、ロン」

 双子が戻ってきた。

「なあ、俺たちは真ん中の車両あたりまで行くぜ。……リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」

「わかった」

 ロンはもごもごといった。

 

「自己紹介したっけ?僕たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロン。じゃ、またあとでな」

 双子はコンパートメントの戸を閉めて出て行った。

 

「君、本当にハリー・ポッターなの?」

 ロンがポツリと言った。

「うん」

 ハリーが答えると、ロンはすぐ、

「じゃあ、その傷が例のあの人の…?」

 と尋ねた。

「うん。でもなんにも覚えてないんだ」

「へぇー」

 ロンは熱っぽく言い、今度はリズのほうを向いた。

 

「プリズンリバーって名前、知ってるよ。前ママとパパが話してた。君のお父さんが、パパの友達だったんでしょ?スリザリンとグリフィンドールが友達になるなんて珍しいなあ」

「グリフィンドールとスリザリンって、そんなに仲悪いの?」

「そりゃあもう!やっぱり、クラスは別れてしまうだろうなぁ」

「えー、残念」

「まあ、行ってみないとわからないらしいけど。君のことも言ってたよ。君、しばらく療養してたんだって?最近初めて魔法界に戻ってきたとかなんとか…」

「……うん、そうなの」

 

 内心汗だくになりながら、リズは答えた。元猫だなんて、知られたくない。

 

「だからダイアゴン横丁に行ったことなかったの?」

 ハリーが言った。

「う、うん。ずっと屋敷にいたし」

「へぇー!僕は毎年行ってたよ!」

「あんな人の多いところは初めてだったよ、私」

 

 それから3人は、いろんな話をした。

 ロンの家族の話や、リズの家族の話。

 それぞれの動物の話、杖の話。いろいろだった。

 

 十二時半頃、通路でガチャガチャと音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。

 

「車内販売よ。何か入りませんか?」

 ハリーは朝食がまだだったので、勢いよく立ち上がって通路に出た。

 リズは少し小腹が空いていたので、お金の入った包みを持って通路に出た。

 ロンは耳元をポッと赤らめて、サンドイッチを持ってきたからと口ごもった。

 

 リズは初めて見る不思議なお菓子に目を光らせ、蛙チョコレートを数箱と大鍋ケーキを手にとって、銀貨6シックルを払った。

 

 しかし、リズはハリーの買い物を見てぎょっとした。

「すごい量だねハリー。お腹空いてるの?」

「ペコペコだよ」

 ハリーは両手いっぱいの買い物を自分の隣の席に置き、かぼちゃパイにかぶりついた。

 ロンはデコボコの包みを取り出して、開いた。

 サンドイッチが四切れ入っていた。一切れつまみ上げ、 パンをめくってロンが言った。

「ママったら僕がコンビーフは嫌いだって言っているのに、いっつも忘れちゃうんだ」

「僕のと換えようよ。これ、食べて」

 ハリーがパイを差し出しながら言い、それからそれらしい言い訳を付け加えた。

「それにたくさん買ったけど、きっと僕だけじゃ食べきれないし。リズもどうだい?」

「頂いとく」

「でも、これ、パサパサで美味しくないよ。ママは時間がないんだ。五人も子供がいるんだもの」

「いいから、パイ食べてよ」

 

 リズは猫だった時食べ物を取り合うだとか、探し回ることしかしたことがなかったから、誰かと平等に、何かを分け合うなんて新鮮なことだった。

 今も、食べられるところで食べておかないといけないという、単純な生存本能が体に残っていたし、そのことを踏まえると、リズは誰よりも命や食べ物の大切さを知っていた。

 

「これなんだい?」

 ハリーは蛙チョコレートの包みを取り上げて聞いた。

「まさか、本物の蛙じゃないよね?」

「でも、蛙って食べられるんだよ。美味しいかは知らないけど」

「いやリズ、普通にチョコレートだよ。ちょっと動く魔法がかけてあるだけ」

 ロンはリズの少しずれたところが、好きになり始めていた。

 

「中にカードが入ってるんだ。有名な魔法使いとか魔女とかの写真だよ。僕、500枚くらい持ってるけど、アグリッパとプトレマイオスがまだないんだ」

「プトレマイオスっていうのは、エジプトの女王様よ。凄い魔女だったんだって」

 ハリーはリズの解説に関心して蛙チョコレートの包みを開けてカードを取り出した。

 男の顔だ。半月形の眼鏡をかけ、高い鼻は鉤鼻で、流れるような銀色の髪、あごひげ、口ひげを蓄えている。

 リズはこの人物に見覚えがあった。

 

「私この人に会ったことある。確かダンブルドアという名前の人よ。ホグワーツの校長先生」

「この人がダンブルドアなんだ!」

 ハリーが声を上げた。

「ダンブルドアのことを知らなかったの!僕にも蛙一つくれる?アグリッパがあたるかもしれない……ありがとう…」

 

 リズも興味津々に蛙チョコを開けてみると、プトレマイオスがいた。

「ロン、私プトレマイオスがあたったよ!あげようか?」

「いいの?貰う!」

 リズはチョコレートの味が気に入った。クセになる味だ。

 

「ロン、ダンブルドアがいなくなっちゃったよ!」

 急にハリーが叫んだ。

「そりゃ、一日中その中にいるはずないよ。また帰ってくるよ。あ、だめだ、また魔女モルガナだ。もう6枚も持ってるよ……君欲しい?これから集めるといいよ」

 

 リズは気になったので、もう1箱開けることにした。

「……あ」

「どうしたんだい?」

「いや、これ」

 

【エドワーズ・プリズンリバー】

 

「君のおじいさんの名前だろう?知らないの?すっごく有名な人だよ!」

「そうなの?」

 

 写真を覗き込むと、黒髪で目が青く、深い緑色のマントを着た老人が、人の良さそうな笑みを浮かべているのがわかった。

 

「説明書きを読んでごらんよ」

 ロンに急かされ、読んでみる。

 

 

【エドワーズ・プリズンリバー

 

 1990年の魔法省大臣。

 魔法使いの中でも、多くの功績を残し、解くのが不可能だと言われていたアフレティアノの呪いを解呪。これにより二万人の魔女、魔法使い、マグルが救われた。引退後、ダンブルドアと共闘し例のあの人と戦うが、例のあの人により殺された】

 

 

「この人、ダンブルドアを庇って死んじゃったんだって。凄い人だよ。他にもいろんなことしてるんだ。君、家族については知らないのかい?」

「知らなかった。まさか…」

「まあ、教科書には載ってないし、知らない人もいるよ。名前知ってるだけとかあるじゃない」

「……私、親もおじいちゃんも知らないの。おじいちゃんは私が産まれる前に死んじゃったし、親は私が1歳の時殺されちゃったし」

 ロンは押し黙った。

「ごめん、傷つけるつもりじゃなかったんだ。ただその、知ってると思って」

「いいのいいの。気にしないで」

 

 ーーあれ?私、なんか悲しい。どうして?

 

 リズは頭の中に浮かんだ疑念を振り払った。しかし確かな答えもまた、頭の中に浮かんでいた。

 

 ーーこれは、罪悪感。

 

 嘘をつく、騙す。

 猫のときも日常的に行ってきたことだったのに、こんな気持ちの悪い気分になるのは、人になったリズには、初めてのことだった。

 頭の中で、嘘をつく=悪事という式が、しっかり成り立っていなかった。

 もともと嘘も騙すもリズにとって、生きるための道具でしかなかったからだ。

 

 どうしてこんな気分になるのか、その答えは頭にすぐ浮かんできた。

 今までの相手は、他人だった。でも今嘘をついているのは、友達だから。

 だから、悲しいんだ。

 

 

 そうこうしているうちに、車窓には荒涼とした風景が広がってきた。

 整然とした畑はもうない。

 森や曲がりくねった川、鬱蒼とした暗緑色の丘が過ぎていく。

 

 コンパートメントをノックして、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。

 

「ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」

 三人が首を横に振ると、男の子はメソメソ泣き出した。

「いなくなっちゃった。僕から逃げてばかりいるんだ!」

「きっと出てくるよ」

 ハリーが言った。

「見かけたら教えるね。どれくらいの大きさ?」

「これくらい」

 リズが尋ねると、男の子は大体フットボールくらいの大きさを示して見せた。

「わかった。見かけたら捕まえとく」

「うん、ありがとう…」

 男の子はリズの言葉に少し微笑んだが、背中を猫背にして出て行った。

 

「どうしてあんな探してるのかなあ。僕がヒキガエルなんか持ってたら、なるべく早くなくしちゃいたいけどな。もっとも、僕だってスキャバーズを持ってきたんだから人のことは言えないけどね」

 ねずみはロンの膝の上で眠り続けている。

 

「死んでたって、きっと見分けがつかないよ」

 ロンはうんざりした口調だ。

「昨日、黄色に変えようとしたんだ。でも呪文が効かなかった。やってみせようかーー見てて…」

 ロンはトランクをガサゴソ引っ掻き回して、杖を取り出した。

 

「変えられるかな?」

 リズは興味津々に尋ねた。

「わかんない。でも、昨日は無理だったんだ」

 ハリーはじっと杖の先を見つめた。

 杖を振り上げたとたん、またコンパートメントの戸が開いた。

 栗色の髪がフサフサして、前歯がちょっと大きい、新調のホグワーツ・ローブを着た女の子が立っていた。

 

「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」

 なんとなく、威張った話し方をする女の子だ。

「見なかったよ。さっきネビルって子が来て、その時もそう言ったわ」

 リズは答えたが、女の子は聞いてもいない。杖の方を見て、

「あら、魔法をかけるの?それじゃ、見せてもらうわ」

 と言ってロンの隣に座り込んだ。

 ハリー1に対し正面に3でなんともバランスが悪いが、生憎ハリーの隣には菓子の山があった。

 

「それじゃあ行くよ?

 ”お日様、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ”」

 

 ロンは杖を振った。

 しかし、何も起こらない。

「その呪文、間違ってないの?」

 と女の子が言った。

「あなた名前は?」

 気を取り直して、リズが尋ねる。

「私?私はハーマイオニー・グレンジャーよ。あなた方は?」

「私はリズ・プリズンリバー。よろしく」

「僕、ロン・ウィーズリー」

「ハリー・ポッター」

「ほんとに?私、もちろんあなたのこと全部知ってるわ。ー参考書を二、三冊読んだの。あなたのこと、『近代魔法史』なんかにのってるわよ」

「僕が?」

 ハリーは呆然とした。

 リズはハリーのことをそこまで特別扱いしないハーマイオニーの態度が気に入って、また話しかけた。

 

「ハーマイオニーはホグワーツに兄弟はいるの?」

「いないわ。私の家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙を貰ったとき驚いたわ」

「マグルの生まれなんだ!ねえ、どの寮に入りたい?私はグリフィンドールに入りたいんだけど、私の家はスリザリンなの」

「そうね、いろんな人に聞いて回ったけど、私もやっぱりグリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこの出身だって聞いたわ」

 

「そう。ちょっと話変わるんだけど、あなたのコンパートメントにお邪魔してもいい?ローブに着替えたいんだけど、ここにはハリーとロンがいるから」

「いいわ。私もヒキガエルを探さないといけないし。あなたたちも着替えたほうがいいわ。そろそろ着くと思うから」

 

 リズはハーマイオニーについてコンパートメントを移動した。

 戻ってきた時、二人はクィディッチの話をしていたので、リズもその話題に加わった。

 

 専門的な話に入ろうとした時、またコンパートメントの戸が開き、三人男の子が入ってきた。

 ハリーとリズは真ん中の一人が誰であるか一目でわかった。

 あのマダム・マルキン洋装店にいた、ドラコ・マルフォイという男の子だ。

 

 ダイアゴン横丁の時よりずっと強い関心をしめしてハリーを見ている。

「ほんとかい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。それじゃ、君なのか?」

「そうだよ」

 ハリーは答えた。

 リズはマルフォイに声をかけた。

「ドラコ、久しぶり」

「やあリズ。久しぶりだね」

「そちらの二人は?友達?」

「ああ。こいつはクラッブ。こっちがゴイルさ」

 クラッブとゴイルは二人ともガッチリとして、この上なく意地悪そうだった。

 マルフォイの両脇に立っていると、ボディーガードのようだ。

「そして、僕はドラコ・マルフォイさ」

 ロンはクスクス笑いを誤魔化すかのように軽く咳払いした。

「僕の名前が変だとでも言うのかい?君が誰だか聞く必要もないね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほど沢山子供がいるってね」

「ドラコは兄弟いないの?」

 リズは能天気に言った。

 リズは正直空気を読むのが下手だった。

「いないよ。一人っ子さ。……ポッター君。そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかってくるよ。間違ったのとはつきあわないことだね。その辺は僕が教えてあげよう」

「間違ったかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切さま」

 リズはやっと険悪な雰囲気を感じ取った。

 このままでは喧嘩になる。

 これ以上のトラブルはごめんとばかりに、リズは口を挟んだ。

「ドラコ、喧嘩は嫌なんだけど」

「そうだな。リズの前で、紳士的じゃなかった。またなポッター君」

「待ってドラコ!私の大鍋ケーキ、余ったからあげるよ」

 こういうのは尻尾を振るのが一番なのだ……リズはケーキを渡した。

 

 それから、三人ともコンパートメントを立ち去った。

 

「マルフォイと会ったことあるの?」

 ハリーとリズはダイアゴン横丁での出会いを話した。

「あいつなんだかリズのことやたら気にしてたな。同じ純血だからかな?」

「さあ?」

「僕、あの家族のこと聞いたことがある」

 ロンが暗い顔をした。

「例のあの人が消えた時、真っ先にこちら側に戻ってきた家族の一つなんだ。魔法にかけられてたって言ったんだって。パパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」

「でも、10年前ドラコは1歳だったんだよ?ドラコが何かしたわけじゃあるまいし……」

「でも僕らあいつが嫌いだ」

 

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」

 車内に響き渡る声が聞こえた。

 

 

 …To be continued




ホグワーツに到着します
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