決闘世界の漂着者たち   作:桐型枠

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17.転換(paradigm shift)

『デュエルを終了。模倣(エミュレーション)解除』

 

 遠く、どこかからか声が聞こえてくる。

 体が重い。腕が、足が、動かない。

 思考が緩慢になる。

 目の前に見えるこの赤褐色の液体は、血液、だろうか。

 だとして、それは誰の。ああ、いや、俺のものか。

 そういえば、何故俺は地に伏しているのだろうか。こうなった経緯を、思い返す。

 確か、あれは……異世界に飛んで……いや、そこまで昔に戻らずともいい。問題は、直近の話だ。

 俺は、確か。叶を元の世界に戻して、アイオーンと戦って……。

 ああ、そうか。確か、俺は敗北したのだったか。

 この倦怠感は、貧血のせいか。体が動かないのは、全身の傷のせいか。

 成程、理解した。

 

『これより多元世界重層領域(オーバーレイ・ネットワーク)の展開作業に――――』

「――――待、て」

 

 続けるアイオーンの言葉を遮るように、俺はゆっくりと立ち上がった。

 依然、体に力は入らない。その動作はひどく緩慢で、実際の所、今にも倒れてしまいそうなほどだ。

 それでも、立ち上がらなければ。俺が何のためにここにいるのか、分からなくなってしまう。

 

『理解不能。その傷で立ち上がる意図が図れません』

「……まだ、動けるからだ」

 

 そう。まだ動くのだ。

 全身に激痛が走り、指の挙動もおぼつかない。膝は震えて今にも倒れてしまいそうで、身体の行動に支障が出ているのは確かだ。

 それでも、まだ動く。今にも死に絶えようとしていても――――まだ、動く。

 

「もう、一度だ。まだ……俺は、死んで、いない」

『このまま放置していれば死亡します』

「それでも……だ」

 

 何度でも。勝つまでやる。俺に残ったのはそれだけだ。

 それだけで十分だ。命など、今更何を惜しむことがあろうか。

 

「……探して、いたんだ」

 

 あの日から、ずっと。

 俺は、探していた。

「遠く」などと曖昧なものではなく、自分の生き直す場所などでもなく。

 

「ずっと、探していたんだ」

 

 鼓動が高鳴る。初めて、全身に血液が通ったような感覚を覚える。

 思考が明瞭になる。

 ああ、俺は自分自身のことすら、まともに理解してはいなかったのだ。

 今、やっと。俺は、俺自身を理解した。その根源を知覚した。

 それは、腐りきった俺自身の生きる場所などではなく、ただ。

 

「――――俺じゃない誰かのために、死ねる場所を」

 

 そのためだけに、ただ存在していた。

 生きていたのではない。死んでいたのでもない。ただ、俺は「そこにいた」だけだ。

 だが、そうだ。俺はこの世界に来たその瞬間に、生きることを始めたのだ。

 彼女と出会ったその瞬間に。彼女のためを考えるようになった、その瞬間に。

 だから、彼女が「これから」を生きることに殉ずることができるのならば、この腐った命にも、多少なりとも価値が認められるのならば、俺はこれでいい。

 それが、それこそが。

 

「は……」

 

 吐血交じりの息が、口から漏れる。

 いや、これは吐息と称すべきものなのだろうか。

 否。そう。これは。

 

「は、は、ははははははは――――」

 

――――笑うということ、だったか。

 

『――――理解不能』

 

 アイオーンが言葉を発する。

 これまで、殆どの無駄を許容して来なかったそれが、わざわざ俺の言葉に反応を示した。

 なるほど、これはそれほどまでに異常な出来事なのか。

 だが、そのようなことはありえない。この機械が、感情を持った機械(モノ)であるのならば理解できないということはありえないのだ。

 目的を持ち、それを達する喜びを理解できないことなど、決して。

 

「邪魔、だな」

 

 俺も、お前も。この世界には不要なものだ。

 彼女がこの世界を愛したのならば、俺はそれを壊させることはしない。

 何度倒れようとも、死に瀕しようとも。この機械だけは、道連れにしなくてはならないのだ。

 だから。

 

「壊そう」

 

 さて、俺の命が尽きるまでに、そこに到達することができるだろうか。

 左足の感覚は消え、腕に力は入らない。腹の底はグチャグチャで、今にも全ての内容物を吐き出してしまいそうだ。

 ああ、それでも。俺はここにいる。

 何もできずに死ぬことなど、到底許せるものだろうか。そうなることに、身が震えて仕方がない。

 ああ、これが歓喜か。これが、恐怖か。

 生きながらえることなど考えることもない。

 ただ、己を少しでも取り戻すことができて。

 その上で朽ち果てることができるなどと……それこそが、本懐だ。

 

 今日は、死ぬには、良い日だ。

 

 

 

 + + +

 

 

 

「っぁぁぁぁああああああああアアアアアアッ!!」

 

 何故、行かせてしまったのか。

 何故、行ってしまったのか。

――――そして何故、自分はこんなにも無力なのか。

 真岡叶は、慟哭していた。ただ彼を行かせてはならないと、己の心に誓ったはずなのに。彼の傍を離れてはならぬと、警告されたはずなのに。

 不甲斐なさと無力さを噛み締めながら、彼女は叫んでいた。

 幾度となくその小さな拳で叩いたアスファルトは血に塗れ、握りしめた拳は血が滲む。

 それでもなお、彼女はそれを止められずにいた。

 周囲に広がるのは、夕闇。そして何より――――かつて、彼女の見慣れた光景だ。

 一軒家の立ち並ぶ団地の一角。都市郊外のベッドタウンに存在する……真岡叶にとって、故郷と称すべき場所だ。

 眼前には、よく見慣れた家屋が存在する。叶の実家であり、そして、彼女の忌避していた場所。

 そして、彼女の望む世界と、限りなく近く、それでいてなお遠い場所である。

 

「あ、の……バカッ! くそ、くそ! 何が『最善』だ! 私は、わた、私は……!!」

 

 この地に未練が無かったと言うのは、嘘ではない。

 だがそれでも、ルドガーに言われた言葉が離れずにいた叶は、彼のそばを離れたくは無かった。

 

――――彼が自覚できていない目的は、ただ死ぬことだ。

――――その行動、目的の如何は問わない。

――――彼はただ、最終的に死にたがる。

――――失ったものが大きすぎ、多すぎたのだよ。

――――生きる目的を。縋るべきものを。

――――そして何よりも、空白になった心に「死」が焼きついた。

――――だからこそ、最終的に彼の縋るものは。

 

 城戸成瀬が最後に縋ろうとするものは、「死」だ。

 なんのことはない、叶のためと嘯きながら、彼が望んでいるのは結局のところ死ぬことだけなのだ。その過程がいかに美しくとも醜くとも、関係が無い。彼は死ぬための理由が欲しいだけなのだ。

 それを彼自身は自覚していなかった。叶も、言われるまで気付きもしなかった。

 だから、離れるなと、己にそう任じた。それなのに。

 

「う、えぐっ……うえっ、うええええぇぇぇぇぇ……」

 

 果たせなかった。また、誰かが死ぬ。

 いつもこうだ。肝心な時に自分は動けない。父が死んだときも、そして今も。

 何故、自分の愛した人間は、いつも目の前から姿を消すのだろうか?

 そのような呪いでもあるのだろうか?

 もしそうだとするなら、自分は。

 涙がアスファルトに零れ落ちる。嗚咽が止まらない。往来でそのような姿を晒すことのみっともなさは叶自身、理解していた。しかし、それでも止められなかった。

 止まらない。止められない。だからこそ、叶はその人物が近づいてきていることに、気付くことができなかったのだろう。

 

「叶……?」

「――――――え……?」

 

 顔を上げたその先。叶の眼前に、その人物はいた。 

 並みならぬ苦労を感じさせる眼差し。日本人らしい黒髪と、どこか叶と似た顔立ちは、否応にも彼女らの関係を連想させる。

 ――――真岡希美(マオカノゾミ)

 叶の実母が、そこにいた。

 他ならぬ、叶を拒絶した本人である。知らず、その身が委縮する。

 頬を張られることまでは、まだ我慢できる。だが、もしも。もしも、殺意が見えるなら、その時は――――

 だが、希美の取った行動は、叶にとっては想像の範疇から遥かに外れた事柄であった。

 

「――――良かっ、た……」

「!?」

 

 母親の口から放たれたのは、紛れもない安堵の言葉だった。

 優しく、それでいて力強く、決して離すまいというような抱擁を受ける中、しかし、叶は思う。

――――今更か、と。

 

「ふ、ざけるな……」

 

 故に、その口から出てきたのは、恨み言にも近しい、痛烈な言葉だった。

 その表情に怒気を漲らせながら、叶はその腕を振りほどく。

 

「ふざけるなよ……! あの時明確に拒絶しておいて! 私が代わりに死ねばよかったなどと喚き散らしてッ! 今更都合のいいことを抜かすな! 耳触りのいい言葉にいつまでも騙されているほど、私も子供じゃない!」

 

 わけもわからず、心の底に浮かぶ言葉をただ、ぶちまける。

 その根源に何があるのか、それさえ一切理解できぬままに、ただ心に浮かぶ言葉だけを吐き出し続ける。

 

「お父さんが死んで私だって悲しいのに、泣きだしたいのに! それすらも奪ったくせに、自分ばかりが悲しいみたいな風を気取って! 一度拒絶しておいてほとぼりが冷めたと思ったら掌返し! その口で『良かった』なんて言うの!?」

 

 叶から、希美の顔は見えない。

 とはいえ、それも当然だ。見ないように顔を伏せ、その上で数々の恨み言を吐いているのだから。

 母の顔を見れば、まともに言葉を告げられなくなる。たとえその言葉が母親を傷つける刃になっても、言いたいことは全て言っておきたかった。

 叶は、悪意と呼ばれるものに慣れすぎた。そうした人間に近しい場所にいた。故に疑いが止まない。たとえ希美が今すぐに泣きそうで、悲痛な表情を浮かべていると分かっていても、その奥底までは理解できない。

「先」を知ってしまえば、怒りも、あるいは、母親に対して僅かに残っているはずの愛も、萎えて消えてしまうかもしれない。

 だから、止めたくなかった。

 たとえ己の心を守る虚飾を剥ぎ取ってでも。かつての自分――――母に拒絶された「自分」を曝け出してでも。

 

「いらないなんて言ったのに、何で今更抱きしめるの!? やめてよ……自分の都合ですり寄ってこないで!」

「か、叶……」

 

 伸ばされた手を振り払う。

 ただ、この場にいたくなかった。かと言って、どこに行けばいいのかも分からなかった。

 ――――結果として、彼女の走り出した先は、かつてより慣れ親しんでいた我が家だった。

 母の脇を通り抜け、玄関を開いて室内を駆け抜ける。階段を昇り、辿り着いた先は、暗闇に包まれた一室であった。

 鍵を閉める。付近を探し、スイッチを入れる。と、天井で光が瞬く。

 そこは、かつての叶の私室だった。

 白い壁紙。パステル調のカーテン。ピンクのベッドと、クリーム色を基調とした色彩のの収納。部屋の片隅には多くのカラーボックスが転がっており、そこには幾多のおもちゃが詰まっている。ゲーム、人形、ぬいぐるみ。当然、その中にはカードが入っているものもあった。

 驚くべきことに、全ての物品に埃が積もっているような様子は無かった。

 母に拒絶され、外部との接触を断つべく籠っていた部屋。食事さえまともに採っていなかったことから栄養失調寸前に陥ったことも少なくはない。数か月に及ぶそうした生活のせいもあり、叶の体格は、同じ年頃の人間よりも小柄になってしまった。

 忌むべき場所でもあり、ある種、庇護されていたとも取れるような場所。

 だが、その事実を振り払うように、叶はただ一心不乱にカードを探る。

 探すのは、こちらの世界へ残してきたはずのカード群だ。現状である程度デッキが完成しているのだとしても、別なカードを組み込むことで強化が見込めるかもしれない。加えて、あちらに無かったカードをそのまま持ち込むことができるなら、相当の戦力となることには違いないからだ。

 特に、求めていたのは《No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープ》、その派生となるカードだ。

 それに限らず、『RUM(ランクアップマジック)』の系統のカードがあるのなら、同様に強力な切り札となるはずだった。

 だが。

 

「…………な、んで……」

 

 無い。

 いや、正確にはそこに「ある」のだろうということは分かる。だが――――それは、少なくとも今の叶に知覚できるものではなかった。

 

 白紙。

 

 バインダーに入れて保管しておいたはずのそれらのカードは、皆一様に白紙と化していた。

 触れられる。抜き出すこともできる。されど、その絵柄はまったくの空白で、それぞれのカードの種類の色に塗りつぶされた枠以外、全てが無と化してしまっている。以前、叶がアニメで見ていた《シューティング・スター・ドラゴン》のように。

 あるいは、そうではないのかもしれない。「あちら」の法則に慣れすぎた叶に、それが知覚できないというだけで。

 叶にとっては切り札とも呼ぶべきものだった。あちらに戻るのなら、強力な武器になるはずだった。

 焦燥が胸を焦がす。今の自分には、使えないとでも言うのか。資格が無いとでも言うのか。

 それでも、と、叶は全てのカードを取り出し、ホルスターの中へと仕舞い込んだ。

 と、そうした折に、背後から戸を叩く音が響く。

 どうやら、叶を追ってきた希美が追い付いてきたらしい。

 

「叶……」

 

 自身を呼ぶ声に、叶は歯噛みする。

 今更、どのように向き合えば良いのだろう。

 理解している。そうせねばならないのだと。逃げてはならないのだと。

 選択肢があるうちは幸せだ。逃げることも選ぶことができるし、立ち向かうことも選択できる。だが、選択肢を奪われた人間はどうなる?

 城戸成瀬がその一つの例だ。

 何も、感じない。

 痛みさえ一つの信号と認識し、己さえ機械の部品か何かとして処理する。

 城戸は、叶がそうなることを望んでいない。それ故に、叶をこちらへ押し込んだ。

 その気持ちは汲んでやろうと思う。思いたい。

 それでも勝るのは、常に恐怖だ。立ち向かった先に何が待つのか、分からないから、怖い。

 ならば、と。叶は考える。やるべきことを先に決めてしまえば。

 

「……………………」

 

 ゆっくりと、扉を押し開き、叶が姿を現す。

 安堵したように、希美は息を吐いた。

 以前、叶の栄養失調が深刻化しつつある折、彼女がそのために倒れてしまったことがあった。そのことを記憶しているのだろう。希美の表情は、いつになく悲壮感に満ちている。

 

「……お話できないかしら、叶……」

 

 まず、沈黙を破ったのは希美であった。

 嫌だ、と反射的に返答しそうになるのを堪え、叶は母の顔を見上げた。

 憔悴しきっていた。涙が流れ、乾いた後が見られた。痩せこけていても、それは紛れもない母の顔だった。

 知らず、叶の口は了承の意を言葉にしていた。

 許したわけではない。許したつもりもない。

 話が終われば、すぐにでも「あちら」へ戻る算段を立てようとも、叶は考えていた。

 既に、城戸がそれを試している。そして成功した。

 残るは、叶の想定が正しいか否か、である。

 階段を降り、居間に向かう。

 どこか寒々しい雰囲気が、周辺に漂っている。それは、本来そこにいた人間が二人、存在していないことによる空白からか。

 促されるまでもない、という風を装い、叶は思い切り席に座った。

 

「今まで……どこにいたの?」

 

 まず、口火を切ったのは希美だった。

 ひどく無愛想に、叶は答える。

 

「異世界」

 

 少なくとも、それは叶にとっては真実である。だという一方で、異世界の存在を知らない母にとって、それはあまりに荒唐無稽な話だ。

 唖然とする希美へ、叶は続ける。

 

「じゃなきゃ、二か月も三か月もいなくなったりしない。自慢じゃあないけど、私はそんな時間、一人で生きていくなんてできないから」

 

 もって二週間。自身の知る世界であり、なおかつある程度生活を送ることができる保証があってこそ、それだけの期間、生きていくことができたのだ。そうでなければとうに死んでいるか、売り飛ばされているかしていることだろう。少なくとも、この場に帰り着くことは不可能だったに違いない。

 仮にこの世界で、家でしただけなのだとしてもそうだ。元より叶の容姿は目立つ方で、深夜の街を歩いていれば即座に補導されてしまうことだろう。加えて、身を売るような度胸も持ち合わせてはいない。一日や二日、長くとも三日で家に送り返されるはずだ。

 

「気付いたら、私はそこにいた。どうやったかはわからないけど。今日まで、私はそこで過ごしてた」

 

 そうして、叶の口から語られるのは、この日、この時までに経てきた出来事だった。

 荒唐無稽に聞こえることだろう。実際、それを語る叶が、未だ信じ切れていないのだから。

 気が付いたら、異世界に自分はいた。そこは、自分の知る世界――――少なくともそれを基とした場所であった。

 自分がこうしてあの場にいるということは、また別の、異世界人が来訪する可能性もあるのではないか。そのように考えた叶は、「情報」という優位性を手に、同胞と呼ぶべき人間を捜し始めた。

 独りで二週間を過ごした。独りがいい、などと嘯いたこともあったにせよ、その時間は叶にとって、ただただ苦痛だった。

 そうこうしているうちに、ある報せが入った。存在するはずのない人間が、現れたと。

 そうして出会ったのが、城戸成瀬という男だ。

 ひどく作り物めいた男だった。その外見も考え方も、人形か機械であると認識した方が正しいのではないか、と思えるような人間だった。

 多くの時間を過ごした。その中で、有我英人とという少年と出会い、深宮才華という少女と出会った。

 英人は、実直な少年だった。己の中の正義に忠実で、いっそ独善的とも言えるほどに。

 対して、才華を評する言葉は、「わけがわからない」という以上に無い。その内面に潜む闇がどれほどのものなのか、それも含め、叶は彼女が苦手と感じた。

 そうした人間たちと過ごす中で、徐々に、叶も城戸の内面を読み取れるようになっていた。

 彼にも感情と呼べるものが、微細ながらに存在することを理解した。その内面に渦巻く闇――――あるいは傷の存在を知った。

 そうして、幾多の問題を抱えた中で、世界を破壊しようという機械を停止させんとし……その最中に、城戸によってこちらへ送還された。

 語り終えた直後の希美の表情は、混乱を孕んだものだった。当然の対応だろう。このようなことを言い始めるような人間が、正常であるはずがない。ただ、それはあくまで一般論であり、叶にとってこれは「真実」なのだ。

 何より家を出たときとまったく同じコート。彼女の腕に装着された見慣れぬ物体。そこから流出するエネルギー。全ての状況が、叶の経験が真実なのだと、希美に告げてくる。

 

「……帰りたくなんてなかった」

 

 楽しかった。寂しさなど、皆といれば感じなかった。

 だから忘れていた――――忘れたかった。元の世界のことなど。母のことなど。

 目を背ければ母から目を背けていた(・・・・・・・・・・)自分をも、視界から外すことができるから。

 何よりも離れたくない相手が、離れてはならない相手がいた。

 

「ナルセから目を離したら、あいつは……」

 

 もしかすると、この思考さえも、母から目を背けたいという浅ましい考えによるものなのかもしれない。

 城戸をダシにすることで、自分の見たくないものを見ずに済むと、現実への忌避感を城戸への心配とすり替えていたのかもしれない。

 顔を俯かせる叶に、希美は優しく言葉をかける。

 

「よっぽど好きなのね、その人が」

「はぁ!?」

 

 一方で希美の口から発せられた言葉は、叶にとってはまるで想定外のものだった。

 好き。好きとは――――――

 

「わ、私が、ナルセを好き?」

「違うの?」

 

 違う。とは、言えない。

 好きか嫌いかの二元論で語るのならば、叶は間違いなく城戸のことを好いている。問題は、それがあくまで二元論的な考えであることで、叶自身が城戸のことをどこまで好いているのかは分からない。

 希美は続ける。

 

「お母さんが何を言っても、あの時、叶に酷いことを言ったのは変わらない。結局、愛してる……なんて、口だけになっちゃう」

 

 言葉だけなら何とでも言える。本当に愛している相手に罵詈雑言を吐くことも、逆に、愛していない相手を愛しているとも、何とでも言える。

 叶にとって、希美は口だけの人間だと言える。希美自身もそれは理解しているし、今更何を言ったところで、叶がまともに受け取ることは無いだろう。

 

「お母さんよりその人の方が大事なんでしょう。だったら、それを突き通した方がいいのよ、きっと」

 

 だから、自分から離れなさい。

 だから、あちらに戻りなさい。

 暗にそうした意思を込め、希美は叶へ呼びかける。

 離れたくない。そばにいてほしい。でも、だからこそ。

 

「……本当に好きな人の所に行きなさい。それがきっと、正しいことだから」

「言われなくても、そうする」

 

 言外に、それを察した。だから、強がりを言った。

 本当はただの弱い女の子なのに。ちょっとデュエルの腕が立つからと言って、強がって、強がって、強がって。

 ああ、所詮は虚栄だ。嘘だ。

 それでも、ずっと突き通してきたのだから――――今だって、嘘の一つくらい言えるはずだろう?

 

「ああ、行くさ。私は行く。行って、勝って、あの馬鹿馬鹿しい連中と一緒に騒ぐんだ」

 

 哀しみなど、あるはずは無いだろう。

 散々に嫌っていた相手なんだ。だったら、何も感じないはずなんだ。

 

「ああ――――きっと楽しいだろうさ。貴様には絶対に味わえない、至福だよ」

 

 押し殺しているのが分かるような演技など、見せるな。

 涙など……流すんじゃない。

 何より母へ、それを見せるな。

 

 念じようとも、堰を切ったように感情はあふれ出す。

 涙は止まらない。止められようはずもない。

 いつしか、互いに背を向けた親子の目には、同じように涙が浮かんでいた。

 

 そうして、どれだけの時間が過ぎただろう。既に叶の目には、涙は見えなくなっていた。

 羽織ったコートの袖で、残った涙の痕を拭う。そうして直後、叶はコートをその場に脱ぎ捨てた。

 

「これは、もういい」

 

 父の遺品を身に付けていれば、彼の強さが身に付くと、そう信じていた。

 だが、もうそれはいい。

 これからは自分の強さを持たなければならないのだから。自分自身の力で、道を切り開かなければならないのだから。

 借り物の力で、誰かを救うことなどできるものか。

 だから、名残惜しいけど、もういい。

 次いで、叶は近場の道具箱から鋏を取り出し、希美へ手渡した。

 

「切って。ばっさり」

 

 首筋付近で手刀を作り、叶は母へ向かって催促する。

 戸惑いながらも、希美はその髪に鋏を入れる。

 

 しばし、刃の擦り合う音だけが部屋の中に響く。

 髪を切るくらいで、臆病の虫が消えるものか。そんなことを告げる声がある。

 違う。これは儀式だ。

 これまでの、何からも目を背けていた自分を「切り落とす」。そのための儀式だ。

 弱い部分はあってもいい。だが、邪魔になるようなものをいつまでも抱え続けて、一体何になるのか。

 だから、ここに置いていく。強い自分でいられるように。

 

 断髪が終わるが早いか、叶は言葉も告げずに外に飛び出した。

 結局のところ――――これまでの叶の言動は、ただ一心に「認められたい」がためなのだ。

 王になる。頂点に立つ。それはきっと、多くの敵を作る道なのだろう。その一方で、きっともっと多くの人間に認められるはずだ。だからこそ、叶はその道を選び、それを掴もうとしていた。

 しかし、その真実はもっと単純で。ただ誰かに、「ここにいてもいい」のだと、そう言ってほしかっただけだったのだ。

 それはきっと、母に拒絶されたその日に生まれた渇望だったのだろう。

 あの世界に到達したのは、ただ、自身の存在を否定されていると錯覚した、叶の弱さゆえのものだ。周囲に拒絶され、故に自身も周囲を拒絶し、ただ現実からの逃避を望んだ。

 逃避を望むこと。あるいは、現実からの脱却を望むこと。それが、あの世界へと漂流する条件だ。その上で、あちら(・・・)からのアプローチがあった場合――――言うなれば、双方向の渇望(・・)というアプローチがあってはじめて、漂着(ドリフト)は成立する。

 アイオーンは、ナンバーズによる多元世界重層領域(オーバーレイネットワーク)の拡大を目指し、より多くの異邦人を望んだ。叶は、拒絶を根源とする現実からの脱却を望んだ。それが偶然に一致したがために、彼女はあの世界へと到達した。

――――では、最早あの世界へ向かう術は無いのか?

 答えは、否だ。

 結局のところ、「あちら」に世界間を移動する方法があり、叶が目的に一致していたからこそ、招かれたのである。それは単に「都合がいい」というだけであって、一切の特殊な条件は必要とはしていない。

 必要なのは、「座標」と、「媒介」と、「エネルギー」だけだ。

 そして、それらは全て、叶の手の中にある。

 「座標(ナンバーズ)」。「媒介(デュエルディスク)」。「エネルギー(モーメント)」。

 そして、残るは目の前の苦難へ向かう、僅かな勇気のみ。

 

「ごめんなさい」

 

 心配そうに視線を向ける母へ、叶は謝罪を呟いた。

 これが最期になるかもしれないから。二度と会うことは無いのかもしれないから。

 和解することになろうがならなかろうが……最後に本音を、告げたかった。

 叶の採る選択肢は、母の下から去ることに他ならないのだから。

 このまま安寧を甘受することこそが、城戸成瀬に対する一つの礼儀であり、真岡叶の幸せの形なのかもしれない。

 それでも叶は、その考え方を許容することができなかった。そのような結末など、認めることはできなかった。

 このまま叶がこちらにいれば、城戸は必ず敗ける。いくら彼が肉体的に、精神的に強いとは言っても、デュエルに関しては未だ初級者の域を出ない。何より相手は、暴走したとはいえ現代のそれを遥かに超えた処理速度を持ち、なおかつ邪神の力によってその在り様を歪められ、感情を――――魂を得たコンピュータだ。何度立ち上がったとしても、あれに勝つには何千の試行が必要になるだろう。

 だから、今行かねば。叶の愛した「あちら」の世界は滅びを迎える。結果的にとはいえ、城戸を見殺しにしてしまう。

 我慢ならなかった。そんな結末など、絶対に認められなかった。

 だから、行かなければ。

 

「行かなきゃ、私は絶対に後悔するから」

 

 自分が行けば絶対に勝てるなどと、そのようなことは思わない。

 それでも、0が1になるのならば、行くべきだ。

 最早痛みに恐れは無い。傷つくことは怖くない。

 恐ろしいのは、誰かを喪うことだ。

 大事に想う誰かを、喪ってしまうことだ。

 まして、手の届くところにあってなお、手を伸ばさなかったら、それは自分自身を裏切ることになる。

 

「……行ってらっしゃい」

 

 決意に満ちた叶のそれとは異なり、母のそれは、あくまで穏やかなものだった。

 一方で、その心中は穏やかとは言いづらいだろう。夫に続き、娘をも失う――――最悪の場合、今後死ぬまで再会が叶わぬ可能性もあるのだ。内心では、彼女の旅立ちなど許したくはない。

 されど、それを引き留めることはできなかった。何よりも親だからこそ、互いを多少なりとも分かり合うことができたからこそ、それはできなかった。

 できたのは、ただ叶に笑いかけることだけだ。彼女が負けぬと信じることだ。再会を信じ、待つことだ。

 

「いつか、帰ってこれたら。孫の顔でも見せにきなさいね」

「……うん。いつか帰ってくる」

 

 その時は。

 きっとあのヒーロー志望な馬鹿もいるのだろう。常に何かを企んでいそうな女もいるに違いない。

 だからこそ、そこにはもう一人。彼がいなければならないのだ。

 そうでなければ……「あちら」で、何を積み上げてきたと言うのか。何を経験してきたというのか。

 いつか、この場所で。

 刻み付ける。ただ、決意を。理想で終わらせないためにも。

 

「――――行ってきます」

 

 希望を象徴するカード(No.39)が、道を拓く。

 そして……言葉と共に、少女は母の下を発った。

 

 

 + + +

 

 

 

 回廊を抜けた先の道。白く塗りつぶされた部屋が、そこにはあった。

 白。無限に続く白。どこまでも続く白の地平線。そのただ中に浮かぶものがある。

 白いアンモナイト。それ以外に形容のしようのない、奇怪な物体だ。

 

 叶は、これを知っていた。この男(・・・)を知っていた。

 

「……このような座興が割り込まれるとは思わなかったがな」

 

 呆れたような口調で、叶は眼前の男へと言葉を投げる。

 何故、このタイミングでこの男は自分の眼前に現れたのか。呆れるほどに最低のタイミングだ。急がなければ何もかもが手遅れになるというのに。

 

「失礼しました。ですが……この場に割り込んででも、聞いておきたいことがありましたので。私のことは既に知っておいでですね?」

「ああ、自己紹介はいらん。が、まずはそこを退け。迷惑だ」

 

 くだらん、と一蹴し、叶は男――――Z-ONE(ゾーン)から顔を背ける。

 彼の「聞いておきたいこと」というのも、今の時点で想定はできる。

 Z-ONE(ゾーン)という男は、常にその身を絶望に浸してきた。友を、同志を失い、それでもただひたすらに己の目的に邁進し続けた。

 それでも、望んだ結果は得られない。困難は未だ彼の前に立ちはだかり、延々とその心を苛み続けている。

 故に、その問いはこうなのだろう。

 ――――なぜ、あなたは諦めないのですか、と。

 愚問だ、と叶は切り捨てた。

 

「……何故です?」

「今ここでリバイスとホープを連続召喚して、再度回廊を拓いてもいいのだぞ」

 

 その意思は頑なで、崩れるような様子は一切見られない。

 やれやれ、とZ-ONE(ゾーン)は頭を振る……ような動作を見せた。

 

「このまま出ることになれば、あなたも死にますよ」

「……どういう意味だ?」

「タイムリミットです」

 

 それは別段、殊更に難しいようなことではない。この世界の理を知る者ならば、知っていて当然……と言うべきものだ。

 無論、叶も理解している。故に、それが口を突いて出たのは、別段におかしなことではないだろう。

 

「……邪神か」

 

 地縛神の根源がかの冥王……「邪神」にあるとするならば、その冥王が周囲の人間を、その魂を喰らって行かないという保証は一切ない。いや、むしろそうなることは間違いないだろう。無論、叶たちの元いた場所――――コンピュータールームに関しても、例外ではない。

 今、この時間が正確に何時か、という点までは叶には察しが及ばないまでも、Z-ONE(ゾーン)の口ぶりから、それを推測することはできた。

 すなわち、夜。不動遊星たちが便宜的には「失敗」し、ゴドウィンの屋敷に戻された、その時だ。

 無意識のうちに、叶は頭を掻いていた。

 

「成程、今戻ればアレに巻き込まれる……仮にあのポンコツ共の光の壁とて、魂を喰らうそれを防ぐことはできん、か」

「そして、オーバーレイ・ネットワークの侵食状況は、未だ50%を超えません」

 

 あと3時間はあるでしょう。Z-ONE(ゾーン)は、落ち着いた様子でそう告げた。

 頭に血が上るのを、叶は感じた。しかし、同時に冷静な思考を取り戻すべく、思考を始める。

 そも、冥王に食われた魂たちは、どうなったのか。

 死ぬことになったか? 答えは否だ。彼らは真に死ぬことになったわけではない。地縛神の時もそうだった。その仕手を撃破することで、その生贄とされた人間は、その身を現世に戻すはこびとなっていた。

 冥界の王の時も……叶の記憶を探る限りでは、そうだ。長官……というよりは超官……を撃破したその後、ゴドウィン兄弟がその身を犠牲にし、犠牲となった人間たちを蘇らせたのだ。

 もしかすると。あるいは、これを逆用すれば、時間稼ぎにもなるかもしれない。

 そのように考えが及ぶと同時、感情がすっと落ち着いた。熱くなる、ならないに関わらず、その思考は常に冷静であるべきだ――――と、少なくとも、城戸がこの場にいれば、そのようなことを言うのだろう、と叶は感じた。

 

「……なら、しばらくはこの趣味の悪い座興に付き合ってやる。それで、何を言いかけた」

「――――何故、あなたは諦めないのです?」

 

 ほら、来た。

 うんざりとした調子で、叶はZ-ONE(ゾーン)を見返す。理解はできる。幾度と無い試行の果て……それこそ、何十年とかけたそれさえ、彼らには大した成果を得られてはいないのだ。そうなっても仕方がない、とも考えられるし、人間の精神であればそうなるものだろう、とも思える。

 真に不屈の人間というものは、存在しない。肉体が朽ちれば精神が屈せずとも意味は無いし、精神が折れれば肉体も追従する。ある種、それを両立させた存在が城戸成瀬という男ということになるのだろうが、彼は死にたがりという絶対の欠点を持つ。人間というものは、得てして完璧とは程遠いものだ。

 いうなれば、未来人たる彼ら、イリアステル滅四星は心が折れてしまった人間たちの集まりとも言える。

 どのような言葉をかけようとも、心の折れた人間へ投げかけるものほど虚しいものはない。

 再起を望むことは難しい。己の力で立ち上がることはまだしも――――他人をそうさせるなど。それこそ、真の英雄というものであろう。

 叶は己の卑小さを自覚している。かつては王になるなどと豪語していたが、その実態はごく普通の少女だ。少し外国の血が濃く出ているというだけの、臆病で繊細で、自分自身を認めてほしいと渇望するだけの少女だ。

 故に、その言葉はZ-ONE(ゾーン)へ響くことはありえない。

 それでも、と、叶は言葉を発する。

 

「そうだな、あるカウンセラ……英雄の言葉を借りるとすれば、『諦めたら、心が死んでしまう』と言ったところか」

 

 それはともかくとしても。

 

「……単に、私は諦めたくないだけだ。零して、取り落として、後悔したくないだけだ」

 

 手が届く場所にそれがあって、それをしなくて。

 結局取り落としてしまうなど、二度とごめんだと思ったから。

 

「それで死ぬとしても?」

「死ぬつもりなぞ毛頭ないわ。それに、いつまでもへばりついて取れない後悔を持って生きていくなど、そんな人生に価値があるのか?」

 

 そうは思わない。

 

「それなら死ぬ方がマシだ。そして、私は死ぬつもりは欠片も無い。倒して、皆で帰る。そのためになら、私は絶対に諦めるつもりは無い」

 

 多少気に入らないやつはいても。それでも――――それが、真岡叶の渇望する「日常」であるが故に。

 青臭いだの理想主義者だのという批判は大いに結構。元々、叶の年齢は13だ。まだ子供だということは叶自身も自覚している。だからこそ、それを必死になって否定してきたのだ。それこそが子供のようなのだと理解せずに。

 理想を語って何が悪い。甘かろうが青かろうが苦かろうが何だろうが、嗤う者は何にも嗤う。認めぬ者は何も認めない。だからこそ、胸を張って。

 

「私を肯定してくれた人間を、私が肯定せずして――――誰がやる」

 

 その在り様を認めてくれた彼の母は、既に亡く。父は認める以前の問題を抱えたままに死に。

 有我英人は、能力までは認めながらもその一切を認めず。深宮才華は根本の部分で、タガが外れてしまっている。

 故に、誰が真に城戸成瀬という人間を認められよう?

 自信は無い。それは彼を余計に追い詰めてしまうだけなのかもしれない。自己満足ということもあるだろう。

 それでも、救いたいと願った。だからこそ、否定させはしない。

 

「間違っているなどと言わせない。私にとっては……それが、正義だ」

 

 そもそも悪だの善だのと言える問題ではないのだが。

 ともあれ。叶にとって真にZ-ONE(ゾーン)への返答となる事柄は、たった一つ。

 

「……私が諦めない理由は、『ただ一人のため』だからだ」

 

 自分は英雄などではないし、そうはなれない。自分と、それ以外の誰かだけで精いっぱいだ。

 世界を天秤にかけた戦いなど、吐き気がするほどに恐ろしい。向かいたくは無いし向かうつもりも無い。

 されど、ただ一人のためなら、戦える。

 その気持ちを何と呼ぶのかは、叶には分からなかった。それでも、それは確かな、彼女にとっての戦う理由だった。

 と。そこまで言ってのけて、叶は嘆息する。どうせ、自分の言葉はZ-ONE(ゾーン)へ響くことはないというのに、何を熱く語っているというのだろうと。

 それは不動遊星(えいゆう)の仕事だ。ここで自分が何かを言ったとして、何も変わるものは無い。

 

「では」

 

 そのような折、ついぞ言葉を発することの無かったZ-ONE(ゾーン)が、ようやくその口を開いた。

 

「見せていただきたい。あなたが卑小と評するその力――――そして、『正義』を」

「ならば見ていろよ、英雄殿。そして、これっきりにしておけ」

 

 結局のところ、これは。

 

「――――私たちの物語だ。貴様は貴様の物語に戻るべきだろうよ」

「……ご忠告感謝します」

 

 と、言葉と同時、Z-ONE(ゾーン)の横に暗い穴が開く。

 世界移動のための回廊だ。

 

「先程、冥界の王が地上に出現いたしました。……周囲の人間の魂の吸収は、現状ではありません」

「そうか」

 

 聞くが早いか、叶は回廊へ向けて歩き出した。

 その視線は、既にZ-ONE(ゾーン)の方へは向いていない。

 一分でも早く。一秒でも早く。心が急かすのを止められない。

 

「健闘を祈ります」

 

 その言葉は、叶に聞こえていたのかいないのか。

 そうして、白に塗りつぶされた部屋には、ただその主だけが取り残された。

 

 

 + + +

 

 

 再びその場所へ戻ってきた叶を迎えたのは、目を覆いたくなるほどに多量の血液だった。

 誰の、などとは、論ずるまでも無いことだろう。この場所に戻ってくるまで、おおよそ二、三時間。それだけの時間があって、城戸がアイオーンに挑まないということはまずありえない。

 そうして、幾度敗北したのだろう。それでもその精神(こころ)は折れず、ただ敵を倒さんと活動を続けていたに違いない。

 肉体が折れ、力尽き――――魂を冥王に捕らわれたのだろう。そうした想像は、叶にも容易にできた。

 カードが、周囲にばらまかれたようにして落ちている。使い捨てにしたということでもあるまい。どうにかデッキの入れ替えをしようと躍起になり、取り落としてしまったのだろう。

 叶はその中の一枚を拾い上げると、己のデッキに加えた。

 力を貸してくれ、と。祈るように。

 一歩を踏み出す。恐怖は感じない。ただ、胸の奥から、何か熱いものがこみあげてくるだけだ。

 

「数時間ぶりだな」

 

 努めて冷静な口調で、叶はアイオーンへ呼びかけた。間をおかず、機械音声が発せられる。

 

『肯定。しかしあなたがこちらの世界へ戻ってきたことが理解不能です。方法と理由の提示を要求いたします』

「永久機関であるモーメントを利用し、ナンバーズに記された座標を照合……あとは、ちょっとした運だけだ。理由ならポンコツ機械を破壊しに来たで充分だろう」

 

 それ以上の理由が必要であるとは到底思えない。思うつもりも無い。この暴走し尽くした機械が、人間の感情を解すものか。

 城戸を助ける。ついで(・・・)に、世界を救う。その認識が、自分の中にあるだけでいい。それが、叶にとっての唯一だ。

 デュエルディスクにデッキを挿し込む。展開に合わせ、叶はアイオーンを見据えた。

 

「真打登場……と言ったところだ。まさかこのデュエル、受けないとは言うまいな」

『否定。当機はデュエルに関連した事柄に対しての拒否権は持ちません』

 

 と、言葉と共に、叶の周囲に光の壁が張り巡らされる。

 これで、逃げることはできない。相手も――――逃げることは許されない。

 あとはただ、望む日常へ戻るために、戦うだけだ。

 

「ならば茶番は終わりだ、アイオーンッ! 欠陥だらけの貴様のシナリオを、この場で破壊する!」

 

 デュエルディスクが起動し、互いの情報を操作窓(ホロ・ウィンドウ)へ映し出す。

 先攻はアイオーンだ。

 叶は、先に行われた城戸のデュエルを見ていない。よって、事前に想定を行う以外に相手の出方は分からない。

 とした一方で、彼女の頭の回転は、同世代の人間と比べて相当に早い。デュエルに関してのみ言えば、ともすれば城戸に匹敵するほどだ。

 一枚、相手のカードが出てきたならば、その時点である程度、デッキの想定は可能だ。故に、

 

『《炎熱伝導場》を発動。デッキから《ラヴァル・ランスロッド》及び《ラヴァル炎火山の侍女》を墓地へ送ります』

 

 デッキの特定と対策は、即座に脳内に浮かんだ。

『ラヴァル』。あるいはそれらを利用したデッキだ。

 サポートカードによる大量展開からの大型モンスターの召喚を行い、場を制圧していくカテゴリ、と表現すべきだろうか。ワンショットキルに長けるという特徴も同時に有している。

 故に、その弱点は展開の阻害だ。

 効果を止めるか、特殊召喚を止めるか、あるいは準備段階から封殺するか。いずれにしても、先攻を与えてしまった現状では手の打ちようが殆どと言ってもいいほどに無い。

 

『《ラヴァル炎火山の侍女》の効果を発動。他の「ラヴァル」モンスターが墓地に存在するため、デッキから「ラヴァル」と名の付いたモンスターを墓地へ送ります。《ラヴァル炎火山の侍女》を墓地へ。再度効果発動《ラヴァル炎火山の侍女》を墓地へ。再度効果発動。《ラヴァルのマグマ砲兵》を墓地へ』

 

 これで、一枚のカード消費により、都合五枚の墓地肥やしが行われたこととなる。

 ラヴァルにとっては常套手段であり、序盤においては理想的な状況だ。たかがレベル1のモンスターが3体と侮ることはできない。それだけ揃っているのなら、ランク1のエクシーズモンスターも、あるいは連続シンクロ召喚も可能だと言えるからだ。

 

『《ラヴァルバーナー》を特殊召喚』

 

【 《ラヴァルバーナー》 攻 2100 / 守 1000 】

 

 床板がめくれあがり、その奥底から突如、マグマが噴出する。

 その名の示す通りの溶岩(ラヴァ)。多量の溶岩が凝り、集まり、一つの姿を形成していく。

 炎の吹き出す巨大な両の腕と、火炎によって形作られた毛髪。いかにも炎の戦士といういでたちのそれが、叶の眼前に現れる。

 ラヴァルバーナー。墓地に三種類のラヴァルが存在している場合に特殊召喚が可能となるモンスターだ。

 

『《ラヴァル・コアトル》を特殊召喚』

 

 

【 《ラヴァル・コアトル》 攻 1300 / 守 700 】

 

 次いで、吹き出した火炎の中から、前身に火炎を纏う、一匹の小さな翼竜が現れる。

 ラヴァルバーナーと全く条件を同じくする特殊召喚。加えて、このモンスターがチューナーであるという事実が、叶に不安を抱かせる。

 場合によってはシンクロにもエクシーズにも使用できる――――その上、通常召喚権を残しているというのだからタチが悪い。

 ただ、この場合はシンクロを狙ってくるだろうなと、そのように考えたところで、

 

『《ラヴァル炎樹海の妖女》を通常召喚』

 

【 《ラヴァル炎樹海の妖女》 攻 300 / 守 200 】

 

 現れたのは、褐色の肌を持つ赤髪の少女だった。

 そのレベルは2。そして、チューナーでもある。つまるところのアイオーンの狙いは、

 

(エクシーズ……)

 

 ランク2のカードは、小粒だが厄介だというものが多い。ブラック・ミストは元より、耐性を付加するアーマー・カッパーなどがそうだ。

 レベル9のモンスターのシンクロ召喚を狙ってくる可能性もあるが、《鬼岩城》以外のものは、チューナー以外のモンスターを二体以上要求するものが殆どだ。何より、当の《鬼岩城》の能力それ自体が、より多くの素材を要求する効果を持っている。

 よって、召喚されるであろうカードは……

 

『レベル2、ラヴァル・コアトルとラヴァル炎樹海の妖女でオーバーレイ。二体のモンスターで"オーバーレイ・ネットワーク"を構築。《ガチガチガンテツ》をエクシーズ召喚』

 

【 《ガチガチガンテツ》 攻 500 / 守 1800 】

 

 マグマが冷え固まるように岩が積み上がり、一体の岩人形が場に現れる。

 岩人形……正確にはその周囲に浮かぶ光点。オーバーレイ・ユニットと化したモンスターから発せられる力の波動は、自身の場に存在する他のモンスターへと伝播し、その能力を向上させていく。

 ガチガチガンテツの効果は、オーバーレイ・ユニットの数によって、自身の場のモンスターの能力を向上させるというものだ。一つにつき200ポイント。よって、ガチガチガンテツとラヴァルバーナーの攻撃力と守備力は、それぞれ400ポイント上昇する。

 更に、ガチガチガンテツが破壊されるとき、オーバーレイ・ユニットを使って破壊を免れるということもできる。初手で登場したにしては厄介なモンスターだ。

 

『カードをセットし、ターンエンド』

「私のターン!」

 

 今度はこちらの番だとばかりに、叶はカードを引き抜く。

 1ターン目から散々好き放題やられたのだ。やり返したところで、文句は言うまい。

 

「《セイクリッド・グレディ》を召喚!」

 

【 《セイクリッド・グレディ》 攻 1600 / 守 1400 】

 

 叶の場に現れるのは、白銀の鎧を身に纏った女性的な外観の騎士だ。その右手には一本の杖が掲げられている。

 セイクリッド・グレディはその杖を振りかざし、地に魔法陣を描く。

 

「効果発動。グレディの召喚が成功したことにより、レベル4の《カウスト》を特殊召喚する!」

 

【 《セイクリッド・カウスト》 攻 1800 / 守 700 】

 

 次いで、その魔法陣から現出したのは人馬一体と化した騎士だ。人馬宮。射手座。サジタリウス。左腕と一体と化した弓矢は、敵……ではなく、天を狙い、定めている。

 

「カウストの効果! 私の場のセイクリッドを1体選んでレベルを1つ上げる。なお、この効果は二度発動できる! よってカウスト、グレディの二体のレベルを1つずつ上昇!」

 

 天に向かって放たれた弓矢は、狙い違わず――――二体の「セイクリッド」を撃ち抜き、その内に宿る輝きを増していく。

 

「更に《セイクリッドの星痕》を発動!」

 

 叩きつけるようにして場に置かれた魔法は、地に星の騎士たちのシンボルを描いていく。

 これで全ての準備は整った。

 

「レベル5、光属性のカウスト、グレディでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築……現れろ、昴星の騎士! 《セイクリッド・プレアデス》!」

 

【 《セイクリッド・プレアデス》 攻 2500 / 守 1500 】

 

 空間に開いた孔――――その先の無数の星の光が白金の鎧を纏い、場に現れ出でる。

 マントの内側に見えるのは、その名を冠すプレイアデス星団の光か。

 

「邪魔だ、そこの石ダルマ! プレイアデスのオーバーレイ・ユニットを一つ使い、ガンテツを手札に戻す!」

 

 指示と共に、セイクリッド・プレアデスの左腕が動き出す。

 そこに握られた一本の剣。その刃先を地面に突き立てると、ガチガチガンテツの立つ床にセイクリッドの紋章が瞬いた。

 直後、岩人形の姿が光と共に掻き消える。それに伴い、ガチガチガンテツの効果が失われた。

 

「プレアデス、バーナーを攻撃!」

 

 そうなってしまえば、ラヴァルバーナーの攻撃力は元の2100に戻る。

 叶の言葉と共に、高速でラヴァルバーナーへと迫ったセイクリッド・プレアデスの剣が振るわれる。

 ダメージは400。たかがその程度ではあっても、先制攻撃としてはまずまずと言ったところか。

 メインフェイズ2に移り、カードを二枚伏せる。相手のモンスターは全滅させることに成功したものの、この先の反撃をどうするかは分からない。

 やはり、城戸のデュエルを見ておくのが良かったか……などと、益体も無いことを考えながら、叶は警戒の目を向け、

 

「ターンエンド」

 

 ターンをアイオーンへ譲渡した。

 アイオーンがカードをドローする。スタンバイフェイズ、メインフェイズと移行し、

 

『《一時休戦》を発動』

 

 発動したのは、互いのダメージを次の叶のターンの終了時まで全て0にするカードだった。

 効果により、互いにカードを1枚ずつドローする。

 一時休戦というカードの強みは、互いのダメージをゼロにするという以外にも、手札交換を行えるという側面にも存在する。

 例えばエグゾディアの封印カードを全て揃えるのにも有用だ。相手に一枚ドローさせるという点は確かにデメリットであろうが、特定のキーカードを使用してワンショットキルを狙うデッキにはあまり気にならないものだと言えよう。

 実際に、アイオーンの使用するデッキはその類のデッキである。狙いは、墓地のモンスターを大量展開できる《真炎の爆発》だろう。

 ならば次に来るのは……

 

『 《カードカー・D》を通常召喚』

 

【 《カードカー・D》 攻 800 / 守 400 】

 

 場に姿を現すのは、薄っぺらな外見を持つ小さな車だった。

 と、それは場に現れるや否や、すぐにその身を分解させ、二枚のカードを露わにする。

 同時にアイオーンのターンが終了した。

 カードカー・D。特殊召喚できず、召喚に成功した場合にこのカードをリリースすることで、デッキからカードを二枚ドローするという効果を持ったモンスターだ。

 かの絶大なドローソースたる《強欲な壺》を内蔵した存在だとも言えるが、その効果を使用した場合にターンを終了するというデメリットは、あまりに大きい。

 故に、《一時休戦》はコンボとしては有用だ。反撃を食わず、キーカードを手札に呼び込むことができるのだから。

 

「私のターン」

 

 一方で、叶の手札もまた増えた。

 攻撃ができないのだとしても、できることが無いわけではないのだ。ならば、まずは準備を整えるが最上。

 

「《セイクリッド・シェラタン》を通常召喚!」

 

【 《セイクリッド・シェラタン》 攻 700 / 守 1900 】

 

 現れたのは、羊頭を模した兜を持つ小柄な騎士だ。

 右腕に掲げられた拳銃……にも似た装置が、叶の左腕、マウントされたデッキを狙う。

 

「シェラタンの召喚に成功したことにより、デッキから『セイクリッド』・ダバランを手札に加える。そして魔法(マジック)カード、《死者蘇生》を発動! 蘇れ、カウスト!」

 

【 《セイクリッド・カウスト》 攻 1800 / 守 700 】

 

 再び場に現れる人馬の騎士。

 つがえられた矢は一本のみ。その矛先には、セイクリッド・シェラタンの姿がある。

 

「カウストの効果により、シェラタンのレベルを4に。そして、二体の光属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築……エクシーズ召喚! 来い、《セイクリッド・オメガ》!」

 

 二つの純白の星が、空間に開いた孔へと取り込まれていく。

 星は暗闇の中で輝きを増し、白金の鎧を形成していく。

 そうして現れたのは、巨大な翼を模したかのような外套を持った、人馬一体の騎士だった。

 

【 《セイクリッド・オメガ》 攻 2400 / 守 500 】

 

 と、ここまで場を整えてはみたものの、ダメージを与えられない以上、攻撃に意味は無い。

 ならばもう一手行動して、ターンを譲り渡すのがいいだろう。

 

魔法(マジック)、《封印の黄金櫃》を発動。デッキから《セイクリッド・ソンブレス》を除外し、2ターン後に手札に加える。これでターンエンドだ」

『ドロー』

 

 一時休戦のドローも含め、アイオーンはこれで都合4枚のドローをしたことになる。

 消費の分を考慮しても、キーカードが手元に来るには十分な枚数だと言えよう。故に、

 

『《真炎の爆発》を発動』

 

――――ある意味、それを発動されるのは必然であるとも言えた。

 

「チッ……」

 

 自然、舌打ちが漏れる。

 真炎の爆発は、墓地に存在する守備力200の炎属性モンスターを、可能な限り特殊召喚するというカードだ。

 1ターン目にアイオーンが既に墓地に大量にモンスターを送っていたという現状、それを止めるにはカウンターで封ずる以外に手は無い。

 そして何よりも、問題は叶がカウンターを用意できていないことにある。つまり、妨害などできようはずがないのだ。

 爆音が周囲に響き渡る。床板を押し上げるようにして、火炎が噴出する。

 そうして現れるのは、5体のモンスターだった。

 

【 《ラヴァル・ランスロッド》 攻 2100 / 守 200 】

【 《ラヴァルのマグマ砲兵》 攻 1700 / 守 200 】

【 《ラヴァル炎樹海の妖女》 攻 300 / 守 200 】

【 《ラヴァル炎火山の侍女》 攻 100 / 守 200 】

【 《ラヴァル炎火山の侍女》 攻 100 / 守 200 】

 

(チューナーが3体……)

 

 狙いは連続したシンクロ召喚、だろう。

 わざわざ小回りの利くレベル1のモンスターを選択して蘇生させたことも、その裏付けと見ることができる。

 ならば、

 

『レベル4、ラヴァルのマグマ砲兵にレベル1、ラヴァル炎火山の侍女をチューニング。《ラヴァルバル・ドラゴン》をシンクロ召喚。』

 

【 《ラヴァルバル・ドラゴン》 攻 2000 / 守 1100 】

 

 アイオーンの場に姿を現したのは、溶岩によってその身を構成した灼熱の竜だ。

 その能力は――――

 

『墓地のラヴァル炎火山の侍女二枚をデッキに戻し、セイクリッド・オメガを手札に戻します』

「プレアデス、オメガの効果をチェーン発動! 魔法・罠への体勢を付与し、ラヴァルバル・ドラゴンをエクストラデッキに戻す!」

 

 ラヴァルバル・ドラゴンの発する灼熱が、セイクリッド・オメガを孔の向こうへと押し戻してゆく。

 だが、その直前、セイクリッド・オメガの周囲に浮遊するオーバーレイ・ユニットが、その外套へ取り込まれてゆき――――「星」を、その場にぶちまけた。

 そしてまた、溶岩竜も、セイクリッド・プレアデスの持つ剣……そこから発せられる波動により、その身をただの土塊へと戻した。

 だが。

 

(オーバーレイ・ユニットはゼロ……!)

 

 元より、セイクリッド・プレアデスは1ターンに1度しかその効果を発揮できない。

 相手のターンにも効果を発動できるという優位性はあるものの、オーバーレイ・ユニットの補充は、大抵の場合で専用のカードが必要になる。そして、叶の手にはそうしたカードは無い。

 こうなってしまえば、プレアデスは上級の基準程度の攻撃力しか持たないただのモンスターでしかない。

 邪魔、とは言うまいが、ともあれ重要なのは、この先の攻撃をいかにして凌ぐかだ。

 

『レベル6、ラヴァル・ランスロッドに、レベル2、ラヴァル炎樹海の妖女をチューニング。《ギガンテック・ファイター》をシンクロ召喚』

 

 光の円環が炎の戦士を包み込み、その姿を変質させていく。

 火炎は抑制され、身体を包む頑強な鎧へ。無敵の戦士へと、その身を変えていく。

 

【 《ギガンテック・ファイター》 攻 2800 / 守 1000 】

 

(ギガン……?)

 

 おかしい、とは言い切れないが、それでも僅かに引っかかるものがある。

 レベル8の汎用シンクロモンスターの多くは、シグナーの持つドラゴンだ。故にこの場には存在しないのだろう。それは分かる。

 ならば、それはそれとして《スクラップ・ドラゴン》や《ブラッド・メフィスト》、《メンタルスフィア・デーモン》といった選択肢もまた、あったのではなかろうか。

 特にスクラップ・ドラゴンに関しては、唯一場に残った侍女を処理する方法としては有用にもなる。セイクリッド・プレアデスのみならず、伏せカードを処理するという点についてもまた、絶好の位置にあるものだとも考えられるが。

 

『《炎塵爆発》を発動。あなたの伏せカード全てを選択し、破壊します』

「なっ……!!」

 

 セイクリッド・プレアデスは、セイクリッド・オメガの効果を受け、今のところ魔法・罠カードによる破壊は受け付けない。

 しかし、戦闘破壊とモンスター効果は、その限りではない。このままアイオーンが後続を召喚してくるのならば、その時は。

 

「――――《和睦の使者》! このターン、私に戦闘ダメージは発生しない!」

 

 銀色の幕が、両者の間に割って入った。同時、叶の伏せていた《安全地帯》、発動していた《セイクリッドの星痕》が吹き飛び、破壊される。

 アイオーンの除外した「ラヴァル」は、現在フィールドにいる侍女以外、全て。

 それは本来の切り札たる《真炎の爆発》の発動を阻害するという以上、そこには裏があって然るべきだ。

 例えば、それは更なる展開の前提であるとか。

 

『《異次元からの帰還》を発動。ライフポイントを半分支払い、モンスターを可能な限り特殊召喚』

 

【 《ラヴァル・ランスロッド》 攻 2100 / 守 200 】

【 《ラヴァルバーナー》 攻 2100 / 守 1000 】

【 《ラヴァル・コアトル》 攻 1300 / 守 700 】

 

 天に開いた孔から、三つの炎が降りてくる。

 それらは既にほぼ尽きかけた火種だ。次の瞬間には消えて失せかねないほどに。

 故に、アイオーンは、

 

『ラヴァルバーナーにラヴァル・コアトルをチューニング。ラヴァル・ランスロッドにラヴァル炎火山の侍女をチューニング。《エンシェント・ゴッド・フレムベル》及び《スクラップ・デスデーモン》をシンクロ召喚』

 

【 《エンシェント・ゴッド・フレムベル》 攻 2500 / 守 200 】

【 《スクラップ・デスデーモン》 攻 2700 / 守 1800 】

 

 それらを素材として、二体のモンスターをシンクロ召喚した。

 一つは、くず鉄を組み上げて作られた悪魔。もう一つは、火炎と溶岩によってその身を構成した巨人だ。

 巨人の腕から火炎が迸る。その身に宿る能力を行使するためだ。

 相手の手札の数だけ、相手の墓地のカードを除外する。更にその分、己の能力を上昇させる。

 現在、叶に残された手札は三枚だ。よって三枚――――グレディ、シェラタン、カウストが除外され、エンシェント・ゴッド・フレムベルの攻撃力を600ポイント上昇させる。

 

『カードをセット。ターンエンド』

 

 これで、三体の大型モンスターを相手取らなければならなくなったわけだ。

 一手間違えれば、すぐに首を掻っ切られることだろう。

 

――――だが、そうはさせない。

 

 一体は難しくとも、他のモンスターはこのターン中に処理する。

 多少のダメージは必要経費と割り切って、相手のライフを削り取る。

 どうせ、アイオーンの残りライフは1800。やってやれないことは無いだろう。

 カードを引き抜く。これで手札は4枚。

 

「《セイクリッド・ダバラン》を召喚!」

 

【 《セイクリッド・ダバラン》 攻 1300 / 守 800 】

 

 現れるのは、牡牛を象った鎧を身に纏う一体の騎士。

 その左腕に握られた光の輪が、地に降り紋章を描き出す。

 

「ダバランの効果により、手札からレベル3の《レオニス》を特殊召喚する!」

 

【 《セイクリッド・レオニス》 攻 1000 / 守 1800 】

 

 次いでその紋章の内から現れたのは、獅子を象った鎧を身に付けた騎士だ。

 セイクリッド・ダバランの効果は、レベル3の「セイクリッド」を特殊召喚することにある。よって、

 

「レベル3、光属性のダバラン、レオニスでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築……! 来い、《セイクリッド・ヒアデス》!」

 

【 《セイクリッド・ヒアデス》 攻 1900 / 守 1100 】

 

 二つの光が、空間の孔へと取り込まれていく。

 その先に映し出されるのは、釣鐘の星の団。顕現するのは、白金の鎧と一対の剣を持った騎士だ。

 

「ヒアデスの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、貴様の場のモンスターを全て守備表示にする!」

 

 セイクリッド・ヒアデスの握る双剣。その柄の先の光の輪を重ねると、光の波動が迸った。

 あらゆる存在に面従を強いる鮮烈な光。いくら攻撃能力を高めていようとも、守備がそこに伴っていなければ何一つ意味が無く、

 

「バトルッ! ヒアデスでエンシェント・ゴッド・フレムベルに、プレアデスでデスデーモンに攻撃!」

 

 二体の騎士が、その身を砕く。

 残るは戦闘では無敵の――――しかし、それでも容易に攻略のできる戦士のみ。

 

「カードをセット……ターンエンド!」

 

 伏せたカードはたった1枚。ただし、それは特大の地雷だ。

 《光子化(フォトナイズ)》。罠カード版の《オネスト》と言ったところだろうか。

 攻撃してきた相手の攻撃力を、そのまま自分のモンスターへ上乗せすることのできる(トラップ)だ。その際の攻撃は無効となるため、直後に反撃を行うということはできないものの、それでも、アイオーンに止めを刺すという点においては十分だ。

 さあ、来い。

 自然、叶の息が荒くなる。動悸が治まらない。

 《光子化》はあくまで受動的な効果だ。攻撃を受けなければ発動しえない。

 故に待つ。一秒が一分に、一分が一時間へと引き延ばされたような感覚の中――――ようやく。

 

 アイオーンのターンが訪れた。

 

『ドロー』

 

 アイオーンの思考ルーチンはワンショットキルに終始している、というのが叶の見解だ。

 真炎の爆発。異次元からの帰還。あれだけの大量展開用カードを使用していて、そのように考えるなというのもおかしな話ではあるが。ともあれそうした考えが無かったと言うことはできまい。

 ワンショットキルを狙うデッキの多くは、立て直しの能力に乏しい。特に、今のアイオーンのように、ギミックの大半を使い捨ててしまったのならば尚更だ。

――――故に、叶がそれ以外を想定していなかったのは、決して彼女が弱いからではない。

 貪欲な壺……先程破壊された二枚を含む、五枚のモンスターがデッキに戻り、カードが2枚ドローされる。

 アイオーンの手から、《簡易融合(インスタント・フュージョン)》が発動され、火炎をその身に纏う青年が場に現れる。

 

【 《朱雀》 攻 1900 / 守 1500 】

 

 それ自体はシンクロ召喚を多用するデッキならあってもおかしくはないもので、叶にとっては想定されていたカードだった。

 《炎星侯-ホウシン》のような展開用のカード。あるいは、あるとは思えないにせよ《ブラック・ローズ・ドラゴン》のような全体破壊さえも問題は無いと考えていた。手札に存在する《護封剣の剣士》の存在が、その裏付けだ。

 

――――だから、その存在など、想定することなどできなかったのだ。

 

 発動される一枚の罠カード――――《儀水鏡の幻影術》。

 そこから現れる邪なる存在を。

 

【 《イビリチュア・プシュケローネ》 攻 2150 / 守 1650 】

 

 まずい、と確信できたのは、そのカードの存在があまりに強烈であったが故のことだろう。

 融合モンスター。儀式モンスター。シンクロモンスター。エクシーズモンスター。その全てを生贄に捧げることで降臨する一柱の「神」。

 全てに修正(リセット)を強いるその力は、あまりに規格外。

 故に、その発動には堅固な制約が存在する。それをクリアするなど、できようはずがないというほどの。

 だが、この機械はやってのけた。

 

――――前提が、間違っていた……!!

 

 ああ、間違いなくアイオーンにはワンショットキルのためのルーチンが組まれている。

 だが、それはラヴァルやフレムベルを効果的に使用するためのものではない。

 全ては、この「神」の降臨のために――――!!

 

『――――《創星神 sophia(ソピア)》を特殊召喚』

 

 光が弾ける。

 闇が迸る。

 混沌の内より現れるは、星を創りし神。創造と破壊の両面宿儺。馬頭の女神――――

 

【 《創星神 sophia(ソピア)》 攻 3600 / 守 3400 】

 

「くッ……!!」

 

 場を、墓地を、更には手札を。虚無をもたらす波動が、全てを包み込んでいく。

 何も無い。彼女を守るものは、何も――――無い。

 

『《創星神 sophia(ソピア)》で攻撃』

「がッ……あ!?」

 

 放たれた一筋の光は、寸分違わず叶の胸を貫いた。

 熱い。一瞬遅れて、感覚が痛みを紡ぎだす。

 

「ぐ……ぎィ……!!」

 

 痛い。痛い。痛い。痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――

 心臓が焼けつくほどの、神経が焼き切れるほどの痛みが駆け巡る。

 刹那が無限に引き延ばされるような、そんな感覚。今すぐにこの胸を掻き毟り、心臓を取り出して叩き潰してしまいたい。脳漿をブチ撒ければこの痛みも消えるのだろうか。ああ、ああ、ああ――――。

 

 だが。

 

――――これも、ナルセの受けた痛みか。

 

 だったら、痛くない。

 念じろ。この程度、屁でもないと。

 彼の受けた痛みは、傷は、この何倍だろう。何十倍だろう。

 あの時もそうだった。彼が竜の牙に捉えられ、その身を砕かれた時も。火炎に焼かれた時も。

 そして、父が死んだときも。

 自分はいつも、その外側にいた。

 見ているだけだった。今までずっと。

 それが、ようやく舞台に立てたのだ。ならば、これは通過儀礼と同じこと。

 強くなれ。

 この程度の痛みに負けることは許さない。

 だから。

 

「うっ……がああああああああああああああああああッッ!!」

 

 力の限り、吼えた。

 

 痛みを振り払う。噛み締めた歯が砕け、割れたのだろう。唇の端から血液混じりの唾液が流れ出る。

 外聞など気にしない。体裁など、整えても意味が無い。

 ここからは意思と意地の勝負だ。立ち上がり、相手を見据えて……叩き潰す。

 己の望む明日のために。

 

「来い……」

 

 目の前の敵は、強大だ。

 しかし――――少なくとも、その侵攻を遅らせる手が、彼女のデッキの中にはある。

 封印の黄金櫃を使っていたことが、不幸中の幸いか。このターンに訪れる開封の瞬間に、叶の手には《セイクリッド・ソンブレス》が加わる。

 しかし、それだけではどうしようもないのだ。だから、祈る。

 最後の最後……こんな時だけでいい。

 来てくれ、と。

 

「来い!!」

 

 神など信じたことはない。

 奇跡などあるわけがない。

 だから――――これはきっと、ここまで数多くの可能性を試行してきた彼がもたらした、一つの道なのだと。

 叶は、そう信じることにした。

 

「――――《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚!」

 

【 《ヴェルズ・マンドラゴ》 攻 1550 / 守 1450 】

 

 地に溜まる闇。その内より這い出てくるのは、一株の植物。

 ハエトリグサを模したようなその外見は、しかし、相反して凶暴性などまるで見えはせず、無垢な可愛らしさを周囲に振り撒くばかりだ。

 

「そして、《セイクリッド・ソンブレス》を召喚!」

 

【 《セイクリッド・ソンブレス》 攻 1550 / 守 1600 】

 

 闇の中から、無数の武具が飛び出す。

 それらは、波動の中に消えたセイクリッドの騎士たちのものだ。滞留した星の力は、そこに一つの姿を映し出す。

 銀河の力を宿した希望の戦士。瑠璃の輝きを宿したそれが、神の前に姿を現した。

 

「ヴェルズ・マンドラゴとセイクリッド・ソンブレスでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……!!」

 

 光と闇が、その身を輝きへと変え、希望を紡ぎだす。

 空間の孔の先、星の海より現れるのは、剣か、あるいは塔。

 白と金を主体に据えたその姿は、星の騎士たちと何ら遜色ないほどの光輝。

 

「来い! 《No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープ》ッ!!」

 

「希望」を象徴する皇。

 彼女に残された、最後の希望だった。

 

【 《No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープ》 攻 2500 / 守 2000 】

 

 だが。

 

(これだけで、勝てるか?)

 

 否だ。決して勝てない。

 次のターンで除去カードを持ち出されれば、ホープは破壊され、sophia(ソピア)の攻撃によってデュエルは終わる。それだけは、許されることではない。

 ならば、どうするか?

 簡単なことだ――――今、この場で。CNo.(カオスナンバーズ)を発現させればいい。

 

 そもそも、No.(ナンバーズ)とは何か?

 簡単に説明するならば、それは「この世界」から「他の世界」を観測した、その情報だ。

 そこには画一的な見方しか存在しない。すなわち、機械的な「観測」。それのみ。

 故にそれらは、一つの世界をカードの中に創造している。機械的であるが故に混じりけが無く、己の色、それだけを発している。

 そのために、ナンバーズは使用者を選んだ。己の色に見合った者を。

 

――――では。

 そこに、使用者の「主観」という「色」を足せば、どうなるか?

 

 感情とは、混沌である。

 故に排すべきと唱えた者もいる。それは心の飛躍(ランクアップ)を阻害するから、と。

 だが、そうではないと唱え、実際にそれを果たした主人公がいた。

 だから、自分もそうなりたいと願う。

 混沌でもいい。愚かでもいい。

 自分はただ一人の、小さな人間なのだから、それで十分だ。

 だから。

 

「――――――…………」

 

 この溢れだす混沌(かんじょう)を、形としろ。

 共に歩むのだろう。そのための剣を形成しろ。

 何もできずに倒れていくなど、そんな結末は認められないから。

 

「皆で帰るんだ」

 

 いつかは、母の下へ。

 今は――――彼と共に。いつもの日常へ。

 だから。

 

できないわけがない(・・・・・・・・・)

 

 ただそう信じて、彼女は一枚のカードを掲げた。

 そこに映るのは、ただ一振りの剣、それだけ。

 

No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープで、オーバーレイ・ネットワークを再構築」

 

 天が裂け、(ホープ)が呑み込まれていく。

 その力は変質し、更なる製錬が為され――――再び、ただ一振りの剣として生れ落ちる。

 天が爆裂した。その先から降りてくるのは、彼女の望んだ結末、ただそれだけだ。

 

「カオス・エクシーズ・チェンジ――――来い! 《CNo.(カオスナンバーズ)39 希望皇ホープレイ》ッ!!」

 

【 《CNo.(カオスナンバーズ)39 希望皇ホープレイ》 攻 2500 / 守 2000 】

 

 銀の装甲。黒の徹甲。全身を走る金のラインは、その身に宿す光を表す紋様か。

 

「ホープレイの効果発動。オーバーレイ・ユニットを全て取り除く!」

 

 その脇腹から伸びたのは、一対の腕だ。

 補助のための隠し腕か、あるいはそれが本来の腕なのか。更に、ホープレイの翼の一部が切り離され、新たな剣と化す。

 そうして、三つ。全てのオーバーレイ・ユニットが、ホープレイの剣へと取り込まれた。一つは右腕に握る太刀へ。もう一つは左腕の太刀へ。そして、最後の一つはその巨腕の握る剣へ。一つ取り込むごとに、その輝きを増していく。

 同時に、神の力は失われた。一つ、輝きを増していく毎に一つ。馬頭の神の力が奪われてゆく。

 

「これで……本当に終わりだ、アイオーンッ!! ホープレイ! 『神』を――――切り裂けぇぇぇぇッ!!」

 

 咆哮と共に、閃光が瞬いた。

「神」の威容が、その頭頂から両断され、消え去り果てる。

 吹き出す光と闇は、この場に満ちる彼女の混沌(かんじょう)を示しているようで。

――――ああ、と。叶は、ようやくその事実に気が付いたように、呟いた。

 

「――――終わりだ」

 

 この事件も、終焉だ。

 思えば、何から始まったのだろうと、叶は考える。

 城戸と出会ったところから? あるいは、才華がこちらの世界に来訪してからか?

 いずれにせよ、それは全て終わったのだ。

 

『デュエル終了――――当機の敗北を確認いたしました。これより強制終了の処置に入ります』

 

 アイオーンが、自身の敗北を示す合成音を響き渡らせる。

 ああ、思えば発端はこの機械だ。

 ある意味――――この機械の暴走があったからこそ、叶は城戸と出会うことができた。母とまた話すことができた。

 そして、叶にとっての転機を与えてくれた。

 決して感謝などしない。ああ、だが。それでも。

 

「さっさと終えろよ、ポンコツ」

 

 憎まれ口くらいは叩いてもいいかもしれないと、叶は思った。

 一つ。また一つと、電源が落とされていく。

 周囲のサーバーが、その機能を停止していくのが音で分かる。幸いにして照明は生きているようだが、それもいつまで続くか分からない。

 さて、と呟き、叶はその場に腰を下ろした。

 疲れが溜まっているのだろうか。先程から、どうにも腰が重い。

 目も霞んできたし、ひどく眠い。早起きさせられたせいだろうか。まあ、いちいち気にするようなこともあるまいが。

 

「……は」

 

 どうにも笑えてきた。ようやく。ああ、ようやくだ。自分はあの馬鹿馬鹿しい日常へ帰ることができる。

 そのために――――そうだ。残るは、冥界の王と、レクス・ゴドウィン。シグナーたちが彼に勝利せねば、この世は地獄へと転ずるのだ。

 

――――でも、まあ。

 

 心配は、いらないだろう。

 ただの小娘である自分が、世界を救ったのだ。

 ならば、英雄がそれをできぬ道理はどこにもない。

 安心して――――見ていられる。

 

「……負けるなよ」

 

 誰にともなく呟いた。

 

 瞼が重い。腕が上がらない。

 この際だから、一眠りすることにしよう。目が覚めれば、きっと元の明るい世界だ。

 

 霞む視界の中、叶は自身の指先が見えないことに気が付いた。

 見えない。ではない。それは、消失しているのだ。さながら、大量の血痕を残して姿を消した城戸のように。

 黒い霧と化し、その身を、魂を、冥王に食われようとしているのだ。

 

――――でも、きっと、元通りだ。

 

 自分の役割はここまでだ。だから、今は休もう。

 次に目覚めた時は、彼の隣で共に歩めるように。

 

 黒い雪が、天に向かって降り注ぐ。

 

 半刻の内に、彼女の姿はその場から消え去っていた。

 後に残るのは、ただ、機能を停止したコンピュータだけだった。

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