宴の終わりに、ダンブルドアが立ち上がった。
「エヘンーー全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言」
ダンブルドアは先生らしくいくつか注意をした。
「最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい”四階の右側の廊下”に入ってはいけません」
少し口調が変わったのを、リズの鋭い耳は聞こえ取った。
観察すると、他の先生方の笑顔が、少し強張ったのがわかった。四階の廊下に何かあるのだろうか。
「では、寝る前に校歌を歌いましょう!」
ダンブルドアが魔法の杖をまるで杖先にとまった蝿を振り払うようにひょいと動かすと、金色のリボンが長々と流れ出て、テーブルの上高く昇り、蛇のようにクネクネと曲がって文字を書いた。
「みんな自分の好きなメロディーで。では、さん、し、はい!」
学校中が大声で唸った。
”ホグワーツ ホグワーツ
ホグホグ ワツワツ ホグワーツ
教えて どうぞ 僕たちに
老いても ハゲても 青二才でも
頭にゃなんとか詰め込める
おもしろいものを詰め込める
今はからっぽ 空気詰め
死んだハエやら がらくた詰め
教えて 価値のあるものを
教えて 忘れてしまったものを
ベストをつくせば あとはお任せ
学べよ 脳みそ 腐るまで”
みんなバラバラに歌い終えた。
「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ」
感激の涙を拭いながらダンブルドアが言った。
リズは自分がどんな風に歌ったか覚えていなかったが、校歌の内容は割と好きになった。
「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」
グリフィンドールの一年生はパーシーに続いてペチャクチャと騒がしい人混みの中を通り、大広間を出て大理石の階段を上がった。
存外夜起きているリズは、興味津々にゆっくりと城の中を見ることができた。
絵が動いていたり、喋っていたりするのは面白かった。隠しドアを通り抜けるのはおもしろかった。
今日は目が冴えて、夜眠れそうになかった。
廊下のつきあたりには、ピンクの絹のドレスを着たとても太った婦人の肖像画かかっていた。
「合言葉は?」とその婦人が聞いた。
「カプート ドラコニス」
パーシーがそう唱えると、肖像画がパッと前に開いた。その後ろの壁に丸い穴があるのが見えた。大体は苦労してその高い穴にはい登ったが、リズは一回跳躍しただけで入ることができた。
穴はグリフィンドールの談話室に繋がっていた。心地よい円形の部屋で、フカフカした肘掛け椅子が沢山置いてあった。
リズはハーマイオニーと城の感想を話しながら女子寮に入った。
「肖像画が喋ってるのは驚いたわ。本を読んで知ってはいたけれど。あれってどんな魔法を使ってるのかしら」
「私の家の本の挿絵も動いてた。専用のカメラとか絵の具とかあるのかな?」
「それじゃないと思うのよ。ホグワーツって普通の機械は使えないから」
「機械って……デンワとか?」
「ええ」
ベッドは深紅のビロードのカーテンがかかった、四本柱の天蓋付きベッドが五つ置いてあった。トランクはもう届いていた。
みんなパジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
目が冴えていたのに、疲れていたせいか、リズはすぐ眠り込んでしまった。
***
次の日から授業が始まった。難しかったが、割と楽しかった。
だが、セリアに教えてもらった魔法はあまり役に立たなかった。
ハーマイオニーは予想通り優秀な女の子だった。「変身術」の授業で、マッチ棒をわずかでも針を変えられたのは、ハーマイオニーただ一人だった。
「闇の魔術に対する防衛術」は重要な科目ではあったけど、クィレルの授業は肩透かしだったし、つまらなかった。
ニンニク臭かったし、猫並みの嗅覚を持つリズには、授業が酷い拷問だった。
気がついたけれど、クィレルのターバンからする嫌な香りは、ニンニクの香りじゃない。あの中、一体どうなっているのだろうか。
もっと大きな問題は、城が大きすぎて迷うことだったが、リズはハーマイオニーのお蔭と、猫なりの勘であまり迷わなかった。
金曜日の朝食、ブラッドリーの梟からブラッドリーとセリアから手紙が届いた。
「誰から?」
ハーマイオニーがリズの隣に座って尋ねた。
「私のお兄さんとお姉さん」
”親愛なるリズ
元気かしら?私は元気よ。闇祓いの仕事は大変だけれど。
ホグワーツの生活には慣れた?私は最初のうちは慣れなかったわ。寮はどこになったのかしら。
友達はできた?あ、忙しいならお返事はいらないからね?
貴女の姉、セリア・プリズンリバー”
”リズへ
そちらの生活には慣れたかい?もうすぐ一週間だね。
城は迷いやすいだろうから、気をつけるように。
ブラッドリー・プリズンリバー”
(あとで返事を書こうっと)
手紙をポケットにしまいこむと、梟はパタパタと飛んで行った。
「お兄さんがいるのね」
「うん。ハーマイオニーはいないの?」
「私は一人っ子よ。親は歯医者をやってるの」
「ハ、イシャ?」
「虫歯を治す医者のことよ」
「リズ!」
ハリーが話しかけてきた。
ここ数日は忙しくて、話すのは久しぶりだった。
「なに?」
「君の梟が見つからなかったからって。ハグリッドから」
渡された手紙を破ると、中には、ハグリッドからのお茶のお誘いが書いてあった。
「ハリーは行くの?」
「うん、行くよ」
「じゃあ返事に私も行くと書いておいてくれない?エンヴァが見つからないみたいだから」
「わかった」
朝食のトーストは、少し硬かった。
次の授業は魔法薬学だった。
セリアの得意な科目のはずだ。だから軽く手解きは受けている。
例えばベゾワール石は山羊の胃から取り出す石で、アフォデルの球根とニガヨモギを合わせると「生ける屍の水薬」となる。
セリアは新しい薬を作るのが好きだったが、そのせいでよく失敗していた。一回ひどい火傷をして、ブラッドリーに怒られていたのを思い出す。どちらが姉かわからない。
魔法薬学はスリザリンと合同なことを思い出した。
そういえば、ここしばらくマルフォイと会っていないな、とリズは思った。
地下牢へと向かう階段で、リズはマルフォイを見かけたが、隣にマルフォイと険悪なハリーが居たので黙っておいた。
だが、マルフォイと話す機会は思わぬところで訪れた。
いつも通りハーマイオニーの隣に座ろうとすると、マルフォイ(とクラップとゴイル)が半ばハーマイオニーを押しのけるようにして隣に座ってきたのだ。
ハーマイオニーは憤慨してどこか別の席に行ってしまった。
「やあリズ」
マルフォイが言った。
「久しぶり。最近会わないね」
リズは答えた。スリザリンの中に一人だけのグリフィンドールは、少しばかり心細い。
「寮が別れたからね。君はスリザリンに来るだろうと思っていたよ。父上が驚いていた」
「ドラコは採寸屋で言った通りになったね」
「あぁ」
「ところで、スネイプ先生ってどんな人?私知らないのだけど…」
「素晴らしい先生だよ」
突然、教室(地下牢)にスネイプが入ってきた。
マルフォイが立ち上がって違う席に移動したので、ハーマイオニーが顔を真っ赤にしたまま戻ってきた。
「あの人失礼だわ」
「確かに」
その点では同意だ。紳士な対応じゃない。
スネイプはまず出席をとった。
そしてハリーのところまできてちょっと止まった。
「あぁ、さよう」猫なで声だ。「ハリー・ポッター。我らが新しいーースターだね」
マルフォイは仲間とクスクスと冷やかし笑いをした。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
スネイプが話し始めた。
「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げた事はやらん。そこでこれでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは名声を瓶詰めにし栄光を醸造し死にさえ蓋をする方法である。
ーーただし我輩がこれまでに教えて来たウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」
大演説の後はクラス中が一層しんとした。
リズは眠たくなってきていた。
「ポッター!」
スネイプが突然叫んだ。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるか?」
ハーマイオニーが空中に高々と手を挙げた。
「…わかりません」
「チッチッチーー有名なだけではどうにもならんらしい」
これのどこが素晴らしい先生なのだろう…。リズは欠伸を噛み殺した。
「ポッターもう1つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探すかね?」
「わかりません」
「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな。ポッター、え?」
いい加減ハーマイオニーの協調性のなさにイラついたリズは、ハーマイオニーの手を無理やり下げさせた。
ハーマイオニーは不満そうな顔をしていたが、リズの有無を言わさぬ表情に気圧されたのか押し黙った。
スネイプは更にハリーに質問した。
「ポッター、モンクスフードとウルフベーンとの違いは何だね?」
「わかりません」
ハリーは落ち着いた口調で言った。
「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬となる。あまりに強力なため『生きる屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で大抵の薬に対する解毒剤となる。
モンクスフードとウルフベーンは同じ植物で別名をアコナイトとも言うが”とりかぶと”の事だ。
どうだ?諸君何故今のを全部ノートに書き取らんのか?」
一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音がした。スネイプはグリフィンドールを1点減点するのを忘れなかった。リズはノートを取り出しはしたものの、中身は書かなかった。
スネイプはそれに気づいたらしかった。
「プリズンリバー」
「はい、先生」
「何故ノートを書かないのかね?」
「書く必要がないからです」
「ほう…何故書く必要がない?」
「全て知っているからです。書く必要がありません」
スネイプはじっとリズを見つめた。リズはスネイプを見つめ続けた。
「……よろしい、グリフィンドール1点加点」
クラスが一瞬騒めいた。
しかしすぐ静かになった。スネイプの目に睨まれたからだ。
「凄いわね、リズ」
「ハーマイオニーは少し協調性を覚えたほうがいいよ」
リズは授業が終わった後にグリフィンドール生に褒め称えられた。
…To be continued
11のときについホグワーツから手紙来ないかなとか思っていた自分を殴りたい