授業が終わってから、ハリーとロンとリズはすぐハグリッドの家へ向かった。
ハグリッドは快く家に入れてくれた。ご馳走してくれた凄く硬いロックケーキとお茶を食べながら、三人は初めての授業の様子を詳しく語って聞かせた。
リズはファングと仲良くなった。
ファングは年老いていたが、いい犬だった。それに、ハグリッドによく似ていた。
「ファングはハグリッドのこと好き?」
『もちろん。愛するご主人様だ』
「いつもは何をして過ごしてるの?」
『大抵は寝てるけんど、時々森に入ったりするな。なあ、そのケーキ食べねぇならおくれよ』
「ハグリッド、ファングがケーキ欲しがってるみたいなんだけど、一切れあげてもいい?」
「いんや、駄目だ。犬にはあんまりいいもんじゃねぇ。それに、あんまり甘やかしてくれるなよ」
「駄目だってさ。いいご主人様だね」
『そうだろう?』
ロンとハグリッドが話している間、ハリーはテーブルの上のティーポット・カバーの下から、一枚の紙切れを見つけた。
「日刊預言者新聞」の切り抜きだった。
【グリンゴッツ侵入される】
”7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔女、魔法使いの仕業とされているが、捜査は依然として続いている。
幸いなことに、荒らされた金庫はその日すでに空になっていた。”
「ハグリッド!グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれないよ!」
ハリーが言った。
「本当に?それ見せて」
リズはハリーから記事を受け取って読んだ。
あの713金庫の事とは限らない。だが、可能性はなきにしもあらずだ。
あの茶色い包みが、金庫を荒らすほど価値のあるものなのだろうか。
ハグリッドは気まずそうな顔をして二人にロックケーキを進めた。
それから、夕食に間に合うように外に出た。頭の中はあの話でいっぱいだった。
あれは今どこにあるのだろう。あれが何か重要なものだったとしたら、何故ハグリッドはあれを持ち去ったのだろうか。
夕方の城に明かりが灯っているのが、ぼんやりとわかった。
***
夕食が終わった後、リズは談話室の机でブラッドリーとセリアに手紙を書いた。
”親愛なるブラッドリー、セリアへ
こちらは元気にやっています。
館の薔薇は咲きましたか?今見頃だっていうのに、見れないのがとても残念。
セリアは、また屋根を吹っ飛ばしましたか?(そうじゃないといいんだけど)
魔法薬学はとても面白いです。先生のスネイプ先生だけは、いただけないけれど。
闇の魔術に対する防衛術も、イマイチです。重要な科目だとはわかってるんだけど、先生が何だかおかしいから。
寮はグリフィンドールになりました。
お仕事頑張って。短い手紙でごめん。
P.S.手紙ってこういう書き方でいいのかな?初めて書くからわからないの。
リズ・プリズンリバー”
ふくろう小屋へ行って、エンヴァを探す。意外にもすぐ見つかった。
「お願い」
『センセイに届ければいいのね?』
「うん。がんばってね。これ疲れたから食べて」
エンヴァの好きなピーナッツを手渡す。エンヴァはリズの指を甘噛みして、夕方の空を緩やかに上昇し、ーーやがて見えなくなった。
寮に戻る途中、リズは何だか寂しくなった。ホームシックだと思われたが、リズはまだその感情の名前を知らなかった。
リズが談話室に戻ると、ハーマイオニーが座っている椅子の隣に腰掛けた。
「……」
「リズ、どうかした?」
ハーマイオニーは本から顔を上げて尋ねた。
「…いや、なんか…よくわからないけど」
「大丈夫?」
「うーん…」
「気分が悪いの?医務室に行く?」
「…大丈夫。勉強しよう」
気を紛らわせるのに、勉強って有効な手段だな、リズは思った。
その日、リズは妙な夢を見た。
誰かはわからないけれど、女の子と話す夢だった。
不思議なのは、その女の子に見覚えがあったことだった。どこかで会ったのだろうか…。
何を話していたかは忘れてしまったけれど。確かなことは、彼女は酷く、悲しそうだった。
***
「飛行訓練?」
「あらリズ、掲示を読んでないの?木曜日にあるんですって」
「飛行訓練ってことは、箒だよね?わあ、楽しみだなぁ」
「あら、リズ乗ったことあるの?私初めてだから、いろいろな本を読んでみたのだけど、不安なの」
道理でイライラしてると思った、リズは心の中でそう呟いたが、黙っておいた。
「ハーマイオニー、コツは怖がらないことだよ。箒は生き物と一緒。怖がってるとちゃんと乗せてくれないよ」
「そんな抽象的なこと言われても、わからないわよ」
「まあ、ハーマイオニーはそんなに心配してないよ。私はハーマイオニーよりネビルの方が心配かな」
「ネビル?何故?」
「ネビルってとても危なっかしいから」
ハリーは図書館で話す二人の姿を見ていた。
ハーマイオニーとリズは図書館の常連だった。リズもハーマイオニーと同じように大半は勉強していたが、何故かリズの方が同級生からの評判が良かった。
リズはそのことに気づいていないし、ハーマイオニーは勉強に夢中なので、この二人の似ているところといえば、周囲に対する狭い視野だった。
ハーマイオニーは独りよがり自分のことばかり、リズは自身のことに無頓着で周りのことばかり、とハリーは考えた。
魔法薬学のリズのあの態度だって、あれはハリーに理不尽なスネイプに対する復讐だった。
外から見ているハリーやロンにしてみれば、この二人を足して割ればちょうど良かった。
「それで、『クィディッチ今昔』っていう本を借りたんだけど…」
リズはハーマイオニーの講義を黙って聞いていた。時々意見を挟んだりしながら。
あの二人の仲がいいのは、きっと違うからなんだろう。ーーハリーは図書館を立ち去った。
***
木曜日の午後三時半、グリフィンドールとスリザリン生は正面階段から校庭へと急いだ。
マダム・フーチは白髪を短く切り、鷹のような黄色い目をしていた。
リズは子猫のときに鷹にさらわれそうになったのを思い出し、少しぞっとした。
「何をぼやぼやしてるんですか」
開口一番がガミガミだ。
「みんな箒のそばに立って。さあ早く」
リズは箒の横に立った。
風が強くて耳元で髪がうるさかった。
「右手を箒の上に突き出して。そして、『あがれ!』と言う」
皆が「上がれ!」と叫んだ。
リズの箒はゆっくりとリズの手の中に収まった。
それから、マダム・フーチは、箒の端から落ちないように箒に跨る方法をやってみせ、生徒たちの列の間を回って、箒の握り方を直した。リズも少し直された。
そしていよいよ、飛ぶことになった。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルくらい浮上して、それから前屈みになってすぐに降りてきてください」
嫌な予感は的中した。ネビルは先生の笛が鳴る前に地面を蹴ってしまったのだ。
マズイ、と思ったときすでに、ネビルはシャンペンのコルク栓が抜けたようにヒューッと飛んで行ってしまった。
「こら、戻ってきなさい!」
ネビルが箒をコントロール出来るはずがない。
4メートル、6メートルーーリズはネビルの手がわなわな震えているのが見えた。このままだと確実に落ちる。
そう思った瞬間、リズは駆け出していた。
「「リズ⁉︎」」
後ろからハリーたちの声が聞こえたが、気にしなかった。気にしていられなかった。
ネビルは声にならない悲鳴を上げ、予想通り箒から真っ逆さまに落ちた。
リズはネビルの下にスライディングした。鋭い痛みと眩暈が走る。
遠くで誰かの叫び声が聞こえたような気がしたが、リズの意識は昏倒した。
***
目が覚めたのは医務室だった。
ぼんやりとマダム・フーチとネビル、それにハリーたちが見えた。
「……いっ!」
体を動かそうとすると、恐ろしい痛みが走った。神経に障るような痛みだ。
「大丈夫⁉︎リズ⁉︎」
ロンが叫んだ。
「私、どうなったの…?」
「リズ、ネビルを庇って落ちてきたネビルの下敷きになったの。それで…」
ハーマイオニーはそう言ってからチラリとネビルを見た。
ネビルは泣きじゃくり、顔を真っ青にしていた。手には包帯をつけている。
丁度そのときマクゴナガルとマダム・ポンフリーが医務室に入ってきて、詳しく説明してくれた。
「庇ったときに腕と肋骨に二本ほどヒビが入ったようです。ミス・プリズンリバー、あなたの行いは気高いものでした。確かに、あなたがいなければミスター・ロングボトムはこの怪我だけでは済まなかったかもしれません。けれど、あまりに自己犠牲がすぎます。もっと他のやり方があったと思いますよ。違いますか?」
「…いいえ」
リズはマクゴナガルに長々と説教された。暫くは入院とのことだった。
「毎日お見舞いに来るよ」
ハリーが言った。
「ありがとうハリー、ロン。ハーマイオニー、休み中、授業でとったノート、見せてほしいんだけど…」
***
リズの見舞いはたくさん来た。リズが学校中で英雄として語られていたせいだ。
お菓子や花束の見舞いが多すぎて、マダム・ポンフリーが見舞いを禁じるほどだった。
リズは両利きだったので食事には問題なかったが、勉強しようとするとマダム・ポンフリーが怒るので出来なかった。
「えっ!ハリー、クィディッチのシーカーなの⁉︎」
思わず叫んだがその瞬間、脇腹が痛かった。
ハリーは静かに、というジェスチャーをした。
「うん。来週から練習だ」
「いいなぁ、一年はチームに入れないと思ってたよ。試合までに治るといいんだけど…」
「マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれるよ」
五日もすると授業に出る許可が出たので、リズは腕にギプスをつけたままグリフィンドール塔に戻った。
「リズ!お帰り!」
「入院ってどんな感じ?」
「大丈夫だった?」
「凄いよなぁ、サッカー並みのスライディングだったぜ」
「サッカーって何だい?」
皆が口々と言うのでリズは訳がわからなかった。リズは自分が英雄視されていると知らなかった。
「ありがとう、みんな。心配してくれて」
それからどっさりとお見舞いの手紙やお菓子が渡された。
小柄なリズはたくさんの荷物の山で見えなくなるほどだった。
…To be continued
普通なら死んでますね、はい。