――――城戸成瀬の失踪を叶が知り、丸二日が経った。
叶は、才華と英人と共に、ネオ童実野シティの喫茶店にいた。
どれだけか歩き、町中を捜しても未だ彼の行方は知れない。
果たして、彼が何を思って一人、病室を飛び出したのか。それは何一つとして知れない。だが、それでも叶には、城戸を見失ってはならない理由があった。
死への思考誘導。
彼の魂には、「死」がへばりついている。
母の死。父の死。二度の凄絶な経験を経てこびりついて離れず、そのために、その行動の果てに自らを殺す選択肢を採る……一種の病理。
自殺を望むことは無いだろう。
だが、そうでなければ……間違いなく、誰かに「殺してもらう」選択を取るはずだ。
焦りが募る。
しかしどうすればいいのか、今の叶ではそれが分からない。
本来なら、駆けずり回ってでも城戸の行方を捜すところだろう。
だが、ガムシャラに外を走り回ったとしても、ただ体力を消耗させるだけで意味は無い。
せめて、位置を絞り込まなければならない。
(――――どこだ?)
カードショップはとうに見た。他の場所も、思い当たる場所については全て虱潰しに捜した。それでもなお、彼の姿どころか痕跡すら無い。
城戸を最後に見たのは、病院関係者によれば才華だという話だ。
しかし、
「………………」
「………………」
才華は黙して語らない。
今も、彼女は悠々とコーヒーを楽しんでいる。
何か知っていることは間違いない。だからこそ、才華には聞けない。その見返りに何を要求されるか。あるいは、本当の情報を教えてもらえるか、それが分からないからだ。
自然、叶の視線が鋭くなる。
一方、殆ど蚊帳の外と言ってもよい英人は、二人の様子に閉口していた。
この二人が殺気立っていることは、他人の感情を解さない城戸でも分かる。だからこそ、悪意に人一番敏感な英人にとって、この場は地獄だった。
人類皆ラブアンドピース。それが理想論だとは分かっているが、せめてこの場でくらいは仲良くできないものか。
この状況に対し、英人は口を差し挟むことはできない。確かに同じ男だが、そもそも英人は城戸とは特別仲が良いとは言えない。友人、とまでは言えないかもしれなくとも、最低限の交流はあり、なおかつ、共通した境遇――異世界人――という事情があるからこそ、この場にいるのだ。下手なことを口走ろうものなら、トリシューラもかくやというような氷の視線が突き刺さるだろう。
そうした理由もあり、英人は先程からトイレとこの場とを往復ばかりしていた。大きなストレスが伸し掛かっているのだから仕方がない。
「出し惜しみをされても困るのだがな」
いつになく低い声音で、叶が呟いた。
城戸の行き先を知っていそうなのは、この場では唯一、才華だけだ。彼女から情報をもぎとらなければ、まず城戸の下へ向かうことさえできない。
いい加減に、彼女も限界が近いのだろう。先程からその指先は、しきりに机を叩いていた。
「無理だね」
しかし、才華は変わらぬ様子でそう告げる。
叶の視線が鋭さを増した。剣呑な雰囲気が、周囲に漂う。
「いや、そろそろ教えてやってくれよ……何考えてるか知らないけどさ」
状況に耐え切れず、英人が口を開く。
そもそもの問題として、才華も何か理由があるからこそ城戸のことを黙っているのだということは分かる。
だが、だからと言っていつまでも黙っていていいわけがない。才華も英人も、城戸の「病」については一切知らないが、それでも叶が焦りを見せていることは分かっているのだ。これ以上黙っていても、叶の怒りを誘発する結果にしかならない。
ふう、と一息ついて、才華は告げる。
「情報が欲しいなら、そっちも手札を見せてよ。それが交渉ってものだよ」
「おい、交渉って問題じゃねえだろ。事件に巻き込まれてたりしたらどうすんだよ」
確かに、「交渉」という側面から見た場合の才華の言葉は、正しい。
一方で、城戸が無事である保証が無い現在において、彼女が情報を隠蔽し続けていることは、城戸の安全が損なわれ続けていくことにもつながる。英人の言う通り、現在は交渉などと言っている場合ではないはずだ。
だが、叶は何とはなしに理解していた。
才華は、城戸に対して何らかの感情を抱いている。
怨嗟の類のそれではないだろう。歪んではいるが、害意とは思えない。
かといって、恋慕のそれとは……かなり、性質が異なるようにも思える。それでも、こうしてぐだぐだと話している間に城戸に危機が迫っているというのなら、交渉の席など設けずに、さっさと情報を開示しているはずだ。
考える。才華が食いつきそうな情報は――――
「一つ」
思い当たることは、あった。
いずれは二人にも……最低でも英人には言っておこうと思っていたことだ。
「ナルセの『病気』について」
才華の目元が僅かに動いた。
城戸本人ですら知らない、彼の「病」。それは、こちらの世界にきて長いこと彼と共に行動してきた叶だからこそ知れた情報だ。
才華にとっては、恐らくは最も重要な情報。今の叶にとって必要とする
「……詳しく聞きたいな、それ」
才華の声が、鋭さを増した。
彼女にしては珍しい、剥き出しの感情を乗せた刃物のような一言。叶はそれを受け流すように、一言告げる。
「なら、この世界の流儀に則って、デュエルでケリを付けよう」
「……デュエルで?」
交渉のいろはなど、叶には分からない。城戸がいれば話は違うのかもしれないが、今の時点ではどうにかしようにも、必要な情報を全てあちらに持って行かれる可能性も否定はできないのだ。
ならば、自分の舞台に立たせることが最善。
デュエルに限っては、叶に一日の長がある。実際に戦えば五分五分と言ったところだろうが、それでも、できるかさえ知れない交渉の席に立つよりはマシなはずだ。
「それもいいかもね」
才華の返答は、色よいものだった。
そこでふと、叶の脳裏に違和感が生じる。
城戸の親族であるからというわけではないが、才華はそれなりに頭が良いはずだ。未だ底の知れない部分もあるし、話術に関しても、恐らくは優れている方、であるはず。
だのに、ここでデュエルを受ける理由が思い当たらない。彼女にとっては不利にこそなれ、有利にはなりえないからだ。
何故か。考えても、理由は浮かばない。
(……仕方がないか)
違和感は拭えない。が、こうして自分に有利な場を作りだせたのは間違いないのだ。
喜びこそすれ、否定することは無い。
そう思って、叶は自分自身を納得させた。
「そうだね、エクシーズを見られても問題だし、場所を移そうか。いつかの路地裏あたりがいいかな」
懊悩している間にも、話は進んでいく。
あれよと段取りが整っていく間にも、叶はじっと、才華の様子を窺い続けていた。
英人は失神しかけていた。
+ + +
シティの路地裏。入り組んだ小路の中で、叶と才華は対峙していた。
互いの眼前には、既に電子の
英人は、二人の様子を窺いながら周囲を警戒している。二人の主力がエクシーズモンスターであり、今のところはその存在は隠蔽しておかなくてはならないからだ。
もっとも、一度召喚してしまえば「珍しいモンスターだな」程度の認識で終わる。必死になって隠して疑われるよりも、ある程度想像の余地を残して誤認を誘発し、勘違いさせたままにしておくのがベターだ。
「ボクの先攻だね」
そうしている間にも、選定は終了していた。
才華を先攻とし、デュエルが開始される。
「モンスターをセット。カードを2枚セット。これでターンエンドだ」
立ち上がりは非常に静かなものだ。ともあれ、これ自体はよくあることだとも言えよう。手札に《冥府の使者ゴーズ》などを握っていない限り、何もせずに終わるなどということはまず無い。
叶は、以前に才華と共闘したときのことを思い返していた。
あの時のデッキのままであるなら、才華のデッキは間違いなく【墓守】。多少のアレンジは加わっているだろうが、城戸でもない限りはそう簡単にデッキを変えたりはすまい。
ならば、とセットモンスターを見据える。先手の一枚目。ならばエクシーズ要員として《墓守の使徒》か《墓守の偵察者》、《番兵》あたりの可能性が高いか。
(連撃だな)
カードを引き抜く。今の手札ならば、それも簡単だろう。
「貴様の場にのみモンスターが存在する場合、《セイクリッド・シェアト》は特殊召喚ができる」
【 《セイクリッド・シェアト》 攻 100 / 守 1600 】
叶の場に、巨大な水瓶と、白い鎧を身に纏う小柄な戦士が姿を現す。
ここから展開して《セイクリッド・プレアデス》を特殊召喚することは可能だろう。しかし、恐ろしいのは才華の場に伏せられた二枚のカードだ。攻撃反応系統の罠であれば、耐性を持たないプレアデスはすぐに破壊されてしまうだろう。
そこで、
「シェアトをリリースし、私は《セイクリッド・スピカ》を召喚する!」
【 《セイクリッド・スピカ》 攻 2300 / 守 1600 】
シェアトがその姿を消し、次いで現れたのは流線型の鎧を装着した騎士だった。一対の機械翼と女性的なフォルム。乙女座を象徴する者としてはこれ以上ないまでに適任であろう。
「更に、スピカの効果を発動。手札からレベル5の『セイクリッド』、エスカを特殊召喚!」
【 《セイクリッド・エスカ》 攻 2100 / 守 1400 】
スピカの両翼が展開し、場に幾重もの光が差す。
その中央に星の騎士団の陣が現れ――――銀の鎧が、姿を現した。
どこか頼りない風貌の、銀色の機械。両腕は極端に細く、その先に取り付けられた大きなバックラーが、その頼りなさをより強調する。
「エスカの効果で、《セイクリッド・シェラタン》を手札に加える」
エスカの両腕から、光が迸る。
「天秤」を象徴する両の皿。より重く、より垂れ下がった側の腕から、叶の手元に向かって一枚のカードが飛び出した。
これでレベル5モンスターが2体。だが、馬鹿正直にエクシーズをするにはまだ早い。
「二枚の光属性モンスターが存在するとき、こいつを特殊召喚できる。来い、《ガーディアン・オブ・オーダー》!」
【 《ガーディアン・オブ・オーダー》 攻 2500 / 守 1200 】
天上から降り注ぐ光。その内より生じるのは、幾多の白金の鎧だ。
重なり合うそれらは、光の中で一つの姿を形成していく。
「更に、エスカとスピカでオーバーレイ! 二体のモンスターで――――」
エクシーズモンスター特殊召喚のための口上。しかし、その途上で思い至る。オーバーレイ・ネットワークは自分が破壊したではないか、と。
ならば、「オーバーレイ・ネットワークの構築」を口上として組み込むには不適当なのだろう。
「エクシーズ召喚! 現れろ、《始祖の守護者ティラス》!」
【 《始祖の守護者ティラス》 攻 2600 / 守 1700 】
二つの騎士が、その姿を輝く星へと転ずる。
しかして、異次元への扉が開くことは――――ない。星は遥か天へと向かっていく。
衝撃が周囲に伝播する。そうして、姿を現したのは金色の翼を有した一柱の天使だ。
その効果は、オーバーレイ・ユニットが存在している限り効果で破壊されないというものだ。
バウンス、除外に対する耐性は無いまでも、その効果は有力だと言えよう。仮に才華が戦闘破壊を狙ってくるならば、手札の《オネスト》によって迎撃もできる。布陣としては、これ以上ないまでのものと言えよう。
「バトル! ティラスで裏守備モンスターを攻撃!」
振り抜かれた剣が、裏向きに置かれたカードと、その裏に隠れたモンスターとを両断する。
そこから覗くのは、無数の陶器の破片だ。それらに紛れ飛び出した影を視認し、叶は眼を見開いた。
【 《メタモルポット》 攻 700 / 守 600 】
縦横無尽に駆け巡る黒い影。その間隙に見え隠れする、三日月状に引き裂かれた口。
互いの手札が、その口腔へと飲み込まれていく。墓地へ送られたそのカードが判明するより先に、叶は才華のデッキを断定していた。
(――――【暗黒墓守】!)
恐らく、英人も一目見て理解しただろう。二人の勝負を見ていた彼もまた、目を剥いていた。
そも、才華のデッキは【暗黒界】を含む前……純粋な【墓守】だったはずだ。手札のモンスターカードを捨てさせる《王家の生け贄》との相性が良いことは確かだが、その性質はどちらかと言えば【墓守】よりも【暗黒界】に近い。
デッキを変更して平然としているというのは、ある意味で彼女が城戸の血縁であることの証明と言えようか。互いに天才性を抱えているのは周知の事実ではあるが。
互いの捨てられたカードが開示される。
叶の捨てたカードは3枚。《セイクリッド・シェラタン》、《オネスト》、《エクシーズ・リボーン》だ。
そして、才華のカードも同じく3枚。《墓守の使徒》、《暗黒界の狩人 ブラウ》。そして、《暗黒界の龍神 グラファ》だ。
幾枚のカードの飲み込まれた先。《メタモルポット》の口蓋から闇が溢れ出す。
吹き出した多量の闇は、才華のデッキに……そして、叶の場にも伝播し、その効力を発揮していく。
ガーディアン・オブ・オーダーが、その身を闇の中へと沈ませていく。それと共に、才華の手に一枚のカードが加わる。
こうなってくると、事前から有していた情報に意味は無い。情報による優位性を狙っていたのだとするなら、確かに意味はあったのだろう。
「――――ティラスの効果を発動!」
即座に、思考を切り替える。
「ティラスが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、貴様の場のカード1枚を破壊する」
選択したカードは、伏せカードの1枚。ティラスの剣が閃き、一条の光が伏せられていたカード……《魔宮の賄賂》を切り裂いた。
今の叶の手札は5枚。対して、才華の手札は6枚だ。次のターンになってドローフェイズを挟むことを考えれば、実質的には7枚。場の状況はともかくとしても、手札2枚の差は大きい。
しかし、この場ですぐに対処、ということは不可能だ。そして、相手のデッキが知れたことでできる行動もある。
「カードを4枚セット」
「四枚ィ!?」
英人が更に目を剥いた。
カードを伏せるにしても、普通は1枚から2枚。3枚でさえ多いと言われることが多いくらいだ。その中で4枚を伏せるというのは、異様を通り越して無茶苦茶だ。
《サイクロン》、《ナイト・ショット》といった単体除去は制限なしに。《大嵐》でさえ、1枚という制限は課せられながらも現役という環境下、この伏せ枚数はあまりに迂闊だ。でなくとも、条件付きとはいえ全てのセットカードを処理することのできる《暗黒界の魔神 レイン》といったカードが投入されていることは間違いないはずなのに。
エンドフェイズに移り、オーバーレイ・ユニットとなっていたセイクリッド・エスカが墓地へ送られる。それと共に、黙っていろと言いたげに、叶は英人へ視線を向けた。
「ボクのターン」
そして、才華へターンが移る。
「手札から《墓守の司令官》の効果を発動。デッキから『ネクロバレー』を手札に加える。そして、そのまま発動!」
風景が書き換わっていく。昼の日差しは斜陽に。周囲にそびえるビルは渓谷に。
王「墓」を「守」る者たちの本拠が、この場に展開した。
「更に《王家の生け贄》を発動。互いの手札を開示し、その中に存在するモンスターカードを全て捨てる」
峡谷へ差し込む斜陽が、二人の手札を場に晒していく。
叶の残る1枚のカードは、《セイクリッド・レオニス》。
対して才華の開示するそれは、《暗黒界の術師 スノウ》、《暗黒界の武神 ゴルド》、《暗黒界の尖兵 ベージ》。加えて、《暗黒界の取引》と《墓守の石版》だ。
その内、モンスターカードは全て墓地へと送られる。と、才華の背後より、多量の闇が噴出した。
「スノウ、ゴルド、ベージの効果発動。デッキからグラファをサーチ。更に、ベージ、ゴルドを特殊召喚!」
【 《暗黒界の尖兵 ベージ》 攻 1600 / 守 1300 】
【 《暗黒界の武神 ゴルド》 攻 2300 / 守 1400 】
二体のモンスターが、闇の中から姿を現した。
一つは、黄金の外殻と巨大な斧を持つ武の魔神。もう一つは、簡素な槍を持つ、兵士の位を持つ悪魔だ。
更に、才華の手札から《暗黒界の取引》が発動される。叶に手札は無い。よって、この場では引いたカードをそのまま捨てることになる。よって、《》が、墓地へ送られた。
一方、才華は《暗黒界の龍神 グラファ》を手札に持つ。これを捨てず、手札に持ち続けることはまずないだろう。
推測の通り、才華の手札から《暗黒界の龍神 グラファ》が墓地へ捨てられる。と同時に、地中から闇が噴出した。
叶の伏せていたカードの一枚が飲み込まれ、消えていく。その瞬間に、
「《トイ・マジシャン》の効果、発動!」
光が爆ぜた。
「相手のコントロールするカードによってセットされたこのカードが破壊された場合、エンドフェイズに場に復活する!」
霊体となったトイ・マジシャンが、その出番を待つようにして場に留まる。
彼女としては、《大嵐》を撃たれた場合の保険と言った程度の認識だったのだろう。しかして、才華は見事にそれを撃ち抜いてしまったわけだ。
叶の口元に軽く笑みが浮かぶ。大丈夫だ。流れはこちらに傾いている。
「ま、どっちでもいいか。ベージを手札に戻し……《暗黒界の龍神 グラファ》を、墓地から特殊召喚」
【 《暗黒界の龍神 グラファ》 攻 2700 / 守 1800 】
槍兵に代わり闇の中から姿を現すのは、巨竜の骨を鎧とする黒鋼の魔神。現時点の【暗黒界】において最強の地位に立つモンスターである。
その能力もさることながら、特殊召喚の容易さもまた、このカードの採用率に貢献している。
現時点で才華の墓地には残り1枚。このままベージを再度通常召喚すれば、もう一体のグラファを特殊召喚できるが、
「……バトルに入るよ」
叶の伏せカードの多さが、それを躊躇させる。
グラファの強みは「容易に墓地から特殊召喚できる最上級モンスターである」ことだ。墓地に存在しなければ無用の長物としか言えはしない。加え、仮に叶の伏せたカードの中に全体除去の類のカードがあった場合、才華はそれに対しての十全なリカバリが行えるかはかなり怪しい。
ともあれ、現時点においてはティラスを破壊できればそれで十分と言える。
「バトル。グラファでティラスに攻撃!」
グラファの全身に配された竜の骨、その内部に蓄えられた膨大なエネルギーが、グラファの顎へと集約される。
放たれるのは、グラファの内在する闇を込められた、エネルギーの塊だった。盾によって受け流し、あるいは受け止めようとするティラスも、その奔流にただ流され、その姿を消した。叶には100のダメージが記録される。
「更に、ゴルドでダイレクト!」
「《ガード・ブロック》を発動! この戦闘のダメージを0にする!」
次いで、巨斧による一撃が放たれる。だが、叶の発動した《ガード・ブロック》による光の被膜が、その衝撃を通さない。
更に、叶には1枚のカードが与えられる。
「……仕方ないね。じゃ、これでターンエンドだ」
うまくしのがれた。と、才華の立場からはそのように評すべきなのだろう。
エンドの宣言と共に、叶の場に《トイ・マジシャン》が姿を現す。
【 《トイ・マジシャン》 攻 1600 / 守 1500 】
トイ・マジシャンというカードは、《白銀のスナイパー》が引き合いに出されて語られることの多いカードだ。
よく似た……ほぼ同じ効果を持つカード同士ではあるが、種族・属性及び後半の効果において、両者には相違がある。
トイ・マジシャンが光属性の魔法使い族であることに対し、白銀のスナイパーは地属性で戦士族。また、白銀のスナイパーが特殊召喚された際に効果を発揮するのに対し、トイ・マジシャンはなぜか「反転召喚」された際に効果を発動する。
こうした点から、《白銀のスナイパー》の方がより採用されやすいものだが、叶にとっては両者ともに一長一短ある。
たとえば、白銀のスナイパーを採用していれば、今の時点でネクロバレーは破壊できていただろう。
しかし、トイ・マジシャンは光属性であるため、エクシーズ素材としてもシンクロ素材としても、光属性デッキという観点から使いやすいという点で勝る。
どちらとも言えないのだ。しいて言うなら、
「私のターン!」
ここで叶が引けたカードが、鍵となる。
「――――速攻魔法、《月の書》発動……トイ・マジシャンを裏守備表示に変更する!」
トイ・マジシャンは才華のターンで特殊召喚したものだ。よってこのカードには、カード効果によらず表示形式を変更する権利が存在している。そのために、
「トイ・マジシャンの表示形式を変更」
トイ・マジシャンの「反転召喚」が成立する。
通常、こうしたカードはエクシーズやシンクロの妨害として多用される。実際、叶もその用途でデッキに投入していたのだが、このタイミングにおいてはこれが《サイクロン》と同等の用途で使うことができる。
当然、彼女が破壊対象として選択したのは、《王家の眠る谷-ネクロバレー》である。
周囲の風景に亀裂が入る。規則正しく、長方形に整えられた無数のヒビ。音を立て崩れ落ちるその光景は、まるでおもちゃの城が崩れ去るようだった。
ともあれ、これで互いに墓地に影響する効果を使用することができるようになったということにもなる。
「《セイクリッド・ソンブレス》を召喚!」
【 《セイクリッド・ソンブレス》 攻 1550 / 守 1600 】
場に現れたのは、無数の武具を身に纏う瑠璃の輝き。
星の力を内包する、乙女座の星雲の騎士だ。
「ソンブレスの効果を発動。墓地のシェラタンを除外し、シェアトを手札に加える」
ソンブレスの周囲に漂う、星の座を示す記号。その内の牡牛を示す記号が消失し、二重の波線……水瓶の記号が輝きを放った。
そして、叶の手には一枚のカードが加わる。
「ソンブレスのこの効果を使用したターン、再度通常召喚が行える。《シェアト》を召喚!」
【 《セイクリッド・シェアト》 攻 100 / 守 1600 】
更に、輝きを放つ水瓶の記号が地に降り、そこに一人の騎士を現出する。
巨大な水瓶。白い鎧。再度、シェアトはその姿を場に現した。
「シェアトの効果発動。このカードのレベルを、場のソンブレスと同じ4とする。更にリバースカードオープン、《セイクリッドの星痕》!」
シェアトの持つ水瓶から、多量の水と三つの輝きがあふれ出す。更に、地面にはセイクリッドの持つ紋章が刻まれる。
「レベル4の『セイクリッド』二体でオーバーレイ! 現れろ、《セイクリッド・ビーハイブ》ッ!」
【 《セイクリッド・ビーハイブ》 攻 2400 / 守 800 】
二体のセイクリッドが姿を変えた金の星が、天空へと舞い上がっていく。
そうして衝撃と共に降り立つ、金色の影。両腕の爪とそこから発せられる波動は、その騎士の有する「蟹座」を示すものか。
「ビーハイブ……」
セイクリッドの星痕の効果により、叶の手に更に一枚、カードが加わる。
現時点においてなら、グラファを含め才華の持つ殆どのカードに、攻撃力で上回ることのできるカード。自身以外の「セイクリッド」に対しても効果を発揮できることもあり、その汎用性は比較的高い。
だが、出すならばモンスターを二体とも処理できる《ヴァイロン・ディシグマ》の方が適しているのではないだろうか、と才華は考える。
【暗黒墓守】において、主力となるのはその殆どが闇属性だ。これ以降、才華の召喚するモンスターについても間違いなく、そうなるはずだ。しかし、叶はそれを出すことをしなかった。そうなれば、彼女は間違いなく才華の場に存在するモンスター二体ともを処理し、なおかつ、莫大なダメージを与えに来るのだろう。
「リバースカード発動、《死者蘇生》! 私の墓地の《ヴァイロン・プリズム》を特殊召喚する!」
【 《ヴァイロン・プリズム》 攻 1500 / 守 1500 】
叶の場に姿を現したのは、鎧状の光の円柱――と言った風体の、結晶体とも呼ぶべきモンスターだった。
レベル4チューナーにして、光属性。更にその効果は、シンクロ素材とした場合に最大限に発揮される。そうなると、彼女の召喚するカードは《ヴァイロン・エプシロン》か――――と、そこまで考えたところで、
「光属性・レベル4の二体でオーバーレイ!」
才華の想定は裏切られる。
「エクシーズ召喚! 来い、《輝光子パラディオス》!」
【 《輝光子パラディオス》 攻 2000 / 守 1000 】
天空より光が降り注ぐ。
粒子が凝り、その姿が形作られていく。屈強な体躯。白の鎧。右腕に掲げた柄から、甲高い音を立てて量子の刃が形成される。
「パラディオスの効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ取り除くことで、相手モンスターの効果を無効とし、攻撃力を0にする!」
パラディオスの剣が、地面に向かって突き刺される。
直後、無数の光の鎖がグラファに向かって地面から飛び出した。
いかに強力な魔神と言えど、不意打ちには脆いと言うべきか。その力の全てを外部へ放出し、グラファはその場にうずくまった。
「バトル! パラディオスでグラファに攻撃!」
「ぐっ……!」
飛び上がり、グラファの眼前に着地したパラディオスが、その刃を高速で振るう。
幾重に重ねられた斬撃。グラファの肉体は四散し、闇へと溶けた。
同時、才華へと衝撃が襲う。初期ライフのちょうど半分……2000のダメージだ。
「更に、ビーハイブの攻撃! オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、『セイクリッド』の攻撃力を1000ポイント上昇させる!」
そして、ビーハイブの両腕の爪から光が迸る。
瞬く間に、その噴出した光は巨大な「鋏」を形成する。見る間に、それはゴルドを胴から両断することとなった。
1100ダメージ。才華の残るライフは、これで900となる。
思わず、叶の顔に笑みが浮かぶ。油断など本来はできはしないが、それでも、勝ちに向かっているという確信はあった。
「カードをセットし、ターンエンド……!」
あと一手。詰めの一手があれば……勝てる。
そのように思ったときだった。
「《墓守の石版》を発動」
冷たい声が、叶の耳に届いた。
「……?」
現在、叶に手札は無い。よって捨てるカードなど存在はしていない。
ただ、《手札抹殺》は、どちらかのプレイヤーの手札にカードがあれば発動できるカードだ。当然、叶に手札が無くとも発動はできる。
問題があるわけではない。だが、違和感があった。
才華は、あのような声音で喋ることがあったか、と。
「《使徒》《司令官》を手札に。更に《手札抹殺》。先に手札に加えた二枚と《ベージ》《シルバ》を墓地へ捨て4枚ドロー。……そして二体を特殊召喚」
【 《暗黒界の尖兵 ベージ》 攻 1600 / 守 1300 】
【 《暗黒界の軍神 シルバ》 攻 2300 / 守 1400 】
才華の場に、二体の悪魔が闇の中より生じ出でる。
一つは、先にその姿を見せていた魔軍の先兵。もう一つは、黒と銀でその身を彩る軍略の魔神だ。
だが、一つ。叶にはその行為に違和感を覚えていた。
何故、司令官の効果を使用してネクロバレーを手札に加えないのか?
そこに理由があるとするなら、それは。
「《
伏せられたカード。その存在が、白日の下に晒される。
本来、彼女は《降霊の儀式》を使用する予定だったのだろう。しかし、先にこのカードが来てしまった。
ネクロバレーを発動してしまえば、墓地のカードを選択する《死者蘇生》は発動できない。故に、サーチを行わずに墓地へ送った、と見るべきか。
「キミの墓地の《オネスト》を特殊召喚」
【 《オネスト》 攻 1100 / 守 1900 】
そして、才華の場にそぐわぬ、有翼の天使が降臨する。
(再利用封じか……!)
このままオネストをエクシーズ素材にでもしてしまえば、叶はそれを利用することはできない。
墓地、除外、バウンス以上に、オーバーレイ・ユニットにされてしまうというのは厄介なものだ。故に、才華はそれを選択したのだろう。
「更に、グラファの効果を発動。ベージを手札に戻し、特殊召喚……そのまま戻したベージも、通常召喚」
【 《暗黒界の龍神 グラファ》 攻 2700 / 守 1800 】
【 《暗黒界の尖兵 ベージ》 攻 1600 / 守 1300 】
先に墓地へ送られていたはずの二体が、再度この場に姿を現す。
そして、才華の場のモンスターは――――4体。
この状況から選択するカードは、決まっている。以前にも使用していた、あの一枚。
「《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》発動! こちらの場の全てのモンスターを、グラファのレベル8に合わせる!」
天より、グラファを示すのであろう鈍色の光が降り注ぐ。それと共に、4体のモンスターのレベルが8となった。
来る、と、叶は確信と警戒を強める。
「さあ、行くよ。レベル8となった《オネスト》と《暗黒界の軍神 シルバ》でオーバーレイ!」
「な……!?」
叶の予測したモンスター……《
確かに、ランク8のモンスターは有用なカードが多いが、その多くはナンバーズだ。まさか現状打開のためとして《神竜騎士フェルグラント》をエクシーズ召喚するわけも無し。
そう思った、直後のことだ。
「来なよ。《
地に、地獄へと繋がるかのような孔が穿つ。
輝く二つの星へと姿を変えた二つのモンスターはその内へと飛び込み、巨大な機械の心臓へと姿を変える。
【 《
機械の心の臓腑。中央からそれらがほどけ、醜悪な本体がその姿を現す。
感情の無い能面のような貌。破壊することにのみ長けた、地獄の窯のような胸部ローラー。
それは、本来この場に存在するはずのない――――城戸成瀬の所有しているはずの、ナンバーズであった。
「馬鹿な!?」
「余所見してる場合?
……ジャイアントキラーの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、特殊召喚されたモンスター……ビーハイブを破壊する」
驚愕する叶をよそに、ジャイアントキラーの指先から幾多の糸が伸びる。
それがビーハイブへ到達しようかという、その瞬間に。
「永続罠、《ディメンション・ゲート》発動! ビーハイブを除外する!」
蟹座の騎士は、その身を次元の彼方へと飛ばしていた。
安堵の息が漏れると同時、しかし、叶はもう一体、エクシーズモンスターがこの場に残っていたことに気付く。
「この効果は、一ターン中に二度使用できる。よって再度発動! パラディオスを破壊する!」
地獄の糸が、パラディオスを絡め捕る。
万力がごとき力によって引き寄せられるのは、ジャイアントキラーの胸部……あらゆる物質を粉砕するローラーだ。
金属同士の擦り合う異音が周囲に響き渡る。鎧が砕け、肉が裂け、肉塊になってさえその暴虐は止まない。
そうして、どれだけの時間が経ったか。実質には数秒程度だろうが、それを見る英人や叶には、数分にも数十分にも感じられた。
ローラーの動きが反転する。引き込む動きから、吐き出す動きへ。ジャイアントキラーの胸の奥から光が蠢き――――そうして、叶の下へと殺到した。
「ぐあっ!!」
2000のダメージは、決して軽いものではない。しかし、ジャイアントキラーは特殊召喚された時点で、後のことを考えたのか守備表示である。
仮にこのまま二体目のエクシーズモンスターを特殊召喚しても、《ディメンション・ゲート》の効果によって攻撃は阻まれるだろう。
しかし、このまま攻撃しても、ベージではセイクリッド・ビーハイブの攻撃力は上回れないし、グラファで撃破したとしても叶のライフは全て削りきることはできない。
プレイングミス、とでも言えるか。そも、ジャイアントキラーの効果が決まっていれば決着は付いていたのだろうから、そこまで想定しろという方が難しいのだろうが。
加えて、パラディオスは破壊された際にカードを1枚ドローする効果が存在する。叶にとって、この効果の有無は大きい。
「ま、いいさ」
ライフポイントを削りきるチャンスはいくらでもあり……また、現状は才華が圧倒的に有利なのだから。
「グラファで直接攻撃」
「《ディメンション・ゲート》の効果発動!」
《ディメンション・ゲート》には、モンスターを除外する以外にも二つ、効果が存在する。
一つは、相手モンスターの直接攻撃時に、《ディメンション・ゲート》を墓地へ送る効果。
もう一つは、《ディメンション・ゲート》が墓地に送られた際に、除外したモンスターを特殊召喚する効果だ。
「ビーハイブを再び特殊召喚!」
【 《セイクリッド・ビーハイブ》 攻 2400 / 守 800 】
次元の彼方へ消え去ったビーハイブが、空間を割り裂いて再び姿を現す。
その力に呼応し、地に刻まれた星の騎士団の紋章が輝きを放ち、叶の手に一枚のカードを届けた。
「それで何になるって!」
言葉と共に、場に現れたビーハイブは、グラファの放った膨大なエネルギーによってその身を散らした。
実際、その一手では残るライフを守る程度のことしかできはしないだろう。だが、叶からすればそれでいい。1でもライフは残っているのなら――――勝ちの目は、潰えていない。
ベージの槍が、叶の脇腹を貫いた。
あくまでソリッドビジョン――――しかし、
「っ……!」
顔をしかめる叶をよそに、才華は更にターンを進める。
「グラファとベージでオーバーレイ! 現れなよ、《
【 《
黒い布を纏う、醜悪な
優位を確信し、才華はカードを伏せてターンを終了した。
「……聞かせろ、深宮才華」
そこで、叶は先程からの疑念を明かすべく、才華に言葉を向ける。
訝しげに、才華は叶に視線を送った。そこには、先程のような冷たさは感じられない。
恐らくは、感情をひた隠しにしているだけなのだろう。当然、その胸中には複雑な情念が渦巻いているはずだ。
推定したところで意味は無い。それ以上に聞きたいのは、
「ジャイアントキラーはナルセが持っていたはずだ。何故、貴様がそれを持っている……!」
その一点だ。
「貰ったんだよ。譲り受けた。手渡された。他にどう表現したら分かる?」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺が行ったとき、アイツはそんな素振りは……」
英人が城戸の病室に赴いたとき、彼は意気消沈した表情でその場にただ佇んでいた。
何やら悩んでいるような素振りはあったにせよ、誰かにカードを譲り渡したというような話は一切無かったはずだ。
「だから、キミが部屋から出てった後だよ。ボクが病室に行ったの。で、その時にコイツの所有権がボクに移って……それから伝言を受け取ったわけ」
それは、通常であればすぐにでも開示すべき事実だった。
僅かに怒りを向ける英人を手で制し、叶は才華へ訊ねる。
「……その内容は」
「だから、キミが勝ったら教えてあげるよ」
――――最初から、言うつもりではあったわけだ。
条件としては、叶も同じだ。いずれは言わなければならないことを交渉のテーブルに載せた。才華もまた、先にそうしていただけのことだ。
そして、二人の間に契約が成立している以上は、怒りをぶつけようとも無駄だ。このデュエルに勝たなければ、きっと才華は今後……少なくとも叶に対し、情報を提供することは無い。
才華は、叶に対して敵意を抱いている。それは以前から叶も理解していた事実だ。故に、才華の提示する条件が叶にとって圧倒的に不利なものであっても比較的自然と言える。
結局は。
「ならば、勝つさ」
その一点に尽きる話だった。
「
「不乱健の効果を忘れた? オーバーレイ・ユニットと手札1枚を墓地に送り、不乱健を守備表示に変更することで、その効果を無効にする!」
叶の眼前で不乱健の巨腕が振るわれ、カードが砕け散る。
起死回生を賭けた一枚。通常召喚によって展開を行う【セイクリッド】にとって、このカードは起点となる一枚だ。無効にされれば当然、逆転など望むべくもない。
――――もしも、それが本当に起死回生の一枚ならば、だが。
「
更に、一枚。
叶の手から、カードが抜き出される。
「そいつの効果は厄介だったのでな、ここで使ってくれて助かったよ」
不乱健の効果は、カウンター罠以外の殆どの効果にチェーンして使用できるものだ。
当然、通常魔法を使えばチェーンされ、無効にされるのは目に見えている。
《
無効化する確率は、低からずともある、と叶は考えていた。
「《未来への思い》を発動! 異なるレベルの3体のモンスターを墓地から蘇生する。レベル3の《セイクリッド・レオニス》、レベル4の《セイクリッド・ソンブレス》、レベル5の《セイクリッド・エスカ》を特殊召喚!」
【 《セイクリッド・レオニス》 攻 1000 / 守 1800 】
【 《セイクリッド・ソンブレス》 攻 1550 / 守 1600 】
【 《セイクリッド・エスカ》 攻 2100 / 守 1400 】
叶の場に、三体の星の騎士が姿を現す。
その外観は本来の色合いよりもくすんでいた。それは効果の無効化を示すものなのだろう。
三体のモンスターの展開。当然、そこにリスクが伴わないわけがない。
《未来への思い》を発動したターン、発動したプレイヤーはこの効果によるもの以外に、エクシーズ召喚以外の特殊召喚を行えない。また、エクシーズ召喚を行わない場合、4000のダメージを受ける。
更に、特殊召喚したモンスターは全て攻撃力が0となる。こうなった以上、このモンスターたちで攻撃を行うことはできない。レベルも異なる以上、この場にあるモンスターではエクシーズ召喚は行えない。
それでも、三体のモンスターを場に展開した事実は驚異的だ。
「三体……!」
「まだだ! 更に私は《セイクリッド・カウスト》を召喚!」
【 《セイクリッド・カウスト》 攻 1800 / 守 700 】
そして、場に半人半馬の騎士が姿を現す。
左腕に掲げた弓矢は、輝きを番えて叶の場の「セイクリッド」に狙いを定めていた。
「カウストの効果を発動! 場の『セイクリッド』のレベルを合計2つまで上下できる! レオニスのレベルを2つ上昇!」
獅子の鎧を身に纏う騎士に、二つの光が飛び込んでいく。
これで、レオニスのレベルは5。レベル5とレベル4のモンスターがそれぞれ2体、叶の場に揃うことになった。
「レベル5のエスカ、レオニスでオーバーレイ! 現れろ、プレアデス!」
【 《セイクリッド・プレアデス》 攻 2500 / 守 1500 】
輝く星のが天へと昇り、その身に白金の鎧を纏って叶の場に降臨する。
星団の主。昴星の騎士とも呼ぶべき威容が、付き従うように叶の側に立った。
「星痕の効果により、カードを1枚ドロー」
最後のドローとなるはずのそれを見て、叶は思考する。
深宮才華という少女は、恐らくは叶以上に城戸に依存している。叶が子供故の依存――――ある種、保護者に対して庇護を求めるものであるのに対し、才華のそれは遥かに異質だ。恋情や慕情のそれとも更に異なる。
奇怪で、異様だ。奇妙で――――異常だ。
だからこそ、叶には一つだけ、言えることがある。
深宮才華が、今後自分と相いれることは無いと。
永遠に自分と彼女は敵同士であり続けるのだろう、と。
「プレアデスの効果発動! ジャイアントキラーにはエクストラデッキに戻ってもらう!」
プレアデスの持つ剣が地面に突き刺さり、ジャイアントキラーの直下に騎士団の紋章を輝かせる。
燦然とした日輪のごとき輝きは、殺戮人形を時空の彼方へと追いやった。
「更に、二体のモンスターでオーバーレイ!」
星が天へ舞い上がる。
巨大な剣が、叶の眼前に降り立つ。
「エクシーズ召喚! 来い、《
輝きを放つ剣は、「あの時」の鍵となったカードの一つ。叶が確かに信頼を注ぐ、希望を示す一枚である。
【 《
「ホープ……!」
忌々しげに、才華はホープを見据えた。
あと、一手。
確実に勝利する手が、無いわけではない。
どこか期待を抱くように目を輝かせる英人をよそに、直後、叶はバトルフェイズに突入した。
「バトル……! 希望皇ホープで不乱健を攻撃!」
不乱健の守備力は、現時点で1000。守備表示となっている現在、ホープでなくともその戦闘破壊は容易だ。
だが、
「不用意だよねぇ!
地に拳を埋めていた不乱健の筋肉が、突如、爆発的に盛り上がる。
《ガムシャラ》。守備表示モンスターに攻撃を宣言された際に発動できる罠だ。
守備表示のモンスターは効果を受けると共に表示形式を攻撃表示に変更し、攻撃モンスターを迎撃できた場合には、そのモンスターの攻撃力と同じ数値のダメージを、相手に与えられる。
効果を使用した後に低い守備力を晒してしまう不乱健にとって、このカードは非常に相性が良いと言える。このコンボで相手のライフを削り切ることは容易だし、仮に耐えきったとしても、次のターンにおけるカード効果の発動を無効にすることが容易になるのだから。
だから、
「想像はしていたさ。だから――――超えさせてもらう」
《二重召喚》を発動した際、あまりに当然のように不乱健の効果を発動したことに、叶は違和感を抱いていた。
始点を潰すことを選択しなくとも、せめてその先――――モンスター効果を無効化すれば、殆どの場合で【セイクリッド】は総崩れになるのだ。だから、あの時《二重召喚》を無効にする意義は、はっきり言えば薄い。
それでも無効化してくる可能性はある。それはきっと、無効化することではなく不乱健の低い守備力を晒すことに意味があるのだから。
「速攻魔法、《禁じられた聖槍》、発動! 不乱健の攻撃力を800ポイントダウンし、このターン、このカード以外の魔法・罠の効果を受けなくなる!」
「!?」
突如、虚空より巨大な槍が飛来する。
それは不乱健の巨躯を地面に縫い付け、力を周囲に放出しながら、周囲の一切の干渉を拒み続ける。
才華にとっては最悪の、叶にとってはそのもの聖遺物と呼んでも過言でないほどのカード。それは、才華の発動した《ガムシャラ》の効果を目前で打消し、
「切り裂け、ホープ!」
ホープの両腕に握られた大剣によって、聖槍は不乱健と共に両断された。
光の粒子が周囲に散り、消える。瞬く間であれど、それは彼女らには無限の時間にさえ思えるものだった。
そして、才華の場の障害は、その一切が姿を消すこととなった。
「とどめだ、深宮才華っ! プレアデスで
昴星の騎士が、地に刺さった剣を抜いた。
一瞬の閃き。剣閃が瞬いたその瞬間には、才華のライフポイントの全てが尽き果てていた。
+ + +
「深宮才華ァッ!!」
思わず、叶は駆けだしていた。
弾かれるようにして走り出し、手を伸ばしたその先。才華の襟元に手をかけ、叶は焦燥をそのまま言葉に変える。
「言え、ナルセはどこにいる!」
「お、落ち着けよ叶ちゃん!」
無理もないことだとはいえ、間違いなく叶は冷静さを欠いていた。
デュエルをしていたからこそ、どうにか保てていたのだろう。別なことを考えていたからこそ、想いは堰き止められていた。しかし、デュエルが終わってしまえば、思考という堤防は失われてしまう。
際限なく高まっていく熱。だが、
「離せよ」
冷や水を浴びせるように、冷たい声が届いた。
その双眸は声と同じように冷たく、そして、何よりも叶への敵意に満ちている。
呆気に取られた叶の手を取り、強引に引きはがす。
「それから、ボクのことを『深宮』と呼ぶな」
原因は、ある程度は想定できなくもない。
叶が聞いた話……才華の生家の人間が、城戸の母親を殺したという事実。彼女としては、そのような家に生まれたことを認めたくないのだろう。
言うなれば、「深宮」として括られたくないという感情か。誰よりも嫌う叶には、特にその傾向は強くなるだろう。
「……分かったから、言え。ナルセはどこだ」
敵意を向けられようとも、叶は退かない。
彼女とは敵同士であり続けるのだろう――――とは、つい先程、自分で確信した事実だ。敵意など向けられても当然。殺意を向けられたなら……多少は、動じることになるか。
だからこそ、先のデュエルではホープレイを使わなかったのだ。この先、彼女と何度も戦うことになるのならば、手札は見せない方がいい。
……そしてどちらにしても、城戸の居場所は彼自身が伝えようとしたことだ。デュエルの勝敗によって譲渡の可否を判断することになったとはいえ、叶が勝利した以上、伝えなければならないことに変わりはない。
そうだ、と英人も我に返る。ここまでついてきたのは、彼も城戸の居場所を知ろうと思ったからだ。
「――――旧モーメント。あの時の場所で待つ、ってさ」
「!?」
サテライト。
想定の遥かに外だった。シティにいるものとばかり思っていた。
確かに、シティ及びサテライトの復興と、ネオダイダロスブリッジ建造のこともあり、現在シティとサテライトとの行き来は容易い。
だが、今の旧モーメントは冥界の王出現の余波によって、一部崩壊してしまっている。「あの場所」――――量子コンピュータ「アイオーン」の設置されていたサーバールームも例外ではない。
通電しているかどうかも怪しい。そもそも、彼がサーバー室で待っている事実を知るのは叶だけになるが、それにしても旧モーメントで待つ理由は、英人には何一つ分からなかった。
「何でそんな場所に……? 叶ちゃん、何か分かるか?」
「いや。だが……ナルセから目を離すのはまずい」
何で? と訊ねる英人に対し、叶は正直に告げるべきか迷いを持つ。
この場には、城戸に執着を続ける才華もいる。彼女に対しても同じく、叶だけが知る事実を告げるべきなのか、どうか。
一人で茫洋として彼から手を放してしまうことは、叶にとって最悪の事態と言える。自殺はしないまでも、城戸が死に向かう可能性が低いわけではないからだ。
ならば、他の事物は無視してもいいのかと言えば……そういうわけでもない。
では、今のこの事態は?
長い沈黙が続く。一分か、十分か。握った拳に汗が滲み始めた頃になって、ようやく叶は口を開いた。
「――――今のナルセの行動は、殆どがナルセ自身の『死』に繋がるものだ」
「は……?」
「……!?」
珍しく、驚きで閉口して見せる才華。対し、英人は叶の言葉がどうにも理解できていない様子だった。
「ど、どういうことなんだよ、それ!?」
「トラウマ、というやつだろうと思う」
城戸は、早くに両親を亡くしている。少年期の鮮烈な経験は魂の根底に焼き付き、「死」という終焉を否応にも彼に理解させた。
彼が何を思ったかは知れない。だが、彼が彼である限り、行動の終端には常に自分の死を位置づけることだろう。
目を離してしまえば、彼は勝手に零れ落ちていく。きっと「あの時」と同じように。
だが、その彼が、今。叶を呼んでいるというのは。
「……ッ!!」
叶の説明が終わった直後、英人は走り出した。
数十秒と経たず、彼のD-ホイールのエンジン音が、叶たちのいる方へと届いてきた。
それは、彼が重要な事実に気付いたからなのだが、
「あ、おい!? 私も乗せろ!」
叶はそれを知らず、置いて行かれてしまっては足が無く。
困ったように才華を見ると、彼女はどこか懊悩した様子で、虚空を見つめていた。
「………………」
走るしか、ないのか。
その結論に至り、叶はどこか泣き出しそうな表情で、路地裏を飛び出した。