魔法使いになった猫   作:雪兎 銀杏

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箒に乗りたい


9.箒の落ち方

 

 授業が終わってから、ハリーとロンとリズはすぐハグリッドの家へ向かった。

 ハグリッドは快く家に入れてくれた。ご馳走してくれた凄く硬いロックケーキとお茶を食べながら、三人は初めての授業の様子を詳しく語って聞かせた。

 

 リズはファングと仲良くなった。

 ファングは年老いていたが、いい犬だった。それに、ハグリッドによく似ていた。

「ファングはハグリッドのこと好き?」

『もちろん。愛するご主人様だ』

「いつもは何をして過ごしてるの?」

『大抵は寝てるけんど、時々森に入ったりするな。なあ、そのケーキ食べねぇならおくれよ』

「ハグリッド、ファングがケーキ欲しがってるみたいなんだけど、一切れあげてもいい?」

「いんや、駄目だ。犬にはあんまりいいもんじゃねぇ。それに、あんまり甘やかしてくれるなよ」

「駄目だってさ。いいご主人様だね」

『そうだろう?』

 

 ロンとハグリッドが話している間、ハリーはテーブルの上のティーポット・カバーの下から、一枚の紙切れを見つけた。

「日刊預言者新聞」の切り抜きだった。

 

【グリンゴッツ侵入される】

 ”7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔女、魔法使いの仕業とされているが、捜査は依然として続いている。

 幸いなことに、荒らされた金庫はその日すでに空になっていた。”

 

「ハグリッド!グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれないよ!」

 ハリーが言った。

「本当に?それ見せて」

 リズはハリーから記事を受け取って読んだ。

 あの713金庫の事とは限らない。だが、可能性はなきにしもあらずだ。

 あの茶色い包みが、金庫を荒らすほど価値のあるものなのだろうか。

 

 ハグリッドは気まずそうな顔をして二人にロックケーキを進めた。

 

 それから、夕食に間に合うように外に出た。頭の中はあの話でいっぱいだった。

 あれは今どこにあるのだろう。あれが何か重要なものだったとしたら、何故ハグリッドはあれを持ち去ったのだろうか。

 

 夕方の城に明かりが灯っているのが、ぼんやりとわかった。

 

 

 ***

 

 

 夕食が終わった後、リズは談話室の机でブラッドリーとセリアに手紙を書いた。

 

 

 ”親愛なるブラッドリー、セリアへ

 

 こちらは元気にやっています。

 館の薔薇は咲きましたか?今見頃だっていうのに、見れないのがとても残念。

 セリアは、また屋根を吹っ飛ばしましたか?(そうじゃないといいんだけど)

 

 魔法薬学はとても面白いです。先生のスネイプ先生だけは、いただけないけれど。

 闇の魔術に対する防衛術も、イマイチです。重要な科目だとはわかってるんだけど、先生が何だかおかしいから。

 

 寮はグリフィンドールになりました。

 お仕事頑張って。短い手紙でごめん。

 

 P.S.手紙ってこういう書き方でいいのかな?初めて書くからわからないの。

 

 リズ・プリズンリバー”

 

 

 ふくろう小屋へ行って、エンヴァを探す。意外にもすぐ見つかった。

「お願い」

『センセイに届ければいいのね?』

「うん。がんばってね。これ疲れたから食べて」

 エンヴァの好きなピーナッツを手渡す。エンヴァはリズの指を甘噛みして、夕方の空を緩やかに上昇し、ーーやがて見えなくなった。

 

 寮に戻る途中、リズは何だか寂しくなった。ホームシックだと思われたが、リズはまだその感情の名前を知らなかった。

 リズが談話室に戻ると、ハーマイオニーが座っている椅子の隣に腰掛けた。

「……」

「リズ、どうかした?」

 ハーマイオニーは本から顔を上げて尋ねた。

「…いや、なんか…よくわからないけど」

「大丈夫?」

「うーん…」

「気分が悪いの?医務室に行く?」

「…大丈夫。勉強しよう」

 気を紛らわせるのに、勉強って有効な手段だな、リズは思った。

 

 その日、リズは妙な夢を見た。

 誰かはわからないけれど、女の子と話す夢だった。

 不思議なのは、その女の子に見覚えがあったことだった。どこかで会ったのだろうか…。

 何を話していたかは忘れてしまったけれど。確かなことは、彼女は酷く、悲しそうだった。

 

 

 ***

 

 

「飛行訓練?」

「あらリズ、掲示を読んでないの?木曜日にあるんですって」

「飛行訓練ってことは、箒だよね?わあ、楽しみだなぁ」

「あら、リズ乗ったことあるの?私初めてだから、いろいろな本を読んでみたのだけど、不安なの」

 道理でイライラしてると思った、リズは心の中でそう呟いたが、黙っておいた。

「ハーマイオニー、コツは怖がらないことだよ。箒は生き物と一緒。怖がってるとちゃんと乗せてくれないよ」

「そんな抽象的なこと言われても、わからないわよ」

「まあ、ハーマイオニーはそんなに心配してないよ。私はハーマイオニーよりネビルの方が心配かな」

「ネビル?何故?」

「ネビルってとても危なっかしいから」

 

 

 ハリーは図書館で話す二人の姿を見ていた。

 ハーマイオニーとリズは図書館の常連だった。リズもハーマイオニーと同じように大半は勉強していたが、何故かリズの方が同級生からの評判が良かった。

 リズはそのことに気づいていないし、ハーマイオニーは勉強に夢中なので、この二人の似ているところといえば、周囲に対する狭い視野だった。

 ハーマイオニーは独りよがり自分のことばかり、リズは自身のことに無頓着で周りのことばかり、とハリーは考えた。

 魔法薬学のリズのあの態度だって、あれはハリーに理不尽なスネイプに対する復讐だった。

 外から見ているハリーやロンにしてみれば、この二人を足して割ればちょうど良かった。

 

「それで、『クィディッチ今昔』っていう本を借りたんだけど…」

 リズはハーマイオニーの講義を黙って聞いていた。時々意見を挟んだりしながら。

 あの二人の仲がいいのは、きっと違うからなんだろう。ーーハリーは図書館を立ち去った。

 

 

 ***

 

 

 木曜日の午後三時半、グリフィンドールとスリザリン生は正面階段から校庭へと急いだ。

 マダム・フーチは白髪を短く切り、鷹のような黄色い目をしていた。

 リズは子猫のときに鷹にさらわれそうになったのを思い出し、少しぞっとした。

「何をぼやぼやしてるんですか」

 開口一番がガミガミだ。

「みんな箒のそばに立って。さあ早く」

 リズは箒の横に立った。

 風が強くて耳元で髪がうるさかった。

 

「右手を箒の上に突き出して。そして、『あがれ!』と言う」

 

 皆が「上がれ!」と叫んだ。

 リズの箒はゆっくりとリズの手の中に収まった。

 それから、マダム・フーチは、箒の端から落ちないように箒に跨る方法をやってみせ、生徒たちの列の間を回って、箒の握り方を直した。リズも少し直された。

 

 そしていよいよ、飛ぶことになった。

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルくらい浮上して、それから前屈みになってすぐに降りてきてください」

 

 嫌な予感は的中した。ネビルは先生の笛が鳴る前に地面を蹴ってしまったのだ。

 マズイ、と思ったときすでに、ネビルはシャンペンのコルク栓が抜けたようにヒューッと飛んで行ってしまった。

「こら、戻ってきなさい!」

 ネビルが箒をコントロール出来るはずがない。

 4メートル、6メートルーーリズはネビルの手がわなわな震えているのが見えた。このままだと確実に落ちる。

 そう思った瞬間、リズは駆け出していた。

「「リズ⁉︎」」

 後ろからハリーたちの声が聞こえたが、気にしなかった。気にしていられなかった。

 ネビルは声にならない悲鳴を上げ、予想通り箒から真っ逆さまに落ちた。

 リズはネビルの下にスライディングした。鋭い痛みと眩暈が走る。

 遠くで誰かの叫び声が聞こえたような気がしたが、リズの意識は昏倒した。

 

 

 ***

 

 

 目が覚めたのは医務室だった。

 ぼんやりとマダム・フーチとネビル、それにハリーたちが見えた。

「……いっ!」

 体を動かそうとすると、恐ろしい痛みが走った。神経に障るような痛みだ。

「大丈夫⁉︎リズ⁉︎」

 ロンが叫んだ。

「私、どうなったの…?」

「リズ、ネビルを庇って落ちてきたネビルの下敷きになったの。それで…」

 ハーマイオニーはそう言ってからチラリとネビルを見た。

 ネビルは泣きじゃくり、顔を真っ青にしていた。手には包帯をつけている。

 丁度そのときマクゴナガルとマダム・ポンフリーが医務室に入ってきて、詳しく説明してくれた。

「庇ったときに腕と肋骨に二本ほどヒビが入ったようです。ミス・プリズンリバー、あなたの行いは気高いものでした。確かに、あなたがいなければミスター・ロングボトムはこの怪我だけでは済まなかったかもしれません。けれど、あまりに自己犠牲がすぎます。もっと他のやり方があったと思いますよ。違いますか?」

「…いいえ」

 リズはマクゴナガルに長々と説教された。暫くは入院とのことだった。

「毎日お見舞いに来るよ」

 ハリーが言った。

「ありがとうハリー、ロン。ハーマイオニー、休み中、授業でとったノート、見せてほしいんだけど…」

 

 

 ***

 

 

 リズの見舞いはたくさん来た。リズが学校中で英雄として語られていたせいだ。

 お菓子や花束の見舞いが多すぎて、マダム・ポンフリーが見舞いを禁じるほどだった。

 リズは両利きだったので食事には問題なかったが、勉強しようとするとマダム・ポンフリーが怒るので出来なかった。

 

「えっ!ハリー、クィディッチのシーカーなの⁉︎」

 思わず叫んだがその瞬間、脇腹が痛かった。

 ハリーは静かに、というジェスチャーをした。

「うん。来週から練習だ」

「いいなぁ、一年はチームに入れないと思ってたよ。試合までに治るといいんだけど…」

「マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれるよ」

 

 五日もすると授業に出る許可が出たので、リズは腕にギプスをつけたままグリフィンドール塔に戻った。

「リズ!お帰り!」

「入院ってどんな感じ?」

「大丈夫だった?」

「凄いよなぁ、サッカー並みのスライディングだったぜ」

「サッカーって何だい?」

 皆が口々と言うのでリズは訳がわからなかった。リズは自分が英雄視されていると知らなかった。

「ありがとう、みんな。心配してくれて」

 それからどっさりとお見舞いの手紙やお菓子が渡された。

 小柄なリズはたくさんの荷物の山で見えなくなるほどだった。

 

 …To be continued




普通なら死んでますね、はい。
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