蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~ 作:naomi
「大下。オルガを頼んだぞ」
「了解です。無事に島に連れて帰りますよ、溝口のおやっさんも気をつけてくださいね。あと亮介のやつ頼みます」
「こっちは任せとけ」
「では皆さんお先に失礼します」
出発する3機の派遣部隊の哨戒機。見送るメンバーに亮介はいなかった。
「おぉ、総士どうだお嬢ちゃん達は」
「遠見は一騎に任せました。暉はまだ疲弊してます」
「亮介は」
「溝口さん。大下先輩は」
「おう亮介。今出発したところだ」
「声を掛けてくださったのに気がつかなくて、申し訳ないことをしてしまいました」
「…そうか、もう大丈夫なのか」
「ご心配おかけしました。もう大丈夫です」
(霧島先輩…)
「これから僕達はどうするのですか」
「将軍曰く、エスペラント達が見つけた場所を目指すみたいだ。美羽ちゃんもそこを目指すと言ってるから、俺達もそこまで行くことになるだろう」
「アイツら…人類軍はまた来ますかね」
「恐らくな、部隊を再編してまた襲ってくるだろう」
「そうですか」
「今のうちに休んどけ、ここからは今まで以上に厳しい旅になる」
新天地へ向かう準備を整えた矢先、思わぬアクシデントに見舞われた。
これ以上前に進めない…希望を失った人々が歩みを止めると言い始め、彼らを説得するのに約1日かかってしまった。
仕切り直し再び進み始めた一同。しかし激しくなるフェストゥムの襲来、味方だと思っていた人類からの執拗な襲撃、燃料も不足し始め、ついには飢えや寒さで命を落とす者も出始めた。
「また…歩みを止めた人々が、フェストゥムのおとりになったそうですね」
「そうらしい。…亮介大丈夫か」
「なにがですか」
「ここ最近の戦闘での様子がいつもと違うとお嬢ちゃんが言ってたからよ、お前はファフナーでの戦闘に慣れてないし無茶するなよ」
(お嬢ちゃん…遠見真矢のことですか)
「そうですね。お言葉に甘えて少し休んできます」
その足で私は彼女のもとに向かった。
「そこ…休まるのか遠見」
「霧島先輩…そうですね。色々と落ち着きます」
「少しは整理出来たのですか」
「…どうでしょう。まだモヤモヤしてます。霧島先輩はどうですか、かなり落ち込んでましたけど」
「私は大丈夫です。気持ちの整理は出来たので」
「…撃つつもりですか」
「…」
「一度ありましたよね、人類軍の襲撃で相手のファフナーと対峙して戦闘不能になった相手のコックピットを狙おうとしたこと」
「よく…見てますね」
「ダメですよ霧島先輩。『そこ』にいってはもう戻れなくなる」
「…覚えておきましょう」
「遠見。飯食うか一緒に、霧島先輩どうしたんですか」
「いえ、別に私はこれで失礼します」
「…一騎くんどうしたの霧島先輩をじっと見て」
「あの人…霧島先輩だよな」
「そう…だと思うよ。どうして」
「なんか、俺の知ってる霧島先輩じゃない気が…するんだ」
進み続ける一同。止まぬ襲撃、増える死者、やがて生き残っている者達の心も壊れ始める。互いを傷つけ合い特定の者に負の感情を集中させるあるまじき所業
エスペラントもそういった者達を含め全てを受け止めようとし、1人…また1人といなくなった。
そんな中たどり着いた補給の地。そこはミールが乱立する「フェストゥムの森」とも言える不思議な地であった。
(ここは…そうですか、これが貴方達の見出だした答えなのですね。私は…)
その夜悲劇は加速した。鳴り響く銃声、彼女は愛する者を守るために再び『その』道を選んだ。
ここにある全ての負の感情が忍び込んだ者達に向けられる。
(溜まっていた負の感情が浄化されていくのを感じる…)
「ここは…美羽ちゃん」
「おかえり、亮介お兄ちゃん」
「俺は…そうか戻ってきたのか」
「うん。あの子言ってたよ『貴方が選ぶ道を信じて進む』って」
「俺の選ぶ道…」
「亮介お兄ちゃんはどうしたいの」
「俺は…」
俺が選ぶ道を美羽ちゃんに打ち明ける。美羽ちゃんは安堵した笑顔を俺に見せてくれた。