決闘世界の漂着者たち   作:桐型枠

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11.正義(justice)

 

「デュエル……」

 

 有我少年からの提案を聞いたその時、どこか、重い疲労にも似た感覚が走った。

 現状でそれを行う必要がどこにあると言うのだろうか。ただ単に俺とデュエルをしたいということでは無いのだろうが、それにしても無用に過ぎる。

 

「なぜでしょう」

「デュエルをすれば、互いのことが分かる。それがこの世界の定説で……俺も、そう考えてるからだ」

「非合理的です」

 

 一言で切って捨てる。

 デュエルをするだけで互いのことを理解できるなどと、そのような事がありえるはずがない。感情を曝け出すのだから、と言うのなら、それこそ俺には無縁の話だ。仮にそうだとしても、それは対話で済む話ではないのだろうか。

 

「自分には、理解が及びません」

「ええい、じゃあ言わせてもらうけどな! さっきの自己紹介と今までの会話内容じゃあ、アンタが無口だってことくらいしか分からなかったからだよ! それこそ『理解が及ば』ねぇんだよ!」

「そうですか。仕方のない事です」

「ンだぁかぁらぁァァ――――!!」

 

 人間が互いのことを理解できないなど、それこそ普通のことではないのだろうか。

 心と呼ばれるそれは視覚化できるものではない。感情と呼ばれるそれは、表面的にしか把握しきれない。加えて、自分自身でさえ理解しきれない部分があるのだというのに、他人が理解できるものと言えるのだろうか。

 

「いいじゃん、デュエルくらいしてあげなよ」

「………………」

 

 意外なことに、深宮はこの提案に対しては乗り気であるようだ。

 彼女こそ、くだらないと言って切って捨てるものだと思っていたが……そういえば、彼女の語っていた目的は「娯楽」ということだった。この状況は見ていて楽しいということなのだろうか。それとも、単にしてもしなくてもいい事柄だからこそ、相手が望んでいるのだからやってもいいのでは、といった考えか。後者だとするなら、あまりに彼女には似合わないことだと思うのだが。

 

「カナちゃんはどう思うのさ」

「別にどっちでもいいと思う」

 

 至極興味無さげに、吐き捨てるようにして叶は告げた。

 

「わお、辛辣」

「必要も無いのにデュエルしてみてもな。悪いがその辺りは私もナルセと同意見だ」

「デュエル万能論はこの世界の基本法則だぜ?」

 

 俺にとってはまるきり初耳である。

 

「話で構わんだろう。人付き合いということが変わらん以上、大なり小なり……ええと」

「妥協」

「そう、ダキョーはあるものだからな」

 

 その外見や言動からは想像しづらいだろうが、他人が思う以上に、真岡叶という少女の精神年齢は高い。

 人間の性格や持論などは、そこに至るまでに培われた経験によって形作られるものである。語彙に関しては単に年齢故の勉強不足が祟っただけであろうが、その考え方は、同年代の人間よりも頭一つ抜きんでていると見てもいい。

 特に人間関係に対しては、どこか達観した……ともすれば、諦観したような姿勢があることは否めない。

 

「ともかく、今は理由が無いからデュエルができないんだな?」

「肯定します」

「逆に言えば、理由さえあればデュエルしてくれるんだな?」

 

 確かに、逆説的に言うならその通りだ。しかし、そう簡単にそれに足る理由というものが出てくるだろうか。

 一応、首肯して様子を見ることにする。有我少年は、片手で頭を軽く掻いた。理由を捻りだそうとしているのか。

 

「互いの実力を知りたい。今後共に行動するとしても、それすら分かんねえんじゃあ、どうしようもない」

「叶に聞けばいいのでは」

「この目で見たい」

 

 ……恐らく、という程度の考察ではあるが。

 有我少年は、そもそも俺の話を聞くつもりは無いのではないか。デュエルという手段を絶対視しすぎており、それを行わなければ納得するつもりが無い。

 そして何よりも、彼自身はそうする必要があると信じ込んでいる。

 有我少年の表に出ている人格は、多くの場合快活なものである。しかし、どうやらその一面の裏には、どこか頑固で一つの事柄に拘泥しがちな面も存在しているらしい。

 

「……分かった」

 

 この申し出を受けなければ、帰宅できそうにはない。

 デュエルをしない場合のデメリットを考えつつ、仕方がないと断じて俺は少年の提案を受けた。

 

「仕方がないな。ナルセ、私は……」

「おおっと」

 

 と、何かしらを提案しようとした叶へ、深宮がにっこりと微笑みかけた。

 意味がわからないという風に、叶は深宮を見た。確かに、まるで意味が解らない。彼女は何を企んでいるのか。

 

「カナちゃんはボクと一緒に来てもらうぜ!」

「にゃ?」

 

 と、深宮は叶の腕を掴んだ。

 瞬間、外へと向かって走り出す深宮。それに引きずられるようにして、叶も外へと連れ去られていく。

 

「にゃああああああああ!?」

「という訳でカナちゃんは借りてくよ! あでゅー!」

 

 悪い意味で十三歳とはとても思えないような体格の叶。一方、平均的な体格でかつ、各方面において、奇怪な才覚を感じさせる深宮。力比べをすればどちらが勝るかという点については、考えるべくもないだろう。

 つい先程まで凪いでいたはずの状況。しかし、嵐のように過ぎ去って行った彼女らへ、しかし、どのようにして対処するべきであるのだろうか。

 この状況に対して、あえて一言だけ言うとするならば。

 

「……どういう、訳だ」

 

 とにかく、深宮の弁が理解できなかった。

 直後に到来するメール。携帯電話を開いて見れば、誰とも知れぬアドレスからのメールだった。題名は、「才華」。この時点で嫌な予感しかしない。

 内容を見ると、簡潔に一文。「外に出るなら鍵閉めてね!」という、至極まっとうな内容だった。玄関に出て下足箱の上を見れば、そこには彼女の部屋のものであろう鍵が置いてあった。やはり、彼女は妙な面で抜かりない。

 しかし、やはり考えるのだが、深宮はどこで俺のメールアドレスを手に入れたのだろう。出所は電話番号と同じなのかもしれないが、それにしてもいちいちが謎だ。

 

「……………………」

「……………………」

 

 気勢が削がれたようにその場に立ち尽くす有我少年。一方の俺は、やはりいつもの口下手。

 

「ええと、おう……先にルール決めるか」

「……はい」

 

 ルールと言っても、この世界において基本となるルールは、禁止制限を適用した上で、ライフポイントは4000というものが多い。そこから更に派生するということはあまりないものだが、どのようにするつもりだろうか。

 

「――――と言っても、追加ルールは一つだけ。エクシーズモンスターの使用を許可する、という点だけだ」

「……エクシーズモンスター、ですか」

 

 本来、エクシーズモンスターは、流通していない以上は外部で使うべきでない。その上、あれらのカードはこの世界においてはイレギュラーな存在だ。アカモートが使用していた以上、特段に問題は無いのかもしれないが、それでも使用に際しては慎重にならざるを得ない。

 その使用を許可すると言われても、問題が存在する可能性がある以上は扱い辛いというのが本音だ。

 と言うよりも。

 

「……まさか、エクシーズモンスターを使いたいだけ、では」

「…………………………」

 

 露骨に視線を逸らされた。

 元より使用することのできた力を使うことができないというのは、やはりフラストレーションの溜まる行為なのだろう。叶に関しても時折そのような感情を見せることもあるし、もしかするとそうなのかもしれないと考えたのだが……まさか、正答だとは。

 

「……準備は、できております」

「お、おう。そうかよ」

 

 三つのデッキの内、二つは調整が済んでいない。一つは最近になって完成し、エクシーズモンスターも、割合自然な形で投入することができた。よって、使用するのはこちらのデッキとなる。

 デッキをデュエルディスクの挿入口にセットする。と、それに応じるようにして、有我少年も同様にデュエルディスクにデッキをセットした。

 

「デュエル!」

「…………」

 

 少年の発声と共に、デュエルディスクの基部から、半透明の操作窓(ホロ・ウィンドウ)が飛び出す。

 先攻及び後攻が機械によって自動的に選定される。今回の先攻は少年の方だった。

 

「俺のターン!」

 

 それを確認した途端、少年はカードを思い切り引き抜いた。

 

「モンスターをセット。更に、カードを3枚セット。俺はこれでターンエンドだ」

 

 この少年の初手にしては、消極的な一手。いや、最初の一手として考えれば、これはこれでよくあるものと言えよう。はじめに防御を固めておくのというのは定石だ。

 ともあれ、この状況では攻め辛いのも確かだ。俺の場合、相手の出方を見て、それによって出方を変える戦法の方が多い。そちらの方が性に合っていると言えばそうなのだろうが、実際のところ、これは俺の経験不足が祟ったという面が大きい。

 こうして周到な用意をされると、余計に踏み込みづらい。さて、どうするべきか。

 

「ドロー」

 

 カードを引き、手札を確認する。さて、どのように攻めるべきか。

 

「《ジェムレシス》を召喚」

 

【 《ジェムレシス》 攻 1700 / 守 500 】

 

 こちらの場に表れるのは、アルマジロにも似た外見を持ったモンスターだ。

 全身を何らかの鉱物で構成しているのか、カードイラストと比べ、その外見は多少硬質的に見える。胴体側部には、ロケットに見られるような推進装置にも似た、何らかの装備が存在していた。

 

「ジェムレシスの効果発動。召喚成功時、デッキから『ジェムナイト』と名のつくモンスターを手札に加えられる。《ジェムナイト・ガネット》を手札に加える」

 

 ジェムレシスの背部の宝石が輝き、そこから一枚のカードが見え隠れする。

 その姿が完全に固定されたその時、カードは実体を伴い、俺の手札へと飛び込んだ。

 

「ジェムナイト……!!」

 

 彼の出自も、恐らくは俺たちと同じであるためか、これに対して敏感に反応を示す有我少年。

 混乱は見られない。当然か。もしも精神状態に異常があるようならば、その点を突けば良いと思ったのだが。

 

 現状、重要と目されるカード……このデッキの中核である《ジェムナイト・フュージョン》は手札に無い。ここから先、いかにそれを手札に加えるかという点が問題となってくるだろうか。

 

「バトルフェイズ。ジェムレシスで、裏守備表示のモンスターを攻撃」

 

 胴体側部の推進装置が動作し、噴射口から何らかの物質を吐き出しながら、裏守備モンスターへと突撃していく。

 硬質な外殻を思い切りぶつけられ、カードの裏に隠れたモンスターが堪らずといった様子で姿を現した。

 

【 《砂塵の騎士》 攻 1400 / 守 1200 】

 

 全身に鎧を纏う戦士。目元に装着したゴーグルは、その名の通りの「砂塵」を防ぐためのものだろうか。

 その守備力は、ジェムレシスの攻撃力を下回っている。破壊を確信したその瞬間、有我少年が声を張った。

 

「《砂塵の騎士》のリバース効果、発動! デッキから地属性モンスターを1体墓地へ送る……俺が選択するのは、《(ヒロイック)(チャレンジャー) ダブル・ランス》!」

 

 ジェムレシスの突撃を受けた砂塵の騎士が、その身を高く打ち上げられると同時、デッキからカードを1枚抜き取って、共に墓地へと送られた。本来的にはまた別の演出があったのだろうが、破壊されたことで道連れとしたのだろうか。

 しかし――――「(ヒロイック)(チャレンジャー)」、と言ったか。先に彼の使っていたE・HERO(エレメンタルヒーロー)は、このデュエルでは使わないということだろうか。エクシーズの使用を解禁したという以上、このデッキはエクシーズモンスターを主体とするデッキであることは推察できるが……。

 元より、俺の知識は、叶や深宮に大きく劣る。普段は叶に頼っていると言っても過言ではないそちらの面ではあるが、こうして改めて露呈してみると問題は積もるばかりと言えようか。

 

「カードを二枚伏せ、ターンを終了します」

「っしゃあ! 俺のターン!」

 

 先のジェムレシスの攻撃に対して、彼は罠を使ってこなかった。そうなると、彼の伏せているカードの候補を挙げることは一応は可能だ。

 たとえば、自分のターンにのみ使用できる類のもの。あるいは、モンスターの攻撃力を上昇させるもの。特定状況下にのみ発動できるもの。想定できるものとして高い可能性を持つのは、前者二つか。あるいは、先の攻撃は通すつもりで通したという可能性もある。いずれにしても警戒するに越したことはない。

 

「ダブル・ランスを召喚!」

 

【 《(ヒロイック)(チャレンジャー) ダブル・ランス》 攻 1700 / 守 900 】

 

 両手に突撃槍を握る、白銀の騎士が姿を現す。

 砂塵の騎士の効果により、墓地へと送ったモンスター、その二体目だ。こうして召喚したからには、何らかの特別な効果があって然るべきだが。

 

「ダブル・ランスの効果発動! コイツの召喚に成功したとき、手札か墓地から、もう一体のダブル・ランスを特殊召喚できる。墓地のダブル・ランスを特殊召喚!」

 

【 《(ヒロイック)(チャレンジャー) ダブル・ランス》 攻 1700 / 守 900 】

 

 もう一体、先に出現していたものの背後から飛び出すように、H・C ダブル・ランスが現れる。

 ソリッドビジョンを見る限り、先に出現していたものと比べ、今登場したものは色彩が少々薄い。判別のためだろうか。どちらにしても細かい機能だと思う。

 さて、それはともかくとしても、攻撃力1700のジェムレシスに対し、攻撃力1700……かつ、レベル4のモンスターが2体。相打ちを狙うのならそれでもいいが、この状況ならば――――。

 

「行くぜ! レベル4のダブル・ランス2体をオーバーレイ! 2体のモンスターで、"オーバーレイネットワーク"を構築……エクシーズ召喚! 梵天の弓よ、狙い違わず己が敵を撃ち貫け! 現れろ、《(ヒロイック)(チャンピオン) ガーンデーヴァ》!!」

 

 以前――――アカモートと対峙した時と同じ現象。

 唐突に中空に孔が穿たれ、その身を星へと転じたモンスターたちが、そこへと吸い込まれていく。

 エクシーズ召喚、という召喚方法を示す演出であるのだろうが……いくつか、ひっかかることはある。それをこの場で議論すべきではないことは理解できるし、今はそうするつもりも無いが……少年は気が付いているのだろうか、この違和感に。

 

【 《(ヒロイック)(チャンピオン) ガーンデーヴァ》 攻 2100 / 守 1800 】

 

 思考の間隙を突くようにして、空間に開いた孔を通って、四足を持つ獣が姿を現す。

 馬――――であるのだろうが、その体躯は、単に「馬」と呼称するには、いささか巨大すぎる。重厚な鎧を纏いながらでさえ動きに支障は見られない。むしろ、奮起したような嘶きすら聞こえてくる。

 そして、注目すべきは、その馬に騎乗する男。馬と同じように全身に鎧を着用し、左腕には籠手と一体化した弓を携えている。

 あの弓が、いわゆるこのカードの名である「ガーンデーヴァ」なのだろうか。

 

「ガーンデーヴァで、ジェムレシスを攻撃する!」

「攻撃に対し、《次元幽閉》を発動。H-C ガーンデーヴァを除外します」

 

 突如としてガーンデーヴァの眼前に穿たれた次元の裂け目。ガーンデーヴァ自身も、その引力に引かれていく。

 

「させるかよ! カウンター(トラップ)、《エクシーズ・リフレクト》! フィールドのエクシーズモンスターを対象に発動した効果を無効にし、破壊する!」

 

 しかし、ガーンデーヴァがそこへ吸引されていくことは無かった。

 ガーンデーヴァから吹き出す波動に打ち消されるようにして、裂け目が消失していく。更に、それに影響されるようにして、こちらのライフポイントが800喪失していった。

 

「その後800ダメージを相手に与える……あくまでコイツはついでだけどな。ガーンデーヴァの攻撃を続行!」

 

 番えられた弓から放たれた矢が、ジェムレシスを貫いていく。

 攻撃力の差は400。同じだけの数値が、こちらのライフポイントから引かれていった。残るライフは2800。

 

「よし……俺はこれでターンエンドだ!」

 

 それを確認し、少年は勢いよくターンの終了を告げる。同時、表示されているターンプレイヤーが、こちらへと移り変わった。

 

「ドロー」

 

 引いたカードを確認する。《ジェムナイト・アレキサンド》。先程、ジェムナイト・ガネットを手札に加えはしたが……このモンスターが手札に来た以上、このターン中に使うことも無いだろうか。そのまま、ディスクの読み取り部分へとカードを置く。

 

「《ジェムナイト・アレキサンド》を召喚します」

 

【 《ジェムナイト・アレキサンド》 攻 1800 / 守 1200 】

 

 俺の場に姿を現すのは、全身を白い鎧で包んだ一体の騎士。肩や関節、足元などの要所に宝石が埋め込まれており、それらの宝石はランダムに赤、緑、青の光の三原色に輝く。

 

「ジェムナイト・アレキサンドの効果を発動。このモンスターをリリースすることで、デッキから通常モンスターを1体特殊召喚する。《ジェムナイト・クリスタ》を攻撃表示で特殊召喚します」

 

【 《ジェムナイト・クリスタ》 攻2450 / 守 1950 】

 

 ジェムナイト・アレキサンドの持つ宝石が輝きを放ち始める。その色彩は、光の三原色を全て照射することで生まれる、白。まばゆい光が周囲に広がり、互いの視界を奪っていく。それが収まったとき、フィールドには、白銀の鎧を纏う騎士が立っていた。

 肘や肩に見られる意匠は、水晶や宝石の原石にも似る。クリスタという名を示しているのだろうか。

 

「クリスタ……! はっ、そいつがアンタの……」

「《馬の骨の対価》を発動。ジェムナイト・クリスタを墓地に送り、カードを2枚ドローします」

「おいぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 場に仁王立ちしていたジェムナイト・クリスタは、そのままの姿勢で、床に開いた孔へゆっくりと落ちて行った。

 後に残るはカード2枚。そのまま、それらを手に取って手札へ加える。

 

「いいのかよ!? アンタそれでいいのかよ!?」

「何が、でしょうか」

「仮にもクリスタってエースモンスターだろ!?」

「そのようなことは、一言も申しておりませんが」

 

 だいいち、エースであるとか切り札であるとか、そういったことに拘る理由が俺には見えない。

 適切なときに適切なものを用いる。そうして行動するうちに、自然に他者からそのように呼称されるというのであれば、納得はできるが。

 

「……くそっ」

 

 と、少年は忌々しげに呟いた。

 先に起こした俺の行動は、そうも唾棄されるようなものだったのだろうか。

 

「続けます。

 手札から《ジェムナイト・フュージョン》を発動。手札の《ジェムナイト・ガネット》と、《ジェムナイト・オブシディア》を融合。《ジェムナイト・ルビーズ》を特殊召喚します」

 

【 《ジェムナイト・ルビーズ》 攻 2500 / 守 1300 】

 

 深紅の鎧を纏って現れる、一体の騎士。その手には、杖のような、あるいは槍や薙刀のような長得物が握られている。

 ジェムナイト・ルビーズは、狙いを定めるようにして、眼前のガーンデーヴァへとそれを向けた。

 

「……ジェムナイト・オブシディアの効果を発動。このカードが手札から墓地へ送られた場合、墓地のレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できます。ジェムナイト・ガネットを特殊召喚」

 

【 《ジェムナイト・ガネット》 攻 1900 / 守 0 】

 

 地下から飛び出すようにして現れるのは、片腕に火炎を灯した紅の戦士。

 ジェムナイト・ルビーズと比べてその体躯は一回り小さく、鎧の色彩も明度が高い。それは攻撃力の差を暗に明示しているのか、それとも、この場で語られることは無いであろう経験の差というものか。

 

「そうはいかねえ! レベル4以下のモンスターが特殊召喚されたとき、ガーンデーヴァのオーバーレイユニットを一つ取り除き、そのカードを破壊する!」

 

 撃ち出された矢が、場に出現したジェムナイト・ガネットの頭部を撃ち抜く。同時、その鎧――――外殻なのか、それとも肉体そのものであるのかは不明だが、鎧ごと、砕け散った。

 出鼻をくじかれた、と表現すべきだろうか。ともあれ、墓地に送られた直後に蘇生され、更にその直後に墓地に押し戻されるというのも、不遇と呼ぶべきかどうか。

 

「では、《ジェムナイト・フュージョン》の効果を発動。墓地の《ジェムナイト・クリスタ》を除外し、墓地のこのカードを手札に加えます」

 

 その効果はジェムナイトに限られはするものの、一方で使いまわしのきく《融合》の類似カードというのは、使い勝手が良いものだと言えよう。回収する手間もなく、墓地のモンスターを除外するだけで手札に再度加えられるのだから。

 無論、除外というコストは必要になるし、手札にモンスターがいなければ使いようもない。が、除外した後のモンスターにも使い道はある。

 

「攻撃を行います。ジェムナイト・ルビーズで、H-C ガーンデーヴァを攻撃」

「ちっ……!!」

 

 撃ちだされる矢をものともせず、ただH-C ガーンデーヴァに向かって進んでいくジェムナイト・ルビーズ。その射程にガーンデーヴァが届いたその瞬間、火炎を纏った長得物による一撃が放たれた。

 破壊の余波が、有我少年へと到達する。ダメージは400。現在のところ、残るライフは3600となる。

 

(トラップ)を発動。《化石岩の解放》。除外されている岩石族モンスターを特殊召喚できる。《ジェムナイト・クリスタ》を攻撃表示で特殊召喚します」

 

【 《ジェムナイト・クリスタ》 攻2450 / 守 1950 】

 

 再度、場に登場する白銀の戦士。ルール曰く、バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターは、そのまま攻撃を行うことが可能であるという。ならば、それを利用しないという手も無い。

 

「ジェムナイト・クリスタで直接攻撃を行います」

「ええいくそ、永続(トラップ)、《群雄割拠》を発動! 互いのプレイヤーは、それぞれ種族が一種類になるように、場のモンスターを墓地に送らなければならない! 俺の場にはモンスターがいねえけど……アンタには選択してもらうぜ! ルビーズか、クリスタか!」

 

 単一の種族のみがフィールドに存在できるようになるカード。なるほど、属性だけならばともかくとして、種族が分かれている傾向のあるこちらのデッキにとって、あのカードは痛手だ。対し、恐らく少年にとっては、あのカードの存在はさほど影響がないのだろう。そうなると、彼のデッキは戦士族で統一されているということか。

 操作窓(ホロ・ウィンドウ)を操作し、墓地に送るカードを選択する。この場合、墓地に送るべきは……既に攻撃を終了した、ジェムナイト・ルビーズ。

 

「岩石族を選択し、フィールドに維持します」

「そりゃそう来るよな……!」

 

 その身を赤い粒子へと転じてフィールドから去った、ジェムナイト・ルビーズ。代わって、ジェムナイト・クリスタが少年へと向かって突撃を敢行する。

 鋭利な剣先にも似た装飾を有した肩部装甲を、前面に押し出した突撃。少年へと衝突したその瞬間、仮想立体触感(バーチャルソリッドフィール)が人体に作用したためか、少年は少しばかり苦しそうな表情をして見せた。同時に、2450のダメージが与えられる。

 これで、残るライフは1150。あとは、反撃の余力を残さないように、徐々に「詰め」ていくだけだ。

 

「カードを2枚セットし、ターンを終了」

「……俺のターン!」

 

 ドローしたカードを確認する。と、その途端に、少年の表情が喜色に彩られた。

 

「来たぜ……! 《ゴブリンドバーグ》を召喚!」

 

【 《ゴブリンドバーグ》 攻 1400 / 守 0 】

 

 けたたましいプロペラ音を響かせながら、フィールドに飛来する4機の戦闘機。それぞれにワイヤーが取り付けられており、その下には巨大なコンテナがつるされている。

 

「更に、ゴブリンドバーグの効果発動! コイツの召喚成功時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。そして、この効果にチェーン発動だ。《コピー・ナイト》! 俺の場にレベル4以下の戦士族が召喚されたときにコイツを発動できる。このカードを召喚したモンスターと同じレベルの同名カードとして特殊召喚する! 来い、コピー・ゴブリンドバーグ!」

 

【 《コピー・ナイト》 攻 0 / 守 0 】

 

 全身を鏡面で形作ったかのような鎧が姿を現す。

 それは即座にゴブリンドバーグの姿を写し、その姿をゴブリンドバーグと同一のものへと変えた。

 

「そして、ゴブリンドバーグの効果により、《(ヒロイック)(チャレンジャー) エクストラ・ソード》を特殊召喚!」

 

【 《(ヒロイック)(チャレンジャー) エクストラ・ソード》 攻 1000 / 守 1000 】

 

 続いて場にゴブリンドバーグのつるしていたコンテナが落下する。

 それを押し開いて現れたのは、緑を基調として、各所に白い装飾をあしらった鎧を身に纏う戦士だ。

 これで、レベル4のモンスターが三体。それも、全て戦士族……。

 

「ゴブリンドバーグは、この効果を使った後は守備表示になる。……けど、今は関係ねえ! レベル4のエクス……」

「《無力の証明》を発動。こちらの場にレベル7以上のモンスターが存在しているため、そちらの場の全てのレベル5以下のモンスターを破壊します」

「トラ!?」

 

 ジェムナイト・クリスタの全身から、目が眩むような強烈な光が放たれていく。

 それはレーザーのように相手モンスターへ照射され、瞬時にその肉体を貫き、消滅へと至らしめた。

 

「このタイミングで……!」

 

 シンクロ召喚にせよエクシーズ召喚にせよ、多くのモンスターを並べるという点においてはそう変わらない。

 特にシンクロ召喚を使うに際しては、低レベルのモンスターを並べるということも少なくなく、また、推測ではあるが、エクシーズ召喚に際して最も使いやすいのは、レベル4モンスターを多く使用するランク4。高いレベルのものが多い融合モンスターを多用するこうしたデッキに、1枚投入しておけば、多少は有用に働くのではないかと思っていたが……なるほど、こうしたタイミングで使うべきか。

 

「……できることがねえな。カードをセットしてターンエンドだ」

「ドロー」

 

 少年に残されたカードは1枚。攻撃反応の類のカードであれば、少々対処が難しい。

 対し、使い切りの防御やモンスターの攻撃を制限する類のカードであれば、ある程度は対処できるはずだ。

 考えるに、ロックと呼ばれるカード……《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》のようなカードは投入されていないと思われる。エクシーズモンスターにはレベルが存在しないという叶の言を信ずるならば、そうしたカードがある可能性も否めないものの、エクシーズモンスターを召喚するまでの攻め手を欠くというのも現実的とは思えないからだ。

 どちらにせよ、攻撃しなければライフポイントは削れない。

 手札に来たカードは《ジェムナイト・ルマリン》。そうなると、先に伏せておいたカードが有用となるか。

 

(トラップ)カード、《凡人の施し》を発動します。デッキからカードを二枚ドロー」

 

 手札に来たカードは、《闇の量産工場》及び《ジェムナイト・サニクス》だ。

 これらのカードを使えば――――

 

「凡人の施しの効果により、手札の通常モンスター、《ジェムナイト・ルマリン》を除外します。そして、《ジェムナイト・フュージョン》を発動。炎族の……」

 

 と、操作を続けていくうちに、ある一つの事柄に気付く。

 炎族と「ジェムナイト」と名のついたカードを融合素材とするカード、《ジェムナイト・マディラ》。その名前が、操作窓(ホロ・ウィンドウ)の画面の中に無いということに。

 

「………………」

「おい、どうしたんだ?」

「…………いえ」

 

 エクストラデッキの中には、ジェムナイト・マディラのカードが存在していることは確認できる。だが、なぜ融合召喚できないのか。

 ジェムナイト・クリスタを融合素材に選択すれば、フィールドに岩石族は存在しなくなる。その後、炎族のジェムナイト・マディラを召喚すれば、「一種類しか存在できない」という制約も関係が無いものと思えるのだが。

 ジェムナイト・フュージョンのカードを幾度かデュエルディスクの読み取り口に抜き差しする。しかし、反応は無い。

 問題は速度なのだろうか。いや、そもそも読み取るに際しては緩やかに行うべきだ。その上、他の融合候補が表示されているということは、読み取りに失敗したということも考えづらい。では、原因は……。

 

「……なあ、アンタまさか、岩石族以外の融合モンスター出そうとしてねえ?」

「はい」

「あぁ……いや、うん、それ無理なんだ。《群雄割拠》が場にあって、更に自分の場にモンスターがいると、アドバンス召喚とかシンクロ召喚、エクシーズ召喚……あとは、場のモンスターを使った融合召喚もだな。これで召喚できるモンスターも、今場に出てるモンスターと同じ種族じゃなきゃいけないんだ。今は岩石族のクリスタがいるから、岩石族の融合モンスター以外出せないぜ」

 

 なぜだろう。少年の説明は分かりやすいのだが、どうにも釈然としない。

 理屈だけを考えれば、場にモンスターがいなくなるような召喚方法を用いれば、群雄割拠の効果は突破できるのではないのだろうか。

 ともあれ、これも一つのルールなのだろう。己の理屈は置いておこう。

 

「……では、『ジェムナイト』・サニクスと、岩石族のジェムナイト・クリスタを融合し、《ジェムナイト・ジルコニア》を融合召喚します」

 

【 《ジェムナイト・ジルコニア》 攻 2900 / 守 2500 】

 

 場のジェムナイト・クリスタが姿を消し、代わりに、一体の戦士が場に降り立つ。

 まず目を引くのは、その両の巨腕(かいな)。大砲か何かと見紛うばかりに巨大なそれは、どちらかと言えば鎚にも近しい形状をしている。

 全体的に丸みを帯びたその形状は、しかし、攻撃性の方がより強く見受けられる。比較的細身であったジェムナイト・クリスタと比べれば、その身は鈍重。一方で、破壊力は比べ物にならないほどであろうことは、容易に想像できる。

 

「素材にサニクス……ってことは、本来の狙いはマディラだったか……!」

 

 やはりそこは経験者と言うべきか、既にこちらの狙いは割れていたらしい。それはそれで構わないが、俺もそれくらいの知識は欲しいものだ。

 

「ジェムナイト・アレキサンドを除外し、ジェムナイト・フュージョンを手札に加えます。そして、手札から《闇の量産工場》を発動。墓地の通常モンスターを2枚手札に加える。《ジェムナイト・クリスタ》、《ジェムナイト・ガネット》の二枚を手札に加えます」

 

 現在の手札から特殊召喚できるのは、二体目のジェムナイト・ジルコニア、及び現在は融合召喚が不可能であるジェムナイト・ルビーズとジェムナイト・マディラ。そして、三枚すべてを使用した《ジェムナイトマスター・ダイヤ》の四枚だ。次の手を考えるとするなら、ジェムナイトマスター・ダイヤの特殊召喚は無い。

 また、二体目のジェムナイト・ジルコニアの召喚も躊躇われる。仮に全体除去を受けたとすれば、次のターン、こちらには彼の攻撃を防ぐ手立ては無いのだ。せめて一体でも防波堤となるカードが欲しい。

 

「では、バトルフェイズに入ります。ジェムナイト・ジルコニアで直接攻撃」

「――――そう来るだろうと思ったぜ! 伏せ(リバース)カード、オープン! 《ガード・ブロック》! この戦闘によるダメージをゼロにして、1枚ドローする!」

 

 と、瞬間、少年の前方を、不可視の壁が覆った。

 ジェムナイト・ジルコニアの拳が、壁に阻まれ動きを止める。その間に、少年はカードをドローしていた。

 

「……そう来るだろう、とは」

 

 ターン終了の表示を出し、少年へ問う。

 常識で考えれば、人間の行動を予測するなど、そうはできないはずだが。

 まして、俺と彼は今日この日、初めて出会ったのだ。通常、そのようなことはできないはずである。

 

「……アンタの性格についてヤマを張った。それが的中したってだけさ」

「そのようなことが」

「目は口ほどにものを言うってな。実際に的中することは少ないが、こと一定の人間に対しては当たりやすい」

 

 経験則、というものだろうか。確かに、全てに当てはまるということは少ないまでも、そうある傾向があると言うのならば、その通りであるのかもしれない。

 

「それは、どのような」

「アンタのような人間は、合理的なやつが多い。多分だけど、必要なら手段を選ばないだろ、アンタ」

 

 当たっている。それを示すため、俺は首肯して見せた。

 

「無駄なことは好きじゃないタイプだろ。否定まではしないだろうけど。……二体目のジルコニアを出すなんて無駄だからな。多分そうだと思ってた」

 

 これも、間違ってはいない。

 つまり、彼はある程度この状況を予測していたということか。

 

「ま、賭けだったけどな。どちらにせよ――――」

 

 少年は、勢いよくカードを引く。

 それを確認し――――彼は、告げた。

 

「これで俺の勝ちだ。《戦士の生還》発動! ダブル・ランスを一体回収する。そして、そのままコイツを召喚!」

 

【 《(ヒロイック)(チャレンジャー) ダブル・ランス》 攻 1700 / 守 900 】

 

「更に、ダブル・ランスの効果により、墓地から特殊召喚!」

 

【 《(ヒロイック)(チャレンジャー) ダブル・ランス》 攻 1700 / 守 900 】

 

 再度、場に登場する二体の騎士。先程と同じ状況――――。

 

「レベル4のダブル・ランス2体をオーバーレイ! 2体のモンスターで、"オーバーレイネットワーク"を構築……エクシーズ召喚!」

 

 場に開かれる黒穴。そこに吸い込まれていく、二つの星。

 やはり、おかしい。叶は、この世界のカードには特別な能力が宿っているものであると語っていた。だとするなら、これは――――

 

「現れろ、王の剣! 《(ヒロイック)(チャンピオン) エクスカリバー》!」 

 

【 《(ヒロイック)(チャンピオン) エクスカリバー》 攻 2000 / 守 2000 】

 

 考察の間に、それは場に姿を現していた。

 赤と黒を基調とした鎧。その右腕には、巨大な剣が握られている。

 無論と言うべきか、その切っ先の向けられている先は俺。H-C エクスカリバーのものと言うよりかは……むしろ、少年の発する、気迫とでも呼ぶのだろうか。そうしたものが影響しているような気さえしてくる。

 

「エクスカリバーの効果発動! オーバーレイユニットを二つ取り除き、次のアンタのエンドフェイズまで、コイツの攻撃力は元々の二倍になる!」

 

 急激にエクスカリバーの攻撃力が増加し、その大剣が光を放つ。

 攻撃力4000……一般的に見るモンスターの基準を遥かに超えた数値だ。装備魔法を用いれば、こうしたことも可能であるかもしれないが……単体でここまでの攻撃力を叩き出すというのは、単純に驚異的だ。

 

「更に、魔法(マジック)カード《ヒロイック・チャンス》を発動! このターン中の直接攻撃を封じる代わりに、エクスカリバーの攻撃力を更に倍にする!」

 

 少年がそれを使用すると同時、エクスカリバーの剣が輝きを増した。

 攻撃力8000――――ジェムナイト・ジルコニアを遥かに上回る攻撃力。

 通常であっても、後攻1ターン目で勝利が決まってしまうかのような攻撃力が、俺の目の前にはあった。

 

「……アンタは、きっと大人なんだと思う。俺なんかよりはよっぽど」

 

 絶対的な力――――今の俺に覆しようのない力を示した少年は、語る。

 語られるのは、彼の持つ事情。恐らくは、少年の心の根にある――――俺へ向けられた、視線の理由。

 

「合理的で、判断に躊躇が無ぇ。それに、感情が動く様子だって見られねえ。このデュエル中、アンタは焦りも、怒りも……多分、楽しみだってしてねえ」

 

 元より、このデュエルに対する意義が「帰宅する」ことである以上、仕方がないものと思えるが。

 ただ、感情という一点においては、確かにその通りだ。胸を焦がすような焦燥も、相手を上回ることによる優越も、互いに競い合うことへの爽快感も、俺は一度として感じえなかった。それは、元より俺の精神にそうした機能が備わっていないか、あるいは、どこかで壊れてしまったか……。

 だが、問題があるのだろうか。それはただ、「そういうもの」だというだけだ。

 

「――さっきも言ったけど、アンタ、手段とか選ばねえだろ」

「それが、何か」

「それそのものはどうとも言えねえ。時と場合によるって部分もある、けど――――」

 

 今度は、はっきりと。

 先にスタジアムで感じた視線よりも明確な敵意を抱いた目線を、少年は俺に投げかけた。

 

「俺の正義は、それを許さない」

 

 ――――正義。

 多くは、道義的に見て「正しい」こと。人道に沿った行為。人間社会の評価の基準。道徳的に見て「そうするべき」こと。

 しかしてその多くは、人間一人一人の思想に基づいたものだ。「何」が正義であるのかは、人それぞれに違う。それを語ることができる人間など、そうはいない。

 

「何も知らない時は良かったんだ。ただ純粋に、ヒーローに憧れて……正義ってモンを目指してて」

 

 子供というものは純粋だ。それ故に、目の前のあるがままを受け入れる。

「こう」だと言われればこういうものであると。これが正しいと言われれば、そうなのだろうと。彼の正義というものを推察するのなら、それは彼が過去に見た「ヒーロー」というものが関係しているのだろうか。

 

「デュエルだってもっと楽しいモンだったはずなんだ。競うだけじゃなくて純粋に楽しんで、負けて悔しがって、勝って喜んで……でも、俺の周りの人間は、皆そんな気持ちを無くしちまった」

 

 成長というものは、常に良いことばかりではない。別な問題……精神の鈍化・摩耗という可能性も、同時に孕む。

 人間の経験というものは、常に輝かしく、良好なものであるとは限らない。むしろ、人間生活の多くは、不快で汚い事柄との戦いであるとしても過言は無いのではないか。

 性善説や性悪説に関してはどうとも言いようが無い。人間なら誰しも、「よくない」部分を少なからず含んでいるものだからだ。

 俺にも覚えはある。と言うよりも――――人間の汚い部分を見てきた結果が「こう」なのだから。

 

「不正を認めて……時には自分自身がそれを行う。勝つためなら賄賂だって使うし、人のものを奪い取ることだって厭わない……遊戯王っていう限られた環境でさえこれだ」

 

 社会全体に目を向ければ、実態はもっと悲惨だ。

 不正は横行し、利権は食いつぶされ、既得権益にしがみつく者が絶えない。金のためなら殺人だろうと行い、自分のために肉親をも棄てる。そうした人間がいるという事実は変わりない。そうした人間が多いことには違いない。しかし、全てがそうだと言うわけではない。ただ、少年にとってそれは間違いなく、彼の見てきて、経験してきたものなのだろう。

 

「決まって死んだような眼をした奴がそうする。ちょうど、アンタみてえな」

 

 覇気が無い。感情が無い。どころか生気が感じられない。そのように散々な評価を受けるが、そこまで直接的に言われることになるとは思わなかった。

 

「――だから、アンタは油断ならない人間だって思う。味方であっても、信用しきれねえ。この『世界』の敵になるって可能性が高い以上はな」

 

 ああ、と、一つ、納得した。

 有我英人という少年は、きっと誰よりもまっすぐなのだろう。歪むことなく、ただ己の中にある「正義」を信じて邁進する。彼の精神には、一本の強固な支柱が屹立していることだろう。故に、曲がらず、折れない。それは恐らく、信念と呼ぶべきものなのだろう。

 ――――俺には、持ちえない。

 

「そうなのでしょう」

「……は?」

 

 故に、俺は彼の意見に対して肯定してみせた。

 

「そう言うのなら、そうなのでしょう。自覚はあります」

「……いや、アンタ自分が批判されてるって分かってる?」

「はい」

 

 俺はこの世界のことを何一つ知らない存在だ。故に、何をしたとしても不思議ではない。

 それがこの世界一般における「悪」であろうとも、しでかさないという保証など、どこにもないのだ。

 

「自分は……むしろ、あなたのそうした姿勢には、憧れます」

「……調子狂うな、くそ」

 

 言うと、少年は恥ずかしげに頭を掻いた。

 事実をそのまま述べただけなのだが、そうするような要素があったのだろうか。

 

「いいか、アンタが何かしでかそうってんなら、俺は全力で……この世界のルールに則って止めるぜ」

「構いません」

 

 もしもそうだとするなら、そうするべきだろう。

 俺が否定する理由もない。それがこの世界のためだと言うのなら、従うべきだ。

 さて、と、現在の場を見渡した。そろそろ、このデュエルも終わりだ。

 

「行くぜ! エクスカリバーでジルコニアを攻撃!」

 

 振るわれる大剣がジルコニアを捉え……その余波が、俺に襲い掛かる。

 5100。初期ライフポイントを遥かに超える数値。圧倒的な力の奔流が、俺のライフを奪い取っていった。

 

 

 

 + + +

 

 

 

 デュエルが終了し、ソリッドビジョンが消え去っていく。

 勝者は有我少年。敗者は俺。かと言って何かしらの感慨が浮かぶわけでもなく、依然、俺はその場に立ち尽くしているだけだ。有我少年は先程の話が気になるのか、釈然としない様子だ。

 そういえば、と、先に考えたことを訊ねる。

 

「……自分以外の人間について、お聞きしたいのですが」

「あん? あの金髪の子と、アカデミアの子か?」

 

 首肯する。

 

「……金髪の子は……叶ちゃんって言ったっけ。良くも悪くも明け透けな子じゃねえの? 少なくとも俺は悪感情は無いぜ。ちょっと誤解されやすそうだけどな」

 

 それを聞き、少しだけ精神的に落ち着いた。

 俺が嫌われることは一向に構わない。だが、彼女が認められないということは……どうにも、腑に落ちない。その点については唯一、確かなものだからだ。

 彼が叶に対して悪感情が無いというのは僥倖だ。少なくとも、叶の身の保証はされると考えられる。彼の考え方からして、叶を悪いように扱うことはしないだろう。

 もっとも彼が叶を正しく理解しているかどうかという点については、疑問が残るが。

 

「黒髪の……深宮さんっつったっけ。あっちは……うん、アンタと似た部分はあるな」

 

 なぜだろうか。血筋ということで納得はできるが、そうも似た部分はあっただろうか。

 

「どっちも理性的で論理的なんだろうけど……深宮さんは、どっかロマンチストっぽい。あと、胡散臭ぇ。黒髪黒目って部分も同じだし、手段を選ばなさそうって部分も似てるな。現状、アンタを超えて警戒マックスだ」

 

 正しい判断だ。深宮の知識はある程度正しいものではあるだろうが、それにしても彼女自身の人格には問題点が多すぎる。

 

「では、次に」

「まだあるのか?」

 

 むしろ、重要なのはこちらの方だ。

 このデュエルが始まってから……いや、始まる前から、胸の奥に突き刺さっていた違和感。その正体を確かめる必要がある。

 

「“オーバーレイネットワーク”とは、何なのでしょうか」

「……? エクシーズ召喚の時の、口上……じゃ、ねえの?」

「意味のない事柄を、含むものでしょうか」

「か、カッコいいからとか」

 

 その程度の理由で、意味もなく言葉の中に含むものであろうか。

 オーバーレイ、という言葉は、何らかのものを覆うこと。ネットワークを覆う、ということなのだろうか。それとも、コンピュータ用語におけるオーバーレイネットワーク……ネットワークの中のもう一つのネットワークだったか。いずれにせよ、これでは意味が通らない。

 

「……エクシーズ召喚の際に発生する孔。あれについては」

「……そういうもん、じゃね?」

 

 だめだ。議論にならない。

 単にこの世界について先入観のない俺にしか感じ得ない違和感なのだろうか。叶にしろ少年にしろ、何一つとしてそれに対しての感想は無いようだった。名前。現象。二つの面で違和感を禁じ得ないそれは、何らかの問題が存在する可能性があるというのに。

 あくまで今現在の俺の持ちうる推論に過ぎない。これまでに経験した事柄を繋ぎ合せただけに過ぎない。荒唐無稽と言えばその通りであろう。

 しかし、そうした名前を冠しているという以上、それを頭のどこかにとどめておいても損は無いだろう。

 

 ――世界(ネットワーク)の中に世界(ネットワーク)を展開する。 

 ――あるいは、その名前通りに世界そのものを「重ねる」。

 

 名称から想起される事柄と言えば、そう多くはない。しかし、これではあまりにも無茶苦茶だ。

 いや、既にそうした……世界間移動という出来事を経験している以上は、ありえないことではないのか。

 いずれにしても、何か悪影響が出るかもしれないという点については変わりないと言える。

 

「……一つ、提案が」

「何だよ」

「エクシーズモンスターは、可能な限り……使わない方が、いいでしょう」

「はぁ?」

 

 俺の言っている意味が分からないように、少年は眉をひそめた。

 

「そいつは……ルールがどう、って部分じゃあねえのか?」

「はい。何らかの悪影響が観測される可能性があります。現状、何らかの保証がなされるまでは使用を控えるべきかと」

「確かに……そうか。俺たちは全部知ってるつもりでいるけど、知らない人から見りゃおかしい部分もあるよな」

 

 無論、緊急時の使用をも避けると言うのではない。そうしなければならないような状況に陥れば、使わざるを得ないこともあるだろう。

 ただ、恒常的に使用した場合における何らかの影響を考えるのならば、今の段階で使用すべきでないことだけは確かだ。この点に関しては、二人にも言っておかなければなるまい。少なくとも叶には、「現段階における使用は避けるべき」だと。

 普及を考える彼女には悪いが、別な側面が見えた場合に考え直すことも重要なことだ。

 

「分かった。アンタは信用ならないけど、それには納得できる」

 

 と、その言葉だけを告げて、少年は俺に背を向けた。

 

 先程からの少年の発言を考察する。

 彼の言い分を要約するなら、「自分の周囲が徐々に自分の望むものとは違っていった」ということになるだろうか。

 その上で、彼はどのように考えたのだろう。彼の言動から考えるに、自分を曲げることはしなかったはずだ。徐々に自分の信ずる「正義」と呼ぶものが消えていく中、彼はどう考えたのだろう。

 周囲に失望したのか。自分の力不足を嘆いたのか。新たな決意を抱いたのか。あるいは――――世界に、悪感情を向けたのか。

 

 ――――なんとなく、この世界に来た人間の共通点が見えてきたような気がする。

 

 俺は、破綻した自分自身をやり直したいと、考えていた。深宮は、窮屈な世界を疎ましく感じていた……らしい。有我少年は、理想と現実とのギャップに苦しんでいる。

 いずれの共通項としても、「元の世界に対して何らかの悪感情を抱いている」、「それに関連した問題がある」という点が存在している。

 

 ……では、叶は。

 彼女が何らかの事情を隠している事実は理解できる。しかし、それが「何」かまでは分からない。

 だが、もしも彼女もそうだと言うのならば、俺たちは例外なく、こうした世界に来ることを望んでいたということになる。

 

 望んでいたのは、何だったのか。

 逃避だけを、望んでいたのだろうか。

 そして、俺も――――。

 

 答えの出ないまま、俺たちは足を外に向けた。

 

 




余談。
この男たちはこうしたやり取りを、現在不在である女の子の部屋でやっています。

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