九尾に両親を殺された僕が左遷されナルトの世話係になった。   作:柚子ゴル

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第三話

 

 

散々泣いてイタチの弟話に付き合った後、僕はイタチと別れて家に帰る。

ちなみに家は九尾に少し壊されたが住めないほどではなかった。実際両親を家に連れ帰った時風が家に入る、または雨が降った時床が濡れる程度の壊され方だ。周りの被害案外酷く、どんどん建て壊し新築がたっていく。僕は両親と想い出の場所である家を壊す気なんてさらさらなかった。

しかし里は家を支える中心の木にヒビが入っているのを見つけ、家が倒れた時周りにも被害が来ると、危険と判断し家の取り壊しを勝手に決断。

外の任務から帰ってきたらそこには真新しい綺麗な家が出来ていた。そしてその工事費のお金は僕待ち。僕は勿論抗議したが、お前は忍びのくせに住人の事を考えられんのかと怒られ何も言えなくなってしまった。基本的に忍びには人権なんてものは存在しない。里のため、または住人のために働いているのだから。

それにしても九尾には両親じゃ足りず、たった一つの大きな想い出さえ奪い取ってしまう。そしてそんな九尾を腹に宿した餓鬼をこれから育てないといけないのか…。

 

 

家に帰ってソファーに倒れこみ、火影から貰った任務内容が書かれた紙を見てみる。

基本的にはうずまきナルトの世話、つまり食事や身なりを整えさせたり、教育をするらしい。

自分が九尾の世話をしなければならないとなると、吐き気がするがこれは任務。

下手に関わらなければいいだけだ。今までだって関わらなかった。

人気が無い路地裏で見知った顔ぶれの忍び達がナルトをサンドバックにし血塗れにしていてもスルーしていたし、自分からは危害を加えたりはしない。昔の、両親がまだ在住だった頃の僕ならきっとその血塗れの子供を助けただろう。

しかし、今助けるには色々な事がありすぎた。裏の社会も知ってしまったし、何よりあいつの、狐に良く似た顔が嫌いだった。だから誰があいつを虐げていても気にしない。むしろあの少年が泣いたりやめてと喚く都度、九尾が弱まっていくのを感じて堪らなかった。僕は手を出さない。ただ見守るだけ。勿論、他の子がそんな事を受けていたら止めに入るだろう。しかしあの子は特別だ。僕にとっても特別だし、里のものにとっても特別。だからこそ、その存在は無視できる。

 

「って、これ期日今日からじゃん。」

 

資料に目を通していたらなんと今日から早速世話をしなければならないらしい。やばいやばいと急いでナルトの家に向かう。任務を言い渡されてからだいぶ時間が経った。ご飯を食べさせなければいけないのに、初日から失態を犯すなんて最低最悪だ。

 

憎いという憎悪を上手く納めコントロールし、プライベートではなくこれは任務と気持ちを落ち着かせた後、うずまきナルトの家に着いた。

 

うずまきナルトの家はボロいアパートでここら辺周辺は誰も住んではいない。理由はまぁ明らかだろう。九尾を腹に宿したうずまきナルトが住んでいるからだ。火影は色々考慮してここに九尾を置いているようだが、これでは九尾を虐めたい忍びにとっては最高の場所だ。騒がれても周りに誰もいないし誰も気がつかない。勿論うずまきナルトには監視の暗部が付いているが、あの少年が黙って暴力を振るわれているのを見るとどうやらそれらの事は黙認しているらしい。

火影は火影でこの事実を知っているはずだ。水晶で時々ナルトを見ている。火影は大人達に九尾が入っていることを子供に教えてはいけないだなんて無駄なルールを作り、うずまきナルトを守った気でいるが、実際何もしていないと同じだ。僕の時と同じように火影は何もしない。現に今だって僕はうずまきナルトのアパートの玄関の前にいるが、ナルトの泣き声と呻き声、そして叫び声が聞こえる。笑いながら酷い言葉をはく大人の声がして、溜息が溢れる。

 

「面倒臭いなぁ…」

 

僕はそいつの暴力が終わるまで待たなければいけないのだろうか。正直さっさとご飯を食べさせて家に帰りたい。ご飯を食べさせた後にしてくれないかな…と思い、アパートのドアに手をかけ、ガチャっと音を立てて開けた。

そこにはやはり暴力的な場面が繰り広げられていた。所々苦無で切られたと思われる血が浮かぶ肌。栄養が悪いのかその肌は健康的な肌色とは言い難く青紫がかっていた。異様に細い腕や足はあらぬ方向に曲げられており明らかに折れていることが伺える。暴力を加えていた男はナルトの頭を鷲掴みにしていたが、僕が来たことによりぼとりと落とした。ナルトは気絶しているようで声も出さない。そして男は異様な速さで印を組み瞬進をして逃げた。

僕は無言で暴力を振るわれたナルトに近づき折られた腕や怪我を見てみる。

 

「随分と派手にやられてるな…。」

 

いくら何でも僕だってこんな事されてるこの子に同情がいかないわけではない。この子は何も悪くなくていわば一番の被害者である。ただ四代目の息子に生まれて九尾を入れられただけの被害者。もしも九尾さえ入っていなければこの子は四代目の息子と皆に愛されていただろうに。本当に可哀想な子だ。

 

だけどその同情も小さい煙を立てて傷跡を治していく九尾の力を見て失っていく。

結果論この子は九尾を入れられてしまった。それはどうしようもない事実でもう逃れられないだろう。僕が同情する余地なんて全くない。

 

とりあえず、世話係であるならばこの状態のナルトを手当てしなければならない。…よな?

手当て箱みたいな物はないもんかと周りを見渡し愕然とした。

カップラーメンのゴミは勿論そのまま、生ゴミは腐り虫が湧いてコバエが大量にこの部屋を蠢いている。特に台所は酷い有様でご飯を作れるスペースなんてものはない。床には何やらよくわからないベトベトしたものが付いている。壁には今まで暴力を振るわれた跡か、赤黒いものがへばり付いていて異様な雰囲気を作り出している。ベットや服を見れば散乱しシミだらけ、泥だらけ、きっとノミもすごいことになっているだろう。それに血の匂いで気がつかなかったが酷い異臭だ。うずまきナルトに夢中で周りを見ていなかった。

僕は思わず嘘だろ…と呟いてしまった。前の世話係は一体何をしていたんだ。もしかしなくとも僕がこれを片付けなければいけないのか?

なんとも言えない気持ち悪さが肌を駆け巡る。正直こんな汚部屋入りたくもない。しかし僕はこれから毎日ここに来ないといけない。

 

「あー…、くそっ。まずは掃除からか?」

 

とりあえず、家に帰ってゴミ袋と軍手と手当て箱と…新しいタオルや布団も持って来なければ…。

 

「世話係ってこんな事もしねーといけねーのかよ!」

 

叫びながら自分が出せる最高の速さで家に駆けて行った。

 

✳︎

 

「我ながら凄いと思う。」

 

すっかり綺麗になったうずまきナルトの部屋を見て呟く。

うずまきナルトの怪我を手当てしてからこのゴミ屋敷を綺麗していたら出るわ出るわ。ゴミがありえないほど出た。ゴミ袋は山の如く積み上がり正直触りたくないものが多すぎたがそれはまぁなんとか…軍手やらなにやらを使って頑張った。

あいにく死体処理よりは、まぁましだ。自分が殺した死体はなるべく跡形もなく消すようにしている。殺され方から特定されては嫌だし、何事も丁寧なのは良いことだよねっ!

 

ニコニコしながらうなづいていると未だコバエ取りでは取りきれていないコバエが周りを駆け巡り、イラっとしてしまう。コバエを壊滅させるのはなかなか難しい…。壁のシミの方が大変だったけどあんなの上から新しく壁紙を貼ればいいだけだ。

窓を開けてあるからそこからなんとか出て行ってはくれないだろうかコバエさん。

まぁそんなもの通じる訳もなく僕の体を休憩所にしてくるコバエを容赦なく叩き潰し、端っこのベットで寝ているうす汚い子供に目を向ける。

 

服が所々きれていて子供の青白い肌が露出している。青白いといってもどちらかといえば青紫だが…。先ほどおった切り傷はもう完治しているように見えるが、その身なりから栄養失調なのは明らかだ。

ゴミを片付けてて思ったのがこの子の偏った食生活。カップラーメンか市販の冷凍食品、または腐ったバナナって…。子供の食生活とは思えない環境に唖然としたわ。しかも部屋の調味料の所に忍びではない一般人に使ってもギリギリ死なない毒が置いてあったときなんてもう…。本当どうしようもねぇ奴ばっかだなと思った。しかしただ見て助けようともしない自分もその部類に入ると思えばかなりがっくりときてしまう。頭ではわかっていても身体が言うことを聞かないのだから仕方ない。今思えば感情を殺したただの道具になれなかったから暗部は駄目だったのだろうか。それならあのムカつく先輩だってそうだし、僕の方が任務成功率は上なのに。ムッとしながらうす汚い子供に近付く。

血の匂いと周囲の臭さで気付かなかったけどこの子供、かなり臭い。今までお風呂に入っていないのではないかと疑うぐらい臭い…。髪はガサガサで黒ずんでいるしよく見なくともフケがたくさんついている。幸いアタマジラミはいないようだ。それにしても…

 

「まじで前回の世話係何やってたんだよ…。」

 

とりあえず暫くはこの子供の世話をしなければならないのだから、身なりは整えさせよう。うす汚いのと一緒にいるなんて気持ち悪くて仕方がない。

とりあえずお風呂に入れてしまおうとお風呂場を探すと、幸いこの家にあったので勝手に沸かさせてもらった。お風呂場はカビが生えていてヌルヌルと気持ちが悪すぎたがなんだかその頃には目が慣れていて素早く綺麗にする事が出来た。

次はこの目の前の子供を起こし、風呂に入れる事だ。

丸まっている子供の頭を揺さぶってみる。勿論そのまま触るだなんてことはしない。軍手越しに起きろと声をかける。

すると呻き声をあげむくりと上半身をあげた。

ぼんやりと此方を見つめる子供。その目は伸びきっているだらしない髪で見えていない。しかし未だ寝ぼけているようで折れてはいない腕を持ち上げ目の当たりにごしごしと左右の運動をする。段々頭が覚醒してきたのか、子供とは思えない素早さで僕との距離をとってきた。体中が震えて痛む足を抑えながら子供は喋った。

 

「な、なんだよお前…。誰だよ。」

 

敵意をむき出しにして喋る少年をこっちが敵意向けてーよと一瞬冷たい目で見下ろし、すぐさま笑顔を作る。第一印象は大切だ。これは任務。今まで僕は任務を失敗したことがない。この不名誉ながら火影直々の任務の成功率を上げるためにはこいつの協力は不可欠だ。好かれていて損はないだろう。

 

「僕は世話係のやなはたヤマトです。

これから君の世話係になりました。

とりあえずお風呂を沸かしたので入ってきてくれませんか?その間にご飯を作っちゃいますね。君は栄養失調気味だから野菜を沢山食べないと」

 

「うるさい!出てってよ‼︎」

 

僕がペラペラ喋るのが気に食わなかったのか少年は癇癪を起こしたように叫び汚い布団を被る。あーあの布団も干さないと。それか捨てるか?まぁ今はどっちでもいいか。

未だ警戒心を解かずにいる少年に近付く。その都度びくりと震え後ずさる。遂に壁にぶつかり逃げ場がなくなると少年は泣きながらごめんなさいごめんなさいと呟いた。殴らないで蹴らないで痛いのはもう嫌だと喚く少年につい蹴り倒したくなる加虐心が湧くがそれをなんとか抑える。この少年はただのいじめられっ子の子供だ。九尾じゃない。九尾だったらこんなに僕を見て震えない。

そう言い聞かせ、少年に向かいニッコリと笑う。

そして抱きしめた。

びくりと驚いたように固まった少年。けれどそんなの気には出来ないほどの臭いにおいが鼻に付く。このまま絞め殺したい想いが芽生える。だけれど我慢する。そんな事してしまえ本当に終わりだ。火影に処分されるに違いない。きっと火影は僕がこの任務について何か失敗を犯すのを期待しているのかもしれない。僕を、やなはた一族を殺す、または正規に生きた怪我がすぐ治る実験台を得る理由が出来るわけだ。だから僕は絶対にこの任務を失敗しない。何がなんでもやりとげる。それが昇格が出来ないであろう僕の火影への復讐だ。

だから安心してよ少年。

僕は壊れ物を扱うように優しく少年を抱きしめる。さらにギクリと動く体を無視し、出来るだけ優しい声で言った。

 

「僕は君に暴力なんてしない。」

 

そう暴力はしない。だけど見て見ぬフリはするよ?他の忍びと仲違いするほど僕は君に愛情を感じていない。

 

「僕は君を傷付けたりしないよ。」

 

だってそんなことをしてしまえば、火影の思うツボだからね。

 

「安心して。仲良くしたいんだ。他でもない君と。」

 

利用価値がなくなるまで。

 

「駄目かな?」

 

人当たりのいい笑顔を浮かべる。優しく目尻を下げ少し眉毛も下げる。困った様にはみかむように、少し恥ずかしそうに笑いながら言えば、ほら。

 

「…俺と仲良くしてくれるの?」

 

縋るように、ぎゅっと少年の方から力をいれてくる。それに思わずニヤリと笑う。この子には表情は見えないから大丈夫。人の弱みに付け込むのは忍びとして常識だ。少年は人の愛情を何より欲しているはず。例えそれが偽物の愛情としても。

 

「ああ、勿論したいよ。」

 

例えお前が憎い奴のガキでも、九尾が腹のなかに入っていてもそれが任務と言うならば、僕はお前とだって仲良くするさ。

 

したいよと囁けば、少年はがばっと抱きしめていた体を離し今にも泣き出しそうな雰囲気で、本当?と聞いてくる。その瞬間僕はちょろいなと思い肯定の意味で優しく微笑んだ。

 


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