決闘世界の漂着者たち   作:桐型枠

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9.邂逅(reunite)

「わからん」

 

 先日の少女――――深宮才華との会話を、比較的丁寧に、かつ簡潔に説明した俺に対する叶の反応を端的に述べるとするなら、その一言にすべてが凝縮されていると言ってもいいだろう。

 その通りだ、と同意すべきだろうか。それとも、理論や言葉を部分的にとはいえ理解した以上、この言葉に異を唱えるべきなのだろうか。

 しかし、自分が理解できたからと言っても、他人が同様に理解できるとは限らない。むしろ、そうでない場合も多い。それなら、仕方がないと言って話を打ち切るのが筋と言えるだろうか。しかし、ナンバーズに関する話となると、想像以上に重要であると思うのだが……。

 

「か、勘違いするんじゃない。私がわからんと言ったのは、その女のことだ。確かにその話もよくわからんが、そいつの方がよりわけがわからん」

 

 イカレているのか? と叶は軽く毒を吐いた。

 天才というものは往々にして狂人とも目される。思考回路が多少ズレているという共通点故のものだろうが、一方で彼女のことを喩えるならどちらがより正しいのだろうか。もしかすると両方なのかもしれないが。

 

「世界がどうのとかいうのは、なんとか理解できないこともない。十分突飛だがな。だが……なぜナンバーズを渡してくるのだ?」

 

 ナンバーズ……エクシーズモンスター。この世界に存在しえぬ異端。

 元よりこの世界に存在する特別なカードであるのならまだしも、彼女はこうした明らかに「ありえない」カードを、俺に譲渡してきたのだ。

 頭がおかしい、などと言われたとしても、仕方がないと言えなくはない。

 

「しかも目的が『娯楽』だと? 何だ、気狂いか。それとも、認めたくはないがラスボスか何かか? 邪魔になるなら散らして進むだけだが」

 

 随分と過激なことを言うものだ。とは言っても、それを否定する要素は俺には無い。もしも仮に深宮才華が俺の目の前に立ち塞がるのだとするなら、打ち倒す以外にあるまい。

 

 まして、相手は「深宮」だ。

 もしも俺の思うそれと彼女が同一のそれならば、俺は……何があろうとも、彼女を打ち倒さねばならない。

 何があっても。何が何でも。

 

 必要性について議論はしない。たとえその必要が無かろうとも、俺は彼女を打ち倒さなければならない。

 復讐や報復ではない。いや、それを言い訳にすることは許されない。俺は誰でもなく俺のために。ただ……欠片ほどに残された僅かな感情のために、俺は彼女を打倒するのだ。それが憎悪か憤怒かは分からない。ただ、その類のそれであることは容易に推察できる。かつて己が抱いたことのある……慣れ親しんだ、それであるからこそ。

 

「と、突然どうした、ナルセ……?」

「……いや」

 

 顔が強張ってしまっていたのか、怯えたような様子で、叶は軽く身をすくめた。軽く自分の顔に触れる。と、想定していた表情……恐ろしいまでの形相のそれとは明らかに違っていた。

 

 笑み。

 穏やかなそれとは言い難い。表情筋を十年近く使っていなかったためか、その表情は……笑いは、正常なそれとは言い難い。

 だが、俺はきっと笑っていた。

 何らかの感情のために、笑っていた。

 

「わ、笑うところがあったか……? というか笑っているのかそれは」

「……解らない、が……」

 

 そういう表情を作っていたことには、違いない。だが、何故俺は笑っていたのだろう。何の理由もないままに笑うなど、明らかに不自然だ。

 いや、理由はあるのだろう。それを自覚できていないだけで。自覚するに……何かが、足りないだけで。

 

「わけがわからん」

 

 呆れたように、叶は肩をすくめた。

 自分でもそう思う。

 

「懸念事項が増えたな、まったく……。とりあえずナルセ、分かっているとは思うが、エクシーズモンスターは使うんじゃないぞ。無論、状況にもよるが……普通の相手には使うな」

「諒解した」

 

 エクシーズモンスターというものは、この世界には存在しえないものなのだという。だとするなら、使用することは間違いなく危険だろう。世界そのものの根幹を揺るがしかねない。

 ただ、アカモートに対しては、恐らくその限りではないだろう。あちらに関しても、世界の枠の外にある力を用いるのだ。対抗するには、同じだけの力を用いるべきだとも感じる。

 

「……まあ、私も持っているのだが」

「ああいった、モンスターをか」

「うむ。こちらに来る前から持っていたものだ。問題があると思って今日まで使わなかったが……あのロボットへの対抗策としては必要だろう。必須ではないがな」

 

 事実として、俺はアカモートに一度勝利している。それも、エクシーズモンスターを使用せずにだ。無論、エクシーズモンスターを使うことになれば、戦略の幅が広がることに違いないだろうが……。

 

「とりあえず、ヴェルズ関連のカードを渡しておく。それから、ジェムナイト……スクラップにも有用だし、ランク4のカードもだな」

 

 と、数十枚はあろうかというカードの束が一度に渡される。

 ただ、唐突に過ぎる話だ。デッキを再考せねばならないし、仮にこれだけで作るにしてもカードがかなり不足している。

 

「……叶は?」

「もうある」

 

 手を振って俺の問いに答える叶。成程、この世界へ持ち込んだ以上は、既に自分が使うものを選定していてもおかしくはない。むしろそうしていて然るべきだろう。

 ……さて、そうなると、まずはエクシーズモンスターの特徴についても学ばなければなるまい。

 

「いくつか、質問するが」

「うむ。エクシーズモンスターだな?」

 

 首肯する。

 

「レベルの星の代わりにある黒い星。これは、何なんだ」

「それは……ランクと言う。基本的にそのランクと同じレベルを持つモンスター複数体を素材として、素材の上に重ねるようにして特殊召喚されるのがエクシーズモンスターだ。稀に例外もあるがな」

 

 例外……と言うと、スクラップの系列の、シンクロ素材への縛りのようなものだろうか。

 それとも、もっと別なものだろうか。いずれにしても問題らしい問題は見当たらないものだが。

 

「素材としたモンスターは、オーバーレイユニットと呼称する。基本、エクシーズモンスターはこれを消費することにより、効果を発揮することとなる。召喚は容易だし、効果にも回数制限はある関係上、おおよそのカードが強力な効果を持っているな。逆にステータスは控えめだ」

 

 渡されたカードのいくつかを見れば、叶の言う通りにその効果は強力……されど、能力値は控えめと言えるものが多いようにも思えた。

 これもバランス調整と言うべきだろうか。シンクロモンスターはチューナーを必要とする以上、能力も効果も割合強力だが、チューナーの能力値が低いことで調整しているとも言える。

 

「と、説明が終わったところでだ」

 

 ふと思い立ったように、叶は顔を上げて俺を見る。

 何か、俺に不足があっただろうか。常々、何かしらの不足があるものだが。

 

「シンクロ召喚の時の口上、あれは何だ? あんまりにもあんまりだぞ」

「……?」

「わけがわからないとでも言いたげな顔をするな、こら。あの無味乾燥で無機質で、元の世界で使っても何一つ問題ないような口上は何なんだ。いくらなんでも安易に過ぎるぞ」

 

 安易なのだろうか。そもそも、無用な言葉は必要ないだろうと思う。

 無意味に飾ることは好きではない。そもそも、結果を見ればまったく同じではないのだろうか。無味乾燥だと言うのならば、それは別に構わないと思うのだが……。

 だいいち、元の世界で使って問題が無いのならば、良いのではないのか。

 

「ええい、簡単に言えば、この世界で生きていくのに、周囲に溶け込めないということだ!」

「………………」

 

 大変だ。

 

 今までも、自分が少々無口であるという自覚はあったが……問題があるとは、あまり思わなかった。実際に、生活するのに問題は無い。仮に問題があるとするのなら、他者とのコミュニケーションだろうが……仕事に支障はないのだ。

 しかし、デュエルというのはこの世界において根幹をなす行為だ。

 それに関して、周囲から浮き上がってしまうことは避けたい。しかし、持って生まれた性格は変えられない。さて、そうなればどうしたものだろうか……。

 

「とりあえず、『これとこれを素材にしてシンクロ召喚』じゃあダメだ。基本は……とりあえず私のを例にするが」

 

 と、叶は己のデッキを提示して見せた。

 

「『レベル4、光属性の《ヴァイロン・テセラクト》に、レベル3、光属性の《ヴァイロン・ステラ》をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、《ヴァイロン・シグマ》!』……と、シンクロ召喚はこんなかたちだ」

「……なる、ほど」

 

 俺がこのような口上を言えるものだろうか。今まで、大声を出したようなことさえ、殆ど無いというのに。

 

「ちなみにエクシーズ召喚だが……『レベル4の《ヴァイロン・ハプト》と《ヴァイロン・スティグマ》をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築……エクシーズ召喚! 現れろ、《No.39 希望皇ホープ》!』という感じで」

「無理だ」

「無理か。いや、そんな簡単に諦めるな!?」

「……無理だ」

 

 恥は無いが、かと言ってこうも意味のないことをブツブツと呟くのは、あまりにも非合理的だ。

 俺にこうしたことができるものだろうか。いや、できるとは思えない。

 

「世界に馴染めないぞ」

「……仕方がない、か」

 

 そう言われてしまっては、最早どうしようもない。

 結局、実利があれば躊躇うこともないのだ。利が無ければ何一つとしてすべきことも無いのだが。

 

「そこで、この口上も同時に言うのだ! 私が考えたのだぞ、どうだ!?」

 

 と、俺に一枚の紙を手渡してくる叶。その眼も表情も、心なしか輝いて見える。

 手渡された紙には、幾枚ものシンクロモンスターやエクシーズモンスターの名称と、同時にその特殊召喚時に宣言するのであろう口上が、そこに記されていた。

 

「……………………」

「にゃん」

 

 無言でそれらを叶の学習机の中へと放り込んだ。

 いくらなんでも、ここまで来ると過剰だ。

 

「はぁ。しかし、こう……世界に普及していないものを使うのは、卑怯に思うのだが。ナルセ、お前はどう思う?」

「使えるものは使うべきだ」

「……お前はそういうやつだったな」

 

 再度、叶は呆れたように顔を歪めた。

 どうやら、理屈で考えるよりも重要なことがあるようだ。無論、世界の安定を考えるのならば、使わないという選択肢も重要であろうと感じているが。

 

「……普及していないのならば、普及させれば」

「そんな簡単に……む? いや、意外にいけるのか? 確か……ハーピィ、ヴァイロン、インヴェルズも、最終的にはエクシーズが出なければおかしいな。となれば、結局は『そこ』へ向かわざるを得ん……情報をリークすれば、最速で一年後、いや半年後には実用化も……」

 

 何やらブツブツと呟き始める叶。以前にもこういったことがあったように思うが、さて、彼女は気づいているのかどうか。

 

「ナルセ、エクシーズモンスター……ナンバーズ以外のだ。写真を撮ってくれ」

「どうするつもりだ」

「I2社……ああ、デュエルモンスターズの制作会社だ。そこへ……そうだな、無名のデザイナーを装って、エクシーズに関しての情報を持ち込む。仮に受け容れられずとも、そもそもが画期的な召喚方法だ。目を付ける人間はいくらでもいるだろう」

 

 例えば、と叶は説明を続ける。

 

「自分がデュエルモンスターズに革命を起こす、というような野望を抱く者。プライドも何も無くて、誰かのアイデアを……何と言ったか」

「……盗用してでも、利権を得る」

「そう、それだ。そうしてでも利益を得たい人間とか……最低でも、そういうのの目に止まればいいんだ。形を変えてでも、少なくともエクシーズモンスターはこの世界に生まれ出ることになる、と思う」

 

 確かに、その手法はある意味で有効かもしれない。

 この件の目的は、あくまでエクシーズモンスターの普及だ。最終的に普及さえすればいいのであり、そこに金銭的な問題が発生しようがしまいが構わない。

 

 人間の欲望は限りないと言う。元の世界でもこちらの世界でも同様だろう。金銭的なそれを一つの指標とするならば、あちらもこちらも、さほど価値観は変わりない。ならば、先に叶が挙げたような考えをし、行動する人間がいても、何らおかしいことは無いのだ。

 

 更にこの話において重要なのは、あくまで「無名」であることだ。

 有名な人間がその情報を持ち込んだのだとすれば、訴訟などの危険性があると見て、そうした人間が情報に寄りつく可能性が低くなる。

 しかしながら、無名のデザイナーがそれを持ち込んだのだとすれば、金銭目当てで、あるいは嫉妬心から、情報を盗み出して己の利益とする可能性も否定できない。

 無論、そのままこの案が通るならば、それに越したことも無いが。

 

 I2社とやらが、エクシーズモンスターのアイデアを弾けば破綻する話だが、そちらに関しては左程心配をする必要は無いだろうとも思われる。

 叶が元の世界から持ち込んだという以上、これは「遊戯王」のカードの一種であり、遊戯王の一作品を基としたのだと言うこの世界においては、恐らく今後現れるべきものだ。 進化を促す、とでも言うのだろうか。人為的にそれを行うことには不安要素もあるだろうが、「この世界」の方向が本来とは別の方へ向かうのも、また一つの可能性だとも感じる。

 

「……一人でここまで考えたのか」

 

 感心する、と素直に告げると、叶は表情をほころばせた。

 心なしか、頬に朱が差している。少なからず照れているのだろうか。

 

「ま、私の手にかかればこんなものだ。ただ――――」

 

 ペガサスがいないからな、と叶は注釈を入れた。

 

 誰だ、と問えば、デュエルモンスターズの創始者であるという答えが返ってきた。これほどまでに世界に浸透しているカードゲームなのだ。既に故人であっても不思議はないが……。

 

「……死んでいるのか」

「らしいな。決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)の映像は見ただろう?」

 

 既に伝説と目される男……武藤遊戯が公式にその戦績を認められた、最初の大会だったか。続いて、バトルシティにおける優勝を経て、公式戦においては負け知らず。

 生きた伝説として語られる彼の、現在の所在は定かではない。

 

「あの一件で、ペガサス・J・クロフォードは死亡している。理由は知らん。ただ……その一件で、絶大な才能が失われたことは、確かだろうな」

「才能、か」

 

 天才は短命であるという話がある。謀略か、あるいは病気か事故か。

 とにかく、彼らは奇妙なまでに寿命が短いのだ。その余りある才能と引き換えにしているかのように。

 生き急いでいると言えるのかもしれない。人の何倍も速く進むために、人の何倍も成長するが、一方で、人の何倍も速く死に近づく。

 

「……死か」

 

 死ねば終わりだ。何もかもが。だから、誰も彼も死にたくないと考える。

 

 生きた証を残す、という言葉もある。美術品。工芸品。あるいは遺伝子。言葉。形の有無は関係ない。そこに残して、人の記憶に残れば、死んだとは言わない……と、人は言う。

 されど、死ねば何もかも終わりなのだ。消えて、なくなる。肉体は焼かれて灰になる。思考は無に帰す。遺したものを見ることなどできない。 終わりだ。だから、俺は。

 

 俺は――――――。

 

「ナルセ?」

「……なんでもない」

 

 そういうことにしておこう。彼女に無用な心配をかけることは、望ましくない。

 叶には、前を向いていてもらわなければ。

 

「……スタジアムへ行かないか」

「は?」

 

 何で? と、意表を突かれたように、叶は頓狂な声を上げた。

 

「今日は、スタジアムが一般に開放されている、らしい。デュエルもできるとのことだ……気分転換に行ってみるのは、どうだ」

「ふむ……悪くないな。玉石混交だろうが、対戦相手には事欠かんだろうし……あの時の鬱憤も晴らせそうだ」

 

 ふふん、と、叶は得意げに鼻を鳴らした。

 

 どうやら、フォーチュンカップの際、一回戦で不動遊星と対戦することになり、更には敗北したことを、どうにも根に持ってしまっているらしい。

 

 行くぞ、と叶はロングコートを手に取った。

 

 傷だらけの暗い色のコート。その端々には、より暗い色の染みが見える。

 彼女の言動を鑑みれば……それには、何らかの歴史があるのだろうか。

「王」というものを目指すに足る、何かしらの、理由が。

 

 

 

 + + +

 

 

 

 休日のスタジアム。そこには、数多くの人が集まり、賑わっていた。

 

 中央ではデュエルが行われている。アマチュア同士の、路上で培われた豪快な対局だ。片方の男の場に召喚されているのは、《炎神機(フレイムギア)-紫龍》。もう一方の場には《機海竜プレシオン》が召喚されている。

 互いの主戦術は、装備カードなどの魔法による攻撃力上昇だ。少し横から突けば崩れそうなものだが、こうして真正面から戦う美学というものもあるのだろう。理解はしがたいが。

 

 また、周囲のサーキットでは、ライディング・デュエルが行われていた。

 彼らも同じくアマチュアの人間だろうか。場には《マインモール》や《異次元の一角戦士》。その相手の場には、『カラクリ』と呼ばれるカテゴリのモンスターが召喚されていた。

 

 奇怪な熱気が周囲に渦巻いている。恐らくは、周辺で行われているデュエルのせいだろう。

 やはりと言うべきか、叶の眼はいつもと比べても輝いていた。こうしてここに連れてきたのは間違ってなかったかもしれない。

 

「うむ、絶景かな!」

 

 観客席の最上段、スタジアムの全景を見渡せる位置に立って、叶はそんなことをのたまった。

 間の抜けた台詞だ。少なくとも、この場で言うには相応しいと思えない。

 

「おい、こっち見るな」

 

 恨めしげにこちらを見つめる叶を無視して、軽く周囲を見渡してみるも、幸か不幸か、知り合いはいない。元々知り合いの数自体が少ないものだが、その点に関しての議論は必要ないだろう。

 と、そんな折に、携帯電話に着信があることに気が付いた。登録に無い番号だ。元より叶と店長の番号しか登録していないが。

 

「はい」

『もしもーし、ボクふかみー』

 

 即座に電話を切って電源を落とす。幻覚か幻想だ。何らかの間の抜けた誇大妄想だ。俺は奴に電話番号を教えた覚えは無いし、番号を見られた覚えも無い。と言うよりもなぜ知っている。

 故に、俺はこうする以外に選択肢は無いのだ。まかり間違っても、会話を為そうとしてはならない。深宮は危険だ。俺の知りうる人間であろうとなかろうと。

 

「ちょっと、酷いじゃないか!? 何だって電源まで切るのさ!」

 

 背後の扉を押し開き、重いなどとボヤきながら深宮が姿を現した。

 近くにいるのにわざわざ電話をかけてきたということか。そうする意味がどこにあるのか。

 

「……会話の必要性を、感じなかった」

「ほわぁ!?」

 

 そこまで驚くことがあるだろうか。俺は至極当然の事実を述べただけなのだが。

 隣を見れば、俺の言動に対してだろうか、叶は苦々しい笑いを浮かべていた。どうしてだろうか。

 

「……えぇっと……ナルセ、この女がこの前のそれか?」

 

 恐らくは「それ」とは「平行世界について説明を行った人間」という意味合いだろう。首肯してその問いに返すと、叶は更に苦々しげな表情をしてみせた。

 

「や、やぁ。きみとは初めましてだね」

「は? う、うむ。はじめましてだ」

 

 当惑のためか、叶の方へと向き直り、初対面故の挨拶を始める深宮。対し、これに対しての困惑か、あるいは警戒のためか、叶はしどろもどろになりながらも応対する。

 

「今日は……うん、ちょっとした案内をしようと思って来たんだ。別に何かしようとか思ってないよ。だからそう冷たい視線を送るのはやめてくれないかな。ボク居心地悪くて死んじゃう」

「そうか」

「いや『そうか』じゃなくて」

「諦めろ。ナルセは大抵こんな眼だ」

「あぁー……」

 

 何か問題でもあるのだろうか。眼は口ほどにものを言うとも言うが、それを察することができるのは、おおよその場合で人生経験豊富な者であろう。多少覇気が無いにしても、それが問題になるとは思えない。

 

「それで、案内、とは」

「ああ、うん。ボクらの『同類』――――見つけたからね。報告と、経過観察のお誘いだよ」

 

 同類……とは、異世界人ということか。

 

 わざわざこの場にそれを告げに来るということは、恐らくはその人物はこの場にいるのだろうと察せられる。周囲を見ても、特段に浮き上がったような人間は見られない。となると、この世界に完全に馴染んでいるか、あるいは現在デュエルをしているか、と言ったところか。

 

 スタジアムの場を観察する。先ほどのライディングデュエルを行っていた二人組は既に引き払い、別の二人組が対戦を行っている。フィールドに関しては、既に別の人間に移り変わったようだ。

 それぞれの場に召喚されているモンスターのデータを、デュエルディスクを通じて呼び出してみる。一つは《闇魔界の戦士長 ダークソード》。もう一つは、《レスキューラビット》だ。

 レスキューラビットは即座に効果を発動。デッキから通常モンスター……2体の《E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ》が飛び出した。

 即座に発動される魔法カード。あれは《融合》か。二体のバーストレディが溶け合い、その肉体を別な存在へと昇華させていく。

 確認……《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ノヴァマスター》。E・HEROと炎属性モンスターを素材とするカードだ。効果は、相手モンスターを戦闘で破壊したときにカードを1枚ドローすること。

 融合を主体とするデッキは、手札を多く使うという関係上、その効果は有用なものだろう。素材の指定が緩いことも魅力だ。それ以外の効果が無いということは、少々不安に思うものだが。

 

「アレか?」

 

 叶が、現在E・HEROを使用している少年の方を指差す。その表情は、疑問というよりかは確信に満ちており、その問いが根拠あってのものと推察できる。

 

「ご明察」

 

 深宮は、その顔に笑みをたたえたままに、叶の問いに答えてみせた。

 

「なぜ、彼だと」

「仮にこの世界の住人だとすれば、世界チャンピオンと同じカードを使うことに躊躇いを持つはずだろう。異世界人だとして、原作を知らなければE・HEROは安定性を欠くとして使うことも無い」

「その上、独自要素を加えるなんて、そうそうやらないでしょ。大抵の人間がコピー使ってるのにね。E・HEROが好きで使ってるってこともあるかもしれないよ?」

「何でも使うという、可能性は」

「「お前(君)以外ない」」

 

 成程、俺は更に狂っているということか。理解した。納得しているとは言い難いが。

 

「ともかく、戦術面以外の点で一番分かりやすいものだと、彼の下にあのロボットが来て、ナンバーズを受け渡した……って部分かな?」

「なるほど」

 

 先にそちらを説明すれば分かりやすいものだが、忘れていたのだろうか。それとも、あえて最初に話さなかったのだろうか。いずれにしても、これでほぼ間違いなく証明されたことになる。

 ロボット……アカモートは、明らかに俺たちを認識し、その上でデュエルを挑み、ナンバーズを受領した。それは、その「上」にいるのであろう存在が、俺たち異世界人のことを認識している理由になるとも思える。確かなことは言えないまでも、他の場所でエクシーズモンスターが使われたというような形跡が無い以上、その考えは間違っていないのではなかろうか。

 さて、これからどうするのか。そうした意思を込めて、叶へ視線を送る。多少の思考時間を挟み、彼女は前に向かって歩き出した。

 

「――――うむ。とりあえずは、奴に勝負を挑んでみよう」

「へぇ」

 

 と、叶の発言を、興味深そうに傾聴する深宮。

 

 俺はデュエルについて拘りは無い。手段と言うならどのような手段でも用いるが、叶についてはまた別だ。この世界には早くも馴染んでいるし、ルールについても詳細に理解している。

 しかし、デュエルをするかどうかと言えば、彼女はあまりしない方だ。練習や試行という意味では何度も行っているが、本気で、という意味での叶はあまり見たことが無い。

 かと言って、それは自分に相対できる者がいないだとかの理由ではない。実際に、本気で対戦したはずの不動遊星からは黒星を付けられているし、普段でも運次第で俺に敗北することもある。平均的に見れば、俺に対する叶の勝率は八割半ばをキープしているが。

 加えて、叶の性格は好戦的なものとは言いづらい。尊大な口調や態度から勘違いする者もいないではないが、彼女はどちらかと言えば、デュエルやそれに付随する事柄については、何らかの意味を見出さなければ積極的には動かないタイプだ。

 

 俺以外の者との対戦となると、やはりそれは興味深いものだ。

 と、考えている俺とは、また別の考えを、深宮は抱いているのだろうが。

 

「しかし、なぜデュエルを」

「プレイングも含めて全体像を見て判断するってことでしょ。この世界風に言えば、『デュエルをすればお互いのことが分かる』、かな?」

 

 確かにそれも一つの判断材料か。例えば、俺と叶のデュエルの際のプレイングは、多少似通った部分がある。それは、そもそも彼女が元の世界で培ったプレイングを俺に教えているから、ということがあるが、「元の世界で培った」という共通項があるなら、今、デュエル場にいる少年にも、そういう点が見えておかしくはない。

 

 塀を乗り越え、叶は颯爽と――――飛び降りるようなことはせず、安全を第一に、フィールドへと降り立った。

 

「お……挑戦者か?」

 

 それを見て、にかっ、と犬歯をむき出しにして笑う少年。

 身長は170センチ前後。髪は染めているのか、明るい茶色で、襟足にかからない程度の短髪。全体的に明朗な雰囲気が滲み出ており、少年特有の青臭さを感じる。

 少年の問いに対し、叶は肯定の言葉を告げた。

 

「そうだ。前の大会では散々なものだったのでな、少し憂さ晴らしとさせてもらうぞ」

 

 と、必要も無いのに、わざわざ挑発的な言葉を投げかける叶。

 ああいったことをするような子ではないはずなのだが……。

 

「なるほどなー。そうやって判断するんだ」

「……どういうことだ」

 

 一人、訳知り顔でうんうんと頷く深宮へ、疑問を投げかける。

 

「ほらさ、一番直近であった大会って言えば、フォーチュンカップでしょ。原作的に言えば、本来そこには炎城ムクロが登場してるはず。『真岡叶が大会で不動遊星と戦った』なんてことは、この世界の人間にとっては当然の事柄なんだよ。そこに違和感を覚えたのなら……」

「……彼も、異世界人だということか」

「Exactly」

 

 妙に流暢な発音だ。だから何だという程度の話ではあるが。

 見れば、確かに少年は表情に疑問の色を浮かべていた。なぜこの少女が? と。

 

「大会……フォーチュンカップか?」

「そうだぞ。ま、優勝者……不動遊星に敗退したのだと思えば、まだいいかもしれんがな……」

 

 信じられないものを見るかのように、少年が絶句して見せる。

 なるほど、分かりやすい。

 

「――――へへ、そりゃ面白ぇ」

 

 しかし、次の瞬間には、少年は口元に笑みを浮かべ、獰猛な眼差しを覗かせた。

 

「なら、面白ついでに勝負してもらおうか。言っておくが、私はそれなりに強いぞ」

 

 それを受け流すように、挑発的な言葉を投げかけ、デュエルディスクにデッキを差し込む叶。久しぶりに普通のデュエルができることもあってか、その眼は、いつになく闘志に燃えているようにも思えた。

 

「お生憎様。俺もそれなりには強いぜ」

 

 少年も同様、デッキをデュエルディスクにセットした。

 互いのディスクの基部から虹色の光が吐き出され、中空に操作窓(ホロ・ウィンドウ)が表示される。僅かばかりの操作を行った後に、一言。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 叫びと共に、デュエルが始まった。互いのデュエルの動向を見守るべく、携帯端末へデータを受信する。どうやら、先攻はあの……表示されている名前をそのまま受け止めるならば、有我英人(ありがひでと)という少年のようだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 勢いよく引き抜かれたカードを確認し、少年は笑みを浮かべる。流石に、このような早期に勝利を確信するようなことは無かろう。となれば、何か良いカードを引いたか。

 

「まずは小手調べだ。《増援》を発動! デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。エアーマンを手札に加え……そのまま召喚だ!」

 

【 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアーマン》 攻 1800 / 守 300 】

 

 暴風を引き連れ現れる、一対のタービンを背に装着した戦士。空気(エアー)の名が示すのは、あのタービンによって風を巻き起こすという能力であろうか。

 エアーマンの巻き起こす風が、一枚のカードを少年へもたらす。

 

「出たよ、HEROの切り込み隊長」

「……知っているのか」

 

 尋ねると、深宮はうんざりしたような様子で頷いた。

 

「元の世界の遊戯王の界隈なら有名だよ。一枚あるだけでアドバンテージが稼げる。ついでに、仲間がいればバックも割れる。空気読めてねえのに空気男(エアーマン)……なーんてね」

 

 苦笑する深宮の言葉に呼応するように、少年が効果を告げる。

 

「エアーマンの効果で、デッキから『HERO』を手札に加える。俺が手札に加えるのは、《E・HERO(エレメンタルヒーロー) アイスエッジ》!」

 

 示されたカードは、全身を氷によって覆われた……あるいは、全身を氷で構成したかのような、割合小さな見た目の戦士だ。効果は、手札1枚をコストとした直接攻撃と、直接攻撃でダメージを与えた場合に、セットされた魔法(マジック)(トラップ)を破壊すること。

 攻撃反応系の罠の存在を考えると、この効果を通すことは難しいとも思えるが……恐らく、少年にとって重要なのはその点ではない。

 

「《融合》を発動! 『HERO』のエアーマンと、手札の『水属性』、アイスエッジを融合し……現れろ、絶対零度のHERO! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) アブソルートZero》!」

 

【 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) アブソルートZero》 攻 2500 / 守 2000 】

 

 瞬間、フィールドの中央に、巨大な氷柱が突如として出現する。

 それを割り開き、内より現れるのは、アイスエッジを成長させたかのような外見を持った、氷の戦士。たなびく外套を腕で払い、アブソルートZeroは叶の方に向き直った。

 

「……早くもZeroか」

 

 この光景を見て、叶が軽く歯噛みする。その特性上、早期に手札が無くなりやすいという弊害があるものの、融合を主体とするデッキは爆発力に優れていると言う。

 ここから更に墓地のモンスターを利用して更なる融合召喚……という芸当も可能だと言う。あのレベルのモンスターが何体も並ぶという光景は、できることなら想像したくないものだ。

 

 と、そんなことを考えていた俺の肩を、深宮が叩く。

 

「解説要るかい、おにーちゃん☆」

「怖気が走る」

「え、ひどくない……?」

 

 言葉を投げかけると、深宮は顔を引き攣らせた。

 

「兄などと呼ばれる筋合いは無い」

「一応親戚でしょ、ボクたちさぁ。それとも、五年前までのこと、忘れたかな?」

 

 忘れてなどいない。そして――――図らずとも、これで彼女が俺の知る「深宮」であったということが証明されたということにもなる。俺が深宮の家にいたのは、五年前。中学を卒業するまでそのことを知っているのは、俺と、深宮の家の当事者だけだ。

 ……ただ、確かに遠縁の親戚ではあるが、四親等以上も離れているのだ。彼女とはほぼ他人と言っても差し支えない。

 

「……解説は、貰う」

「うん、まあそりゃ……しろと言われればするけどさ。ボクそんな嫌われるようなことしたっけ」

「………………」

 

 確かに、彼女自身は何もしてはいない。その凄まじいまでの胡散臭さと、俺にとっては忌避感を抱かざるを得ない「深宮」という姓のおかげで、俺が一方的に彼女と関わり合いになることを避けているだけだ。

 だが、警戒を抱くに値する相手ではある。

 彼女の知る情報は、この世界のことをよく知る叶と比べても、明らかに過多だ。普通の人間の知りうるはずの無い部分まで知っている。そこには推察がいくらか混じっているとはいえ……平行世界の事柄など、既知の情報である人間がどれだけいるものか。

 

「どっちかってーと、ボクとしては仲良くしたいんだけどなー」

「不可能だな」

「断言しやがったよこの男!?」

 

 思い出す。己の過去。深宮の家で起きた出来事。諸々の事情を鑑みると、割り切れないものが多すぎる。

 

「……ま、仕方ないかなー。ともかく、先行ターン目としちゃあれでいいんじゃないかな。エアーマンだけ置いて、カードをセット、ターンエンド……ってのも考えられるけど、Zeroは相手のモンスター全破壊の効果があるからね」

「通常魔法による単体除去を考慮は」

「1ターン目からあるとは限らないし、あってもまだ1ターン目。いくらでも挽回はきく」

 

 多分。と、言葉の最後に不安な一言が付与された。

 例えば、伏せカードも無しに、次のターンで《地砕き》などの単体除去を受けたとする。その後、連続シンクロ召喚や単体強化、全体強化などで4000以上の合計攻撃力を得た場合、挽回どころか後攻ワンターンキル……と言うのだったか、そのような状況に陥ってしまう。

 これまでの叶との練習で、幾度となく遭遇してきた状況だ。もっとも、今そうなるかという点については、未だ想定ができないのだが。

 少年がカードを1枚セットし、ターンを終了する。続いて、叶のターンだ。

 

「私のターン。《トライデント・ウォリアー》を召喚!」

 

【 《トライデント・ウォリアー》 攻 1800 / 守 1200 】

 

 叶の場に姿を表すのは、三又の槍を手にした屈強な戦士。体の各所を守る奇怪な形状の鎧と、その間から覗く髭面がよく目立つ。

 

「そしてトライデント・ウォリアーの効果。召喚成功時にレベル3モンスターを手札から特殊召喚できる。――――《ヴァイロン・キューブ》を特殊召喚!」

 

【 《ヴァイロン・キューブ》 攻 800 / 守 800 】

 

 直後、トライデント・ウォリアーの持つ三又の槍が輝きを発した。三つの光が示すように現れる、レベル3のモンスター……ヴァイロン・キューブ。叶のデッキにおいては中核をなす存在と言える。

 

「――――ヴァイロンか!?」

 

 少年は、驚きをもってこれを迎えた。叶曰く、「ヴァイロンを含め、装備魔法はディスアドバンテージの塊」であると言う。モンスターを除去されれば同時にそれに装備されていたカードも破壊され、全てが無に帰すためであると言う。

 だが、それ故に意表を突くには良い、とも語っていた。少年の反応を見る限り、これがそういうことなのだろう。

 

「その通り! レベル4、光属性のトライデント・ウォリアーに、レベル3、光属性のヴァイロン・キューブをチューニング! 星の観測者(スターゲイザー)が序列18、機械仕掛けの天使よ、ここに降り立て!」

 

 叶の言葉に応じるように、ヴァイロン・キューブが導くようにして天空より光が降り注ぐ。それは瞬時に光の柱とも呼ぶべき密度へと転じていき、トライデント・ウォリアーへと降り注いだ。

 

「――――シンクロ召喚! 現れよ、《ヴァイロン・シグマ》!」

 

【 《ヴァイロン・シグマ》 攻 1800 / 守 1000 】

 

 場に出現するのは、Σの形状を持つ機械天使。脚部は存在せず、全身は宙に浮いており、胴体にはXVIII(18)と数字が刻まれている。また、腕や背部には、αの形状を模したリングが全身に装着されていた。

 

「更にヴァイロン・キューブの効果! 光属性モンスターのシンクロ素材となったとき、デッキから装備魔法1枚を手札に加えられる。私が手札に加えるのは、《ヴァイロン・マテリアル》。これをシグマへ装備する」

「くっそ、タイミング逃さない効果なんだよなそれ……いや、特定条件下の効果だから当然だけどよ」

 

 ヴァイロン・シグマの巨大な腕部、そこに装着されたリングの一つから、円錐状の突撃槍にも似た、純白の「物質」が伸びてゆく。

 同時、金色のリングが、ギリシア文字のZ(ゼータ)にも似た形状へと変化した。

 これにより、ヴァイロン・シグマの攻撃力は600ポイント上昇し、2400となる。

 しかし、引っかかる部分がある。

 

「タイミングを……逃す……?」

 

 一般的な用語ではあるが、少なくともデュエルをしているうちでは聞いたことのない言葉だ。軽く深宮の方に視線を向けると、彼女はいつになく苦々しい雰囲気の笑みを浮かべていた。

 何か追及されると困ることでもあるのだろうか。

 

「どういうことだろうか」

「ホラ来たよ……やだよボク、コンマイ語の解説とかすんの……初歩中の初歩だけどさぁ……」

 

 今にも泣きだしそうになってしまった。彼女に一体何があったのか。

 

「……えーと。例えば……チェーン分かるよね」

「効果発動に対して効果を発動すること。スペルスピードの早いものに対してはそれ以上の速度の効果でなければ対応できない。カウンターに対してはカウンターのみ有効……だったか」

「まぁ、そんな感じ。例えば、《砂塵の大竜巻》とかで伏せカードが破壊されるとするでしょ。で、その破壊されるはずだった……例えば、《リビングデッドの呼び声》なんかの永続罠の蘇生カードをチェーン発動するとする。この時、墓地に存在する《ヒーロー・キッズ》を特殊召喚して……でも、この時ヒーロー・キッズの効果は発動しないんだ」

 

 ヒーロー・キッズの効果は、このカードの特殊召喚に成功したとき、デッキから任意の数の《ヒーロー・キッズ》を特殊召喚できること。

 テキストだけを見れば効果発動できるのではなかろうか。

 

「チェーンの間に挟まってるから、『タイミングを逃し』たらしいね。もしこれがヒーロー・キッズじゃなくて《聖鳥クレイン》だったら、効果は発動する」

「……………………」

 

 聖鳥クレインの効果は、特殊召喚に成功したときに、その時のコントローラーがカードを1枚ドローすること。この効果はいかなる場合でも強制的に処理される……。

 

「強制効果と、任意効果の違いか」

「ま、そういうこと。この場合、任意効果はタイミングを逃すと大雑把に覚えておけばいいよ。で、他の場合だけど……例えば《ボタニティ・ガール》をリリースしてアドバンス召喚したりしたとき、ボタニティ・ガールの効果は発動しないんだ。でも、彼女の使う……《ヴァイロン・プリズム》は、タイミングを逃さず発動できる」

 

 両者のカードテキストにはあまり違いはない。しいて言うなら、ヴァイロン・プリズムに記されているそれは「場合」であり、ボタニティ・ガールは「時」であるということか。

 

「これを『時』と『場合』の任意効果とも言うけど……とりあえずはそこだけ覚えてればいいよ。詳しくは帰宅して調べてほしいな」

 

 ボクの頭が痛くなる、と、深宮は愚痴を垂れた。

 気持ちは分からなくもない。膨大なカードプールがある中で、ここまで複雑な効果を記憶するのは苦行にも等しい行為だ。ただ、それを記憶していなければならないというのも確か。それがルールである以上は仕方がない。

 と、そんなことを議論している間にも、デュエルは進んでいく。

 

「さあ、バトルだ! ヴァイロン・シグマで、アブソルートZeroを攻撃!」

 

 何も知らない者が見れば、無謀な特攻のようにも見えただろう。装備魔法の上昇値を間違えた、と解釈する者もいるかもしれない。しかし、恐らく、彼女は全て理解した上で攻撃を行っている。

 

「この攻撃宣言時、ヴァイロン・シグマの効果が発動。私の場に他のモンスターがいないとき、デッキから装備魔法1枚をこのカードに装備できる。《破邪の大剣-バオウ》を装備!」

「んな……バオウだと!?」

 

 先に《ヴァイロン・マテリアル》の発現した箇所とは別なリングが急速に回転し、新たな武器が顕現する。窪みにはめ込まれるようにして「装備」されたその巨大な剣は、先に装備されたものと比べ、異彩を放っていた。

 

「……コストは、どうしたんだ」

 

 記憶が正しいなら、あのカードの発動に際しては手札のカード1枚を捨てる必要があるはず。

 

「デッキから直接『装備』だかんね。『発動』じゃあない。コストは必要無いんだよ」

 

 ――――と、ふと発せられた疑問に対し、深宮が回答した。

 「発動」という過程が無くなったことで、その際にかかるコストが必要無いということか。だが、デッキから直接装備するという理屈がいまいち理解できない。以前、叶が「コストと効果は別物だ」と言っていたことがあるが、それはこういうことなのだろうか。

 これは他の場合にも転用できるかもしれない。確か、《闇よりの罠》は、効果のみを発動するカードだったはず。そうなると、発動コストは《闇よりの罠》だけのコストで賄え、通常(トラップ)の効果のみを抽出する、という使い方もできるということか。

 発動条件に関しては調べてみなければ分からないが、覚えておいて損は無さそうだ。

 

「攻撃続行……行け、ヴァイロン・シグマ!」

 

 叶の指示に従うようにして、ヴァイロン・シグマがその腕をアブソルートZeroへ向ける。

 次の瞬間、射出されたリングが高速で回転を始め、アブソルートZeroを切り裂き……あるいは突き刺し、その肉体を破壊せしめた。

 少年に400のダメージが与えられる。

 

「くっ……Zeroの効果……は、発動、できなかったな」

「くははっ……そうだ。バオウを装備したモンスターが、戦闘で相手モンスターを破壊した場合、そのモンスターの効果は無効となる」

 

 歯噛みして悔しがる少年に対し、叶は得意げに効果の説明を行う。

 確か、あのカードは以前、「リクルーターが鬱陶しいから」と言って投入していたカードのはずだ。《異次元の女戦士》《クリッター》などのカードへの対策にもなると言っていたが、つまりそれはこの状況のことを言うのだろうか。

 ただ、それにしては彼女の額に汗が浮き出ているのが気にかかる。もしかすると、これは想定外の出来事だったのだろうか。

 例えば、破邪の大剣-バオウがデッキに存在していたことを忘れていた、だとか。自爆前提で特攻したはずが、偶然デッキに眠っていたから、したり顔をして誤魔化しているとか。

 

「……ふはははっ!」

 

 どうやらその通りであるらしい。

 

「か、カードをセットし、ターンエンドだ!」

「子供だと思ってたけど……中々やるな! ドロー!」

 

 子供という単語に反応したのか、叶の頬が引き攣ったように軽く動いた。

 

「来たぜ……まずは手札の《沼地の魔神王》の効果を発動。こいつを墓地へ送り、デッキから《融合》を1枚、手札に加える」

 

 少年の眼前に、暗緑色に濁った水が湧き出す。その内よりカードが飛び出し、少年の手に渡った。

 

「更に《レスキューラビット》を召喚!」

 

【 《レスキューラビット》 攻 300 / 守 100 】

 

 ちょこちょこと、早足で急ぐようにして場に歩き出る、一匹の兎。その頭部には、ゴーグルとヘルメットが装着されており、また、首にはトランシーバーがぶら下がっている。その名前が示す「救助員(レスキュー)」を体現しているということか。

 

「レスキューラビットの効果発動。こいつを除外することで、デッキからレベル4以下の同名通常モンスターを2体、特殊召喚できる! 来い、バーストレディ!」

 

【 《E・HERO バーストレディ》 攻 1200 / 守 800 】

 

 兎がトランシーバーへと鳴き声を発すると同時、デッキから2体のモンスターが飛び出す。

 火炎の意匠を凝らした全身タイツ……と思しき姿の、E・HERO。己の属性を示しているのだろうが、その姿はいささか刺激的でもある。

 気付けば兎はフィールドからその姿を消していた。役目が終わったということだろうか。

 

「そして、『E・HERO』『炎属性』である、二体のバーストレディを《融合》! 現れろ、核熱を抱きし超新星! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ノヴァマスター》!」

 

【 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ノヴァマスター》 攻 2600 / 守 2100 】

 

 先程の光景の焼き直し――――とも言うべきか。2体のバーストレディが、融合を行う。

 己の体を火炎と変え、相互にその勢いを高め合うことにより、空まで届くかのような火柱が立ち昇る。その内より歩き出てくるのは、全身に火炎を纏ったE・HERO。先のデュエルで彼が使用していたモンスターだ。

 

「ただし、攻撃力は届かない」

 

 それを茶化すように、深宮が呟いた。

 しかし、あの少年とて、その程度のことは理解しているだろう。でなければ、この局面で攻撃力の劣るモンスターを召喚しはすまい。

 

「まだまだ終わらねえ! 《ミラクル・フュージョン》を発動! 墓地の『E・HERO』、Zeroと、『風属性』、エアーマンを除外して融合! 現れろ、竜巻のHERO! 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) Great(グレイト) TORNADO(トルネード)》!」

 

【 《E・HERO(エレメンタルヒーロー) Great(グレイト) TORNADO(トルネード)》 攻 2800 / 守 2200 】

 

 突如、フィールドに吹き荒れる暴風が、土煙を上げて周囲の人間の視界を奪う。

 ソリッドビジョンでなければ、人間が何人か吹き飛ばされているほどの竜巻。次第にその勢いは弱まってゆき、砂埃も治まっていく。

 風の中から姿を現したのは、黒いマントを風に揺らす、一人の戦士だ。

 

「TORNADOの効果発動! コイツの融合召喚に成功したとき、相手の場の表側表示モンスター全てのステータスを半減させる!」

 

 上空より、叩き落とされるようにして降り注ぐ下降気流が、ヴァイロン・シグマの装備をはぎ取っていく。同時、装着したリングのいくつかも、風にさらわれ消えていった。

 これにより、能力のいくつかを減失したということか。攻撃力は、上昇後の数値から1450へ。守備力は元より上昇していなかったため、500へと減じた。

 もっとも、装備魔法のカードは、未だ叶の場の魔法・罠ゾーンに残っているのだが。

 

「さぁて、バトルに入るぜ! ノヴァマスターで、ヴァイロン・シグマを攻撃!」

「させん! 伏せ(リバース)カード、《光子化(フォトナイズ)》、発動! この攻撃を無効にし……」

「ところがどっこい! 永続(トラップ)《王宮のお触れ》を発動! 場の全ての罠カードの効果を無効にする!」

「――――チィ!!」

 

 少年の背後に現れる、砦のような建造物。

 ヴァイロン・シグマの全身から光が発せられはするが、即座にそれも押し留められた。あの砦が発する威圧感によるものだろうか。

 

「さあ、これで攻撃は通るぜ。ノヴァマスターで攻撃を続行!」

 

 ノヴァマスターがその身に宿す火炎が、右腕に集中していく。

 最大限にまで力を溜め込んだその瞬間、弾かれるようにして飛び出したノヴァマスターは、ヴァイロン・シグマの胴体へとその右腕を突き立てた。

 熱によって装甲表面が泡立ち――――直後、大爆発を起こす。

 その最中にあってなお、ノヴァマスターは無傷で立っていた。燃え盛る右手には、カードが1枚握られている。そうすることが当然であるかのように、ノヴァマスターはそれを少年へ投げてよこした。

 

「ノヴァマスターがモンスターを戦闘破壊した場合、カードを1枚ドローできる」

「……ヴァイロン・マテリアルの効果を発動。《ヴァイロン・コンポーネント》を手札に加えさせてもらうぞ」

 

 どうやら、ヴァイロン・マテリアルはあの状況下でも発動できるカードらしい。なんらかの効果を挟んだ場合、こうした効果は発動できなかったのではなかったのだろうか? この点も、帰宅したら調べてみる必要がありそうだ。

 カードを手札へ加える叶。ライフポイントは1150減失し、残りは2850となる。

 

「これで遮るものは何も無い……! TORNADOで直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 叩きつけられるようにして、横殴りの暴風が叶を襲った。

 Great TORNADOの攻撃力は2800。叶のライフポイントは2850。残るライフポイントは――――たったの50。

 確か、ライフポイントへ直接ダメージを与える類のカードの内、最もダメージの低いもので、《火の粉》の200だったか。以前の俺も同じような状況にあったとはいえ、その程度のダメージですら容易にとどめを刺されてしまうほどだ。

 加えて、少年には2枚の手札が残されている。次のターンまでに倒されてしまう可能性は高い。

 

「……くははははは!」

 

 だが、その最中にあってなお、叶は笑う。

 この状況をも楽しむかのように。

 

「お、おい、残りライフ50なのに、笑ってていいのかよ……」

「逆に考えれば良いのだ。まだ50ある――――とな。それに、そう簡単に削られないのが世の常よ」

「それもそうだな。俺はこれでターンエンドだ!」

 

 ともあれ、これで本当に少年のターンは終了した。

 ちらと見えたところ、少年の持つカードは緑色と、くすんだ橙色……魔法カード、及び効果モンスターのようだ。その内容まではよく分からないが、現状、彼の場に何も無いというのは喜ばしいことだろうか。

 

「……私のターン」

 

 叶が、軽く息をついた。

 いつになく緊張した表情を見せる。この引きによっては、勝敗が決してしまうことを理解しているからだろう。

 そして――――思い切り、カードを引き抜いた。

 

「――――私の墓地の『光属性』、トライデント・ウォリアーを除外することで、《霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)》を特殊召喚する!」

 

【 《霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)》 攻 1900 / 守 1000 】

 

 次の瞬間、叶の場に巨大な船が姿を現す。

 周囲に無数の霊魂を侍らせた幽霊船。ボロボロの帆や船底の木材が、その恐ろしさを助長する。

 真に驚くべきは、それが「モンスター」であり、「光属性」であり、「悪魔族」であるという点だろうか。光属性であり悪魔族というモンスターは少なくないものの、この外見でそう言い張るにはいささか無理がある。

 

「更に《ヴァイロン・プリズム》を通常召喚!」

 

【 《ヴァイロン・プリズム》 攻 1500 / 守 1500 】

 

 続いて姿を現したのは、巨大な結晶体を、強固な鎧で覆ったかのような外見をしたモンスター。腕がある。胴と思しき部分がある。頭部を模したのであろう部分がある。しかして、それ以外の一切を排した、人になり切れていない人型。見ようによっては不気味に思えなくもない。

 しかし、重要なのはその点ではない。そのモンスターが、チューナーであるという一点だ。

 

「レベル5、霊魂の護送船に、レベル4、『ヴァイロン』・プリズム」をチューニング! 現れよ、神の機械! 星の観測者(スターゲイザー)が序列1! 《ヴァイロン・アルファ》!」

 

【 《ヴァイロン・アルファ》 攻 2200 / 守 1100 】

 

 突如、地面に幾多の円が描かれていく。

 円。それらの内側には、例外なく複雑な幾何学模様と謎の言語による文字が刻まれている。

 魔法陣、とでも言うのだろうか。眩く輝くそれらの上空より、「何か」が降り立つ。

 鋼の翼と、全身を覆う鎧。背面の巨大な装飾。胴体から突き出した、細い両腕の手首部分には、拘束具のように魔法陣が展開している。

 

「ヴァイロン・アルファの効果発動。このモンスターのシンクロ召喚成功時、私の墓地の装備魔法1枚を選択し、このカードに装備できる。ヴァイロン・マテリアルを装備!」

 

 ノヴァマスターに破壊されたはずのヴァイロン・シグマ。本来、その腕に装着されていたはずのリングの一つが、粒子へと還元されてヴァイロン・アルファの下へ集う。

 この効果により、攻撃力は2800に上昇した。

 

「そして手札から、ヴァイロン・コンポーネントを装備する」

 

 次いで、ヴァイロン・アルファの背部ユニットへ、円形の装具が現れる。

 しかし、あのカードの効果は、貫通効果を与えるというだけのもの。攻撃力が上昇するわけではないというのに、何故叶はあのカードを装備させたのだろうか。

 

「そして最後に《魔導師の力》だ! これにより、ヴァイロン・アルファの攻撃力は、私の場の魔法・罠カードの数×500……1500ポイントアップする!」

 

 ヴァイロン・アルファの背後に突如として出現した魔法陣……そこからあふれ出す、何らかの力が、ヴァイロン・アルファへと作用していく。

 これにより、攻撃力は4300へと上昇した。なるほど、先にヴァイロン・コンポーネントを発動させたのは、そういった理屈か。

 

「――――バトル! ヴァイロン・アルファで、ノヴァマスターを攻撃!」

「へっ……来るか! だが、このターンだけなら……」

 

 このターンを凌げば、少年へ勝機が訪れる。少なくとも、手札を殆ど使い果たした叶にとって、次の少年のターンへ回すことが危険であると理解したが故の発言。

 しかし――――叶は、それを一笑に付す。

 

「いや、終わりだ(・・・・)。手札から速攻魔法発動――――《リミッター解除》! 私の場の機械族モンスター全ての攻撃力を2倍にする!」

「なんっ……!?」

 

 叶がカードを提示すると同時、ヴァイロン・アルファの両腕の魔法陣――――拘束具にも似たそれが、音を立てて割れ、弾け飛んだ。

 同時に、その攻撃力が増大していく。4300から、8600へ。ノヴァマスターの攻撃力を大きく上回り、少年のライフポイントの全てを、削り取れるほどの数値に。

 

 ああ、と納得したような顔で、隣にいる深宮が手を叩いた。

 他の「ヴァイロン」と名のついたシンクロモンスターのせいで勘違いされがちではあるが、ヴァイロン・アルファは紛れも無く「機械族」である。よって、リミッター解除の効果は、滞りなく適用される。

 

 極太の閃光が、モンスター諸共少年を包み込んでいく。

 残る3600のライフポイント、その全てを奪い去り、叶の勝利を告げるけたたましい音声が発せられた。

 

 

 

 + + +

 

 

 

「あ――――――!! くっそ、負けたァ!!」

 

 デュエルの終わりを見届け、フィールドの方へ降り立つと、少年が天を仰いでそんなことを叫んだ。悔しそうに。あるいは清々しげに。

 

「できることなら、ああも綱渡りな状況に陥ることすらしたくなかったものだがな」

 

 ふはは、と、いつものように高笑いを上げる叶。あの残りライフポイント、かつ場の状況で、あそこまでできるのなら最善とも言えると感じるが。

 口に出そうとするも、そこで、深宮は口元へ、立てた指を軽く当てた。

 

「プライドって奴だよ。本当は勝てて嬉しいくせにねぇ。ああいう捻くれたの、ボクあんまり好きじゃないや」

「……………………」

 

 叶にも、多少は捻くれている部分はある。ただ、それでも彼女にだけは言われたくないだろう。

 

 ところで、先程から気になっていたことがある。少年の手札に残っていた2枚のカード。あれは何だったのだろうか、と。

 モンスターカードは通常召喚できない以上、ある程度はどうにかなるとはいえ……仮に速攻魔法の系統、それも……E・HEROに関連した、M・HERO(マスクドヒーロー)を特殊召喚する、《マスク・チェンジ》であったなら、叶は敗北していた。

 自分のバトルフェイズ中ならば、速攻魔法は発動できる。そして、少年の場に残っていたのは、炎属性である《E・HERO ノヴァマスター》だ。これを墓地に送れば、《M・HERO(マスクドヒーロー) 剛火》を特殊召喚することが可能だった。

 そして、もしもそうならば……少年は、手を抜いて戦っていたということにもなるが。

 

「次のターンまで持てばコイツが使えたんだけどな……」

 

 と、疑問に答えたわけではなかろうが、少年が2枚のカードを提示する。

 そのカードは、通常魔法である《平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)》。既に融合による特殊召喚を行っていた状況下、使えなかったということか。

 また、もう一枚のカードは、《E・HERO レディ・オブ・ファイア》。自分のエンドフェイズに、自分の場にいるE・HEROの数×200ポイントのバーンダメージを与えるカード。

 次のターン、平行世界融合を用いれば、地属性であるレスキューラビット、及び適当なE・HEROのカードを利用し、《E・HERO ガイア》が特殊召喚できた。そうなれば、少年の勝利だっただろう。

 あるいは、レディ・オブ・ファイアを召喚し、そのままターンを終了していても同じだったかもしれない。既に終わった話としか言いようがないが。

 

「兎でクレイマン特殊召喚してても勝ってたんじゃないのー」

「俺のデッキクレイマン入ってないし……てか、アンタらは?」

 

 深宮が唐突にそう問いかけると、少年はそれに応対しつつ、俺たちが何者であるのかを訊ねてきた。

 

「……この娘の、付き添いです」

「ボクは偶然いただけの知り合いってとこかな」

 

 いくらなんでも白々しい。加え、偶然この場にいたというのは俺たちだ。

 

「あぁ……なるほどな。ってことは……」

「そういうこと。初めましてご同輩。自己紹介から始めた方がいいかな?」

「そうだな。ただ……いつまでもここにいちゃ悪いし、どこか別の場所で話さないか」

 

 この場所では話しづらいこともあるし、と、少年は苦笑しつつ告げた。

 確かに、その通りだ。エクシーズモンスターについてや今後、起こりうる出来事……この世界の「物語」についてなど、避けては通れず、また、他人に聞かれてはまずいような話はいくらでもある。

 少年の言葉に同意を示す。と、その時点で視線を感じた。

 好奇の視線に晒されることは、決して珍しい事ではない。むしろ、これまでの人生の中で幾度となくあった。敵意、というものも、少なくはあるが、感じたことが無いわけではない。

 だが、今の視線はそれらとはまた別種。訝しむような、警戒するような……あるいは、獲物を見定める(・・・・・・・)かのような。

 視線の大元を辿ると、そこには、叶とデュエルを行っていた少年がいた。この視線は、彼が送ったものなのだろうか。

 

「……………………」

 

 睨み合うような形になった俺たちをよそに、深宮は軽く考え込むような仕草を取って、告げた。

 

「じゃ、ボクんちで話そうか。ちょっとばかし長い話になりそうだし……ね」

 

 

 




ダグナー編は20話前後(予定)


2/18
指摘された会話部分を訂正しました

3/11
一部記述を削除、改訂しました
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