決闘世界の漂着者たち   作:桐型枠

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3.初対戦(first play)

「おにーちゃんよわーい」

 

 俺の眼前で、幼女がはしゃぎながら俺を罵倒している。

 俺の腕には、あるいは籠手(ガントレット)にも似た装置が。彼女の腕にも、同様の……ともすれば、年齢とその小さな体躯に不釣り合いなほどのそれが装着されていた。

 

 ふむ。

 

 さて、この状況はどういうことだろうか。

 それを説明するには容易ならざるものがあるが、あえて順を追って説明していくとしよう。

 まず一つ、俺たちは、店から出てフリーのデュエルスペースとやらにやって来た。

 二つ目。その後、叶が俺の対戦相手として丁度いい人間を捜しに行った。

 三つ目。その間に、俺が対戦相手を探しているものと勘違いしたこの女の子が、俺に対戦を申し込んできた。

 その結果がご覧の有様である。

 

 ふむ。

 

「面目次第もありません。失礼ですが、このゲームはどれほど経験がおありですか」

「にねんだよー」

 

 二年。つい先程始めたばかりの俺とは雲泥の差だ。成程、敗北も頷ける。というよりも、戦術の組み立ても何も分かっていない以上は何もできない、とするべきだろうか。

 逆に言えば、それだけ続けることができれば強くなることはできるということか。

 

「……何をしているのだ貴様は」

 

 呆れたように、背後で苦笑いを浮かべながら叶がぼやいた。

 

「いたのか」

「途中からな。待つこともできないのか」

「……挑まれただけだが」

「貴様が勝てるわけが無いだろう。断れ」

「無下に断るのも、礼儀に反する」

「いや、無理なものは無理と言え。それは別に礼儀がどうのなんて問題じゃないだろう」

 

 そうなのだろうか。不可能を不可能と言い切るのも、重要なことということか。

 

「諒解した。それで、対戦相手を見繕ってくると言っていたが」

「うむ。見つからん」

「……どうなのだろう」

「うむ、駄目だ!」

 

 くはははは! と、自棄を起こしたように豪快に笑い切る叶。駄目な事には一切変わりない。

 

「しかし、そうするとどうしたものだろうな。アドバイスしながらデュエルという条件を受けてくれるような相手など、そうそういないのだが」

「その条件で受けてくれるような相手などいない。あまりにもこちらに有利すぎる」

「初心者なのだから、そのくらいのハンデがあってもいいだろう。それで五分五分と言ったところなのだがな」

 

 そうなのだろうか。

 いや、そうなのだろう。

 叶は俺よりも多くの経験がある。実力は遥かに上であり、その事実は疑いようも無い。その叶が言うのであるなら、その通りなのだろう。

 

「おっ、あんたら、デュエルの相手を探してんのか?」

 

 不意に、背後から声がかけられる。年若い男の声だ。そちらを振り向くと、少々背は低いまでも、確かに青年と呼べるであろう年齢の男がそこにいた。

 顔中に入れ墨のようなマークが施されており、外見以上に粗野な印象がうかがえる。

 それを見たその瞬間、叶は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。

 

「あなたは?」

「俺か? 俺はクロウってんだ。いやー、デュエルの相手が見つからなくて困ってさ。対戦相手探してるみたいだったからよ、良かったらどうだと思ってな」

 

 にこやかにそんなことを提案してくるクロウ。容貌とは裏腹に、明朗で快活な男なのだろう。

 あちらから提案してきたのであれば、こちらから断る理由も無い。構いません、と告げて場の反対側に立つ。

 

「ばっ……何を勝手なことを!」

「あちらから提案してきたのだが」

「断れ! 断れ! いいから断れ! そいつとだけは戦うな!」

「ひ、ひっでぇ言いようだなぁ。確かに、マーカー付きだけどよ……」

「それはどうでもいい」

 

 どうでもいいのか。

 

「あのマークには何の意味がある?」

「犯罪を起こした者が付けられるものだ。差別の対象となり、常にその動向は監視される。……だが、それはどうでもいい。些細な問題だ」

 

 些細ではない。

 犯罪歴があると知っていれば、確かに対戦の申し出を受けるようなことは無いだろう。が、現状では何ら問題無い。もしも、真に犯罪者であった場合には通報しさえすれば済む話だ。

 

「…………奴は本来、サテライトにいるはずだ」

 

 ひっそりと、叶が耳打ちをしてくる。

 

「サテライトとシティは、海を隔ててはいるものの、位置関係的にはそう遠くない。しかし、こっちに渡ってくる手段は、そう多くは無いはずだし……どう思う?」

「その、『そう多くはない手段』を、使ってきた……だけだと、思うが。こちらに来る、理由もあるはず」

「あ、そうか……そういえば、クロウはセキュリティの金庫破りだったな……。そんなに重要な施設を、サテライトに建てるはずは無い。となると、こちらに来るだけの理由はある、か」

 

 得心いったという風に、叶は軽く頷いた。

 

「それよりも、奴の強さは折り紙つきだ。そんな相手とやろうものなら、心を折られ――――」

「構わない。『やる』と言った以上はやる」

「いや、だが……」

「待たせるのも悪い。始めましょう」

「いいのかよ?」

「構いません」

 

 意気揚々と、反対側に向かうクロウを見送る。

 と。

 

「おい、箒頭」

「ほ、箒頭ぁ!?」

 

 叶が、クロウへ語りかけた。

 その発言は彼女にとっては自然なものなのか、それとも挑発のつもりで投げかけたのだろうか。

 

「この男はデュエル初心者だ。最中に多少アドバイスをしても構わんな?」

「何だ、初心者かよ。だったら先に言ってくれりゃ、手加減くらい……」

「手加減の必要はありません。全力で戦ってはいただけませんか」

 

 クロウの言葉を遮り、全力を促す。

 つまるところ、これは練習だ。真に必要となる時に向けての予行演習。だが、だからこそ、相手もこちらも全力で臨む必要がある。

 練習で「全力」を見ることすら無く本番に挑めば、惨敗は必至。どころか、一切の手を打つことすらできないという最低の状況にすらなりかねない。

 

全力(そう)でなければ、練習にすらなりはしません」

「……ははっ、そりゃそうだ! お前、名前は!」

 

 何故、当然のことを言っただけだと言うのに、彼は喜色を浮かべているのだろう。

 とはいえ、名を問われたのだから言い返すべきだろう。

 

「城戸成瀬と申します」

「成瀬! 初心者だっていうのに、いい考え方してんじゃねえか! 堅っ苦しい言葉遣いはいらねえ! お前も全力で来い!」

 

 初対面の相手には敬語で接しておく、というのが、ある意味で俺にとっては癖のようなものなのだが……。必要無い、というのならば、わざわざ使うこともあるまい。

 とはいえ、他者と対するときの癖のようなものだ。一朝一夕で抜けきるものではないというのが本音だ。

 

「癖となっているのですが、善処します」

「よし、じゃあ始めようぜ。

 決闘(デュエル)!!」

 

 言葉と共に、デュエルディスクと呼ばれた機械が展開し、光を灯す。

 ディスクの中央部、謎の光源から発せられる中空への表示は、俺が後攻であることを示すものだった。大人しく5枚のカードを引き、相手の行動を待つ。

 

「よし、俺の先攻! ドロー!」

 

 ふむ。

 

 先程の女児もそうだったが、この世界では、一つ一つの挙動をオーバーにしていくことが通例なのだろうか。叶も普段の様子からしてそのような感覚は拭えないし、実際にその通りなのかもしれない。

 あるいはこの世界に永住しなければならない可能性を考ると、世界に溶け込む必要があるのは間違いない。郷に入っては郷に従え。俺もこれを見習う必要があろうか。

 

「まずは永続魔法、《黒い旋風》を発動するぜ!」

「チィ、早々に発動されたか……! ナルセ、それには気を付けろ!」

 

 叶が警戒を促す言葉を告げる。

 先程からの叶の態度。それは単に、クロウというこの男に犯罪歴があるからとか、その程度のものではないのだろう。

 推察するに、この男は、叶の知る男。この世界において、重要な役割を持つ者だ。

 叶は、この世界があるアニメとほぼ同じものだと言った。確信を得た理由が、そこに登場するキャラクターであるとも。

 仮に彼らがアニメのキャラクターと同一のものであったとしても、単に近似存在であるというだけなのだとしても、そこに生きていることに変わりは無い。こうして偶然にも出会ってしまうことはある、ということか。

 

 そうして、叶が彼を警戒する理由。

 それは――――その実力に原因があると見て、恐らくは相違ない。

 

「へっ……俺は《BF(ブラックフェザー)-蒼炎のシュラ》を召喚!」

 

【 《BF-蒼炎のシュラ》 攻 1800 / 守 1200 】

 

 クロウがカードをディスクに設置すると共に、地面から光が溢れだす。

 現れるのは、藍色の羽毛を持つ鳥人。無数の羽根を周囲に散らし、眼前の場に降り立った。

 リアリティと言う一つの観点から言えば、それは最早「現実」と相違ないレベルに現実的だ。この世界の技術力が異常であると表現はしたが、それは改めるとしよう。

 この世界の技術力は、恐ろしい。

 

「この瞬間、黒い旋風の効果を発動! BF(ブラックフェザー)が召喚されたとき、その攻撃力以下の攻撃力を持つ『BF』を、デッキから一枚手札に加える!

 俺は《BF-蒼天のジェット》を手札に加えるぜ」

「貴様ナメとるのか!? 何でカルートじゃなくてジェットなのだ!?」

「べ、別にいいじゃねえか! チューナーだし、使えないわけでもねえだろ!?」

「ふん……それとも手札に既にあるのか? どちらにせよ、舐め腐りおって……」

 

 叶はあのカードのことを何か知っているのだろうか。

 そういえば、彼女は元の世界でも経験者だと言っていたか。ならば、知っていておかしくないだろう。ああまで警戒する理由は何だとも思いはするが。

 

「カルート、とは」

「BFの攻撃力を上昇させるカードのことだ。手札から奇襲気味に来るからな、いつ警戒していても間違いではない」

 

 彼女がそうまで言うのならばその通りなのだろう。脳内に留めながら、クロウの次の手を待つ。

 

「ともかくナルセ、シュラにお前のモンスターを破壊させるな。湧く(・・)ぞ」

「ひっでえ言いようだな。カードをセットして、ターンエンド。お前のターンだ!」

「ドロー」

 

 促されるままに、カードを引く。

 

 ルールを頭の中で再確認する。フェイズの変遷については、機械が自動的に行ってくれているようで、特に気にすることは無いだろう。ライフ管理についても同様。ルールも同じくだ。ならば、あと考えるべきは戦術と戦略以外には何も無い。

 とはいえ、その戦術を一つたりとも持ちえていないのだから、困ったものだ。

 

「……ならば、これを」

 

【 《スクラップ・シャーク》 攻 2100 / 守 0 】

 

 ディスクに一枚のカードをセットする。同時に、場に一体のモンスターが光と共に出現した。

 鉄くずやゴミ、ガラクタ(スクラップ)によってその肉体を構成された鮫。一見不気味な外見を持つそのモンスターは、その不安定な外見に似合わぬだけの能力を秘めているらしい。

 

「……ふむ。ならば攻撃しろ、ナルセ。そいつならいける」

「諒解した」

「ちっ、やっぱ普通に来やがったか!」

 

 叶の指示にか、あるいは俺の反応にか、クロウが驚愕の反応を示す。

 叶の反応を見るに、先程クロウが手札に加えた「ジェット」というカードは、何らかの特異な能力を秘めたものなのだろう。

 だが、その中にあって彼女は「攻撃しろ」と指示を出した。意味が無ければこのようなことはしないはずだ。

 

「攻撃を行う」

「くそっ、マジかよ! 手札の蒼天のジェットの効果を発動! こいつを墓地に送ることで、俺のBFはこの戦闘で破壊されない!」

 

 クロウが墓地へカードを送ると同時に、場にいる鳥人――シュラの体に、幾重にも風が纏わりつく。

 戦闘による破壊を防いでいるという表現なのだろう。

 が。

 

「何ぃ!?」

 

 その瞬間、スクラップ・シャークの全身がバラバラに弾け飛び、破片はクロウへと殺到する。彼のライフポイントに300のダメージが発生した。

 これで残るライフは3700。

 

「スクラップ・シャークの効果処理です。

 己を含む『スクラップ』と名のついたカードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、デッキから『スクラップ』と名のつくモンスターを墓地へ送る」

 

 目の前に表示される操作窓(ホロ・ウィンドウ)を叩き、デッキに存在する一枚、《スクラップ・ワーム》を選択する。と、それを察知したかのように、自動的にその一枚が、ディスクに装着されたデッキの中から抜き出された。

 そして、俺の場にモンスターがいないことを察知したディスクが、次のフェイズへの移行を行う。

 

「……本当に手加減しているのではあるまいな、貴様」

「だーかーらー、違うってんだろ!? 俺だって考えがあんだよ!」

 

 対戦相手であるはずの俺をよそに、口げんかを始める叶とクロウ。

 彼らを抑えて続きを促すべきか、それとも自然と治まるのを待つべきか。逡巡している間に互いの意見の交換は終わったようで、困惑した表情のクロウに対し、叶は舌を出して威嚇して終わった。

 

「ふん……ナルセ、それと、それを伏せておけ」

「……カードを2枚伏せ、ターンを終了」

「俺のターンだ! ドロー!」

 

 意気揚々とカードを引くクロウ。

 俺にもああいった勢いは求められているのだろうか、と不安になる。

 カードのドローの挙動のモノマネをしてみると、横に立つ叶が顔を引き攣らせた。そこまで似合わないと言うのか。

 

「さっきはちっと面喰っちまったが、これでお前のフィールドにモンスターはいねえ! ガンガン攻めさせてもらうぜ! 《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》を召喚!」

 

【 《BF-黒槍のブラスト》 攻 1700 / 守 800 】

 

 場に現れるのは、先程のシュラとは趣の違う、どちらかと言えばヒトに近しい姿かたちの鳥人だ。

 

「黒い旋風の効果発動! 俺は《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》を手札に加える!」

「今度は本気すぎるぞ貴様!?」

 

 怒号を上げる叶を尻目に風が吹き荒れ、クロウの下へ一枚のカードが飛来する。

 

「そして、場に『BF(ブラックフェザー)』が存在するとき、こいつを特殊召喚できる! 来い、《BF-疾風のゲイル》!」

 

【 《BF-疾風のゲイル》 攻 1300 / 守 400 】

 

 次に姿を現したのは、どちらかと言えば完全な鳥に近いモンスターだった。

 他の二体に比べれば、その姿は少々頼り無く感じはするものの、叶の反応を見るに、恐らくこれについても相応に特殊な能力が秘められているのだろう。

 

「本気ってやつを見せてやるぜ! レベル4、黒槍のブラストに、レベル3、チューナーの疾風のゲイルをチューニング!」

 

 クロウの言葉と共に、ゲイルの肉体が光の輪へと転じ、ブラストを包み込んでいく。

 

「黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《BF(ブラックフェザー)-アーマード・ウィング》!」

 

 飛び立つ一つの影。中空でそれは姿を転じ――そして、黒い羽根を撒き散らしながら、それは降り立った。

 甲冑にも似た意匠の外殻に、鋭利な刃物をすら思わせる翼。強靭な四肢。なにか恐ろしい(・・・・・・・)ものが、降り立ったような気がした。

 

「合計の攻撃力は、これで4300! 防げなきゃ負けだぜ! バトルだ! 蒼炎のシュラで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

「まずいぞ!」

 

 いくら俺でも、この状況が非常に危険なことくらいは理解できている。叶の言葉に応じぬままに、伏せておいたカードを発動する。

 

「速攻魔法、《スケープ・ゴート》を発動。羊トークンを守備表示で4体特殊召喚」

 

【 《羊トークン》 攻 0 / 守 0 】

 

 クロウの場から飛び立ち、驚異的な速度でこちらに迫るシュラ。その眼前に、4体の羊が現れ、道をふさいだ。

 勢いのままに、その爪を突き立てる。次の瞬間には、羊トークンはその身を光と変え消し飛んだ。

 

「へっ、流石にこいつは防ぐか。じゃ、もう一度だ! アーマード・ウィングで攻撃! ブラック・ハリケーン!」

 

 旋風を己の身に纏い、哀れな羊に迫る甲冑の烏。

 そこから先は、先程の再現だ。羊は光の粒子と化し、消え失せた。

 

「俺はこれでターンエンド。さあ、お前のターンだ!」

「ドロー」

 

 この状況、互いのLP(ライフポイント)を含め、数の上ではまったくの互角だ。しかし、クロウの場には高い攻撃力を持つモンスターが2体。対し、こちらはまったくの無力。さて、これを打開するにはどうするべきか。

 

「いいか、ナルセ」

 

 思考に耽っていると、叶が横から口を出す。

 

「アーマード・ウィングは、戦闘においては無敵だ。戦闘で破壊されず、1ターンのラグはあるにせよ、確実に相手モンスターを破壊することができる能力を秘めている。加えて、奴が戦闘を行う時、そのプレイヤーの戦闘ダメージはゼロとなる」

 

 一見、完全に対処の策が無いかのような、恐ろしいモンスター。

 成程、先程の嫌な予感は、あながち嘘ではないようだ。

 

「だが、一方で対応は可能だ。奴が無敵なのは、戦闘だけ(・・・・)なのだから」

 

 にや、と唇の端を持ち上げる叶。

 戦闘において無敵である。それは、戦闘以外では無敵たりえないということだ。

「戦闘では」破壊されない。それは、すなわち。

 

「カードを1枚セット」

 

 場に1枚のカードを伏せると同時、立体映像でも1枚の巨大なカードが伏せられる。

 

「おいおい、普通、(トラップ)はメインフェイズ2で伏せるもんだぜ?」

「承知の上です。手札から、《ダブル・サイクロン》を発動。こちらの場とそちらの場の魔法(マジック)・罠カードを1枚ずつ破壊」

 

 叶が言っていたことを反芻する。

 

『《サイクロン》が無制限の今、それは正直に言って無用の長物だ。しかし、破壊をメリットに換えられるなら……』

 

 つまり、己のカードを破壊することすらも、益に換えてしまえばいいというだけの話だ。

 

「今伏せたカードと、《黒い旋風》を選択し、それらを破壊する」

 

 吹き荒れる風が、二枚のカードを連れ去っていく。

 二枚のカードが共に上方へ巻き上げられ、その姿があらわになる。当然、伏せていたものも同様だ。ちらと見えるのは、罠独特の赤紫色だった。

 

「くっ……だけど、お前のカードも破壊されるんじゃ……」

「《荒野の大竜巻》の効果を発動」

「何ィ!?」

 

 上方へと向かったはずの風が、進路を変えてアーマード・ウィングへと向かう。

 その身に纏う甲冑が、あるいはその内側の肉体そのものが、嵐の中で悲鳴を上げている。

 

「セットされたこのカードが破壊されて墓地へ送られた時、場に存在する表側表示のカード1枚を破壊する。

 アーマード・ウィングを選択し、破壊する」

 

 宣言と同時、アーマード・ウィングの肉体は光の粒子と化して消し飛んだ。

 

 戦闘において無敵であるそのモンスターへの対処。その一つが、効果破壊だ。その他にも、効果の無効化、除外、あるいは手札やデッキに戻すことも挙げられるが、この場では割愛する。

 事前に叶に聞き及んでいた、これらのカードの活用方法。上手く相手に嵌ってくれて助かった。

 

「マジかよ……あっさりやられちまった」

「《スクラップ・ビースト》を召喚」

 

【 《スクラップ・ビースト》 攻 1600 / 守 1300 】

 

 続いて、先程のスクラップ・シャークと同様、ゴミやがらくたによってその身を構成する、狼にも似た獣が、姿を現した。

 

「スクラップ・ビーストで、BF-蒼炎のシュラを攻撃」

 

「はぁ!?」

 

 果敢な攻めの姿勢、には見えないだろう。

 傍目から見れば、正気を失い、突撃する愚か者のように見えるだろう。初心者故という点もはたらき、更にその印象は強まるに違いない。

 だからこそ、それをも利用して手を打つ。

 

伏せ(リバース)カード、《幻獣の角》を発動。獣族であるスクラップ・ビーストに装備し、その攻撃力を800ポイント上昇させる」

「くそっ……そう来やがったか!」

 

 クロウのライフポイントが、600減少した。残るは3100。

 

 もし攻撃力の低いモンスターが攻撃してきた場合、罠か、あるいは装備魔法、特異な効果のいずれかを警戒すべきだと言う。今回の場合は罠であり装備。相手の意表を突き、攻撃力を上昇させることに、その狙いがあった。

 攻撃表示のままに場に置いておいて、相手のターンに回してしまえば、その狙いも読まれかねない。叶の言っていたシュラの効果も気になるし、この場合は速攻を行うのがいいと判断した。

 

「幻獣の角を装備したモンスターが、相手を破壊して墓地に送ったので、カードを1枚ドロー」

 

 加えて、この効果もある。

 効果発動より先に相手にこれを、あるいはスクラップ・ビーストのどちらかを破壊でもされれば、こちらの損失は避けられえなかっただろう。それどころか、大幅にライフを削られていた可能性がある。

 

「カードを伏せ、ターンを終了」

「やるな……! 俺のターン、ドロー!」

 

 何かこの状況を打開するカードでも引いたのか、クロウの口元に笑みが浮かんだ。

 

伏せ(リバース)カード、《ブラック・バック》を発動! 墓地の攻撃力2000以下の『BF』を特殊召喚できる! 甦れ、《BF-疾風のゲイル》!」

 

【 《BF-疾風のゲイル》 攻 1300 / 守 400 】

 

 再度、場に現れる青緑の鳥人。先程は即座にシンクロ召喚のための礎として使用されていたが……。

 

「疾風のゲイルの効果を発動! 相手の場のモンスター1体の攻撃力・守備力をを半分にする!」

 

 渾身の力を籠め、ゲイルがその翼をはばたかせる。

 発生する突風は、スクラップ・ビーストの肉体の部品のいくらかを奪って行き、その能力の半分を削り取ってしまった。

 

「ブラック・バックを発動したターン、通常召喚はできねえ。だが、今のスクラップ・ビーストならゲイルの攻撃でも十分破壊できる!」

 

 スクラップ・ビーストの元の攻撃力は、1600。幻獣の角によって強化されたことにより、その攻撃力は2400にまで上昇していた。しかし、ゲイルの効果により、その攻撃力は既に1200。確かに、攻撃力1300のゲイルでも倒すことのできる域だ。

 

「バトル! 疾風のゲイル、スクラップ・ビーストを攻撃だ! ブラック・スクラッチ!」

 

 その翼をはばたかせることによって生じた風が、幾多の羽根を伴ってスクラップ・ビーストへと殺到する。

 既にその肉体の多くを欠損していたためか、スクラップ・ビーストはそれに耐えきることができず、吹き飛ばされ消滅した。

 

 俺のLP(ライフポイント)が、100減少する。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

「ドロー」

 

 スクラップ・ビーストが破壊された今、こちらの状況は芳しくない。俺の場には戦闘能力が皆無の羊トークンが二体と、伏せたカードが1枚のみ。そして、手札は2枚だ。

 更に、クロウの表情を見る限り、何か良策があると見ていい。叶の言っていた「カルート」というカードか、それともそれ以外のカードなのか。

 限られた状況下、苦境と言っても過言ではないが、いかにしてこの状況を覆すか。

 

「《スクラップ・キマイラ》を召喚」

 

【 《スクラップ・キマイラ》 攻 1700 / 守 500 】

 

 カードを場に置くと同時、周囲に散らばったガラクタ……スクラップ・ビーストやスクラップ・シャークの残骸が組み上がり、一つの形を作り出す。

 一見すれば、それは獅子のようにも見えただろう。しかし、その姿はそれと似ていて、まったく異なる。

 尾は蛇のように奇怪な動きを示し、胴は、馬やヤギなどの有蹄類に似る。更には翼までもが生えており、正常な生物を模したそれとは思えない。

 事実、それは「合成獣(キマイラ)」であると言えた。

 

「スクラップ・キマイラの効果を発動。墓地に存在する『スクラップ』と名のついたチューナーモンスター一体を、場に特殊召喚できる。スクラップ・ビーストを攻撃表示で特殊召喚」

 

【 《スクラップ・ビースト》 攻 1600 / 守 1300 】

 

 更に、残骸が再度、スクラップ・ビーストの形状を取って動き出す。

 

「くくっ……そうだ、それでいい。表情を見る限り、奴は手札にカルートを握っているはず……そうでなくとも、高攻撃力のモンスターは脅威! 特にスクラップ関連のモンスターは、その特殊能力も強力無比だ! スクラップ・ドラゴンならば、カルートのせいで上昇した攻撃力も突き通せるし、効果破壊も容易、つまり!」

「シンクロ召喚か!?」

 

 叶の言葉におののくクロウ。俺は、それを意に介さずに、

 

「――――持ってきておりません」

 

 と、告げた。

 

「………………」

「……………………」

「…………………………」

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

「「えっ」」

 

 数秒の後、叶とクロウが頬を引き攣らせながら、そんな、驚きの感情を表した。

 

「お、おいおい、ちょっと待てよ! 何で無ぇんだ!?」

「い、一・二枚は当たっただろう!? アトミックとかツインとか!

 スクラップ・ドラゴンも持ってるだろうが!?」

「まさか、使うことになるとは」

「この大間抜けェ!!」

 

 凄まじい勢いで接近してきた叶に、下から拳で顎を突き上げられた。

 しかし、意図的に外していただとか、相手をなめてかかっていただとか、そんなことは欠片も無い。叶がせかすこともあり、単純にこの対戦に持ち込むことを忘れてしまっていただけだ。

 

「しゃーねえなあ。シンクロするんなら、そこの子から借りても……」

「必要ありません」

「はぁ!? いや、それじゃあフェアじゃないだろ?」

「逆に、相対の途中で、というのも、同様に……公平ではないかと思われます。こちらにはアドバイザーという明確なハンデが存在している以上、それ以上のものは望むべきでありません。 また、デュエルの最中に、デッキに入っていないカードを持ち込むことは、明確なルール違反でしょう」

 

 そう告げると、二人はさも意外そうな、あるいは呆れたような面持ちで俺を見た。

 何故だろうか。決して間違ったことは言ってはいないはずだが。

 

「この天然かつ石頭めが」

「………………」

 

 ……はて、俺のことが天然であるとはどういうことだろうか。俺は至極当然の事実を述べているだけのはずなのだが。

 とはいえ、他者から正当に下された評価であることに変わりはない。厳粛に受け止めねばなるまい。

 

「続けませんか」

「お、おう……」

 

 もしや、俺の態度は他者の目から見れば奇異に映るものなのだろうか。明らかに苦笑いを浮かべるクロウに、俺は憮然とした表情を持って応えた。

 

「だが、この状況でどうするつもりだ? シンクロも何も使わないのならば、攻撃は躊躇すべきだと思うが……」

「問題ない」

 

 何の考えも無いのならば、この状況下で二体ものモンスターを展開することは無い。

 

「《団結の力》を、スクラップ・キマイラに装備する」

 

 スクラップ・キマイラの周囲に立つ二体の羊、そしてスクラップ・ビーストの体が淡く光り、力を与えるようにして、スクラップ・キマイラへと光が収束する。

 

 《団結の力》は、己の場に存在するモンスターの数に応じ、装備したモンスターの攻撃力を上昇させるカードだ。その上昇幅は、一体に付き800。これは、装備したモンスター自身も含まれる。

 現在、俺の場に存在するモンスターは、羊トークン2体と、スクラップ・キマイラ、スクラップ・ビーストの合計4体。よって、攻撃力が上昇する数値は3200。合計数値は――――4900。これで、ゲイルの攻撃力を大きく上回った。

 

「こっ……攻撃力4900だとぉ!?」

「スクラップ・キマイラで、BF-疾風のゲイルを攻撃」

 

 その身の示す凶暴性の限りに、吠えたて、その牙を剥きだすスクラップ・キマイラ。金属の四肢を最大限に用い、高速で迫るそれに、クロウは、

 

「く……手札から月影のカルートの効果発動! 疾風のゲイルの攻撃力を1400ポイントアップさせる!」

 

 クロウが手札から墓地へ月影のカルートを送ると同時、ゲイルの眼光が鋭くなる。

 更に強靭になったその翼によって巻き起こした風が、スクラップ・キマイラに襲い掛かる……が、しかし、スクラップ・キマイラはそれを意に介さず、突撃を敢行する。

 爪が食い込み、牙によって食い散らかされる鳥人。

 あくまで立体映像のためか、血や肉片と言ったグロテスクなものの一切は排されていた。他のモンスターと同様、光の粒子と化して消え去っていく。

 

「くっそぉ……!」

 

 クロウのLP(ライフポイント)から、攻撃力の差分である2200が引かれていく。

 

 残るは、900。

 

「スクラップ・ビーストで直接攻撃」

 

 この攻撃が通りさえすれば、俺の勝利で終わる。

 しかし、想定の通りであれば、眼前のこの男の「底」は、まだ見えていない。

 

「相手が直接攻撃(ダイレクトアタック)を宣言してきたとき、《BF(ブラックフェザー)-熱風のギブリ》は手札から特殊召喚できる! 来い、熱風のギブリ!」

 

【 《BF-熱風のギブリ》 攻 0 / 守 1600 】

 

 クロウの下へ迫るスクラップ・ビースト。その眼前に立ちふさがるようにして、一匹の鳥が立ち塞がった。

 黒をベースとした体毛ではあるが、一方で部分部分で赤い羽毛と三対の翼を持つ、多少異様な姿格好のモンスターだ。

 ギブリはその翼を器用に前方へと掲げ、防御の姿勢を取る。

 

「だが、これだけじゃねえぜ! 伏せ(リバース)カード、《ブラック・リターン》を発動! BF(ブラックフェザー)が特殊召喚されたとき、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力分、俺のライフを回復し、そのモンスターを手札に戻すことができる!

 スクラップ・キマイラには手札に戻ってもらう!」

 

 まずいことになった。

 ギブリが発する突風が、スクラップ・キマイラを押し戻していく。そうして、カードが手札に戻ったその瞬間には、クロウは4900ものLP(ライフポイント)を得ていた。

 手札に戻った際の攻撃力でなく、場に存在しているときの攻撃力で判断されるということか。表示されたLPの数値は、5800。

 

 はて、これを攻略するにはどうすればいいものだろうか。

 

「……ターンを終了」

「俺のターン、ドロー!」

 

 加えて言うならば、次はクロウのターンでもある。覆すも何も、このまま押し切られるという可能性も考慮しなければならない。

 

「俺は手札から、《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》を召喚!」

 

【 《BF-極北のブリザード》 攻 1300 / 守 0 】

 

 召喚されたのは、水色の羽毛を持つ、ずんぐりむっくりとした一羽の鳥。

 クロウの腕に降り立ったそれは、ディスクのとある部分……墓地ゾーンを、その嘴で軽く突いた。

 

「極北のブリザードが召喚に成功したとき、墓地からレベル4以下のBF(ブラックフェザー)を守備表示で特殊召喚できる。月影のカルートを特殊召喚する!」

 

【 《BF-月影のカルート》 攻 1400 / 守 1000 】

 

「その布陣、まさか……!」

 

 ブリザードに導かれ、その姿を現したカルート。その姿を見て、叶は軽く身構える。

 直後、自分が相対しているわけでないと気付き、彼女は明らかな安堵を見せた。が、それなりに緊迫感を伴った表情であることに変わりは無い。

 

「行くぜ! レベル3の熱風のギブリと月影のカルートに、レベル2の極北のブリザードをチューニング!」

 

 ブリザードの肉体がほどけ、その身の内から現れる光の輪が、ギブリとカルートを包み込む。

 

「吹き荒べ嵐よ! 鋼鉄の意志と光の速さを得て、その姿を昇華せよ!

 シンクロ召喚! 出ろっ、《BF(ブラックフェザー)-孤高のシルバー・ウィンド》!」

 

【 《BF-孤高のシルバー・ウィンド》 攻 2800 / 守 2000 】

 

 苛烈な嵐が、場に吹きすさぶ。

 立体映像、という迫力ではない。思わず腕で目を覆い、その動向を見守る……と、ちらと、嵐の中に薄く光る何かが見えた。

 黒銀の羽根と長刀を持つ、痩身の鳥人だ。その身は細身なれど、確かに強大なまでの力を感じさせる。

 

「シルバー・ウィンドの効果発動! こいつの攻撃力以下の守備力を持つモンスターを2体まで選択し、破壊することができる! 俺は羊トークン1体と、スクラップ・ビーストを選択し、破壊する!

 パーフェクト・ストーム!」

 

 ぎち、という金属の擦れ合う音と共に、シルバー・ウィンドが刀を掲げる。

 直後、風が走った。シルバー・ウィンドの姿は消え失せ、後には一条の閃光だけが残る。それを視認した直後、スクラップ・ビーストと羊トークンは、ばらばらに千切れ飛んだ。

 

 残骸が光の粒子となり、消える。

 居合にも近い技術だろうか。凄まじい速度で放たれた複数の斬撃は、俺のモンスターを確実に切り刻んだ。

 

「この効果を使ったターン、バトルフェイズは行えない。俺はこいつでターンエンドだ」

 

「バトルフェイズを行えない」という代償の代わりに、一切のコスト無しに放たれる破壊。破格の効果だが、やはり、それもシンクロモンスター故のことか。

 

「ドロー」

 

 手札に来た一枚のカードを見て、考える。ここは俺も博打を打つ必要があるだろうか、と。

 

「スクラップ・キマイラを召喚」

 

【 《スクラップ・キマイラ》 攻 1700 / 守 500 】

 

 先程、クロウによって戻されたばかりのスクラップ・キマイラが再度、場に現れる。

 相手にとって苦しいのは、キマイラを手札に戻すことによって効果を再利用されることだ。シンクロに利用した直後に墓地から手札に戻してもそれは有効なのだろうし、今回の場合は、こうして変化球的に用いることもできる。

 

「スクラップ・キマイラの効果により、墓地の《スクラップ・ワーム》を特殊召喚します」

 

【 《スクラップ・ワーム》 攻 500 / 守 100 】

 

 スクラップ・キマイラの肉体の一部が、メキメキと音を立てて分離していく。

 硬質繊維のワイヤーにコード、ナット、ネジなどを含む金属部品……それら多くの部品(パーツ)が、昆虫のそれと同じ姿を形作っていく。

 一見すると小さな……しかし、凶悪な外観の(ワーム)が、その姿を現した。

 

「気持ち悪っ」

 

 叶が背後でそのようなことを呟いたが、俺はそうでもないように思う。

 これは人工的な部品によって構成されたものだから、この程度で済んでいるわけだ。実物はもっと生理的嫌悪を催すような外見である。

 

「そして、このモンスターが『特殊召喚』されたことにより、伏せていた《地獄の暴走召喚》を発動」

 

 攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された際に発動できる速攻魔法。

 そのカードと同名のモンスターを、3枚まで特殊召喚することができるというものだ。この際、墓地・手札・デッキは問わず、「可能な限り」全て特殊召喚されることとなる。

 

「自分はスクラップ・ワームをデッキから2体特殊召喚します」

 

【 《スクラップ・ワーム》 攻 500 / 守 100 】

【 《スクラップ・ワーム》 攻 500 / 守 100 】

 

 更に、スクラップ・キマイラの体から湧いてくるように、二匹の機械仕掛けのワームが姿を現した。

 

「グロい……」

 

 げんなりと、叶が場に出てくるワームを見ている。

 ……成程。流石に刺激が強すぎるか。しかし、こうしなければならないのには変わりない。心の中で軽く叶に謝り、再度前を見据える。

 

「この際、相手プレイヤーも自分の場のモンスターを選択し、同名モンスターを特殊召喚できますが」

「シルバー・ウィンドはシンクロモンスターだ、直接特殊召喚できねえ。ていうか、俺のエクストラデッキにシルバー・ウィンドは一枚しかねえよ」

 

 よって、展開可能となるのは、結果的にこちらだけとなる。

 諒解しました、とクロウに伝え、俺はターンを続ける。

 

「スクラップ・ワームは、相手プレイヤーへ直接攻撃できる。スクラップ・ワームで直接攻撃を行います」

 

 四肢を持たぬ虫が、己の全身を用いて、果敢にクロウへと飛び掛かっていく。

 

「へっ! たかが500のダメージ、今となっちゃ痛くも痒くも……」

「速攻魔法、《スクラップ・ポリッシュ》を発動。 自分の場の『スクラップ』と名のついたモンスター一体を破壊し、『スクラップ』と名のついた全てのモンスターの攻撃力を、1000ポイント上昇させます。スクラップ・キマイラを破壊して効果を発動」

「のわぁぁぁぁぁ!?」

 

 クロウの眼前、ともすれば鼻先とも呼べそうな位置に飛び掛かっていたスクラップ・ワームの肉体が、突如として光り輝き、更には肥大化する。

磨く(ポリッシュ)」とはよく言ったものだ。

 

「続けて、二体目・三体目のスクラップ・ワームで直接攻撃」

「ぬわあああああぁぁ!!」

 

 驚きで倒れ込んでしまったクロウへと、もう二体のスクラップ・ワームが殺到する。ぎちぎちという特有の嫌な音が、なんとも恐ろしい。叶など、既に目を背けて体を震わせてしまっている。

 

 間抜けな光景とは裏腹に、その威力は抜群だ。

 クロウのLP(ライフポイント)の大半、4500が削り取られていく。残るLP(ライフポイント)は1300。

 

「……バトルフェイズを終了。このとき、スクラップ・ワームが直接攻撃を行っていれば、スクラップ・ワームは破壊される」

 

 宣言と同時、己の身を弾けさせる三体のスクラップ・ワーム。

 その効果も、他のスクラップモンスターと同様、「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊されたとき、墓地から「スクラップ」と名のつくモンスターを手札に加えられる能力だ。

 俺は表示されたもののうち、スクラップ・シャークとスクラップ・ビースト、及びスクラップ・キマイラを選択し、手札に加えた。

 

「ターン終了」

「へっ……や、やるじゃねえか。俺のターン!」

 

 憔悴しきった様子のクロウが、己のデッキからカードを引き抜く。

 流石にああした攻撃は、多少ならず精神的に堪えるものがあるのだろうか。受けてみたくはないが。

 

「まさかここまでできるとは思わなかったぜ……だけど、勝つのは俺だ!

 俺の場にBFが存在しているとき、こいつはリリース無しで召喚できる! 来い、《BF(ブラックフェザー)-漆黒のエルフェン》!」

 

【 《BF-漆黒のエルフェン》 攻 2200 / 守 1200 】

 

 黒い羽根を散らし、迫り来る屈強な鳥人。これまでのモンスターがそうでなかったというわけではないにせよ、ある意味、最もそのBF(名前)を表すモンスターであるとも言える。

 

「こいつの召喚に成功したとき、相手の場に存在するモンスター1体の表示形式を変更できる! 羊トークンの表示形式を変更してもらうぜ!」

 

 重ねて言うが、羊トークンに戦闘能力は一切無い。

 それ自体が守備表示の壁となるよう、あるいはそのもの身代わり(スケープゴート)としての役割であるからか。トークンは非常に無力で、攻撃などできようはずもない。

 さて、デュエルモンスターズのルールをおさらいしよう。

 攻撃表示のモンスターが、攻撃表示のモンスターと戦闘を行ったらどうなるか。

 攻撃力が低い側のプレイヤーが、その攻撃力の差分のダメージを受ける。

 

「いくぜ! シルバー・ウィンドとエルフェンで攻撃!」

 

 加えて、手札にも場にもカードは無い。防ぐ手立てはまったくの皆無であるということだ。

 先程の攻撃、流石に急ぎすぎたものだと言えなくもない。いや、多少焦っていたのは確かだ。故に、壁となるモンスターを残さずにターンを終了してしまった。

 

 紛れもないミスだ。

 あの場面で、スクラップ・キマイラをセットしていれば、この事態も免れていた……かもしれない。

 己の心に失敗を刻み込みながら、俺はこの対戦での敗北を迎えた。

 

 

 

 + + +

 

 

 

「反省会だ!」

 

 マンションの一室に戻ると、怒り心頭といった様子の叶が、部屋の中央で仁王立ちした。

 共に帰って来たのだというのに、何故仁王立ちする必要があるのか。どうにも格好がつかない。

 例えば、帰宅直後、廊下に立ちふさがるようにしていれば、あるいは演出としては良好なものになるのではなかろうか。何故俺は真面目に演出の考証をしているのか。

 

「いい勝負だった」

「違ぁう!!」

 

 どこから取り出したか、丸めた新聞紙で思い切り頭を叩かれた。

 

「何が、悪いんだ」

「ほ、本気か貴様……勝たなければ意味が無いだろうが!」

 

 確かに、これが一種のゲームである以上、勝つことは一つの目的として適当なものだろう。

 しかし、だからと言って、望まれるものはそれだけなのだろうか?

 

「重要な局面であれば、勝たなくてはならないだろう」

「だから重要でない場面では勝たなくてもいいと言うのか? 笑止! 普段から勝てなければ、本番でも勝てるわけが無い!」

 

 なるほど、そういう考え方もあるか。

 実際、その通りだろう。勝利の味を知らねば、それに向かって努力することも無い。努力をしなければ、後に待つのは敗北だ。

 恐らくは、それを理解しているからこそ、叶は怒りを露わにしているのだろう。

 

 一方、

 

「これを糧として、次に勝つ」

「ふん、できると思うのか?」

「……結果で、示そう」

 

 最低限のことを伝え、俺は己のデッキを机に広げた。

 

「そのために、アドバイスを貰いたい」

「ほう。早速助けを求めるのか?」

 

 皮肉げに口元を歪め、俺を見据える叶。

 なるほど、どうにも俺の解答が気に入らなかったらしい。が、ろくに身分も証明できず、金も無く、権力などもってのほかという俺がこの世界で生きていくには、カードで強くなる以外の道は無い。

 そうである以上、己の不足を補ってくれる人間の協力は必要不可欠であり、一切のノウハウを知らぬ俺には重要なものだ。

 

「そうだ」

 

 だからこそ、俺は自分の無能を、包み隠さずさらけ出した。

 

「助けてくれ」

「えらく率直だな!?」

 

 迂遠に、遠回しに伝えようとしても、相手は分かってくれないだろう。ならばこそ、助けを求めるときは直接的に言葉にすべきだ。

 

「言葉を取り繕っても、本質は変わらない」

「いや……まあ、その通りだが」

 

 なんだかなぁ、と言って、叶は横面を掻いた。

 

「分かった。力を貸してやろう。その代わり、貴様の力も、私の目的のために貸せ」

「諒解した」

 

 元より、俺は彼女に力を貸すつもりでいる。

 俺以上にこの世界に溶け込んでいて、しかし、どこか寂しげな感情を見せる、この少女に。

 付き合いは短く、されど、この関係は、きっと重要なものであると、俺は感じた。

 

 夜は、更けていく。

 異世界に流されて二日目の夜は、そうして過ぎて行った。

 

 




三話でようやくデュエル+敗北スタートっていかがなものだろう……


2/10
スクラップ・ポリッシュの効果を訂正しました

2/11
カルートの関連個所、及びそれに関連してライフポイントの推移を修正しました
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